2196年 4月7日 ベルリン クアフュールステンダム通り


「信じられないな」

「なんだって?」

 突然飛んできた言葉にオレ、スバル・リョーコは反応できなかった。

「信じられないって言ったんだ」

 オレと並んで歩くマルター・ユキカゼ曹長は呟くように言った。
 ユキカゼは何処を見ているか分からない、野戦慣れした兵士特有の表情で辺りを見回していた。

「何が信じられないんだよ?ベルリンが戦場になることが信じられないのか?」

「それもある」

 そう言ってユキカゼはガードレールに腰をおろした。
 左右に並び立つ古い石造りのアパルトメントやブティクの入ったビルの町並み。
クアフュールステンダム通り。日曜日、午前10時。
 爆撃でベルリンは市街地の4割が焼けてしまったが、この通りはまだそれほど被害は無かった。ところどころ崩れ落ちたビルがあるが、それでもまだ大半が原型を留めていた。
 だが、人間の住まなくなった家屋特有の埃っぽい雰囲気は消しようがない。

「クアフュールステンダム通り、日曜日の午前10時だぞ?それがこの有様だ。信じられない。こんなのは私の知るベルリンではない」

「しょうがないだろ。みんな逃げちまったんだから」

 オレも歩きつかれたのでガードレールに腰をもたれさせて言った。
 既にベルリン市民の脱出は完了していた―――――――――――7割。
 
「そうだな、そうなんだろう、スバル中尉」

「ユキカゼ、堅苦しいのは無しにしようぜ。どうせオレは空軍なんだ。知ってるか?空軍では地上にいる間は階級なんて無いも同然なんだぜ?」

「分かった」ユキカゼはつっけんどんに言った。

「じゃあ、なんて呼べばいいんだ?」

「リョーコでいいよ。ところで、あんたはベルリンの生まれなのか?」

「そうだよ。ベルリンで生まれ、育ち、そしてベルリンで最後を迎える。ああ、悪くないな、これも」

 ユキカゼは空を見上げながら言った。オレもつられて空を見上げた。
 4月、春、青い空。厳しい冬は過ぎ去り、芽吹きの季節がやってきた。日々焼け野原にその姿を変えつつあるベルリンにさえ。
 盗み見たユキカゼの横顔は、酷くさびしそうだった。まるでそこだけ冬の間に積もった頑固な根雪が残っているようだった。

「そう悲観的になるなよ。あんまし弱気なこと言っていると脱走兵と間違えられて憲兵に引っ張られるぞ」

 ベルリンの街灯には絞首刑された脱走兵が鈴なりになっていた。
 ちなみに野戦憲兵はどんな些細な悪さでも全て極刑にしなくては気がすまない狂人どもの巣窟である。
 前に一度、大隊の兵士がしょっ引かれたことがあった。
 そのときはハインツ少佐とユキカゼが野戦憲兵の詰め所に殴りこんで、兵士をパクった憲兵を半殺しにして事なきをえていた。それ以来、野戦憲兵は事あるごとに大隊に因縁をつけてくる。 
 
「大丈夫だ。あんな奴等5ダース来ても軽くあしらえる」

 こともなげにユキカゼは言い、そして春風に氷のような調べを乗せた。

「それに、だ。木星蜥蜴の大軍に包囲されたベルリンで脱走を企てるような無謀な勇気は持ち合わせていない。いや、逃げ場など、この地球のどこにあるというんだ」

 ユキカゼの言葉を乗せた風はベルリンの煤けたビルの谷間に吸い込まれて消えていった。




 ベルリン旧市街

 ベルリンは既に定期的に砲撃を受けていた。
 対空パルスレーザーガンが多数配備されているので爆撃を行うには少々ベルリンは危険だった。その穴を埋めるために毎日どこかの地区に大量の砲弾が撃ちこまれる。
 もし偶然その場所に居合わせたなら、自分の不運と悪運を信じてじっと耐えるしかない。屠殺場につれてこられた牛のように。
 自分とハインツ少佐は不運と言うべきか、悪運と言うべきか、それとも幸運なのだろうか、木星蜥蜴の砲撃で平らになった市街を生き残った数少ない例外だった。

「終わったようですね、少佐殿」

「そのようだ、マリュー大尉」

 ファウケを駆って音速超過の世界で戦う機械の騎士も生身では圧倒的な鉄量に成す術もなかった。
 既に一時間、じっと砲撃に晒されて私も少佐も埃まみれになったいた。
 今日は朝から少佐と私は新たにベルリンに築いた防衛陣地を見て回っていた。
 放置された重機の類を幾らかと取り残されたベルリン市民の助力もあって、ベルリンの防衛線の構築は予定よりもいくらか早いペースで進んでいた。
 ほとんどの高層建築は爆破され、街路は倒れたビルで封鎖、地雷とブービートラップ、要所要所に配置された戦車部隊、逃げ遅れた市民まで編入して作った防衛部隊。
 自分の手で自分の住んでいた街を破壊していくのは、木星蜥蜴の砲爆撃よりも神経を磨り減らす作業だった。
 そして作業を視察に出て、砲爆撃に巻き込まれるのはこれが3度目である。
 自分が生き残ることに疑問の余地は全くないが、出来れば砲撃、爆撃はご遠慮願いたいところである。
 懐にしまっていたタバコも潰れてしまって酷い状態だった。
 なんとも恨めしい砲撃である。これが最後のタバコだったのに。

「少佐、一服しませんか」

「もらおう」

 かろうじて原型を留めていたタバコが2本、その内状態の良さそうなのを少佐に渡した。
 自分は半分で折れてしまったタバコである。酷くさびしい。

「生き返ります」

「同意する」

 深深と吸い込んだ紫煙から取り込んだニコチンが体中に回っていくのが分かった。最後に一服したのは1週間も前である。
 立ち上る紫煙はゆらゆらと揺れて不確か、硝煙に溶けて消えていく。
 芳しき春の風もここでは硝煙を含んだ戦場に吹く風である。微かに血の匂いも混ざっていた。

「少佐はタバコを吸われないのですか。吸っているところを一度も見たことが無い」

「いや、隠れて吸っている。ユキカゼが煩いのでな」

 少佐は無表情に言った。もしも少佐に感情があったのならば、きっと渋面を作っているだろうか?
 敵が機甲一個師団であろうとも敢然として立ち向かう少佐が、ユキカゼに叱られて、隠れてタバコを吸う様はさぞや滑稽だろう。一度見てみたいものである。

「ユキカゼは、タバコは健康に悪いと言っている。古参の下士官の言うことは傾聴すべきだ。例えそれが戦争に関係のないことでも」

「ですが、タバコの害が致死量に達するよりも、砲爆撃の方が先に致死量に達するのでは?」

「道理であるな。どちらにせよ致死量の砲弾は遠慮したいものだ」

 そのまま少佐は平らになった市街地に視線を向けた。
 砲撃はそれほど長いものでは無かった。嫌がらせ程度のものである。この辺には大した陣地が無いので被害はないだろう。既に市民の大半が地下街や地下鉄に避難済みである。
 
「マリュー大尉。何故木星蜥蜴はベルリンを狙うのか、分かるかな?」

 少佐は廃墟になった街路に視線を向けたまま言った。その所為で表情は読み取ることができない。
 感情のない、淡々とした声は焦げ臭い空気に溶けて消える。
 答える私の声は混乱に満ちていたと思う。

「それは、ベルリンはドイツの中心ですから、攻略するのは当然だと思います」

「それが軍事的に意味の無いことでも、攻略すべきか」

 一拍を置いて、少佐は続けた。

「ベルリンにあるのは廃墟と逃げ送れた市民で編成した民兵、軍事的に見れば大して重要ではない。無論、交通網の中心であるベルリンを占領することは意味のあることだが、今はフランス本土へ敗走する連合軍を追撃するのが先ではないか?ベルリンを占領して得られるのは政治的な利益のみだ」

 振り向いた少佐の顔には何の感情も浮かんでいなかった。
 だが、微かに声に混じる懐疑は消しようが無い。

「ですが、ベルリンを占領すれば、相当に地球連合の士気を挫くことが出来ます。それに市民にも動揺が広がることは大きな利益だと思いますが」

「そうでもない。軍や政府、市民の動揺を誘うのならば、ベルリンを陥落させるのは後でも良いはずだ。今敗走中の連合軍が追撃し、壊滅させられるのならば、士気云々は問題ではなくなる」

「では、なぜ奴等はベルリンへ?」

 これは戦略レベルの問題だった。一介の大尉の理解を超えている。そもそも士官といっても、俺はフロント・コマンダーである。
 もちろん参謀本部に勤務したことは一度もない。

「もしも、木星蜥蜴と呼ばれる連中が、バッタのような無人兵器などの機械知性体とするならば、ベルリンを占領することに意味はない。なぜならベルリンは人間用の町であるからだ。だが、ベルリン陥落という事実は政治的には重大だ」

 表情には苦味はない。
 だが、声には苦味が混じり始めていた。感情の無い少佐にそんなことは出来ないはずだから、きっとこれは自分の出した苦味に違いない。
 なぜならば、少佐の言っていることを理解してしまったからである。

「奴等は、政治というモノを知っている"生物"なのですね。ベルリンが陥落すれば、地球連合にも、そして身内組織の争いにも、それが有利に働くだろうと計算できる"生物"なのですね」

「そう、おそらくは我々に非常に近い生物なのだろうな、少なくとも都市を手に入れようとする発想は人間に近い生物の思考だ」

 どこか言葉を濁す少佐に俺は止めを刺すように言った。

「ありていに言えば、敵は人間なのでしょう?」

「その可能性は否定できないな」

 沈黙を以って肯定とするのではなく、少佐は言葉を使って、おそらくかなり真実に近いであろう事実を告げた。
 
「ですが、一体どこのどいつでしょうか、こんなことをするのは。世界征服を企む悪の秘密結社であれば夢があって良いのですが」

「私もそう思う。だが、某所では予算削減を恐れる軍の自作自演という噂もあったな」

「そうですか、自分は木星に逃れた月独立派の復讐戦争だと聞きましたが」

「ほう、興味深い。だが、この話は知らないだろう。この戦争はさる中東の某国の王子がオイルマネーをつぎ込んで作った巨大なバーチャルシミュレーターのウォーゲームなんだそうだ。つまり君も私も0と1の連なりに過ぎないというわけだ」

「それは夢の無い話ですな」

「全くだ。何もかもロマンティシズムからは程遠い」

 少佐は遠い所を見ながら言った。実際に遠いところをみているのだろうが。
 廃墟や視界の開けた荒野が多くなったベルリンは酷く見晴しがいいのだ。遠くを見つめたかったら、いつでも見ることが出来る。
 音速を超える物体すら捉えきる義眼は一体何をみているのか。岩のように動かない表情からは何も読み取れない。
 
「視察を続けよう、大尉。まだ半分というところだ」

 同意をする間もなく一人で歩き始める。
 静かに歩を重ねる後姿に、深い哀しみを感じたのは気のせいだろうか。
 もう、確かめる術はない。





 ホテル『フォーラム』

「なあ、こんなことしてていいのか?」

「別にいいだろう?休憩中だし」

 そう言ってユキカゼは無造作にドル箱を3つよこした。
 中にはコインがぎっしり詰まっている。ユキカゼがこの3時間程で得た戦果だった。

「リョーコ。お前、ゲームの才能ないな」

「うるせえよ」

 コインを鷲掴みにして投入口に放りこむ。
 クルクルと回るスロットルをオレは見ながら言った。

「オレはこういうつまらないことに運を使いたくないだけなんだよ」

「そのわりには随分と嵌っているようだが…」

「うるさい。次は勝つ!」

「何度目だよ、それ」

 呆れた様子でユキカゼは言った。
 そして無造作にコインを一枚投入。

「チャー・シュー・メン」

 ポン・ポン・ポン、とリズミカルにボタンを押してスロットルを止めていく。

『フィーバー!』

 20代前半と思われる女性の機械合成音と共にスロットルマシンの小さな液晶ディスプレイでバニーガールのお姉さんが腰の尻尾を振りながらダンスを踊る。
 酷い沈黙が地下カジノ場に降りた。
 紫煙に代わって異様な気配が部屋に満ちていく。
 急速に冷めていく部屋の空気に反比例してオレの頭は煮えたぎっていった。
 視界が赤く染まっていく。

「殺す」
 
 静かに腰のホルスターに手を伸ばした。
 ホルスターにはベレッタM92FSが収まっていた。
 慌ててユキカゼが止めに入る。邪魔だ!

「止めろ!リョーコ!お前は人間として間違っている!」

「止めるな!放せばわかる!」

「分かるか!アホ!お前らも見てないで止めろ!」

 ユキカゼの声に反応して固まっていた兵士達が慌てて動き出す。
 流石に男に比べたらリョーコは非力だった。もっとも、取り押さえられる前に3人ほどKOしていたが。
 ようやく銃を取り上げて、リョーコが落ち着いた頃にはカジノは滅茶苦茶になっていた。
 ドル箱は転がり、コインは床に散乱。埃まみれになった兵士達はウンザリした様子でカジノから出て行った。
 二人カジノに残ったリョーコとユキカゼに気まずい沈黙が降りる。

「お前のせいだぞ、リョーコ」

「オレは悪くない。この機械が悪いんだ」

 オレは当然のことを言ったのだが、ユキカゼは納得しない。
 どう考えてもこのスロットルマシンはおかしくなっているというのに、きっとヤドカリに寄生されているに違いない。
 
「せっかく綺麗に生き残っていたカジノだっていうのに」

 こめかみを押さえながらユキカゼは疲れた様子で言った。

「もう行こうぜ。どうせ娯楽なんて他に幾らでもあるんだからよ」

 レンタルビデオに映画館、ちょっとそこらの家に入ればゲーム機の一つや二つは簡単に見つかる。もっとも電気が無いので大抵は遊べないが、漫画辺りなら問題ない。
 その漫画すらも印刷されたのは数ヶ月前といった代物ではあるが。

「…それも、そうだな」

 ユキカゼは手の中で弄んでいたコインを一枚放ってきた。

「持っとけ。何かの記念だ」

「何の記念だよ?」

「さあな。ま、生きて帰れたら。また二人で遊びに来ようぜ」

「オレは死なないよ」

「私もそのつもりだ。きっとみんなそのつもりだ。だが、神の恩寵の配当は最近あまりよくない。特にベルリンでは」
 
 ユキカゼは胸の前で十字を切ってみせた。
 オレも真似をしてみた。
 それを見たユキカゼは半眼になって告げる。
 
「逆だぞ、ソレ。神を冒涜するつもりか?」

「神も仏も、奴らは絶対敵だ」

 やれやれといった調子でユキカゼは頭を振った。
 その様が何故か妙に面白い。昔テレビで見た米国人コメディアンみたいだった。

「何で笑うんだよ」

 リョーコはそれには答えず、苦笑を残して二人は地下カジノを立ち去った。





ベルリン地下鉄

「困ったことになったな、マリュー大尉」

「はい、如何ともしがたいですな」

 少佐は相変わらず無表情だったが、感情のある自分はそうもいかない。
 渋面を作ってマリュー大尉は空を、コンクリートを切り抜いて見える空も見上げた。鉛色の雲が垂れ込めている、憂鬱な天気だ。
 少佐は無表情に全身についた埃を払う。

「かなり脆くなっているようですね」

「そうだな、手入れがされていなければこんなものだろう」

 こちらも少佐にならって埃を払う。
 右を見ても、左をみてもあるのは暗い空洞。足元には2本の鉄軌、ベルリンの地下を縦横無尽に走る地下鉄道である。
 砲撃で遅れた視察を今日中に全て終えるために急いでいる矢先、突然足元が崩れこんなところへ落ちてしまったのである。
 天井までは5メートルほど、かなり高かったが二人とも怪我は無かった。
 こういうのを不幸中の幸いというのだろう。

「少佐なら、ジャンプでなんとかなりませんか」

「それは無理だ。この義体の性能は耐久性を第一に設計されている。そのような人間外の機動は考慮していない。無理をすれば出来ないことはないが、義足が保たないだろうな」

 つまりは処置なしということだった。
 マリュー大尉はため息をついて辺りを見回した。
 こうなったら、歩いて出口を探す他ない。まあ、それほど駅は遠くないだろうし、簡単に地上に出られるだろう。
 だが明かり無しでこの完全な深闇を歩くのは、自ら魔女の大釜に入り込むのと同義である。
 何か明かりになるものはないかと思い、ライターを探す。しかし、

「心配は無用だ」

 ライターを点けようとするマリュー大尉を制してハインツ少佐は言った。

「我々の祖国の技術に死角はない」

 突然、二条の光が広大な闇を切り裂いて、二人に視界という獲物を齎した。
 かなりの光度である。範囲も広く、暗い地下鉄道も問題なく歩けそうだった。ただ1つ問題があるとするのなら、

「目からビームですか?」

「ただの懐中電灯だ」

 きっぱりと少佐は言った。その声には深い懊悩を感じたのは気のせいだろうか?
 少佐の目からは溢れんばかりの光が満ち溢れていた。それが一切の光を拒絶する闇を無理矢理排除していた。

「祖国の技術者は時として技術的困難に対して理解しがたいほどの情熱を燃やすことがある。己のその身で体感することになるとは思わなかったが」

「正気と狂気の背中合わせ、世界はその在り処を知らんと欲す」

「笑いたければ笑うがいい、感情喪失機構は良好に作動中だ」

「いえ、遠慮しておきます」

 絶望的なまでの笑気との戦いは依然として厳しいものだったが、それでも忍耐力には自信があった。
 しばらく無言で歩く少佐の後に続いていると笑気もだんだんと収まってくる。
 少佐が目から光を発して行く先を照らす様を可能な限り想像しないように努めれば、なんとかならないこともない。
 絶望は敗亡への坂道であったと思い起こせるほど時間があったころ、突然少佐は歩みを止めた。

「誰か」

 視線を、つまり明かりを動かさないまま少佐は誰何の声を飛ばした。
 暗がりから答えが返ってくる。

「所属と階級を答えられたし」

 声のした方向へ視線を飛ばすが、何も見えない。相手は完全に闇に溶け込んでいた。少佐のライトはさぞかし良い的だろう。

「第六装甲大隊、大隊長ハインツ・フォン・グロスマイスター少佐だ」

「しっ、失礼しました!」

 声の主が闇の中から慌てて飛び出してくるが、逆にこちらが慌てさせられた。声の主は声のした方向のまったく逆の位置から現れたからだ。
 だが、こちらの狼狽に気付くことなく、声の主は捧げ銃をしていた。
 
「いや、楽にしていい。任務ご苦労」

「はっ!光栄であります」

 現れた兵士はいささか緊張しすぎているようだった。まあ、目から怪光線でも出ていそうなサイボーグ将校相手に緊張するなという方が無理というものだろうが。
 兵士に直接少佐の相手をさせるのは辛いだろうと思い、少佐に先じて道案内を頼むことにした。

「恥ずかしい話なんだが、実は道に迷ってしまってね。すまないが地上まで案内してくれると助かるのだが」

「了解しました。どうぞこちらへ。地上はすぐそこです」

 兵士はなるだけ少佐と目をあわさないようにして歩き出した。
賢明なことである。
 兵士はライトを持っていなかったが、慣れているのか暗闇の中でもスイスイ歩いていく。

「君はどこの所属だ」

「はっ。自分は第145国民突撃中隊所属、グラス・オッフェルト国民一等兵であります」

 いささか興奮ぎみに答えるオッフェルトに、少佐は「そうか」とだけ気の無い様子で答えを返した。
 どんな表情をしているかは闇の向こうで窺い知れない。
 だが、およそ検討がついた。きっと無表情に決まっている。少佐は変化の無い表情筋の下に苦悶を隠すことに長けている。
 国民突撃隊というのは、先を行くオッフェルトの服装を見ればおよその見当がつく組織だった。
 青のデニムに赤いジャンパー、足元には白いスニーカー。ジャンパーに袖に黄色い腕章が無ければ普通の大学生である。
 相次ぐ敗北で正規兵を大量に失った地球連合軍が採った苦肉の策、学徒から兵役適正期を過ぎた壮年男子を含む動員可能な全ての人間を兵士に仕立て上げる。むろんまともな戦いになるわけも無い。ほんの少しばかり時間を稼いで終わりである。
 そんな最後の手段を採らなければ戦えないほど連合軍は疲弊しきっていた。
 軍人の存在意義を根底から破壊するオッフェルトに連れられてようやく二人は明かりのある所まで戻ることができた。

「ありがとう、オッフェルト君。助かったよ。もうここまでで十分だ」

 丁寧に少佐は謝意を述べた。
 賛成だった。もう彼の背中に忸怩たるものを感じるのは耐え難かった。

「いえ、地上までお供します」

「だが、君には任務があるはずだ。元の任務に戻りたまえ」

「そうよ。今日こそはちゃんと掃除をしてもらいますからね」

 何時の間にか、地下鉄駅のプラットホームに腕を組んで、どうもかなり不機嫌な様子の少女が立っていた。
 格好はほとんどオッフェルトと同じだが、熊のワッペンがついた黄色いエプロンが良く似合っていた。腕には腕章を付けていたが、国民突撃隊ではなく臨時野戦看護婦のそれだった。
 
「初めまして。ツァステーラー・シャルマオアー、ハインツ少佐殿! 私はライナルト野戦看護団所属、エルゼ・ヴァーグナー臨時1等野戦看護婦です」

 見ていて気持ちの良くなる爽やかな敬礼をして、エルゼは笑った。
 それだけで陰気な雰囲気の崩れかけた地下鉄駅がまるで光溢れる花畑であるように感じられるのだから不思議なものである。

「どうも、ご丁寧に。第6装甲大隊大隊長ハインツ・フォン・グラスマイスター少佐だ。どうぞよろしく」

 丁寧に少佐は頭を下げた。
 少佐は兵に対しては寛大と温情の精神に溢れた士官だった。その優しさを一分でもいいから士官に分けて欲しいものである。

「俺は少佐殿を地上まで案内する任務に就いているんだよ。邪魔しないでくれ」

「何が任務よ。体よく少佐殿をダシにしてサボってるだけじゃない」

「どこをどう見ればそういう根性の曲がった答えが出てくるんだよ」

「誰がどう見てもサボってようにしか見えないわ」

「それは駄目だ。おい、早く目医者に行った方がいいぞ」

「あんたが行きなさい。特に鉄格子のある病院へ!」

 いつの間に少佐と自分を無視して口喧嘩が始まっている。
 大声を聞きつけて、何事か?とぞろぞろとギャラリーが集まり始めていたが、二人の口撃が収まる様子はない。

 これがいわゆる痴話喧嘩というものか・・・

 自身にも経験が無いわけではなかったが、そのときは当事者であって、客観的に見たのはこれが初めてだった。
 なるほど、これは近所迷惑だ。今後は気をつけよう。
 貴重な教訓をしっかりと記憶に刻み、仲裁のタイミングを計った。間違ってもこちらにとばっちりが来ないようにしなくてはいけない。

「少佐、なんとかしてください」

 とりあえず、軍の階級で押し切る作戦である。
 だが、頼みの綱は返事一つしてくれなかった。

「少佐?」

 ふと気になってマリュー大尉は顔を上げた。傍らに立つ上官は頭一つ分上背がある。
 見上げた少佐の表情は相変わらず無表情の極みだったが、目が完全に裏返っていた。それどころか小刻みに震えている。いや、痙攣と言った方が近い。

「少佐!しっかりしてください」

 崩れ落ちる上官の重い体を支えてマリュー大尉は怒鳴った。
 完全に少佐の体から力が抜けきっていて、意識も無いようだった。もしかするとかなり危険な状態かもしれない。
 少佐の義体のメンテナンスを行う技師はオーデル川からベルリンに敗走する間に行方不明になっていた。
 ベルリンに着いて以来、自分でメンテナンスしていたようだが、もしかすると気付かないうちに重大なトラブルが進行していたのかもしれない。
 どちらにせよ、ここに少佐を治せる人間はいなかった。

「少佐殿!」

 さすがにエルゼも顔色を変えて悲鳴を上げた。
 すると、痙攣が止まり反転していた目も元に戻った。まるで王子さまのキスで目覚める白雪姫のように。

「少佐、私がわかりますか」

「ああ、無論だ、大尉。一体何があった」

 相変わらずの無表情。白雪姫も裸足で逃げ出す強面の少佐に見つめられても、何も嬉しくない。
 マリュー大尉は軽い眩暈がした。

「それは私のセリフです」

 思わず脱力したマリュー大尉は安堵のため息をついて、その場でへたりこんだ。





 ベルリン大聖堂

「そういえば、ブランデンブルク門。まだ見てなかった」

 崩壊したベルリン大聖堂を前にしてオレは言った。
 高さ114メートルの巨大な聖堂に撃墜された連合軍機が突き刺さり、現代と中世のカスタトロフ的な前衛芸術を作り上げていた。
 死んだパイロットもこんな巨大でゴージャスな墓標に葬られてさぞや満足だろう。
 もっとも先に葬られたホーエンツォレルン王家の面々は突然眠りを妨げられたわけで、怒り心頭に発しているかもしれないが。

「そうだったか、じゃあ今から行くか」

 崩れたマリア像を何とか修復しようとしていたユキカゼは飛び散ったマリア様の破片を探す手を止めて伸びをして言った。
 最初は原型すらとどめていなかったマリア像は一応人型に見えるくらいに修復されていた。小一時間の努力としてはかなり優秀な部類に入るだろう。
 特に、ひび割れていながらも優しげなマリア様の表情が蘇ったのは特筆に価した。

「ユキカゼ、お前パズル得意だろう?」

「ああ、そういうリョーコは苦手だろう?」

「「ははは」」

 少しだけ見つめあったあと、オレ達は笑った。
 オレの小一時間の努力は足元で原型を留めないほど粉々になっていた。
 もっとも、ベルリン大聖堂の全てが原型を留めていなかったので、マリア像の一つや二つ粉々になっても誰も気にはしないだろうが。
 
「休暇も残り少ないし、さっさっと行くぞ」

 ユキカゼは返事も待たずに歩きだした。
 ユキカゼとはぐれたら確実に迷子になるので慌てて追いかける。ユキカゼは決して待ってくれない。

「私はあの大聖堂が子供のころ好きだったんだ。休日になると父親にせがんで連れてってもらったよ。あのマリア像を一日中飽きもせずに見ていた。今思うと不思議だな」

 呟くようにユキカゼは言った。

「知っているか?大聖堂は頂上まで行くことが出来るんだぞ。階段がやたらと長くて息が切れるがな」

「じゃあオレは遠慮しておく。やっぱりエレベーターは基本だよな」

「アホ」

 ユキカゼは微かに唇を歪めて笑った。
 笑うことが精神の平衡を保つ上でかなり有効な手段であることを二人は知っていた。他にも有効な方法はいろいろあるが、それはこの場に無かった。
 だが一旦は元の軽さに戻った空気はシュプレーを渡るころにはすっかり陰気な湿り気を帯びていた。
 平和な時には河下りの観光船や貸しカヌーで賑わうシュプレー河を飾る街灯には今日も逃亡兵の死体が鈴なりに実っていた。
 遠くから風に乗って聞こえる逃亡兵の泣き叫ぶ声は幻聴ではない。それが金切り声をあげるシュマイザーの射撃音の向こうに消えるのも極めてリアルな現実だ。
 最近では死んだ逃亡兵の重みに耐えられなくなったロープが切れて、首に縄をかけたままの死体がシュプレー河を下っていく光景が日常の1ピースになっていた。
 だが、最近はそれすら無くなっていた。
 偉大なドイツの英雄、世界最強の軍隊を作り上げた天才軍人の名を冠した橋を渡りシュプレー川を超える時、二人は久しぶりにまともな軍服を着た一行とすれ違った。
 人数は20人を超えない程度、そのほとんどが俯き、うなだれ、絶望に顔を歪めていた。挨拶さえ交わすことなくすれ違い、去ってゆく。
 彼等の背後を進む野戦憲兵のサブマシンガンの銃口だけが力強く、せわしなく、ぎらついた殺気を放って、彼らを追い立てていった。
 彼らに一瞥もくれなかったユキカゼにオレは尋ねた。

「今のは逃亡兵だな」

「ああ、だが彼らは街灯に吊るされるのは免れるだろう。戦える兵士は残り少ない」

「じゃあ、あいつ等はどうなるんだ?」

「彼らは、厳重な監視をつけて前線に送られるだろう。前線はそう遠くない。監視にかかる手間も極僅かだ」

 全く感情を感じさせない口調でユキカゼは言った。

「最後まで希望を棄てない勇者と共に逃亡兵は倒れるんだな。勇者は名誉な戦場で、逃亡兵は不名誉な戦場で」

「それは違う。戦場であることに変わりは無いんだ」

 ユキカゼは振り返って歩き去っていく逃亡兵を見送った。
 オレは前を向いたまま遠くに見えるブランデンブルク門を見ていた。
 ブランデンブルク門は煤けて見えた。




 ブランデンブルク門前

 漂ってきた肉の焼ける匂いにマリュー大尉の胃袋は素直に自己主張の声を上げた。
 食料は比較的余裕があったが、レーションというのは酷く味気なく、まだまだ衰えを知らないマリュー大尉の胃には少々物足りないボリュームだった。
 だから体が生理的な欲求を満たそうと大量のアミノ酸を含んだ空気に反応するのは何も不思議なことではなかったが、マリュー大尉は酷い自己嫌悪に襲われた。
 戦場において肉の焼ける匂いというのは、人間の焼ける匂いと同義であるからだ。

「大尉、無理をしないほうが良い」

 少佐は平然としたものだった。
 感情喪失機構と完全にコントロールできる嗅覚にマリュー大尉は羨望を感じた。

「気分が悪いのでしたら、少しだけならお薬がありますが」

 心配げな顔で覗き込むエルゼにマリュー大尉は微笑みで答えた。
 少なくとも、自分よりも青い顔をして今にも倒れそうな少女の手を煩わせるほど彼は無粋ではなかった。

「よく燃えているな」

 見当外れなことを言ってオッフェルトはエルゼに足を踏まれた。

「痛ったいな。何すんだよ!」

「あんたが馬鹿なことを言うからでしょ!」

「馬鹿とは何だよ、馬鹿とは」

「二人とも、喧嘩は止めてくれ。頭痛がしてきた」

 もはやまともな仲裁は諦めて、マリュー大尉は自分を道化とすることで報復のリングを止めた。
 ため息をつかなかったのは奇跡に近い。
 だがブランデンブルク門に近づくほど、頭痛は増していった。ため息もついてしまった肉の焼ける匂いはさらに濃くなっていった。
 堆く積み上げたれたソレが燃える炎の向こうにブランデンブルク門を見たときには吐き気さえした。
 ハリコフ会戦にて死体の下に隠れて生き延びた彼をしても、その光景は耐え難いものだった。

「君らは平気なのか?」

 少佐の傍らに、少佐と同じ無表情で立つ二人にマリュー大尉は問うた。

「いえ、自分はここで働いていますから。もう慣れました」

「私も、毎日病院からここへ運びにきますから大丈夫です」

 顔に出ない感情は声の中に現れていた。
 
「燃料は勿体無いですが、可哀想ですから」

「燃やさないと、疫病の元になりますから」

 それぞれが、それぞれの方法で目の前の光景と折り合いをつけていた。
 では、自分はどうやって折り合いをつけるのか。
 マリュー大尉は少佐の横顔を盗み見た。
 炎に照らされて赤く彩られた少佐の顔には何も感情らしいものは浮かんでいない。ただ目の前の光景を見ているだけだった。
 一体少佐にはこの光景はどのように見えているのか、酷く気になった。
 音速を超える高々度の戦闘機すら視認する少佐の義眼を以ってすれば、燃えるソレを最大漏らさず、微に細に見ることができるだろう。
 燃えて縮れる髪の毛の一筋から、高熱で濁った水晶も、引き攣れる皮の動きも、崩れ落ちる誰かの手を握ろうと伸ばされた手も、全てを少佐は見ているはずだった。
 
「二人は幼馴染なんだな」

 少佐は突然突飛も無い話題を振ってきた。

「はい、一応そうですが」

 怪訝そうな顔をしてエルゼが答えた。
 一体少佐は何を考えているのか測りかねているようだった。
 自分も当然理解できない。

「エルゼ君と仲良くするんだぞ、オッフェルト君」

 明らかに子供扱いされたオッフェルトは気分を害したようだった。
 不快そうに顔をしかめて言う。

「ただの腐れ縁です。幼馴染なんて上等なもんじゃないです」

「こら!あんた少佐になんていう口きいてんの!」

「全然軍務と関係ない話だろ。幼馴染とかどうとか」

「関係あるわよ。きっと作戦に関係あることに違いないわ!」

「そんなわけないだろ!馬鹿おんな!」

 二人の喧嘩のエスカレートのスピードはプラスティック爆弾の爆発速度に匹敵するかもしれないな、と口撃に挟まれて逃げ場の無いマリュー大尉は半ば呆然としながら思った。
 幸いにも回りに人気は無いが、いや人気がないからこそエスカレートするのかもしれない。
 いいかげんに疲れていたが、マリュー大尉はそれなりに義理堅かったので、また仲裁に入ることにした。
 流石に次は放っておくことにするが。
 灼けた栗に手を出そうとしたマリュー大尉だったが、唐突な少佐の助け舟に火傷を免れることが出来た。

「二人とも、喧嘩は良くない」

 感情のない静かな言葉だったが、まるで二人は怒鳴りつけられたように縮こまって、口撃の応酬を止めた。
 少佐は二人に顔を背けたまま言った。それ故に少佐の顔をマリュー大尉は垣間見ることが出来た。
 その時、初めてマリュー大尉は自分の上官が顔を歪めるのを見た。
驚きのあまり固まってしまい、何かの間違えだったのではないかと疑ったが、目の前にある少佐の顔は限りなくリアルだった。
 その表情は、決して手に入らないものを見せつけられた者の浮かべるそれだった。
 だが、それも一瞬のことで、瞬きするうちに消えてしまった。
 4人の間に気まずい沈黙が降りる。
 ガソリンの黒い煙とやけに赤い炎だけが激しく揺れていて、咽る。
 日の落ちかけた市街に、赤い炎は妙に冴えた。

「私は…」

 少佐が口を開きかけて何かを言いかけた。
 だが、とても全てを聞き取ることは出来なかった。突然のサイレンにかき消され、少佐の言葉は電子合成音に塗りつぶされた。
 俯いた少佐の顔に何が浮かんでいたかは誰にも分からない。
 闇と赤い炎が少佐の顔を隠してしまっていた。

「少佐ーーー!」

 振り返るとブランデンブルク門の向こうにユキカゼ曹長とリョーコ中尉がいた。
 だが、その呼び声さえもかき消すようにサイレンは鳴りつづける。
 何事かを呟く少佐に彼は怒鳴った。

「少佐、これは戦闘配置です。急いで大隊司令部にお戻りください」

 だが、少佐は動こうとしない。心ここにあらずといった様子だった。

「少佐!」

「分かっている」

 顔を上げた時、少佐の顔はいつもどおりの無表情だった。
 一瞬前はまるで炎の前に藁束のように弱々しかった何かは完全に拭い去られていた。

「いきたまえ」

 静かに少佐は言った。何故かその声はサイレンに負けずに二人の耳に届いた。
 慌てて二人は敬礼で答えた。
 オッフェルトが走り去り、エルゼがその後を追った。

「ヘイゼル」

 突然少佐の唇の隙間から飛び出した言葉にエルゼは足を止めさせられた。
 きょとんとした顔でエルゼは無表情な、だが唇だけを奇妙に曲げた少佐の顔を見つめ返した。

「あの、私の名前はエルゼなんですけど」

 申し訳なさそうな、それでいて少し不機嫌な苦笑いがエルゼの顔を登った。

「ああ、そうだった。すまない」

 素直に少佐は頭を下げた。
 だが名前を間違えられたエルゼは少し意地悪だった。

「もう、少佐は謝ってばかりですね。少しは笑ったほうがいいですよ」

「エルゼ君!」

 マリュー大尉は慌てて割り込んだ。感情の無い少佐に笑顔を求めるのはあまりにも無茶だった。だが、

「こんな感じかな」

 少佐は唇の端を吊り上げて、目じりを下げて笑顔を作った。ほとんど顔面神経痛にしか見えなかったが、それでも笑顔に見えなくもなかった。
 
「う〜ん。ちょっと変ですけど、それで許してあげます」

 少佐の奇妙な笑顔にエルゼは綺麗な笑顔を返して、今度こそ走り去っていた。
 後に残された二人は街角に消える少女の背中を最後まで見送ると、踵を返した。

「さて、大尉。我々は我々の務めを果たすとしよう」

「はい」

 ブランデンブルク門を彩る炎は天を焼かんとばかりに燃え狂い、走り去る少佐の影を大きく揺らした。






 2196年4月8日、ベルリンを包囲した木星蜥蜴は遂に総攻撃を開始した。
 だが戦時中多くの地球連合軍の将校はこの木星蜥蜴の行動の理解に苦しむことになる。
 完全包囲を確立したとはいえ、明らかに攻撃を開始するには木星蜥蜴は準備不足であり、最低あと一週間は準備期間を置くべきであった。
 もしも攻撃があと一週間遅ければ、準備の整った木星蜥蜴の圧倒的な火力によりベルリンはあと一週間早く、損害は3分の一以下で陥落していただろうと連合軍は仮想に終わった空想に怯えた。
 何故木星蜥蜴がそのような無茶な攻撃を行ったかは、戦争が終わってしばらくしても分からなかった。
 戦争をしている地球連合軍将校にとってベルリン陥落の日がちょうど『ゲキガンガー3』というロボットアニメーション作品の放送開始日と一致していることなど、まったく想像の埒外であったからである。

 現実は多くの場合小説よりも奇妙であったが、それ以上に陳腐だった。

 

 

代理人の個人的な感想

こういうピリピリした緊張感がある作品は読んでて気持ちいいですね。

合間に挟むギャグもそれまでの緊張感からの落差があればこそ、

笑いを生み出すことができます。

鉄腕ア○ムな少佐(目からビーム!)とか、リョーコとユキカゼの凸凹コンビとか。(笑)

 

 

>放せばわかる!

誤字か故意かはわかりませんが、ザブトン一枚(笑)。