ルリ「はぁ、またクロスオーバものですか」
ラピス「アキトー、今度はどんな世界に出演するの?」
アキト「どらごんくえすと3、だそうだ」




クロスオーバ物語 〜 アリアハンの女勇者、A嬢の場合




3月上旬

ロマリアに入城した私たちは、アリアハン王からの紹介状をもってロマリア王に謁見を願い出た。
ロマリア王陛下は終始上機嫌で、旅の用向きを申し上げた私たちに対し色々とご助言をくださった。
陸路では冒険できる範囲が限られるから、まず自分たちの船を入手するのが良いであろうと。
ここから北西に位置する海運王国ポルトガの国王陛下宛てに紹介状まで書いてくださった。
まことにありがたい限りだ。

しかし、街の噂で軽い軽いとは聞いていたが、何やら妙に上機嫌なロマリア王陛下は、不敬ながら本当にあっ軽いお方であった。
王の間退出後に大臣殿が苦笑い気味にお話しくださったが、なんでもロマリア一帯を荒らしまわっていた盗賊団が全員捕縛され、盗まれていた国宝の金の冠が戻ってきたとのこと。
またロマリア王国領の北方に位置するノアニールという町が長年エルフ族に呪いを掛けられていたが、最近エルフ族との和解が成立して、無事呪いを解いてもらうことができたらしい。

なるほど領内で吉事が続けば上機嫌になられるのも当然であろう。
我々が魔王討伐を目指して旅をし、各地の魔物を鎮圧してまわっていることが回り回って、このように治安回復に繋がっているのだと思うと嬉しく思う。

3月下旬

海運王国ポルトガは、ロマリアから海底トンネルを通ってすぐのところにある。
先日のロマリア王に負けず劣らず上機嫌(なんでも、最近旅の者から黒胡椒を献上されたとのこと)なポルトガ王陛下は、格安で船を譲ると約束してくださった。
格安と言っても私たちの旅銀ではぎりぎり一杯であったが、背に腹はかえられない。
一月ばかりは近海に留まり、操船の練習をしつつゴールド稼ぎに励むことにしよう。

5月上旬

ランシール神殿到着。
ここに地球のへそと呼ばれる修行のための洞窟があると聞き、挑戦することにしたのだ。
これからの旅にかかわる重要アイテムがあるかもしれないし、無くても良い修行にはなるであろう。

5月中旬

地球のへそより帰還。
独りで戦うのは初めての経験だったし、何より「引き返せ」「引き返したほうが良いぞ」という壁の顔には何度か心折れそうになったが、それでも何とか最深部に辿り着くことができた。
自分で誇ることができる、私は勇敢だった。
残念ながら目ぼしいアイテムは無かったが、私自身はこれまでより一回り大きくなれたと思う。

しかし、宝箱は見事に空っぽか人食い箱ばかりだった。
修行の場として有名なだけに、これまでにも何人もの修行者たちが挑戦したのだろう。
考えてみれば、宝物が残っている訳が無いのだ。
こんな簡単な理屈、最初から気付いていれば一々人食い箱と死闘しなくても済んだのに。
私ってお馬鹿だ。

7月下旬

補給のためジパングのキュウシュウアイランドの港町に寄港した。
荷役夫たちが言うには、私たちは実にタイミングがよかったらしい。
最近までジパングはサコクとかいう排外政策をとっていたというのだ。

何でもイジン(外国人のことだろう)の旅人たちが、ジパング土着のオロチというモンスターを退治してくれたらしく、それを機にサコクをやめることになったという。
その旅人たちが何者かは判らないが、素直に感謝することにしよう。

9月上旬

スーという村の東に、海図に載っていない街を発見した。
えりなバーグというらしい。
酒場ではミルクが出され、集会場では子供たちの合唱コンクールが行われ、街角には衛兵が立っている。
なんとも健全で治安のよい、そして息の詰まりそうな街だ。

ここは、えりな=きんじょう=うぉん、という一代の女傑が僅か1年で築き上げた街らしい。
しかし税金の取り立てが余りに苛酷であったため、住人たちの不満が高まり遂に革命が勃発。
えりな女史は逃亡したが、使用人の男は捕らえられ、いまだ獄に繋がれているという。

その使用人の男と面会してみることにした。
あかつき=ながれと名乗る男、よほど面会者が久し振りだったのだろう。
「僕は使用人じゃない、会長だ」などと主張しながらも(実際そんなことは我々の旅には関係ない)、なんだかんだ言って実に嬉しそうに色々と話をしてくれた。

しかし、何たること。
何たること!
何たること!!

かつてこの街にはオーブと呼ばれるアイテムがあったという。
魔王の居城に乗り込むのに必要な、超重要アイテムらしい。
その貴重なアイテムを、えりな女史は、魔王を倒す旅をしていると自称する旅人たちに渡してしまったというのだ!!

魔王を倒そうという志は立派だ。認めてもいい、実に立派だ。
しかし魔王という存在は、私たち選ばれた勇者にしか打倒することは出来ない。
この世界の理として、そう昔から決まっているというのに!

私たちの方針は決した。
何としてもその旅人たちと会い、道理を説いてオーブを返して貰わねば。
罷り間違って彼らが全てのオーブを揃えて魔王に戦いを挑み、返り討ちになってしまっては目も当てられない。
そんなことになってしまっては、魔王を打倒する手段は永遠に失われてしまう。
私たちが1つでもオーブを確保することができれば、そのような事態だけは避けられる。
またお互いオーブを求めて旅をしていれば、彼らドンキホーテ達と出会うこともきっと出来るだろう。

まず1つのオーブを。
明日からはそれを合言葉に探索をすることにしよう。

10月下旬

いまだにオーブは見つからない。
しかし、アープの塔というところで山彦の笛というアイテムを手に入れることが出来た。
伝承によると、オーブのあるところでこの笛をふくと、山彦が返ってくるらしい。
これで、あの傍迷惑なドンキホーテ達より先にオーブを確保することが出来るだろう。

11月下旬

今日も今日とてアープの笛を吹き鳴らしながら街を練り歩く。
まるでジパングで見かけたチンドン屋のようだ。
周囲の目が痛くて叶わない。特に子供たちは容赦が無い。
これも勇者としての勤めと自分に言い聞かせても、つらいものはつらい。
畜生、えせ勇者どもめ!

12月上旬

パーティから離反者が出た。

「私は魔王を倒したパーティの一員として有名になれると思ったから参加したのよ!
これ以上チンドン屋の真似事には付き合いきれないわ!!」

彼女はそう言い捨てて去っていった。
その志の低さは嘆かわしい限りだが、金銭で雇用したメンバーではやむを得ないだろう。

残りの2人は私の幼馴染。きっと最後までついてきてくれるに違いない。

1月中旬

訪れたサマンオサ城はお祭り騒ぎだった。
国王陛下に化けて悪政をしいていた魔物が通りすがりの旅人に退治され、本物の国王陛下が救出されたというのだ。
その旅人たちは既に去った後だったが、リーダ格の黒尽くめの男は漆黒の戦神と称され、若い女性の間で大人気らしい。
ただその際に謎の黒いゴーレムによって王城が一部破壊されたらしく、財政担当の大臣だけ苦い顔をしているとか。

やはり、その旅人たちとはあのドンキホーテ達のことだろうか。

1月下旬

サマンオサ城南東の洞窟を探索したが、得るものは何もなかった。
洞窟は殺戮されたモンスターの屍で満ち溢れていた。
いずれも鋭利な刃物で真っ二つにひらきにされているか、原型を留めないほどに撲殺されているか。
邪悪な魔物とは言え憐憫の情を禁じえない。

宝箱は見事に空っぽ。
蓋が閉まっている宝箱を発見して喜んで開けてみれば、その悉くがミミックときたものだ。
これではやってられない。

2月上旬

徒労感と共にサマンオサ城に戻ると、財政担当の大臣だけでなく民事担当の大臣も苦い顔をしていた。
何でも件の旅人たちが去っても漆黒の戦神ブームは止まず、女性の側から別れを申し立てる若い恋人たち、婚約者、夫婦が急増して社会問題となりつつあるらしい。
何と傍迷惑な。

4月下旬

海賊の女頭領と意気投合した。
なんとオーブの1つを実際に所持しているという。
事情を説明したところ、快く譲ってもらえることになった。

やった!
遂にかのドンキホーテどもより先にオーブを確保することができるのだ!
これで世界は救われる!

だが今は酒盛り中、明日あらためて伺うことにしよう。

翌朝頭領を尋ねると、彼女は怒り狂っていた。
秘蔵のオーブが、この数日の間に盗まれていたというのだ。

何たること!
何たること!!
何たること!!!
間抜けなドンキホーテどもめ、本気でこの世界を滅ぼすつもりか!

頭領は怒りをこめて、櫓櫂の及ぶ限り追い詰めてでも取り返すと宣言した。
私たちは容疑者の情報として、サマンオサ城下で入手した雑誌(忌まわしい漆黒の戦神特集だ)を提供した。
7つの海をまたに掛ける海賊たちの情報網は伊達ではない。
かの賊ども、きっといずれ追い詰められ捕縛されることだろう。

5月中旬

私たちはいまネクロゴンド山の麓に来ている。
海賊たちの情報によると、ここに最後のオーブが眠っているというのだ。

山彦の笛を吹いてみると、確かに頂上から山彦が返ってくる。
今度こそ先を越せる!

6月上旬

私たちはまだネクロゴンド山中を彷徨っている。
食料や水の残りも乏しくなってきた。
しかし世界を救うことができるのは私たちだけなのだ。
へこたれる訳にはいかない。

6月下旬

遂にネクロゴンド山頂に辿り着いた私たちの目に映ったのは、崩壊する魔王の居城、そこから飛び出してきた黒いゴーレム。
辺りに響き渡る、何やら強大な怪物の断末魔の叫び。

山頂の小さな祠では、老神官が、魔王は滅びた、世界は救われたのじゃ、とただ神の御名を唱えていた。
私は、いままで私を支えてきた、勇者としてのアイデンティティが音を立てて崩壊するのが聞こえたように思った。

7月上旬

懐かしいアリアハン城下。
虚無に囚われた私たちを迎えたのは、市民の暖かい歓呼の声であった。
彼らはオラが街の勇者が世界を救ったのだと純朴に信じているのだ。

最初は辛かったが、賞賛と美辞麗句の微温湯に包まれているうちに気にならなくなった。
かわりに、かの真の勇者一向がやってきて私を糾弾するのではないかと恐れるようになったが、やがてそれも気にならなくなった。
私はここでは紛れも無く勇者なのだから。

8月中旬

私はアリアハン王国の栄誉ある騎士に叙されることになった。
偉大なる父オルテガにすら生前には与えられなかった栄誉である。
叙勲の日、式典に列席した幼馴染たち(彼らは叙勲の対象とはならなかった)は腐ったものを見るかのような視線を送ってきたが、そんな視線は最早気にならなくなっていた。

来春には第2大臣の長男との婚礼が決まっている。
意志薄弱で家柄以外に取り柄の無いつまらない男だが、却って操縦はし易い。
将来アリアハン王国の国政を裏から操るにはよい縁談だろう。




そして数年後。
世界は大魔王ゾーマの名を知ることとなる。



あとがき

はじめてのSSです。
はじめてで、クロスオーバで、時ナデ3次創作。
いや、冒頭以外名前も出てこないのに、どの辺がクロスオーバでどの辺が3次創作やねん。
突込みどころ満載。

クロスオーバによって自分の作品世界を破壊されてしまった、本来の主人公の物語。
既にフラグの立ってしまったゲーム世界を、それに気付かずただひたすら後追いさせられるという。

モチーフというか電波の発信源は、ドラクエ7の愛すべき英雄ラグレイ氏。
最初に電波を受信したときは、志だけは高い市井の民パーティが勇者パーティの後追いをするという物語だったんですが、どこをどう間違えたらこうなっちゃったんだろう(苦笑)

注1)
勇者一向が盗賊のカギも魔法のカギも最後のカギも入手していないのは、アキトたちが既にカギを開けてまわっていたからということで。
またアキトたちにとってのクロスオーバ世界はバラモス編で完結しているため、ゾーマはそのままという。

注2)
ただの電波小説です。
世のクロスオーバ作品に対して含むところはありません。
ええ、ありませんとも。

 

管理人の感想

ぺぺさんからの投稿です。

勇者が黒くなってる!!(爆笑)

いやぁ、オチがいいですね、こういうオチは大好きですよ!!

できれば、ゾーマ編もやって欲しかったですね。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ああ、勇者にはラーミアが居ないから、火口から身投げするしかないのか(苦笑)