漆黒の戦神アナザー外伝
「敷島 英二の議」
第三話
「長官、大丈夫なんですか」
敷島英二の秘書官がバックミラー越しに心配そうに訪ねる。
「ああ、少しは楽になったよ。それに、今は寝てる場合じゃないだろうし」
そう言って上着のポケットからちり紙を取り出し鼻をかむ。
「やることやっておかないと、後で死ぬほど後悔しそうだしな」
敷島は車の後部座席に据え付けられているTV電話を使い始めた。
「もしもし、斎藤統幕議長ですか?」
『ちょ、長官!! ご無事だったんですか!!』
繋がった途端、斎藤のドアップ映像が映し出される。
「ええ、病欠して運良く、と言うかとにかく無事です。心配かけたみたいで」
『それより、長官・・・』
「はい、ニュースでみました。それで斎藤統幕議長、全自衛軍にデフコン2を発令して下さい。それと、防衛庁長官権限で防衛出動待機を命令します」
『ぼ、防衛出動待機ですか?』
斎藤は心底驚いた。まさかイキナリ防衛出動待機が命令されるとは思わなかったからだ。
ちなみに、防衛出動待機が発令されると、自衛官にも一時的な司法警察権を与えられ、武器の使用を現場の判断で使用できる。
だが、そのようなものを発令させた防衛庁長官はほぼ間違いなく、あとで罷免されるだろう。
にも係わらず、いとも簡単に敷島は防衛出動待機を発令させた。
『長官、本気なんですね?』
「勿論、冗談でこんな命令は出せませんよ」
『・・・解りました。直ぐさま各部隊に通達を出します』
「それと議長。各部隊に軽挙妄動は慎むように、と併せて通達して下さい。それと、第一空挺師団の一部を
市ヶ谷に回して下さい。手元に即時行動出来る部隊があった方が良いでしょうし。・・・柳田陸幕長、居ますか?」
『はっ』
斎藤に代わって今度は柳田昇吉陸幕長がTV電話に姿を現した。
「陸幕長、現在直ぐに首都圏に展開できる部隊はどれくらい在りますか?」
『少々お待ち下さい・・・』
少しの間言葉が切れる。
『お待たせしました。第一師団からは、練馬の第一普通科連隊及び第一偵察隊。朝霞の第三一普通科連隊。第十二空中機動旅団からは、相馬原の第四八普通科連隊一個中隊です』
「一個連隊強の戦力ですね」
思ったよりも多い戦力に僅かに驚く敷島。
『明後日に火力演習が予定されていた為、戦力になる部隊が多かったので』
「解りました。治安出動が発令され次第部隊を展開できるようにして下さい」
『はっ』
「海江田海幕長」
『はい』
今度は、斎藤や柳田と同じように防衛庁に詰めていた海江田志郎海幕長を呼び出した。
「テロリスト達の海からの増援が懸念されるのですが、海幕長の意見はどうでしょう?」
『十分に考えられます。特に潜水艦が使用されたら、秘密裏にテロリストの潜入を許してしまうでしょう』
「成る程。それについての対策は何か在りますか?」
『水上からの不審船は海上保安庁の巡視船で十分対応出来るはずです。ただし、水中を航行する潜水艦への対応は我々(海上自衛軍)でしか無理でしょうが』
「潜水艦への対策は?」
『潜水艦をもって当たるのが一番でしょう。東京湾への侵入は特に』
東京湾への潜水艦の侵入は比較的容易だ。何故なら水上艦も多数航行するため、それに紛れてしまうと水上からのソナーによる探知がほぼ不可能になってしまうからだ。
潜水艦のソナー、特にベテランのソナーマンは何キロ離れていても潜水艦のスクリュー音を探知できるのでそう言った意味で、今回は潜水艦を当てようと海江田は言ったのだろう。
「海江田海幕長、海上・海中の指揮は全て一任します。最善と思われる方法で事に当たれるようにして下さい」
『はっ』
「斎藤統幕議長」
再び斎藤を呼び出す。
「TV局のカメラを集められるだけ集めて下さい。記者会見を行って、テロリストの先手を打ちます」
『記者会見ですか?』
「テロリスト達が、総理に後任指名させる前に指揮権を奪っておきたいので」
考えようではとんでも無く恐ろしいことだ。何れがこの後の主導権を握るにしても、民主主義国家にあるまじき「選挙を経ない最高権力者」を生み出すのだから。
尤も、テロリスト達は自称革命の為。敷島はそれをさせない為の便宜的な処置なのだが。
「じゃあ、そう言うことで」
防衛庁との通信を終え、今度は別な場所にかける。
市ヶ谷の防衛庁に到着する直前まで、敷島はTV電話を使い続けていた。
国会を占拠したテロリスト達は、着々と国会議事堂の防備を固めていた。国会の玄関と議員会館との地下通路にバリケードを構築して、警官と自衛軍の侵入を妨げていた。
現在、国会議員と一般職員・傍聴人はそれぞれ国会と議員会館に分けて監禁されている。
人質は議員の方が価値があると判断したのであろう。
「同士隊長、もう間もなくTV放送の時間です」
「そうか。放送が終わればこの国は我々の物になる。正義の勝利だ」
総理大臣室の執務席に腰をかけているテロリストのリーダーが、満足そうに悦に浸っていた。
「しかし、中湖が死んだのは予想外でした」
内閣総理大臣中湖純生はテロリストが襲撃したとき手榴弾攻撃で絶命しており、
更に逃げ出した閣僚に踏み潰され顔の原型を止めていなかった。人気先行の政治家の最後らしい惨めな最後だった。
「我々のシナリオが若干狂ったが問題ない。何しろ全国会議員を人質にしたのだ。警察も自衛軍も動くことはできん」
警察も自衛軍もその長は政治家である。全ての国会議員を人質に取っているので在れば、
どちらも指揮監督者不在で行動することは出来ない。何より自衛軍の独断専行は絶対にあり得ない。
テロリスト達はそう信じていた。
だが、その考えが最大の誤算であったことを直ぐに知ることになった。
「ど、同士隊長大変です!」
若いテロリストが総理執務室に飛び込んできたのは、そんな時だった。
「誰が持ち場を離れろと言った!」
「ぼ、防衛庁長官がTVに写っています!」
「なんだと?!」
市ヶ谷・防衛庁
敷島英二防衛庁長官がTV・新聞記者に囲まれ、演壇で会見を行っていた。
「国民の皆様も、TVを見てご存じの方も居られると思いますが、改めて説明いたしたいと思います。
本日午前十時頃、臨時国会開会式の会場に武装した集団が乱入しました。
その際、多数の国会議員に死傷者が出ました。
天皇陛下、残りの国会議員及び多くの傍聴人の方々も人質となった模様です。
私は現内閣閣僚中、唯一拘束を免れた者として、政府の臨時の指揮をとり、
国会内に立て籠もる武装集団との人質返還交渉を行いたいと考えています。
それを行う際、私は防衛庁長官権限を用い、自衛軍法第七七条、自衛軍の防衛出動待機命令を発令しました。
これにより、自衛軍は治安維持の為出動いたしますが、これはあくまで一連の武装集団事件に
対応するものであり、侵略行為の準備では無いことを、各国は誤解無きよう判断していただきたいと思います。
出動に際し、出動した自衛軍は基本的に警察の指示で行動を行うものとします。
国民の皆様には是非、良識有る行動に終始していただくよう、お願いいたします」
「くそ、やられた! 寄りにも寄って防衛庁長官を取り逃がすとは!!」
テロリストのリーダーは怒り心頭のあまり、テレビに灰皿を投げつけた。哀れ年代物のテレビはフレームをへこませる。
そう、寄りにも寄ってだ。自衛軍への指揮権を有する政治家が残ってしまったら、自衛軍からの支持を取り付けることは出来ない。
・・・自衛軍が共産主義者を支持すると思っていた時点で将来への見通しが甘いと言わざるを得ないのだが。
自衛軍の仮想敵は自衛隊、それ以前の帝國陸海軍時代から共産主義勢力だったことを、このテロリスト達は知らないらしい。
『・・・本日は番組を変更して国会占拠事件についてお知らせを・・・・。えっ! 今海外から最新のニュースが入りました。ユーラシア連合本部に居る牧田記者からです。牧田さん』
『はい、こちら牧田です。つい先程ですが、ユーラシア連合事務総長の海神伝七郎氏が会見を行いました。
海神事務総長は「我々ユーラシア連合及び連合加盟国は日本で起きた一連の事件で、
敷島防衛庁長官の行動を全面的に支持し、武装勢力に対し一日でも早い人質の開放を望む」と会見で述べ、
敷島防衛庁長官を支持する意向を発表しました。この発表により敷島防衛庁長官は
国際的な支持を受けたことになり、今後の問題の中心人物になるであろう事は疑いないように思われます』
「さすがアキト君と三堂君。行動が素早いな」
「モタモタするヤツァ海に叩っこむぞ!!!」
特車二課のレイバーハンガー内に怒声が響きわたる。パトレイバーを甲種装備に換装する整備士達を
作業の騒音に負けない程の大声で指示を出すのは榊清太郎整備班長、通称オヤッサン。
整備の神様の異名をとるダンディな名メカニック。陰の特車二課最高権力者と言う者もいるが。
ちなみに、モタモタすると本当に東京湾に叩き込む(現在は一二月)。彼はそう言う人だ。
会議室には特車二課第一小隊・第二小隊の全メンバーが集合している。
「先程本庁から正式な待機命令と甲種装備への換装命令が出た。これにより、各小隊の非番待機は無くなり即時待機態勢に移行する」
第一小隊長の南雲しのぶ警部補が議長役で本庁(警視庁)からの命令を伝える。
特車二課が無断出撃する直前、本庁からの命令が届き、現在は甲種装備への改装中であった。
その指揮官然とした凛々しい口調は部下に絶対の信頼を与える物だった。
「各員、配布した甲種装備の概要をよく読んで、頭に叩き込んで置くように。後藤小隊長、何かありますか?」
「え〜。そう言う訳だから、各人しっかりね」
第二小隊長後藤喜一警部補のやる気のない声はいつもの通りだ。後藤はこういう席では滅多に口を挟むことはない。
しのぶか第二小隊二号機バックアップの熊耳武緒(くまがみ たけお、女性)巡査部長に全て任せている。自分が言うよりも効果的だからだろうか。
「・・・それでは、解散!」
少々のため息を吐いてしのぶは隊員達を解散させた。
それぞれのオフィスに戻る隊員達。
「ふっふっふっふっふ・・・!」
「太田さん、何だか嬉しそう」
第二小隊二号機フォワード(レイバーパイロット)太田功巡査は、堪えきれない喜びを押さえるのに必死であった。
同じ一号機フォワードの泉野明(いずみ のあ)巡査は引いていた。ハッキリ言って今の太田は只の危ない人だ。
「これが喜ばずにいられるか泉。何の遠慮もせずライアットガンをぶっ放せるんだぞ!」
ちなみに甲種装備とは、別命SWAT装備とも呼ばれる物で、パトレイバーにライアットガンの装備と防弾アーマーを装着させる事だ。(劇場板パトレイバー2のイングラム参照)
「遠慮しろよ少しは。それに、南雲隊長は「ライアットガンの使用は、あくまでテロリストがレイバーを使用していた場合」って言ってただろうが。お前何聞いていたんだよ」
ツッコミを入れたのは一号機バックアップの篠原遊馬巡査。
彼はレイバーの大手メーカー「篠原重工」社長の一人息子だ。親と喧嘩して何故かこんな所で警察官をやっていたりする。
「現場に臨んでは臨機応変。貴様そんなこともわからんのか」
「何時も何時もリボルバーぶっ放している割には全然当てられん奴に言われとう無いわ」
「なんだとぉ!!!」
「先月だって暴走したレイバーにぶっ放してタンクローリーに当てやがって。大体何で当てられもしない癖に撃つんだよ、このド下手くそ!」
「篠原ぁ、きっさまぁ〜〜〜〜〜〜!!!!」
途端に取っ組み合いを始める遊馬と太田。
太田の名誉の為に言っておくが、決して彼は射撃が下手なわけではない。
射撃訓練では良好な成績を収めるのだが、何故か移動目標への命中率になると全くと言っていいほど当たらないのだ。
「太田さん、遊馬さん、止めて下さい。今はそんなことしてる場合じゃないでしょう」
「そうです。止めて下さいよ〜」
二人を仲裁するのは三号機コンビ、フォワードの杉田庄一とバックアップの空谷みどり。
上が杉田で下のおっとりしたのがみどりだ。
「「止めるな! 今日こそ決着を付けるやる!!」」
だが一向に止めるつもりは無いらしい。
「はあ、しょうがない、空谷さんお願い」
「はい、解りました」
深〜い溜息を付く杉田。そしてみどりに何事かを頼んだ。
バキャ!!!!! ビチャ!!
次の瞬間、金属とタンパク質が力強い接触をする音がした。
みどりの手には何故かパイプ椅子が握られていた。(汗)しかも所々凹凸があり、黒っぽいシミが多数付着していた。
更に付け加えるのなら、そのパイプ椅子は本来の使用目的とは懸け離れた使われ方をしている。
・・・どんな使われ方をしているか、大体想像が付くと思いますが。(汗)
「あははは・・・、みどり、また使ったね、それ」
野明がさっきと違う意味でまた引いた。口も引きつっている。
「でもこれが一番手っ取り早い方法ですし・・・」
パイプ椅子を元の位置に戻しながらみどりは答える。
空谷みどり。彼女は大のプロレスファンであり、プロレス放映を見ているとついつい技をかける程の女性であった(犠牲者は主に杉田)。
しかし、誰も殴られた二人の心配をする者は居なかった。
『新潟県警高速自動車警邏隊より報告。関越自動車道をレイバー大の機材を積んだテロリスト一味の物と
思われる大型トレーラーが、現在東京方面へ向けて暴走中。特車二課直ちに出動せよ! 繰り返す・・・・・・』
「おい、お前達、行くぞ!」
「野明! 何ボヤッとしてるんだ、早くしろ!」
「「「「「りょ、了解!(何時の間に・・・)」」」」」
太田と遊馬は一番にオフィスを出てハンガーへ走っていった。
舞台は第二幕を迎えようとしていた。
続く・・・
ペテン師です。
ようやっと、第三話完成致しました。
パソが故障(修理に2週間)するわ、データが飛ぶわで大変でした。
如何だったでしょうか?
私にシリアスオンリーは書けないことが判明(爆)。
特車二課の描写は三時間で書けるほど、書いていて楽しかった(核爆)。
前半とのギャップ、我ながら凄いや・・・
パトレイバーを知っている人も殆ど知らないキャラを二人出しました。
杉田庄一と空谷みどりです。
PS版パトレイバーに出てきたのですが、誰も知らないと言う不運なキャラです。
但し、杉田は完全オリジナル。ゲームでは「三号機パイロット」としか書かれていませんでした。
質問疑問その他諸々、あったら感想掲示板にお願いします。
プロフェッサー圧縮様、毎度毎度有り難う御座います。
こんな駄文を読んで下さってありがとうございました
それでは〜
代理人の感想
無機物のニューヒーロー、パイプ椅子現る!
消火器withサラ対パイプ椅子with空谷の夢のカードは実現するのかッ!?
・・・・・・はこっちへ置いといて。
テロリストがかなりお馬鹿です(爆)。
某ドラまた風に言うと
よくいるのだっ!
なんの目的もなく総理大臣になりたがるやつや
やたらに革命を起こしたがる共産主義者が!
と、言うところでしょうか(核爆)。