機動戦艦ナデシコ
ever day
第5話
戦闘終了後、俺は格納庫に向かう。
「すまんっ、テンカワ!!」
格納庫に戻った俺を待っていた第一声がこれだった。
「・・・・・・・・・・・・」
どうやら自分たちの整備ミスということがわかったらしく、ウリバタケが必死になって謝ってきた。
「ホントにすまねぇ。何て言って詫びたらいいかわからねぇが・・・この通りだ」
そう言って頭を下げる。
俺は、
「頭を上げて下さい」
にこやかに言った。
「誰にだってミスはつきものですから。次から気をつけてくれれば良いんです」
「そうか。そう言ってもらえると助かるよ」
さして怒った様子のない俺にウリバタケも安心したのか、ホッとした表情で頭を上げる。
ククク。甘いねぇ?
「で、肝心の慰謝料ですが・・・」
俺は先程と表情を全く変えずにそう言い放つ。
「な!ちょ、ちょっと待て!?さっき気にしなくてもいいって・・・?」
「ええ。その通りです。ミスは次から気をつけてくれればいいんです。だけど、俺は危うく死にかけたんですよ?それなのに謝れば許されるとでも思ったんですか?」
「ぐっ。それは・・・」
「そうですよねぇ。まさかそんな甘いことが世の中で通じるなんて思ってるわけないですよねぇ?見たところ僕よりずっと大人の方みたいですしねぇ?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
黙り込むウリバタケ。
いきなり俺が金を要求するなんて思ってなかっただろう。
取れるところからはきっちりと取る。これって国民の3大義務だよな。←違います
にしても、このままでは進まないし。
仕方ないな。
「とは言っても、貴方はネルガルに雇われているだけなんですよね?」
「・・・・おおっ、そうだ!そういうのを請求するならネルガルの人間に言ってくれよっ!!」
「・・・確かに。でもネルガルの人に知られると貴方は何かしらのペナルティを課せられるんじゃないですか?」
「くっ」
「たとえ、貴方が直接整備をしてなかったとしても、それを司る立場として何らかの処罰があると思いますが。どうです?」
「それは・・・・」
言葉に窮してるな、ウリバタケ。
フフフ。あと一押しといったところか。
「ですから、その辺りは黙っていてもいいんですよ?」
「・・・・・・・・・・・・・わあったよ。いくら出せばいい?」
どうやら諦めたらしく降参といったポーズで俺に聞いてくる。
「そんなに落ち込まないで下さいよ。それほど無茶を言う気はないですから」
俺は苦笑した。
少し、いじめ過ぎたかな?
「そうですね・・・・ナデシコ食堂のお昼一ヶ月ということでどうです?」
「一ヶ月!?それは長くないか!?」
「そうですか?僕は死にかけたんですよ?このくらいは大したことはないと思いますけど」
「・・・・うっ」
「貴方は危うく殺人者になるところだったんですよ?間接的でもね。」
「―――――ッ!わあったよ、それでいいよ!ちくしょう!!」(涙)
最後はほとんど泣き声になっていた。
本当はもっと取れたけど、これ以上やるとウリバタケさんと完全に溝を作るからな。
修復可能なくらいには残しておかないと。
「じゃ、俺はこれからブリッジに行きますんで」
このウリバタケとのやりとりで、戦闘でのフラストレーションを少し解消できた俺は、未だ落ち込んだままの彼にそう言い残し、格納庫を後にした。
誰もいない通路を歩きながら、さっきの戦闘について思い返してみる。
整備不良には腹が立ったが、それよりももっと気になる点があった。
一つは、あの女だ。
動かないはずのエステを再起動させるなんて、今でも信じられない。
全身にナノマシンのパターンが浮かび上がり、ルリちゃんやラピスみたいだったが、その能力は大きく異なっていた。
一体何だ、あの力は?
俺の見たところによると、エステの自動修復とリモートコントロールといったところか。
俺を助けてくれたぐらいだし、今すぐ俺やナデシコに危害を加えるつもりはないみたいだから、その点は安心できるが・・・。
「・・・・・・・・・・・・・・」
・・・・・やめだやめだ。考えても分からないし。
便利な力がある、それでいいじゃないか。
もっと人を愛そうぜ。世の中ラブ&ピースだ!!
次に行こう!次に行こう!
次の議題はプロスペクターからいくら搾り取れるかだ。
どうせ予備パイロットの件もふっかけてくるだろうからな。
その辺を上手くやって、何とか俺の値段を上げないと。
前回は見事に奴の術中にはまったからな。
はっきり言って本業のパイロット並に働いたのに、手当はスズメの涙程度だった。
その上、戦後には借金が出来るたぁどういうことだ!(怒)
奴はナデシコでの人事を担当していたわけだから当然そのくらいのこと分かってた筈だし。
絶対に確信犯だな、あれは。
いくら余裕がなかったとはいえ、そんなことにさえ気が回らなかった俺って・・・・(泣)
クッ、今度は目にもの見せてやるぜ!プロスペクター!!
「ハア、ハア、ハア、ハア・・・・・・・・・」
少しエキサイトしてしまったようだ。
気を落ち着けて、最後のテーマに入るか。
それは俺の破滅願望だ。
今はそんなこと1mmも思わないが、どうも追いつめられると出てしまうようだ。
うーん。こればっかりはなぁ。
俺が意識してるわけじゃないからな。どうしようもない。
深層心理に刻まれているのかどうかわからんが・・・。
多分、俺に目標がないのが原因だと思う。
強烈な目標でもあれば、そんなこと無くなると思うけど。
そうは言っても・・・、いきなりは作れないよなぁ。
ま、そこまでに陥る事態がそうそう訪れるとは思わないけどさ。
とりあえずこの件については棚上げだな。
なんてことを考えながら通路を歩いているうちに、ブリッジの前まで来ていた。
プシュー
ブリッジの扉が開く。
その中へ歩みを進めると、懐かしい顔ぶれが揃っていた。
そして・・・、
「あー!アキトだ!!アキトォォォォ!!!!!」
そう言うなり、俺に抱きついてくる女が1人。
昔の俺ならここでスッと身をかわしたり、足を引っかけたりするんだろうが、今の俺はそんな無粋な真似はしない。
足に力を入れ、衝撃に備える。
ドンッ
思ったよりも大きな衝撃が俺を襲った!
しかし俺はそれを持ち堪える。
「ユリカ・・・。久しぶりだな・・・・」
彼女の背中に手を回し、俺は優しく話し掛けた。
「アキト大丈夫?怪我とかしてない?」
「ああ。大丈夫だ。」
「そう、良かった!やっぱりアキトは私の王子様だね!!」
「ははっ。お前が頑張ってくれたからだよ」
「えー、そうかなぁ??」
「そうさ。お前のおかげで俺は助かったんだ。サンキュな」
「えへへ♪」
照れたような声を出すユリカ。
ちなみに俺達は、さっきからずっと抱き合ったままだ。
「ねぇ、アキト?」
「ん?」
「アキトは私のこと、ずっと覚えていてくれたの?」
「ああ。覚えていたよ」
「だったら、何でもっと早く教えてくれなかったの?」
「俺だって、確信が持てなかったんだ。久しぶりに会ったお前が、こんなにも綺麗になってるなんて思いもしなかったからな」
「も、もう。アキトったら・・・・」(照)
腕の力を少し緩め、真正面からユリカの目を覗き込む。
すると、ますますユリカの顔が赤くなっていった。
フッ。相変わらず直接攻撃に弱い奴だのぅ。
そうなのだ。こいつは自分は大胆な行動を取るくせに、こっちがそういう行動をすると途端に弱くなってしまうのだ。
確かに天然で、ごーいんぐまいうぇいなところもあり、もう少し人の話を聞けよと言いたくなる時もあるが、基本はウブで可愛い奴なのだ。
実に女の子らしい女の子といえると思う。
俺に対して好意を持ってくれている娘を無碍に扱う理由はないからな。
「・・・・ア、アキト」
「ん?どうしたユリカ?」
「あ、あのね・・・・・」
どうやら恥ずかしくなってきたらしい、今の状態が。
しきりに体をモジモジさせている。
ちなみに今の体勢は、俺が彼女の腰に手を回し抱えているような感じだ。
彼女の手は俺の背中を忙しなく動いている。
何が言いたいのか想像できるが、俺は気にすることなく言葉を続けた。
「ユリカはどうしてこの艦に乗っているんだ?」
「わ、私はこの艦の艦長さんなんだよ」
「そうなんだ・・・・。その服、よく似合ってるよ」
「・・・・え」
そう言って彼女の前髪にそっと触れる。
ユリカは真っ赤になって、俯いてしまった。
ちとやり過ぎたか?
あまりにもウブな反応が可愛くて、ついつい調子に乗ってしまったようだ。
「あ〜ゴホン、ゴホン。そろそろよろしいですかな?」
2人の間にプロスペクターが割って入る。
そういえばここはブリッジだった(汗)
途端に、お互い気恥ずかしくなりそそくさと離れる。
「お二人の仲がよろしいのは結構なのですが。一応他の方もいらっしゃるので、はい」
周りを見回すと、興味深げに見ている者、我関せずとばかりにしている者、何を考えているかわからない者、頬を赤く染めている者、視線で人を殺せたらという感じで俺を(汗)睨んでいる者、等々様々な反応であった。
「とにかくテンカワさん、お疲れさまでした」
「・・・・はい」
「ブリッジの皆さん。彼が先程エステバリスを操っていたテンカワさんです」
「初めまして、テンカワ・アキトです。本業はコックです」
俺は自己紹介をする。ブリッジクルーには本来不要かもしれないが、ここは軍艦じゃないしな。ま、いいか。
俺に続いて順番に挨拶していき、ミナトさんの番に来た時それはおこった。
「ハルカ・ミナトよ。ナデシコの繰舵士を務めます。よろしくね。それで一つ聞きたいんだけど、アキト君?」
「何ですか?」
「貴方と艦長ってどういう関係なの?」
「どういうって・・・・」
「ほら、やけに親しそうだったから。久しぶりの再会なんでしょ?」
「ええ、まぁ」
「艦長に言わせると王子様ってことらしいけど、ホントかなって思って。さっきのシーンを見てたらあながち間違いじゃなさそうだけど、ね?」
俺とユリカの関係を問い質す彼女の顔は実に楽しそうだ。
何で女ってこうも色恋が好きなのかねぇ?
男と女がいたら何でもくっつけたがるのはこの船の悪いところだよな。
さてさて、どう答えましょうか?
ユリカも悪くはないんだが、この時点で決めるのはちょっと・・・。
やはり男としては未知の領域へと足を踏み入れたいところだよな。
てなことを瞬時にまとめて、
「ハッハッハ。いやだなぁ、何か勘違いしてません?」
俺はさわやかに否定する。
「俺とユリカは幼なじみというだけですよ?」
「え!そうなの!?」
ミナトさんが驚いた声を上げた。
それはそうだろう。さっきの俺達は、どう見ても幼なじみの再会というより、長らく別れていた恋人同士の再会といった感じだったろうからな。
「でも、さっきの2人からすると、ただの幼なじみというだけじゃなさそうに見えたんだけど・・・?」
案の定だ。
「俺は火星出身でして。火星ではあのような挨拶が一般的なんです」
さらりと言い切る俺。
もちろん嘘だ。
あんな挨拶をする奴なんて俺以外にいないだろう。
すまん火星の同胞達よ。
火星について間違ったイメージを与えてしまったことを、一応心の中で謝っておく。
「へぇ・・・・そうなんだ」
と、なにやら納得顔のハルカ・ミナト女史。
てゆーか、あんたも簡単に信じるなよ!
しかし、俺の発言を聞いて、納得できない者がやはりいた。
「違うよ〜!ただの幼なじみじゃないもん。アキトはユリカの王子様なんだよ!!」
先程の俺との抱擁から立ち直って、「私ちょっと怒ってます」といった感じで俺を見ている。
やれやれ、しょうがないな。
俺はユリカに近づくと、彼女の前で片膝をついた。
「え、え?ど、どうしたのアキト??」
いきなりの俺の行動に少々戸惑い気味のユリカ。
俺は気にせずに彼女の左手を取る。
そして、ゆっくりと自分の口元へ運び、手の甲に軽く口づけた。
ブリッジにいる他のメンバーも、突然の俺の行動が理解できないらしく、呆気にとられている。
俺は立ち上がり、未だ戸惑いの表情を浮かべているユリカに話し掛けた。
「ユリカ・・・・・。君が俺を想ってくれていることはとても嬉しい。でも今の俺では君の王子様になる自信がないんだ・・・・・・・」
「え?」
事態に着いていけないユリカを後目に、俺は神妙な顔つきで先を続ける。
もちろん左手は握ったままだ。
「だから、俺に時間をくれないか・・・・?まずは騎士見習いとして、修練を積みたいんだ。いつか君にふさわしい者となれるように・・・・・」
そう言って、俺は顔をゆっくりとユリカに近づけた。
「え?え??」(汗)
ユリカは俺の接近に伴い焦った声を上げる。
お互いの顔の距離が10cmになった時、俺は止まった。
そして、俺はニッコリと微笑む。
「・・・・・・・ね?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」(真っ赤)
ユリカは真っ赤になってしまい、あうあうと口をパクパクさせている。
フッ・・・・・。よくこんなことが平然と出来るよな、俺(汗)
端から見たらこんな恥ずかしいことをスラスラと出来る自分に、少し恐怖を覚えてしまった。
ブリッジの女性メンバー達もヒソヒソと話をしている。
「・・・・・ジゴロ、ですね」
「・・・・・・そうね、女の敵ね。ルリちゃんもああいう男には気を付けなくっちゃダメよ?」
「はぁ・・・・・」
・・・・・失礼な。誰がジゴロだよ!?←貴方です
他の男性クルー達は何事もなかったかの様に振る舞っていた。
ジュンだけは放心状態のままだったが・・・。
その後、プロスペクターが気を持ち直し、残りのクルーの紹介を促す。
そして、メンバー紹介が一回りしたところでプロスペクターが切り出してきた。
「実はテンカワさんにお願いしたいことがあるのですが・・・・」
「何ですか?」
「今当艦には、エステバリスに乗れる人がいないのです。ですので、テンカワさんには引き続き予備パイロットをしてもらえないでしょうか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「また敵の来襲が無いとも言い切れませんし、お願いします」
ま、予想通りだよな、ここまでは。言ってることも納得できるし。
「・・・・・・・・いいですよ」
「そうですか!ありがとうございます。ではパイロットを兼業ということで早速契約の更新を「あの」」
「はい?」
「予備パイロットって、歩合制ですか?それとも固定制ですか?」
「ええと、今のところは歩合制ということなんですが・・・」
やっぱりな。どれだけ安くすませるかという魂胆が見え見えだ。
「予備という以上、正規の方よりお給料は安いんですよね?」
「・・・・・ええ」
「でも、現在この艦においてパイロットというのはものすごく希少性が高いと思うのですが?」
「・・・・・・そうですね」
「そのうえ素人ですから、僕は。危険性も普通より高いんじゃないですか?」
「・・・・・・はい」
「でしたら、それなりに保証されてないとねぇ?」
「確かに仰る通りです。ですので各種保険等も含めてこれくらいが適正ではないかと、我が社では判断したのですが?」
そう言って、電卓を見せる。
ふむ。まずまずといったところか。
しかし、前回の恨みもあり、俺はこの程度では満足しない。
限界まで行くつもりだ(ニヤリ)
「確かにこのくらいが相場かもしれませんが、今は非常時ですよ?」
まずは、軽くごねてみる。
「はい」
「でしたら、その分も上乗せするのが筋というものではないんでしょうか?これは平常時の場合でしょ?」
「・・・・・・・・・・・・」
「いざという時に、役にも立たない正規パイロットなんかより、確実に動くことが出来る予備パイロットの方が余程重宝されてしかるべきだと思うんですけど・・・。間違ってます?」
「・・・・・その通りなんですが。我が社でも色々と都合が・・・」
「それはそちらの都合でしょ?俺には関係ないことですから。話を混ぜないで下さい。」
ピシャリと言いきった。
今のところ奴は大して動揺の表情を浮かべていない。
本当なら、俺の要求なんて簡単にはねのけられる立場にあるんだが、ヤマダの奴のせいでそれは出来ないし。
本当に感謝だよな。後でお見舞いにでも行ってやろうかな?
「・・・・・わかりました。これくらいでどうでしょう?」
そう言って、電卓を打ち直す。
ふ、思ったよりも早かったな。
ここが奴の部屋とかならこうも簡単にいかないだろう。
相手のテリトリーだからな。俺が圧倒的に不利だ。何とか言いくるめられてしまうと思う。
しかし、ブリッジともなればそうはいかない。
他の人間の目があるからな。いつまでもこんなことを人目に晒したくないだろうし。
早期決着をするとふんだんだが、まぁビンゴってところだ。
電卓を見ると、先程より2割程度アップされていた。
俺はおもむろに電卓を操作する。
ピ、ポ、パ、
それを見て、プロスペクターが驚いた。
「なっ!!テンカワさん。これはちょっと・・・・・」
それもその筈だろう。
なんと俺は最初に提示された金額の3倍の値段を付けていたからな。
俺だってこんな無茶が通るとは思っていない。
ちょっとした嫌がらせってやつだ。
「なにか不都合な点でも?」
「テンカワさん。お願いしますよぉ」(汗)
プロスペクターはしきりにハンカチで汗を拭う動作をしている。
「たかだかこれくらい微々たるもんじゃないですか。もし、ナデシコが沈んだらこの何倍もの損失が出るんでしょ?」
「・・・・・・・・・・・・」
無言になり、もう一度電卓を打ち俺に見せる。
ふむ。まぁ、これくらいがリミットか。
俺としても、これ以上金に執着するところを他人に見られたくないし。
でも、せっかくだからもう少し粘ることにした。
「ピポパッと、これでどうですか?」
「ぐっ・・・・・」
悔しそうにするプロスペクター。しかし、
「・・・・・・・・分かりました。これで結構です」
終幕。
ちなみに最終的な値段は最初に提示された金額の7割り増しだ。
ま、俺の予想では2倍くらいは行けるだろうとふんでたので妥当なところだな。
その後、俺はプロスペクターの部屋に行き、契約の更新を済ませコミュニケとカードキーとその他諸々を受け取り、自室へと戻る。
ユリカはというと、最後まで俺達の話をぼーっと聞いているだけだった。
プシュー
扉が開く。
「ふぅ」
コミュニケなんかを机の上に放り出し、ごろんとベッドに横たわる。
疲れた〜。
考えてみれば、俺が過去に戻ってきてまだ一日経ってないんだよなぁ。
こんな半日足らずで、よくこれだけ色々起きるもんだ。
俺がボーッとしていると、
「お帰りなさい」
不意に声が掛かった。
この部屋に入ることが出来るのは俺の他に1人しかいない。
「・・・・ああ、ただいま」
「ずいぶんとお疲れの様ですね」
「色々とあったからな」
「・・・・・・そうですね」
「・・・・・・・・・・・ああ」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
俺もアリスも沈黙する。
しばらくしてアリスが口を開いた。
「聞かないんですか?」
「何を?」
「私が何故ここにいるのか、とか」
「他に行く所がないからだろ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「じゃ、じゃあ先程のコックピットの中でのこと、とかは?」
「停電になっても便利そうだな」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「そ、そうじゃなくてっ!!普通気になりません!?自分で言うのも何ですが、怪しいとかっ!!」(汗)
「ま、怪しいよな」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・本気で言ってます?」
「・・・・・俺はいつだって本気だぞ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
また黙り込む2人。
沈黙がこの部屋を支配する。
アリスは必死で会話の糸口を探している様子だ。
俺は、全く気にしてないが。
しかし、いつまでもこのままというわけにもいかないか。
しょうがない。ここは俺が、きっかけでもこしらえてやることにする。
「なぁ」
「はいっ!」
待ってましたと言わんばかりの勢いで、俺に返事をする彼女。
「風呂湧かしてくれ」
「・・・・・・・・・・・・・・」
すると何故か黙り込んでしまった。
むぅ。おかしいな。俺様がタイムリーな話題を提供したはずなのに?
突然フッと目の前が暗くなったかと思うと、
ガン
いきなり顔面に正拳突きを入れられた。
痛い。
この暴力女め。さすがの俺でも我慢の限界だ。
俺はむくりと起きあがり、文句を言ってやる。
「う〜、痛いじゃないかぁ」
「テンカワさんが真面目じゃないのが悪いんですっ!」
「はぁっ!?なんじゃ、そりゃあ!?」
なんて奴だ。
謝るどころか開き直りやがった。
「だー、とにかく何が言いたいんだ?さっきから」
「ううー。普通あれだけのことがあったら、色々聞きたがるのが人ってもんでしょう!?」
「じゃあ、聞いたら教えてくれるのか?」
「ううん」
そう言って首を横に振るアリス。
・・・・このやろう。
教える気もないくせにその素振りを見せろとは、こんなわがままな女見たこと無いぞ。
「あのなぁ。どうせそんなことじゃないかと思ったから、俺は何も聞かなかったの!」
「でも、少しくらい気になる素振りを見せてくれてもいいじゃないですか!?」
「あー分かった。分かった。次からはそうしてやるよ」
俺は手をヒラヒラさせながら、投げ遣りに応える。
そして、少し間を置いて俺は表情を引き締めた。
「それはさておき、あの時は助かったよ。・・・・ありがとう」
「え?」
「正直もうダメだと思ったからな。お前さんがいてくれなかったら、俺は今生きてないだろう」
いきなりシリアスモードにチェンジした俺に着いていけないのか、きょとんとした表情をアリスは浮かべている。
しかし、俺が言ったことを理解出来てきたのか、少し照れた表情で、
「・・・・・はい」
と、俯き加減に答えた。
うっ。かわいい。
性格はともかく見た目はルリちゃんだからな。しかも16歳バージョンの。
「と、とにかく。これからも頼むね」(汗)
少しどもってしまった。
「こちらこそ。でも・・・・・本当に私のこと気にならないんですか?」
「そんなわけないだろ。気になるに決まってるじゃないか」
「それならどうして・・・・・?」
「聞いたって答えてくれないだろうというのが一つと。後はあんまり気にしないようにしたんだよ」
「さっきと言ってることが違う様な気がしますが・・・・」
「うーん、何て言うのかな。俺だって一時期そうだったからなんだけど。あまり他人に詮索されたくないだろうなと思ったんだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「自分がされて嫌なことは他人にするなってね?」
と、ここで俺は軽く片目を瞑る。
「・・・・・・・・クスッ。先程までプロスペクターさんと交渉していた人と同じ言葉とは思えないですね?」
「何だ。見てたのか?」
「はい」
「あー、あれはだな。そんな交渉なんて呼べるものじゃないよ」
俺はつまらなさそうに喋った。
「そうなんですか?」
「ああ。あれは始めから向こうが金額を低く設定していたのさ。だから俺はそれを元の値まで引き戻したってわけ」
「へぇ」
感心したようにアリスが相槌をうつ。
「じゃなかったら、あんなにアップするわけないだろ?あの守銭奴がそんな甘い奴なわけないし」
「なるほど」
「よくある手だが、結構有効なんだよな。ま、覚えておいて損はないと思うぞ?」
「ですね」
「他に何か質問は?」
この話はここでお終いとばかりに、俺は手を振った。
「ええと、ユリカさんのことですが・・・。正直意外な対応でしたね?」
「そうか?あいつを邪険にすると思ってたのか?」
「はい」
「俺の中でもう別人と認識できているからだろうな、自分の妻だったユリカとさ。それがいいことかどうかは分からないけどね。だからだよ」
「そうですか。事情は話されないのですか?」
「・・・・話したって信じてもらえないよ。それにそんなことを知る必要もないし。彼女には幸せになってもらいたいのさ、過去のことに関係なくね。」
「・・・・・・・それで、寂しくないのですか?」
「どうかな・・・・。そうなったらアリスに慰めてもらおうかな?」
「私は、軟弱な男は嫌いですよ?」
「そりゃ、そうだ。人の顔をグーで殴るくらいだしな」(笑)
「もうっ・・・・・いじわる」(笑)
俺達はクスクスと笑い合った。
ひとしきり笑った後、
「さてもう寝るか」
「そうですね」
「・・・・・・アリスはどこで寝るんだ?」
「どこってここですけど?」
「ここってベッド一つしかないぞ?」
「そうですね」
も、もしかして一緒なのか?
俺はドキドキしてきた。
「何を考えてるか想像つきますが・・・・・、ご心配なく。寝る時はちゃんと姿を消しますので」
「そ、そうか。・・・・・・・ちょっと期待したんだが」
「何か言いました?」
「い、いや別に」
「ま、いいでしょう。それではおやすみなさい」
そう言うとアリスの姿が見えなくなる。
おおっ、本当に消えたよ。
目の前で見て驚いた。
しかし、疲れていた俺は構わずベッドに入る。
風呂はいいや、明日にしよう。
今日はもう疲れた・・・・。
「おやすみ・・・・・」
そして、あっという間に俺の意識は無くなっていった。
続く
後書き
どうもぽてとです。今回は、ナデシコメンバーに対して自己紹介と言ったところでしょうか?
テレビの1と2話を繋ぐ話でした。
前話はキャラの性格変わりすぎましたね(汗)
心情描写が足りなくて、不自然な感じだったことを深く反省しました。
それにしても、やっぱりこういうアキト君は書いてて楽しいですね。
お金に執着し、女の子を手玉に取る。
まさに某大悪司(伏せ字になってない)ってな感じのアキト君です(爆)
でも、すぐに嫌な奴になってしまうので、その軌道修正が大変です。
乗艦して3日で全クルーに嫌われてしまうところでした(笑)
実は、その路線もいいかなと思ってたのですが、そうするとナデシコにおいての生活がつまらなくなってしまうという事態になってしまったので、急遽取りやめとなったんです。
後、プロスさんとの絡みが多いのは彼が強敵(とも)だからです。
今のアキト君とためを張れるのは彼ぐらいなもので。といってもプロスさんの方が強いんですけどね。
そして、今話のヒロインとなったユリカさんですが、最近私の中でユリカさんの株価が急騰してるんです。
おかしいなぁ。今までルリ×アキな人だったんですけどね、私は。
ユリカさんですが、彼女も人間ですから当然悩んだりもします。
テレビでいえば、火星の人を助けられなかった時と、13話でアキト君がボソンジャンプした時と、白鳥さんが死んで和平が壊れた時ですか。
立ち直りが異様に早いので、あまりクローズアップされませんでしたが、思わず可愛いと思ってしまったシーンばかりでした。
今回はそんなシーンを思い浮かべながら書いてみました。
少しでもユリカさんの可愛さが伝わってくれれば嬉しいですね。
次は、第6話。テレビでの2話に入ります。
彼が朝起きて、食堂に挨拶に行くところから始まります。
ホウメイガールズか・・・。サユリちゃんしか分からないんですよね(汗)
メンバーの基本設定を知ってる方がいたら教えて下さい。お願いします。
食堂をメインの舞台にしようかなと思ってますので(アキト君の本業はあくまでコックです)
では、またお会いしましょう。
代理人の感想
おおっ、いつの間にこんな芸を。
やはりエリナさん相手に積んだ経験が物を言ってるんでしょうか(爆)。
それはともかく、自分に正直なアキトはやはり読んでいても楽しいですね。
清清しいというか心洗われるというか(爆)。
>前話はキャラの性格変わりすぎましたね(汗)
今回もキャラが変わり過ぎと言えば変わり過ぎのよーな(笑)。
>設定
わかりやすいのでぱっと思いつくのは138.空明美さんの「五花ファイル」くらいでしょうか?
ちなみに空明美さんによれば公式設定自体がないとか(爆)。