たくらみ
「ちょっとそこ行くだんな、いい話があるんですがいかがっすか。」
「ヤマサキ、おまえなにやってるんだ?」
北斗が怪しい声に思わず振り返ると、なぜか寄席の羽織をいなせに着こなしたヤマサキ博士が物陰に隠れておいでおいでをしている。
ふつう戦艦のなかでこんなのがいれば問答無用で外に放り出されるだろう。だが木星でも指折りの頭脳の博士を無闇に外(現在は地球に向かう途中であり、外というと真空の宇宙なのだが)に放り出すわけに行かず、眉を寄せるだけで我慢した。
(考えてみると北斗の主治医である彼が北斗の傍を離れるわけにもいかないのだろうが)
「今度はなんだ。寄席のネタでもできたか?それなら親父に聞かせてやれ。おれは興味がないぞ。」
「いやあ、寄席のネタではないのですが、先日あなたのお父上に披露しましたら、ばっちり賛同していただいたネタですけどいかがですか。」
「あの親父がか?」
軽くあしらって自室に戻ろうとしていたが、妙に自信満々なのが北斗の気に触った。
以前、ヤマサキが本当に寄席のネタを披露するためだけに任務遂行中の北辰を呼び出したところ、見事に完膚なきまでに叩きのめされたのはそう昔のことではない。
「一応、話だけ聞こう。」
「じゃ、ちょっとわたしの研究室について来てください。おいしいせんべいと、玉露をお出ししますよ。」
「おい、本当にあの親父が賛同するような話なんだろうな?」
「もちろんですよ。なんせあのテンカワアキト暗殺計画なんですから。それともさきにわたしが舞歌殿にこのネタを打ち明けてもいいんですか?」
にやりと笑うヤマサキ。しかし次の瞬間には真剣な顔になった。
「彼女はあなたを心底心配している。先に言っときますが、この計画に欠かせないのはあなたなんですよ。
そんなこと彼女が知って御覧なさい。いくら木星の正義のためでも、あなたを危険にあわせるくらいならどんな話でも、絶対に彼女は反対して、
その話をなかったことにしてしまうでしょう。それでもよろしいんで?」
その言葉に北斗は反論できなかった。
「黙ってらっしゃるのは話をきいていただけると考えてよろしいですかな?」
「ただし、話は聞くだけだ。実行するとはいっていないからな。」
「もちろんですとも。ささ、優華部隊のかたが見える前にこちらにどうぞ。」
漠然とした不安を抱えながらヤマサキのあとをついて行くことにした。
「あれ、北ちゃん?」
コンピューターのモニターに自室と反対の方向に歩いていく北斗が映った気がしていぶかしむ零夜。
(気のせいかな?)
急にキーをたたくのを止めた零夜に声をかける舞歌。
「どうかしたの?零夜。」
「いえ。なんでもありません、舞歌様。」
「そう?これからピースランドで行われる和平会談を成功させなければいけないわ。気を引き締めてちょうだいね。
それからこのことは北斗には秘密よ。知れば必ずテンカワアキトに対決を挑もうとするわ。
そうなったら和平どころではなくなるわ。」
「はい。わかっています。」
「じゃ、おやすみなさい。」
「はい。」
零夜は部屋をでていく舞歌の後ろ姿をみつめていたが、やがて自分もコンピューター室をあとにした。
約束どおり北斗の目の前にはせんべいのはいった菓子盆と玉露がでてきた。
「さて。じつはですな。ナデシコのオペレーター、ホシノルリがピースランドのお姫様であることがわかりまして。
ナデシコはピースランドにむかっているんですよ。」
「この船もそうなんだろう?」
「ええ。ただし、あくまで地球であって、ピースランドには向かいません。」
その言葉に思わず机をたたく北斗。ゆれる湯飲み。
「なぜだ。この船の目的はナデシコだろう?行き先がわかっているなら先回りをすればいいだろう?」
「先回りをしてどうします?」
「もちろん、テンカワをたたきのめす。」
そこで、ふーやれやれとヤマサキは息をついた。
「なんでおまえがしってて、俺が知らされていないんだ。」
北斗の癇癪をヤマサキは片手をあげて制した。
「いいですか。ようやく見つかったプリンセスですよ。彼女はいまや地球一の戦艦ナデシコのオペレーターだ。
正義のために働くお姫様、その彼女を迎えるのにパーティーくらい考えるでしょう。
その際、地球と木連の和平のための会談がおこなわれるらしいのですよ。そのときあなたが先回りしてテンカワと対決してごらんなさい。
会談どころではなくなります。
舞歌殿は優しいかたですよ。戦争を終結させるためにこの会談を成功させようとお考えなのでしょう。
そのためにはあなたにこんなことを話すわけがないですよ。」
一息に説明されて北斗は呆然とした。たしかに幼いころはお転婆だった舞歌だが、兄の死後、次第に争いをさけるようになった。
和平か戦争かときかれたら和平と答えるだろう。それに零夜がこのことを黙っていたのも気になる。
北斗の母の死後、北斗がどんなにささくれた態度にでても嫌がらずにそばにいてくれた彼女が、これだけ重要なことを黙っていたのだ。
北斗の中で小さな不安はどんどん大きくなっていく。
「それで、かんじんの暗殺計画とはなんだ。」
「おや。お茶が冷めちゃいましたね。新しく入れなおしましょう。」
「話をそらすな。」
立ち上がりかけたヤマサキの胸倉を掴んで北斗は叫んだ。
「おや。話を聞くだけだといったじゃないですか?」
「うるさい。さっさと話せ。なんでもやってやる。」
内心ほくそえんだヤマサキだが顔には出さなかった。
「じつは会談のために地球の軍人さんやら政治家やらが集まるのですよ。もちろんテンカワアキトもね。
その場に爆弾でもおとせばいくら英雄といわれるテンカワアキトでもいちころですよ。」
「そんな手は嫌だぞ。第一、この計画の要は俺だと言ったのはおまえだろ。」
落ち着いてきたのか北斗はヤマサキから手を離した。
「もちろんですよ。わたしとしては誰が死のうと、爆弾だろうが、毒殺だろうが、なんだってかまわないのですがね。
幽閉からようやく外に出れたあなたが、宿敵ともあえずに戦艦におしこまれているのが、かわいそうで考えたのですがね?
さすがに重要人物ばかりのパーティーですから警備も厳重です。
だからといって強行突破にでればいくらなんでも彼に会う前に時間がかかり、結局、逃げられる可能性があります。
まあ、彼が逃げなくても、まわりが止めるでしょうしね?ですから、あなたにはパーティー客の一人として潜入してもらいます。」
「そう簡単に入れるのか?」
「ええ、あなたのお父上がちょっと情報操作して手に入れた招待状があるので大丈夫です。」
「よし、じゃあそれくれ。」
「ただし、女装してください。」
そのひとことに北斗は固まった。
「は?」
「じつは女性客の招待状しか手に入らなかったんですよ。
だからといってあのテンカワアキトを暗殺できるような女性はそうそういません。
男性客の招待状があれば北辰殿が行くのが筋でしょうが、まさか彼に女装させるわけにいかないでしょうーが。」
一瞬、父親が女装をしてテンカワアキトとダンスをする姿を想像して北斗は言った。
「それだけはやめてくれ。」
「まあ、ようは枝織ちゃんにやってもらいたいんですよ。北斗君いやでしょう、女装。」
「あたりまえだ。しかもテンカワとダンスなんかしたくない。」
「今回は枝織ちゃんにゆずってください。殺気のない彼女のほうが彼に近づきやすいでしょうし。じゃ、こっちきてください。準備しましょう。」
「いやあ、先生、よく北斗君が納得しましたね。」
ヤマサキの助手であるタカハシがせんべいをつまみながらヤマサキに言った。
「まあねえ。付き合いが長いし、彼を大切に思えばこその計画だからね。」
上機嫌である。そんな彼の机の上には枝織ちゃんのドレス写真がのっている。
「こうでもしないと彼、ドレスきてくれないだろう?」
「でもかわいそうですね、宿敵を自分の手で打てなくて。」
「なに、ちょとした仕掛けをしてね。もし枝織ちゃんが12時までに暗殺できなければ、自然に人格が北斗君に戻るようにしたのさ。」
「へー、やさしいですね。ところでそのドレス写真、どうするんですか?」
「ああ、北辰にあげようとおもってね。枝織ちゃんのドレスは彼の手製だよ。」
ごぶー。玉露をふきだすタカハシ。
「きたないなあ、タカハシ君。」
「うそですよね?うそだといってください。」
「いいじゃないか。彼は料理も上手らしいし。父親一人で育てたかわいい娘だ。そのくらいしてくれてちょうどいいだろ?」
「枝織ちゃんにはいいましたか?」
「うん。おおよろこび。お父さん子だし。」
沈黙がおとずれた。
「あのー、北斗君には?」
最大の勇気でタカハシが聞くと彼の上司はにんまりわらってこういった。
「こんな楽しいこと、いうにきまってるだろう。いやあ、暴れた、暴れた。これで彼の弱みをまたひとつにぎることができたよー。」
うれしそうに笑う上司にタカハシは思った。
(この人だけは敵に回したくない。)
おあとがよろしいようで。
管理人の感想
ぽちさんからの初投稿です!!
う〜ん、見事にBenの考えていた事を読まれてるな〜
いや、確かにヤマサキが手引きをしたんですけどね。
・・・北辰にパーティドレスを作らせるとは、予想外でした、はい(笑)
でも、想像したら笑えるな、ドレスを縫う北辰・・・しかも夜なべ(爆)
くっ、くはははははははははは!!
だ、駄目だ腸がよじれる〜〜〜〜〜!!
暫し、時間が経過・・・
はぁ、はぁ・・・強烈な一撃だったぜ(汗)
それでは、ぽちさん投稿有難うございました!!
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