ラーメン屋奮戦記
ぽち作
「ちょっと、サイトウ先輩、なんで銃なんてもっているのですか?って、いうかおれは死にたくないですよー。
だー、こんなことなら結婚してかわいい奥さんもらっとけばよかったー。うえああああー」
変な命乞いをする後輩のタカハシにおれは銃弾をあびせた。
1発、
2発、タカハシは逃げられずにひざをつく。
3発、
4発、タカハシの体がバウンドする。
5発、
6発。
ぴくぴくしていたが、やがて静かになる。
全ての弾丸を打ち込んでいた。
「ふん。こんな若造に負けてたまるか。」
おれは銃の弾を補充しながら、普段は入ることも許されないフロアーに足を踏み入れた。
≪ここからは、レベル5以上の所員以外は立ち入り禁止区域です。≫
機械合成の冷たい声が警告をうながす。
おれは所長からうばった血に汚れたレベル5のカードを扉の横に設置されたスリットに通す。
ぴ。ぷしゅー。
そして、扉は開かれた。
「こちらラーメン屋、本店、応答願います。」
さきほど、銃弾に倒れたはずの青年がネクタイピンに内蔵した小型マイクに倒れ伏したまま呼びかけた。
『こちら本店。どうした、ラーメン屋。』
指揮車両のオペレーターがすかさず応答する。その声は耳にいれた小型受信機から明瞭に聞こえる。
「案の定、客(サイトウ)が退避の遅れた店長(研究所所長)を射殺した。このあと、高飛びする恐れがある。」
『任務を遂行せよ。』
「・・・了解。」
はー。最悪だ。
おれは血まみれの体をおこした。せっかくの白衣が銃弾で穴があき、血のりで赤く染まっている。
その胸にはタカハシとかかれたネームカードがついている。
いくら、防弾チョッキをつけて、相手の銃に細工をしてあったとしても、弾丸の衝撃で呼吸がしにくい。
げほげほとせきがでる。少しでもずれていれば、悪ければ死んでいる。
はあー。因果な商売だなあ。
潜入捜査なんて、警察にまかせればいいのに。
おそらく、サイトウはこの研究所の最高機密を奪って、木星に逃げるつもりだろうな。
「真面目なやつほど、切れるとこわいなあ。」
ぶつぶついいながら、汚れた白衣と血のりの入った袋を処理した。
所員のほとんどは軍の査察という名目で軍の施設に保護されている。しかし、少数の人間も残っており、
彼らに不信に思われないためにも新しい白衣に着替える。
そして。
おれは遺伝子治療室にむかった。
こっ、こっ、こっ。
自分の足音がやけに大きく聞こえる。
ようやく、入ることができた。
サイトウは感無量の様子で部屋の中を歩きまわる。
遺伝子治療室のなかは巨大な試験管がぎっしりと並んでいる。
その上には無数の管が伸びていて、下から柔らかな光があたっている。
中は羊水でみたされ、実験体の子供達が浮いている。
ただし、実験の失敗で全員亡くなっているのだが。
そのなかでも最深部につくと、幾重にもガードのついた扉にたどりついた。
そして、所長のカードを通し、事前にハッキングで入手していたパスワードを打ち込んだ。
ぶしゅー。がこん、がこんがこん。
重厚な金属の扉が開いていく様子は地獄の門をほうふつとさせた。
そして・・・・。
最後の扉が開くと、奥にはピンク色の髪をした少女が眠る巨大な試験管が収納されていた。
試験管のプレートにはラピスラズリと書いてある。
少女は身じろぎもせず眠り続けており、試験管の下から当てられた柔らかな光がまるで彼女を地獄に舞い降りた
天使のように闇の中から浮き上がらせている。
そう、彼女は生きていた。唯一の成功体である彼女だけは。
「は、はははははは。やっと手に入る。最高傑作の兵器が。くくくく・・・」
何十年もこのネルガルの研究所にいて、見ることのできなかった機密。
自分より若い奴らが出世をし、この部屋の少女に出会えたというのに。
自分は殺人を犯さなければ、彼女に会うことはできなかったろう。
そう、あの男が教えてくれなければ、自分はこのままネルガルに飼い殺しになるところだった。
サイトウは常軌を逸したまなざしで、仮死状態にされて眠りつづける少女の蘇生作業をはじめた。
この部屋は名前のとおり、遺伝子治療を行う部屋であるが、同時に遺伝子操作を行う部屋でもある。
だが、受精卵の状態から遺伝子を操作することは道徳的に禁止されている。
しかし、ネルガルはもう何十年もこの研究を続けてきた。
すべては古代火星人の残したオーバーテクノロジーのためである。
火星で、発見された古代火星人の遺跡をネルガルは公表せずに秘匿し、エステバリスやIFS、ボソンジャンプなどの知識を手に入れた。しかし、IFSのナノマシーンだけでもその手に余るものだった。
おまけに最大の秘密である、ボソンジャンプの演算ユニットの解析は難航していた。
これは通常の接触ではなく、ナノマシーンを注入された人間でなければ反応せず、ダイレクトにコンピューターをオペレートできる人間が必要だったからだ。
そこで、受精卵の段階から遺伝子操作を行い、よりIFSに適した人間をつくり、コンピューターの操作にあったナノマシーンを開発した。
それにあわせて、演算ユニットの複製である、スーパーコンピューターオモイカネを開発したのだ。
(もちろん、全てを完璧に複製できたわけではなく、大量の情報を瞬時に解析できる回路部分だけなのだが、それでも現代の科学からは作りえないテクノロジーだった。)
つまり、この少女を手に入れれば、火星の演算ユニットの操作も可能かもしれないのだ。
たとえ、できなくても、これだけオペレートに適した個体は作れないだろう。
自分はいままで愚直に研究してきたのだ。見返りはこれからいただくのだ。
ネルガルからも、クリムゾンからも、そして自分をこんな凶行に追い詰めたあの男からも。
サイトウは少女の体をつつむ羊水を試験管から排出させ、少女を抱き起こした。
「先輩、もう気は済みましたか?」
「なっ?」
おれは背後からサイトウを殴り気絶させた。
うーむ。自分が殺したはずの人間が生きているとこんな表情を浮かべるしかないか。
おびえきった顔で気絶したサイトウを手際よく縛る。ついでに所長のカードも奪い取る。
少女はいまだぐったりしている。
「こちら、ラーメン屋。客を制圧し、人形に接触。」
おれはネクタイピンに呼びかけたが、応答が返ってこない。
ノイズだけがきこえた。
「・・・指揮車両は全滅かな?」
ぼそっとつぶやくと、返事がきた。
「ふ、減らず口をよくたたける。」
さっきまで気配がなかった背後に編み笠、黒マントの男が自然体で立っていた。
「さあ、人形を渡してもらおう。」
「あんたがサイトウを唆したのか?」
「ふん。自分の研究成果がすべて所長に奪われたとしって、こんなことを起こすとはな。
全ては弱すぎるその男の責任だ。」
言って、じわりと間合いをつめる。
やばいな。
おれは男の殺気にあてられて、いやな汗をかいた。
おれ一人だけなら、脱出できるが、少女を置いていくわけにも行かない。
サイトウはこのまま見捨てるしかないが。
「あんた、どこの所属だよ?」
おれはあとずさりながら聞いた。
背中が少女の入っていた試験管の扉にあたる。
蘇生は成功したのか、少女がおれの腕の中で小さくうめいた。
「汝が知る必要はない。さあ、人形を渡せ。」
ざざあー。
男が短く答えると、男が7人に分裂した。いや、男の背後に隠れていた同じ格好の男達が左右に展開したのだ。
この男の部下の一人、一人の戦力はたいしたことはなさそうだが、1対7では分が悪すぎる。
逃げるしかないが、退路はすべてシャッターでふさがれている。
まずったな。指揮車両が無事なら、外からの遠隔操作で閉じられたシャッターを開けてもらって逃げるのだが。
「ふ、おかしな男よ。よくぞ、冷静でいられる。」
冷静じゃなくて、あきらめているだけだけどなあー。
命の危機の割に、のんきなことを考える。
投降しても殺されるだろうしなあ。うう、神様助けて。
無宗教なくせに神頼みをした。
そのとき、神様に願いが届いたのか、おれが知らないはずの脱出用カプセルの操作方法が勝手に頭に流れ込んできた。
エステバリスのコンピューターから周囲のデータが流れ込むときの感覚に似ている。
ふと見ると、少女の瞳が金色に輝いていた。
「この子は助かるとして。おれはどうなるのかな?」
なるべく冷静に質問をぶつけてみる。
「ふ、死ぬだけだ。」
その答えとばかりに男達が小刀を取り出し、唯一残されていた部屋の出口をふさぐようにかまえる。
試験管が林立するなかで、銃を撃っても試験管を盾代わりにされるだけだろう。
そうなれば、あいては数をたよりに襲い掛かってくるはずだ。
おれは左手に少女を抱えると、彼女が閉じ込められていた試験管のなかに入った。
さっき流れてきたデータのとおりに。
まさか、そんな行動に出るとは思わなかったらしく、男達の呼吸がわずかにみだれる。
おれは内側から扉を閉めて、サイトウから取り戻したカードでカギをかける。
次に、内側に隠すように設置されたコンソールに、必要なパスワードを入力、同時に研究所に仕掛けた爆弾のスイッチを押した。
試験管のまわりにもう一枚の壁が下からせりあがって外から隔離する。
どこーん。
周囲からものすごい音がひびき、緊急脱出用のカプセルが地震のように揺らされる。
爆弾が爆発したせいだろう。
≪緊急事態発生。所員はシェルターに脱出してください。≫
冷たいアナウンスが流れ、目の前にウインドウが浮かぶ。
≪当施設および全てのデータは消去されます。≫
どうやら、俺が仕掛けた爆弾の爆発のせいで、研究所の自爆システムが発動したようだ。
すると、緊急脱出用の天井のルーフが開き、カプセルごとそのまま上に押し出される。
おれは少女を衝撃からかばうためにきつく抱きしめる。
永遠続くかと思われるほどの上から押さえつけられるような重力。
そして・・・。
どごーん。
再び衝撃が走り、シェイカーのなかにいる気分になる。
しばらくして、静かになったところで、手動でカプセルの扉を開ける。
外に出てみると、あたりは闇に包まれ、遠くに燃え盛る研究所がみえた。
「いってー。だいじょうぶかい?」
おれは頭をさすりつつ、腕の中の少女に尋ねた。
こく。
小さくうなずく。
ピンクの髪がやわらかく体を包み、白い肌が月光にてらされ、青く光ってさえ見える。
おれは白衣で少女の体をつつみ、抱き上げた。
はだしの少女に石だらけの空き地を歩かせるわけにいかないからだ。
指揮車両はカモフラージュされて(ちなみにトラック型のラーメン屋台にカモフラージュされていた)、外からおれにデータを送っていたが、あいつらに制圧されたと考えていい。となると、地道に歩くか、移動手段を手に入れるしかない。まあ、こんな美少女と夜の散歩というのも風情があるかも。
おれは物珍しそうに辺りを見回す少女に視線を合わせる。
「自己紹介がまだだったな。おれは連合宇宙軍諜報部第3監視班のテンカワアキト大尉だ。
きみを安全なところに運ぶのが仕事だ。きみのことを、なんと呼べばいいかな?」
なるべくやさしく尋ねる。
少女は小さく答えた。
「あなたの好きなように呼んで。名前はないもの」
「じゃあ、ラピスでいいかい?」
少女に注入されたナノマシーンのコードネームのラピスラズリから名づけてみた。
われながら安直だが、これだけの美少女にあうような名前を思いつかなかったのだ。
「わたしの名前?」
「そう、君だけの名前。いやかい?」
「ううん。ありがとう。」
そういって微笑んだ少女の顔は例えようもなく、かわいらしかった。
「さっき、脱出口を教えてくれたのはラピスだね?」
こくん。
小さくうなずく。
「あなたがIFSをつけていて、わたしに接触した状態だったから、データを直に送信できたの。」
ややおびえたように答える。
まるでいたずらをみつかって、飼い主に叩かれるのをおびえる子犬のような表情。
勝手にリンクしたから怒られると思ったのだろう。
だから、少女を安心させるためにわざと明るい声でおれは言った。
「ありがとう、ラピス。君のおかげで助かったよ。」
一拍の沈黙のあと・・・。
「うん。」
気持ちが伝わったのか、ラピスも明るく返事をした。
やけに月の光を暖かくかんじた夜だった。
あとがき
もし、テンカワアキトが両親の死後、両親が殺されなければならなかった理由を知るために、軍人になっていた
としたら、どんな感じかなと思って書いてみました。
テレビ版のアキトと同じく、争うのは苦手なので1度もこのSSでは銃を撃たずに、逃げているだけです。
ネルガルがいくら大企業でも、軍に秘密の1つくらいばれているのではないかと思って、ラピスを登場させてみました。
それではまた、さようなら。
管理人の感想
ぽちさんからの投稿第二弾です!!
う〜ん、一転してシリアスだな〜
まあ、一作目もシリアスと言えばシリアスだったけど・・・
ヤマサキが軽かったからな〜
しかし、ここでも裏切り者かサイトウよ(苦笑)
最早お前の裏切り者の烙印は消えないな(爆)
まあ、出番があるだけ良かったじゃん。
二度と出して貰えないキャラもいるんだし(笑)
でも、ラピス・・・アキトには無条件で懐くのね(笑)
それでは、ぽちさん投稿有難うございました!!
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