ラーメン屋奮戦記(乙女の戦い)

 

 

 

 

 

 

「こちら、『ラーメン屋』です。正体はすでにネルガルの番頭にばれていますが、現在も乗艦しています。」

 

アキトは自室に隠し持っていた通信機で、軍と連絡を取っていた。

 

『そのままそこに残れ。お前の任務は監視だ。なるべく派手な行動は慎めよ?』

 

「了解。」

 

ぴ。

 

はふう。

どうしろって言うんだ。上は。

 

「こんにちは〜。ナデシコ食堂です〜。」

 

のんきそうなウインドウがブリッジに展開される。

 

「あ、テンカワさん。どうぞ、入ってください。」

 

ユリカが許可する前にルリは扉を開けた。

 

「いやあ、おまたせしました。ご注文の品です。」

 

にこやかにアキトは各人にトレーに乗せて食事を運んだ。

 

「んじゃ、またよろしく。」

 

ぺこり。

 

そのまま出て行こうとしたのをユリカは呼び止めた。

 

「う〜ん。あの〜、どこかでお会いしたことはありませんか?」

 

「は?」

 

「わたしは艦長のミスマルユリカです。あなたは?」

 

「はあ、ご丁寧にどうも。テンカワアキト。コックっす。」

 

「アキト。アキト、アキト・・・・。」

 

ぶつぶつ言い出したユリカにアキトは戸惑った。

 

「テンカワさん。艦長とお知りあいなんですか?」

 

珍しく話し掛けてきたルリにアキトは首をかしげた。

 

「さあ?」

 

本当は、ミスマル提督の娘であり、今回のことでコウイチロウが立場を悪くしていることを知っていた。

そして、彼女が幼馴染であることも。だが、監視役としてあまり私情は挟みたくなかった。

 

「あああ!!!!テンカワアキト!アキトでしょう!ひさしぶり〜。」

 

「え?ああ、お隣さんのユリカか。」

 

思い出したらしいユリカにアキトは苦笑して答えた。

 

「もう。乗っているなら教えてくれても良かったのに。」

 

「いや、俺もいま気がついたから。」

 

へらへらと答えた。

 

「・・・へえ。」

 

ずささささ。

 

冷ややかに相槌を打ったルリに、左右にいたミナトとメグミは危険を感じ、椅子ごと脇に退いた。

 

「もてるんですね。」

 

ごくん。

 

アキトはなぜか敵地にいる感覚を味わった。

 

『こら〜!テンカワ!さっさと厨房に戻りな。』

 

「あ、はい。すみません、ホウメイさん。じゃ、これで。」

 

コミュニケでホウメイに返事をすると、わたわたとブリッジを出ようとした。

 

ぴぴ!

 

オモイカネが警告のウインドウを表示した。

 

「前方に戦艦です。これは連合軍所属の『サギリ』です。通信開きます。」

 

ぴ。

 

『アキトさ〜ま〜!カグヤがお迎えにあがりました。危険な戦艦からは降りてください。』

 

らぶらぶぱわあ大暴走中のややきつめの美女が通信に出た。

男性クルーはでれ〜としている。唯一青くなったアキトを抜かして。

 

「な、なんでカグヤちゃんが軍人やっているの?」

 

軍人相手にいきなり顔見知りのように話し掛けるアキトに他のクルーは注目した。

 

『あなたを守るためです〜。ミスマルユリカの毒牙にかかる前にカグヤがお助けしますわ。』

 

どう見ても恋する女性の目である。

 

「あのね、カグヤちゃん。俺は仕事で乗っているんだけど?」

 

『わかっていますわ、アキト様。でも耐え忍んで降りてください。』

 

「だからあ・・・・。」

 

アキトは頭を抱えた。

 

救出作戦の後、なぜか彼に惚れたらしいカグヤにつきまとわれていた。

例えば宿舎に武装ヘリで乗り付けて朝食を運んできたり、彼が護衛するはずだった人物を誘拐したり

と様々な事件があった。正直言って、ようやく彼女とは会うことはないだろうと考えていたのだ。

まさか軍人になっているとは。アキトの苦悩を知らず、ほがらかにカグヤは微笑んでいる。

 

「え?カグヤちゃん?中学と高校がユリカと一緒だったあのカグヤちゃんなの?

 なつかしい!でもユリカは毒牙なんて持ってないぞう!ぷんぷん。」

 

いきなり割り込んだユリカの発言にますますクルー達は冷たい目でアキトを見た。

 

「二股をかけていたんですね?」

 

「違うよ。ルリちゃん。」

 

アキトはさめざめと泣いた。

その一方で、ユリカとカグヤはけんかを続けていた。

 

『何をおっしゃるの!あなたは昔からまわりの男子をこき使っていたでしょう!』

 

「こき使ってないもん!」

 

「あのさ、二人とも。もう少し冷静になれない?」

 

「『アキト(様)は黙っていて!』」

 

「・・・はい。」

 

「弱すぎよ。アキト君。」

 

ミナトはため息をついた。

 

「まま、ここはひとつ交渉といきませんか?テンカワさんの『身柄』のことも含めて。」

 

プロスの言葉にユリカはガッツポーズをとったが、カグヤはすいっと目を細めた。

 

「ええ、そうですわね。ところで、あなたは?」

 

「ああ、申し遅れました。ネルガル重工のプロスぺクターと申します。しがない番頭ですよ。」

 

「・・・そう。」

 

意味深げに会話する二人にユリカは切れた。

 

「もう!カグヤちゃんこそ変な色目を使わないで!!プロスさんならエステ付きであげるから!!」

 

「!わたくしには必要ありません!!ナデシコ付きでもいただきませんわ!!」

 

「ええ、ええ。どうせ、わたしはしがない下っ端ですよ。」

 

「ミ、ミスター、お気を確かに!!」

 

いじいじと床にのの字を書き始めたプロスに大きな体を曲げてゴートが慰めた。

 

「じゃ、いってきます。アキトはわたしが守るわ!」

 

「あ、ああ。適当にがんばれよ。」

 

ユリカはプロスをつれて戦艦「サギリ」に交渉のために向かった。

 

「ねえ、アキト君。もし、カグヤさんが君の身柄と引き換えにナデシコが火星に向かうのを許可するなんて言ったらどうする?」

 

「あ、あはははは。そんなばかな。」

 

アキトは冷や汗をかきながら、ミナトの質問を笑ってごまかした。

 

「さて。ミスマルユリカ。悪いことは言わないわ。アキト様をこちらに渡して。」

 

「い〜や。ずえったいに駄目!」

 

はう。

 

小学生並みの会話にプロスはため息をついた。

 

「あの〜。ではナデシコが火星に向かうのはよろしいんですね?オニキリマル大佐。」

 

「駄目よ。軍のオブザーバーを海に捨てたでしょう?上の人間がかんかんよ?」

 

「どうして〜?ナデシコで反乱しようとしたんだよ?危なくて乗せていられないもん。」

 

「それでも軍との協定では軍人を乗せることになっていたでしょう?

 こちらに連絡なしにあんなことをされてはたまりませんわ。

 それに壊滅状態の軍を見捨てていったでしょう?これは軍との共闘を明示した協定に反するわ。」

 

「う〜。」

 

ユリカはうなった。

 

「あなたがこんなことをしたせいで、ミスマル提督も肩身が狭くなりましたしね。」

 

カグヤはひょいと肩をすくめた。

 

「え?」

 

「だってこのまま火星を目指せば地球の敵を娘に持つ父親として、軍での地位は危うくなるわ。

 それでもよろしいの?」

 

「う。」

 

「安っぽい正義感より、もっと親孝行できませんの?」

 

「うぐう。」

 

ユリカは返す言葉がなく客室のソファに座り込んだ。

 

「さっさとマスターキーを渡しなさい。アキト様もね。」

 

「嫌!マスターキーはどうでもいいけど、アキトは駄目!」

 

「あの〜、艦長。マスターキーを渡されると困るんですけど。」

 

「「・・・・・。」」

 

横から口を挟んだプロスを二人は無視した。

 

しくしく。

 

プロスはいじいじとコーヒーカップをいじくりだした。

 

「火星でみんながユリカの助けを待っていると思ったんだもん。

 だからナデシコの艦長を引き受けたんだもん。

 でも今はあの人がいるナデシコを軍に渡すわけにはいかないもん!」

 

「?・・・知らないのね?」

 

カグヤはそれを聞いてプロスをにらみつめた。

 

「?なあに?」

 

「なんでもないわ。でもね、それならなおさらアキト様をこちらに引き渡して欲しいの。」

 

「カグヤちゃん?」

 

「だって、彼は・・・。」

 

ぐらり。

 

「何事なの?」

 

きりっと顔を引き締めてカグヤはブリッジに連絡をとった。

 

『休眠中だったチューリップが活動を再開しました。

 おそらくナデシコと本艦のエネルギーに反応したようです!』

 

「回避して!弾幕はって!」

 

「ほえ〜!?」

 

「さ、艦長!ナデシコに帰りますよ。」

 

「あ、はい。」

 

プロスはユリカをつれてヘリを操縦してナデシコに戻った。

 

「ただいま戻りました。

 アキト!安心してね?ユリカはカグヤちゃんにあなたを渡すような真似をしないもん。」

 

「あ、はははは。ああ、そう。」

 

アキトは疲れたように答えた。

どうせなら軍に戻りたかった。

ユリカがいない間、ブリッジのクルー達にワイドショーのように質問攻めにあっていたのだ。

 

「艦長どうします?」

 

「逃げます!!」

 

「「「「は?」」」」

 

「カグヤちゃんはこれくらいではやられません!

 今のうちに火星を目指します!そうでしょう?プロスさん!!」

 

「え?・・・ああ、はい。」

 

やる気まんまんのユリカにプロスは引いた。

軍との関係をこれ以上こじらせないうちに火星に行きたいのは事実だ。

ちらり。

アキトのほうを見ると、やや厳しい顔で「サギリ」の様子を見ていた。

 

「・・・軍人と言っても人間ですよ?見捨てるんですか?」

 

冷ややかな声を出したアキトにブリッジのクルー達は視線を交わした。

 

「遠くの人間を助けるのも立派ですけど、一番近くにいる人間は見殺しですか?」

 

「・・・アキトさん。」

 

ルリはわずかに顔を曇らせた。

 

「そうですよ!助けてあげてもいいじゃないですか?」

 

「だって、メグちゃん、カグヤちゃんはアキトを・・・」

 

「そんなことに執着しないでください、第一、テンカワさんは艦長の私物ではありません。」

 

ルリがブリッジの下段から、上段のユリカに振り返らずに言った。

 

「「「「おお〜!?」」」」

 

「あの〜、ルリちゃん?」

 

ユリカは呆けた顔をした。

 

「救難信号も出ています。」

 

顔を赤くさせながらルリはそっぽを向いた。

 

「・・・今のうちに軍に貸しを作っといたほうが、そちらの会長は喜ぶと思いますが?」

 

いつのまにかプロスの隣にアキトが近寄ってきてささやいた。

ただし、視線は前を向いたままのため、会話をしているようには見えない。

 

「!しかし・・・。」

 

「遺跡ですか?」

 

ぐっ!

 

「あなたは・・・いえ、軍はどこまで知っているんです?」

 

プロスは視線をアキトに向けず、前を向いたままで尋ねた。

他のクルーはユリカと言い争っているため、二人の会話に気づかなかった。

 

「・・・さあね。」

 

投げやりにアキトは答えた。

 

「ミスター?」

 

ぼそぼそ話している二人にやっと気づいたゴートが近寄ってきた。

 

「ね、ゴートさんも人助けは大切だと思いませんか?」

 

にっこりと微笑んだアキトにゴートはやや困った顔をした。

 

「うう、もう!カグヤちゃんを助けます!フィールド全開!!」

 

「艦長!サギリがチューリップに飲み込まれました!」

 

「うえええ!!!?」

 

メグミの声にユリカは慌ててスクリーンを拡大した。

そこにはチューリップに飲み込まれるサギリが映っていた。

 

「!チューリップ内にエネルギー反応!サギリが自爆します!」

 

ちゅどお〜ん!!

 

木っ端微塵にチューリップははじけ飛んだが、サギリも跡形なく消し飛んでいた。

 

「・・・カグヤちゃん。安心して。アキトのお嫁さんにはこのミスマルユリカがなります。

 地獄の底から祝福してね?」

 

目薬をさして泣きまねをする。

 

ぴ!

 

『なにをばかなことをおっしゃっているの!!わたくしがアキト様と結婚するんです!』

 

「きゃあ!?カグヤちゃんの怨霊が!?」

 

でかでかと浮かんだウインドウにユリカは後ろにひいた。

 

『失礼な!脱出してプログラムしておいたサギリを自爆させただけです!!』

 

「カグヤちゃん!無事でよかった。」

 

『アキト様、心配してくださったんですね?』

 

「当たり前じゃないか。」

 

さわやかな笑顔にカグヤは真っ赤になった。

 

「うう〜。ユリカのほうも見てよう、アキト。」

 

「艦長。現在の状況も見てくださいね?」

 

ルリがぼそっと注意した。

辺りにチューリップはないが、この爆発でほかのチューリップが反応するかもしれない。

 

「ルリちゃんが怖いですよう、ミナトさん。」

 

「ふう、どうにもならないわよ、メグちゃん。とりあえず、軍人さんたちを回収しましょう。」

 

「そうですね・・・。」

 

二人はけんかに夢中のユリカを無視して、脱出していた軍の脱出艇を回収した。

 

 

 

 

あとがき

どうも、ぽちです。

うう、テレビ版は書くのが難しいです(涙)

わたしに文才がないだけかもしれないけど(笑)

 

 

 

 

 

 

管理人の感想

 

 

 

ぽちさんからの投稿第八弾です!!

プロスさん・・・哀れだな(苦笑)

最新式のナデシコを付録にしても、カグヤ嬢に断られるし(爆)

う〜ん、可哀相な立場ですね中間管理職。

それにしても、ここでカグヤ嬢が登場ですか。

・・・チューリップ撃破の手並みを見る限り、ユリカより有能なのでは?(苦笑)

でも、ナデシコに乗船してきましたね〜

今後も、アキト狙って陰謀を駆使するのでしょうか?(ニヤリ)

 

それにしても、ルリちゃんが怖ひ(汗)

 

それでは、ぽちさん投稿有難うございました!!

 

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