ラーメン屋奮戦記(恋の駆け引き)

by poti

 

わたしたちはカグヤさんたち、正規軍を乗せ、宇宙に飛び出ました。

それまでには勝手にバリア衛星を破壊したり、宇宙ステーションで補給を済ませようとしたら木星とかげさんたちに破壊されていたりと無茶しながら、なんとか火星の手前まできました。

途中何度か、軍からカグヤさんたち引き取りのための連絡があったんですが、彼女は頑として譲らず、部下を先に帰らせ、自分はナデシコの士官として居残ってます。

本人が言うには、

「ミスマル・ユリカの毒牙にアキト様がかからないように監視するんです!!」

だ、そうです。

一方、艦長は、

「もう、ユリカぷんぷ〜ん!カグヤちゃんに襲われる前に、わたしがアキトを幸せにしてあげるね♪」

そう言って、今日もテンカワさんと追いかけっこです。

 

「・・・飽きないんでしょうか?」

「なにが?」

わたしの独り言を聞いたミナトさんが怪訝そうにこちらを見ます。

「艦長とカグヤさんです。

同じ人を追いかけて、飽きないんでしょうか?」

わたしは両手をコンソールに置いたまま、視線だけを横に移します。

ハルカさんは自動航行に切り替え、マニキュアを塗りなおしていました。

「ん〜。痘痕(あばた)もえくぼって言うしね。」

「・・・そんなものですか?」

わたしはあくびをかみ殺し、能力の30%ほどを使用して、オモイカネのオペレートを行います。

「結局はどちらが勝っても、テンカワさんが不幸になるだけじゃないですか?」

いつのまにか真剣な顔でメグミさんが話しに参加します。

「じゃ、誰が勝ちなんですか?」

わたしの質問に、ミナトさんはメトロノームみたいに人差し指を揺らし、

「甘いわ、ルリルリ。恋愛の勝者なんて本人にもわからないんだから。」

なぜか妙な説得力があります。

ま、お仕事するしかないんですけどね。

 

 

わたしは本日のノルマを終え、ロッカー・ルームで座り込んでいました。

ここは訓練施設前に設けられた部屋で、いくつものロッカーが何個も置かれています。

普段使う人がいないんですが、福利厚生を気にする民間企業らしく、飲み物やジャンク・フードの自販機があります。

ナデシコのクルーは能力主義で集められたと言うだけあって、その専門的知識や技術はすごいですが、人格に問題があるひとばかりです。

いくらわたしでも、始終彼らと一緒では疲れてしまいます。

 

紙パックのオレンジジュースをずるずる飲んでいたら、

「る、ルリちゃん!ごめんね、かくまってよ?」

いきなりテンカワさんが入ってきました。

全速力で走ってきたのか、汗だくです。

「かくまう・・・ですか?」

「うん!ごめんね!」

そう言って、わたしの後ろのロッカーに入り、扉を閉めます。

それと同時に、

「アキト様をお見かけしませんでした?」

長い黒髪に艶やかな笑み、上品な口調で登場したのはカグヤさんでした。

「そっちのほうに行きましたよ?」

わたしはあらぬ方向を指差します。

「ありがとう。アキト様になにかあったら、このカグヤは生きてはいられません!」

小さくガッツポーズして走り去ります。

その1分後。

「ねえねえ、ルリちゃん!アキトを見なかった?」

頭にかぶったキャプテン・キャップを片手で抑えて艦長が走りこんできました。

こちらはまるで鬼ごっこをしている子供のような笑顔です。

ほんとにカグヤさんとタメなんでしょうか?

わたしは微かに苦笑し、

「いいえ?そっちに行きましたよ?」

さっきと同じように返事をしましたが、

「ふ〜ん。ちょっとごめんね?」

がこん!!

いきなりテンカワさんが隠れているロッカーの、一つ横の扉を開けました。

もちろんそこには誰も隠れていませんが、艦長の勘にわたしは冷や汗を一筋流します。

「う〜ん、おっかし〜な。アキトならこういう場所に隠れると思ったのに。」

・・・無敵ですか、艦長。

「ほんとごめん。じゃね、ルリちゃん。」

「はあ。」

わたしは生返事を返し、艦長の姿が完全に消えたのを確認してから、テンカワさんが入っているロッカーを開けてみました。

中にはテンカワさんが半べそで隠れていました。

 

「・・・もう大丈夫ですよ?」

「うん、ありがとう。」

にひゃ〜と、猫が笑ったような情けない笑顔で出てきます。

そんな姿を見ると、腹立たしくなってきます。

「もう少し、しゃんとしたほうがいいですよ、テンカワさん。」

「え?うん、そうだよねえ。」

「そうなんです。テンカワさんは大人なんだから、しっかりしなくちゃ駄目です。」

わたしは自分の倍は身長が高い彼にお説教します。

ぺこぺこ謝るテンカワさんは、心配されるのが嬉しいみたいに、にこにこしてます。

はあ、ほんとにわかっているんでしょうか?

わたしはロッカー前のベンチに再び座り、残っていたジュースを飲みます。

その横に許可してないのにテンカワさんが座ります。

なんだか・・・恥ずかしいですね。

テンカワさんは拾われた犬みたいにわたしの食事を見ています。

「・・・あんまりじろじろ見ないでください。」

「あ。ごめんね。」

頭をかきながら、エプロンのポケットからカードを取り出し、自販機のジュースを買います。

「ルリちゃんのそばって落ち着くんだよね。」

なにを言っているんでしょう?

わたしは彼の言葉を無視します。

このひとは謎です。行動パターンがわかりません。

「俺さ、地球に妹を残してきているから、ルリちゃん見ると思い出すんだよ。」

「妹・・ですか?」

「うん。血のつながりはないけどね。

俺が引き取ったんだ。今じゃどちらが保護者かわからないくらいにしっかり育ってね。」

「・・・へえ。」

だから妹を連想させるわたしにちょっかいを掛けてくるんでしょうか?

テンカワさんは言ってしまったあと、

「ごめんね、変なこと言って。」

自分で話してきたくせに、さっさと会話を打ち切り、立ち上がります。

・・・・もう、行っちゃうんですね。

くい。

「もう少し、ここにいませんか?」

わたしは空いた手で、彼の制服のすそを引っ張っていました。

テンカワさんはきょとんとしてわたしを見ます。

「あの・・・わたしも、テンカワさんのそばだと・・・安心、します。」

な・・・何を馬鹿なことを言っているんでしょう?

彼はぽかんとしています。

わたしもあまりの恥ずかしさに頬が火照るのがわかります。

「じゃ、そうするね。」

にっこり微笑んで座った相手に、わたしは負けた気分でした。

 


あとがき

お久しぶりなシリーズ再開です(苦笑)

まあ、色々あったんです。

前回までのSSをどこかになくしてしまい、記憶を頼りに書いていますから、おかしな部分が出てくると思いますが、笑って許してくれると嬉しいです(爆)

ではでは。

 

 

 

 

代理人の感想

 

ラーメン屋シリーズ、

カァァァムバック・ナウッ!

 

 

十ヶ月の沈黙を破り、かの「ラーメン屋」シリーズがここに復活!

代理人、実は結構このシリーズ好きだったりして(笑)。

なんせハードボイルドなアキトなんぞこのHPでは碌にお目にかかれませんからねぇ(しみじみ)。

まぁ、固ゆでだったアキト君も最近はギャグへの下り坂を

マッハ3で転がり落ちているようですが(爆)。