ラーメン屋奮戦記(ルリたんとウサたん)

by poti

 

わたしはブリッジでの勤務を終え、通路をとぼとぼ歩いていると、ゲキガンガーのコスプレをしたジュンさんが、腰につけたラジカセから、ゲキガンガーの曲を流しながら歩いてきました。

 

・・・とうとうユリカさんへの想いが、おかしなほうに向いてしまったんですね。

 

呆れながら、なるべくそちらを見ないようにしていましたが、

「ああ、ルリちゃん。怪しいひと、見かけなかった?」

ダンボール製の仮面の隙間から目を覗かせて聞いてきました。

はあ。向こうから話し掛けられたら、無視するわけにはいきませんね。

わたしは立ち止まり、

「・・・いいえ、見ていません。」

あなた以外は・・・。

心の中で付け足します。

「そう。じゃ、怪しい奴を見かけたら、すぐに教えてね?」

「はあ。」

「じゃ。」

そう言いながら歩き去ります。

 

・・・ジュンさん。いい病院をオモイカネと検索して教えてあげますね。

 

すたすたと食堂に向かうと、テンカワさんがひとりで明日の仕込みでしょうか、野菜を刻んでいました。

「今日はもう終わりですか?」

テンカワさんはキャベツの千切りを大きなボールに入れると、人懐こい顔で、

「ルリちゃん、夕飯まだなの?それならなにか俺が作るけど。」

にこにこと笑っています。

 

わたしは彼に向かい合うように、カウンター席に座ります。

他には客はいません。

 

「じゃ、オムライス、お願いします。」

「はいよ。」

そう言って、野菜のくずで汚れたまな板を、布きんで拭いてきれいにすると、必要な材料を次々と持ってきます。

「ルリちゃんも大変だよねえ。まだ小さいのにこんな時間までお仕事なんて。」

卵をボールに割って、生クリームと塩、白こしょうで味付けして混ぜます。

わたしはその手つきを見ながら、

「研究所では徹夜で実験をやらされるのはしょっちゅうでしたから、平気ですよ。」

一瞬テンカワさんの手が止まり、

「・・・そう。」

「ええ。」

無言で調理を続けます。

 

・・・え〜と。会話が続きません。それにテンカワさん、なにか不機嫌ですね。

 

なんとなく、居心地が悪くて、

「あの、さっき、ジュンさんがゲキガンガーのコスプレしていたんですけど、テンカワさん、何か知っていますか?」

「・・・ユリカにふられたとか?」

「そんなのは前からです。」

「きついよ、ルリちゃん。」

笑いながら熱したフライパンにバターと油を入れ、とき卵を流し込みます。

じゅわ。

いい匂いにわたしはごくりと唾を飲み込みます。

 

「『怪しい奴は見なかった?』なんて言うんですよ?」

「・・・ルリちゃん、もしかして今、艦内の警戒レベルCまで上がっているのかな?」

何気ない声で聞かれ、わたしは素直に、

「ええ。プロスさんからは訓練ですって言われていますが。」

 

なんなんでしょうね?

そう言おうとした瞬間、

 

がたん!!

わたしの背後で物音がしました。

 

アキトさんは卵が入ったフライパンをそちらにぶん投げます。

 

ああ。わたしのオムライスが。

あまりのことに宙を舞うそれを視線で追います。

 

ごち〜ん!!

派手な音を立て、それはテーブルの影に落ちました。

 

「ルリちゃん、プロスさんとゴートさんに『密航者』は捕まえたって、連絡してくれる?」

アキトさんはエプロン姿のまま、真剣な顔で言いました。

「え?」

彼が指差す方向には、卵を撒き散らしたフライパンと、頭に大きなタンコブをつけた、ゲキガンガーに出てくるキャラクターの格好をした人が、床にのびていました。

 

プロスさんはゲキガンガーのコスプレをした、その熱血そうな顔の青年を前に、遺伝子情報を調べると、

「おや、驚きですな。木星とかげの遺伝子は、多少いじられていますが、地球人と変わりありません。」

ちょっとその驚き方がうそ臭い気がするのはわたしだけでしょうか?

あの後、床にのびた青年をぐるぐる巻きに縛り、ミーティング室で尋問中です。

顔も声も亡くなったヤマダ・ジロウさんにそっくりですが、全くの別人でした。

でも、ゲキガンファンであることと、暑苦しい性格はうりふたつです。

結局、整備班とジュンさん、それにプロスさんとゴートさんたちで、みんなには内緒でこの木星とかげさんを探していたのが、他のクルーにもばれました。

 

・・・・ネルガルに都合でも悪かったのかな?内緒で探していたなんて。

 

わたしはわずかな疑問を抱きましたが、ネルガルに所属しているわたしが、そんなことを言えば、叩かれるのは目に見えています。

出る杭は叩かれますから、とりあえず、自分の身の安全のために黙っておきます。

 

プロスさんの『遺伝子が地球人と変わりない』発言に、

「失礼な!我々は卑怯な地球人とは違う!!」

木星とかげさんは拘束された椅子ごと体を浮かして反論しますが、どう見ても人間です。

謎の宇宙生命体『木星とかげ』なんていわれるより、同じ人間だと言うほうがしっくりきます。

「とりあえず、営倉にでも突っ込んでおきましょう。」

元気に艦長は言い、

「まあ、妥当でしょうね。」

今では影の薄いジュンさんに代わって、参謀兼副官をしているカグヤさんが長い髪をかきあげながら言いますが、ちょっと困った顔をしています。

「さ、お開きにしましょう。」

プロスさんの一言に、そこに集められていた主要クルーたちは部屋を出ました。

 

わたしはぼんやりと通路を歩いて自室に戻ろうとしましたが、

『ルリ。早くどこかの部屋に入って!』

慌てたようにオモイカネからのウインドウが宙に浮きます。

「どうしたの?もう密航者は捕まえたんでしょう?」

わたしはきょとんと尋ねます。

『早く!!』

「わたしのダイマジンに案内しろ!」

「きゃ!?」

 

いきなり背後から抱きすくめられました。

 

「大人しく言うことを聞けば、手荒なことはしない。」

わたしは背後から口を抑えられたまま、こくりとうなずきます。

この声は・・・さっきの木星とかげさんですね。

ゆっくりと後ろを振り返ると、ずんぐりした体形、もこもこした手、長い耳をつけた白いうさぎの着ぐるみがいました。

 

「・・・それ、変装ですか?」

「無論だ。」

 

 

 

わたしはうさぎさんを連れ、先ほどの戦闘で捕獲した、ゲキガンガーそっくりの機体が置かれた格納庫に向かいます。

そこにはゲキガンガーが五体に分解されていました。

 

「わ、わたしのダイマジンが〜。」

情けない声を出すうさぎさん。

 

うさぎさんを連れたわたしに、整備班のひとたちが近づいてきます。

「あっれ〜、ルリちゃん。どうしたんだ、こんなとこに?」

油で汚れたツナギを着て、にこやかに声をかけてきます。

「近づくな!」

 

じゃきん!

 

どこからともなく取り出した拳銃を構えるうさぎさん。

整備班はみな万歳のポーズで硬直します。

 

「どけ。この少女の命はないぞ?」

 

わたしは万歳したままうさぎさんと一緒にゲキガンガーの頭部に入り込みます。

 

ああ、頭部がコクピットなんですね。

 

周囲はゲキガンガーのシールやステッカーで飾られています。

うさぎさんは着ぐるみが邪魔なのか、すぽっと脱いで外に抜け殻を放り投げます。

 

遠くからは、

「あ〜!わたしのウサたん!!」

 

・・・メグミさんのだったんですね。あのうさぎ。そういえば『メグたんとウサたん』という幼児向け番組で共演したと着ぐるみを見せてくれたことがありました。

 

「ちょっと、るりるりを離しなさい!!」

「もう!ジュン君のばか〜!!」

「軍部には連絡済みよ!!諦めて人質を解放しなさい!」

上からミナトさん、艦長、カグヤさんがわたしのコミュニケを通してウインドウで表れます。

 

・・・ジュンさんがこのとかげさんを脱走させてしまったんですね。

あとでおしおきです!!

わたしは艦長のセリフから推理しました。

 

「く!緊急脱出用のエンジンがかかればいいが。」

ウインドウに驚きながらも、木星とかげさんは計器をいじくります。

頭部だけでも脱出できるようになっているんでしょうか?

わたしは隙を見て逃げ出そうとしましたが、右手をずっと握られていて振りほどけません。

 

ぴぴぴ。

計器に次々と明かりが灯り、

「よし!これで行ける!」

とかげさんは嬉しそうな声をあげ、わたしのほうを見ます。

「すまんが無事に脱出できるまで来てもらおう。」

 

・・・そう言うと思いました。

わたしはオモイカネにコミュニケから通信し、このゲキガンガーをどうにかできないかお願いしましたが、根本的な造りが地球とは違うらしく、ハッキングできません。

 

ここはセオリーどおり、大人しく誘拐されなければならないんでしょうか?

 


あとがき

ごめんな、るりるり。誘拐されるのはこれで二回目です。

 

 

 

代理人の感想

 

さすがにヤマダジロウ同一人物説は浮上してきませんでした。

誰か一人くらいは言うかとも思ったんですが(笑)。

 

そして、ガイもいなければハーリーもいないこの話の中で、

影は薄いわ、副長の仕事と立場は奪われるわ、挙句の果てに面倒と厄介事と不運は集中するわと

一人不幸を背負うのがジュン(笑)!

まぁ、「影が薄い」と言いつつ出番があるだけでも某所のジュンに比べればマシか(爆)。