ラーメン屋奮戦記(苦肉の策)

by poti

 

「・・・どういうことですか?」

 

俺は通信機の向こうからの命令を聞きなおした。

この部屋にいるのは俺だけだ。

先ほどから通話している相手からの言葉に、俺はきしむような声で再度話してくれるように問い直す。

相手は宇宙にいるこちらの顔が見えない地球にいる。

 

『もう一度言う。ホシノ・ルリには木連の人間と死んでもらう。

ネルガルに彼女がいる以上、ナデシコをこちら(宇宙軍)に明渡すことはない。

彼女が死ねば、ナデシコはその戦力のほとんどを使えなくなる。そうなれば、軍で徴収し、ラピス・ラズリを乗せ、本来の能力を引き出し、木連など叩き潰せる。

木星とかげが地球の末裔などと民間人がこれ以上詳しいことを知る必要はないのだ。』

 

・・・邪魔な存在ごと消し去る気か。

 

『いいな、『ラーメン屋』。くれぐれも変な気は起こすなよ?

オニキリマル大佐には、軍が応援に行くと伝えてある。士官に軍の暗部など教えんでくれよ?』

 

ぎゅううう。

俺はこぶしを握った。

 

 

こんにちは、ホシノ・ルリです。

わたしは今、絶体絶命のなかにいます。

わたしを拘束している木星とかげさんはなんとか脱出しようとしていますが、ナデシコがわたしを見捨てれば、このゲキガンガーの頭部ごと破壊されるでしょう。

でも、民間人の集まりであるクルーたちは、ただ遠回りに格納庫のわたしたちを監視しているだけです。

 

木星とかげさんはイライラしながら、閉鎖されたカタパルトとにらめっこです。

いくら脱出装置があっても、外に出られないように閉鎖されていてはどうにもなりません。

 

『この少女を死なせたくなければ、さっさとカタパルトを開けろ!!』

外部スピーカーで怒鳴りますが、それでは敵を逃がすことになってしまいます。

とかげさんの要求に、艦長は「考え直してください〜。」と、同じ返事を繰り返すだけです。

カグヤさんもいい案が思い浮かばないのか、しきりに人質(わたしのことです)の安全を図って欲しいと言うのみです。

恐らく軍に連絡したものの、こんな辺鄙な宇宙の果てでは援軍もすぐには来れないでしょう。

 

「ちっ!こうなったら!!」

 

このままではジリ貧だと考えたんでしょう、短気な声をあげると、木星とかげさんは計器の赤いスイッチをぽちっと押します。

ぐごごごごごごご!!

頭部は轟音をたて、いきなり動き出しました。

 

「いっけ〜!!」

 

それまで遠巻きに様子を見ていたクルーたちをクモの子を撒き散らすように追い払いながら、閉ざされたカタパルトへとゲキガンガーの頭部は迫ります。

このままでは激突死してしまいかねません。

 

『オモイカネ!開けて!!』

『了解!』

 

瞬時にわたしの考えを察知し、オモイカネの操作で開くカタパルト。

 

ごごごごごごご!!

 

加速しながら外へと飛び出そうとしましたが、

 

がたん!!

 

「「え?」」

 

コクピットの天井がぱかっと開き、

 

「ルリちゃん!無事か!?」

「テンカワさん!?」

 

どうやって潜り込んだのか、コック姿のテンカワさんが、中へと乱入してきました。

目の前には安全措置として設けられた残り一枚の隔壁を隔てて、酸素のない闇の空間、宇宙が広がるのみです。

このままでは剥き出し状態のまま、宇宙空間へと飛び出てしまいます。

 

「く!止まれ!!」

 

さすがに慌てたとかげさんは天井を閉めると、停止ボタンらしき白いボタンを押しましたが、

 

どこ〜ん!!

 

減速することなく、

「!!オモイカネ!!」

わたしの悲鳴に最後の隔壁が左右に開きます。

 

「きゃあああああああああああああ!!!!!」

 

木の葉のように漆黒の宇宙空間へと飛び出ました。

 

 

 

う。

 

わたしは静かになったコクピットで、ぶつけたらしい頭をなでながら起き上がろうとしましたが、

 

・・・い、痛いうえに気持ち悪いです。

 

外へと飛び出したときの衝撃でコクピットは激しく揺れ、最初はシート脇にいたわたしが、シートに正座するように座っていました。

シェイカーのように揺れたせいで、わたしの三半規管は狂い、嘔吐感に口を手で抑えます。

 

じゃきん。

見ればわたしの横には、体をすくめるようにして、あのとかげさんが銃口を向けていました。

わたしは片手で口を抑え、空いた手を上にあげます。

とかげさんはパイロットですから、この手の訓練はしているんでしょう。平然としています。

 

「・・・これからどうするんですか?」

 

どうやら追突は免れたようですが、計器を見れば、先ほどからその針の振りが小さくなり、轟音を立てていた小型エンジンの音も聞こえなくなってきています。

最悪、酸素が足りなくなる可能性すらあります。

整備班に解体されたせいで、操縦とエネルギー源の確保ができないようです。

 

「今ならナデシコに助けを求めることができます。どうしますか?」

 

わたしは冷静に説得を試みようとしましたが、

 

「味方の部隊が助けにきてくれる。」

携帯端末のようなものを見せてきます。

 

「・・・わたしばかりを気にしていていいんですか?テンカワさんがあなたを・・・。」

彼は最後まで言わせず、

「この男になにかできるはずもないと思うんだが?」

ひょいと肩をすくめて、シートの背後に視線を移します。

 

どういう意味でしょう?

わたしは銃口を向けられたまま、ゆっくりと背後を振り返りました。

 

そこには、ぐるぐる目になったテンカワさんが、マタタビを食べた猫みたいに、ぐてんと気絶していました。

 

 

 

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」」

 

 

 

 

 

 

「・・・・ばか。」

 


あとがき

・・・アキト、活躍してないな、最近。

 

 

 

 

代理人の感想

 

いや一見活躍してないように見えますが情けない振りを装って密かに活躍・・・してるのかな(笑)?

ま、来週もとい次回は活躍してくれるでしょう!(多分)