ラーメン屋奮戦記(孤立)
by poti
わたしとテンカワさんは木星とかげに捕まり、捕虜となりました。
ええ、そのはずです。
それなのに・・・。
「あの〜。捕虜にこんな待遇でいいんですか?」
呆れて言うわたしの前には、和食がフルコースで並んでいます。
おまけに今いるこの部屋はどう見てもお座敷です。
牢屋なんかじゃありません。
わたしを人質にとったとかげさん、シラトリ・ツクモさんは、白い学ランに着替え、わたしの前に正座して、
「年端もいかない少女に手荒なことをするわけにはいかない。
女子供は国の宝だ。たとえ地球人だとはいえ、例外ではない。」
「はあ、そうなんですか。」
わたしは生返事するしかありません。
「過酷な戦艦に子供を乗艦させるなんて、地球人は野蛮だな。」
言いながら緑茶の入った湯のみをすすります。
「テンカワさんは、どうなったんですか?」
この戦艦に連れられてから、テンカワさんとは離れ離れです。
もっとも、彼は気持ちよさそうに気絶したままでしたけど。
シラトリさんはやや厳しい顔になると、
「あの男は尋問中だ。」
・・・男には厳しいんですね。
わたしはそのわかりやすいフェミニズムさにうんざりします。
女子供は男の所有物ではないです。
「わたしにはしないでいいんですか?」
「君の知る機密なぞ取るに足らないものだろう。
まあ、幼い少女を助けるために身を呈して助けにきたのは敵ながら天晴れだが、君たちの戦艦の情報は、あの男に聞くのが一番だ。」
腕組みしつつ、自分の考えにうっとりしてます。
11歳の少女と、18歳の男性を比べれば、テンカワさんのほうが上官にあたると誤解しても仕方ないですが、実際はわたしのほうが多くの機密を握っています。
なんと言ってもオペレーターですから。テンカワさんはただのコックさんです。
「わたしのほうが彼より上官ですよ?」
「ははははは!まあ、そういうことにしておこうか。」
余裕で笑います。
わたしは唇をきゅっとかみ締めて、
「・・・ばか。」
「う・・・・ん。」
俺はずきずきする頭を振り、顔をあげた。
そこには黒い学ランの男がふたり、竹刀を持って俺を見据えている。
「ふん!起きたか、地球の卑怯者め!!」
「・・・へ?」
間抜けな声を上げた途端、
ばしん!!
肩を竹刀で叩かれる。
「ぐ!?」
わけもわからずに床に転がる。
周囲を見れば、見たこともない灰色な壁と天井をした部屋だった。
・・・捕まったのか。
ルリちゃんを木連側に渡すわけにはいかないが、死なせる気にもなれなかった。
軍部の命令を無視して行動してしまったのがこんな目に遭うなんて。
だからと言って、ラピスにそっくりなあの子を見捨てることができなかった。
甘いよな、俺も。
いつのまにかあの子を大切に思い始めている。
「さあ、情報を吐いてもらうぞ?」
「・・・おいしいラーメンの作りかたしか知りませんけど?」
ばしん!ばしん!
二人から一斉に叩かれる。
両手を後ろ手に手錠で拘束されつつも、急所を避ける。
本気で急所を叩かれては内臓を痛めてしまう。
「黙れ!韜晦するのもいいかげんにしろ!貴様は何か知っているはずだ!!」
・・・軍関係者だとばれたか?
俺は体を折り曲げ、薄く開けた目で相手の顔色をうかがう。
「年端もいかない子供に尋問なぞできるはずがないだろう!!
貴様のほうが上官にあたるんだろう!?」
ああ、本当に知らないんだな。
苦笑するしかない。
ここは時間稼ぎするしかないだろう。
ルリちゃんは頭のいい子だ。なんとか脱出するチャンスをとらえるはずだ。
俺は情けない表情を作ると、
「ひえ〜。お助け〜。」
尋問役のふたりに大人しく痛めつけられることにした。
「・・・シラトリの艦にテンカワが乗っている?」
ヤマサキから教えられた情報に眉を寄せる。
ここは軍の保有する艦のうち、一番の攻撃力と防御力を持つ。
我のような日陰の者が乗ることができるのも、主たるクサカベ殿のおかげだ。
木星で科学部門の筆頭であるヤマサキは、こちらを面白そうに眺め、
「腐れ縁なんでしょう?テンカワ・アキトと?
会いたくはありませんか?」
やけにもったいぶった言い方をする。
こいつのこの話しかたは好きではない。
「ふん!貴様には関係なかろう?」
わざと突っぱね、外に出て行こうと一歩踏み出したが、
「シラトリごときにつまらないリンチを受けさせて死なせてもよろしいんですか?」
「・・・我らが行っても、あの男が口を割るはずがない。」
そう。あののんびりした外見とは裏腹に、内面には我と同じ、戦いを本能的に求めてしまう闇を抱えている。
シラトリごとき小物をあっさり殺して脱走できるはずだ。
ヤマサキに完全に背中を見せたが、
「あなたが誘拐に失敗したラピス・ラズリのスペアーも一緒なんですよ。」
嬉しそうにこちらが振り返るのを眺める。
「・・・ホシノ・ルリ、だったか?」
「ええ。ナノマシーンの適合性から言うと、ラピス・ラズリには劣りますが、それでも優秀なオペレーターです。
シラトリは正義感から彼女を捕らえたと報告しないで、こちらへの亡命希望者という形で連れてくるつもりですよ。」
そこまで詳しい情報を知っているということは、
「シラトリのところに内通者でも仕込んだか?」
「もちろんです。彼はいい意味でも悪い意味でも木連軍人の鑑ですからね。
クサカベ閣下のためには、是非とも彼女を捕らえて欲しいんです。」
「それと同時に目障りなテンカワの始末をしろ、というわけだ?」
「閣下からもう少ししたら連絡が来ると思いますよ。」
にやにやと嫌らしい笑みを浮かべる。
「ふん。」
我は再び出口に足を伸ばした。
あとがき
北辰の一人称はなにがいいんでしょうね。
『我』だとなんか書きにくいし、『俺』とか、『僕』(笑)とか、『わたし』(汗)じゃ変だし。
無難に『我』がいいんだろうな〜
代理人の感想
北辰の一人称・・・・「ぱぱ」以外ならなんでもいいです(核爆)。
まぁ、かなり本気の入った冗談はさておくとして
時代劇的な影ないし裏の人間とすればあとは「某(それがし)」か「拙者」、「わたくし」あたりでしょうが・・・
やっぱり「我」が一番しっくり来るかな〜?