ラーメン屋奮戦記(混乱)
by poti
あれから布団を用意され、わたしは広い和室でその上にちょこんと座っています。
浴衣まで用意されてしまいました。
まるで温泉旅行にでも来た気分です。
コミュニケでナデシコに連絡できればいいのですが、すでに取り上げられています。
途中までのこちらの位置は把握できたでしょうが、それから2時間ほど経っています。
それだけ時間がたてば、だいぶ位置も変わったはずです。
救出のしようもないでしょう。
テンカワさん、どうしているんでしょうか?
シラトリさんの話を思い出せば、痛めつけられているはずです。
どうにかここから抜け出したいのですが、出入り口は外からロックされ、中からは出られません。
「わたしって、足手まといですよね。」
ぽつりと愚痴をこぼしました。
げし、ばし、どか!!
肩で荒く呼吸を整えながら、さすがに叩き疲れたのか、尋問役の二人は竹刀を下げた。
「今日はここまでにしてやる!明日は更に厳しいからな!!」
吐き捨てるように言い、部屋を出て行く。
がちゃり。
外から鍵をかけるのも忘れない。
「・・・ちぇ。」
ごろん。
自分の汗や血で汚れた床に転がり、目を閉じる。
・・・ラピス、聞こえるか?
(あきと、どうして逃げないの?)
すぐに返事が来る。
一人なら逃げられるけどな、ルリちゃんを残したままにしておけないだろう?
(上層部に・・・はむかうの?)
大げさだなあ。俺はやりたいようにしているだけだよ?第一、当初の目的はネルガルの動向を見るだけだったろう?
(・・・だからあきとが痛い目に遭うのはおかしいよ?)
まあ・・・そうだけどさ。ルリちゃんはラピスの妹でもあるわけだろう?それを放っておけないさ。
(・・・うん。)
ラピスはしばし沈黙する。
俺の考えを理解しようと考え込んでいるらしい。
大丈夫、すぐに戻るよ。ルリちゃんにも会ってみたいだろう、ラピス?
(うん!)
じゃな、また連絡する。
「さて・・・どうやって逃げようかな?」
仰向けになってつぶやくと、不意に扉が開き、
「脱走されてはかなわんな。」
赤い義眼をはめた男が立っていた。
「なぜ貴様らがいる!!」
わたしを取り巻くように立っている6人の男達に視線を向けた。
殺意すら宿したこちらの眼差しを、平然と彼らは受け止めている。
副官や他のクルーたちはわたしを守ろうと胸ポケットから銃を取り出そうとするが、彼ら、北辰六人衆の存在感にその手が止まる。
「・・・ホシノ・ルリ、及びテンカワ・アキトの身柄を受け取りに来た。」
彼らのなかで一番手前にいた男が、軋むような声で言う。
その手には正式な受け取り書類があった。
だが、それだけのために、彼らが来るはずがない。
なぜなら木連の軍部の影である彼らは、汚い仕事を専門に請け負う殺し屋集団だからだ。
「子供とコックごとき、そちらの手を煩わせることなく運ぶことぐらいできる。」
「遺伝子操作の成功体と、諜報部のエースをか?」
・・・なんだって?
あの少女はともかく・・・・
「あの男、地球の正式な軍人だったのか?」
たしかネルガルが民間人を集めてナデシコを動かしている。
軍とは意見が反し、敵対しているはず、だった。
「・・・北辰はどうした?」
俺は彼らの長である男が不在なことに気が付いた。
彼らは単独で動くことはほとんどなく、連携しての戦法を得意とする。
「死んでいく貴様が知る必要はない。」
「・・・な!?」
ざしゅ。
身構える前に、左胸には短刀がおもちゃのように突き刺さっていた。
のどの奥深くから、生暖かいものが込みあがるのがわかる。
ごふ!
信じられない量の赤い液体が口からこぼれる。
自分の血液に染まった手を呆然と眺め、床に転がる。
「貴様ら!!」
「艦長!」
「我慢ならん!!!」
ブリッジにいたクルー達は一斉に金縛りが解けたように銃を構えた。
だめだ。おまえ達では殺されてしまう。
俺は逃げるように言おうとしたが、ぶくぶくと血を吐き出すことしかできなかった。
「ひさしいな?」
編み笠をかぶり、暗い色のマントで体をすっぽり覆っている北辰が言う。
「・・・かれこれ半年ぶり、かな?」
俺はずるりと起き上がった。
相変わらず両手は後ろ手に、手錠で拘束されている。
「目当ては俺かな?」
「いいや。人形の複製がいるのだろう?
それを受け取りに来た。」
「ここの艦長に許可はもらったのか?」
俺はどうやって逃げ出すか思考をめぐらす。
北辰の背後にある扉は、開け放たれたままだ。
飛び出して逃げ出せればいが、この男がそれを許すはずもないだろう。
びーびーびー!!
いきなり警報がなり、緊急事態発生を知らせる赤い照明に切り替わる。
「・・・なにをした?」
「邪魔者に死んでもらっただけだ。
その罪を貴様にかぶってもらう。」
すらん。
「ちっ!」
俺は北辰が突き出してきた短刀を床を転がってよけ、出口に飛び出そうとした。
しかし、予想していたのか、頭上から踵落しをお見舞いしてくる。
それをまたもや転がってよけたが、床に突っ伏してしまう。
何しろ両手が使えないのだ。
よける以外に手がない。
「観念しろ。」
「馬鹿言え!!」
袈裟懸けに振り下ろしてきた刀に、俺は肩の関節を外し、ぐるりと両腕を前に持ってきた。
「な?」
じゃりん!
北辰の刀が、俺を拘束していた手錠の鎖を断ち切っていた。
「軟体動物か、貴様は!!」
あ。怒った。
珍しく感情をあらわにした北辰を尻目に、俺は艦内を走り出した。
びーびーびー。
・・・警報?
わたしはナデシコの制服のまま、まどろんでいた瞳を開けました。
なにがあったの?
ナデシコが救出に来たのかな?
でも、わたしたちがいる位置も特定できないはずです。
だとしたら、テンカワさんが暴れているんでしょうか?
まさかね。コックが暴れたくらいじゃ戦艦はびくともしません。
わたしはロックされた扉の前に立つと、
「どなたかいませんか!?」
どんどんどんどん!!
両手で叩きますが、なんの返事もありません。
どうしたら・・・いえ、どうするべきか。
わたしは赤くなったこぶしで再び扉を叩きます。
すると。
しゅるん。
扉が開きます。
「早く・・・逃げろ。」
「きゃ!?」
血まみれの男性が倒れかかってきました。
さすがにこれには慌てます。
黒い学ランを着たその男は、
「早く・・・あいつらが・・・」
そういい残して、ぱたりと手が落ちました。
あいつら?複数の人間が襲ってきたんでしょうか?
ナデシコからの救援?それとも、仲間割れですか?
わたしはずるりとそのひとを横にどかすと、返り血で汚れた服のまま、外に飛び出しました。
途中、閉じられた壁を、パネルでアクセスキーを推測して打ち込み、なんとか格納庫らしき場所まできました。
木星とかげのことはよく知りませんが、人手不足なんでしょうか?ほとんど誰にもすれ違わずに行けました。
しかし、わたしのIFSはオモイカネのオペレーター用に調整されたもので、シャトルやエステバリスの操縦なんてできません。
ここはテンカワさんが脱出してくれるのを待つしかないでしょう。
「・・・どうしたら・・。」
「我らとともにくればいい。」
え?
振り返れば、時代錯誤な編み笠、マント姿の格好をした男達がいました。
それぞれ赤く染まった刀を持っています。
「ホシノ・ルリだな?我らと来てもらおう。」
そう言って、これ見よがしに刀を突き出す。
「・・・木星とかげ同士で殺し合いですか?」
わたしは時間稼ぎをしようと、乾いた唇を舌で湿らせ質問します。
「あの男には死んでからも英雄として働いてもらう。それだけだ。」
つまり、彼らがこの艦を占領しにきたわけですね。
ずる。
わたしは一歩後ろに後ずさりします。
それに伴い、彼らも一歩を踏み出します。
「さあ。来るがいい。」
男が手を伸ばしてきます。
ああ、もう、駄目ですね。
わたしは彼らに連れ出される自分を想像し、目を閉じました。
あとがき
関節を自由に外せる男性がテレビに登場してまして、それを参考にしてみました。
生まれつき、体の柔らかい体質のかたがいるらしいです。
代理人の感想
・・・・やっぱり死ぬのか?
不憫な奴だな〜。
しかもミナトさんに泣かれる事すらなく(爆)。
>体が柔らかい
昔のサーカスなんかだと「毎日酢を飲ませて体を柔らかくする」なんて話があったんですが、
あれ本当なんでしょうかね(笑)?
ともあれ、練習するとある程度自由に関節を外せるようになるのは本当らしいです。