天使が住まう世界、それは何処かに確固として存在するのであろう。
人には必ずその生まれた意味が存在する。
だからこそ、人はその意味を求めて嘆き悲しむのであろう。
そして、狂おしいばかりに喜ぶのであろう。
誰かは言う。
絶望の中の絶望を絶望しろと。不安の中の不安しろと。
その死にゆく宿命がどれほどに、どれほどに望む物であっても・・・・・
後には何も形を残しはしない、全ては記憶と化す。
そしてまた誰かは言う。
希望の中の希望を希望しろと。安らぎの中の安らぎを安らげと。
その生まれた意味がどのように嘆き悲しみ忌み嫌うモノであっても
必ず・・・・希望と喜び、安らぎはある。
それは例え・・・・『漆黒の戦神』と呼ばれた存在であっても・・・・
天使が舞う銀河にて
第零章 第二話 月の聖母と天使の翼
ゴゥゥゥゥゥゥゥゥゥン
プシュ
シュゥゥゥゥゥゥゥゥン
〜【白き月】内部、駐シャトル場(笑)にて〜
「ようやく・・・・着いたか。」
そう言ってシャトルから降りるアキト、もちろん運転手の方に
お礼を言うのは忘れずに。
「さて、どうしたものか。迎えが来ると聞いているが・・・・・・・」
そう、迎えが来るとタクトの父からは聞いている。
曰く、我らは由緒あるマイヤーズ家だから当然のことらしい。
だが、見渡す限り迎えらしい者はいない。
普通、こういう場合は万が一に備えて30分前に備えるのがマナーである。
・・・・・・・・・けど、いない・・・・・・・・・・・
まぁ、相手の都合というのもあったのだろうということで待つことにした。
そして宇宙ベンチ(どんなやねん)に腰掛けようとした時、声がかかった。
「坊ちゃま」
この呼びかけを耳にしたとき、誰のことを指しているのか、
咄嗟にアキトは分からなかった。
むろん、それはアキトが呼ばれ慣れていなかったからであり、
呼びかけられたのはアキトに決まっていた。
アキトに呼びかけた初老の男は恭しく一礼した。
「白き月在住のクレモンと申します。初めまして、どうかお見知り置きを。」
クレモンという男は大体五十を少し過ぎたところであろう。
完全に白髪の髪、全体的に細い体、然したる印象も覚えない面。
非道い言い様だが事前に聞いていた特徴と完全に合致する。
アキトはとりあえず瞬きをした後こちらも挨拶する。
「こちらこそ初めまして、貴方が俺を迎えてくれる人ですね。」
「左様でございます。私は代々マイヤーズ家に仕えております。
ささ、坊ちゃまお荷物をこちらへ。」
そう言って、アキトのスーツケースを持ち上げようとした・・・・・・が、
「ふむ?ふん、ふんっ(汗)、ハアハア、坊ちゃま、このお荷物は一体?」
持ち上がらなかった、完全に面目丸つぶれである。
仕方ないであろう、何せこの荷物の中身はと言うと・・・・・・・・
「ああ、すまないクレモンさん。その中身には全部本が入ってるんだ、
重いから俺が持つよ。」
「本・・・・・でございますか?」
「何せ、記憶を失ってしまったからね。少しでも知識を吸収しておこうと思って。」
「このようにかさばる物など・・・データならば・・・・」
「本だからこその良さが有るんだよ。」
本という物は紙で出来ているためにかなり重い、しかもその本が
タンスの二段分ほどもある巨大なスーツケースの中にぎっしりと
詰まっているのだ。重いはずである。
だがしかし、世の中にはどう考えても説明が付かないことがおこるものである。
「さて、クレモンさん、行きましょうか。」
そう言って軽々とそれを持ち上げる見た目若干【六歳児】。
しばし放心していたクレモンであったが何とか気を取り直してアキトの前に着く。
「タ・・タクト坊ちゃま、見かけによらずにずいぶんとお力が強うございますな。」
「あっと、言い忘れてたけど、俺のことはこれからアキトって呼んでくれないか、
月の巫女になるので改名することになったんだ。」
「ハ、ハァ、左様で・・・・」
微妙に話題をずらすアキト、そう言った詮索は余りされたくない。
「ん・・・あれは。」
アキトの足が止まる。何かこの場とは不釣り合いな不穏な何かを感じ取った。
視線が時計台の前にいる褐色の肌をした男達の元へと向けられる。
その男達は全員古ぼけたコートで全身を覆い隠している。
足下には、これも古ぼけた、だが何かの合金で出来ているのであろう
旅行用の大きな鞄。
これだけならば、少し振り向くくらいのことで特筆すべき出で立ち出もない。
特筆すべきはその男達から出ている殺気だった。
多少興奮しているモノの、その男等から出ているのは紛れもない殺気である。
これから宇宙の旅をするというのにこんな禍々しい殺気を発する必要はない。
必要有るとすればこれから戦争にでも行くか・・・・・テロをするかの
どちらかである。
「坊ちゃま、如何なされましたか?余り下の者を眺めるのは・・・・・」
何も気付いていないクレモンがアキトに何かを言おうとするが
それどころではない、男達が鞄を開け始めたからである。
そして静かに出てくるそれは・・・・紛れもない細身の銃身・・・・
「クレモンさん!!このまま此処にいて、もし何かが起きた場合は
すぐにしゃがんで!!」
「ぼ・・・坊ちゃま?」
そう言い残すと、すぐにアキトはバッグを持ったまま男達の元へ駆け出した。
そして、次の瞬間。
「イァ――――――ッ、ハ―――――――ッ!!
ヒャゥイィィィィハ、【Heliotrope・Moon】参上!!」
男の一人が甲高い雄叫びを放ち、同時に周りの男達がライフルの引き金を絞った。
撃った場所は天井である、まずはデモンストレーションであったのだろう。
バラバラと天井だった物の破片が落ちてくる。
天井の欠片が頭に降り注いでも誰も文句を言う物は一人としていなかった。
全員が悲鳴と疑問符を放っていたから。
撃っている本人達と一人の例外を除いて。
「あいつ等が形式を重んじる馬鹿の集団で良かったよ。」
アキトは内心安堵していた。
男達が初発から人を狙わなかったからである。
初発は止めようがなかったので多少の人的被害が出ると予想していたのである。
しかし、この分だと一人も被害を出さずにすみそうである。
「さて、此処に俺がいたことが貴様等の災難だったな。」
そうしてアキトは飛翔した。
〜その十秒程前の男達〜
「ハッハッハッハーイェイ。レディーズ、アン、ジェントルメン・・・・・・・」
10
9
慣れた手つきで弾倉を交換しながら最初に叫んだ男が言う。
8
「お初にお目にかかります、我々は白き月を良しと思っていない集団です。
皆様にとっては我々は憎まれる存在でありましょう。
ですが、我々も皆様のことをよく思っていないのです、残念なことに。」
7
6
「コホン」
5
4
一つ咳払いをして再び続けようとする。
3
2
「従って我々はあなた達のことを殺さなくてはいけません、さようなら。」
1
「やらせるか」
零
「な、誰・・・・・」
バキィッ
「げふぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ」
アキトの持つ総重量三桁近いスーツケースで殴られて吹っ飛ばされる男。
それを見て、仲間を殺った相手を捜そうとする。
(注 死んでません)
「畜生、何者だ!!」「出てきやがれ!!」
しかし、悲しいかな。彼らは捜す目線が違っていた。
もう少し、下に目線を向ければ見つかったというのに・・・・・
まあ、見つけてもどうしようもないが。
「ご愁傷様」
ゴッ も一つおまけに ゴッ
「「!!!!!!!!!!」」
アキトの一言と共にかなり痛そう〜〜な音が聞こえたような気がする。
やられたテロリストは苦悶を通り越した表情で血の泡を吐いている。
腕を切り落とされても此処までは苦しむことはないであろう。
そう、股間をしたたかにかなりの威力で蹴られない限りは(非道)
もし彼らが子孫を残したいのであればこの時代の医療技術に縋ると良いであろう。
良かったなぁ〜〜、技術が進んでいる時代に生まれて。
もう何人かやられたところでようやくテロリスト達も自分達を襲撃している
敵の正体に気が付いた。
「ガ・・・・ガキだって言うのかよ!?」
リーダー格の男が呻くように言う。
目の前にいるのは何処から見ても小学生に行っているかどうかの子供である。
すると何か!?、俺様達の完璧な計画はガキに潰されてしまったってのか!?
Oh,ジーザス。狂った俺達の神様は粋な計らいをしてくれるぜ。
そう言う具合に一寸ばかしあっちの世界に行きかけている男達に
アキトがトドメの一言を放つ。
「何が【紫苑色の月】だ、はっきり言って似合わないぞ。」
俺達が心の底から信じる神様、一つだけお願いがあります。
このいかれたガキ、この手で殺させて下さい。
・・・・・ってゆ〜〜か、絶対ぇ殺してやるわ!!!
「「「「死ねぇぇぇぇっ!!!」」」」
何の文学的比喩もない、直接的すぎるやられ台詞を右手に持った
ナイフと共に投げかけてくる男達。
だが、感心すべきであろうか。力任せではない、スピードものっている。
普通の人間ならばあっという間にその身を切り裂かれ絶命していることであろう。
だが、此処にいるのは普通の人間ではなかった。
「ふん・・・・・・・」
鼻で笑うと一番手前にいる男のナイフをバッグで受ける。
相当な力が篭もっているはずだが全く意に介してない様子だ。
そして受けたバッグを手放して相手が反応できない内に膝の皿を割る。
「ごふぁっ」「が・・・がきがぁっ」
そして仲間が更に一人戦闘不能に陥ったのを見て突っ込んでくる男。
よっぽどの熱血漢なのであろう。
だけど、彼の熱血もそこまでであった。
ザクッ
「え!?」
なかなかいい音と共に男の腕から鮮血が吹き出す。
鮮血が吹き出ている腕には先程の男のナイフが綺麗に刺さっている。
元々は投げナイフであったのであろう、申し分ない。
だが、彼にとってそんなことはどうでもいい、既に貧血を起こしている。
「血が・・・・俺の血がぁぁぁぁぁぁぁ!!」
必死に傷口を手で押さえながら絶叫を上げる男。
そして残るは二人。
但し一人はもう戦意がないようだ、逃げだそうとしている。
「ひ・・・・ひぃっ!!」
「ま、待て!何処に行く気だ、俺達は無敵の・・・・」
「ンなこれ見ても言えるか!勝てるわきゃねぇだろ、化け物によぉ!!
とにかく俺は大人しく投降させて・・・・・・・」」
パァンッ
「ぐえ!?」
おやおや、なかなかのハプニングが起こっているみたいだ。
馬鹿なことをするものだ、仲間を撃ってるよ。
兎も角残るは一人。なのだが・・・・・・・
「はい、お疲れさま。」
トスン
もう片が付いてしまったようだ。はい、これにてテロリズム終〜了〜。
さて、アキト君。一言御感想を!!
「実弾のライフルにこれまた旧式のナイフ、全くテロをするなら・・・・」
ヲイ、あんたの黒王子の頃を語るな。
そんなこんなで気絶(逝きかけ含)している男達をまとめていると
慌ただしい靴音が背後より近づいてきた。
カッカッカッカッカッカ
振り向くと制服らしき物を纏った恐らくは警官がクレモンと駆けてきている。
で・・・・・・・
「坊ッちゃま〜〜ご無事でしたか、私クレモンご心配しましたよ〜」
「どぅわぁぁっ!!」
アキトはクレモンタックルを受け身も取れずに喰らう羽目になった(笑)
その後警察(警護兵)が事情聴取を求めようとしたのだが・・・・
「無礼者!この方はあのマイヤーズ家のご子息の(中略)・・・・
なのに貴様等は事情聴取などの無粋な(後略)・・・・」
「いえ、ですが事情聴取は・・・・・」
「問答無用、肝心なときに役に立たない・・・・・・」
再びクレモンのおかげで足止めを喰らう羽目になった。
だが、それも次の台詞が決定打になって終わることになる。
「ええい、どうしても坊ッちゃまの事情聴取をしたいというならば
我らが聖母シャトヤーン様を連れてこられるが良いわ!!」
「ンナ無茶なことを言わないで下さいよ・・・ハァ、仕方ねぇな。」
そう言うと多少表情を引きつらせながら部下に命令する一人。
そして言われた男がきた方向へと駆け出していった。
「それではマイヤーズ様、只今貴方様のご要望に応えまして
我々が白き月聖母シャトヤーン様がお住まわれる宮殿へと連絡を取っています。
ご期待に応えられぬ可能性もありますが、その間待ってもらっていても・・・?」
「フム・・・まぁいいだろう。ささ、坊ッちゃまこちらにお掛け下さいませ。」
そう言うとその辺の宇宙ベンチに導こうとする。
「勘弁して。ッと、必要はないみたいですよクレモンさん、ほら、戻ってきた。」
早いな、をい。
ドタドタドタドタドタ
先程男が走っていった通路を見ると同じ男が戻ってきている。
但し、無茶苦茶血相を変えて青くなりながら。
そして男は叫ぶ。
「シャ・・シャトヤーン様がマイヤーズ様との面会を望んでおられます!!
宮で・・ハァハァ、宮殿でお待ちになられておりますので・・・・
すぐにお向かわれて下さい!!」
「「「「何ぃぃぃぃっ!!!」」」」
それからのことは大して覚えていない。
とにかく警護兵達が謝り通してきてクレモンさんが気絶して・・・・・
駄目だ、本当に思い出せない。
だが・・・・・・・
〜白き月宮殿内 広間〜
「ぼぼぼ・・・坊ッちゃま、私クレモン感激の至りでございまする。
まさか、まさかこの目でシャトヤーン様の御姿を!はふぅ〜。」
「クレモンさん、落ち着いて。・・・・にしても。」
本当に綺麗なところだ。
正に竜宮や夢の世界とは此処のことを言うのであろう。
広間のような場所にいるのだが、クリスタルで出来ているのだろうか
淡く発光していて影一つない。
ただ、他にも色々と調度品があるのだがこの水晶が気になってしようがない。
(さて・・・どうしたもんかな、まさかこういった展開になるとは。)
出てくる溜息を必死に噛み殺しながら呟く。
目の前にある泉にもその何とも言えない表情の顔が映っている。
そこにあるのは紛れもないタクトの顔。
と、泉の水面が歪み始めた
チャプン・・・・・・・
(ン、何だ?)
少しの波紋は泉全体に広がり、水面に映る全てを隠す。
何秒かそれが続いた後ようやく元に戻る。
そして、水面には・・・・・・・・
「な!馬鹿な・・・俺の・・俺の顔が映っているだと!?」
映っていたのは決して忘れようのない本来の顔。
【テンカワ=アキト】の顔がそこに映っていた。
思わず自分の体を見回すアキト。
だが・・・・・・・
「いきなり大きな声を出され、どうしました坊ッちゃま?
水鏡がそんなにお珍しゅうございましょうか?」
今、此処にあるのはタクト=マイヤーズの体である。
それが証拠にクレモンさんはアキトのことについて何も言わない。
ならば、この水面に映るこれは一体何なんだ?
「い・・いや、何でもないよ、やっぱり俺も緊張しているのかな?」
水面に自分が映らないように移動しながら言うアキト。
そして、水面に映らないことを確認して一息ついたとき
突然背後より声が聞こえた。
「それはロストテクノロジーの一つで真実の泉という物なのですのよ。
例え如何に対象が自分を偽っていても必ず真実を映すそうです。」
「え!?」
美しく澄んだ声。
全てを包み込んでくれるような慈悲を大いに含んだ声。
「ですが、これは本来存在してはいけない物なのかもしれません。
これの前で秘密は全て無価値な物となってしまいます。
失われてしまった本当の理由が分かるような気もしますね・・」
暖かさと共に何処か憂いを含んだ声。
声だけでこの人が誰だか分かったような気がした。
ああ、この人が・・・・・・・・・
「貴方はどう思われますか、アキト=マイヤーズ君?」
振り返るとそこには女神が微笑んでいた。
いや、この世界の人達の言葉を借りるなら【聖母】なのであろう。
永遠である白き月の聖母、【シャトヤーン】。
(成る程、確かにこれ程の方ならば誰だって崇め祀りたくもなる)
アキトがシャトヤーンのその御姿と氣に見とれていると声をかけられた。
「どうかなされましたか、アキト=マイヤーズ君?」
「・・っ!!、いえ、別になんでもありません。」
何とかこっちの世界に戻って体面を繕うアキト。
もし女性に見とれていたと言うことが同盟にばれたら・・・・・・・
いやいや、こっちの世界に同盟は。
「?それならばよろしいのですが。それで貴方はどう思われますか?」
「は、はい・・・・この泉ですか・・・確かに本来は不要な存在だと思います。
これが在るばかりに過去に色々とした問題が出たでしょう。
ひょっとしたら流血・傷害沙汰になったという可能性も捨てられません。」
「・・・・ええ。やはりこれは・・」
自分の考える本心を話すアキト。
そしてそれを聞きながら少し俯くシャトヤーン。
だが、次の一言は彼女の表情を驚愕に変えさせた。
「ですが・・これが生まれたのにも何かしら理由が有るとも思います。
上手くは分かりませんが何か必要があったからこそ創られたのでしょう。
ですから・・・それが分かるまでは頭ごなしに否定は出来ません。」
「!!」
そうしてしばらくシャトヤーンは何も話さなかった。
よく見ると肩が少し震えている。
(マズイ!ひょっとして禁句を言ってしまったのか?)
流石に雰囲気的に焦るアキト。
何かしら弁解をしようとしたとき、シャトヤーンがアキトを抱き寄せた。
ぎゅっ
「え?あああ、あのその、シャトヤーン様!?」
あまりにも突然のことに声が上擦るアキト。
こんなに綺麗な人に抱きしめられれば流石のアキトもそりゃ・・・・・・
真意を図るためにシャトヤーンの表情を見てみると彼女は笑っていた。
「ふふふ、そう仰有ったのは貴方が初めてですわ。
そうですか、【必要とされる理由】ですか、確かにそうかもしれません。
ありがとうございますアキト君、胸の支えが取れたような気がします。」
嗚呼、良かった。怒っていない・・・・じゃなくて!
とても綺麗な純粋な笑顔・・・それも違う!
「あ、いや、その俺じゃなくて私はただ思ったことをそのまま・・・・」
「いいえ、そう思える心が大切なのです。
貴方は素晴らしい心を持っています。それと・・・・・」
「は、はい。」
白き月か・・・信仰しても良いようなっでも無い!
アキトが多少遅めの青春を謳歌していると全てを吹き飛ばす発言が出た。
「無理にかしこまらなくても宜しいですよ。
貴方とは――そう言った垣根の無いように接したいと思っていましたから。」
「!?思っていた・・それは一体!?」
「それではその事も含めてお話をしましょう、こちらへどうぞ。
付き添いの方は既に客室の方へ御出になっていますので。」
〜白き月内部 客間〜
「そう言えばまだ互いに自己紹介もしていませんでしたね。
申し遅れましたが私が白き月の統治者であるシャトヤーンです。
貴方とはこうして話したいと思っていました。」
そう言って微笑を浮かべるシャトヤーン。
見た目若干【六歳児】に対してもこの懇切丁寧な対応。
当然悪い気はしないのだがどうにもアキトとしてはつっかえる。
先程からの「思っていた」という発言やあの抱擁・・・・・・
・・・・・気持ちよかったなぁ――・・・・・
ぶんぶん(首振り)、そう言う問題ではなくて・・・・・・・
「いえ、こちらこそ申し遅れましたことをお詫びいたします。
私の名は・・・・・・・・」
そこまで言ったところでアキトは思わず止まってしまった。
何故ならシャトヤーンがアキトの顔を見ながら沈んだ表情をしているからだ。
(えっと・・・ひょっとして・・・・・・)
思い当たることが一つだけ有る、しかし間違っていたらかなり危ない。
危ないどころの騒ぎではない、確実に周りにいる衛兵に連行される。
だが、このままではかなり気まずい。
決死の覚悟でアキトはそれを実行した。
「・・・じゃなくて、俺の名前はアキト=マイヤーズです。
シャトヤーン様にはお世話をかけると思いますがよろしくお願いします。」
先程シャトヤーンが言った垣根無しの付き合い。
即ち、無理にかしこまらずに自然体で語り合うと言うことである。
見ればシャトヤーンは満足げに微笑んでいる・・・のは良いのだが。
「ぼぼぼぼぼ坊ッちゃま!シャトヤーン様の御前で御♀¥∴∞∃‰◯
そのような礼儀を欠く言葉使いを!?非、非、非礼にあたりますぞ!
シャシャシャシャトヤーン様、何とぞか御平に!何分記憶が・・・・」
当然の如くクレモンが壊れた(笑)
まぁ、前後の内容を知らない人が見ればこうなるわなぁ(しみじみ)
あ、シャトヤーンの周りにいる月の巫女の人達がアキトを睨んでる。
良かったな、楽しい職場になりそうだぞアキト(爆笑)
「ク・・クレモンさん・・落ち着いて、落ちついてったら・・・・」
「坊ッちゃまに責任はありません、私の教育不行き届きにあります。
ですので・・・私が、私が全て悪ぅございます!!!!!」
アキトの宥めも完全に耳に入っていない。
をい、月の巫女の人達も白装束出すな、しかも二人分(汗)
う〜む、シャトヤーン様はやはり偉大だ、言葉一つでこうなるとは。
まぁ、だからこそこういった事は本人にしか止められないのだけど。
「よろしいのですよ、クレモン=マイラット。
彼の言葉使いは私が彼に対して頼んだことです。」
「は!?」
「ですので、非があるのならばその事を事前に話さなかった私にあります。
クレモン=マイラット、貴方には申し訳のないことをしてしまいました。」
そう言ってシャトヤーンがクレモンに目線をあわせる。
結果・・・・・・・
バタン
恍惚の表情と共に床と熱烈な接吻を果たすクレモン。
神経への負荷がいろんな意味で限界を迎えたようである。
そして数秒も経たない内に医療班らしき人が来て担架に乗せていく。
多分、彼は今後出てくる機会は一切無いであろう。
「シャトヤーン様が私の名前を知って下さっていてシャトヤーン様が
私の為だけにその御視線を(以下省略)」
はい、本編に話を戻しますのでしばらくお待ち下さいませ。
では、本編どうぞ!!
「それではアキト君、まずは宇宙ステーション内での功績に
白き月の統治者として感謝の辞を送らせていただきます。」
「いえ・・俺は人間として当然のことをしたまでです。」
何処か警視総監賞受賞に似たような儀礼が執り行われる。
まぁ、流石に賞状はないが・・・・・・・
周りには数人のお付きの巫女がいてアキトに拍手を送っている。
年齢こそまばらなもののアキトに対しての不快感は払拭できたようだ。
だが、次のシャトヤーンの行動によってそれは再来する。
「続いて・・・私、シャトヤーンとしてからも感謝を送らせていただきます。
よくぞ、白き月の民を守ってくれたことには言葉も見あたりません。
ですので・・・・・・・・・・」
そう言うが早いかシャトヤーンはかがみこむ態勢になる。
そして・・・・・
チュッ
アキトの額に軽く口づけをした。
「言葉としてでは表せない部分は行動で表させていただきます。
感謝の接吻です、頂いて貰えたでしょうか?どうされましたか?」
「・・・・(ぽけー)・・・・」
ここにアキトが戻ってくるのに小半刻ほどかかったのを記しておく。
その後、ジェラシーその他満載な月の巫女を人払いして
再びアキトはシャトヤーンと正面から語り合うことになった。
最初に口を開いたのはアキトであった。
「それでは・・・・いきなりですが単刀直入に聞かせていただきます。」
そのときのアキトの表情は如何なる物であったか。
全ての謎を知ろうとする冒険者の表情であったのか?
はたまた、未知の物に対しての怯えを含む交渉人の表情なのか?
・・・・いや、これらの例とは全く違った表情をしていた・・・・
「はい、何でしょうか?・・・それにしてもお顔が赤くなっていますよ。」
「い、いえ、お気になさらないで下さい(///)」
ま、要するに多少(著しく)緩んでいたわけだ。
自分でも気付くがなかなかどうして元に戻ってくれない。
シャトヤーンは自分の周りにいたどの女性とも違う女性であった。
人類の奇跡と至宝の美しさである。
まぁ、アキトも正常な健康男子であるからにして(以下略)
何とか平常までに顔面の筋肉を戻した後、再び口を開く。
「そ、それでは気を取り直しまして・・・貴女に聞きたいことがあります。」
「ええ、何でしょうか?」
「貴女は・・・・貴女は一体『何処まで』を知る人なのですか?」
これがアキトの聞きたい優先順位の一番である。
本当ならば此処で「C・Cについて知っていますか」というような事を
聞く予定だったのだが予定が狂ってきた。
まず、シャトヤーンとの接触が偶然とはいえ早すぎたことである。
元々数ヶ月は覚悟を決めていたのでこれは幸運な偶然であった。
だが、次からが予定という歯車が崩れていく要因であった。
一つはあの【真実の泉】の一件である。
完全に理解と常識という物の範疇から外れた物であった。
まさか、タクトの体なのにアキトの姿が映るとは思っていなかった。
ひょっとするとあの時シャトヤーンに見られたかもしれない。
そしてもう一つはその後のシャトヤーンの言葉である。
「貴方とは――そう言った垣根の無いように接したいと思っていましたから。」
少しばかし違和感を覚えすぎる。
【貴方とは】!?【思っていました】!?
まるで【テンカワ=アキト】について知っていたような口振りである。
だが、一応これらはアキトの推測である。
【真実】を映すと言ってもそれは精神面の真実であって
精神状態に作用して見る人によって違う代物かもしれない。
それと、実はシャトヤーンはマイヤーズ家を通じて
タクトと何らかの関わりを持っていたかもしれない。
前者は兎も角、後者は果てしなく低い確率だがもしもの為である。
だからこそ、聞き方によってどうとでも取れる質問をした。
しかし、この質問には欠点が一つあった。
「何処までと言われましても主語が定まっていませんので
答えることが出来ないのですが。」
「う・・・・・・」
こう返されると何にも言えなくなる。
交渉術の基本であるが、アキトもシャトヤーンの前では緩んでいるようだ。
だが、これは流石に致命的である、二の句が継げない。
しかし、救いは相手の方からやってきた。
「それは・・・私が貴方のことを―――
【この世界のイレギュラー】であることを知っているのかと言う意味でしょうか?」
「・・っ!!」
「どうされたのですか、そんなに驚かれた顔をされて?
それとも・・・貴方の知りたいのはこの事に付いてではなかったのでしょうか?」
あくまでも微笑みを崩さずに話しかけてくるシャトヤーン。
器が違う。人のカリスマ性について分かったような気がした。
しかし、この好奇は最大限に活用しなければならない。
例えそれが彼女の手中で踊っているだけであろうと。
「いえ・・・俺が一番知りたかったのは正しくそれです。
ですが、確認の必要もないようですね、貴女は全て知っているようだ。」
「ええ、そして貴方の目的・・・・CCの事も。」
「・・・・やはり、この未来にもCCが存在しているんですね。」
「はい、そして、今も尚白き月によって研究されています。」
正直安堵した。
少なくとも帰れる可能性が0%からは上がってくれた。
大いなる進歩だ。次に聞くべき事は・・・・・・・・
「それで・・・今、CCは何処に保管されているのですか?」
場所である、最低限これは聞いておかなければならない。
これさえ知っていればいざというときに役に立つ。
最悪・・・強奪する可能性も棄てきれないからでもある。
しかし、シャトヤーンは即答しなかった。
代わりに、再び微笑んでいた、今度は愉快そうに。
「な・・!?何がそんなに可笑しいのでしょうか?」
「分かりませんかアキト君?貴方は既にCCをこの世界で見ているのですよ。」
「え!?」
「本当に気が付いてないようですね、周りを御覧になって下さい。」
そう言ってシャトヤーンの腕が周囲に弧を描く。
この先には壁と柱が存在している、ただそれだけだ。
そう、水晶で創られた壁と柱が。
「そんな・・・・馬鹿げている・・・・
この部屋、いや、この宮殿《全て》がCCで建造されているというのか・・・?」
「ええ、各地で発見されたCCは全てこの宮殿の建造に使われています。」
それはアキトさえ実物を見ても信じられない光景であった。
かつて持っていた物は水晶という言葉がよく似合う小さな物であった。
だが、今は大きな宮殿そのものへと姿を変えている。
「何故・・・このようなことを・・・?」
「こうすることが一番の保全策だったからです。
かつて、時空跳躍の利権を争って蜥蜴戦争が起きました。
それを未来の我々は教訓としてあまりにもブラックボックスの多いモノは
世間に存在を隠すようにしてあるのです。」
「成程・・・理解できました。」
自分達の生きてきた時代を表す代名詞【蜥蜴戦争】は
この時代では教訓として凛と存在する訳か。
例え文化が何度滅びても、この白き月が存在する限り。
「さて、次は私の方からも少しだけ質問させていただいても宜しいでしょうか?」
「・・・・はい、俺の答えられる限りならば。」
今度はシャトヤーン側のターンである。
彼女は掴めないところが多すぎる、どんな質問が来るのか分からない。
そう言うことで警戒していたが、ごくシンプルな物であった。
「それでは・・・貴方はCCを手に入れた場合、帰る気なのですか?」
自分でも分かり切ったことである。
その目的のために此処に来たのである。だから・・・・・・・
「ええ、俺は残してきたモノがあまりにも多くあります。
ですから・・・俺は、帰らせていただきます。」
言い切った。しかし、シャトヤーンの反応がない。
そして、再び質問をしてきた。
「それではもう一つ・・・・もし、私が貴方にCCを与えないと言った場合、
貴方は・・・・・どうなされるのですか?」
「この場で柱を打ち砕いてそれを使わせていただきます。
例え強奪と言われようとも緊急時ですから・・・・・・・」
この事に関しては何の罪悪感も持たずに行えるであろう。
だてに人類最悪のテロリストをしていない。
シャトヤーンの表情はヴェールに隠れてしまい、伺うことが出来ない。
そして、また質問する。
「・・・貴方がどうしても帰ろうとしているのは理解できました・・・。
ですが、貴方と元の世界を繋ぐ【ラピス=ラズリ】さんとのリンクは
果たして・・・・今、繋がっているのでしょうか?」
「・・・・っ!!」
「例え、この世界の英知を強奪して時空間座標を割り出せたとしても
貴方は・・・その、タクト=マイヤーズの姿で帰る気なのですか?」
この人は本当に一体何者なんだ。
白き月を統べる聖母シャトヤーン、まさかこれ程の情報を所有しているとは。
まさか、ラピスとのリンクまで知っているとは・・・・・・
それに、彼女の言うとおりである。
いくら帰る手段を見つけたと言ってもそれはまだ一歩である。
そこからはまだまだ帰るにはほど遠い、第一、体が体だ。
これでは、帰りようがない。
「ですが・・・私が協力すれば話は別となります。
姿を任意の姿に変えれると言った物や時空間座標を割り切れる
ロストテクノロジーは白き月が保有していますから。」
アキトは一瞬耳を疑った。
帰れないと思った次の瞬間シャトヤーンの方から方法を提示してきたのだ。
その言葉に対してすぐに反応するアキト。
「そ、それは本当ですか!?」
「ええ、ですが、こちらにもそれなりの見返りを提供してもらいますが。」
「見返り?」
シャトヤーンの提示してきた見返りという物は次の物であった。
@この白き月でロストテクノロジーの解明を手伝うこと。
Aこの白き月の守衛者(ガーディアン)になること。
B何が有ろうともこの白き月と敵対しないこと。
そして・・・・・・・
C最低、この世界に15年間滞在すること。
「15年・・・・それは既に決定事項なんですか・・・?」
「・・・・はい、そのタクト=マイヤーズの体が成人して
1年以上立たない限りは元の姿に戻ることが出来ません。これが理由です。」
これについてはアキトも悩んだ。
15年は多すぎる。例え元の世界に戻っても精神年齢40近くだ。
だが、その提示を受け入れない限り元の世界には帰れない。
渋々、苦渋の選択を了承することになった。
「御安心して下さい、精神は経験を積むことにデメリットはありません。」
と、シャトヤーンは言うがさほど緩和された物でないが。
「では、全ての了承が出来たのならばこの紙の上に指をお乗せ下さい。」
そう言ってシャトヤーンは何か誓約書らしき物を持ってきた。
「こうですか?」
「はい、そのまま指を紙の上に押しつけて下さい。」
言われたとおり紙の上に指で圧力をかける。
すると、紙全体に変化が起きた。
パァァァァァァッ
光が一瞬だけ現れたと思うとすぐに消える。
そして、全ての項目が埋まった誓約文書がそこにあった。
「い、今のは一体!?」
「ロストテクノロジーの一つで【絶対なる誓約書】という物です。
昔・・地球の東洋の神話にある西遊記で孫悟空が付けられた
輪っかと似たような役目を持ちます。」
確か、孫悟空が三蔵法師に逆らおうとしたら雷が落ちるって言う・・・・
アキトは背中に嫌な汗が流れるのを感じた。
「それって・・・・つまり?」(怯え)
「これで貴女はこの誓約を破ることが出来ません」(聖母の微笑み)
「クーリング・オフ制度は!?」(必死)
「この世界には存在していません。
第一、あれは契約の時であって誓約には触れません。」
皆様は悪質商法にはご注意を。(体験者は語る。)
かな〜りやるせない気分を抱いたが顔には出さずにアキトが聞く。
「それで・・・この世界でロストテクノロジーを調べるとは言っても
一体この体で何をしろと・・・・・・・・」
何もできないとアキトは思っている。
一応此処は未来なのである、自分の知識など何の役にも立たないであろう。
しかし、シャトヤーンは言った。
「そんなことはありません、貴方にしかできないことがあります。
論より証拠として――そこのドアを開けて貰えないでしょうか?」
そう言ってシャトヤーンは元々入ってきたドアを指さす。
怪訝に思いながらもアキトはドアを開けるとそこには・・・・・
何処か神秘的なフォルム。
完全には見えないが雄々しく美しく聳える二対の翼
正面にそびえるは超大型のレーザーキャノン。
大体翼まで含めると30Mに達するであろうそれは間違うことなく。
「お・・・大型戦闘機だっていうのか・・・・・これは。」
「はい、白き月の技術の全てを導入して創られる銀河最強の機体。
【紋章機】(エンブレムフレーム)と私たちは呼んでいます。
そしてあれがGA001、コードネームはラッキースターです。」
そうシャトヤーンが説明する。
しかし、アキトはそんな説明よりも知りたいことが出来た。
いや、この際扉の先が違うとかは驚かないが。
「何故・・・何故こんな物を――!?」
「白き月は全てにおいて中立を保っています。
ですが、完全に中立を保つには少なからず武力が必要です。
あくまでこれは防衛用であって攻め入る物ではありません。」
そう言われてアキトは思い当たる。
確かに此処は不可侵であると共にこちらからも不必要に干渉しないのだ。
だから仕方のないことかもしれないと自己完結する。
只、シャトヤーンがカンペ見て話していたことには気付いた方が良かったぞ(汗)
やはり、この人侮れない節が多分にある。
まぁ、その真意についてはすぐに分かるであろうが。
「・・・その言葉、信じます。ですが、俺にこれを見せたと言うことは・・・」
「はい、貴方にはこの紋章機の設計・開発部門の方に入ってもらいます。」
すらすらと並び立てるシャトヤーン、そしてそれに納得するアキト。
何か、こう、詐欺の一歩手前と言った感じである。
「分かりました、ですが先程の誓約は・・・」(疑惑)
「白き月の統治者の名に賭けてでも。」(聖母の微笑み)
ア・・・・完全に掌の中だ(汗)
それからアキトは恐れ多くもシャトヤーンによって宮殿内の民に紹介された。
概ね好評と共に受けいられ、職場での方でも・・・・・・・
〜白き月内部 紋章機開発部門〜
「きゃ〜〜ん、可っ愛い〜〜、ねぇねぇ、アキト君って言うんだよね?」
「アキト君かぁ、それじゃあね、今日から君の名前はあ〜ちゃんね!」
「これからの職場に華が出来たわ(はあと)」
うん、受けいられてる受けいられている(明後日の方向を向きながら)
アキトとしては失念・・・と言うよりも意外中の意外であった。
何と設計・開発部門には女性しかいないのだ。
〜ある時の流れのある場所にて〜
「・・ハァ、何時になっても整備ってのはこう、面白いんだが、華がねぇよねぁ」
「班長!言わないで下さい!!俺達は・・・俺達は・・!!」
「泣くなお前等!そろそろ地球に着くのだ!こういっては何だガ・・・・・
――――今現在アキトがいなくなっちまって皆は失意にくれている。
このままでは俺達としてもかわいそうだから・・・・・・・・・・・」
「うんうん」
「かわいそうだから・・・俺達が慰めてやるのだぁ〜〜〜〜〜
心のメンタルケアから体・・・ムヒョ、肉体のケアまでも〜〜」
「おおおおお〜〜〜〜〜〜っ」
盛り上がっているウリバタケと整備班一同の後ろには『唯一』と言える
女性整備クルーのレイナがスパナを握りしめて立っている。
・・・汝らに幸荒れ(誤字にあらず)・・・
〜場所は戻りまして〜
「・・・・で、その、俺は一体何をすれば良いんでしょうか?」
ようやく皆に解放されたアキトが息も絶え絶えに主任の人に問う。
主任の人はこの中では尤も年長で人望も厚い。
名前はレミータさんといって現役の人妻である。
まぁ、性格はちょっぴりアッチ系だけど。
「うん、あ〜ちゃんにはそうだねぇ、紋章機の方の武装の
シミュレーションに回って貰おうかな?
ほら、聞いた話によるとあ〜ちゃんは戦闘機の武器に興味有るらしいからね。
うんうん、永遠の少年の夢ってやつかしら。」
「・・・・・・・・」
「ン、どうしたの?他に何かやってみたいのとかあったの?」
しかし、アキトはそれとはベクトルが明後日の方向に向いた質問をした。
「・・・・・あ〜ちゃんッて言うのは・・・・一体?」
「あれ、嫌だった?あ〜ちゃん、ほら、皆呼んでるし・・・・・・」
そう言って周りを指さすレミータ。
指の先にはアキトに対して必死の念を送っているクルーの姿が。
「・・・・・・・・・」
「ね?」
覚・悟・完・了
「・・・・はい、あ〜ちゃんで構いません。」
「うん、いい返事ね!じゃあ、お仕事してみよっか?」
ンで、仕事をしてみる事になったのだが・・・・・・・・
「うわわわわ、え、うそ、何、ふぇえぇえ?」
「当たる当たる当た・・・らない?何で?どうして?」
「残りのターゲットバルーンは・・・・あ、無くなっちゃった・・・早すぎ」
大してアキトとしては仕事と呼べるモノではなかった。
紋章機を擬似的に動かして戦闘させてみると言ったモノだったのだガ・・・・・
アキトにとって戦闘機は子供の玩具のような物なのだ。
ブラックサレナの高機動形態の方がよっぽどGも掛かっていた。
よって、初シミュレーションなのにパーフェクトスコアを取ってしまったのだ。
だが、これは流石に不味かった。
本来の目的はシミュレーションの結果によって欠点を発見して補うことなのだ。
いきなり完璧にやられては欠点の発見しようが無い。
まぁ、有る意味良いデータは取れたと思うガ・・・・・・・・・・
「うんと・・・これじゃ・・・ちょっとばかし、無理かな?」
「あ・・はは・は、すみません(引きつった笑)」
「あ、ううん。別にあ〜ちゃんが謝る事じゃないの!
ちょっぴりばかし相性が良すぎちゃったみたいだね、うん次いこ、次!!」
で、続いて武装設計・開発部門
「デフォルトのスペックで高出力レーザーキャノンにビーム砲が数門にっと・・
・・・・バリアまで持ってるのか、成る程。他に付ける物は・・・・・」
「うんうん、こっちの方は何とかなりそう―――」
「・・・無理だな。他にごちゃごちゃと付けたら絶対に性能が落ちる。」
「――じゃないのね(涙)」
武装設計・開発部門、この時点で用無し確定!!
他、転々と各部門を回ってみたが結局アキトが優秀すぎると言うことで
却下となってしまった。
天才型というのも、得てして辛い物があるのだ。
「器用貧乏よりは良い」というのはジュンの弁である。
最終的にはやはりレミータの所で落ち着く形になった。
仕事内容は紋章機のコクピット周りの調整と整備である。
アキトくらいに小柄だと細かい場所にも利くし、アキトの手先の器用さと
頭の回転の良さはこの数時間でレミータも十分に理解した。
「うんうん。最初からここに置きっぱなしにしておけば良かったみゃ〜
・・・・ッて、はれ?何か言葉が変かな?ま、いっか。順調順調〜〜♪」
とはレミータの弁。
まぁ、あんたの前頭葉部にある言語理解中枢については後々にしておいて。
アキトの働きはなかなかの者である。
細かい部分にも手が届くし、人型機動兵器でとはいえ実戦経験は
豊富にあるので適切なアドバイスもできる。
とはいえ、流石に未来のテクノロジーもあるので結構質問の部分もある。
〜紋章機(ラッキースター) コクピット内部にて〜
「あの〜、此処のスペースの部分はどうするんですか?」
「はいはい、そこの部分は後で何かロストテクノロジーを積むらしいから
意図的に空けてるの。でも、コクピットだけでも結構広いわよね、紋章機。」
「ええ、信じられないくらいですね・・・
コクピット周りの火器管制の部分を完全に撤廃すれば十分とは言えなくても
そこそこ空間は出来ますよ。」
アキトとレミータの言うとおりに本当に紋章機の中にはスペースがある。
これから積む部分を差し引いてもアキトの知る戦闘機に比べれば雲泥の差だ。
何か、これだけスペースが空いているのなら・・・・・・・
色々と詰めそうである。そう、色々と。
「確かに・・・これなら雑誌にお菓子に、うん、十分に積み込めるね。」
「何処の脳天気が積むんでしょうね。いや、まぢで。レミータさん?」
「あ・・あははは、やーね、私は主任よ。そんな事するはずガ・・・・」
「その左手の駄菓子類が凄く気になるんですけど。」
今のアキトとレミータは知る由もないが、GA―003
コードネーム『トリックマスター』には限界まで駄菓子が積まれることになる。
まぁ、パイロットの趣味は時に戦場のことを考えさせない物だ。
そんな余談はさておき、そろそろアキトの初任も終わりを迎えようとしていた。
〜紋章機(ラッキースター)前にて〜
「ン〜〜、今日も私お疲れさま。さ、これさえ終わったら愛する娘の待つ
我が家へトリップイ〜ン、待っててね、クレータ、ママはすぐ帰るから!」
「主〜任〜、まったくっ毎度毎度の妄想はそれくらいにして、
さっさと『これ』積んでおきましょうよ。」
「もう、娘を思う母の気持ちは絶対なのよ。
ま、でも、確かに今日の仕事の終わりであって紋章機の山である
『これ』を積み込めばざっと7割は終わってくれるわよ、頑張りますか!」
そう言ってレミータがクレーンを動かす。
クレーンにつり下げられている『それ』は何か機械的と言った感じがしない。
何というかオーパーツと言った物が凄く似合う外観をしている。
「レミータさん・・・・・『これ』何なんですか?」
アキトが質問をしてみる。
あまりにも紋章機に不釣り合いな物だったので仕方がないのかもしれない。
まぁ。ロストテクノロジーというのは大体そんなモノなのだガ・・・・
とりあえず聞いてみれば分かる事なの主任であるレミータに聞いてみるが・・・
「あ、あ〜ちゃんもお疲れさま〜。後で一緒に帰ろうね〜〜。」
聞いた私が馬鹿でしたと猛烈に思った。
駄目だこの人。仕事に私情を挟みまくりというか帰る気満々だ。
代わりに副主任の人が教えてくれた。
このオーパーツの正式名称は「H・A・L・O」
何でもこれこそが紋章機の命と呼べるような物で、研究者の説によると
これを付けたそのときから紋章機は戦闘機という『無機物』から
生命体という『有機物』へと進化するらしい。
「ま、ちょっと逝っちゃってる研究者さん達だから嘘っぽいけどね。」
と、最後に笑って付け加えてくれた。
まぁ、兎も角これを付けるのが本日のラストオーダーである。
とっとと済ませてしまおう。
「レミータさん、クレーンつけて下さい。
コクピット部分への接続なら俺の部署と言うことになりますし。
あ、それとこっちに来て貰えると凄く助かります。」
「O・K!そんじゃまあ〜ちゃん、ちょっと待っててね。
すぐに行ってすぐに取り付けてすぐに帰りましょおぅ!!」
レミータさん・・・貴女は本当に主任ですか。
顔には出さないよう努めながらもそう思うアキトであった。
それでも腕は確かな物でてきぱきてきぱきと仕事が進み・・・・・
残りは起動テストのみとなった。
「ようし!終わったぁぁ。後は起動テストだぁぁぁぁぁ!」
「分かりました。それでは・・・・と。」
レミータの邪魔にならないようコクピットから出るアキト。
「それでは、紋章機【ラッキースター】メインエンジン着けるわよ」
ポチッとな
これで紋章機が動けばこれにて終了、お疲れさまでしたである。
そして、紋章機が起動する確率は100%と数値が出ている。
今まで、どの研究員や整備士も紋章機を動かすことが出来たのだ。
何ら問題はない・・・・はずだったのであるが。
シィィィィィィン
「あれ?」
再びポチッとな
シィィィィィィン
「レミータさん、どうしたんですか?」
「主任、あんまり巫山戯ないで下さいよ、ほら、さっさと着けて下さい。」
最初こそ笑っていた副主任や他の整備士達も時間がたつにつれ焦ってきた。
ひょっとして・・・いや、まさかと言った気持ちが湧き出てくる。
しばらくした後レミータがコクピットから出てきた。
そして・・・・・・・
「ん〜〜〜と、動かなくなっちゃいました。てへ。」
「「〜「てへじゃないですよ、そこの三十路リーチ!!」〜」」
「まだ二十代よ〜〜〜!!!、皆だって何時かは通る運命なのよ〜!」
阿鼻叫喚が始まった。
やれ一から見直すべきだの。やれロストテクノロジーが間違っているだの。
他人に責任を押しつけることがないのは美点と言えようが・・・・
凄まじい状況へと進化している。
何しろ此処には十代から二十代までの女性しかいないのだ。
それらが総勢六十人余り。
一斉に声を出されると・・・・・・・・・
「鼓・・・・鼓膜が破れる。ど、どこかに避難しなければ・・・・・」
当然声を出していない人はこうなる。
て、言うかぶっちゃけアキトである。
しかし、周りの何処を見ても避難できそうな防音設備が整った場所はない。
このままでは限りなく鼓膜がピンチである。
「あ、あの・・もう少し落ち着いてお話をされては・・・
流石に全員が声を出さなくても・・・・・・」
アキトが最後の望みをかけて皆に呼びかける。
だが、そんなか細い声は周りの喧々囂々とした声に消されるのであった。
そして、更にエスカレート。
「あ、あう・・・・初日からこんなイベントが目白押しか。
シャトヤーン様もひょっとしてこれを見越して俺を此処に配属させたんじゃ・・
有り得る・・・・・かも。」
流石の漆黒の戦神でも音波系兵器には弱かった。
意識が掠れながらも必死に出口を求めて彷徨う。
そして、彼の手は楽園へのドアを掴んだ。
ウィィィィィィン
ぷしゅぅぅ
ウィィィィィィィィン
「う、うん?音が聞こえなくなった・・・・・・・?ああ、成る程。」
アキトが掴んだのは紋章機のコクピットハッチで、紋章機の中にいるのだ。
一応、この機体は大気圏内での戦闘も可能性として含めてあるので
爆音が中に伝わらないように完全防音になっているのだ。
「ふわぁ、とりあえずは助かったッと。
しっかし・・・騒ぎの原因に助けられるとは、これまた皮肉だな。
なぁ、一体お前は何が不満で動いてくれないんだい?」
ぽんぽん
ブローディアではないのだから人工知能が答えてくれるわけでもないのに
機体に尋ねるアキト。
すると、上から何かが降りてきた。
シュゥゥゥゥン
「ん?」
それはH・A・L・O=天使の輪っかであった。
いや、冗談抜きに天使様の頭の上に付いているような・・あれ。
そんなファンシーレベル限界な物が今はアキトの上に浮いている。
「・・・・輪っか・・・だよな。それ以外に見えようがないし・・・・。」
思わず一人こぼしを言うアキト。
悩んだ結果がこれではしようがないと思って更に深く考えてみる。
(これは輪っかであって俺の価値観から言うとそれ以上でもそれ以下でも無い。
だがしかし、此処は未来であって更に一度世界が崩壊寸前になっている。
―――即ち、これは新しい文明の中で生まれた認識が必要な物かもしれない。)
あ〜〜、自分の世界に入っちゃった。
誰か起こせ誰か。
(これは私を動かすのに必要な輪っかですよ、あ〜ちゃんさん。)
ン、誰だ?
「(そうか、やっぱり輪っかなのか・・・・)って、えぇ!?誰だ!?」
アキトも気が付いたらしい、コクピット内部を見回している。
だけど、何処にも誰も見あたらない。
しかしどこからか声は聞こえてくる。
そのまま悩んでいたらあっちの方から答えを教えてきた。
(まだ気付きませんか?私ですよ『ラッキースター』です。
えへへ、驚きましたか?紋章機が喋るなんて。)
いや、喋る以前に色々と驚くところがあると思うんだが(汗)
「あ、成る程。そっか、別に紋章機に意志があっても可笑しくはないもんね。」
(そうですよ。私だって生きてるんですから感情の一つ二つ持ちます。)
早くも打ち解けてるし。
て、言うか、常人から見たら十分に異常だと思うんだが。
まぁ、ブローディアのブロス・ディアしかり、ダリアの四神しかりで
結構そう言った物に耐性が付いているのだろう。
「しっかし、いつから俺達のことを見てたの?
俺のことをあ〜ちゃんって呼ぶって事は・・・・・・」
(あ、いえいえ。私はほんの気が付いたばっかりなんですよ。
多分知っているとは思いますが、H・A・L・Oが私の心なんです。
だから、それが積み込まれたときに・・・・・・・・)
「目が覚めた・・・と。」
(はい、そういうことです。)
研究者達の理論は間違っていなかった。
しっかりと彼女(だろう、多分。)には意志が出来ている。
ロストテクノロジー、恐るべし。
まぁ、アキトとしては技術の神秘よりも尋ねたいことがある。
「で、それもそれとしておいて・・・どうして起動してくれないの?
今現在、ものすご〜〜い事態へと段々となってきてるんだけど。」
そもそもの原因である。
これを聞かない限りは降りるわけにもいかないであろう。
いや、別にすぐに降りたいというわけではないのだが。
(はい、それが・・・・何か主任さんじゃ動かしにくくって、えへ。)
この人(?)自分の存在意義に私情挟みすぎ。
えへ、ではなくてしっかり動かさんかい。
「・・・・理由、それだけ?」
(あ〜〜、怒らないでください!だって、私にだって分かりませんもん。
昔私が『チーフ』に作られたときからそう設定されてた様で・・・・・
――私と合わせることが出きる人じゃないと動かしにくいんですよ〜〜。)
そこまで慌てて喋った所為なのか機械らしからずにむせる『ラッキースター』
とりあえず落ち着くまで待ったところで、再び尋ねてみた。
「・・・んで、合わせることが出きる人って言うけど・・・例えば?」
(けほっ・・あ、はい、それはですね、心が綺麗な人なんですよ!)
「さて、レミータさんに今の旨を伝えて置かなきゃ、
紋章機が貴女のことすんご〜〜く馬鹿にしてますって。」
(あ〜〜ん、ハッチ空けようとしないで下さい〜〜。本当なんですよ〜〜。)
その後ハッチに強制的にロックが掛けられてもう一度お話と言うことになった。
(それでですが・・・・心が綺麗な人って言うのは本当なんですよ。
例えば、子供だったり、純粋無垢な人が私を動かす第一条件なんです。
え〜〜と、この説明で分かってくれました?)
「ああ、よく分かったよ。つまりお子様同士気が合うと。うん、完璧だ。」
(違〜い〜ます〜!シャトヤーン様だって動かせるんですよ。
失礼ですよ。そりゃ、『カンフーファイター』とかは少し違うけど。)
「カンフーファイター?他にも同型機が存在するのかい?」
ちょっとばかり気になる台詞があったので深く追求してみる。
すると、ちょっとばかりショックな返事が返ってきた。
(ええ、私『ラッキースター』を筆頭として、
・近接及び格闘戦に長け、機動性に優れた『カンフーファイター』
すっご〜〜く怒りっぽいんですけど、本当はいい子なんですよ。親友なんです。
・遠距離からフライヤーを使ってのオールレンジ攻撃、
そして電子戦を操る『トリックマスター』
この子はすっごく人当たりが良くていい子で友達なんです。
ただ、ちょっぴり本当の心を見せてくれないところがありますけど。
・絶大なる破壊力と弾薬を保持する『ハッピートリガー』
えっと、私よりも後継機なんですけどとっても姉御肌なんです。
すんごく信頼感が置けて頼りに出来ます!
・紋章機の中では唯一ナノマシンによって味方機を回復させる事が出来、
大型バリアによって敵の攻撃を流す『ハーベスター』
ちょっと無口すぎるのが玉に瑕なんですけど、本当は心優しいいい子なんです。
・最後に遠距離からでもその命中率を損なわずに相手を狙撃できる
『シャープシューター』
この子はとっても真面目で何事にも一生懸命に取り組むんです。
えへへ、この子だけは私のことを先輩って呼んでくれるんです。いい子ですよね〜
一応私が知る限りではこの六機が私たち紋章機です。)
「シャトヤーン様・・・・流石に六機は多いよ・・多すぎる。
俺が見る限りでもデフォルトの性能で戦艦数隻と渡り合えるのに・・・・」
(それと、私たちを収容する艦、『エルシオール』ですね。)
「・・・・・もういいよ。これ以上詮索するのはよしてこう。
後からにしておく。で、続きを聞くけど、第一条件って事は第二もあるの?」
探るのは今のところこれくらいにしておいて本題の方に戻るアキト。
少なくとも、今自分が果たさねばならないのは『この子』の起動である。
それに、枝分かれに聞くよりも元を探った方が早い。
(ええ、第二が一番重要ですね。――ご存じかどうかは兎も角としまして。
私たち、紋章機の動力には『重力炉』が使われています。)
それならアキトもレミータ主任に聞いた。
〜GA道 クロノストリング説明編〜
この動力は詳しいことをぶっちゃけて言えば相転移エンジンなのである。
うん、説明終了。
――ではなくて、アキトのいた時代の相転移エンジンとは若干違う。
まず、この動力で相転移エンジンの性能を引き出すためには
『クロノストリング』と呼ばれる特殊な燃料化石を入れなければならない点。
続いて、放出するエネルギーが一定ではなくて確率的なのである。
突然動いたかと思うとぴたっと止まったりとおよそ軍事兵器には向きにくい。
そんなこんなで若干問題はある物の炉に入れるクロノストリングを
増やすなどして均衡を保っている。
但し、今度は最大出力が上がらなくなると言うことで研究者を悩ませている。
ちなみにラッキースターにクロノストリングは一つしか積まれていない。
〜以上 GA道 クロノストリング説明編 了〜
「・・・・てな感じの動力だったと思うけど、それが何か?」
(あ〜ちゃんさん、誰に説明してたんですか?まぁ、それで合ってますけど。
でも、まだ『クロノストリング』には余り知られていない欠陥が有るんです。)
「不便なことで、まぁ、大気圏内でも余裕ならどっちもこっちか。」
まぁ、ウリバタケ辺りが聞いたらどっちの方が素晴らしいか
一週間は寝ずに語ってくれそうだが。
(実は、無人で作動させても「クロノストリング」は大して出力を出せないんです。
ですが素質を秘めている人が乗った場合はリミッターなんて有りません。)
「どうして無人だと駄目なわけ?」
(私たちH・A・L・Oはそのために有るんです。
操縦者の脳と私たちの人口脳をクロノストリングに伝える役目。
そして、操縦者のテンションが機体の出力を上げるんです。)
紋章機の面白い点は此処である。
操縦者のテンションがもろに機体にシンクロするのである。
でも、テンションが上がれば強いというわけでもなく・・・・・・・
(でも、ただテンションが高い人でも私を動かすことは出来ません。
その状態でいて更に冷静に出力をコントロールできる人。
―――それらをクリアしないと私はその人に任せることが出来ません。)
「・・・・本当にいるのかい、そんな人?――信じられなくなってきた。
はっきり言って動かすこと自体が不可能に近いような気がしてきたんだが。」
心が純粋かつ感情の完全なコントロールが出来る人。
こう、考えるとなかなかに難しい物だとアキトは思う。
実際どういった物かイメージすると・・・・・・・・・・
フィィィィィィィィィィィン
「あ、起動した(汗)」
(あ〜ちゃんさん、一体今までの説明の苦労は何処に。[涙])
つまりはDFSの取り扱いと同系列と考えればいいのである。
実際そう考えたら別に動かすことくらい大したことがない。
むしろ、あっちの方が難しかった。
「・・・・・え〜〜と、この場合は一体どういった反応をすればいいのかな?」
(おめでとうございます。今日から貴方が私の操縦者です。)
嫌すぎる。
ちょっとばかり、こういった事になるとは予想も付かなかった。
「ラッキースターとりあえず君には俺よりもずっと君に合った人がきっと
見つかると思うだから俺はその幸せのために身を引くよ」
(句読点無しの棒読みでそんな気持ちは全く伝わらないんですけど。)
「いやぁそんな事は無いさそれに俺若干六歳だしあはは」
(今日からよろしくお願いしますね、マスター(はあと))
アキトは思った。
やべぇ、このままでは確実にパイロットにされる、と。
(良かった〜、私あ〜ちゃんさんみたいな人に使われたいと思ってたんですよ〜
うんうん、えへへ、カンフーファイターもこっちに来たら自慢しちゃおっと。)
脳内妄想が補完されまくってるし(笑)
確実と言った文字よりも絶対と言った文字の方が前面に出てきた。
どうすればいい、一体どうすれば逃げられるこの状況から!?
ピッ
「あ、もしもしレミータさん、見えてると思いますが紋章機が動きました。」
「あ〜〜っ、あ〜ちゃんが動かしてくれたんだ、そっか〜〜!
さんくす。そんじゃぁ、とっとと帰っちゃおっか、レポート明日でいいや。」
「とりあえずマスターキー持ってコクピット開けてくれませんか。
それが起動した際に少しトラブッたらしくて開いてくれないんですよ。」
「りゃりゃ、そりゃ災難。そんじゃすぐ行くからね〜〜。」
「お願いします。」
・
・・
・・・
・・・・
・・・通信装置万歳・・・
(うん、カンフーファイターよりトリックマスターの方に自慢できちゃうな、えへ)
「さて・・・・と。」
がちゃり
「あ〜ちゃ〜ん、王子様が助けに来たよ〜〜〜。ほらほらお姫様だっこ〜」
「止めて下さい。」
マジで嫌だった。
自分が王子であって決してお姫様という役割ではないのだ。
まぁ、そんな建前抜きでも嫌だったが。
「ぶ〜〜、冷てぇ〜〜。それでも可愛いから許すけど。
そんじゃま私と一緒に帰りますか、うん、それが一番。」
「とは言ってもシャトヤーン様の所までですけどね。」
「おっけ。その間に色々悪戯しちゃうから。えっへっへ。」
「ハイはい、行きますよ。」
そして開いていたドアは閉じられて二つの足音は遠ざかっていく。
他の職員も帰ったのだろう、既に何も音がしない。
ンで、紋章機ちゃんはというと。
(でもでも他の娘にあ〜ちゃんさんが乗っちゃったら・・・・
ううん、そんなことはしないよね?・・・って、あれ〜、いないよ〜〜!?)
この段階に行くまで後、数時間掛かった。
人口脳天気ボケボケに合唱。
ンで・・・・多少話が壊れつつも、次のステップへと移行する。
〜シャトヤーンの部屋〜
「さて、初めてのお勤めはどうでしたか・・・・・と、まぁ。
何か―――尋ねたいような顔をしていますね、何かありましたか?」
「俺は――貴女の真意を今一度確かめたくなりました。」
「あら・・・まだ出会ってから一日とたっていませんが、
そこまで言われる程に私は貴方に不快感を与えてしまったのでしょうか?」
「どうか巫山戯ないで俺の質問に答えて下さい。
俺としても―――貴女に手を出すようなことはしたくありません。」
シャトヤーンの部屋に着くなりアキトはシャトヤーンに詰め寄っていた。
イヤ・・・・表現的には不適切だな。
厳密に言うならばアキトは『詰め寄らされていた』の方が正しい。
もちろんアキトは本気でシャトヤーンに対して詰め寄っているのだが
対するシャトヤーンは至って微笑みを崩していない。
何処か、余裕すら伺える。
これもまた、彼女の予測済みなのであろう、アキトの一挙一動が。
得てしてアキトがそれに気付いているのかシャトヤーンに尋ねる。
「貴女は白き月における紋章機の意味を『保身』と答えました。
あのデフォルト状態でのスペック、クロノストリングの絶対エネルギー量。
――――確かに、紋章機が一機だけならばその『保身』が通じます。」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・ですが、紋章機は一機だけではなかった。
彼女の、『ラッキースター』の言うことが事実とするならば―――
この白き月には、後、五機の紋章機が存在すると言うことになります。」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「答えて下さいシャトヤーン様!貴女は一体『あれ』を使って
何を、一体何をしようとしているんですか!?」
最後にアキトは近くにあったテーブルの形が変形するほど
拳を握る力を込めて言った。
そして、その返答は・・・・・・・・
「私が貴方に『この銀河の征服を望んでいます。』とでも言えば貴方は
満足してくれるのでしょうか?」
コレガアナタノホントウノココロナノデスカ?
あまりにも突き放した内容であった。あまりにも感情の起伏が見られなかった。
あまりにもその微笑みが痛かった。あまりにも傲慢なことですらあった。
アキトは、この言葉の意味が分からなかった。
分かろうともしなかった。
分かりたくなかった。
ワカリタクナイ
何故人はこんなにも非道くなれるのかが不思議であった。
何故人はこれ程にまで平気で人を傷つけれるのかが理解できなかった。
いや、理解できる。
自分は人を沢山殺してそれに対して何の感慨も持たなかった。
哀れとも思っていなかったし憐れもうともしなかった。
それと一緒じゃないのかい?
イッショダヨ。
違うよ。
落ち着け。
冷静になれ、落ち着け。
「貴女がそれを考えている場合、それを実行させないように俺はしなくてはなりません。」
激しくなる動悸を必死に押さえて努めて冷静に言い放つ。
自分でも冷静な声が出せたと思う。
そうだ、『漆黒の戦神』なんだからこれくらいは出来なくては・・・・・
「貴方が此処で私を殺しても何の意味も成しません。
民は暴徒となり、かねてから私を好く思っていない皇国へと攻めるでしょう。
その数、実に皇国の3/4。もちろん中には皇国軍も入っています。
そして貴方は例えこの場を逃げ切ってももう二度と戻れません。
――――どうです、それでも貴女は私の命を絶とうとしますか?」
畜生。
何だよ、何なんだよ、一体この人は。
全てを見通しているって言うのか、千里眼?
未来も過去も今も時空さえも掌中だというのか。
聖母が聞いていいところだ。
でも、それでも、なにか、こう――
「ッ・・・ふぅ。――シャトヤーン様。貴女にその様な事は似合いませんよ。
それで、本当の、本当の理由を聞かせていただけませんでしょうか?」
アキトは聞いた。
自分が少しでも信じようとしたシャトヤーンと今のシャトヤーンは違う。
ならば、どちらかが本当の彼女なのだろう。
それならば――どうせそれならば、アキトは信じたい。
アキトが信じようとした微笑みを持った聖母の方を。
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
睨み合っているだけでどんどん汗が背中から出ているのがわかる。
でも、まだ額には出ていない。
ならばもう少しは睨み合いができるだろう、もう・・・・少し。・・は。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・」
だめだ。もう額から汗が出てしまう。
アキトが諦めを感じたときにそれは聞こえた。
「クス。」
「?」
一瞬何がおきたか分からないアキト。
しかし、すぐにシャトヤーンが笑っているのだと分かった。
「クス。クスクスクス・・・・ぷはっ、限界です。
駄目ですね、やはり私にハードボイルドというものは出来ないようです。」
「シャトヤーン・・・・・様・・・・?」
まるで子供のように笑うシャトヤーン。
その笑いには威厳も何もなかった、ただの純粋な笑い。
何が可笑しくて何が楽しいかは分からない。
だけど聖母は笑い続ける。いや・・・聖母と言うよりは・・・・・
『子供』
と言ったほうがしっくりくる、そんな笑いであった。
「クスクス・・・ふふっ、御免なさいアキト君。
今日一日だけで貴方には幾つもの顔を見せてしまいましたね?」
「い、いえ。ですが・・・・一体今までのは?」
「私の内心に存在する月の聖母として不適当な部分・・・・・
私だって人です。少し違うところがあっても人間なのです。
――ですから。」
「俺をストレスの捌け口にしないで下さいよ・・・・本気で退いてました。
何だ・・・・今までのは演技だったんですよね、本当に・・・・良かった。」
安心して思わず崩れそうになるアキト。
何とか体勢を立て直すが次のシャトヤーンの台詞で完全に崩れた。
「私はいつだって本気で生きています。
ただ、貴方のような方ではないとこのような話が出来ませんから。」
「あ・・・貴女と言う人は・・・・・(汗)」
んで、気を取り直してシャトヤーンと話し合うアキト。
すでにアキトの顔に歪みは無い。
そして・・・・シャトヤーンは再び紋章機の存在について語る。
「紋章機・・・いえ、『彼女』達は確かに本来は必要の無い存在かもしれません。
ですが、『この世界』には必要となる存在です。そう――絶対に、です。」
「確かに軍事兵器はどの世界に置いても意味を持ちます。ですが――――
俺が言いたいのはそういった基本論ではありません。ただ、
『あそこまでに過度なほどまでの力は必要あるのか』と言った事を俺は知りたいのです。」
「はい、必要です。これは必然であり当然でありそして必須であります。」
またこの笑顔だ。
アキトは思ったが顔には出さないように努める。
話を流される前に本来の目的を明確にしておかなければならない。
「少し――――ほんの少し俺の説明が足りなかったようです。
その点の事を謝罪すると共に再び尋ねたいのですが宜しいでしょうか。」
シャトヤーンは無言で微笑んでいる。
それを肯定の返事だと受け取り、アキトは続けた。
「では、改めまして聞かせていただきます。
『その必要であり必然であり当然であり必須で十全である
【理由】
そう、絶対に存在するそれを教えてもらえませんでしょうか?』
今度はシャトヤーンは無言ではなかった、ただし微笑んではいたが。
「あなたは運命を信じますか?
ただし、一般的な運命論ではなく必然を伴う運命論です。
例えば――在るところでAとBとCという人が出会ったとします。
ですが、もしこの三人がそのときその場所で出会わなかった場合は
一生涯関わりを持たないものでしょうか?
否、違います。
その三人は何があろうと必ず出会う運命であったのです。
つまり世界は必ず同じ歴史を多少の違いを見せても通ろうとします。」
「・・・その理屈と正論性を理解することは出来ましたが、
つまりはどう言った事なんでしょうか?」
「つまりはそういうことです。あなたにも、じき、分かるときがあります。
何故、皇国軍大艦隊に匹敵する紋章機部隊が必要なのか?
何故、白き月が皇国軍と異なったロストテクノロジーを使うことにしているのか?
それもまた必然であって十全。――――運命です。」
やっぱり分からない。
どこか深い意味はあるようだがどこか引っかかる程度である。
まぁ、だが、皇国軍に謀反を起こすようなこともなさそうだし、何れは分かる・・か。
ならば・・・・・・
「分かりました。いえ、正確に理解をすることは出来ていないのですが――
俺がこの世界に留まる残り15年という時間の中でそれは明かされるのでしょう。
それならば、俺はどうとも言いません。以上です。」
「はい、貴方がそう思うのであればそうするのが最も十全でしょう。」
こうするのが最も賢明な判断であろう。
さて、今日はいろいろとありすぎた。何時かは分からないがさっさと寝てしまおう。
それでは・・・・・
「それではもう夜も遅いので・・・・・・」
「はい、良い夜を。」
〜月の宮殿内 アキトの部屋〜
その後アキトは与えられた自分の部屋へといってすぐにベッドへと潜り込んだ。
ぼふっ
うん、柔らかくてふかふかとしている。いい素材を使っているようだ。
アキトが子供であるということを抜かしても十分に広い。
かなりいい部屋のようだし、何かとしてもいいセンスをしている。
「ん〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!だめだ、もう眠たい。」
そしてアキトは眠りへと落ちる。
深く落ち行く中で今日あった色色な事を思う。
思って思って想って主って面ってオモッテ
白き月への到着から始まってシャトヤーンの出会い。
いきなり白き月への配属が決まったと思ったら紋章機に出会って・・・・・・
(・・・今までの俺の人生の中でもある意味一番素晴らしい一日だったかもな。)
明日になったら今度もまたラッキースターと語り合うのであろう。
そしてほかの紋章機ともいずれか出会うのであろう。
残りは五機。順当に行けばそう何年もかからない内に出会うと推測できる。
・・・・・ああ、もういいや。悩むのは明日からでも遅くは無い。
(それでは俺の世界の皆・・・・・ルリちゃん、ラピス、ユリカ、北斗・・う、うん。)
全員思い出そうとしてそれは遮られる、寝てしまったのだ。
そうしてアキトは再び未来での日を過ぎることに・・・・
残るは14年と364日。
第零章 三話 出会い 強運の天秤編へと続く。
後書きという名の謝罪
次回はとっとと書き上げますと言ってしまった皆様へ謝罪したいと思っています。
すみません。態度がかなり横柄ですね。どうか御平にお願い致します。
zendaman様、ご覧になられておりますか?何とか書けました。
菜奈史様、申し訳ございません。返信が書けずにここまで来てしまいました。
ペドロ様、情熱はかなり受け取りました。・・・・考慮します(汗)
そして住井様、外川様、カイン様、タルスメフィー様、ナイツ様、逆獏様
信様、zerosan様、1トン様、、kcc様oono様、イチモンジ速人様、
Mixture様、「リン」様、森井様覇竜王様、礒野様、匿名希望様、isoemon様、
タカシ様、揶揄様、ウルズ様御剣様、ツクヨ様、HM霞守様、橋本様、サザエぼん様、
三島様そして掲示板に書いて下さるノバ様
待たずに「忘れちまったよ、阿呆」と言ってると思われますが・・・・・・・
お待たせしましたと言うことにしておきましょう(断言)
それでは【天使が舞う銀河にて】第二話をお送りいたしました。
こんな作品を読んで下さって―――――本当にありがとうございます、
皆様のおかげで私はこのまま連載を続けようと言う気になれます
まだまだ連載の方は続けて、完結させようと思っていますので、
これからもお世話になると思います。その度はどうかよろしくお願いいたします。
もちろん、今まで感想を出したことがないと言う方も
遠慮など地平線の彼方に飛ばして気軽に送っていただけると幸いです。
最後になりますが、まだまだ皆様からの御感想は受け付けております。
別に感想だけとは言わずに、苦情、要望、不満、御意見、アドバイス、
小ネタ、自分の知っている知識等も有りとあらゆる範囲で受け付けております。
何かお気づきの点が在れば是非とも私にお聞かせ下さいませ。
すぐにでも修正いたしまして、いずれか改訂版として出させていただきます。
それでは、後書きなのに長々と申し訳在りませんでした。
この辺で失礼させていただきます、ピョロ弐式でした。
P・S
8/22【GALAXYANGEL Moonlit Lovers】発売。
やばっ、ストーリーと烏丸ちとせ様をどうしよう。
シャープシューター出しちゃったし・・・・・人気次第ですな。(汗)
代理人の感想
・・・・・・・・・・・・・・僕はもう疲れたよ、パトラ(ZAPZAPZAP)
いやまじでもう少し装飾を減らしていただけるとありがたいんですが(苦笑)。