駄目天使が舞う銀河にて
大掃除。
それは得てして大晦日等前日に行われるイベントであり、非常に心苦しいイベントである。一年間溜まった家の垢を全部洗い流そうという崇高な指名の元、一家団結の元に行われるのが常である。
………溜まりに溜まった青少年有害雑誌を片付けるお兄ちゃんは、それには含まない事にしておこう。
そんな与太話は一切合財関係なくアキト=マイヤーズは焦っていた。
それはもう、ナデシコの相転移エンジン全機が使用不可になってもここまでは焦らないという具合にだ。
ここまで恐怖を味わった思い出は、ウリバタケさんの秘蔵グッズを預かる羽目になって、それをユリカとルリに発見されたとき以来だ。
いや、もう、ユリカが泣くわ泣くわ、ルリちゃんが「家出して、いいですか……?」と言うわ。
果てしないほどに大惨事だったのである。
で、今現在。それ級にヤバい事が起きると本能が告げている。
とりあえず今のうちに緊急医療セットの精神安定剤を一袋開けておく。
そうでもしないとこれから始まる聖書級大崩壊には耐えきれないとの判断による。非常に適切な処置である。
水も使わずに飲んだ後、盛大にため息をつきながら、今朝掛かってきた電話を思い直す。
無論、相手はミルフィーだ。
『アキトさん、今からソッチに行っていいですか!?』
『………また急だね?』
大晦日だというのに着信10回無視しても切らない電話に業を煮やしてアキトが電話を取るとミルフィーからだった。
ちなみに今アキトは大掃除中。借家とはいえしっかり「立つ鳥、跡を濁さず」と思い立ったので力入れて掃除中だ。
つまり、忙しい。
これでも勝手ほどに忙殺中である。
で、そんなときにわざわざ掛けてくださ嫌がったミルフィーユ・桜葉ちゃんはというと。
『確かアキトさんの家にJBS全巻揃ってたじゃないですか、えのさんの時代の』
無論、ここで言うえのさんは《バナナグローブ》社長の彼だ。
『家を漫画喫茶か何かと勘違いしてやがらねえか?』
『と、いうわけです!!』
既に行く事を前提として話を進めちゃっているらしい。
『……あ〜、無理』
『何ィィィィィィッ!?』
『いや、半分悪意だけど、まず物理的に不可。今大掃除してんだよ。足の踏み場も無いって感じ』
だから是非とも来ないで欲しいというのがこの台詞に隠されたファクターである。
しかし、トランスバール皇国が誇る駄目王女はいい具合にその台詞を変形合体させてしまう。
『つまり………』
『うん、そんなわけだから』
『働かざるもの食うべからず!!読みたければ手伝えという事ですね!!』
受話器越しでも判る駄目オーラの発生と共に切れる電話。
で、今に至ると。
こんな事だったら必死かまして探しておくんだったという後悔の元少しでも被害を減らそうとひたすら荷物を隠していくアキト。
ちなみにその瞳には何も移っていない。
第二次世界大戦末期の日本軍並みに懸命に無駄な努力を重ね続け、そして数分後……………
ぴーんぽーん
ポツダム宣言がなされた。
「アキトさん、来ましたよ〜!!」
「やあミルフィー。実はJBSが運良く見つかってさあ(無駄にさわやかな笑み)」
それでも抗うか日本兵。
「一意専心!!一度決めた事は最後まで貫き通します!!」
広島への原爆投下。
「いや、今だったら『王ロバ』もつけるって」
既にバンザイ・アタック発進完了中。
「こないだ全巻読みました!!」
長崎だけは勘弁してつかあさい。
「いや、次は………」
「桜庭ナックル」
「げふぁ」
そんなこんなな日本の無条件降伏必死な語り合いの後、結局マッカーサ元帥は日本に上陸なされた。
アキトはといえば「………敷島博士、鉄人を完成させてください」だそうである。ネタが判り辛いので却下。
「うわぁ、マジで汚いですねぇ」
「開口一番それか」
まあ、そう言われても仕方在るまい。
今現在アキトの部屋はモノで溢れかえっている。大掃除で言う第二段階だ。
ちなみに大掃除の仕方には大きく分けて五段階まである。まず最初はプロットで、次に物の整理、続けて掃除機、そして拭き掃き掃除をした後に、自己流の部屋に持っていくのである。
まぁ、言わずもはや、第二段階が一番面倒なのである。色々と見たいもの見たくないものまで出てくる。
で、その中には……
「アキトさん、これ何ですか〜?」
そういってミルフィーが拾い上げたものは。
スーパーゲームボーイU
「凄いですよこれ!!意味も無くスケルトンですし!!で、どうしてスーファミとゲームボーイの差込があるんですか!?」
「世の中には知らなくていい事も多く存在するんだよ」
苦虫を3カートンばかり噛み砕いたような顔で応えるアキト。
無理も無い。
「ふーん……で、これは何ですか?」
「………俺に『アスキーシリーズ』を説明させると数時間掛かるから勘弁してくれ」
「あすきー?」
「まぁ、そんなことは気にせずに………」
「じゃあ、最後にこれだけを」
そういってミルフィーの指差す先には。
空気が入れっぱなしなトップライダー風船と専用コントローラー 「ォウ、シィット」
瞬間、アキトは音速の壁を変えるような速さで魂を重力の戒めから解き放ち、速やかにパライソへ向かう皆への仲間入りを果たした。
戻ってくるのに半刻を要したのをここに記しておく。
ちなみにその間にミルフィーが良い感じにトップライダーを制覇したのは別の話である。
「ハンドル取り外した方が楽ですね」
そんな台詞も飛び出したとか飛び出さなかったとか。
アキトが息を吹き返したのでとりあえず掃除を始めることになった。
本人としてはミルフィーにあらされる前に先手を打ちたいといったところであろうが。
「……そんじゃ、ミルフィーはそっちのレトゲーの方よろしく頼めるか?」
「はい、私にかかれば『ファミコンロボット』の一台や二台怖くありません!!」
「…………」
「あ、そうだ。終わったら『キャッ党忍法』と『ドルアーガ』貸してください」
「もう、どうにでもして」
出発前に色々と装備を整えていくのが王道とか抜かしやがって色々な珍ゲー、クソゲー、駄目ゲーを持たせてくださいやがった整備班長をマジで呪いつつ自分の役割の場所へと向かうアキト。
とりあえず片付けてしまおう。そうすれば何とかなる、と救いを求めてだが。
で、数十分後、何とか自分の持ち場所並びにそれ以外(ミルフィーの場所以外)を片付けてミルフィーのところへ行ってみるとそこにあったのは。
体の上半身をダンボールに埋めつつ二本の両足を空中に差し出している少女の姿。
「…………」
事件のあらましを放送開始後4分でといた名探偵な状況に陥るアキト。
「………西部戦線異状なし」
もりもりと萎えていく掃除への情熱を感じつつ、お手本になるくらいの綺麗な回れ右をするアキト。それはもう美しいくらいのターンで。
その顔はもちろんこれでもかってくらいの晴れやかな笑顔だ。なんか、こう、憑き物が落ちたってか、『もう世界なんてどうにでもなりやがれ』と言った感じに見える。
多分、両方だろう。
数時間後。
「いやあ、ようやく終わりますねぇ」
「九割九分九厘は俺がやったけどね」
ちなみに、今現在の二人のヘアスタイルはアフロだ。
多分それは、台所が一部使用不可になっている所に帰依すると思いたい。
一体、何が起きたというのだろうか。
「0,1%の努力が世界を救うのですよっ!!」
そういいながら頭のアフロを取り外すミルフィー。どうやら、取り外し可能らしい。一体どの様な構造になっているのか一度調べてみたいものである。
「ま、後はこの部屋だけだし…………」
そう言って荷物の大半を積んである部屋を開ける。ちなみにアキトの部屋である。
まぁ、日頃リビングで寝ていたり、帰ってこなかったりとして、物置となっているのだが。
「へぇ、ここがアキトさんの部屋なんですか」
ミルフィー的にも興味津々である。自分よか同年代以上の男の子の部屋に入るのは初めてなのだ。例えミルフィーと言えどもちょっぴりは緊張する。
で、それが悲劇の発端である。
「久々に入ったけど、やっぱダンボールしかない部屋だよなぁ………」
「本当ですねぇ。開けたりしないんですか?」
「ま、色々とは言っているからね」
アキトの言うところでは今までに回収したロストテクノロジーも手ごろなダンボールに入れてあるからである。効果が判ってない物を無闇に開けるような危険はしない。
だから、本来ならばミルフィーの立ち入りを禁じたいところなのだが………
でも、それにさえ気をつければ至って普通の部屋である。机の上に飾られている写真がロストテクノロジーによって撮られた『アキトの記憶の中の人物』の写真と気が付かない限り。
この写真を撮るために、アキトはシャトヤーン様の前で土下座までした。
まぁ、ミルフィーユの方も・・・・・・・
「汚名挽回のために頑張ります!!」だそうである。
つまり、もう一回失敗すると言うことだろう。
「とりあえず、そこら辺のダンボール片しといて。また犬神家にならないように」
「らじゃ!!」
ダンボールを運んではおいて運んではおいての単純作業。吹き掃き掃除も出て行く日だけすればいいということで一番簡単な部屋である。まぁ、足腰を使うと言う点では一番疲れるのだが。
ミルフィーも中々に辛そうである。
で。
「ふにゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
ダンボールが雪崩となり埋もれるミルフィー。
案の定。
「あ〜………大丈夫か、ミルフィー?」
「へむぅ。な、何とかへいきですぅ〜……あ〜、崩し、ちゃっ」
そこでミルフィーが崩れたダンボールの中から書籍が何冊か散らばっているのを発見した。しまおうとして手に取った直後、異常に見慣れた(月代わり)表紙が目に飛び込んできた。
『じゅね(ローマ字使用)』
『前略、お父さん、お母さん、アキトさんが私のよく知っている世界に突入しようとしています。ドキドキするほど大ピンチです!!いや、そもそも相手はどなたですか!?』
ほとぼしる魂の絶叫を心で雄たけびつつも、表面上は冷静にアキトに尋ねるミルフィー。
「アキトさ〜ん?なんか私が見たことも聞いた事も無い本が落ちたみたいですど?」
いや、ものごっつぅ、慌てとりますな、やっぱり。
「ん?ああ………こりゃまた派手に…………」
そう言って拾おうとしたアキトの手も止まる。以前レミータさんが好んでよく読んでいた雑誌の山々が今目の前に広がっちゃっているからである。
果てしなく頬を紅潮させて、期待とショックの板ばさみになっているミルフィーの視線がアキトを襲う。
「あ……あき…アキトさん、まさか………美少年趣…」
「い、いや全然、全く、わっけわかんないさぁ!!」
良識人特有の台詞を掃きつつ背後に後退。すると机にぶつかり、写真立てが落ちる。
そこにうつっていたのは…………
”北斗に振り回されるハーリー”
「いや、これは知人を写真に飾るアメリカナイズな習慣を……………」
「桜庭ナックル桜庭ナックル桜庭ナックル桜庭ナックル桜庭ナックル桜庭ナックル桜庭ナックル桜庭ナックル桜庭ナックル桜庭ナックル桜庭ナックル桜庭ナックル……」
「げふごふあびゅぐはげばごばたわばっ!!!」
桃色の世紀末救世主、降臨。
「……………」
「もう、そういう趣味に走るのも別に構いませんが!!ちゃんと両刀使いになってもらわないと困る人もいるんですからね!!」
物言わぬ塊となったアキトにふくれっ面で攻め立てるミルフィー。ちょっぴり駄目入ってるが。もちろん、返事は無い。
そして、当初の目的を思い出しJBSとキャッ党忍法、ドルアーガを両手に持ち帰っていくミルフィー。
ついでに言うならば、背中にトップライダーを担いでいるが。
当然、アキトは放置である。
彼、彼女ははいずれ、皇国の未来を左右する英雄と呼ばれることとなる。いや………こんな奴らでもなれるのだから仕方がないものだ。
代理人の感想
⊂⌒〜⊃。Д。)⊃