機動戦艦ナデシコ
The Triple Impact
第十七話 二つの海 Dパート
カチャッ
「ごちそうさまでした。美味しかったですよ」
料理を全て食べ終え、食器を皿の上に置く海人。
「はい? そ、そうですか。それはどうも…」
(ど、どうしてピンピンしてるのかしら。たしかに料理の中に薬を入れておいたんだけど…)
普通だったら十五分くらい前には身動きができなくなっているハズである。
アクアが不思議そうな視線を海人に向けていると、海人がその視線に気付いて口を開いた。
「……ああ、そう言えばそうでしたね。何故かは知らないんですが、僕にはそういう薬物の類は効き目が無いんですよ」
「え? 何で薬の事を……」
「“同じ体験”を追体験してみて、詳細を思い出した…と言うか、思い浮かんだ…と言うか、まあそういうワケです」
「は?」
「いえ、細かい事はお気になさらずに」
困惑の表情を浮かべるアクアにそう言うと、海人は立ち上がって出口を目指す。
「では、僕はこの辺で」
「ちょ、ちょっと待ってください! あと十五分くらいここにいてくれませんか!?」
「…どうして十五分なんですか?」
「それは、まあ……深い意味はありませんけど……」
アクアは言いながら服の胸にある装飾部分――赤い宝石のように見える――に触れようとするが、
「おっと」
ビュッ!
その瞬間、即座に海人がアクアに肉迫し、隠し持っていたナイフでその装飾部分を切り取った。
「キャアァッ!!?」
しかしそんなことをすれば当然、胸元がはだける。
「な、ななな、何をするんですか!!」
はだけた胸元を押さえつつ、涙目で海人に抗議するアクア。
「あ、すいません、つい……」
海人は切り取った服の装飾部分――この島のチューリップを覆っているバリアの制御装置――を右手に、ナイフを左手に持って詫びる。
「『つい』じゃないです、もうっ! …こうなったら、責任とって一緒に死んでください!!」
海人の行動にかこつけて、とんでもない事を要求するアクア。
「…何故そうなりますか。しかし、あなたは“死”がお望みなんですか?」
海人はアクアの発言に呆れつつも、彼女の目的の要点を確認する。
「ただの“死”じゃなくて“美しい死”です。……そう、私は小さい頃から何一つ不自由なく暮らしてきて、欲しい物は何でも手に入って……。だからずっと憧れてきたんです! 悲劇のヒロインに!!」
「はぁ……」
「幸福すぎたのが私の不幸……私は愛する男の人と二人、戦果に散るの! あのチューリップは神様の贈りものだったのよ!」
雄弁をふるうアクア。…要するに、『幸福に飽きたから不幸を味わおう』と言う事らしい。
「あなたの望みは大体理解しましたが……僕は今の所は死ぬつもりなんてありませんから、あなた一人で死にませんか?」
「え?」
「何、人間なんて割と簡単に死にますからね。チューリップから出て来る無人兵器の手を借りるまでもありませんよ」
言いながら、海人はナイフを頭の高さまで上げる。
「あ、あの……」
「“美しい死”がお望みでしたね、確か。だとすると痛いのは嫌ですか? なら首を刎ねるのが痛みを感じなくていいんですが、それだと“美しい”とは言えませんしね…。心臓を一突きにしましょうか? それならちょっとの間だけ苦しくなって終わりですよ」
恐ろしい事を口走りつつ、アクアに歩み寄る海人。
「ひっ……」
二、三歩後ずさるアクア。何かよく分からないが、先程まで普通に会話をしていたはずのこの男が急に恐く見えてきた。
「逃げないでくださいよ、これはあなたが望んだことでしょう? 僕はそれを叶えてあげようって言うんですから、まさに願ったり叶ったりじゃないですか」
ガタッ
アクアがイスを倒してその場にへたり込む。
(こ、この人……)
――殺す事に抵抗を感じていない。いや、殺す事を大した事だと思っていない。
狂った殺人鬼のように快楽に溺れているわけでもない。機械のように冷徹でもない。
本当に、“気軽に”殺せる人間なのだ。
それを理解してしまうと今度は体全体が動かなくなってきた。無論、恐怖のせいである。
“蛇に睨まれた蛙”と言う言葉があるが、今のアクアはまさにその蛙だった。
「ようやく心の準備ができたみたいですね。じゃあ、心臓でいいですよね?」
「――――っ!!」
声にならない叫びが漏れる。これから貫かれる予定の心臓が異常なほど活発に動いているのを感じる。ノドがカラカラに渇く。南の島にいると言うのに、冷たい汗が体中を流れる。手足が小刻みに震える。視界が霞む――どうやら涙が溢れてきたらしい。
「では、そろそろ」
ヒュッ
銀色の金属片がまっすぐにアクアの心臓へと進む。
(………え?)
突如、海人の動きが――いや、世界の動きの全てがスローモーションになった。
(……格闘技の選手なんかは、稀に相手の動きが止まったように見えるって言うけど、それかしら?)
恐怖が大きすぎて逆に恐怖を感じなくなってしまったのか、アクアは冷静に自分の置かれた状況を分析する。
―――ツッ
ナイフが数ミリほど体に侵入する。
(冷たい……)
まず最初に感じたのは痛みではなく冷たさだった。金属の冷たさ。
この冷たさがこれから自分の中を進んで行くんだろうな、などとまるで他人事のようにアクアが考えたその時、
轟音と振動が響いた。
ドゴゴゴゴゴオオォォォォォンン!!!
「おっ…とっ、とっ、と。いきなり何ですか、この揺れは?」
振動によって海人は体勢を崩し、その場をよろめく。
「……もしかして、もうチューリップを破壊したんじゃないでしょうね?」
振動の原因に心当たりが無くは無いので、それを確認するために窓の外に目をやる。すると森の奥から黒煙が立ち昇っているのが見えた。
「…どうやら間違い無いようですね…。しかしバリアに覆われている以上、生半可な攻撃では破壊できないでしょうから……。グラビティブラスト――違いますね。グラビティブラスト特有の発射音が聞こえませんでしたし、振動がもっと大きくなるはずですから。とすると、透真かアキトあたりが虎牙弾か狼爪弾を使ったか――。……まさかDFSを? 確かに、動かない標的ですからテスト運用には最適でしょうが……」
アクアをそっちのけで、ブツブツと独り言を呟きながら推理する海人。
「もしそうなら、こんな事をしてる場合じゃありませんね。急いでダイアンサスに戻らなくては。ハーリーは記録とっててくれてるでしょうね?」
そう結論づけると、海人は窓から身を乗り出してそこからジャンプ――しようとして、すぐ傍にいた少女の事を思い出した。
「ああ、そうだ。あなたの事を忘れてましたね。……え〜〜と、どうしても外せない用事ができちゃったんで、今すぐ行かなきゃならないんですよ。ナイフは置いて行きますから、それで自分の頚動脈でも切ってくれませんか? そうすれば痛みは感じないらしいですから。それでは、さようなら」
バッ!
そして海人は窓から飛び降り、猛スピードで黒煙の上がる方向へと駆けて行った。
……後に残されたのは、アクアただ一人だけ。
そのアクアが自分の胸元を見ると、破れた服の箇所のちょうど左側が赤黒く染まっていた。ほんの少し刺さった状態で海人がよろめいたためナイフが滑ってしまい、刺し傷の予定が切り傷になったのだろう。
それを確認したら、遅れて痛覚がやって来る。
「痛っ……」
痛い。死ぬ事は無いだろうがとにかく痛い。アクアは傷口を服の上から押さえると、手当てをするためにゆっくりと立ち上がった。
すると、立ち上がる途中で先端が赤い銀色のナイフが視界に入った。
アクアはそれを手に取り、その手を小刻みに震わせながら刃を自分の首に近づける。
しかしその動きは、ナイフが彼女の首から約20センチの距離に達した所でピタリと止まった。
コトンッ
十秒ほどそのままでいた後、アクアの手から海人のナイフがスルリと抜け、床に落ちる。
ガクッ……
アクアはその場に両膝をついてうなだれる。そして、
「……うっ…うぅっ……うっ…うわぁああああぁぁぁあああああぁぁ!!!」
生涯でこれ以上は無いのではないかと言う程、泣き叫んだ。
時間は多少さかのぼる。
海水浴を楽しんだ(一部、例外あり)ダイアンサスクルー達は、本腰を入れてチューリップ探索および撃破に取りかかっていた。
「……この島って…最近になって個人の所有になった……みたい…ね……。あぁ〜〜、気持ち悪い〜〜…」
ブリッジの自分の席で、いかにも本調子ではなさそうににルチルが呟く。……まだ回復しきっていないのだろう。
「へぇ、まあリゾートには適してる場所だし不思議じゃないけど……その人に許可とか取らなくていいの? 一応、敷地内で作戦行動するんだしやっておいた方が…」
ハーリーが実に常識的かつ配慮に富んだ意見を言う。
「その辺は問題ない。ここはクリムゾンの所有だからな」
ハーリーの言葉を聞いて透真が口を出す。それを聞いたハーリーは、
「なるほど、だったら別に許可も遠慮も要りませんね。何てったって商売敵ですし」
あっさり常識と配慮を捨て、いつも通りに仕事に取り組んだ。
ピッ
『クリムゾングループ――バリア関係ではトップの、世界有数の兵器メーカーね。地球を覆う第一次防衛ラインのバリア衛星もここの受注。しかし、その財閥の一人娘は多分に問題児らしいわね』
「「「「問題児?」」」」
いきなりウインドウ通信でイネスが現れるのはもう慣れたので大して驚かず、イネスの発言の最後の部分のみに注目するリン、ミナト、ハーリー、ラピス(ルチルはダウン中)。
『そう。いきなりパーティーで全員の料理に痺れ薬を入れたり、自分のためだけの少女漫画を描かせようと漫画家の誘拐未遂を起こしたり……まあ、クリムゾン家にとっちゃ唯一の汚点よね。以上、説明終わり』
ピッ
そして消えるイネスのウインドウ。
「でも、その程度じゃクリムゾンには大したダメージは与えられないんだよね」
「うん。有名な話だけど、取り返しがつかないって程でもないし」
「……もっと子供っぽい会話しなさい、あなた達」
まったく子供っぽくないハリラピをミナトがたしなめた。
「あれ、会長どうしたんですか? 何か考えてるみたいですけど」
「ん? ああ、いやいや……そう、そう言えばそんな事もあったような気がするな、うん。たった今“思い浮かんだ”」
「はい? どういう意味です?」
いきなりワケの分からない事を言い出した透真に、リンが当惑した顔で聞き返す。
「気にするな、それほど深い意味は無い。…しかし、海人はどこに行ったんだろうな?」
どのようなニュアンスで伝えたらよいのかハッキリしない感覚だったので、話題の方向をこの場にいない――いなければいけない副長に切り替える。
「そうですよねぇ、コミュニケを着信拒否にしたまま帰って来ないのは困ります」
「別にアイツがいなきゃ作戦行動ができないってワケじゃないんだが……やっぱ、いてくれた方が安心できるしな」
うーん、と考え込む艦長と会計・その他雑務担当(リンのダイアンサスにおける役職名)。そうこうしていると、ルチルの弱々しい声がブリッジに響いた。
「チューリップ、発見……。……どうする、透真?」
「ルチルお前、何でそんなに気分悪そうなんだ?」
「…………聞かないで」
「あ、そ」
相手が言いたくない事を無理に聞き出すような趣味は透真に無いので、大して追求はしない。
そして透真はウインドウに映るバリアに覆われたチューリップを眺めつつ、これからどうしようかと考え始めた。
「海人が来るまで待つってのも一つの手だが……いつ戻って来るか分からんし、このままずっとパイロット連中に待機させておくわけにもいかんか。しかし、一応待っとかなきゃいかん気もするし……」
約三十秒間に渡る思考の末、彼の考えはまとまった。
「よし。アイハラ、紅茶を一杯煎れてくれ。それが飲み終わるまでに海人が帰って来なかったら、問答無用で作戦開始だ」
「はい、かしこまりました」
そう言ってリンはブリッジから出て、すぐそばの給湯室(新しく作った)へと向かう。
「しかし、あのバカはどこに行ったんだか……ひょっとして、あの女に引っ掛かってるんじゃないだろうな?」
有り得る話である。しかし海人だったら軽くあしらって――いや、
(確か、自殺志願者だったからな…。『お手伝いしてさし上げますよ』とか言って殺してるんじゃないだろうな)
けっこういい線行ってたりするのが怖い。
「はい会長」
「ん」
リンが差し出した紅茶を一口飲む。
(……ま、その時はその時か。困った事になったら、困った時に考えよう)
非常に場当たり的な考えを持ちつつ、透真は紅茶の二口目を口に含んだ。
と、その時、
ピッ
『艦長、ちょっと話があるんだけど?』
唐突にイネスの顔を映したウインドウが透真の前に現れた。
「先生が出てくるって事は……おいアイハラ、説明を要するような事とかあったっけ?」
「今の所は無いはずですけど…」
『今回は説明じゃないわよ。…まったく、説明しか能がない女みたいな言い方しないで頂戴」
「え、違うんですか?」
「いや、医療班並びに科学班担当だからな。ついでにカウンセリングとかもやってるし、コンピュータ達の話し相手とかもしてるらしいぞ」
「へぇ〜〜、ただの説明好きな白衣のオバさんじゃなかったんですね」
『誰がオバさんよ、誰が!! 私はまだ二十八歳よ!!!』
般若の形相でリンを怒鳴りつけるイネス。それに驚いたリンは、思わず二、三歩後ずさる。
「……充分オバさんじゃない」
ルチルが囁くような声で言う。囁くような声だったのでよほど注意しなければ――いや、注意しても聞きとれないはずなのだが、それでもイネスは目ざとくその声を聞きつけ、ウインドウをルチルの近くまで移動させた。
『……ルチルちゃん、あなたの“オジさん”“オバさん”の基準って何歳からかしら?』
えらい真剣な面持ちで尋ねるイネス。……何が彼女をここまでさせるのだろうか。
「え? 透真より年上だったら…かな、やっぱり」
少し考えてからそう答えるルチル。
『ふ、ふぅ〜〜ん、艦長が今二十四歳だから…なるほど。まあいいわ、その事に関しては後でゆっくりとお話しするとして…。それで艦長、話があるんだけど?』
「『先生より年上になれ』とか言われても、無理だぞ」
『……そんな事を言うわけないでしょ。話って言うのは、海人君の事よ』
「海人の?」
透真が紅茶のカップを右手に持ちつつ訊く。
『そう、海人君の。……で、さっき艦長、『あの女に引っ掛かってるんじゃないだろうな』って言ったけど、その“あの女”って誰?』
「ああ、その事か。さっき先生に説明してもらったクリムゾングループの一人娘の事だよ。この島にいるらしいからな、バッタリ遭遇して別荘へ御招待〜〜とでもなってるんじゃ、ない…かなぁ〜〜って……せ、先生、顔が怖いぞ?」
イネスの顔は、透真の話が進むにつれて徐々に険しくなっていった。それをウインドウ越しとは言え正面から見つめるのは、かなり辛い物がある。
『………気にしないで。ありがとう艦長、とぉ〜〜っても参考になったわ』
「お、おう。そりゃ何よりだ」
ピッ
「……何だったんだ」
「それは、まあ……“言わずもがな”ってヤツですよ」
苦笑しつつリンが言う。
「何が?」
「…会長、ひょっとしてあれだけ露骨にやってるのに、気付いてないんですか?」
「だから何がだ?」
「自分に向けられる物にも、他人に向けられる物にも鈍感なんですね……」
「?」
心の底から呆れるリン。そんな彼女の様子を見て透真は首を捻る。
「よく分からんが、とにかく――」
クイッ
透真がカップに残った紅茶を一滴残らず飲み干す。
「――作戦開始だな。一応全機出撃しておけ。……さて、ウリバタケさん、俺のサレナにDFSを装備させてください。……大丈夫ですよ、標的はバリアに覆われて動きませんし、攻撃もできないでしょうから。……そりゃ、俺が出る前に片付いてる可能性はありますが…それならそれで構いませんし」
ピッ
通信によるウリバタケとの会話を終えると、透真は艦長用スイッチを押して格納庫へと一直線に降りて行った。
ババババババババ!!
ヒカルとアカツキのディモルフォセカが同時にラピッドライフルを撃ち、
ドゥンッ! ドゥンッ!
イズミがレールガンで攻撃し、
「ゲキガンッ!! フレアアアァァァァァッ!!!」
ドゴォンッ!!
ヤマダがフィールドを纏わせた拳で殴りかかり、
「はあぁっ!」
バチィンッ!!
リョーコがフィルドランサーで斬りかかり、
ドガガガガガガッ!!
アキトのブラックサレナがハンドカノンを乱射するが、それでもチューリップを包み込むバリアを破る事はできなかった。
「いやはや、なかなか頑丈なバリアだねぇ。さすがクリムゾン製」
「感心してる場合か! …ったく、ランサーだったら破れると思ったんだけどなぁ……」
「それはディストーションフィールド用のランサーだしね、それ以外は畑違いって事なんでしょうよ」
「…イズミちゃん、冷静に分析してる場合じゃないよ」
「よし、こうなったら最後の手段だ!! みんなで一斉にゲキガンフレアを――」
「しかし、このままじゃ埒が明かないからね。どうしようか?」
ヤマダの発言を綺麗に聞かなかった事にするアカツキ。
「……テンカワ、お前ならどうする?」
そしてヤマダを無視したまま、リョーコがアキトに尋ねる。
「おい、無視すんな! 大体、いきなり叩き起こされたと思ったらすぐ戦闘ってどういう事だ!? 俺は海で遊んでないんだぞ!!」
「…そうだな、通常の武器で崩せるのならそれに越した事は無かったんだが…。よし、お前ら離れてろ。バーストモードでカタを――」
ヤマダを黙殺し、アキトが手を下そうとしたその時、
「ちょっと待ったぁ!!」
行動の中断を要求する声と共に、ゴールドサレナがやって来た。
「透真? ……わざわざゴールドサレナを使わなくとも、この程度だったらおそらくブラックサレナ一機で充分だろう」
「おそらくその通りだろうが、ちょっと新兵器の実験も兼ねててな。今回の相手は攻撃も移動もしないんだし、うってつけだろう?」
「それはそうだろうが、新兵器って一体何だ? お前が自分からわざわざ出て来る程の新兵器なんてそうそう――」
スッ……
アキトの質問の途中で、ゴールドサレナがその右手に持っている物を頭部の高さに掲げた。
「――何っ!!? おい、ちょっと待て! DFSはまだ試作段階のはずだぞ!!」
それを見たアキトが血相を変えて透真に食って掛かる。
「その試作品の実験を今やるんだよ。…分かったらとっとと下がれ、お前がやったフィールドランサーの実戦テストなどとは比較にならん程の危険度だからな」
「だったら……! ……チッ、分かったよ。ったく、お前のその“こうと決めたらそれがどんなに下らんことだろうが死んでもやる”ってポリシーは変えた方がいいぞ。現にお前の戦う目的だって――」
「はいはいはい、ストップストップストーーーップ!! 艦長もアキト君も、二人で勝手に盛り上がってないで私達にその“新兵器”の説明をしてくれない?」
だんだん二人にしか理解できない内容になって来たので、ヒカルがアキトと透真の間に割り込んで会話を止める。……そして――本人はおそらく意図していないだろうが――ある意味で“最大の禁句”を口走ってしまった。
ピッ
『では、リクエストにお応えして……説明しましょう!!』
ヒカルが説明を頼んだのは透真とアキトだったはずなのに、何故かイネスが現れて説明を開始する。
『まず、今ゴールドサレナが持ってるその“新兵器”だけど、それは正式名称ディストーションフィールド収束装置――通称、ディストーションフィールドソード――DFSと言うの。正式名称の方は長ったらしいから、これ以後は通称の方でDFSって呼んでくれていいわよ』
「「「「「DFS?」」」」」
ディモルフォセカ隊全員が声を揃えてその名称を口にする。
『そう、発案が石動 透真とテンカワ アキト。設計が天宮 海人と私、イネス フレサンジュ。製作が天宮 海人とウリバタケ セイヤという、まさに最強のドリームチームによって作られた物なのよ』
「……“最強のドリームチーム”って言うか、“ダイアンサス危ない人ベスト5”の様な気が……」
ヒカルが多少の怯えを含ませた声で言う。
「その正式名称や通称から推察するに、ディストーションフィールドに関係した武器のようだね」
ヒカルの言葉に心の中で大きく首肯しつつ、アカツキが考えついた事を喋った。
『ええ。お察しの通り、DFSとはディモルフォセカが――まあ、少し手を加えれば多分エステバリスでも使えるようになるでしょうけど――身に纏うディストーションフィールドを、剣の形に収束する装置なの』
「それだけだったら、別にアキト君が言うほどの危険は無いんじゃない?」
ただフィールドを収束するだけなら、普通の機動兵器でもできる――と、言外にイネスに問うイズミ。
『説明は最後まで聞きなさい。……で、これからがこの武器の最大の問題点にして最大の特徴なんだけど……このDFSは要するに防御に回す分のエネルギーを全て攻撃に回して攻撃力を上げるワケだから、出力を上げれば上げるほど、それを操る機体の防御フィールドが限りなくゼロに近くなって行くのよ』
「なっ、何い!? じゃあ、ミサイル一発でも命中すれば――」
リョーコが驚愕の声を上げる。
『機動兵器もフィールドが無ければただの金属の塊だし……下手をすればコナゴナ、普通に考えればバラバラ、人の形を保っていられればお慰みってヤツよ。……まあリスクの分、威力は絶大だけどね』
流暢に説明するイネス。そこで一息ついてウインドウの中のギャラリーを見回すと、皆の表情がほとんど一致している事に気が付いた。
『あら、何故そんな危険な物を――って顔ね、みんな』
「あ、当たり前ですよ! いくら攻撃力が高いからって、自分の防御を犠牲にしちゃ…!!」
必死な顔でイネスに訴えるリン。DFSを使おうとしているのが透真であるため、気が気でないのだろう。
『…まず、この武器は“対マシンナリーチルドレン用に、常に虎牙弾・狼爪弾クラスの攻撃力を生み出すにはどうしたらよいか”と言う艦長の考えから始まったの。そのため虎牙弾・狼爪弾を撃つ時の“高出力フィールドの収束”が大きなヒントになったわけ。でも、常にあんな超高出力のフィールドを拳に纏っていると指が動かなくなる危険性があったため、拳ではなく剣にした……』
「そういう事を訊いてるんじゃないです!!」
『説明は最後まで聞きなさいってば。…本来、この武器は二、三人くらいのチームで攻撃・防御と役割を決めてから一瞬だけ刃を発生させ、敵を撃墜。……この艦長が考えた戦法なら、戦艦を相手にしてもディモルやエステで充分に戦えるわ。実際、私とウリバタケ班長はそうやって使うと思ってた。でも、極秘裏に行われたシュミレータによるテストで、艦長とアキト君の採った戦法はそうじゃなかった』
「……自分で考えた戦法を、自分で否定したのかい?」
アカツキが透真に信じられないと言うような視線を向ける。
「まあな。その戦法は言うなれば“一般用”の使い方だ。…防御力がゼロになっても、機動力がゼロになるってわけじゃないだろ? だから――」
『――だから、艦長とアキト君はサレナタイプの機動力を最大限に活かし、敵の攻撃を全て回避すると言う選択をした。……アルファが作った攻撃プログラムを全て回避して見せたわよ、彼らは』
透真のセリフに割り込んで説明を続けるイネス。あくまで自分が説明しないと気が済まないらしい。
「でも、所詮コンピュータがプログラムしたシミュレータなんでしょ? 実戦でも通用するとは限らないんじゃ…」
イズミが疑念を込めてイネスに言う。と、
ピッ!
『おい、『所詮コンピュータ』とは何だ!! こっちはイザとなったら、てめぇの乗ってるディモルフォセカを問答無用で遠隔操作したり自爆させたりできるんだぞ!!』
いきなりイズミの前に十六、七歳くらいの青い髪の少年を映したウインドウが出現した。
「?」
当惑の表情を浮かべるイズミ。
ピッ
『落ち着きなさいアルファ、そんな事をしたらデリートされてしまいますよ』
そのウインドウの横に現れたもう一つのウインドウには、少年と同年代くらいの年の少女が紫色の長髪をたなびかせながら映っている。
ピッ
『そうそう、下手な発言は控えた方がいいよ』
最後に出て来たウインドウの中にいたのは、オレンジ色の髪の十四、五歳に見える少年だった。
「………誰、あなた達?」
イズミが訝しげに少年達に尋ねる。
『ダイアンサス搭載オモイカネ型コンピュータのアルファだよ。名前くらい聞いた事あるだろうが』
不機嫌そうな口調でそう言う青い髪の少年。
『同じくイクスです。この姿で皆さんにお会いするのは初めてですね。以後、お見知りおきを』
紫色の髪の少女がペコリと一礼する。
『で、僕がダッシュ。ホログラフの体ってのも、なかなか悪くないね。…オモイカネもホログラフを作ってもらったらしいけど、どんなのだろう?』
前の二人に比べ、比較的軽い調子で挨拶するオレンジ髪の少年。
『って、自己紹介なんざどうだっていいんだ。…おい、そこの暗めの姉ちゃん、さっきの『所詮コンピュータ』って発言は取り消せ! 俺達だって人間と同じように“性格”とか“感情”とかがあるんだよ! お前らだって『所詮は人間』とか言われたらムカつくだろうが!!』
「それに、補足するとアルファの作った攻撃プログラムは実際の無人兵器より二割強ほど強かったし、動きもトリッキーで手強かったぞ」
『……ま、透真やアキトにはアッサリやられちまったけどな』
ダッシュを弁護するように言葉を紡ぐアキト。それを聞いたイズミはウインドウの中のアルファに向き直り、
「…確かに私も『所詮は』とか言われたら不機嫌になるでしょうね。さっきの言葉は謝るわ、ごめんなさい。……ああ、それと」
『ん? 何だよ?』
「そのあなたが作った戦闘プログラム、後で私にも試させてもらえるかしら?」
『おお、構わないぜ。でも、途中でギブアップすんなよ?』
「…フッ、楽しみにしてるわよ」
『はいはい! その辺で口論に決着は付いたわね? それじゃ、説明の続きに行くわよ!!』
いきなりイネスのウインドウが大きくなり、その存在をアピールする。どうも説明を中断されたのが気に食わなかったらしい。
『…さて、このDFSには、もう一つ大きな特徴……と言うか、欠点があるの』
「欠点だらけだな」
ボソッと呟くリョーコ。幸いイネスの耳には入らなかったようだ。
『それは艦長とアキト君以外にはDFSを使えない、と言う事』
「何ぃ!!? どうしてだよ!!」
ヤマダが憤る。せっかくの新兵器を使う事ができないのは、この男にとってかなりショックであるらしい。
他のメンバーも声にこそ出していないが、ヤマダと同じような視線でイネスを見ていた。
『単純に、あなた達ではDFSを使用しながらの移動ができないからよ。…ディモルフォセカやエステバリスなどの機動兵器は、IFSのイメージを通して動いてる事は知ってるわよね?』
パイロットにとっては基本事項――と言うか、必要最低限の知識である。知らない方がおかしい。
イネスは沈黙によって肯定を表す各パイロットを見回し、説明を続ける。
『IFSによって“歩く””走る”“飛ぶ”“殴る”“斬る”などの動きを機動兵器へ伝え、そして動く。これは単純な動作で、誰にでもできるわ。次に移動しながらライフルを撃ったりする――“移動する”と“ライフルを撃つ”の二つの動作を同時に行う事だけど、これは実は比較的簡単なの。
どうしてかと言うと、機動兵器にあらかじめ搭載されたコンピュータがサポートしてくれるから。パイロットが“撃つ”と言うイメージを伝えればライフルは発射される。でもDFSにはそのサポートが無いのよ』
「サポートが……無い?」
『そう。ライフルなどと比べてDFSのシステムがあまりにも複雑すぎるせいで、通常のコンピュータじゃとても処理しきれないの。それにIFSを通して“刃を出す”と“戦闘する”の二つの事を同時に制御しなきゃいけないのよ? 例を言うと、全力疾走しながら裁縫するような物ね。実際、海人君は“刃を出しながら普通以下の速度で歩く”程度で精一杯だったわ。
言ってみればDFSは、まさに諸刃の剣ね。しかも使える人間が二人しかいない…。通常兵器としては欠陥品以外の何物でもないわ』
フウ、と軽い溜息を一つだけついて、イネスのウインドウが消える。どうやら長かった説明は終了したらしい。
「うーーん、まさに一撃必殺ってワケね。……自分の防御を犠牲にするってのはいただけないけど」
ミナトが呆気にとられた顔で言う。
「ええ。でもバーストモードを使ってフィールド自体の出力を上げれば、防御に回す分にもエネルギーを分配できるハズです。ゴールドサレナにもバーストモードは付けましたしね、透真さんなら上手く活用できますよ」
「あらハーリー君、あの武器の事を知ってたの?」
「一応は。僕は海人さんの助手ですからね。…さあ始まりますよ、DFSの初お目見えです。一応記録しておいた方がいいかな?」
記録しておかないと後で海人に何を言われるか分からないので、取りあえずやっておく事にする。
ブウウゥゥゥゥンン……!!!
黄金の機体がその手に持つDFSから、真紅の刃が発生した。
透真はその刃をじっと見つめる。
(…やはり、この武器は扱いが昂気に似ているな。まあ、使い方が似てるんならやり易いってもんだが……)
「…バーストモード、スタート!!」
カッ! ブォォォォォオオオオオオンンン!!!!
機体の出力が跳ね上がり、それと同時に刃の輝きも増す。
「ダイアンサス、ディストーションフィールド出力最大!! デカイのが来るわよ、総員、衝撃に備えて!!」
回復したらしいルチルが艦内中に注意を促した。
「了解!!」
ブリッジはもとより、艦内中から声が返って来る。
ゴォオオッ!!!
ダイアンサスにフィールドが張られた事を確認すると、透真は標的――バリアに包まれたチューリップ――へと、ゴールドサレナを加速させる。
「はあぁぁぁぁっ!!」
ギュオンッ!!
透真のかけ声と共に、真紅の刃が一気にその刀身を200メートル程に伸びた。
そしてゴールドサレナは瞬く間にチューリップへと肉迫すると、
「おおおおおぉぉぉぉぉおおおっ!!!!」
ザン………ッ!!!
バリアもチューリップも、DFSを通して透真に大した手応えを伝える事無く、一刀両断にされてしまう。
ゴールドサレナはそのままチューリップを通り過ぎて止まり、振り返らずに真紅のフィールドに身を包む。
瞬間、
ドゴゴゴゴゴゴオオオオォォォォォォォォンンン!!!!!
チューリップが盛大に爆発した。
「うわあああぁぁっ!!」
「きゃあっ!!?」
「ハ、ハーリー君、ラピスちゃん、大丈夫!? しっかり掴まってて!!」
「…ったく、ディストーションフィールドってのは実弾や単純な衝撃には弱いんだから!」
などなど、ダイアンサス内部ではかなり大規模な振動が計測されたのだが――、
――それより酷いのは、外に出ていたディモルフォセカ隊である。
「くうぅっ!! フィールド出力……俺一人だけ上げても意味が無いか! みんな、衝撃が治まるまで取りあえず離れておけ!!」
「わ、分かった! テンカワ!!」
「命は惜しいからね…」
「…しかしまあ、とんでもない新兵器だねぇ」
「あ、あれ!? ヤマダ君の反応が無いよ!?」
「何ぃ!? 本当か、ヒカル!!?」
「う、うん…。あ、そう言えば、『近くで見てやる』とか何とか言ってたような気が…」
「ったく、あの馬鹿は…。衝撃が治まり次第、探すぞ!」
「「「「りょうか〜〜い!」」」」
そして先程までチューリップがあった場所には巨大な爆発跡が残り、嵐は過ぎ去った。
「……なんとか乗り切ったみたいね……。…ダイアンサス艦内、及びディモルフォセカ隊のチェック!」
ルチルは衝撃が治まった事を確認すると、即座に味方の損害を調べ始める。
「了解。格納庫、食堂、医務室、居住ブロック、通路――損害は転んでケガした人がいるくらいだね」
「相転移エンジン――さっきので多少負荷がかかったみたいだけど、問題無いわよ」
「ディモルフォセカ隊――ヤマダ ジロウの機体に多少の損傷があるけど、パイロット自体は気絶で済んでるみたい。その他はみんな無事」
「大して問題は無いみたいですね。それで会長は…?」
各員の報告を聞くが、肝心の報告がされていない事にほんの少しだけ焦りを見せるリン。
「大丈夫、ちゃんと無事よ。通信も入ってるわ」
実は誰よりも早く透真の無事を確認していた様子など微塵も見せずにルチルが言う。
ピッ
『よう、艦内に異常は無いか?』
「大丈夫、これと言った損害は無いわ。…仕事が終わったんなら、とっとと帰って来なさい」
『了解、艦長代理どの』
「…艦長が言うセリフじゃ無いでしょ、それ」
ルチルをからかいつつ、ダイアンサスへと帰艦する透真。
それにならって他のディモルフォセカ隊も帰還していく。
『実戦でもなかなか使えるようだな、DFSは。俺も次から標準装備しよう』
『…あんな滅茶苦茶な武器を標準装備って…。…それ以上バケモノ具合に磨きをかけてどうするんだい。しかもアレって使ってる間は防御がゼロになるんだろ?』
『ま、いいじゃねぇか。テンカワだったら大丈夫だろ』
『ほぉ〜〜、『テンカワだったら大丈夫』ねぇ〜〜』
『な、何だよ、文句でもあんのか?』
『別に。…さて、帰って一休みしたらダッシュの戦闘プログラムとやらを試させてもらわなくちゃね』
『あ、私も一緒に行っていい?』
『多分いいと思うけど……ヒカル、ちょっと遅れてるわよ』
『しょうがないでしょ。ヤマダ君の機体を持ってるんだから、それだけ重くなっちゃって速度も落ちてるの』
『う〜〜ん……俺にも…ゲキガンソードをぉ……』
『……何か寝言言ってるな』
そんな感じに雑談しつつダイアンサスへと帰って行くディモルフォセカ隊。
全機が帰艦した少し後で海人も無事に戻って来たのだが、どういうわけだか帰った直後にイネスから圧倒的なプレッシャーを受けつつ『今までどこで何をしてたのかしら?』とか『何でそんな所に行ったの?』とか言う尋問に答えなければならないハメになってしまった。
「何で僕だけこんな目に……。しかも『特別な事は何も無かった』って言ってもイネスさんは全然信用してくれませんし……。どう思います、ハーリー?」
「“女性の家に招待されて、ただ食事をご馳走になっただけ”なんて言っても、信用しづらいでしょうに」
「嘘は言ってないんですがねぇ…。起こったイベントを強いて挙げるなら、彼女を殺しかけた事くらいですよ」
「……十分過ぎるほど“特別な事”ですよ、それ」
「そうですかね? …まあ、それはともかく、DFSの記録はとってますか?」
「一応は。後で海人さんの端末にデータを送っておきますよ」
「頼みます」
ゴゥンゴゥンゴゥン……
夕日をバックにテニシアン島を後にするダイアンサス。
「「「「………」」」」
そして、それを見送るクリムゾンSSの比較的軽傷だった面々。
「……凄いヤツだったな、あの男……」
「ああ、本格的に再起不能になったヤツもいるみたいだしなぁ…」
「しかも素手だぜ、素手?」
「何か、自分が今まで信じてきた世界が音を立てて崩壊して行くような気がするよ…」
「「「「ハァ……」」」」
揃って溜息をつくSS達。
「隊長、この仕事辞めるってさ…」
「あ〜〜、その気持ち分かるなぁ…。俺も辞めよっかな?」
「…ま、別に止めねぇけどよ。…そう言えば、お嬢様はどうしてる?」
「寝込んでるぞ。精神的なダメージが大きいとか何とかっつー話だったけど、俺には詳しい事は分からん。そっちの専門家でもないしな」
「ふーん…。まあ、これで当分の間はこの島に誰かが来る事も無いだろうし…」
「って言うか、俺『こんな島に誰も来ねぇよ』と思ったから、そこに住んでる人のガード引き受けたんだぜ? “楽ができて給料そこそこも高い”って。なのによぉ…」
「言うな。この島にいるガードのほぼ全員が、お前と同じ動機でお嬢様のガードに付いたんだから」
「競争率、高かったよな」
「…そのせいで実力派が集中したんだけどよ」
「『楽ができる』と思って大ケガしたんじゃ、割に合わねぇよな…」
「……取りあえず、過ぎた事は早めに忘れるように努力しようか……」
「…………そうだな」
「…………そうしよう」
「…………そうした方がいいよな」
一気に老け込んだ顔を四つ並べ、SS達は揃って二度目の溜息を吐いた。
ナデシコとダイアンサスがそれぞれの任務を終了したのとほぼ同時刻――。
火星、極冠遺跡。
「…時期的にはそろそろだな」
「すると、いよいよ…」
「ああ、計画を第三段階に移行する。リグレット、カルマ、グラッジ、エンプティネス」
「「「「はっ…」」」」
「行動を開始しろ。イレギュラー、あるいはナデシコが現れた場合の対処にはエンプティネス、お前が当たれ」
「…仰せのままに」
そして四つの人影は音も無く消えて行った。
「……準備は整いつつある。そして、後は少しの時間をかければ全てが終わる……」
自分以外に誰もいないはずの空間で、ポツリと呟くマスター。
そしてマスターは『望みの物』を持って戻って来るはずの四人を待つのだった。
あとがき
ラヒミス「…う〜〜む、初めてのパート分け…。成功したのか失敗したのかよく分かりませんが…」
イネス「何事も慣れなんじゃないの? こういうのは繰り返しが大事よ」
ラヒミス「まあ、今回はDパートまででしたが…」
イネス「微妙に長いわね」
ラヒミス「一つのパートあたり20k〜40kくらいですからね。もう一話あたりが100k超えちゃいそうです」
イネス「『50kは多分超えません』とか言ってた時が懐かしいわね…」
ラヒミス「まったくです。…ではまず、Aパートの反省に行きましょうか」
イネス「北極海の作戦は、ナデシコのみの任務なのね」
ラヒミス「戦艦が二つもあるんですからね、こうやった方がかえって自然でしょう。さすがに救出任務に戦艦を二つも回すほど軍も馬鹿じゃないでしょうし」
イネス「なるほど。……どうでもいいんだけど、エステバリス隊の戦闘シーンって少しあっけなさすぎない? 何か消化不良な感じが……」
ラヒミス「うーん…、でもA案を選ぶと展開がテレビ版と同じになっちゃいますし…。…しかしB案もパッとしないような…。ああっ、私はどっちを選べばよかったんだ〜〜!」
イネス「……そういう事は、Aパートのあとがきに書きなさい」
ラヒミス「フッ、今更言っても後の祭りですが、言わずにはいられないのが人間と言うものなのですよ。分かりますか?」
イネス「さあね」
ラヒミス「この女……。 ……ま、いいです。では次、Bパート」
イネス「艦長のカナヅチ発覚ね」
ラヒミス「“一つくらい欠点があった方が可愛げがある”って事で、こうしました」
イネス「“可愛げ”って…」
ラヒミス「“親しみ”でもいいですよ。…実際にそれが持てるかどうかは、また別の問題ですが」
イネス「ふーん…。それはいいとして、何気に次の機体をチラつかせてるわね」
ラヒミス「『それはいいとして』って…。 ええ。取りあえず名前だけでも、と思いまして。イメージは大体固まってるんですが……と言うより、早めに決めておかないと私が名前を忘れてしまう可能性がありましてね」
イネス「…何かにメモしておくとか、他に手はいくらでもあるでしょう」
ラヒミス「決めたんなら早めに出したほうがいいと思いますし。…それにしても、名前を付けるって難しいですね。ナデシコの機動兵器・及び戦艦の名前は、花や植物の名前から取っていると言う事は大半の人が知っていると思いますが…」
イネス「大体の人は知ってるでしょうね」
ラヒミス「“カッコいい名前”と“ある程度キャラと一致した花言葉”を合わせ持つ花を探すのってえらい大変なんですよ、コレが」
イネス「どちらか一方だけが良くても駄目って事、か…」
ラヒミス「ええ。人名みたいに一から考える方がまだマシです」
イネス「まあ、せいぜい頑張ってちょうだい」
ラヒミス「…ドライですね、貴女」
イネス「クールと言って」
ラヒミス「あー、そうですか。では次、Cパート」
イネス「…どうして海人君が、あの小娘なんぞの所に行くのかしら?」
ラヒミス「いや、どうしてと言われましても…。ある意味最適でしょう? 声優ネタもできますし、海人の知られざる一面も描写できますし」
イネス「知られざる一面、ね…。彼の記憶っていつごろ戻るのかしら?」
ラヒミス「それはいずれ――としか言えませんね。……『って事は、“あのキャラ”と“あのキャラ”が同時に出て来るのか』とか思っている方、ぜひお楽しみに」
イネス「一部の人にしか分からないネタね」
ラヒミス「“一部”ですかね? …さて、Cパートのメイン、格闘戦に行きましょうか」
イネス「何気に“SS隊長”さんが死にかけてるわね」
ラヒミス「大丈夫です。ちょっと臨死体験をしただけで、ちゃんと生きてますよ」
イネス「“二度目”は誰と戦うのかしら?」
ラヒミス「さあ? まだ何にも考えていないもので」
イネス「……あなた、ホントはちゃんと考えてるんでしょ」
ラヒミス「想像にお任せしますよ。では次、ルチル対アキトです」
イネス「予想通りと言えば予想通りだけど、やっぱりアキト君が勝ったわね。――内容的には」
ラヒミス「いやぁ、それなりに充実した戦闘内容にするのに苦労しました。…まあ、私が勝手に“充実した”とか思ってるだけですけどね」
イネス「何故、あそこでジャイアントスイングが出てくるの?」
ラヒミス「パッと思い付いたんですよ。人、それを……“電波”と言います」
イネス「あなたの場合は“勢い”じゃないの?」
ラヒミス「………………ま、否定はしませんよ」
イネス「やれやれ…。…それじゃ最後、Dパート――このパートね」
ラヒミス「とうとうDFSが登場してしまいました。さあ、どうしましょう」
イネス「いや、『どうしましょう』とか言われても…」
ラヒミス「これでアキトや透真の最強っぷりに拍車がかかっちゃうんですよね。ああ、どうしよっかなー」
イネス「……白々しいわね」
ラヒミス「はっはっは。最強防止のために、次の回では一部の人達がお待ちかねの“例のアレ”が出ますよー」
イネス「そんな物、このパートのラストを読めば分かるでしょう」
ラヒミス「それはそうですが…。…しかし、私が初プレイで主人公に選ぶのは“親分”ですし…」
イネス「ス○ロボシリーズが好きな人にしか分からない話は止めなさい。…ところで“例のアレ”って、名前そのまま使うの?」
ラヒミス「“あの武器”はその予定ですよ。他は変えるつもりです」
イネス「そう。…まあ、せいぜい頑張りなさいな」
ラヒミス「もちろんです。……しかし、次の更新はえらく遅れると思いますがね」
イネス「何で――って、理由は訊くまでもないわね」
ラヒミス「はい、完全燃焼しますから。GW明けくらいには更新できるように頑張ります」
イネス「…元々この回って、二月中に更新する予定じゃなかったかしら?」
ラヒミス「私生活で色々ありましたからねぇ。…それはともかく、次回のゲストはリグレットです。多分、出番は少ないと思いますが」
イネス「いい加減ゲストに誰を選んだらいいのか分からなくなってきたみたいだけど、どうなの?」
ラヒミス「ええ、まあ…。工夫次第でどうにかなる問題ではありますけど」
イネス「そうして、段々マイナーなキャラへとその手を伸ばして行くのね」
ラヒミス「まだメジャーなキャラは残ってると思いますけど……いかんせん出番が先ですしね。皆さん、どうぞお待ちください」
イネス「ホント、いつ頃になるのかしら?」
ラヒミス「……う〜〜ん、二〇〇三年度の間には登場させたいと思うんですが……」
イネス「気の長い話ね…。でも、どっちにしろ貴方次第って事になるわね」
ラヒミス「……ま、そういう事です」
管理人の感想
ラヒミスさんからの投稿です。
おお、DFS登場!!
こうして着々と武装強化はされていくわけですな(笑)
海人は海人で、アクアを殺しかけてるし・・・
ルチルは、まあ今後の成長を期待するとして。
ハーリーが全然目だってないような(汗)