機動戦艦ナデシコ
The Triple Impact
第六話 妖精たち
日本、某所。山奥にある洋館。
ここが本当はネルガルの研究所だということを知っている人間は、ごくごく少数である。
そう、ネルガルの会長ですら知らない…。
そんな研究所を、突如青い光が照らす。
ボォォォォ…
光の中から三人の人間が現れ、それぞれ洋館を見る。
「ここに、えーと…なんつったっけ?」
「マシンチャイルド…ラピス ラズリがいる筈です。もしかすると、他にもいるかもしれませんけど」
「しかし、何でこんな所の位置がお前らの受け取った『記録』の中にあったんだ?」
「さあ?何にせよ、マシンチャルイドは重要です。早めに確保しておいて損は無いでしょう」
「だな。よし、二手に分かれるぞ。海人とアキトは二人で、俺は単独で行動する」
「どうしたんだ?いきなり『一人で行く』なんて」
質問するアキト。二手に分かれることに異論は無いが、何故この分け方なのかが気になるようだ。
「お前たちはどっちかと言うと、中、遠距離攻撃が得意だからな。そういう奴らは組んで行った方がいい。それに、俺はチームプレイは苦手だ」
「…接近戦で突撃するヤツを銃で援護した方が効率がいいと思うが?」
「フン、俺と組んだら銃を構えるヒマも無く終わっちまうぞ」
「…確かに。人間離れした者二人と、化け物一人ではコンビネーションも噛み合わないでしょうからね」
「そう言う事だ。…行くぞ!」
海人の多少の皮肉を含んだ台詞を流し、先陣を切って突入する透真。その両腕には、黄金の光が宿っていた…。
「し、侵入者だ!応戦しろ!!」
ガードマンらしき男が数人、アキトと海人を見て騒ぐ。
ガァン! ガァン! ガァン!
うるさいので、銃を使って黙らせるアキト。
ヒュッ! ヒュッ!
同じく、こっちは投げナイフを使う海人。
「ガッ!」
「グエッ!」
殺してはいないが、動けなくなる程度の場所に攻撃を当てる。
「やれやれ…。もっと品のある声を出せないもんですかねぇ」
「仕方ないさ。こいつらは所詮、三下だ」
会話しながらガードマンや研究者連中を始末する二人。やる方はいいが、やられる方はたまったものではない。
「おや、もう終わりですか?意外と少ないですね」
気が付くと粗方片付いたようで、あたりには赤く染まった元白衣を着た研究者や、ネクタイやワイシャツを赤黒くしたガードマンが横たわっていた。
「ネルガル本社にも秘密だったらしいからな、必然的にガードの数も少なくなる。…さて、本命の方にかかるとするか」
マシンチャイルドを探して片っ端からドアを開ける二人。隠れていたヤツもいたが、そういうヤツはとりあえず気絶してもらった。
そして、七つ目のドアを開ける。
「おや」
「…」
そこには、培養液が満たされたガラスのカプセルのようなものに入れられた少年と少女が、一人ずついた。
「この女の子が恐らくラピス ラズリ…、この男の子は…マキビ ハリでしたっけ?ナデシコBのクルーはよくわかんないんですよね」
「…どうするんだ?」
「二人とも連れて行きます。アキト、あなたはそっちのお嬢さんを。僕はこっちの坊やにしますから」
「な!?おい、ちょっと待て!!何で俺がこっちなんだ!!?俺にそんな趣味は無いぞ!!!」
焦るアキト、本当に嫌そうだ。
「『黒いマントに黒バイザーのテンカワ アキトにはラピス ラズリがつきもの』って、未来のお約束ですから」
「何だ、その理由は!!?…うっ」
海人に必死になって反論するアキトだが、途中で自分を見る少女の視線に気付く。
「な、何だ?」
「………」
アキトをじぃっと見つめるラピス。初めて見る人間に興味を示しただけなのだが、アキトは見つめられて動揺しているようだ。
「うう…」
「………」
見つめ合う二人…。と言っても、その間に恋愛感情など存在しないのだが。
ガシャアン!
「よいしょ…っと。いつまでそうしてるつもりですか、アキト?」
「ハッ!」
海人に言われて気がついたアキト。あのまま放っておいたら、永遠にああしていそうな雰囲気だった。
見ると、海人はマキビ ハリを脇に抱えている。抱えられている彼は、何がどうなっているのか把握できずにキョトンとしている。
「…仕方ないか。おい、ちょっと離れてろ。わかるな?」
コクンとうなずき、カプセルの隅の方に移動するラピス。
ガシャア…ン
なるべく破片を飛ばさないようにカプセルを壊し、ラピスを抱えるアキト。
「…ククク、お似合いですよ、二人とも。まるでお姫様をさらう、悪い魔法使いみたいです」
「…黙ってろ」
額に青筋を浮かべながら部屋を後にするアキトと、それを追う海人。マキビ ハリはただ、されるがまま抱えられているが、ラピスはアキトをギュッと掴んでいる。
「気に入られたみたいですねぇ、流石『テンカワ アキト』。しかし、ここに枝織がいたら面白くなりそうですねぇ」
「どういう意味だ?」
「いえ、何も」
二人はマシンチャイルドを抱え、透真と合流に向かった。
「ちょっとやりすぎたかな?」
横たわる研究者やガードマンを見て、透真が呟く。自分よりもはるかに実力の劣る者を相手にするなど、ここしばらく無かったため、加減の仕方を間違えたらしい。
見るとガードマンは虫の息、研究者にいたっては片腕が無くなっている者もいる。
「ま、いっか。どうせこいつらは今まで命をオモチャにしてきたんだから、これ位の罰はあってしかるべきだよな」
自分で勝手に納得し、アキトたちと同じようにドアを開ける。
ガチャ…
「な、何だ!?お前は!!?」
「…いきなりビンゴか」
科学者が三人ほど、ガラスのカプセルに入れられた黒髪の少女を囲んでいた。面倒なので、彼らには眠っていてもらう。
「ギャッ!」
「ギュッ!」
「ギョッ!」
「…間抜けな気絶の声だな」
感想を述べ、少女に近づく透真。少女はゆっくりとその金色の瞳を開き、透真を見る。
「…あなた、だれ?」
「石動 透真……お前は?」
「………実験体ナンバー1032」
「…いや、えーと、ナンバーじゃなくて、お前についた固有名詞…というか…。そうだ、こいつらはお前のことをなんて呼んでたんだ?」
床に倒れている三人を指差して透真が訪ねる。しかし、
「1032。もしくは、実験体」
「…ダメだこりゃ」
こめかみに人差し指を当てて悩む透真。まさかこんな所でこの少女の名前について悩むハメになるとは、思ってもみなかった。
「うーん、そうだな…黒髪…黒い宝石……よし、今からお前の名前はルチル オニキスだ!」
「ルチル?」
不思議そうな顔をする少女――ルチル。
「そう。ルチル、一緒に来るか?」
「ここから出してくれるの?」
「ああ、お前が望むなら」
「じゃあ、出して」
「了解。下がっててくれ」
ガシャン!
「よっと。…ルチル、お前何歳だ?」
ルチルを抱きかかえる所まではよかったが、ふとある疑問が透真の頭をよぎった。
「『さい』ってなに?」
「…お前が生まれてから今日までに、どれくらいの月日が流れた?」
「2348日」
そのあまりにも正確すぎる解答に、かえって困ってしまう透真。
「…すまんが、それを365で割ってくれ」
「6.432876712328767123287671232876712328767123287671「もういい」
このままエンドレスに続けそうな勢いだったので、慌てて止めにはいる。
「しかし、六歳?間違いなく犯罪だな…」
そんなことを考えながら、透真はルチルを抱えて、海人とアキトに合流するべく移動を開始した。
「おお、そっちも収穫ありだったようだな」
「…あなたも女の子ですか?フゥ、零夜と枝織が見たら大騒ぎじゃ済みませんよ」
透真とアキトを交互に見て、ため息をつく海人。
「「なんでそこで零夜と枝織が出てくるんだ?」」
見事にハモる透真とアキト。二人して似たような顔をしている。
「七、八年も一緒にいて、気付いてなかったんですか?」
海人が、驚いたような呆れたような顔をして二人を見る。
「「なにが?」」
「…もういいです。ところで、今さら言うのもなんですけど」
「「どうした?」」
「…いい加減、ハモるのは止めなさい」
「けっこう楽しかったのだがな…」
「いいじゃないか、お前の不利益になるわけでもあるまいし」
「や・め・な・さ・い」
「「わ、わかりました」」
ハモってるじゃないか、というツッコミはしてはいけない。
「えーと、何の話だったっけ?」
「海人が何か話があるんじゃなかったか?」
「ああ、そうでしたね。…どうでもいいんですけど、この子達の着る服ってどうするんです?」
海人に言われて、自分が抱えている少女が全裸だということに気付く二人。
「……あー……」
「…さすがに、このまま連れて行くのはヤバいな…」
「僕たちに与えられた選択肢は三つです。まず一つ目は、この研究所を物色しまくって、三人に合う服を探すこと」
喋り出す海人。まあまあ現実的な案である。
「二つ目は、誰かがボソンジャンプで飛んでいって服を買ってくること」
「…こいつらの服のサイズなんて分からんぞ」
アキトが横から口を挟む。ちなみに、三ヶ月間にわたる三人のバイト活動の結果、多少は資金に余裕が持てるようになった。バイトの内容はそれぞれ、透真が工事現場、海人がコンビニ、アキトが料理屋である。
「まだ最後の案が残ってます。ある意味では、コレがもっとも確実かつ手っ取り早いのですが…」
「もったいぶるなよ、一体なんだ?」
「…このまま山を下りて、この格好のまま店に入り、そこで服を探すことです」
透真の催促に答えて、三つ目の案を語る海人。えらく沈痛な面持ちである。
「…たしかに、確実かつ手っ取り早いけど、現実的じゃないな」
「…じゃ、取りあえず一番最初の案でいくか」
それぞれマシンチャイルドを連れて解散する三人。幸運にも子供用の服を発見できたため、最終手段を使用することは無かった。
「ふう、ちゃんと部屋も借りられたし、取りあえずはOKだな!」
「まあ、ハーリー達に頼んで戸籍も偽造してもらいましたし…」
「後は、これからどうするか、か…」
マシンチャイルド誘拐(?)から一週間、透真たちは大きめのアパートを借り、そこで生活していた。
いきなり子供が三人も増えたため、彼らに社会常識やら箸の使い方やら教えるのに四苦八苦していたりするが、取りあえずワイワイ楽しくやっている。
「それならもうすでに考えてる。俺たちの貯金を資本にして、会社を興すんだ」
「…本気か?」
正気を疑うような視線を透真に向けるアキト。これから夕食の支度があるので、今日の献立をひそかに考えている、と言うのは秘密である。
「あの子達を使うんですね。まったく、あなたも悪知恵が働くと言うか、なんと言うか…」
「どういう意味だ?」
アキトが海人を見る。海人は最近、部屋にこもって色々な研究をしているためか、眼鏡をかけている。
「んー、つまりですね、マシンチャイルドの能力を使って、資金を雪ダルマ式に増やしていく、と言うわけです」
「そういうこと。社名も考えてあるぞ」
透真がダラダラ寝そべりながら言う。
「へえ、どんな名前なんです?」
「『ノア』だ」
「『ノア』?箱舟のことか?」
今日の晩御飯は酢豚だな、と決めたアキトが尋ねる。
「そ、これから巻き起こるであろう嵐を乗り切るための箱舟…。いい名前だろ?」
「何か今日は詩人ですね」
「俺はいつでも詩人のつもりさ。さて、じゃ、そう言うことだから。おーい、ルチル、ラピス、ハーリー!!」
透真に呼ばれて、その黒髪をショートカットにした少女と、薄桃色のロングの髪の少女、ハリネズミの様な髪型の少年がトテトテ、と彼の元へ来る。
「透真、どうしたの?」
「ちょっと晩飯前にやって欲しいことがあってな…」
こうして、後に地球最大の企業となる『ノア』が誕生した。その設立理由が『これからの計画に必要だったから』ということを知っているのは、六名のみである。
あとがき
ラヒミス「おお、ようやく物語がそれっぽくなってきましたね」
透真「そんなに感激するなよ…」
ラヒミス「でも、これでようやく下地が出来上がって来ましたよ。後は、オリジナルの機動兵器やら何やらを…」
透真「あーはいはい、ネタバレは止めとけ。じゃ、今回の反省いってみよう」
ラヒミス「ついにオリジナルのマシンチャイルドを登場させることができました」
透真「『ルチル』って、某エックスのアレか?」
ラヒミス「違いますよ、ちゃんとそういう宝石があります。厳密に言うと黒ではない気がしますが」
透真「宝石のページ覗きまくって、やっと見つけたんだよな」
ラヒミス「ですから、『それは黒じゃないぞ』とか、『宝石じゃないぞ』とか言われても困ります。もう書いちゃったんですから」
透真「ふむ、そういう方面に関しては全くの素人だからな、お前は」
ラヒミス「いや、まあ、そうなんですけどね。おお、そうだ忘れてました」
透真「何だ?」
ラヒミス「『認めん!零夜が男に惚れるなんて俺は絶対に認めんぞおおおぉぉぉぉぉ!!!』という方もいらっしゃるでしょうが…」
透真「え?あいつ誰が好きなんだ?」
ラヒミス「鈍感バカは放っといて。そう思っていただけたなら、私としては大成功です」
透真「おい、教えろよ」
ラヒミス「そもそも零夜が北斗にベッタリなのは、十何年も一緒にいて、世話役が確定してしまったからじゃないか、と思ったわけです、私は。で、なるべく早い時点で異性が現れた場合、そっちに興味が移ってしまうのもやむを得ないかな、と」
透真「無視すんなって」
ラヒミス「北斗にベッタリだと、ちょっと芸が無いかな?と思ったんで、せっかく少女時代から話を始めるんだから、こういう展開にしました」
透真「おーい」
ラヒミス「これからもセオリーを破る努力はしていこうと思います。…?なに隅の方でイジケてるんですか、透真君?」
透真「…やっと気付いてくれたか」
ラヒミス「もっと自己主張をした方がいいですよ、あなたは」
透真「本編では結構やってるぞ」
ラヒミス「ま、それはそれとして、やっと『Triple』の『Triple』たる所以がハッキリしてきましたね。三人の主役、そして三人のマシンチャイルド」
透真「…まあいいや。もう一つ『3』が欲しい所だな?」
ラヒミス「それは後々。そんなに大した物でもないんですけどね、最後のは」
透真「ホシノ ルリはどうするんだ?」
ラヒミス「彼女には別の役割があります。えーと、次あたりでハッキリするかな?」
透真「何にせよ、今後の展開次第か」
ラヒミス「ええ。では、次回のゲストはマキビ ハリ君です、お楽しみに」
透真「今回唯一目立たなかったマシンチャイルドだな。今後の彼の未来を暗示していると言うか…」
ラヒミス「アキトやルリが主役で、ハーリー君が大活躍しまくりのSSって知ってます?ギャグが一切抜きで。少なくとも、私は知りませんよ」
透真「いや、インターネットは広いから、探せば二つ三つくらいは…」
ラヒミス「無いかもしれませんねぇ」
透真「うーん?」
多分忘れられているとは思うが一応零夜のキャラ原案である代理人の感想
「男に惚れるのは認めん」って・・・・
別に零夜はソッチの気があるわけでもないんですが。(汗)
つーか、この件に関してA級戦犯は釘バット持たせた某氏ですね。(爆)
うん、そーだ、そーに違いない、そー決めた。
それはさておき、北斗が肉体的にも男だったら北斗の嫁さんになってたでしょうし、
北斗と出会わなかったら誰かいい人と普通に出会って、普通に恋をして、普通に結婚していたでしょう。
あくまで零夜は普通の女の子ですから。
・・・そうだったはずなんだけどなぁ(爆)。