この作品は、EINGRAD様の許可を得て執筆した
『逆行の時』、『逆行者の余波』の三次創作です。
ご一読される前に、前二作をご一読になられる事をお勧めします。
そして、この作品はダーク作品であり、ルリの扱いが最悪です。
上記が受け入れられない方は、御読みになられない方がいいでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

プロローグ
『僕は……僕は』
見上げた空に、止めなければならない艦艇が飛んでゆく

 

 

 

 

 

 

 

 

   ――でっかいなぁ。
 青年が見上げるビルは、胸中の感慨と全く同じ外観を持っていた。
 とにかく大きい……ピラミッドを二つ上下に組み合わせて、砂時計のように固定した、個性的な形のビルだ。今から青年が会いに行く人物は、このビルの所有者だ。
「よしっ」
 この日のためにわざわざ新調した制服の襟を正す。
 気合を全身にみなぎらせると、青年はサラリーマンの波の中へ歩き出した。

 

 ……途中で、ポケットに入れたお守り(何故か安産祈願)を握り締めて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 や! こんにちは将来有望な木連軍人さん。
 そんなところに突っ立ってないで、早く座りなよ……わが社も伊達に儲けてないからね。調度品は色々取り揃えてるんだ。
 ふかふかだろ? 僕自身が職人に頼み込んで作らせた業物だからねえ。草壁春樹元首だって、これほどのソファーは持ってない……あの人無欲だから、手に入れる意思がないだけっていう説もあるけど。

 

 草壁元首から話は聞いてるよ。魔女戦争について話が聞きたいんだって?
 中々的を得た質問と……的を得た相手の選択の仕方だね。
 何せ、あの魔女は元々『かつての我が社』が作り上げたマシンチャイルドだから、データだけはしっかりと残ってる……口さがない連中は『製作』とかって表現するけどね。忌まわしい魔女は物扱いがちょうどいいんだってさ。ま、僕も魔女に対する扱いについては賛成するけど。

 

 名刺を拝借っと……高杉針太郎……? これはまた、思い切った偽名を使うねえ。
 え? これで優人部隊に登録してるのかい?
 へえ……それはそれは。豪胆だねえ。『記録』にあった情けなさからは想像も出来ないよ。

 

 ところで……話を始める前に、一寸これを見てもらえないかな? マシンチャイルドとしての意見を聞きたいんだけど。
 一見普通の読取機にみえるだろう? ところがどっこい、こいつのポイントはそのスピード……何せ、ギガバイト単位のデータをコンマ数秒単位で読み込めるんだ。
 魔女の手によって電子ネットワークの危険性が明らかになった昨今、コンピュータに要求されるのはデータのやり取りに使う読み取りの高速化さ。
 夕凪社中……元ネルガルの技術の粋を結集して作られた最高速度の読み込み機さ。郵送なんて手間はかかるけど、安全性には変えられないからね。

 

 デカルトプランを思いついたきっかけかい? そりゃあ、魔女の恐怖を繰り返さないためさ。国全体に対する影響もそうだが、電気文明の世の中じゃあハッキングだけで会社を潰せるからね。僕のような経営者にとっては身から出た錆ならぬ、身から出た猛毒だよ、マシンチャイルドは。
 魔女が一人で世界を征服できたのは何故? 彼女はコンピューターに強いだけの子供だっていうのに。
 簡単さ。電子社会とネットワーク、この二つの要因が、魔女の暗躍を可能にしたんだ。書類も何もかもコンピューターに打ち込んで、しかもそのコンピューターがネットワークと繋がっているから……魔女からすれば、大規模の端末一つで世界中の情報を握れるってわけ。それを解決するための計画が『デカルトプラン』さ。
 家庭、社会に存在する全てのコンピューターのネットワークよりの切り離し、単独化……早い話が、ネットワークを消滅させましょう、って事さ。僕が草壁元首に提示したこのプランはすぐさま実行された。
 たとえ第二の魔女が現れようと、コンピュータとネットワークを完全に隔絶した今の世の中じゃ、たいしたことは出来ないだろうね。肝心のネットワークに繋がれていないんだから、当然さ。

 

 と、つまらない話をしてしまったね。
 君にコンピューターの話をするなんて……ま、前置きはとにかく、プレゼントするから使ってくれないか? 出来れば、アドバイスなんかもらえると嬉しいな。

 

 この高速読込機……ERENAでわが社の業績はうなぎのぼりさ。おかげで、こんな無意味にでっかいビルも建設できたし、在りし日の威容も取り戻せた。だからって、『妖精教』の連中に賛同する気にはなれないけどね。
 いい景色だろ? ここからだと、復興した街が一望できるんだ。見る影もなく倒壊していた昔の町並みが、嘘のようじゃないか? 人間は、魔女や電子の力がなくても生きていけるんだ。

 

 あ、ごめんごめん。ボーっとしちゃったね……いや、一寸感慨に耽っててね。
 『魔女戦争』が始まった当時は考えもしなかったからね……僕が木連軍の士官に頼み事するなんて。知っての通り、当時のネルガルは木連の存在を知りながら戦争で利益を上げようと画策してたからね。火星の極冠遺跡も手に入れようとしてたんだ。
 そんな僕達からすれば、木連は競争相手以外の何物でもなかった。当時の僕が今のネルガルを見たら、なんて言うかな〜。

 

 自己紹介? え、そんなの必要なの?
 ……しょうがないな。

 

 僕はアカツキ・ナガレ。夕凪社中会長にして、元ネルガル会長。元A級戦犯……肩書きには事欠かない男さ♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

機動戦艦ナデシコIF
火星戦神伝 4
第一項・アカツキ・ナガレの証言
♪♪♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、それで君はどの辺りから話を聞きたいのかな?
 魔女の生産理由? それとも、保護者だった星野夫妻のその後かい? どれでもすぐさま答えてあげるよ。この日のために暇な時間を使って暗記にいそしんだんだからね。努力の成果の見せ所さ
 え? ……テンカワアキト? 漆黒の戦神の事かい。
 なるほどねえ。確かに彼とネルガルはいささか奇妙な関係にあるから、的外れな相手の選び方でもないなあ。
 テンカワ夫妻の暗殺は、うちの親父が命じた事だ。未来においてはボソンジャンプの実験にまで貢献してもらったし……魔女戦争にいたっては、彼がいなければ今の発展はなかったからねえ。まあ、その理由は話しているうちに明かすとして……
 まずは、ND−001ナデシコの事から話そうか。

 

 当時のネルガルは、火星極冠遺跡にあるボソンジャンプの演算ユニットを独占するために、木連の存在を知りながら秘匿していたのさ……それに、戦争って言うのは、ありとあらゆるものが浪費される一大ビジネスだからね。戦時特例って言う反則技にさえ気をつければ、得られる利益は凄いものがある……ハイリスク・ハイリターンって奴さ。
 噂に名高い殺戮戦艦ナデシコ……正式名称ND−001ナデシコは、元々スキャパレリ・プロジェクトっていう計画の一環として作られた艦でね。別に、民間人を殺戮するとか、そういう物騒な動機があったわけじゃないんだ。
 スキャパレリ・プロジェクトの概要は、火星に残された市民の救出……という建前。真相はグラヴィティ・ブラスト、ディストーションフィールドといった新兵器のデモンストレーション……火星に残された『遺跡』関連の研究資料と研究者の皆様の回収さ。
 はっきり言えば、火星に残された住民の事なんて、これっぽっちも考えていなかったよ。当時のナデシコの設計図を見たら、一目瞭然だ。何人いるかわからない住民を助けに行くには、ナデシコって戦艦は小さすぎる上に部屋数も足りないんだよねえ。
 それどころか、一部の重役連中は無事に帰還できるとすら思っていなかったのさ。いくら高性能の戦艦を一流のスタッフで運用しようとも、単艦で火星から行って帰るなんて夢物語だよ。もっとはっきり言っちゃえば、ナデシコはデモンストレーションだけのために存在していた。
 だからって、ナデシコを見捨てるつもりでいたわけじゃないよ? 僕はサツキミドリで、適当な理由をつけてUターンさせるつもりだったんだ。火星の人命救助で燃え上がる人たちには悪いけどね。

 

 余り知られてないことだけど……ナデシコはグラビティブラストや試験的な兵器を『実験』するための戦艦でもあったんだ。
 当たり前だけど、地球側の技術で複製した遺跡技術は、実戦で使われたためしがなかった。本当にナデシコがトカゲに通用するのか、未知数だったわけだ。バッタやジョロなら撃墜できる確証はあったけど、カトンボクラスになってくると曖昧だったのさ……その限界を図るというのも、スキャパレリプロジェクトの目的だった。
 ナデシコが木連の無人兵器を難なく撃退し、ネルガルの技術力の高さをアピールする。敗北続きの連合軍はナデシコの戦果を見てその破壊力を欲しがる。そこへ、ネルガルが割安でその兵器のノウハウを提供する……これが、当時僕の脳裏にあった未来予想図さ。取らぬ狸の皮算用、ではなかったよ。限りなく可能性の高いプランだったと、僕は自負している。
 これによってネルガルが得る利益は……多分、膨大なものになっていただろうね。まっとうな形でアピールできていたなら、ネルガルは名前を変えることなく戦後も市場を独占していただろう。
 そう思って、僕はナデシコ出航前から、連合軍に売るための相転移エンジンや後付式グラヴィティ・ブラスト、ディストーションフィールド、量産型エステバリス……以上の生産ラインを整え始めていたんだ。得られる利益の事を考えると、笑いが止まらなかったね。

 

 クルーの人選にも必要以上に力を入れた……何せ、兵器って言うのは生き物……いや、ナマモノだ。扱う人間しだいで強力にも非力にもなってしまう。わが社の社運をかけたプロジェクトである以上、成功率を上げるために最高の人材を集めたかった。
 そう考えて超一流の人材を集めようとしたんだけど……そこで壁にぶつかったんだ。対外的には『火星の人命救助』である以上、ネルガルとしては慈善活動で儲けの一つも入らない。そんな企業的にいうなら『どうでもいい事』で良質の人材をかき集めてたんじゃあ、敵対する企業から怪しまれるに決まってるだろう?
 スキャパレリプロジェクトに一流の人材を登用することは、火星の遺跡の存在を知らしめる事になりかねなかったんだよ。そこで、僕は一計を案じたんだ。

 

『腕は良くても、性格で二流以下と評されている人材を雇ったらどうだろう?』

 

 ってね。これが、かの有名なナデシコクルーの選抜基準『実力重視、性格は二の次』のゆえんなのさ。
 有名どころを上げていくと……

 

 火星駐屯軍ユートピアコロニー支部でプロトタイプエステバリスを運用していたヴァグラント小隊のエースパイロット、ヤマダジロウ……『三色の覇王』ダイゴウジガイが筆頭だね。というより、ナデシコの乗組員を決めるに当たって、絶対にはずせない人材だと僕は思っていたよ。
 本来なら性格二流なんてそしりもおこがましい、超一流のエステバリスライダー……それがヤマダジロウという男さ。
 その彼が、なんで性格二流なんてそしりを受けていたか。理由には一寸物悲しいものがあってね。
 ユートピアコロニーにチューリップが落下したのを間近に目撃したせいで、一種の戦場恐怖症になってしまったんだ。恐怖に飲み込まれて震えることはなかったものの、その恐怖を克服するためにやたらと場当たり的な行動をとるようになってしまったそうだよ。言ってみれば、馬鹿な真似しかやらかさないんだけれども、それでも、トラウマで腕が鈍っている状態でも一流の能力は持っていたんだ。
 その真の実力は、戦史に記されたとおりさ。僕は直接の面識はないんだけどね……話に聞くところによると、物凄い熱血漢らしいね。
 言わば、木連の被害者でもあるんだ……そんな彼が今じゃあ和平大使なんて名乗ってるんだから、世の中わからないよねえ?

 

 白鳥九十九とのラブストーリーが有名なハルカ・ミナト。余り知られて無いけど、『三色の覇王』の愛機である『ドライファルベリリーエ(三色の百合)』を製作したモグリの技術屋ウリバタケセイヤ。軍からのオブザーバーには瓦解し続けた地球連合軍の中で、唯一の良心であり良将と呼ばれたフクベ・ジンを提督として。今の木連軍で唯一の地球出身将校であるアオイ・ジュン……ざっと並べただけで、これだけの有名人がナデシコに乗っていたんだ。

 

 『魔女』がナデシコに搭乗した経緯かい?
 言うまでもなく、彼女以外にオモイカネと同調できる人間……マシンチャイルドが存在しなかったからさ。当時の君は五歳そこそこで、戦艦に乗せられる年齢じゃなかったからね。一番適格だったのが、魔女というわけさ。魔女はホシノ夫妻の養子でね。養子とは名ばかりの冷め切った関係だったらしいけど。
 マシンチャイルドプロジェクトの概要についてはいうまでもないよね。遺伝子レベルでナノマシン演算率を上昇させた、電子の覇者を作り上げるプロジェクト。
 誤解がないように言っておくけど、このプロジェクトにGOサインを出したのは、僕の父だ。世間様からは非人道的だって大バッシングを受けてたけど……実際やっていたことは非人道的なんて軽い言葉で済ませられるようなものじゃなかった。正式な記録には、遺伝子の問題で魔女と君以外は全員死亡したってあるだろう? とんでもない! 実際は、苛酷な実験に耐え切れずに死亡してしまったのさ。中には、ペド趣味者の慰み者にされてた女の子もいたそうだよ……そういう意味では、ホシノルリはずっと恵まれた環境にいたんだ。
 確かに、冷め切った関係だったかもしれない。けど、彼女は何の虐待もされずに育ったんだ。道具扱いも愛情がないのも、他のマシンチャイルド達に比べれば恵まれていたんだ。
 ……っと、御免御免。ちょっと話がそれちゃったね。

 

 『佐世保の殺戮』のニュースを聞いた時、僕は執務室にいた。
 いつもクールなエリナ君が慌てて執務室に駆け込んできたときには、何事かと思ったよ。話を聞いたらそれも納得しちゃったけどね。
 ナデシコ艦長ミスマルユリカが、単純なミスでトカゲごと佐世保を壊滅させた……これが、入ってきた情報の全てだったんだ。詳しい状況の流れ方も、その後すぐに判明した。
 曰く、『ブリッジに飛び込んできたバッタに対する恐怖に駆られて、グラヴィティブラストの効果範囲を完全に忘却して発射した』……エリナ君はこのニュースを聞いて、ミスマルユリカを罵倒したよ。高い金を払って雇い入れた人材が、会社に大損害を与えたんだから当然だろうね。
 けど、僕はミスマルユリカを責める気になれなかったんだ。

 

 おかしい、と思ったのさ。単純に。
 なんで軍部がミスマルユリカを手放したか知ってるかい? 士官学校を首席で卒業した天才軍師を、何が悲しくて一企業に払い下げなけりゃならなかったのか、考えてごらんよ……わからないだろう?
 簡単だよ。ミスマルユリカは人格に致命的な欠陥があったのさ。幼すぎて、シビアな状況に耐えられないという軍人としては致命的な欠陥がね。
 この間、『殺戮戦艦の非を探す!』ってテレビで特集してたのは見たかい? あの番組でも言ってたけど、ミスマルユリカは世の中をなめてたんだ。戦艦の艦長が平然と遅刻するって点だけでも、十分彼女の異常性は理解できるだろう。
 こんな人材が軍人になれるわけがない……だが、彼女は事実士官学校で主席だった。軍人としての資質を計る士官学校での成績でだ。そして、こんなスチャラカな人材にもかかわらず軍部は最初、手放すのを渋った。
 理由は単純。ミスマルコイチロウの息女であるだけじゃない。そのくらいに、ミスマルユリカの戦略能力が洗練されたものだったんだ。
 彼女をナデシコ艦長として雇ったのは、勿論ミスマルコウイチロウの娘だからさ。僕も最初は、ただの馬鹿娘だと思っていたよ。
 ……けど、実際彼女の人となりを計るために調べさせた時その評価は一変したんだ。
 SSがもってきたのは、彼女の戦略シミュレーションの綿密な記録だったんだけど……いやー、素人目に見てもあれは凄まじかったよ。一度なんて、三倍以上の戦力差でかつ完全に包囲されてる状態から逆転してのけた事もあった。なのに、彼女は奇策を進んでやろうとはしなかった、数で勝っている時は力押し……何が最も効率のいい結果を残せるか、しっかり理解してたんだよ。
 彼女のあの人格は、むしろ彼女の存在価値をあげていたんだ。問題ありの性格に生まれついた事で、誰よりもお買い得な人材になったのさ。
 そんな彼女が、恐怖に駆られたとはいえあんな単純なミスをするだろうか? ささやかなこの疑問を晴らすために、僕はすぐさま詳しい事情を調査させたんだ。その結果が届くまでに、僕達ネルガルにはやらなきゃならないことが大量にあったけどね。

 

 敵対してる会社が打つネガティブキャンペーン対策、佐世保遺族に対する賠償金……やることは文字通り山盛り……それも、世界の山チョモランマ級の山盛りだったんだ。
 元ナデシコクルーに対する退職金も払わなきゃならなかったし、軍事裁判に対する証拠も提示しなきゃならない。株価は落ちる不買運動は起こる丹精込めて育て上げたマシンチャイルドは接収される……ビルの前には悪い意味で黒山の人だかり。田舎のほうにある研究所なんかは、銃撃されたところまである。まあ、幸いけが人はいなかったみたいだけどね。
 一番痛かったのは、この事件を盾にナデシコが接収されて、新兵器の数々を無料提供する羽目になった事さ。売る事を前提に造り続けた物資を、全て無料で進呈しなくちゃならない……これがどれだけの損害を出すか、わかるかい? ものが戦艦クラスだけに、ネルガルそのものが傾きかねない大赤字を生み出したんだ。いつ倒産してもおかしくない……それが当時のネルガルだった。
 ともかく、僕はネルガルを何とか立て直そうと西へ東へ奔走したよ。文字通り西へ東へとね……ナデシコクルーへのアフターケアはミスマル提督に任せて、ね。そのせいで後の『クルー狩り』の被害者が増加したとも言われてるけど、ネルガルにそんな余裕はなかったんだ。もう、崩れようとする屋台骨を支えるので精一杯さ。アオイ・ジュンを筆頭とした一部の人を保護できただけでも、御の字だった。
 『謎の投資者』がいなかったら、とっくに潰れてたかもしれないね。この『謎の投資者』っていうのが、当時は謎に包まれてた。理由もなくネルガルにぽんとお金を払ってくれるのさ、顔も名前もわからない人物が。普通ならば怪しんで詳しい背後関係を調査するところだけどね。さっきも言ったように、僕たちにそんな余裕はなかったんだ。
 普段なら絶対に手を出さない資材……わかりやすく言うなら、炉辺に落ちてたカビの生えたパンに飛びついたのさ。ネルガルは。そのかいあって、ネルガルは何とか持ち直した。

 

 ナデシコであった奇妙な事がわかったのは、ミスマル提督が乱心した前後だったかな?
 ……ナデシコが殺戮を行うまでに行っていた行動は、大雑把にするとこんな感じさ。

 

1・ドック内に入水
 
2・ゲート開門。
 
3・ゲートを進んで海へ到着。
 
4・上昇
 
5・海上にてグラヴィティ・ブラスト発射。

 

 僕が引っかかったのは、4番の上昇……その上昇を行う地点。
 ミスマルユリカは初恋の人のために可能な限り急がせたんだろうけど……いくらなんでもねえ。『佐世保全域を間合に入れて、一発で壊滅させられる位置』に上昇させる事に何の得があるんだい? 似たようなシチュエーションのシミュレーションを彼女は行ってるけど……その時の記録では、可能な限り敵のみを巻き込むように心がけていた。
 次が5番。ナデシコに搭載していたコンピューター、オモイカネは一般の規格じゃない……今でもスーパーコンピューターとして通用するほどの性能を持ってたんだ。発射する前に佐世保を巻き込むって警告してもよさそうなもんさ……それを受け取るはずのオペレーターは何も言わずにそれを実行した。
 今言った二つの疑問点に、共通して関わっているのがホシノルリだった。疑問を持つなって方がおかしいよ。

 

 そうさ。僕は『佐世保の殺戮』の頃から魔女の存在に感付いて……とまでは行かないけど、かなり怪しいと思ってたんだ。今更言っても信じてもらえないけどさ。
 僕はすぐさま、ナデシコに乗っていた二人の会社員……ゴート・ホーリとプロスペクターの二人を呼び出して、ホシノルリについて怪しい言動がなかったかどうか聞き出したんだ。そうしたらどうだい、凄い事がわかったじゃないか。
 ホシノルリとテンカワアキトが、知り合いだった。この情報を聞いて、僕は我ながら突飛な思い付きをして、それを口に出したんだ。

 

『テンカワ博士の復讐って言うのはありえないかい?』

 

 ってね。証拠も何もなかったが、理屈としては筋が通ると思わないかい?
 テンカワアキトがホシノルリを抱きこんで、ネルガルに復讐するために佐世保を吹き飛ばした……今となっては鼻で笑っちゃうような妄想でも、当時はかなりの信憑性があったんだ。
 その後、別のSSが持ち込んだ、ホシノルリとテンカワアキトの親密さも、この仮説に拍車をかけたよ。あの二人が親しくて、彼がネルガルへの恨みを忘れていないとしたら……とまあ、当時思いついたのはこんな感じかな?
 その当時わかっているのは『動機』と『情報証拠』だけだった……社会的地位の下がっちゃったネルガルが、たったそれだけの証拠で英雄様を嗅ぎまわるわけにはいかない。下手すりゃ、こっちが逆に悪者になっちゃうんだから。
 だから、僕たちは新しい証拠を『人知れず』探さなくちゃならなかった。
 というわけで、僕の『漆黒の戦神』様に対する第一印象は、『アマちゃんのガキ』になったとさ。

 

 ……僕の秘書だったエリナ君が事故にあったのは、そんな時だったよ。
 いや、あれを事故といっていいものか。
 僕は山勘とか虫の知らせとか、そういうのは信じない性質なんだ。実際、その日も何も感じなかったしね。起きた事件を除いて考えるなら、実にすがすがしい朝だったよ。
 当時の僕は、激務から家に帰ること自体が少なくて……殆どの夜を会社の仮眠室で過ごしていたんだ。女性なんて連れない、ただ泥のように眠るだけの睡眠をね。それでも寝不足で毎朝目つきを悪くしていたんだ。
 そんな僕が、『すがすがしい』なんて覚えているくらいだからね。あるいは、プロス君やゴート君に聞いても、『すがすがしかった』って答えるくらいだ、って言い換えてもいい。太陽は万物に斉しく降り注ぎ、肌を刺す寒さが心地よかった。絵に描いたようないい朝だったよ。思わず、恨まれてる身の上を忘れて会社の近所を散歩しちゃったくらいだった。
 エリナ君も、ぐっすり眠れたのか実に清々とした顔で出社してきたよ。午前中に2〜30の仕事をまとめてやって、一緒に食事に行った……食べたものは憶えてないな。社内食堂の味気ないものだったのは憶えてるけど。
 食事を終えた僕たちは午後の仕事に備えてたんだけど、彼女は『妹と約束がある』って言って出て行っちゃったんだ。彼女は仕事にプライベートを挟み込むような性格じゃなかったから、すぐに何か企んでいると察しがついたね。当時から、エリナ君には上昇思考が大きすぎるところがあったから……会長の座を手に入れるために色々と暗躍していたんだ。
 例を挙げるなら……生体ボソンジャンプの実験とか『遺跡』の探索とか。ネルガル会長秘書って言う肩書きを利用してかなり手広くやらかしてた。
 僕はそんな彼女の反骨心を利用している一面があったからね。あえて何も言わずに行かせてあげたんだ。
 それが間違いだったんだよ。
 結局、エリナ君がネルガルに帰ってくる事はなかった……彼女は妹と一緒に、待ち合わせ先のビルで爆弾テロに巻き込まれて死亡したんだ。

 

 魔女の手による、『戦神独占事件』と呼ばれる事件の始まりだったんだ。これは。正確に言うなら、ナデシコが佐世保で虐殺を行った時点なんだろうけど……ナデシコクルー以外っていう意味じゃあ彼女が最初の犠牲者だったのさ。
 勿論、当時の僕たちはそんな事知らないからね。爆弾テロって聞いた時に、真っ先に思い浮かべたのは当時流行っていた『ナデシコクルー狩り』さ。とうとう、ネルガル本社にまで影響が及んだのか! って社内は騒然となったよ。
 え? エリナ君の死を、僕本人はどう思ったかって?
 僕はネルガルって言う大きな会社の会長として、企業の毒って奴に長い間浸りきってきた。だから、秘書の一人や二人でショックを受けるなんてありえちゃいけないんだろうけど……やっぱり堪えたねえ。僕自身、彼女を憎からず思っていたから、死んだって聞いた時は、何かの冗談かと思ったよ。信じられない、って奴さ。

 

 そこからは、もう転がるような勢いで業績が下がって行ったよ。本当ならとっくにつぶれてもおかしくない会社が、何とか持ちこたえていたのは、エリナ君の手腕によるところが大きかったからね。僕も無能じゃないはずなんだけど、二人がかりで支えていたものを、一人で持ち上げられるほどじゃなかったのさ。
 その間に『クルー狩り』を先導してた警察高官が捕まったり、ナデシコに乗ってる三人が『電子の妖精』『漆黒の戦神』『三色の覇王』なんて名前つけられたりしてたけど……はっきり言おう! 全然憶えていない!
 ありとあらゆる部署を封鎖して、首を切れる人間は切って……とにかくネルガルを倒産させないために必死で働いたよ。忙しさのおかげで、エリナ君を喪った精神的痛手は忘れられたんだけどねえ、うれしくはなかったよ。
 挙句の果てに、とんでもない事が起こった。

 

 社長派の連中がここぞとばかりに一致団結して僕の事を追い落としちゃったんだよねえ。
 株主会議で僕がその動きに気付いた時には、もうどうしようもなかった……ナデシコの失敗の時点でかなり危うかったからね。僕はあっという間に一文無し……とは行かないまでも、一切の権力を取り上げられて、ただの人になっちゃったわけ。
 療養の名目の元、田舎町のコテージに押し込められちゃったよ。

 

 こうなっちゃうと、今までとはうってかわって暇でしょうがなくなった。その前が色々な意味で忙しすぎたからね。
 権力を握り返そうとは思うけど、その時点で出来る事なんてなかったし……巻き込まれたプロス君とゴート君の二人と一緒に、軟禁先のコテージでぼーっと寛いだ。今までの疲労を考えると、充電期間としてはちょうどいいかなって思ってたんだ。
 社長派だって馬鹿じゃないし、追い落とした相手が復活する事くらいちゃんと考えているさ。けど、追い落とされて早々もがいたってやれる事は非常に少ない。だったら、休んだほうがまだマシって事で、僕たちは散々遊び倒した……幸い、ナデシコクルーの保護所の近くだったんで、女の子とも親しくなってねえ。中々楽しい落ちぶれ時代だったよ。今の妻……サユリと知り合ったのもこの時だった。
 けど、それも余り長くは続かなかったのさ。

 

 社長派の連中の中には、とんでもなく頭のいい、味方にしたいくらいに切れる奴もいた。その逆もね。頭のとことん悪い奴……ぼけたとしか思えない馬鹿の一人が、嫌がらせとばかりにあるものを送ってきたんだ。
 会社の、エリナ君のデスクにあった私物の山さ。『もうこっちにお前の居場所はない』とでも言いたかったのかな? いくら両親が事故死したからって、僕のところに送ってくる必要はないじゃない。
 敵の馬鹿さ加減に苦笑いしながら、僕は乱雑に詰め込まれたそれをまとめていった……下着とか着替えとか気恥ずかしいものもあったから、サユリに手伝ってもらって整理して行ったんだ。2197年の11月の中旬だったかな?
 ダイニングに胡坐をかいて、中のものを鷲掴みで取り出してね。
 そしたら、おかしなものが見つかったんだよ。それを最初に見つけたのは、下着類を畳んでくれていたサユリだった。

 

『あれ……? アカツキさん、このブラジャー、中に何かメモみたいなのがはいってます』
『え?』

 

 僕も、僕にこれを送りつけてきた連中も、それには気がつかなかった……これは運が良かったよ。もしそのメモが社長派の切れ者に渡っていたら、僕がこうやって返り咲くなんて不可能だったんだから。エリナ君自身は、念のために隠しておいたのかもしれないけど、僕にとってそのメモは光明だった。

 

『秩父山中・戦艦』

 

 あれ? って思ったよ。このメモを見た時は。
 紙そのものは、エリナ君がプライベートで使っていた奴さ。何度も妹さんとの電話中にメモっていたのを目撃しているから、間違いない。けど、書かれている内容……特に、戦艦の文字が引っかかった。だって、連合宇宙軍から特許をとられたネルガルは、戦艦部門から全面的に撤退してたんだから。仕事上のやり取りに『戦艦』なんて文字が出てくるはずがないのさ。
 だとしたら、このメモは一体なんだ? 今の時点で戦艦を着工する事が、どれだけの赤字を生み出すかわからないエリナ君じゃないだろうに……プライベートのメモにそんな内容を書き込むのも引っかかる。第一、秩父にネルガル関連の施設はなかったはず。
 考え込んでいた僕の耳に、サユリが問いかけてくれたのさ。この言葉がなかったら、僕の推測はそこで終わっていただろうね。

 

『あ、このブラジャーサイズが違う……あの、アカツキさん。この人って妹さんかなにかいました?』

 

 サユリの言葉に適当に答えながら、僕は思ったよ。
 『それだ!』ってね。
 このメモは、本来の用途そのままに……妹さんとのやり取りの中で書かれたものだって、僕は気がついた。
 同時に、エリナ君が僕に黙って進めていた計画……『インディープロジェクト』を思い出したんだ。

 

 ナデシコに使われていたテクノロジーが、火星の遺跡から採取された技術を応用していたものだって言うのは、今じゃ有名な話だよね? 木星の人間が生き延びられたのもそこにあったプラントを応用したから……火星と木星、少なくとも太陽系の二つの星に、異質文明の痕跡が残されていたんだ。ならば、地球には? この星には遺跡はないのか?何でも作り出す木星のプラント、ボソンジャンプを演算する火星の遺跡……それと同等のオーバーテクノロジーを企業単位で手に入れ、独占する事が出来れば、得られる利益は計り知れないだろう?
 つまりは、火星や木星にある遺跡と同じものを地球で探しましょうというのが、この計画のコンセプトだった。エリナ君は、この計画を僕に内緒で、隠密に進めていたんだ……肝心の情報は全部こっちに漏れてたんだけどね。
 何故僕がこの計画とそのメモを結び付けたか……答えは至極単純なものでね。彼女がその計画の責任者として、世界各地の未開地域探索に当たらせていたのが、彼女の妹レイナ・キンジョウ・ウォンだったのさ。信頼できて、発掘したものが過去の遺物か判断できる人材だったのさ。彼女は。

 

 だとしたら、このメモは『遺跡』に関する情報である可能性が高い……軟禁されていた僕がどういう行動に出たかは、言うまでもないだろう?
 勿論、即座に飛んだよ……日本の秩父山中にね。

 

 当時の僕達は軟禁中のはずだったんだけどね……割とあっさり僕達は秩父へ旅行する事が出来たんだ。いざって時のためにゴート君やプロス君も連れて行ったんだよ? 拍子抜けもいいところだったよ。
 後から知ったことなんだけど……社長側の人間は、エリナ君のこの計画を取るに足らない、論ずるにたらない計画だと思っていたらしくてね。僕たちがやる事も悪あがきの一種だと思って捨て置いたらしいよ。僕達に人員つぎ込むくらいなら、建て直しに使おうって話さ。
 事情を話してサユリも連れて行った、というのも大きかったんだろうと、当時の僕は考えてた。

 

 彼女がナデシコでついていた職場は食堂……そこで、ウェイトレス兼料理人として働く予定だったんだ。四人の同僚と合わせて『ホウメイガールズ』って名乗っていたそうだよ。写真で見せてもらったけど、皆可愛い子達だった。けど、その容姿があだになっちゃったんだよ……クルー狩りの中で、三人は人身売買組織に売られちゃって、一人は麻薬で廃人になっちゃったんだ。生き残りのホウメイガールズは、サユリただ一人ってわけさ。

 

 しかも、どこかの馬鹿が、四人のその後をビデオにして、サユリに送りつけてきたんだよ。そして彼女は、それを何の心構えもせずに再生した……僕がサユリと知り合う前の事だから直接は知らないんだけど、半狂乱になって押さえつけるのが大変だったらしいよ。
 僕と会った時はそれなりに明るかったけど……やっぱり、ふとしたきっかけで泣きそうな顔になることはあったね。多分、僕はその泣きそうな顔にころっとやられちゃったんだろうねぇ。この子は僕が護ってやらなくちゃ! ってやつ……柄でもないな今考えたら。(笑)

 

 だから、秩父山中に向かったのは、塞ぎこみがちだった彼女を元気付けるためでもあったわけ。そうでなきゃ、一般人を巻き込んだりしないよ。上層部連中がそんな事気にするわけもないから、女の子と観光に行った程度にしか捉えてなかったんじゃないかな。
 まあ、そんなわけで僕達は何の妨害もなく秩父山中にたどり着いたんだ。

 

 手がかりが異様に少なかったからね。まずは、レイナ君が秩父山中の何処を発掘していたのかを調べなきゃならない。ものが本来極秘なわけだから、聞き込みで調べるわけには行かなかったのさ。
 レイナ君が何処に住んでいたかは、すぐにわかったから、親族を名乗って堂々とその部屋を調べたんだ……短期契約タイプじゃなくて、普通のアパートだったから、大家さんも荷物の扱いには困ってたみたいでね。簡単に入れてくれたよ。
 いや、実際に荷物まとめて持ち帰ったんだよ? 大事なものはお墓につめなきゃならないしさ。

 

 踏み込んだ部屋はごくごく普通の女性の部屋だった……整備用の工具とかがあったのには驚いたけどね。
 そんな部屋の中を荒らしまわりながら整頓……変な言い方になっちゃったね。荒らした後にすぐさま箱に詰めるって言ったほうがいいかな? ともかく、整理しながら『プロジェクト』に関する情報を探し回ったんだ。
 具体的な情報はいえないけど、確かにその場所を記すメモは残されていたんだ……パンツの中に(汗)いやー、流石姉妹というだけあって、隠し物をする場所も似たり寄ったりだねぇ。サユリがいなかったら、変態って呼ばれても言い返せないところだよ。

 

 その場所に至るまでの具体的な描写は省くよ?
 君を信頼しないわけじゃないけどね、そこにあった『モノ』は今でこそ無意味なものだが、面白半分に掘り返していいものじゃない。あれは、一種のお墓なんだから。
 『それ』の入り口のところからなら、いくらでも話してあげるよ。

 

 ……遺跡を探すにあたって、エリナ君は古代の伝説とかに頼ったらしくてね。まあ、長い間地球では人間が跳梁跋扈してきたんだから、正しい判断基準ともいえるんだろうけど。彼女は膨大な数に上る候補から科学的見地でもって標的を絞っていたんだ。そのうちの一つが、秩父山中……江戸時代に、山が金色の光を放ったっていう、現地の人も憶えていない昔話さ。
 そんな山を発掘する……これは、極秘でやらなきゃならないことだから、かなり小規模な発掘作業になったんだ。僕達もメモに書かれた場所を発見した時、おどろいたよ。子供が秘密基地ごっこで使うような、ありきたりな洞穴がそこにあったんだから。しかも最近掘り返したような跡なんて何処にもなかった。

 

 僕達は入るのも一苦労しちゃってねえ。大柄なゴート君なんかは、その場で置いてけぼりさ。ついでに、尾行しているはずの人達を警戒するように命令して、小柄な僕とプロス君、サユリだけで中に入っていったんだ。今考えると無意味だったよねえ、この指示ってば。
 サユリでも中腰にならなきゃ通れない狭い洞窟だ。僕達みたいな男には少々つらかったよ……けど、その奥にあったものは、それだけの苦労に見合う……いいや、おつりが莫大過ぎて罪悪感を感じるような凄いものだったんだ。
 遺跡? 違うよ、そんな得体の知れないものじゃない……僕にとっては皮肉なめぐりあわせを持つものであり、君もよぉぉぉぉっく知っている物体がそこには横たわっていたんだ。知らないなんていわないよね? 君にとっては過去に来るきっかけとなった、因縁溢れるものなんだから。
 思い出すよ……狭い洞窟の向こうに明かりが見えて、そこへたどり着いた時の感動を。入り口のセンサーが、人間の入室に反応してその物体をライトアップさせて……戦艦用ドッグ位の大きさがある空洞に横たわる、どてっぱらに風穴を開けた『それ』を。

 

 まあ、感動したのは僕だけだったけど。プロス君は呆然としてたし、サユリにいたっては悲鳴まで上げた。それほど、そこに横たわっていたものは衝撃的だったのさ。
 長い時を経てくすんで変色してしまった装甲に、ナデシコに似通ったものがあるカラーリング……そこに横たわっていたのは、戦艦だったんだ。
 この、ナデシコに似たカラーリングが、サユリに悲鳴を上げさせたんだ。彼女にとっては、余りいい思い出のある戦艦じゃないしね。
 その時の僕はその戦艦の正体については何も知らなかったからね。単純に、遺跡関連の戦艦だと思ったんだ。権力も何もかも失っていた当時の僕の視点からは、黄金の塊に見えたよ。
 返り咲くための材料が、障害もなくそこに横たわっているんだ。すぐさま調べたくなるのが人情だろう? 怯えるサユリを置いていったのは、今でも一寸あれだと思うけど……とにかく、僕は単身戦艦の中に乗り込んだんだ。

 

 え? なんて馬鹿な事を? ……いやいや、耳が痛い。
 確かに、この時の僕の行動は無謀だったよ。
 戦艦である以上、敵に拿捕された時のためにセキュリティは設置されていてしかるべきだ。例えそれが古代のものであれ、前文明のものであれ……未知の生き物の侵入に反応しない御馬鹿なセキュリティがあるはずがない。現に、火星に存在していた戦艦を調査した時はセキュリティ相手に苦戦して死人まで出たんだ。レイナ君がここまで発掘を済ませておいて何故大規模な行動に出なかったのか、その理由を考えれば命の危険があるってわかりそうなもんさ
 理由は簡単さ。会長の座を失った後、僕の精神状態は一寸普通じゃなかったんだ。話す内容が大雑把なのも、単純に記憶がおぼろげだからさ。エリナ君の死と会長の座を失ったことと……二重の衝撃が、僕の精神の屋台骨をぐらつかせてたんだ。追い詰められていたのもあった。

 

 そうして、僕はその戦艦の中へ踏み入っていったんだ。
 ……ああ、君のいうとおりさ。この話はテンカワアキト当人とは全く関係のないお話だよ。けど、君はこの話の顛末を知らなきゃいけないんだよ。君たちと一緒に逆行してきた少女の、哀れな末路をね。
 内部で何を目撃したのかは端折って、単刀直入に言おう。

 

 見つけた戦艦の名前は……ユーチャリス。
 君につけられたどてっぱらの傷をそのままに、黒い王子様の白馬がそこに眠っていたのさ。
 江戸時代に、地下空洞にボソンアウトしてからずっとね。

 

 とにかく、ユーチャリスと接触することで、僕は地球圏では誰よりも早く、未来の情報を知りえた。
 おいおい、詳しい情報は勘弁してくれないか。ユーチャリスの事だって、十分機密に属するんだから。社内でこのことを知ってるのは、ゴート君とプロス君だけ。重役連中だってこの事は知らないんだから。ね? 大雑把な話だけで勘弁してよ。

 

 セキュリティ? ああ、その程度の事なら……まあ、いいかな。
 実に単純な事さ。ユーチャリスに搭載さえていたオモイカネ型コンピューター『ダッシュ』は僕を未来のアカツキナガレだと認識したんだ。ダッシュ自身も、長い時の中ですがるところがあったんだろうね。

 

 僕はダッシュから色々教えられたよ。未来の情報は勿論、過去の情報も。ユーチャリスがランダムジャンプで江戸時代にまで飛ばされた事、ラピスラズリはジャンプアウトと共にいずこかに消え去った事なんかも。
 僕が君に教えたかった主なことは、これさ。ラピスラズリは、何の因果かたった一人で時間の彼方に飛ばされて、誰にも見取られる事なく死んでしまった……らしくない話だけどね、せめて、彼女が生きてた事を、君にだけは知っておいてもらいたかったのさ。
 そして、ここからが本題。何故、ラピスラズリだけが過去に弾き飛ばされたか、その原因に迫ってみよう。
 実に単純明快な話だ。ホシノルリは、常に闇の王子様に付き従うラピスラズリに、嫉妬に近い憎悪を抱いていた……その憎悪が、ランダムジャンプから彼女の存在だけを弾き飛ばしてしまったのさ。ジャンプはイメージが命だからね。ユーチャリスは、そのイメージに引き摺られた事になる。
 僕とテンカワアキトとの関わりはこの位さ。実際に会ったことすらないんだから、当然だろう?
 話の続き、聞きたいかい?

 

 見せられた記録の中には、ボソンジャンプ直前のやり取りもあった。
 ……ダッシュは言ったよ。今の世の中の情報から、漆黒の戦神と電子の妖精が精神のみのボソンジャンプで、未来から来た存在だと推察するとね。
 そして同時に、佐世保殺戮が魔女個人の手によって人為的に引き起こされた事も知った。

 

 その動機を、僕はすぐさま察したよ。
 今でこそ浮気知らずの愛妻家として名高い僕だけど……当時は大関スケコマシなんて呼ばれるくらいに女の子の扱いには長けててね。
 親父なんかは酷かったよ。女性を性処理の相手としか認識してなくてさ……対外的には事故死で処理してるけど、実際は昔の女に刺されてぽっくり逝っちゃったんだ。そんな親父の遊びっぷりが、僕にも感染したんだろうね。ともかく嫉妬なんかの愛憎も数多く見てきた……独占欲って奴もようく知っていたよ。
 ジャンプ寸前の記録にある発狂振りから推測したら、即座にわかることさ。ようやく手の届く場所に来た王子様、手放さないためには何でもやるってね。
 第一、エリナ君やスバル・リョーコ暗殺、アスカインダストリー倒産における裏工作の証拠まで同時に提示されたんだ。気付かないほうがどうかしてるさ。

 

 魔女が戦神を独占するために、近づく女性全てを抹殺している……真相を知った瞬間、鳥肌が立ったのを憶えているよ。そんな個人的なことで、魔女は世界中を混乱に陥れていたんだから……
 幸運だったのは、オモイカネダッシュが情報収集のみに徹して、魔女に目をつけられるようなマネをしでかさなかった事さ。わかりやすくいえば、見物だけして直接手出しはしなかったって事。魔女の過信に、偶然付け込んだって言う考え方も出来るけど。
 もし、魔女が僕の事を……真相を知った人間の存在に感付いていたら。僕は生きて今の時代を迎えられなかっただろうね。

 

 え? ネルガルが潰れるんじゃないのか?
 うーん。流石マシンチャイルド、いいところを突くね。確かに、当時のネットワーク社会で僕の口を封じるなら、暗殺よりネルガルを潰したほうが手っ取り早い。だけどね、魔女にはそれをしない理由があった。
 ブラックサレナとブローディアの二機がいつ、何処で作られたか知ってるかい?
 ……流石に頭の回転が速いねえ。その通りさ。
 魔女は、ネルガルの施設と技術を、戦神の専用機製作のために利用していたんだ。謎の投資者の正体も、ここまで言えばわかるだろう。魔女にとって、ネルガルは潰れてもらっちゃ困る存在だったんだ。いやいや、実に巧妙な手口だったよ。自分の意思を社長命令であるかのように各技術部に伝達し、専用機を作らせたんだから。
 で、用済みになったらポイッ……ユーチャリスを発見した時点で、ネルガルは切捨てが開始されていたんだ。それ故に僕等につける人材が無くなったというわけさ。

 

 全てを知った僕は、すぐさま行動を開始したよ。魔女という存在を根絶するためにね。
 安っぽい正義感なんかじゃないよ。僕は単純に、自分の身の安全と……ネルガルという企業を死守しなきゃならない立場だった。第一、あの魔女が天下を取ってしまったら……考えたくもない暗黒時代がやってくると思わないかい?

 

 まずやったのは、ラピスラズリの名前で、魔女にメールを出す。内容は、嫌がらせみたいな脅迫状だったけど、逆行者からすれば凶悪極まりない内容さ。次に、ダッシュの外部連絡回線を切断させて追尾を不可能にする。たったこれだけで、魔女は存在しない人間を探すために躍起にならなくちゃいけなくなった。
 僕がその後に打つ手段を、魔女に知られるわけにはいかなかったのさ。マシンチャイルド専用のコンピューターウィルス……フォボス戦役の切り札となり、僕が免罪された理由でもあるシステムは、この時から開発が始まったんだ。
 ……どうやって造ったかは、企業秘密さ。

 

 あー、これは独り言なんだけどね。
 もし、もしもだよ? ユーチャリスのオペレーターだったラピスラズリ……彼女の精神状態が、ホシノルリと同じような状態にあったとしたら? 魔女よりは遥かに可愛げのあるレベルで、テンカワアキトを独占したいと思っていたとしたら? 連れ戻されたら、二度とテンカワアキトに会えないと思っていたとしたら?
 魔女に対する対策を考えていても、おかしくないよねえ。
 そうしてもう一つ独り言。
 天才パティシエが、ありとあらゆる材料を使い、最高のクリーム、スポンジ、フルーツを取り揃えたところで力尽きた。後に残った材料で、パティシエの仕事をずっと見てきた料理人の親友がケーキを完成させる。
 味に違いがあると思うかい?
 ラスト! ウィルスを作るとしたら、何故ダッシュの回線を切断したのか。造る場所を孤立化させたほうが、よっぽど便利だよねえ。

 

 サユリやプロス君たちに真相を話してから、僕は意欲的に働いたよ……それこそ、馬車馬のようにね。
 まず、ネルガル本社に帰って、実権を取りもどした。切捨てでぐらついた会社の実権を取り戻すのに、苦労はしなかったよ……ユーチャリスからもって帰った、未来の技術もあったことだしね。発表する時には細心の注意を払って、未来の技術だってばれないようにしておいたよ。
 次に、社長派の追放……は、話に関係ないね。まあ、路頭に迷うだけですんだ、とだけ言っておこうか。
 お次が、この時代のラピス・ラズリを探し出す事……これは、完全に無駄骨だったよ。非公式のマシンチャイルドが存在したであろう社長派の研究所は、あらかた魔女によって破壊されちゃってたんだから。

 

 最後に行ったのは……『戦神』に対抗できる、人材の情報収集さ。手に入れた情報から推測するに、テンカワアキトが魔女の本性を知っていたとは思えないしね。
 だから、いざという時のために、戦神に対する抑止力を用意する必要があった。
 魔女を情報方面から抹殺する事は、事実上不可能に近い。直接、肉弾戦か機動兵器戦の事故で逝ってもらう必要があったというわけさ。いや、殺すまで行かなくても、魔女自身が情報操作を行えない状態に出来ればよかったんだ。
 軍に徴発されていたナデシコに閉じ込めて、スキャンダルをでっち上げるとか……社会的な抹殺にも物理的な暗殺にも、『漆黒の戦神』クラスの使い手が必要不可欠だったのさ。

 

 え? 『漆黒の戦神』を性質の悪いデマだとは思わなかったのか?
 まがなりにも、ナデシコはネルガルの戦艦だよ? 魔女に気付かれない場所に、逐次戦闘結果を報告する装置がつけられていたのさ。そこから得られる情報と比較して、ピックアップされた人間は二人いた。
 一人は、今や知らぬものはいない『三色の覇王』。もう一人は……かなりマイナーなんだけどね。『日出処の守護者』っていう名前をつけられたエステバリスライダーさ。
 え……? 知ってるのかい! いやー、通だねえ。今となっては、殆ど誰も知らないっていうのに。
 今でこそ余り知られてない『日出処の守護者』だけど、当時の西欧では随一のエステバリスライダーとして幅を利かせてたのさ。
 その戦果の輝かしい事といったらまあ……『漆黒の戦神』に迫るものがあったくらいでね。接収されたナデシコの大活躍を危ぶむ軍人さんは、こぞって彼をヒーローに仕立て上げたものさ。
 ナデシコの『戦神』、西欧の『日出処の守護者』……守護者の戦闘映像を見た時、僕はこいつだ! って思ったね。『三色の覇王』は当時の情勢からは魔女側の人間だと思われていたからね……クリムゾン系列の人間って言うのもいい。魔女に攻撃されてる対象だからね。僕はスカウトする気満々だった。当時のクリムゾンは、ネルガルと同じくらいに傾いて、木連に勝ってもらわないとどうにも立ち行かなくなってたのさ。弱体化したクリムゾン相手なら、うまく立ち回れると考えたのさ。
 サンライトハートの技術を知りたい、っていうのもあったから、かなり力を入れて勧誘したんだけど……まさか、あんな事になるなんてねえ。
 周りにいた女達が、悪かったのさ……最悪なくらいにね。
 え? 彼女等が何をやったのか知ってるのかい。そりゃあ、随分と調べたねえ。事の詳しい顛末は、魔女の手で全然残ってないっていうのにさ。

 

 だったら、僕は僕個人の意見を言わせてもらおうかな?
 守護者の実力は、間違いなく超一流だったよ。間違いない。それを、あんなふうに飾り立てて何の意味があるんだい? 味方が全滅した後に戦わなくても、強い奴は強い。わざわざ引き立て役を用意しなくても目立つ奴は目立つ。彼女達の行為は、完全なまでに無意味だったのさ。
 それが原因で全てを失ってたら、わけないね。

 

 『日出処の守護者』が逆魔女狩りの犠牲になったその日から、日刻みで新たな被害者が増えていった……守護者の罪状が暴かれて、軍事裁判が開かれて、罪状が決定するまで800人近い人間が葬られていったよ……社会的にも物理的にも。
 その中に僕が含まれていなかったのは、単純に忘れ去られてたからだと思うよ。魔女にとって、戦神以外の男なんてどうでもいい存在だったって事さ。

 

 思えば……この頃からかな? 僕が、女性関係を清算しだしたのは。
 怖くなっちゃってね……『日出処の守護者』の九人の女達、戦神のために何万人でも殺す魔女……女って言う生き物が持つ愛情の、悪い一面ばかりを強調した連中を目の当たりにしたせいで。僕もあいつらみたいになったらどうしよう、ってね。今でも、サユリ以外の女性とはお近づきになりたくないよ。
 サユリとも縁を切ろうとしたんだけどね……いや、この話はやめとこうか。話から外れすぎる。唯一つ、ドラマ顔負けのやり取りのはてに交際を開始した、とだけ発言しておこう。

 

 この逆魔女狩りが始まった事で、僕たちは危機感を感じたね。実際はそんなことはないのに、足元が切り崩されていくような錯覚を覚えたのさ。とにかく、秩父に頻繁に足を運んで、ウィルスの完成を急がせた……オペレーション・ジークフリート・ルオップ・ブレイクがもう少し遅れてたら、未完成のウイルスで魔女に対抗してたかもしれない。
 後から知ったことなんだけどね。『三色の覇王』の大作戦が成功したのは、僕がラピスの名前を騙ったおかげなんだってさ。魔女が存在しない人間を探し回っている隙に、ヤマダジロウを含めた三人は証拠を固めてしまったって……いやあ、なんかてれるねえ。

 

 オペレーション・ジークフリート・ルオップ・ブレイクについて?
 寝耳に水だったね。僕はその時、執務室で書類相手に苦戦してたんだけど……報告が来た時は、思わず耳を疑ったよ。
 魔女が完璧に規制してるはずのマスメディアが、魔女の本性を暴き立ててるって言うんだもの。魚が海でおぼれたようなもんだよ? 魔女の正確な『スペック』を知っている僕は、その情報を信じなかった。最初は、魔女が自分に抵抗している人間をあぶりだしてるんだと思ってたんだけど……翌日のニュースを見て、ようやく違うんだってわかったよ。
 だって、世論は魔女に対する弾劾一色なんだから。

 

 いやー、これには脱力しちゃったね。必死にウィルス作ってた僕達は一体何なの!? って感じさ。
 僕たちが考えてた『魔女暗殺』のプランに良く似た行動を、てっきり敵だと思っていた『三色の覇王』が最前線で実行してるんだ! 都合が良すぎて夢かと思うくらいに事態は好転したのさ!
 ここで全てが上手く行ったらまさに夢物語。けど、現実は何処までもシビア……ヤマダジロウが作戦失敗に払った代償は、『ゲキガンバリス』そのものだった。『三色の覇王』唯一の汚点だよ。
 ヤマダジロウを神聖視する連中は異論を唱えてるみたいだけどね。『戦神の親友を信用せずに、乗機に自爆装置を取り付ける魔女が悪辣なのだ!』ってさ……魔女が悪辣ってのには賛成するけどねえ。
 この時失われたのは、『ゲキガンバリス』だけじゃない……ああ、これを君に話す必要はないかな? いや、逆に質問したいくらいなんだけど。

 

 魔女がフォボスに行くにあたって軍部コンピューターに仕込んだあのウィルス……あれの正体は、コンピューターを使用不可能にするプロテクトだと僕は推察するんだけど、実際はどうなんだい?
 え? 違うのかい……うーん、いい線いってると思ったんだけどなあ。
 調べはしたんだけどねえ。こいつのせいで、『日出処の守護者』に関連する情報や地球連合側の軍事記録が一切合財消えて無くなっちゃったんだから。

 

 木連からの正式な和平の使者については……悪いけど、全然全く知らなかったよ。何せ、当時の地球は魔女がばら撒いたウィルスで軍部は機能しないし、政府も滅茶苦茶だし。クリムゾンは完全に倒産しちゃって、戦神に批判的だったジャーナリストは皆殺し。隠す必要がなくなったから、一欠けらの容赦もなく邪魔者が消えていったよ。
 ネルガルが倒産しなかったのは文字通り運がよかったんだ。
 和平なんて、到底出来る状況じゃなかった。僕も色々奔走して、和平が成立するようにしたんだけどねえ。
 『日出処の守護者』を知ってるくらいだから、実際どんな風に和平交渉が行われたか知ってるだろう……無理やり拉致して勢いで条約締結なんて、僕の親父でもやらないよ。ネルガルが働きかけてもどうにもならないレベルで、社会は混乱していた。

 

 どうしたんだい、目を丸くしちゃって……
 ああ、ネルガルが和平に踏み切った理由ね。
 簡単さ。ネルガルにとって、この戦争は最早有害無益な存在になってたんだ。収入源になるはずの兵器は徴収されちゃうし、当時の状況じゃあどう転んでもネルガルが遺跡を奪還する事なんて出来ないし、遺跡よりもネルガルの存続を優先させなきゃならかった。
 マシンチャイルドの、魔女の生産元って事で大いに叩かれてるネルガルが地球連合で巻き返すのは最早不可能だったんだよ。何せ、ホシノ夫妻が自分の義娘の手柄で権力を得ようと、マシンチャイルドを育てたのは私たちです! って大声で宣伝して回ってたから。結果的にネルガルの利益になればと思って放置しておいたんだけど、それがあだになったのさ。佐世保虐殺の時と同じような現象が一気に起きてね。
 ちなみに、ホシノ夫妻は魔女失脚の後、テロに巻き込まれて死んじゃったよ。
 ナデシコの一件で不条理極まりない条約が結ばれちゃってね。ネルガルの開発する『兵器』は、戦争そのものが終わるまで無料提供しなきゃならない。しかも、地球連合の中には、魔女の責任をネルガルに取らせようという動きすらあった……ネルガルが再び返り咲くには、地球連合には潰れてもらわなくちゃならなかったんだ。当時の情勢を考えれば、和平の結果がどう転ぶかなんて容易にわかることさ。
 魔女の無人兵器で、ただでさえ疲弊していた組織がずたずたにされたんだ。木連有利の不平等条約が結ばれる事は予想がついてた。後は、始まるであろう魔女攻略のための会議で、ウィルスを交換条件に免罪してもらえばいい。

 

 冷酷な判断だと思うかい? 木連軍人の中には、僕を売国奴だって言って夕凪社中製品を買わない人がいるらしいけど……商業の世界なんてこんなものさ。
 魔女って言う特級の反面教師がいなかったら、僕は親父の同類になってたかもね。そのくらい、企業の毒って奴は強いのさ……背負う責任が大きければ大きいほど、毒性は倍加していく。僕の親父だって最初は祖父から受け継いだ会社を潰さないよう、血眼になって走り回る熱血漢だったんだ……その親父を冷酷で人情のない経営者にしたのは、間違いなく企業の毒さ。
 最初から腐ってた奴なんて、企業の中にはいないよ。責任感、あるいは権力が持つ甘さに引かれちゃって、毒に犯され精神の屋台骨が崩れ落ちていく。そうでなくとも企業を経営しているとね、幾度となくシビアな選択を迫られるんだ。条理か、企業かの二択さ。そういった選択を繰り返していくうちに、企業人は骨の髄まで腐っていくのさ。

 

 和平が成立して、ホシノルリが全宇宙にいかれた放送を行っただろ?
 詳しい内容は知ってるだろうから省くよ。僕がこの時の魔女に言いたいのはたった一言……実際、魔女の放送を聞いた時、思わずつぶやいた言葉さ。今でもそれは変わらない。
 魔女があの世からよみがえったとしたら、僕は迷わずこういうだろう。

 

 ふざけるんじゃねえぞガキが!

 

 ……ってね。
 普通の人は気付かなかっただろうけどさ……魔女が自分の過去をあらかたばらした時、ある手法が付け加えられてたんだよ。自分の、戦神の境遇に、民衆の同情が集まるように未来の情報を公開し、マスドライバーによるジャンパー虐殺も正当化したのさ。脅迫と併用すれば『この人たちになら従っても……』っていう妥協が働いてしまう、そんなトリックさ。
 僕は商売柄、言葉尻をとられないように話し方に注意を払う必要があったからね。魔女の同情を引こうって言う思惑が丸見えだった……全く、何を考えているんだか。
 企業の毒に犯されて罪業に手を浸した人間ですら、同情を引こうとはしなかったんだ……しかも、彼女の立たされた立場や戦神の境遇なんて、社会の裏にもぐれば簡単とまではいかないけど、珍しいことじゃない。ネルガルの上のほうにいる重役たちは、どいつもこいつも救いようのない輩ばかりだったけど……自分のしたことで、他人の同情をひこうなんて輩は独りもいなかった。
 少なくとも僕にとって、魔女の同情を引くような放送は逃げに見えた。自分のしでかした事に責任ももてない、甘ちゃんの半端者ってわけさ。
 尤も、それで同情するような奴はいなかったけどね。未来から来たって事そのものが荒唐無稽……人類の大半はその情報を信じず、魔女に対する憎悪を新たにしただけだった。

 

 その後はまさに、歴史が語る通りさ……魔女対策会議の場に、僕はのうのうと出席して、用意しておいたウィルスを配布し、免罪を勝ち取った。魔女がその電子戦能力を最大の防御に回してきたのも運が良かった……そのおかげで、僕のウィルスは性能以上の戦果を残せたからね。
 ウィルスそのものは、極めて単純な代物なのさ。インフルエンザみたいに電子ネットワーク上からナノマシンに感染して、一時期補助脳を麻痺させる。しかも、本人には自覚症状がないから……下手したら、感覚の麻痺そのものに気付かない。そういう代物なのさ。電子戦能力を殺すためには、これ以上のものはないだろうね。何せ、敵から武器を奪うばかりか、武器をなくした事にすら気付かせないんだから。

 

 いやいや……しかし、今思い出しても壮観だね。あの会議は。
 今で言う超一級の士官が目白押しだよ? 現地木連元首草壁春樹元帥閣下は勿論の事、和平大使として活躍し、今では元首の右腕として名高い白鳥九十九中将、君の直属の上司であり、新生優人部隊司令官の新城有朋中将、地球圏の政治軍事を一手に引き受ける地球駐在武官南雲義政大将、地木連の経済を支え夕凪社中の存続にも貢献してくれた西沢学大将……非公式な英雄である『金色の阿修羅』も、影で聞き耳を立てていたらしいし、豪華絢爛なラインナップだね。フォボス戦役で戦死してるけど、東舞歌や月臣元一朗、秋山源八郎なんかもその場にいた。この三人は、生きていたら地木連がさらに繁栄していただろうって言われてるから、知ってる人も多いと思うよ。

 

 それに比べて地球側の貧相な事といったらまあ……質じゃあ、確かに負けないよ。『三色の覇王』ヤマダジロウを初めとして、木連軍で唯一の地球人士官であるアオイ・ジュン准将と、フォボス戦役での合理的な指揮によって名将の名を高めたフクベ・ジンもいた。けど、たったそれだけ。これに僕を加えた四人以外、地球側からは誰も出席しなかった。
 その理由っていうのが笑えるんだよ。あんまり情けないんで、草壁閣下自らが武士の情けで緘口令布いたくらいだ。

 

 いわく、『木連などという国家は存在しない。よって、そのような会議に出席する必要は無し』……世界中の人が木連からの増援で生きながらえてるって時に、なんて時代遅れな事を。

 

 フォボス戦役についてかい……直接参加してないから、なんとも。出来る事なら、僕も最前線で戦いたかったんだけどねえ。戦神相手に戦って生き残った会長……キャッチコピーとしては最適だろ?
 邪な動機がいけなかったのかな? 見事に戦力外通告受けちゃったよ。まあ、あの人外ラインナップと比べられちゃあ、当然か(笑)
 『三色の覇王』『金色の阿修羅』『真紅の羅刹』『外道奉天』『三羽烏』……僕が100人になって10000回蘇ったとしても勝てないメンツだ。彼等を相手にして勝たせなかった『漆黒の戦神』が異常なのさ。
 フォボス攻略のメンバーにすら入れなかったのは、一寸ショックだったけどね。
 ん? 僕だけが知ってる極秘情報はないか……おいおい! 極秘の情報をそうそう漏らせるわけがないだろう。……んー、けど、言われてみればむらむらと独り言が言いたくなってきたなあ。

 

 僕自身がついていけない代わりに、ネルガルの戦艦を複数プレゼントしたんだけど……『何故か』その中の一隻が火星で行方不明になっていたんだ。すぐに戻ってきたけどね。
 以降のネルガルは、『何故か』遺跡関連の研究から全面撤退した。
 そして、後日の火星調査の折、夕凪社中からは『何故か』一人の人員も送られなかったのさ。送る事が無意味であるかのように。

 

 さあて、独り言も終わったね。
 続きは……戦後の事かな?
 いやあ、僕の視点から見れば、フォボス戦役は戦役そのものよりその後が印象に残ってるよ。凱旋パレードはネルガルが取り仕切ったんだけど……物凄い出費になっちゃったよ。木連との関係を良好化させるためとはいえ、一寸無理をしすぎちゃったなあ、あれは。
 草壁元首の取り計らいがなかったら、完全に元が取れなくなってるところだよ。
 元戦犯も問答無用で利用する、元首の英断に感謝だね……経済復興をネルガルが全面的に担当し、資金は全て木連が出してくれるんだから。ネルガルにとっては、利益にこそなれど損にはならないよ。
 僕としては、この時の働きで民衆の中の反ネルガル思想が払拭できればと思った。たったそれだけだったんだけど……いやあ、まさかあんな事になるとは思わなかったよ。

 

 この功績の恩賞として、魔女の再来を防ぐためのプラン立案をまかされた。そして、『デカルトプラン』を考え出し報告した結果……コンピューターに関する市場独占を公に認めてもらったというわけさ。デカルトプランにはネルガルの技術が必要不可欠だって事でね。
 記録での草壁元首の暴虐振りしか知らない僕は、最初力の限り疑ったよ。恩知らずだねえ……元首閣下が信賞必罰を厳守し、狂信的である以外は真っ当な将官だって知ったのは、だいぶ後になってからさ。
 それに、アスカとクリムゾンが倒産して、大規模な発注に耐えられるような企業はネルガルしか残っていなかった。

 

 言われる前に独り言を言っておくよ?
 デカルトプランで生産した特殊コンピューター『ユーチャリス』の実験段階で、何故かユーチャリスからダッシュの姿が消えちゃってたりするんだよねえ。それで、『ユーチャリス』の開発が終了したら用済みとばかりに元の場所に戻されてた。
 ユーチャリスの場所は、僕とプロス君、サユリとゴート君しか知らない……ネルガルのみの極秘事項だったのに、なんでダッシュは持ち去られたんだろうねえ。

 

 社名を夕凪社中に改名したのも、この頃さ。ネルガルじゃイメージが悪すぎたし。魔女の件で不買運動が続くネルガルにとっては、イメージ変革は重要な事だったのさ。
 僕自身思うところもあったしね……

 

 良く考えてみてくれ。今日のネルガルが繁栄させたのはなんだい?
 戦争によるイメージの一新、魔女によるネットワーク社会忌避の傾向、ユーチャリスからの異質技術、木連の庇護……全て、人の死を材料に成り立つものばかりだよ。企業が儲かり、社員を護るために人が死ぬのはいい……大を護るために小を殺すのは、経営者の論理に反する事じゃない。けど、そのために大量の人間を殺すのは人間としての良心に反するだろう?
 そういう意味で、ネルガルって社名は死臭が強すぎたのさ。

 

 昔の僕なら、木連の戦争を助長したように邁進したんだろうけど……当時の僕は魔女の影響で『企業の毒』が少し抜け落ちてたからそういう考え方が出来た。
 けど、熱血アニメみたいに一気に改心したわけじゃない……僕は、木連との戦争を激化させて遺跡を手に入れようとした事そのものは後悔してないよ。ただねえ、ネルガルのためなら全てが許されるって考え方は、やっぱり違うんじゃないかと思い始めたのさ。
 未来のナデシコのように、『私らしく自分らしく』って奴さ。これが僕らしさだよ。
 あの戦争で僕個人が真理的に得たのはたったこれだけ……独裁者が改心したり外道科学者が罪を償ったりしてる中じゃ、一番スケールが小さいんだろうね。

 

 いやはや……もう夜中になっちゃったよ。15年も前の事をこんなに長々と語る事になるとはねえ。
 え? この十五年についてコメントかい。
 夕凪社中にとっては片手団扇の十五年だったよ。デカルトプランの実施でコンピューターは跳ぶように売れるし、高速読み取り機市場も独占状態……いまや、夕凪社中は地木連随一の一大企業に成長した。全部戦争のおかげって事を考えると……手放しで喜べないものもあるけどね。
 個人的には、結婚も出来たし子宝にも恵まれた。息子のリュウイチには、夕凪社中を継がせるつもりで、企業の毒に犯されないように慎重な教育を施しているよ。企業の毒に犯されて、自分らしさを見失うなんてくだらない事さ。そうだろう?

 

 『妖精教』について?
 うーん、可哀想な人たちだと思うよ。魔女があの放送に施した仕掛けに、ものの見事に引っかかっちゃったんだから。
 知ってる? 教主のアララギさん……元々は木連の将官だったのに、身内の恥だって登録抹消されちゃって、地球連合軍の将官だったと思われてるんだよ。

 

 最後の質問かい……いいよ、何でも聞いてくれ。
 戦神と妖精についてか……どっちもどっちだと思うよ。
 片や、自己満足のために復讐に走り回って、魔女到来の原因を作った王子様。片や、独占欲のために世界中を引っ掻き回して、同情を誘おうとすらしたお姫様。
 ぜひとも天国で幸せになって……二度と現世に帰ってきて欲しくないね。
 未来の友人に対して酷い言い方だと思うかい? あいにくと、未来の僕と今の僕とじゃあ全くの別人だ。加減してやる必要はない。

 

 さて……月見にちょうどいい時間になっちゃったね。あらら、天気が良くて火星まで見えるよ。帰ったら、サユリと月見でもするかな。
 帰りはどうするんだい? 良かったら、車で送らせるけど……あ、バギーで来てたんだ。じゃ、送り迎えはいらないか。
 読込機のモニターよろしく頼むよ……気に入ったんなら、そのままあげるよ。
 ああ、途中まで一緒に行かないかい? 僕も帰らなくちゃならないからね。愛する妻と愛する我が子の待つ我が家へ。
 僕が僕らしくあるために必要なのさ、定時の帰宅はね……これでも、魔女みたいにならないように努力してるんだよ?
 自分に課せられた義務と欲望を履き違えない努力は、意外と大変なんだから。
 君も気をつけたほうがいいよ。これは、人生の先輩としての忠告さ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エピローグ

「…………」
 青年は、奇形ビルから一歩外に出ると、空を見上げた……満月が、満天の星空を従える夜空の女王の如き美しさを放ち、見るものの心を和ませる。肌を包む空気は程よい冷たさで、青年の五感を刺激した。

 

 

 

 少女が全てを吐き出して、世界に戦いを挑んだ時。
 少年は、戦いとは無縁の場所でぬくぬくと生きていた。

 

 

 

 不思議な事に、青年は一人だった。共に出てくるはずの、長髪の中年は何処にもいない。
「……ぷっ」
 その原因となった出来事を思い出し、青年は噴出してしまった。
 その出来事は、目の前の風情も何もかも吹き飛ばしてしまえるほどに、滑稽なもので。

 

 

 

 憧れの人が魔女と言われる中で。憧れの人を倒すための作戦が練られる中で。
 憧れの人が狂人と言われる中で。憧れの人を倒すための武器が作られる中で。
 少年は何も出来ずにいた。

 

 

 

「……あそこまでラブラブだと、逆に笑えてくるよなあ」
 中年がいない原因は、奥方のお出迎え。
 包容力に溢れた帰りの遅い旦那を心配し、エプロン姿のままでロビーにやってきていたのだ。しかも、おしめの取れない赤子を抱いて。
 呆れるくらいの相思相愛。ロビーでいきなり、ホームドラマの愛情確認場面を始められた時は、余りの甘さに吐き気までしたものだ。

 

 

 

 『僕は……僕は』
 見上げた空に、止めなければならない艦艇が飛んでゆく
 それでも、少年は何も出来なかった……しなかった。

 

 

 

 愛する家庭とそれを歓迎してくれる周囲……それは、どれも『彼女』が求めてやまなかったものだった。
 そして、得られなかったものだ。魔女と蔑まれてまで求めたというのに、少女の手の中に残ったのは、想い人の死骸と絶望だけ。
 青年には、二人の姿がとてつもなく眩しく見えた。

 

 

 

 協力しようと思えば、出来たはずなのに。
 止めようとすれば、止められたはずなのに。
 少女と同じ電子の申し子である自分にとっては、簡単に出来る事のはずなのに……少年はそれが出来なかった。しなかった。

 

 

 

 それと同時に、誇らしくもあった。
 自分には、アカツキと同じように一緒に歩んでくれる女性がいるのだ。
 そう、自分と全く同じ記憶を持ち、同じ時間を歩む一人の女性が。
「……彼女の事、話しとけばよかったかな?」
 考えるまでもないことだった。ようやく彼女は、悪夢とも言える別離から立ち直ろうとしているのに……その創を抉り返すような真似を、青年はしたくない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 根源にあるのは、『魔女』に対する恐怖。
 少年は、怖いから何もしなかった。
 『魔女』に関われば自分はどうなる? 家族はどうなる?
 『魔女』は自分たちをどう扱う? 殺す可能性は?
 だから何もしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 愛用のバギーの傍らにたどり着き、青年は苦笑した。
 自分も、あの中年のことを笑えない立場にいるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   なんて素敵な理論武装。それは全て、愚かな臆病者の自己弁護に過ぎなかった。
 戦争が終焉し、少年は己を責めさいなめ、そして思い至った。
 自分の行動は正しかったのか。
 間違っていたのなら、自分はどうするべきだったのか。
 戦争を知る者たちの言葉を聴くことで、少年は改めて見極める。
 己の判断の正否を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 月明かりの下――逆行者は暖かい居場所へ帰途に着いた。

 

 

 

あとがき
 アカツキに関する明確なテーマを決めていなかったばっかりに、執筆に一週間を食った犬畜生ならぬ記号畜生、♪♪♪です。
 本当は死ぬ予定だったある女性を、生き残らせるためにかなり加筆修正しました。本当なら餓死する予定だったので(汗)後から読み返していくらなんでも酷かろうと思わず修正。
 話が破綻していないか、心配です。こういうのは、自分じゃ酷評できませんから。
 元ネタを提供してくださったEINGRAD様、誤字指摘および意見を下さったEffandross様、矛盾点を指摘してくださったラクーンドック様……まことにありがとうございました。
 これからも、どうぞよろしくお願いします。

 

 

 

 

 

代理人の感想

毎度ながら楽しませていただきました。

これ、なにが面白いかって言うとやっぱり「IF」なんですね。

「もしこうだったら〜」ってシミュレーションの面白さ。

(「シミュレーション」です。「シュミレーション」じゃないですよ、SS作家の皆様)

おなじみのキャラを違う展開に放り込んで、それでも行動に説得力があるから面白い物語として成立するんですね。

まぁ、このSSはメタ的なんで純粋な「物語」とは言いがたい部分もありますけど。

今後は・・・イネスさんやムネタケは絶望っぽいですけど、ホウメイさん編とかはあるのかなぁ。

なんにしろ続きが読みたいですね。

 

>データの郵送

・・・・・さすがにそれは・・・・・現在でさえソーシャルハック(ネットワークを用いず、電子的でない古典的な手段によってコンピューターのデータを盗むこと)って単語があるくらいですし。

となると重要なデータは人間が直接届けてるんじゃないかなぁ?

ここらへん、考察すると面白そうですね。

 

>餓死

うわぉ(汗)。

・・・・・まぁ、結果的には幸せな人が一人増えたし、いいか。