戯曲 草壁閣下の料理人

 

 

作 李章正

 

 

登場人物

 

木星圏ガニメデ・カリスト・エウロパ及び他衛星国家間反地球共同連合体(略称木連)

 

 草壁 春樹 木連軍中将。四方天の首領にして木連最大の実力者

 西沢 学 四方天の1人。木連経済官僚の重鎮

 北辰 四方天の1人。木連史上最凶の料理人

 東 舞歌  四方天の1人。木連軍優華部隊指揮官

 

機動戦艦ナデシコ(地球連合)

 

 ミスマル・ユリカ 機動戦艦ナデシコ艦長。「使い手」の1人

 ホシノ・ルリ ナデシコの正オペレーター

 メグミ・レイナード ナデシコ正通信士。「使い手」の1人

 ハルカ・ミナト ナデシコ正操舵士

 アオイ・ジュン ナデシコ副長

 プロスペクター ナデシコ経理責任者

 ゴート・ホーリー ナデシコ警備責任者。第1使徒

 ラピス・ラズリ ナデシコ第1副オペレーター。アキトの被保護者

 思兼 ナデシコを制御する人工頭脳

 テラサキ・サユリ ナデシコ食堂要員。所謂「ホウメイガールズ」のリーダー格

 ウエムラ・エリ ナデシコ食堂要員。「ホウメイガールズ」の1人

 スバル・リョーコ エステバリスパイロット。「使い手」の1人

 マキビ・ハリ ナデシコ第2副オペレーター

 ヤマダ・ジロウ エステバリスパイロット

 テンカワ・アキト 地球最強のエステバリスライダー。漆黒の戦神。本業コック(自称)

 

 その他 木連軍従卒。ナデシコ整備班、同保安部の面々

 

 

場所

 

木連軍本部。機動戦艦ナデシコ艦内

 

 

第1幕

 

 

第1場 木連軍本部

 

 

 幕が上がる。草壁は舞台中央の執務机に向かい、忙しげに書類の束に目を通している。

 暫くして、西沢が登場する。

 

西沢 お呼びですか、草壁閣下?

草壁 おお、待っていたぞ西沢。まあかけてくれ。(前にある椅子を勧める)

  さて、今日呼んだのは他でもない。

  悪辣にして暴虐、まさしく太陽系の末期癌とも言うべき地球連合。

  その中でも特に、我らに対する厚い壁となって立ちふさがっている、

  あのナデシコとかいう船に対する方策について、共に検討したいと思ったのだ。

西沢 はあ、しかしそれではまだ人数が揃っていないのでは……?

  部隊を率いて前線にいる東殿は兎も角、南雲殿や北辰殿がおいでになっておりません。

草壁 いや、その2人については最初から呼んでいないのだ。

  ……そのわけについては、これからおいおい話す。

  今、茶を淹れさせるから、まあ少し楽にしてくれ。(机上の鈴を2回鳴らす)

西沢 はあ……。(首を傾げる)

 

 従卒登場。2人にお茶を差し出す。(退場)

 

草壁 (一口茶を飲んでから)さて、西沢。貴公は「くりすますぱーてい」なる、

  地球の奇っ怪なる風習について聞いたことがあるかな?

西沢 クリスマスですか。ええ、勿論知っております。

  なんでも、新しい年を迎える前祝いとして、お菓子や御馳走を食べ、贈り物を交換し、

  更には仲のよい男女が、あーその、ある意味深く親交を暖めあう日であるとか?

草壁 そう、それだ。(小声で)……これは極秘だから決して口外はするなよ。

  東からの機密情報によれば、かのナデシコにおいてもその行事は大変重視されており、

  艦を挙げての大宴会を催すことになっておるそうだ。

西沢 (傍白)機密にするほどの大層な情報ですか、それが?

  ……閣下も閣下だが、東殿、貴女も遊び過ぎですぞ。

  なるほど、それは貴重な情報ですな……。で、それが地球連合、

  就中ナデシコへの対策と、一体どのような関係が?

草壁 まあそう焦るな、順を追って話す。

  ……時に、我ら木連の最大の敵、漆黒の戦神についてだが、かの者はかつてコックを志し、

  あろうことか今に至るも「本業は料理人だ」と言い張っておるそうな。

西沢 (傍白)それは少し違っていますよ閣下。正確には「我ら木連」ではなく、

  「あなた」にとって最大の敵なのです。

  ええ、それについてはよく知られた話ですな。それが?

草壁 ふっ、忘れたか西沢。かの戦神同様、元々は調理場の湯気を浴びる人生を望みながらその実、

  人血に塗れる道を選ばざるを得なかった男が、我ら木連にも1人存在していることを。

西沢 ! ま、まさか閣下!?(驚愕の表情)

草壁 そう、北辰だよ。(笑う)

  ……「くりすますぱーてい」にかこつけて奴をナデシコに送り込み、

  宴会料理を大量に作らせ、乗員に食させるのだ。

  さすれば、我らは一弾も放たずして、敵に甚大な被害を与え得るであろう。

西沢 し、しかし! 一体どのようにして? 仮にも我々と彼らは戦争中なのですぞ。

  北辰殿が作った料理を、敵であるナデシコの乗員がよもや食べるわけが! 

草壁 問題ない。東に命じてお膳立てをやらせる。

  あれが我が木連の穏健派として、ナデシコに独自のパイプを持っておるのは周知の事。

  ……「相互信頼醸成措置の第一歩として」とでも言わせれば、名目は立とう。

西沢 ですが……。北辰殿をナデシコに1人で送って、万一のことがあっては。

  かのお人は、木連になくてはならぬ方ですし。

  (傍白)本当を言えば彼が謀殺されるのは一向に構いませんが、

  その結果、主戦派をこれ以上力づけるような事態になっては困るからですけどね。

草壁 だから、交渉を東にやらせるのだ。(口元に笑みを浮かべる)

  あれが表に立つ以上、何か起これば全て東の責任ということになるのだからな。

  北辰1人を消して、引き替えに木連全体とのパイプを失うほど向こうも愚かではあるまい。

  また万が一そうなったとしても、その時は優華部隊を丸ごとこちらの手に取り込めるわけだ。

  ……奴らとの馴れ合い関係を、一切合切清算した上でな。

西沢 (傍白)それこそが、最も恐るべき事態です。幸い、可能性は極めて低いですが。

  それならば……。ですが、やはりどうでしょうか? 

  北辰殿は、彼らにとって最悪の敵と言っていい存在。

  その彼の手になる料理を、果たして彼らが食べるでしょうかね?

  ……私が彼らの立場でも、毒の存在を疑いますよ。

草壁 案ずることはない。北辰には当然、全くの丸腰で向こうに向かわせ、

  食材や道具も全てあちらに用意させる。加えて調理場所があちらなのだから、

  調理の過程も完全に向こうの監視下にあるわけだ。

  ……大体、奴が普通に料理をするだけで、本来100%無害な食材が、

  致命的な代物に変貌してしまうのだからな。

  わざわざ毒など持ち込む必要は、最初からないのだ。(笑う)

西沢 は、はあ。確かに、北辰殿は単に料理をするだけなのですから、

  それをもって破壊工作と決めつけるわけにはいかないでしょうな、彼らも。

  ……しかし、北辰殿の料理は見た目からしてあのとおり。(思い出してげんなりする)

  彼らがこちらの思惑通り、それを食べるとは限らないのでは?

草壁 (平然と)ふふん。その時は、

  「折角の料理交流の申し出を、地球側は拒絶した」と宣伝してやればよいではないか。

  脚色等一切不要、完全に事実のとおりをな。

  その場合にはこちらは軍事的な得点の代わりに、政治的なそれを1つ重ねることができるわけだ。

  ……いずれにせよ、我らにとって何一つ損はない。

西沢 ははあ、成る程。

  (傍白)いきなり「くりすますぱーてい」の話など始めるから、

  てっきりギャグになるのかと思ってましたがどうしてどうして、抜け目ありませんね……。

  やはり、侮れない人です。

  それで、北辰殿や南雲殿をお呼びにならなかったのですな。

  北辰殿には、向こうで純粋に料理の腕を振るってもらわねばなりませんし、

  また、彼の料理を喜んで食べる南雲殿には、この作戦の趣旨を理解することが抑もできないでしょうからね。

草壁 そう、そのとおりだ。

  ……諺に「馬鹿と鋏は」と言うが、まあ北辰の料理も使いようということよ。(笑う)

西沢 確かに、そのとおりですな……。(頷く)

  では早速、東殿に交流のお膳立てを依頼しておくとしましょう。

草壁 (片手を振って)いや、それはわたしがこれから直接やっておくからよい。

  貴公は北辰に連絡しておいてくれ。……あくまで純粋な料理交流であると、念を押しておくのだぞ。(席を立つ)

西沢 分かりました。

 

 草壁が退場する。西沢は立ち上がって草壁に一礼し、これを見送る。

 

西沢 東殿には連絡することができませんか……。

  こんなことで折角のパイプが途切れたりしないよう、暗に伝えたかったのですがね、こちらの意図を。

  ……まあいいでしょう。彼女なら、きっと上手くさばいてくれるでしょうから。(草壁と反対側に退場)

 

 

(第2幕に続く)

 

 

(中書き)

 好! 李章正です。まずは、中途半端でゴメンナサイ。

 本当は全部書き上げてから投稿したかったんですが、現在第3幕半ばで止まっておりまして。(一応、おおまかなストーリーは既に頭の中にあるんですがねぇ。最近忙しくて)

 で、自分を追い込むためにも、1幕ずつ分けて出すことにしたわけです。ご容赦下さい。(完成したら、1本にまとめて改訂版にしたいとも考えています。わざと話を分けて、話数を稼ぐつもりではありませんので)

 そういうわけで冒頭の登場人物。もしかしたら若干増えるかもしれません。(減ることはまずありませんが)

 

※「恐怖の料理人北辰」は、別人28号さん原案です。





コメント代理人 別人28号のコメント


とりあえず一言


連載やったんかい!?


いや、使用許可をした時はてっきり短編かと・・・


脚本形式とは珍しいカタチですね

読みやすかったですよ




やっぱり、ナデシコに行った後はミスター○っ子みたいな展開になるんでしょうか?

料理の狂宴・・・考えるだに恐ろしいデス

口から光線ぐらいは軽いかもしれません


北辰は自分の料理をマトモだと思ってますからねぇ・・・

設定上 周囲で監視している人が北辰の料理の異常さに気付かないって事はないと思いますよ

普通に煮物作るってスイカ煮込みますから

あまりにも堂々としてるから気付かないかも知れませんが・・・

もしかしたら それこそ舞歌の交渉能力の見せ所かもしれませんね




・・・でも、自分だけは被害者にならんようにするんだろうなぁ 舞歌






それにしても、「くりすますぱーてい」って・・・

草壁って「D」を「でー」って言うタイプの人?