〜『親子で学ぶ木星連合の歴史』(国定木連小学校歴史教科書 平成214年版)より抜粋〜
第1次月独立運動とその展開
激我暦紀元前10年代から、月面諸植民都市では、地球の圧制に対する反発が徐々に高まりつつありました。
「植民地建設費用の回収」を旗印に、月の産出する鉱物資源その他を極めて安い価で搾取し続ける地球に対し、月面諸都市の住民の中に、暴虐な地球からの独立を求める声が自然発生的に起こってきたのは、当然のことだったと言えるでしょう。
これに対して悪逆なる地球は、当初直接的な弾圧を行いましたが、それが月側の反発を強めるだけであまり効果がないと見てとるや、卑劣にも月の人々の分裂を策したのです。
当時、月にも色々な考えの人々がいました。何が何でも独立をと主張する人から、まず生活の向上、それが叶うならとりあえず自治で十分という人。更には、地球による現在の支配体制にすり寄り、不当に利益を貪る者まで様々です。そしてこれらの人々は、主に独立派と迎合派@に分かれ、地球に対する路線を巡って意見対立していました。
地球は卑劣にも、この独立派と迎合派それぞれに対し、裏から最初は資金、やがて小火器の類を供給しておいて、月の住民同士で相争わせるようにし向けたのです。その結果、元々そう強くなかった月面諸都市における反地球組織が分裂、弱体化してしまったのみならず、月人同士の武力抗争Aが発生するまでになってしまったのでした。
その一方で、悪逆なる地球は月から購入する鉱物資源価格の一定程度引き上げ、及び都市を単位とする自治権の拡大を約束しました。激我暦紀元前5年のことです。これが月に対する、いわば飴の政策であったことは言うまでもありません。
もちろん、ただ飴を嘗めさせたわけではありませんでした。地球は厚顔にも月の治安悪化を理由とし、地球企業や市民の警護を名目に、月面の主要都市に艦艇を駐留させるよう要求したのです。これは月面諸都市が地球と軍事的に対抗することが、事実上不可能になることを意味していました。
当然、独立派市民達の間から激しい反対の声が沸き上がりました。しかし、名目的に拡大した自治権を附与され、鉱物価格の値上げによって利権をも手にした各都市傀儡政府の面々は、恥知らずなことにこの条件を受け容れてしまったのです。
この結果、地球と、月面上の各都市との結び付きがそれまで以上に強められた一方で、各都市相互の連携は極端に制限されることになりました。これが非道な地球による、月住民の巧妙な分断工作であったことは言うまでもありません。
更にはこれにより、それまで月市民の圧倒的な支持を得ていた独立派は、一気に少数派へと転落してしまったのです。
@ 彼らは、自らを「穏健派」と自称していましたが、それが無道な地球に対する卑屈な態度を言い換える、つまらない抵抗に過ぎなかったことは言うまでもありません。
A アームストロング市事件。もちろん、迎合派が一方的に独立派に攻撃を仕掛けたものです。
<考えてみよう>
あなたが当時月の住民だったら、どうしていたでしょうか。
また、なぜ当時の人々の多くは、容易に地球の策略に乗ってしまったのか討論してみましょう。
(御両親へ) ゲキガンガーを観て正義を愛する心を持っていさえすれば、金銭的な誘惑に負けることなどありえないことを、お子さんに言い聞かせてあげてください。 |
地球との絶縁と火星への転進
地球の卑劣極まりない策略により、本拠地の月においても少数派になってしまった独立派の人々でしたが、それでもなお月に留まりつつ、地球からの完全独立を目指して運動を続けていました。
これが、地球の目に留まらないわけはありません。月面各都市に駐留する地球軍により、独立派住民に対する陰湿な嫌がらせ@が、執拗に続けられました。
しかし、それが彼らをして月を捨てさせしめた本当の原因ではありませんでした。人々が真に絶望したのは、かつての同志だった月住民による自治政府までもが、地球軍の武力を背景に独立派の弾圧に乗り出してきたためだったのです。
地球の非道な謀略によって、この頃月面諸都市には形式上自治権が与えられ、都市ごとに自治政府が成立していました。しかし、これら全てが地球の傀儡に過ぎなかったことは言うまでもありません。
そして、月人をして月人と戦わせる、卑劣な地球のいわゆる「月化政策」に対し、同じ月市民と争うのを嫌った独立派住民達は、遂に月を捨て、更には地球系をも離れて、当時惑星改造が開始されたばかりの火星に新天地を求めることを決意したのです。
彼らがこの決断に至った背景には、独立を希求する人々の中で最も尖鋭な思想を持ち、極端な武装闘争路線を歩んだ過激派「蛇露巣」が、月の諸都市において数度のテロ事件Aを起こした後、摘発を受けて壊滅した事実がありました。激我暦紀元前3年のことです。
無論、本来の独立派は極めて平和的に運動を行っていたBのですが、「蛇露巣」によるテロは月市民中に少なからぬ犠牲者を生み、その結果、独立派自体が周囲から白眼視されるようになってしまったのでした。
因みにテロリスト「蛇露巣」は実のところ、地球の下劣極まりない手によって最初から燃やされるためだけに作られた藁人形に過ぎませんでした。このことは、その後の詳しい考証により、現在全く疑う余地はありません。
そしてこの時、地球の横暴にあくまで屈せず、また他の月人のように経済的利益に惑わされることもなく、あくまで正義を貫いた人々こそ、今の木連の礎を築いた建国の父祖たちであったことを、我々は忘れてはならないでしょう。
@ 一例を挙げれば、地球軍は治安維持を名目に月面上のコンピュータ・ネットを完全に統制し、情報のやり取りを監視・制限していました。
A アポロ物産月支店爆破事件が最も有名です。これは地球資本の企業爆破事件ですが、死者重軽傷者合わせて35人は、なぜか全て月市民でした。
B 独立派の中にも内ゲバがあったというような説は、彼らの崇高さを貶めようとする汚辱にまみれた陰謀的言論に過ぎません。
<考えてみよう>
我々の祖先が、長年住み慣れた月を離れる時どんな気持ちだったか、想像してみましょう。
(御両親へ) 独立派の人々が、地球に屈して月に住み続ける道をなぜ選ばなかったのか、お子さんと話し合って見てください。 |
火星の開発と地球による融合弾攻撃
長い航宙の末、漸く火星に落ち着いた独立派の人々は、正義を愛する心と旺盛な勤労意欲を発揮して、赤い砂漠を着々と緑の沃野に変え@ていきました。このまま行けば、日ならずして火星は地球を凌駕し、正義を愛する人々の強力な拠点となっていたに違いありません。
この頃、約2億キロ離れた地球では、悪逆なる連合政府の面々が火星の発展ぶりを苦々しい思いで眺めていました。当時火星は地球からあまりにも遠く、月に対して行えたような遠隔操作による種々の工作は、流石の地球といえども、極めて難しかったのです。
月面都市群に成立した、諸傀儡政府の危惧はもっと深刻でした。彼らは愚かにも、火星に追放した独立派の人々がそこで力を蓄え、やがては月の奪回に乗り出してくるのではないかと恐れたのです。
ここで、彼らが火星の未来に抱いた恐怖と、非道極まりない地球連合軍将校たちの功名心とが野合することになりました。火星の実力伸張を恐れた地球は、災いの芽は早めに摘めとばかりに、テロリスト「蛇露巣」残党の掃討を名目Aにして、火星に艦隊を派遣してきたのです。
当然、開拓が緒についたばかりの火星には、これに対抗する術はありませんでした。交渉とも呼べない一方的なやり取りの後、地球・月連合艦隊が問答無用とばかりに放った融合弾の雨によって、苦労の末開かれた火星の居住地は無惨に壊滅Bしてしまったのです。現在では、この攻撃でなんと30万人にも及ぶ死者が出たと言われています。
このことについて、地球の学界には「当時、火星の全人口は約20万人弱に過ぎなかった。しかもその大半は、戦争を避けて砂漠などへ逃れていたことが判っている。それなのに、30万もの死者が出ることは有り得ない」などと言う厚顔無恥な意見が存在しますが、これが、過去に対する反省の足りない人々の、愚かさもここに極まれりと言うべき弁であることは言うまでもありません。
そして火星での戦いの後、地球の毒牙を辛くも逃れた人々は宇宙船に飛び乗り、文字通り着の身着のままで未知の宇宙へ逃れざるを得なかったのです。
@ スローガンとして「強盛大星の建設」が掲げられ、5カ年計画に沿って順調に開発が進められました。「内実は極めて苦しかった」などという説が誤っているのは言うまでもありません。
A 言いがかりであることは明らかです。また、当時既に火星で「遺跡」の一部が発見されたため、地球がその奪取を図ったのだという説もありますが、根拠のあるものではありません。
B いわゆる火星大虐殺です。
<考えてみよう>
なぜ、地球は艦隊を派遣してまで、火星の植民地を潰そうとしたのでしょうか?
(御両親へ) 正義を愛する心を持った人々の存在は、それが例え僅かでも邪悪な勢力には目障りなものであり、我々は敵に対する自衛の準備を怠ってはならないということを、お子さんに教えてあげましょう。 |
深宇宙への転進と「長征8億キロ」
漸くのことで火星を逃れた人々は、全ての惑星から遠く離れた宇宙空間を寄る辺なく漂いながら、次にどこを目指したらよいか話し合いました。
地球への投降を主張する人は1人もいませんでした@。火星への融合弾攻撃という非道極まりない措置を取った地球連合が、事件の生き証人である彼らを見逃すはずがなかったからです。
ここで人々の意見は、小惑星帯を目指すべきという意見と、木星系へ向かうべきという意見の2つに分かれました。(土星系以遠については、あまりにも遠すぎるということで選択肢から外されました)
小惑星帯を目指した場合、距離が近いため、より容易く行き着くことができるという利点があります。これは、いわば着の身着のままで火星を脱出し、燃料も資材も乏しい彼らにとって大きな魅力と言えました。
しかしそれは同時に、悪逆なる地球側に発見されやすいということも意味していました。彼らの深宇宙への転進は地球には知られていない筈でしたが、火星のすぐ隣の小惑星帯に居を構えたのでは、偶然の接触という可能性も考慮に入れなければなりません。更に言えば、そこには、彼らが拠点とするにふさわしい大型の星が1つも存在していませんでした。
一方、木星系は小惑星帯の更に外側に位置するため、到達はより困難になります。しかし逆に言えば、その距離がそのまま無道な地球との防壁Aになってくれるわけでした。またそこには、小惑星帯には存在しない大型の星Bも複数存在しています。
かくして、彼らは木星系を目指すことで評議一決したのでした。ここから、いわゆる「長征8億キロ」の最後の行程が始まったのです。
この、人類史上最長の移住旅行Cが文字通り困難を極めたのは、言うまでもありません。しかし正義とゲキガンガーを愛する人々は、決して挫けることはありませんでした。険阻な小惑星帯の難所を乗り越え、隕石群との衝突をかわし、数度にわたる磁気嵐を辛うじて乗り切った末、彼らは遂に、太陽系最大の惑星に辿り着いたのです。
@ これが正しかったことは、先の懲罰戦争初期に地球艦隊が、本来護るべき火星市民さえあっさり見捨て、恥も外聞もなく逃走したことからも明らかです。
A いわゆる「距離の防壁」論です。
B もちろん、ガニメデを初めとする「ガリレオ衛星群」です。
C 単なる探査ではない大集団の移動としては、正に空前にして絶後であり、木連建国の父祖たちの意識と能力の高さを物語っています。
<考えてみよう>
もしあなたが小惑星帯と木星系のどちらへ向かうか決めるとしたら、どうするか考えてみましょう。
(御両親へ) 仮に小惑星帯に赴いたとしても、ゲキガンガーを愛する建国の父祖達は、決して諦めることはなかったであろうことを、お子さんに言い聞かせてあげてください。 |
木星系到達と「遺跡」の発見
数々の危難を乗り切り、なんとか木星系へ到達した@独立派の人々ですが、そこで彼らを待っていたのは、全ての物が凍てついた氷の世界でした。
太陽の光は、熱を得るにはあまりにも弱々しく、まして陽光の当たらない場所は、ダンテもかくやというばかりの凍結地獄です。その上、主神の名を持つ星の重力はあまりにも強く、ちょっと近づき過ぎれば、それは即ち死を意味していました。
このような環境にあって、彼らは乗ってきた宇宙船に閉じこめられたまま、それでも必死に生き延びるための道を探したのです。彼らの辞書には、諦めるという文字が存在しなかったのでした。
このような人々であれば、例えずっとそのままの状態であったとしても、必ずいつかは木星系に生存圏を確立することに成功していたに違いありません。
そして、正義の神は彼らを見捨てませんでした。決して挫けることなく、正義を愛する熱い心を胸に生存への苦闘を続ける彼らに対し、ゲキガンガーは素晴らしい贈り物で報いてくれたのです。
それは、異星文明の遺跡でした。木星の衛星軌道上で偶然発見されたその遺跡は、一種のプラントであり、事実上の永久機関でもありました。それは、極めて高度な科学技術、そして莫大な資材とエネルギーの源泉であり、木星に辿り着いた人々に限りない恩恵をもたらしてくれたのです。
この遺跡を有効に活用することによって、彼らは予想よりも遙かに早く、木星系の諸衛星上に永続的な居住地を築くAことに成功したのでした。
@ 地球の人類をピテカントロプスの段階に逆戻りさせる嚆矢となる、記念すべき日であったと言えます。
A 当初は遺跡から単純な資材や機械を取り出し、衛星地下に居住区を建設していましたが、遺跡の解析が進むにつれて密閉型島3号コロニー(通称ジオ○型)の建造がかなり容易に行えるようになったため、以後はそれが主流になりました。
<考えてみよう>
今、自分が何もない木星系に放り出されたとしたら、あなたは一体どうしますか?
(御両親へ) 今我々があるのは、建国の父祖たちの努力の賜物であるということを、今一度お子さんに自覚させてあげてください。 |
木星圏ガニメデ・カリスト・エウロパ及び他衛星小惑星国家反地球共同連合体(略称木連)の建国と発展
火星からの脱出者たちは木星系到達後、まずガニメデに降り立ちました。そしてそこに最初の拠点を定めた後、彼らは木星系の探査を行いました。それと平行して異星文明の遺跡から、生活資材や労働力となるロボット、更にはエネルギー源となる相転移炉を取り出し、生存圏の構築を着々と進めたのは言うまでもありません。
木星系到達の翌年、ガニメデの他、カリスト、エウロパに居住地を築いた@彼らは、自分たちの代表者をガニメデの拠点に集めました。その結果、木星圏ガニメデ・カリスト・エウロパ及び他衛星小惑星国家反地球共同連合体(略称木連)の建国が、厳かに宣言されたのです。
それと共に、木連では地球の年号を廃し、激我暦を用いることが初めて決定されました。またこの時、ゲキガンガーの主題歌を国歌とすることも合わせて決められたのは言うまでもありません。
かくして、遂に我らが木連の建国が成ったわけですが、当初、その力はあまりにも微弱なものでした。月から火星へ移住した人々は、全人類はおろか月住民の中でも少数派であり、また彼らが火星で築いたものは、悉く地球の非道な攻撃により失われていたのですから当然と言えます。
しかし、新生木連の一部にはそのような現状を認識せず、木星系を単に一時的な避難場所とみなして暴虐な地球への報復を叫び、最優先で軍事力を蓄積した後直ちに火星や月の奪回を目指すAべしと主張する人々も少なくありませんでした。もしそれが実行されていたなら、誕生したばかりの木連は或いは夭折を余儀なくされていたかもしれません。
初期の木連指導部には、これら対地球強硬派の手綱をうまくさばきつつ、現実的な生活圏の建設を進めるという、難しい仕事が託されたのです。
木連政府が、木星系のみならず小惑星帯にまで主権が及ぶことを主張し、これを国名に加えた背景には以上のような事情がありました。
小惑星帯は木星系から遠く、まずは木星系内諸衛星の開発を優先すべき木連にとって現実的な価値が高い場所ではありません。しかし、これの領有宣言を地球より先に行うことによって、市民の中に地球に対する優越感情が生まれた結果、感情的な報復論は影を潜めることになったのです。
無論、いずれは木星系本土を守る緩衝地帯としての役割を、小惑星帯に持たせることが目標とされたのは言うまでもありません。
こうして一部の不満を押さえつつ、木連政府は国力の伸張に全力を注ぐことになりました。国民皆兵の制度によって防衛体制を整えるB一方、多産を奨励し、生活物資の蓄積と居住領域の拡大を進めていったのです。
@ イオは火山活動があまりに激しすぎるため、居住には不適と判断されました。その他の小型衛星群については、一通り探査を行った上で開発の優先順位を決めることになっていました。
A いわゆる「内宇宙反攻論」です。これと「生活向上優先論」とが、現在の木連における2大勢力の源流となりました。
B 究極的には、ゲキガンガーを現実に作り出すことが目標とされました。そのたゆまぬ努力の結晶こそが、現在木連が誇る「ジンシリーズ」の数々なのです。
<考えてみよう>
木連は地球と敵対しているのに、なぜ「地球を守る」ゲキガンガーを自らの信念の基礎においているのでしょうか?
(御両親へ) 現実の太陽系第3惑星が、ゲキガンガー中の「地球」とは似て非なる、偽地球であることは言うまでもありません。 正義を愛する我が木連こそが、「ゲキガンガーの地球」の衣鉢を継ぐものであり、我々こそが真の地球であることを、お子さんに理解させてあげましょう。 |
(読み終わったかい? よし、じゃあ次は「総括」だ!)
(後書き)
やあ、李章正だよ! ちゃんと勉強してるかい、生徒学生諸君?
勉強は大事だよ。別に引きこもってもいいけれど、家の中で本を読まないといけないぜ。でないと、単なる穀潰しに成り下がっちまうからね。
それはともかく。なんか、ここの読者にはやたら若い人が多いみたいだから予め言っとくよ。
これは単なるSS、知的遊戯だからね。本気に受け取ってはいけないよ。
別にどっかの国を揶揄してるとか、そういうことは全然ないんだからね。そういう風に取れる部分があっても、それは単なる偶然さ! だから、誹謗中傷(及びウイルス)は一切受け付けないよ。
……多分取り越し苦労だとは思うんだけど。まあ、一応念のため(笑)。
代理人の感想
・・・・・さすがは李章正さんだ。(笑)
しかし、平成214年ってことは西暦で2202年。
戦争が終わってもまだ続けてたんだなぁ。
でもね一つだけ。「ピテカントロプス」はさすがにわかりにくいとお兄さんは思うの(爆)。