「人は戦争に何を思い描くのだろう」

医務室の男は、そう一人物思いにふけった。

ガンガン

扉が、叩かれている。
尋常でない音。
無理やり、破壊しようとしているのかもしれない。

「次への怨嗟か。野望への掛け橋か。希望のない明日か………それとも………」

パソコンのキーボードに指を滑らせる。

ガタン。

ドアがいきなり開かれたからか、何人かが前につんのめった。
そして残った何人かが彼に、銃を向けようとした瞬間…………、

トストストストス

彼等の肌が見えている部分に、注射器がつき刺さる。
その瞬間、中にある液体が、彼等の体の中に入っていった。
そして崩れ落ちる彼等。

「な……・ぁ」

「特製の………筋肉弛緩剤だよ。おやおや、毒だと思ったのかね?」

誰もなにも答えられなかった。
口を動かす筋肉すら、動かないのだからそれも当然だが。

「息は吸えるだろ?これを作るのには……苦労した。どうしても、呼吸も止まってしまうのでね。
 どうすれば、安全な筋肉弛緩剤を作れるか。まさか人体実験をするわけにもいくまい?
 危険だし、最近は自分の身体を張って、金を稼ぐ剛の者が少なくてね。困っていたんだ」

ん?と言うような顔をして、

「まあ、君たちが考えている、安全とはちょっと違うが、まあ感覚なんて人其々だしな」

それに

「私の命を狙ってきた人間に、同情の余地は…………・無いな?うん。まあ、大事に使わせてもらうよ」

その柔らかな笑みは、彼等に自分達の行く末を、想像させるには十分な笑みだった。


どおおおおおおおおおおおおおおおん!!


「ふむ・・・・・・・・あの老人が心配だな。とりあえず・・・・・・」






ある廊下では、対峙している二人の姿があった。
二人とも同じような制服に、身を包んでいる。
女の方は誰かを背中に庇って………いや護っていた。

「どうして…………こうなったのか、だけど信じてくれ。
 俺はルーチェンさんを撃とうとなんて思っていない……。ただちょっと手伝いをしてもらおうと………」

「おためごかしは、いいわ。動かないでね」

銃を向け合う男と女。
苦しそうな声を絞り出す男を、冷静な声が突っぱねた。

「おためごかし…………か………俺のお芝居そんなに下手だった?」

掌を返した様に、明るい声で言う男。

「最悪……そう思わないルーチェン」

自分の後ろの人物に向かってそう言う女。

「どう言う事………これ……」

彼女は混乱している様だ。

「この男は別人よ………貴方の部下じゃない」

「えっ?」

「おやおやそんな事まで……」

「彼の利き腕は左。そして、彼は銃を持てないもの」

「あらら………そうなの……勉強不足」

「彼は何処に?」

「安心してくれ………彼の身は無事だ」

「………意識は?」

「明るくなったよ………人を区別できなくなっちゃったけどね」

「そう」

「そうなの……それで如何する?俺と一緒に心中してくれる?それとも彼女も、ご一緒かな?」

「えっ?」

「どれもいや。一人で逝って」

「つれないなあ」

そう言って、彼が銃を放した瞬間

ばあん!!

「!!」

「ひっ」

男の目が見開き、ルーチェンは引きつったような声を漏らす。

「ひ……どいじゃないか………撃つなんて」

彼の左肩に命中していた。

「私は動くなと言ったの……動いたから撃った。それだけ」

そして……と付け加える。

「腕に仕込んであるそのボウガンで、狙われたくなかったから」

「何でわかった?」

「貴方が銃を向けたとき、見えたのよ。ボウガンの刃の先がね」

「そうか……迂闊だった……ここにもこんな女がいたのか」

観察力に優れた女だ。

「もっと………注意しておくべきだったな」

さて如何する?
男は考える。
この傷は深い。
仲間は期待できない。
こういう時の対処がおそろしく手際が良い兵士や整備士が、ここの基地には何故か大勢いる。
自分達の事で精一杯だろう。
捕まるか?
いやいや、同胞を売る気は毛頭ない。
こいつは自分のポリシーだ。
殺されるのは………もっといやだ。
自分の命は自分で……決められるじゃないか。
たった一つだけ残った選択肢。
決めた途端。
気が楽になった。
ああ……そうだ。
ようやくこれで、呪縛から抜け出せる。
地球と…………のしがらみから。

「有り難う………」

ありがとうか…………何を言っているのだろうな……。
そして………彼は、そのボウガンで、自分の心臓を撃ちぬいた。

「死んだの?」

「多分ね」

「如何してそこまでするの。自分の命……・」

「大切にする理由が無かったからかもね」

「え?」

いきなり彼女を自分と一緒に引き倒すと、銃を構える。

「むっ!!」

「あら」

そこにはむっつり顔の顔馴染と、整備士長がいた。

「無事か」

「見ての通り」

「避難するぞ。こっちだ」

「俺は爆発源の方へ行く」

「承知した」

そういってもう一人の男は去って行く。
そして彼女達は、むっつり顔の男と一緒に、行動を始めた。

「さっきの続きだけどね、ルーチェン」

「うん」

「彼、最後笑っていたでしょ?」

「うん………」

「自分の命をあっさり消してしまえるほど、大切な任務だったのかしら?
 それとも、そう思えるほど、この世から解放されたかったのかしら?」

「………」

「選択は何通りのあった筈なのにね。それでも彼は自分で、自分の道を決めた。」

自分の命の幕を降ろす、と言う道を。

「その覚悟があった。そしてこれは私達にも言える事よ」

「…………」

「自分で決めたのならば………覚悟を決めなさい。
 軽い気持ちで決めたものが、自分を苦しめる事に成る時も、あるのだから………」

「……うん……」

そして暫くして、ルーチェンはまた問いかける。

「ね………クイノ」

「?」

「アキトサンの所には………いかないの?」

「嫌いじゃないけど、好みでもないの」

それが本当の理由ではない事が、彼女の苦笑から察しがついた。
そして、その理由が何なのかわかったような気がした。

「…………そっか……」

パイロットになりたてだった自分…………其の時の夢………。
本当は……。

「そうだったんだ…………馬鹿だね私……」

自分の道が本当の意味で開けた気がした瞬間だった。






「…………化け物が………」

「おいおい蒼馬……お前化けもんだってさ………」

「…………」

大柄な男と細身の男。
どちらも、服装は黒で統一されている。
違いと言えば、細身の男は、大振りの日本刀を持ち、顔の上半分を隠すマスクをつけている事だけだろう。
対して大柄の男は、武器らしい物はなにも持っていない。
だが…………。
一瞬霞んだと思った瞬間、

「ぐっ!!」

彼等の背後にいた人間が吹っ飛んだ。
いや、何時の間にかに、大柄の男がそこに移動していたのだ。

「手品じゃないぜ………。最も俺は……」

今度は手のみが一瞬霞み、
その手の3倍ほどあるごつい銃が握られていた。
そしてそのまま引鉄を引く。

ドン!!

今度は100メートル先の敵が上半身を吹き飛ばして倒れた。

「こっちが得意なんだけどね」

「・・・・・・・飛び道具とは、無粋だな」

「お前ほど光ものが好きじゃいんでね。それに銃弾を剣ではじけるほど人間離れしちゃいない」

「軽身功を、それほど使いこなす貴様に」


ガガガガガガガガガガ!!


突如、後ろから乱射されるマシンガンの弾を、一人は避け、もう一人は

キン!キン!!キキン!!!

非常識にも、刀で弾くと同時に、

バシュ!!

真空波で兵士を切り裂いていった。

「言われる筋合いではないがな」

「非常識を繰り出したばかりの、お前に言われたもな」


――――――――シャリーン――――――――


その音に、大柄な男はさっと顔を引き締めた。
そこには笠を被った男が三人・・・・・・・・。

「成る程」

「かなりの使い手」

「地球に降りてより久しく見なかった武人だな」

その三人は口々にそう語る。

「ちっ・・・・・どうやらお出ましのようだぜ・・・蒼馬!!」

「六連がいるということは・・・・・・・奴もいる」

「ここは俺に任せて・・・・・先行きな!!」

「任せた」

そういうと同時に、二人はその笠を被った三人のほうへ、突進して行った。

「我等、六連を」

「一人で相手にするとは」

「傲慢な男よ」

そう言うと、三人同時に抜刀しようとした直後、
大男の姿が沈んだ!!
そして・・・・・・。


ドゴッ!!

	ガスッ!!

		ゴスッ!!


黒い巨体が、三人を吹き飛ばす。
その三人は諸に吹き飛び壁にぶつかる。
しかし、彼らは平然と立ち上がり、再び陣を組む。

「木蓮式抜刀術は、暗殺術じゃねえはずだろ?」

その言葉に僅かに動揺する三人。

「貴様一体・・・・・・・」

「何だって良いだろ?派手にいこうぜ!!」

一瞬の動作で、銃を二丁抜くと、二人に向かって銃を二連射する。
左右に分かれ飛び散る二人。
残りの一人が、間を詰め切り払う。

ぼん!!

が、一対の刀が斬ったのは、丸い黒い塊だった。
そこから出る煙に一瞬撒かれるが、銃声の音に天井ぎりぎりまで飛び上がり、後ろに飛びすざった。
しかし完全には、避けられなかったようで、左足の袋は儀の肉が少しもがれている様だった。

「如何する?お三方。引くか殺るか」

いつの間にかに三方取り囲まれているが、この男は微笑をしながら、銃で肩を叩きながら聞いていた。


「「「滅!!」」」


この言葉を引き金に、三方から同時に斬りかかって来た。

「だろうな・・・・・・・・莫迦が!!」

さっきの速度よりさらに速い速度で、三人の内僅かに遅い(銃で足を撃たれた)男に向かって移動すると、
刀を弾き飛ばし、踏み込むと同時に、肘打ちを鳩尾にその腕で掌打を顎にかち上げて、
最後にその肘を体に叩き落とした。

ドスッ・・・・・・・。

力なく倒れる男。

「それは!!」

驚きが、残り二人の足を一瞬止める。

「木蓮式柔『二天落』だと・・・・・・・」

「驚くなよ・・・・・・・まだこれからだ・・・・・・ぜ?」

その笑顔に反して彼の目は鋭く輝いていた。






北辰
お前は何故、草壁に与するのだ?
お前は一体何を望む?
なあ、北辰よ





中書き
ようやく、次にて北辰と蒼馬のご対面シーン。
長かった・・・・・・。

「本と、長いなお前」

うぐ!!
ははは、仕方ないじゃないか!!
お家の事情があったんだから!!

「お前の事情だろ?」

うぐ!!

「さて・・・・・・・感想を書いてくださいました皆さん、
 そしてプロフェッサー圧縮さんどうも有り難うございました。本当にうれしかったです。」

お前が言うなよ!!
俺のせりふだろ!!

「さっさと続き書けよ・・・・・こういう人たちがいるから、書く喜びってのがあるんだろ?」

当たり前よ!!
今だって続きを書いている途中さあ(キラッ)!!

「そのキラッてなんだ?」

歯が輝く音!!

「どっかのスケコマシの様な真似を・・・・・・・」

と・・・・・兎に角三月中には、もう一作送る予定だ。

「ま・・・・・がんばれよ」

何だよ。その期待してなさそうな声は!!

「・・・・・出来るのか?」

やる!!
(本当かなあ?)
ではまた。
「またのご購読をお待ちしております」



管理人の感想

ランさんからの投稿です。

今回の話は、始終戦闘でしたね。

それも、主役不在の(苦笑)

北辰が着ているみたいですが、蒼馬との出会いにより、何が起こるのでしょうか?