「如何した?兄弟………酷く焦っている様だが……・」

その言葉を切り裂くような声が、スピ−カ―の向こうから聞こえてくる。

『黙れ!!』

迫ってくる漆黒の機体……。

その機体に反発するかの様に、その男の機体は後退を始める。

とても絶妙な、間合いの取り方………。

『くっ!!』

「惜しいな……・今のは………」

苦々しい舌打ちを聞きながら、それを逆なでするかの様に呟く男。

《タカト様………つぎの一斉射撃で、右のガトリングガンが、弾切れになりますが》

頭の中に、最も信頼する人物?の声が響き渡る。

「………一斉射撃終了後、右のガトリングガンを取り外せ……・」

《了承》

「そっちの方はどうなっている?」

《蒼馬様は、成功された模様です》

「作戦は第二段階に移行……殺さずにいたぶりながら、こっちにおびき寄せろ」

《了承》

「出来れば早く戻って来い……『マルペルチュイ』であの『ブロ−ディア』を相手にしてられるのは、正直な所あと十分が限界だろう」

《はったりに気づけば……ですか?》

「ああ」

[リ―プレ―ルカノンはあと2発………当てればナデシコは沈める事が出来るが………今回はそれが目的ではない……]

だがナデシコ側には………本番と思ってもらわなければならない………。

「我ながら………苦労する………」

そう呟くと共に、即座に機体を右に移動させる。

黒い筋が、彼のすぐ横を薙いだ。

「爆護(ひょうご)・・・……ちゃんと相手をして遣れ」

そう言って、画面に大柄の男が映し出される………。

『あんたじゃないんだから、4機は厳しいよ……っと残念だったな……イッツキちゃん』

後半は如何やら相手方に言ったらしい……即座に声が返って来た。

『馴れ馴れしいのよ!!しかも何その機体……私と同じ色なんて………』

『だってお前の好きな色だろ?』

『え……?』

動きが止まったその機体の方向にタカトは、ライフルを放つ。

そして襲いかかってくる羽を避けながら、『ブロ−ディア』を左の圧縮ビ―ムガンで

動きを封じる。

最もそんな攻撃などブロ−ディアにとってなんの障害にもなっていないはずだが………。

「『トゥルナソル』と連携して相手をしろと言ったろ?」

『あのお二人さんは3機相手に大憤激中よ』

それで俺に如何させたい訳あんた?

『それに今、感動のご対面を邪魔したら俺殺されそうよ?』

最も俺も『デ−ト』の邪魔をしたら、黙っちゃいないが……

そう言って来た男にタカトが言葉を返す。

「二度も同じ事は言わない…………なんとかヤって見せろ」

『了解』

そう言って、大柄の男は画面から消えた。

代わりにブロ−ディアの操縦者が姿を表す。

「なあ……兄弟……たかが昔に戻る事が何故そんなに恐い?」

『!!』

「お前も散々やって来た事じゃないのかあ………兄弟よお!!

同時に圧倒的な火力がブロ−ディアに襲いかかる。

ホ―ミングミサイル・圧縮レ−ザ−・ダブルバキュ−ムブリッド・ガトリングガン・グラビディランチャ−…………そして……リ―プレ−ルカノンが止めとして発射された。

された側としての選択肢はみっつ………耐え切るか、避けるか全てを打ち払うか。

いや……そこに撃墜されるを入れれば、四つか…………。

(耐え切るは論外………避ける事は……)

できない………ナデシコに当たる………。

特にあの肩にあるキャノン砲は容易くナデシコをつら抜くであろう。

ならば……

「全て…………斬る!!吠えろ!!我が内なる竜よ!!秘剣!!砲竜斬!!

気合と共に放たれた漆黒の竜は、全ての物を食い破り噛み砕きながら進んで行った。

そして…………。

ある地点で、動きを止める。

無理やり何かに抑えこまれたかの様なありえる筈の無い光景だった。

「な………何………」

うめきを挙げるアキトの耳にちょうど反対側にいる男から声が掛かる。

『次元をかいくぐって進む…リ−プレ−ルカノンを…………最初の形態でその威力…………中々じゃないか』

だが………声に出さず呟くと…………

『生憎とそいつは疲れ知らずでね………一気に弾かないとジリ貧だぞ』

く…………くおおおおおおおおおおおおお!!

その言葉に答えるかの様に、力を込める。

そしてその叫びに答えるかの様に……竜があざとを開き…………。

バシュウウウウウウウウウウウウ!!

その無礼な弾を咥えると、自分に盾突いた愚か者を飲みこまんと進んで行った。

そして………………

ボオオオオオオオオオオオオオン!!

爆発…………。

竜が通ったあとには……残骸すら残らなかった……………。

そうである筈だ………・。

油断無くアキトはモニタ−で探索を開始する。

《アキト兄………》

何か変だよ…………。

その言葉をディアは飲みこんだ。

一度も見せた事の無いような険しい表情が彼の顔に浮かんでいたからだ。

「くそっ!!何処だ…………何処にいる……」

力づくでも聞く必要がある………彼はそう思った……。

「やつは…………」

奴は何処だ!!

 

 

 

 

 

参った…………。

これがプロスの本音と言う所だろう。

(タカトのアホ…………何が謎のブラックソルジャ−だ!!『マルペルチュイ』其の物やないけ!!しかもこんな大事に誰がしろと言いました?え?あなた実は私に喧嘩売っているでしょう?そうなんですか!!そうなんですね?)

グワシャ!!

プロスの手の中で何かが潰れた…………。

それと同時に、何かが飛び散る。

それが周囲の興味を引いた。

「プロスさんが………」

「あれ………未開封のコ−ラカンでしょう………」

「始めて見ました……プロスさんの怒る姿を……」

その言葉を聞いて、冷静さを取り戻す。

(私とした事が………いけませんね……)

恐らく彼女達もあの画面上の敵に対して、怒っているのだろう………。

ホシノ ルリやラピス ラズリなどは、顔から完全に表情が消えているぐらいだ。

そう…………確かに彼は怒っていた………。

但し別の意味で…………。

(あとできっちり釈明して頂きましょうか…………きっちりね…………)

ざっと周りを見回す。

もはや彼等には(彼女等には?)のんびりとした何時もの姿は見られなかった…………。

そう………各方面を極めんとした………プロフェッショナルの顔がそこに合った。

「どうする!!艦長!!」

「ルリちゃん!!艦内の状況を写し出して!!」

「第1・第2カタパルトデッキ………現在交戦中……食堂とトレ−ニングル−ムの中間に位置する廊下でナオさんが敵と交戦中!!食堂は先ほどの放送以後完全にカメラが死んでいて、詳細不明…………如何やら占拠された模様です…………」

「医務室もジュンが頑張ってるみたいだけど、もう駄目!!ジュンが死んじゃうよう!!」

画面には蹴り飛ばされて、吹っ飛んで行くジュンの姿が見える。

それでもまたよろよろと立ちあがって行くジュン………。

「カズシ!!」

(「解ってます!!」)

言ってから彼は顔を歪め苦笑する。

何時も側にいて、彼の考えを誰よりも理解してくれていた男は既にいないことに、きがついたからだ。

(俺には………お前がやはり必要だよ)

ユリカは一瞬だけ、シュンの方を振りかえり、悲しげに顔を歪めたが、すぐに顔を引き締め、仲間の声に耳を傾け、命令を下す。

「ウリバタケさんからの連絡!!機関部に到着!!これより作業を開始するそうです」

「機関部にも潜んでるかも………周りに注意して行動する様に……」

「伝えました!!」

「有り難う…………アキト達の状況は!!」

「敵一機消滅………他の二機は交戦中です!!」

ルリの言葉にプロスは呟く。

「消滅?違うな………ナデシコから見て三時十五分の方向に移動……そこから」

しかしその言葉は誰にも聞かれることは無かった……。

「ゴ−トさんは何処に?」

(恐らく探しても見付からないでしょうね)

彼はの言葉には逆らえませんから………。

そう口で呟いて、また残骸を写し出している………モニタ−に目を向ける。

(これがお前の計画と言う事か………タカト……)

普段誰にも見せない鋭い目で、彼はそう呟いた。

 

 

 

 

 

彼等の場合

黒いコ−トを着た男と、ゴ−トが正面で向き合っていた。

どちらとも無く、声を掛ける。

「我が兄弟…………ゴ−ト=ホ−リ―だな?」

「そうだ我が兄弟よ…………」

「神は仰られた……この船に試練を与えよと………」

「そう……俺も神のお言葉を賜った……」

「神に偽りは無く」

「神に差別は無い」

我が神は

くわっと目を開いてゴ−トに問いかける。

天!!其の物!!我が神の意志は!!

天意なり!!

『ならば逝かん………我等が天意の為に

 

……………如何でも良いけど……恐いよあんた等…………(汗)。

 

 

機動戦艦ナデシコ

番外編

「闇の王と黒の王子」

その一「迷惑男の提案は?」

「プロス…………この頃ナデシコの連中は、あまりにも不甲斐ないと思うのだが……」

それが自動販売機に始めて声を掛けられた瞬間であった。

じっと凝視して見る…………。

頭に浮かんだ選択肢はたくさんあった。

  1.  
  2. 何処かの馬鹿が何かをした………(この場合自称プロスの心友Tの事である)
  3.  
  4. 天変地異の前触れか?
  5.  
  6. ついにあの二人が手を組んだか…………(この場合某女医師Iと某技師Uのことである)
  7.  
  8. 疲れてるんだな………今日はもう寝よう

等などたくさんの選択肢が浮かんでいった。

身上としては彼は4番を取りたかった。

まあ無理だろうが…………。

「何を黙っている」

目の前の物体が、何かを言っている…………。

(夢だな)

彼はそう思う事にした。

そう言う事にしておけば、何かが助けてくれそうな気がした。

回れ右をして見る。

目の前に壁が見えた。

(次に来た時は……………そうですね………何かが変わってくれればいいのですが)

機械の音もしない静寂が辺りを支配している。

当然だ。

この船のエンジンはとても静かだ…………。

そう言う風に設計されているのだから当然だが………。

今は真夜中の午前二時………。

何時もは騒々しいぐらいのこの船も………寂しいほど静かだった。

この頃は木星連合も攻撃を仕掛けてこない。

あんな闘いがあったのだから当然だろうが………。

(暫くは………こんな時間が続けばいい)

そんな事を思いながら歩いていると…………。

「ま………まて………アカツキ……話せばわかる」

「その言葉……五時間前に聞きたかったね……………」

 

ウィィィィィィィィィィィィイン!!

ガシャン!!

「ル・・・・……ルリさ〜〜〜〜〜〜〜〜ン」

「ハッハッハッハッハ往生際が悪いよ……ハ−リ−君!!」

突然音が裏切った…………。

「なっ!!」

「何一人で話しを終わらせようとしている」

何かが喋っている。

音を立てて何かが近づいてきている。

ガシャン!!ガシャン!!

「おいしっかりしろ………アキト」

「大きな星が付いたり消えたりしている。………大きい……大きい………彗星かなあ………いや違うな……」

「お〜〜〜〜いアキトもどってこ〜〜〜〜〜〜い」

「大体この新商品を見て何とも思わんのか、お前は!!」

新商品?

「って貴方そんなパワ−ドス−ツ誰が買うって言うんですか!!買いませんよだれも!!」

テロでも遣るつもりなのだろうかこの男は……。

「パワ−ドス−ツ?誰がそんな物を作るか」

馬鹿馬鹿しいと言いたげな声で喋る物体。

話している人間が見えない分、かなりむかつく……。

「これは緊急用脱出ポッド『ニゲルンデス』試作型だ」

「し……試作型?」

「そうだ……船の中で常に電気を供給できる場所と言えば、販売コ−ナ−の自動販売機だろうが……しかも自動販売機だから、普通の脱出ポッドの様に、普段無用の長物になる事はない!!さらに!!」

「更に?」

「販売機だから、其れなりに利益を上げる事も可能!!メンテナンスも電気コ−ドを経由して、船から行なう事が出来るし、エステバリスの装甲と同じ物を使用しているから、ちょっとした衝撃で傷つく事も無し!!大変便利な玉手箱と言う訳だ」

「そ………そうですか……(汗)」

げんなりした表情でプロスは言う。

「入って5分後にコ−ルドスリ―プモ−ドに移行するから、排泄設備なども気にする必要全く無し!!大気圏突入にも耐えられる保証ツキ」

「保証ツキって………誰にそんな無茶な事を!!」

「安心しろ………遣ったのは俺だ」

「そ………そうですか(ふう………一安心)」

「なんかちょっと熱くて、一千度を超えてたけど………許容範囲内だろ?」

「ああそうですか………そんな温度全然範囲内じゃありません!!誰も生きていませんよ、そんな温度に達したら!!完全に消滅します!!」

「そ……そうなのか……俺は無事だったけど………」

「貴方は人外生物だからですよ(性格もね)……大体ですね………貴方何しに来たんです……そんな欠陥商品を見せに来ただけ何て言う気じゃないでしょうね」

言ったアカツキには、もれなくアキトの部屋にGOだ。

「まさか………それほど暇ではないさ」

そう言って、販売機の中から、出てくるタカト。

相変わらず長髪を無造作に後ろに束ね、全身は黒ずくめである。

髪形変えれば、アキトと区別がつけられる人間はそうはいないだろう。

最もこちらは、性格の酷さでおつりが来るが…………。

「誰の性格が酷いって?」

「誰に向かっていってるんです?」

「誰だろう…………」

一瞬思案顔になったがすぐに、もとの無表情の顔に戻し、

「話しを戻すが、この船には危機感が全然無いな」

「そうですか?」

「そうなんだ」

「そうですかねえ?」

「そうなんだよ」

「そんなもんですか?」

「そんなもんだ」

「そうだったんですか」

「そうだったんだよ」

「そうなんですかねえ?」

「そうなんですよ………って何時までやりゃいいんだよおい!!」

「何時まででしょうかねえ」

あなたが帰るまでですよ………とこれは口にはしない。

「悪いが今日は話しをちゃんと聞くまで帰るつもりは無いからな」

(チッ!!)

5回に一回は諦めさせる事が出来るこの作戦……エンドレスリピ−タ−作戦失敗

ならば………

「タカト……何時から」

「そうだな……お前とあってから、俺の性格は壊れ始めたんだろうな………今じゃお前と為を張れるぐらいになってしまった自分が怖い」

いけしゃあしゃあと答えるタカトを見ながら……

「…………」(私は貴方と会ってから、不幸の連続でした)

再就職先を早く考え様、本気でそう考え始めたプロスであった………。

過去の語り作戦失敗

(かなり学習してるじゃないですか)

ならば……そう考えていると突然

「あ〜〜〜あ〜〜〜〜〜ただ今マイクのテスト中……あ〜〜〜〜!!あ〜〜〜〜!!」

突然、目の前の疫病神がマイクを取り出した。

「なっ…………」

そして次の瞬間フルボリュウムで

「天知る地知る人ぞ知る……プロスの悪事を俺が知る!!」

「偉大なる………ぱきとめくちじゃkしsじゃkdしあkdjふぉp(以下不明)」

疫病神が、その力を発揮し始めようとしていた。

「はいぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

「プロスは実はっ…………」

「アキト…………何処?」

「ヤメェェェェェェェェイ!!」

「クッ!!一体誰がこいつを…………」

「はっはっはっはっはっは……やっぱり出すきなかったんだね………君達………ジュン君がいなければ、今ごろあの父親が手招きしている場所に行ってたよ」

「天国か?」

「本気で言っているのかい?まあ君達はすぐ行くからすぐに判るね」

「何?」

「親父に宜しく」

「ちょ…………ちょっとまて……ああああああごめんなさ〜〜〜〜〜い!!」

……………三時間後

「ほ…………ほおおお………も……摸擬訓練ですか………」

意識がかなり飛んでいるプロスと意気揚揚としたタカトが、プロスの自室で話していた。

あのあと野次馬根性全開のナデシコクル−が、あの言葉を聞き逃す筈が無く、彼のもとに船の八割が殺到した。

あのあとの言葉は一体?

プロスさん不潔です!!

さあ……全てに懺悔し我がかみのもとへ………

まさか女関係じゃないだろうな?!

そうなんですか………プロスさん!!

等など………様々な質問が飛交った。

オオサキ提督までもが

「カズシ………見ているか……ついに常識人がこの船からいなくなったぞ………」

と遺影を持って言う始末。

まあここまで出来るほど、精神状態が安定した事にプロスは安堵したが……。

それに対する彼の返答……。

「いいでしょう………。ええ………良いですとも……お答えしましょう…」

とここまでは何時もの笑顔で答えその後で、

「けど………これから後、人生を円満に暮らしたいのならば、速やかに自室に引き返す事をお勧めします……。ああ強制はしませんよ……貴方が他の御意志にお任せします………ふっふっふっふっふっふっふっふ………」

笑っていない……何処か遠くを見たままの目をしたまま、表情だけは笑顔で彼は言った。

こ………恐い……。

誰もがその笑顔を見てそう思った。

「幸せって……過ぎ去った後に気が付くんですよね」

聞けない。

誰もがそう思った。

聞いたら自分の何かが終わる気がする………。

何かのプロフィッショナルである彼等の勘がそう告げていた。

そしてこうも告げていた。

ニ………

逃げろ…………・と。

「プロスさん」

誰かが言った。

「なんです」

何かが違う笑顔が恐い。

「お………おやすみ………」

違う声が、何かを振り絞ってそう告げる。

「はい良い朝を……」

その言葉が、彼等の何かを弾けさせた。

我先に!!と駆け出して…………一分後には周りに静寂が戻っていた……。

それを確認した後…………誰とも無しに呟く……。

「会長がいなかったような………」

それに他の何人かの姿が見えない。

ことあるごとに掛けつけてくる野次馬どもが………………。

まあ如何でもいいかと考え、そのことをさっさと忘却した。

………結構あんたも酷いな……。

「健康に気をつかっているだけです」

そうですか………。

 

「……………構いませんが……………会長の許可を得ないと何とも………」

恐らくは降りないが…………

「それは必要無い」

その心を、感じ取った彼の様に話すタカト………。

「え?」

「必要無いさ……そんなもの」

そう言って彼は、少しだけ唇を吊り上げた。

 

 

 

 

ナデシコのサウナの一室にて………

「何か言う事は無いかい…………我が同志諸君」

ロン毛の包帯づくめが目の前の人物たちに何か言っている。

爽やかな声だ。

恐らく笑っているのだろう……。

たぶん………。

「『猿も木から落ちる』と言う言葉があるよな………アカツキ」

簀巻きにされて転がっている人物の一人、眼鏡をかけた壮年の男―ウリバタケ―は汗をだらだら流しながら、言い訳を開始した。

まあサウナで汗を掻かない人間もどうかと思うが…………。

「ああ………あるね………で?」

爽やかさは変わらない。

ただなにか………声の質が変わり始めている様だった。

「つまりはだ………どんな記憶力のいい人間であっても………だどうでもいい事……」

「うん?……如何でもいい事」

声の質が完全に変わった………。

「い…………いや……これは失言で……・ああなんだ………小さい事愚痴愚痴言うな………なあんて言って見たり………………はは」

「小さい事………ほお………小さい事………ね」

フフフフフ……と根暗い笑い声がサウナに響き渡る。

「つまりは………だ……。落し蓋無しの五右衛門風呂にきっちり封をしてくれたまま、五時間ほど僕の存在を忘れていたと………そしてそれが小さい事だと………小さいことだと言うんだね」

「あ……いや……だからそれは………」

「だったら五時間ほど君達もそこにいたまえ…………温度は80度ほどでいいね」

ちなみに彼は90度の湯の中で五時間ゆだっていた。

…………って、もう人間じゃないねかれ…………。

「あ………アカツキ君?」

絶望的な顔で、ウリバタケは縋る。

「ごきげんよう…………素晴らしい朝を」

しかし無慈悲な判決が、彼の頭に振りかかった。

「アカツキさん!!」

ハ−リ−が叫ぶ。

「ハ−リ−君……僕を入れたときの君の笑顔を忘れない」

『会長も………ユダになってしまったんですね』

嬉しそうにかまどを拭いていた彼の姿が浮かんできた。

「うっ!!どうかしていたんですよ………あの時は……」

弁明する声を笑顔で黙殺するアカツキ……。

「会長!!」

「薙原君……君の糾弾は嫌に胸に響いたよ」

「ウッ!!」

『あんな美人と…………我々に対する裏切り行為だ』

「けど……恋するのは自由じゃないか……」

「しかし!!」

「『金曜日の恋人』………だろ……」

とたんに、蒼ざめる薙原。

「なぜそれを………」

「はっはっはっはっは…………こう見えても会長だよ……ネルガルの………」

「解任寸前だけど……」

「………」

笑った顔?のまま凍りつく会長。

それを見て誰もが心の中で叫んでいた。

《禁句だろ!!そりゃ!!》

その顔のまま彼は、その男の前に行くと、スタッピングを始めだした。

「グフッグフッグホッ……や……めてください…………怪長!!」

「だれが…………怪長だい……誰が!!」

字が一つ違えば、大違い。

更に加速し始めた踏み付けを見ながら………誰もがその言葉に納得していた。

包帯だらけのその姿………

《確かに………怪長だ》

と…………。

その後彼等は………午前三時から八時まで、ゆうに五時間アカツキに出されるまでそこにいたと言う。

 

 

 

再びプロスの部屋

「大丈夫ですかねえ………本当に……」

「アキトの目は簡単にごまかせる。ヤガミとオオサキの注意を逸らしてくれ」

「解りました」

「それと………ヤガミにはこの写真を返しておいてくれ」

そういって、ピンク色の封筒を彼に渡す。

そこには『親愛なるナ―ちゃんへ。運命の花嫁より(ちゅ)』と言うような乙女ちっくな言葉が丸文字でかかれていた。

ちなみに(ちゅ)の所には唇形に口紅がついていた。

「こ………これを私に如何しろと………」

「渡してくれ……単なる手紙だ……簡単だろ」

「これを……渡すのを見られたら………如何思うのでしょうね」

恐らく……『プロスホモ説』急上昇間違い無しだろう。

「さあ。ま、宜しく頼むぞ」

知っていながら、こう言いやがるのかお前は………。

「だ………だれから渡されたんです……これは………」

「内気な少女からさ」

プロスの言葉に軽く笑いながら、彼はそう答えた。

 

 

男は………空を見上げた……。

懐かしい。

しかし悲しい。

ここは自分がいた時代だ。

そう………昔いた。

だが………。

誰かが呼んでいる。

彼女だろう。

しかし彼が最後に見た彼女は………。

あの宇宙で………彼女と暮らした日々を彼女は知らない………。

いや……あゆんですらいない。

あの日………あの時……このぐらい力があれば………。

いや…………よそう。

もうすぐだ。

そう………もうすぐあの男を……。

自分がされた事を……あの男にも……。

そして……笑ってあの男が言った言葉を、はきつけてやろう。

「テンカワ………アキト」

その名こそが今でも俺の心に住み着いている…………憎悪の象徴だった。

 

 

 

シュッパッ!!

一気に身を引き裂く。

切り分けられたその色は見るも鮮やかな赤身だ。

この素材の新鮮さにただただ驚くばかりだ。

(誰が仕入れたのだろうか?)

……愚問だな。

考えた男はすぐにその言葉を否定する。

(出来る訳無いじゃないか)

昨日確認した時には、獲れたての魚など一匹も居なかった筈だ。

しかも見よ!!

素晴らしい切れ味。

切った男の腕もさる事ながら、その包丁もかなりの業物の様だ。

取り敢えずこれほどの業物。

昨日までは無かった筈だ。

そして…………

「アキトさん……マグロを握ってください……オオトロの部分で」

「あ〜〜〜〜きと。ハマチの握り……すぐね!!」

「アキト…………ウ「私は、鯛ね…・・鯛!!」」

「こら!!アジが先だ!!」

(こ………こいつら………)

気楽に言ってくれやがる…………。

切っては握り切っては握り………かれこれ二時間経つ。

一向に客は減らない。

ホウメイガ−ルズはシャリやのリなどの準備に大忙しだし、料理長であるホウメイは、アキトと一緒にてんてこ舞いである。

(しかも一番疑問なのは…………)

この変わり果てた食堂。

朝入って来た時の衝撃はいまだ忘れない。

厨房には変化は無い。

が変わったのは、客席の姿だった。

何処ぞの回転すし屋を連想させるようなこの形………。

一体夜の間に何があったのだろうか?

あまりの変わり様にあっけにとられていると、

ポン

と誰かが肩を叩いて来た。

普段のアキトならそんな事をされる前に気づいただろう。

それを許してしまうほどの衝撃だった。

振り向いた所にホウメイの姿が………。

だが、何故か気難しい顔をしている。

「テンカワ………これ………あんたが作ったのかい?」

そう言いながら、ホウメイが何か丸めた紙を持っているのに気づく。

「え?」

その紙を見せられたアキトは更に混迷の極みに立たされた。

そこには綺麗なでかでかとした字と、小学生に描かせた方がまだマシと思えるぐらい、ド下手な絵がかかれたポスタ−があった。

『テンカワアキトとその師・ホウメイが握る回転握り寿司フェステバル』

鉢巻をした二人の人間のような物体(恐らくこれが、アキトとホウメイなのだろうが……)

が「どんどんきてね」などと言っている絵だ。

「テンカワ………今更あたしゃ何も言う気は無いよ。この食堂をどうやってここまで模様替えしたかなんて、聞くつもりも無いさ。けれど……あんた……」

そこでぽりぽりと頬を掻いて、

「寿司なんて握れるのかい?」

もっともな意見に彼は沈黙を持って答えた。

「…………」

(握れる訳………無いじゃないか………)

「大体俺、昨日、こんな事出来る状態じゃ」

「知ってるさ……また迫られていたんだろ?あの子達に……」

「うっ!!」

「そして俺の部屋に止まったんだよな」

隣にいたナオはそう言って、カウンタ−席に早代わりした食堂をしげしげと見つめ始めた。

「ふ〜〜〜〜〜ん………・良い仕事しているな」

「「えっ?」」

ホウメイとアキト二人の声が重なる。

「いやこれさ………多分全部手作りだぜ……」

「本当かい……それ」

「ああ本当……全部純木製品……ガラスもこれ自分で切ったんじゃねえの?ほらここ」

そう言ってガラスの繋ぎ目を指差す。

「機械ならもうちょっと滑らかに切れるぜ」

「「……………」」

(誰がそんなばかげた事をしたんだろう…………)

それが三人の偽ざる気持ちだった。

「で……でもネタが無きゃ、寿司なんか作れません………よ……」

そう言って冷蔵庫を開けたアキトは、しばし硬直する事になった。

「ネタもシャリもノリも完璧…………ここまで行くともう気持ち良いね」

お手上げと言わんばかりにホウメイ。

寿司のシャリ、巻物に使うノリなどが既に用意されていた。

「これ………全部生きてるぜ………気絶してるだけだこりゃ」

「………………」

アキトの顔はかなり引きつっている……。

「は…………はははははははは……ははははははははは」

引きつった笑いが彼の口からこもれ出る。

「で…………如何するんだい……テンカワ………」

虚ろな笑みを浮かべながら、彼は言葉を搾り出した。

ああ………浮かぶ。

何かを期待している、ラピスの顔が………。

ぶっ飛んでくるユリカの顔が…………。

既に注文を決めたかのように済ましているルリの顔が…………・。

裏切ったら…………。

考えるだけでも恐ろしい………。

「………ニ・三時間………時間ください………」

彼はホウメイの指導の元、なんとか形を作ったのだった…………。

 

注文は山の様に積み上げられ、焦りまくるアキト。

もはや子供に餌を与える親鳥のような心境であった。

丁寧に握って居たのは最初の内……もはや彼は……・片手で寿司を握っていた。

「小手返し1手ですか……やりますなあ」

お茶を啜りながら、そう呟くプロス。

そうやって作った寿司は、次々となくなっていく。

「成長が早いよテンカワは」

ホウメイのほうは若干余裕があるようだ。

「あんたもどうだい?テンカワに注文して見ちゃくれないかい?」

「味の事はあまりわかりませんが………」

友人に良く色々な店を引き摺りまわされたから、そこそこは解るかもしれないが………。

(あいつが作ってくれるのは甘いものばかりだったけどね)

1時期甘物恐怖症になるぐらい作ってくれた。

(何時か御礼をしましょうかね)

そうのほほんと考えながら、

「ではアキトサン……ヒラメを一つ」

と普段の顔のまま大きな声で注文し始めた。

そして間髪いれずに………。

「キスは上手いですか?」

ガツッ!!

その瞬間………アキトの包丁は………まな板を割った………。

「な……なんの事ですか?」

少し蒼ざめた顔をしながら………質問してくるアキト…………。

「魚の名前ですよ………知りませんか?キス……」

「あ…………ああ………さ…………魚………」

「ええそうですよ………何かキスに思い出でも?」

ニコニコしながら、きわどく話を進めて行くプロス。

まだ彼女達は気づいていない。

「す……すいません……キスは置いてないです………」

無理に繕っているのが見え見えである。

良く観察して見ればわかるが………。

「そうですか………・残念ですね………ではカレイの握りも一つ」

何時もの調子で、喋り始めるプロスに少しほっとしながら……返事をする。

「ウイッス」

はっきりいって、プロスだけは遣り難い。

すっとぼけ振りも年季が入っているし、あの笑顔に騙されて良い返事をしてしまったのも2・3度ではない。特に時々、ぐさりと心臓を刺すかのような怪しい言動は、聞きたくない言葉ベストテンの中で常に上位に入ってくる。

(基本的には良い人なんだけどなあ………)

その良い人振りが曲者だったりする…………。

「似てますなあ……」

ドスッ!!

そのままヒラメに包丁を突き刺すアキト。

それを見たプロスは……

「変わった包丁の使いかたしますなあ……如何言う方法です……あれ?」

わざわざ、ホウメイに聞くところがアキトの神経を更に逆立てる。

その姿勢のまま、暫く硬直するアキト……。

ちらりとプロスの方を見る。

(プロスさん……貴方は何を言いたいのです……俺……あんたに何かしたか?してねえだろ!!してないよな!?いいや………絶対してないはずだ!!)

既に涙が目にたまっている。

もう少しで血の涙が見れそうだ。

(あれは俺の所為じゃない!!事故だ!!偶然だ!!全ては陰謀だ!!)

誰の?

 

 

 

 

 

何故だろう………時々あるんだよな…………。

突然全てのしがらみから向け出して、一人になりたい時ってさ。

あれは丁度そんな時……何とか彼女達の追跡を振り切って、一人になったときだった。

街をぶらぶらしていたら、向こうから、女の人が近づいて来たんだ。

(綺麗な女だな)

でも誰かに………そう………誰かに似ていたんだ。

同じロングヘアで……う〜〜〜〜ん何だろう……。

髪の色……と、ああそうか………瞳の色だ!!

それを変えれば………何て考えていると、俺を見て微笑み掛けた……。

微笑んだ………気がした。

気がしたって言うのは………彼女が突然倒れたから……。

わざととかそんな感じじゃない。

あの倒れ方は………俺が一番良く知っている倒れ方だった。

最初の頃ラピスとのリンクははっきり言って最悪だった。

余裕が無かったんだろうな………。

良くあんな風に………操り人形の糸が突然切れるような倒れ方を良くしたものだった。

デ・ジャヴってやつかな?

そして……彼女の顔を近くで見た時……確信した………。

そう………それは………大人になった…………ラピスだった…………。

いや…………ラピスを大人にしたら………こんな感じになるのかな?

取り敢えずぼおっと見つめていると………。

「私の顔に何か見覚えでも?」

彼女が微笑みながらこちらを見ているのに気が付いた。

綺麗だ………。

じゃなくて!!

「あ……………ああいや……怪我とかありませんか?」

「貴方のお陰ね……助かったわ………」

そう言って立ちあがった彼女は…………本当にラピスそっくりだった。

違う所があるとすれば………そう…………雰囲気。

たおやかで……そう……深窓の礼嬢というのは…………彼女みたいな事を……。

その瞬間に何かが俺の唇に触れる……。

!!!

それは少しひんやりとした感触と………なま温かい何かが俺の頭を霞がからせた。

要するにキスされたのだ…………。

彼女が何を言ったのかも………何時去ったのかもわからなかった。

気が付いた時には、警官が俺の前に何人かたっていた。

よほど変な行動を取っていたんだろうな。

戻ってきた頃には、精神的な疲れの為か、すぐに寝てしまったような気がする。

この事は誰にも話していない。

無論ルリちゃんにもだ。

ラピスに話したら、……………たぶん……・・あれだな……よそう………考えただけで恐ろしい。

しかし……ここに意外な伏兵がいた………。

プロスさん……どうやって調べたんですか?

そして、俺に何をさせたいんですか?

大概の事ならば、速やかに実行しますんで、お願いします…………。

あ……涙が……………。

ふふふふふ……如何してこんなに運が無いんだろう……俺って…………。

 

 

 

 

 

「プロスさん……あまりアキトを苛めてやんないでくれ……昨日も地獄……もとい……ホステス遣ってたみたいだからさあ」

(私はタカトのせいで………この所胃薬ばかり飲んでますが…………)

きりきり……

「まあ辛いのはわかる………かもしれないが…………すいません……出すぎたまねをしました」

悟ったようなその笑いが、一層恐い。

「いえいえ……貴方にも苦労をかけますねえ………ところで………ダイレクトメ−ルでこれが届きました………貴方あてです」

「…………俺ェ?一体なんだ……・」

ミリアのだったら嬉しいな………。

かすかな期待は砕かれる為に………。

「………プロスさん……このお手紙と写真…………」

蒼ざめた顔で、プロスに問いかけるナオ……。

「ミリアさんにも送ったそうですが………」

その言葉を彼は最後まで聞いてはいなかった。

もう既に彼は、そこにはいなかったからだ。

「アキトォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」

この瞬間………彼は、光を超えた………。

 

 

オ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ミリア―――――――――――――――――――♪

本当はもっといい声なのだろうが、涙混じりのその声は、人の心を陰鬱させるのに充分だった。

暗く切ない声が門の前から聞こえてくる。

「ミリアさん………もうそろそろ許してあげたら?なんか歌まで歌い始めましたよ」

さすがにアキトがとりなしに入る。

「そうね……でも本当に怒っている訳じゃないのよ………こんなことで」

なら最初から笑顔で無視して締め出さなければいいものを…………。

そう言いたかったが、懸命にも何も言わず、苦笑に止めた。

「本当はとても嬉しいのよ……。けど……」

辛いわ……。

何が?

とは聞かなかった。

例え彼女が安全な場所にいるとはいえ、ナオの枷になっているのには代わりは無い。

そして………

「そんなに頼りないのか……何て思えちゃって……そう考えると情けなくて腹が立って……」

その言葉に、アキトはゆっくり首を横に振る。

「ナオサンはきっと、誰よりもミリアさんを信頼していると思いますよ……ただ……何て言うんでしょうかね……・俺もナオサンも生き方が下手なんでしょうね……話す事も……何をするにしても……」

「生き方の上手い人なんていないわ……多分」

「…………」

「少なくとも私は見た事が無い……」

それに

「生き方の下手な人って私はすきよ……がむしゃらに突っ走って行って傷ついてそれでも本当の自分を見失わない………そう………本当に生き方の下手な人………」

優しさを無くさない人

「……………」

「だからへたなりにでもいいから………もう少し私を信頼して欲しい………せめて」

頼り切る訳じゃなく………支え合うよりも………

「二人一緒に両の足で立てているとお互い感じられるぐらいに……変かしら?」

「いえ………立派だと思います…………」

俺は………そう出来ていたのだろうか?

「と言う訳だから……ナオ………入ってきなさい」

普通の音量でナオに言うミリア。

「へ?」

そんな声で……

ガチャリ!!

「聞こえたのか………」

そこには、紅茶のポットを持って来たナオの姿があった。

「ミリア……お茶のお代わり持ってきたけど……」

びくびくしながら……ミリアに言うナオ………。

何時台所行ったんだよ………。

そう突っ込みたいぐらいの早業だ。

それを聞いたミリアは軽く溜息をついて、

「ナオ貴方も座りなさい………お口に合うかどうか解らないけど、私が焼いたクッキ−でも如何?」

と笑いかけたのだった。

 

 

とある喫茶店では………。

「なあ……一つ聞いていいかい?」

何処にでもありそうな………まあ値段も手ごろな、そんな店に、彼等はいた。

その内の一人、大柄の黒いコ−トを着た男―ひょうご―が顔を引きつらせながら聞いてくる。

「手短にな」

質問された男は、まったくもって表情を変える事無く、そう答える。

「何であんた、そんなドカタ兄ちゃんみたいなかっこうしているんだ?」

そう………彼はドカタ兄ちゃんそのものだった。

「ちょっとしたお遊びの帰りでな……まあ気にするな」

「俺からも質問いいか?」

今度は黒装束のような格好の男―蒼馬―が質問をして来た。

「なんだ?」

「後ろに山と詰まれている、マグロはなんだ?」

「………」

その質問には答えず、コ−ヒ−を啜る。

中々いい豆を使っている。

ブレンドも絶妙だ。

ただ引き方に問題があるのか、どうもざらつく。

少し上を向きながら、

「プレゼント」

と一言だけ答えた。

(やっぱりな)

誰へのプレゼントかなんて聞く必要も無い。

「獲りすぎてな………まあ放すのもなんだし…………君達の苦労をねぎらうこともかねて………」

(………嘘だ)

彼等の思いはピッタリと一致している。

「今朝とって来たばっかりだ……おいしいぞ」

「今朝、市場に200kクラスの黒マグロ40匹持って来た男が出現したと聞いたが………あんただったのか」

黒いマントで体を覆った男女の内男のほうが、平坦な声でそう言ってきた。

恐らく文字通り、手で運んで行ったのだろう。

「いい金に成ったぞ……」

「何故全部売らなかったの?隊長さん」

大男の隣にいる、今時封の女の子―黒のワンピ−スを着ている―がそう尋ねる。

「部下の苦労をねぎらおうと思ってね………」

笑顔で大嘘をつく男………。

(ナデシコの冷蔵庫……もうちょっと大きいと思ったのになあ………)

「……なにかいったか………あんた………」

金髪の麗人がじと目で質問して来た。

「いや……ところでな……今日集まってもらったのはだ。ナデシコと優華部隊に喧嘩売ろうとおもってね……お前等の意見を聞きたい」

その言葉に、彼等の態度が一変した。

「……其の意図は?」

「例えば爺さん………ナオと……殺って見たいと思わないかい?」

其の言葉に黒ずくめの老人は顎にてを当てながら……

「先週見た限りでは……ミリアをまかせられそうな気はするんじゃがのお」

「あたし……ナオ様スキよ……運命って感じなのお」

うっとりしながら、舌で唇をなぞっている少女。

「かなは優華部隊相手な」

「ええ!!どうしてえ!!」

今にも駄々をこねそうな声だ。

だが………、

「ナオの追っかけが……其の部隊にいる………」

その言葉が聞いたのだろう。

彼女の方からあっさり承諾が帰ってくる。

「まっかせて!!カナが……滅殺してあげる!!愛するナオ様の為に」

そう言って、自分の世界に没頭して行った。

「ふふふ………二人………血の海………ナオさま………二人……」

「俺は……」

「お前は、やって貰う事がある。優華部隊のほうでな」

「ぬっ」

そして蒼馬の反論を封じる様にして、

「安心しろ……サブロウタは来る………愛する者を守る為にな」

「………なるほど」

「優華部隊はいい………が『羅刹』は如何する?」

金髪の麗人が質問する。

「『ルシファ−』でおびき寄せる……『ダリア』を倒す事は出来ぬが……逃げ回る事は出来るからな」

「それなら異論は無い」

そう言って、髪をかきあげて、

「では………戦場の女神達の相手でも…………ごうううううううううう!!」

気障なまでの仕草をしていた麗人がいきなり苦しみ始める。

「おう…………ぐ……同姓が……同姓をナンパしては……いけないとおおおおおおおおおおいうううううううううううほおおおおおおおおおおりいいいいいいいいいい」

ついに七転八倒し始めた。

「相変わらず尻に敷かれてるなあ……あの脳だけ大将」

体は女だ。

「精神が二つあるなんて大変だねえ」

カナといわれた少女は、呑気に感想を漏らす。

「あいつが悪い」

蒼馬はあっさりと断じる様に言い、

「女好きにも程がある……良い薬だろう」

劉の横で妙齢の美女がこっくりと頷く。

「心の中で言っても……結果はおんなじじゃがの」

茶を飲むようにしてコ−ヒ−を啜る老人。

「爺さんあんたは如何なの?」

「ナオは良い男なんじゃがのう……なんせ「ミリアは世界一の美女」じゃからのう」

(あれ?)

老人を除く全員が、首をひねり始める。

「爺さんもう一回言ってみてくれや」

「「ミリアは」わしの婆さんに似て、「世界一の美女」と言っただけじゃが?」

(汗)

その時彼等は見た。

その爺さんの後ろには、ナオに良く似た人物が、グッドといわんばかりに親指を付きたてて彼等に笑いかけていたのを………。

(幻か?)

仮面の青年は己を疑い、

(ミリアさん……やはり貴方が、私の生涯のライバルね……羨ましいってやつぅ?これって〜〜〜〜〜〜)

今にもハンカチを口で引き千切りそうな表情を刻み、

(まあ……長い人生色々あるわな)

女になった男は深く息をつきながら、投げやりな感想を漏らした。

「隊長さんよお……あんたなら……・・今の現象……説明できるんじゃない?」

大柄な青年の男の問いに彼は答えず、彼はコ−ヒ−を飲み干すと、

「じゃ、詳しい説明はこの紙に書いてあるから……あマグロはノルマ一人5匹な」

何も無かった様に、そのまま出口に歩いて行った。

後からはブ−イングやら罵声やら色々な声が彼を追い掛けて来る。

外に出た彼は、アオイ空を見上げながら、

「アキト………友達は選べよな」

そうつぶやいたのだった。

 

ナオ………謎の生物化チャクチャクトシンコウチュウ……………。

 

 

 

「オヤッサン………お願いします」

「オウ」

暗い……とても暗くて広い部屋に彼等はいる。

オヤッサンと呼ばれたその老人は、その暗い中で階段を上っていた。

(タカト良く決心してくれた)

(そうあの愚息に鉄槌を下す機会を俺に与えてくれるとはなあ)

クックックックと笑いながら上りきった瞬間、

「ウリバタケを許せるかあ!!」

否!!

断じて否!!

反響を差し引いても騒音に近い………それほどまでに大勢の人間が集まっている事は確かな様だ。

「判決はあ!!」

死刑!!

  • 死刑!!

    死刑!!

  • 「俺達のアイドルを、手篭めにして、自分は二号さんをつくろうたあイイ度胸だあ!!」

    「ナデシコに行った理由が、女房から逃げる為だとお!!千年早いんだ!!」

    「あの男を許すなあ!!」

    そこで高台の老人が血気はやる彼等に片手を上げて制する。

    「だが、ついにあいつに仕返しをする時が来た!!今俺の後に立っている十人の勇者達が、四日後、ナデシコにスパイとして旅立つ!!」

    おお!!

    「彼等はやってくれるだろう!!ウリバタケに人誅を!!」

    人誅を!!

    人誅を!!

    ウリバタケ セイヤに人誅を!!

    「良いのか?」

    十人中7人がのリのリの中二人の人物が話していた。

    「何が?」

    「勝手に休みを貰って戻ってきて……」

    「お前こそ良いのか?コックだろ?」

    「大事な用事があるんでな………彼女は怒ってなかったか?」

    「理解はしてくれているはずだ……今の俺は………動けないんだよ……けりを付けないとな」

    「ならば我が神に……」

    「死んでも御免だ」

    「……残念だ」

    そして二人はどちらともなく口を閉ざす。

    (テンカワ…………アキト………)

    「まっていろ………お前を再び……本性に戻してやる」

    予告

    過去に戻ったとて、憎しみが消える訳じゃない。

    愛した女性がそこにいても、愛した彼女はここにはいない。

    何が狂った?

    誰が狂わせた…………。

    その答えを………紅蓮の炎が紡ぎ出す。

    「ここに収められし機体………我等が頂くとしよう」

    元凶の一人が……その姿を俺の前にサラしていた。

    「北辰!!」

    次回

      「汝、外道なり」

    第二幕

       「六人目の男」

    「我が兄弟は何処に………」

     

     

     

    皆様方お久し振りです。

    ランです。

    皆々様方には、大変ご迷惑をかけました。

    これからまたこちらにちょくちょく顔を出しますのでなにとぞ宜しくお願い申し上げます。

    「おい………・馬鹿作者」

    はいはい………馬鹿作者で御座い。

    「最後の台詞はなんだ?あんなの台本の何処にもかいてねえぞ!!」

    ああそれね。

    ほら後ろにいる人物だよ。

    「え?」

    「どうもどうも。パイロット達が叩きのめされていた間中本を読んでいた、薄情な医者ですよ………はっはっはっはっは」

    「こいつもいたのか」

    はい居たんですよね……これがまた。

    「しかしこの声はこの医者じゃない………他に誰かいるのか?」

    だから君の後ろ………。

    「な!!まだいるのか!!」

    「我が神が仰られている。よくぞ再開してくれたとね……」

    「このコックもいるのか(汗)」

    そうだよ。

    「まあいいか………(ふう)とりあえずこいつの言葉じゃないが……………中途半端は止めてくれよ………」

    ど……努力します。

    「口ではなんとでも言えるんだけどなあ」

    ふうっ!!

    そんな…………。

    「まっ!!祟ってるのさ………悪行が…………」

    「ほお……そんな事を」

    お………おい!!

    「まだあるぜ」

    「ほほお………それはそれは」

    こ……こら……そいつは洒落に………そいつに話す事柄じゃあ……。

    「やれやれ………神の真理を諭さなければならぬようだな君には………」

    いやああああああああああああああ!!

    ………一時間後。

    「どうだ……我が神は」

    カミイダイイ………カミハシンリシンリ………。

    「それでいい(ニヤリ)」