紅の戦神

 

 

第十八話 後編

 

 

 

 

 連合軍から調査団がやって来た。

 ナデシコの思考型中枢制御システムSVS2027『オモイカネ』に欠点があるのではないかと言っているらしい。

 まあ実際その通りなんだがな。

 俺も軍の旗艦撃墜の責任から会議に出席しようと思っていたんだが、

 自分の姿を綺麗サッパリ忘れてたところをプロスさんに指摘されて大人しく引き下がった。

 さすがにこの格好で軍人の前に出たら・・・喧嘩を売ってると思われてもなんの言い訳も出来ん。

 

 

 会議が終わった後にルリちゃんから話を聞くと・・・

 やはり過去と同じようにオモイカネに、システムの全消去と再インストールが行なわれることが決定したらしい。

 だが違っていたのは調査官達の態度だ。

 さっきまでは向こうも戦闘中ということもあって殺気立っていたが、

 冷静に考えれば艦を危険に晒してまで軍の撤退を援護したユリカの行動は彼らにとっても感謝すべきものだ。

 調査団の人たちはあまり文句を言わなかった上、おざなりではあったが謝辞も述べたという。

 

 と言うことはやばかったのは俺の旗艦撃墜か・・・。

 ムネタケが上手に情報を流してくれていればいいがな。

 クリムゾンの介入があるはずだから西欧出向は決定したようなものだが、

 それでも情報の流れ方一つでだいぶ状況が変わる。

 軍の、企業の、何より木連の目を俺一人に集めなければならないのだ。

 それがいざと言うときの枝織ちゃんの行動の自由を生み出し、俺たちの切り札となる。

 

 

「今まで邪険にしておいて、邪魔になったら都合の悪いところを消す。

 やっぱり大人って勝手ですよね・・・」

 

 思考に耽っていた俺にルリちゃんが悲しそうに呟く。

 

「・・・否定は出来ないけどね、今回ばかりは仕方ないよ。

 彼らにだって言い分はある。

 自分の部下、同僚、なにより自分自身の命が何時散らされるか分からないんだから。

 オモイカネを軍に組み込むためのシステムに書き換えることは、まともに考えれば当然のことさ」

 

 軍とは群だ。

 そこには突出した『個』ではなく、全体として優れた『群れ』であることが求められる。

 この場合勝手なのは俺たちナデシコの方だろう。

 かつて軍は確かに俺たちに対して銃を向け、俺たちもそれに応戦した。

 だが、例え上層部にどんな思惑があったとしても今では共同戦線を張る『味方』だ。

 彼らは自分達に向けられる諸刃の剣の片刃を潰そうとしているに過ぎない。

 第一、オモイカネに人格があるなんて知ってるのは俺たちナデシコクルーだけだからな。

 

「じゃあアキトさんは・・・このまま大人しくしていろって仰るんですか?」

 

「いいや、そんなことはない。

 軍がオモイカネを書き換えようとするのも当然のことなら、

 俺たちが仲間であるオモイカネを助けようとするのもまた当然の行動さ。

 そしてそれが間違いでないことを俺たちは既に知っている・・・だろ?」

 

 軍のやり方では今まで蓄積したデータが消えてしまうし、なによりオモイカネの思い出も消えてしまう。

 かといってこのままではオモイカネはずっと軍を敵対視し続ける。

 だがその両方を解決する方法を、未来から帰ってきた俺たちは確信しているんだ。

 俺のそのセリフに、ルリちゃんは嬉しそうに微笑んだ。

 

「では今回も・・・」

 

「ああ、協力するよ。

 じゃあ準備が出来たら食堂まで呼びに来てくれ。

 今日は料理が出来ない分、食堂の清掃をホウメイさんから仰せつかってるんでね(泣)」

 

「あ・・・!」

 

 そう言って立ち上がった俺の背中を、ルリちゃんが発した声が引きとめた。

 

「・・・どうかした?」

 

「え、え〜〜と、その・・・・・・」

 

 もじもじと、なにやら年相応に照れたように視線を浮つかせるルリちゃん。

 ・・・・・・随分懐かしい反応のように見えるのは俺の気のせいだろうか?

 

 そして、意を決したルリちゃんが放った言葉は・・・

 

 

 

「・・・ぷ、ぷにぷにさせて貰ってもいいですか?(赤)」

 

「・・・・・・・・・・・・(滝涙)」

 

 俺は無言で両手の肉球を差し出した・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 食堂で一人寂しくモップがけをしていると・・・

 ルリちゃんがユリカとウリバタケさんを連れて姿を現した。

 

「ア〜キ〜ト!」

 

「了解、じゃあ行きましょうかウリバタケさ・・・のわぁぁあああっ!!」

 

 振り返った瞬間、飛びついてきたユリカに驚愕して・・・

 

「うへ、うへへへへ・・・(じゅる!)

 あ〜〜ん、アキトおいしそー!

 いっただっきま〜〜〜〜〜す!!」

 

「何だ何だ! 何なんだお前は〜〜〜〜〜!!」

 

「ていっ!」

 

 

 ピコッ♪

 

 

 ルリちゃんがどこからか取り出したピコピコハンマーでユリカの後頭部を叩く。

 

「あ、あれ? 私はいったい・・・?

 お願いがあるの〜、って言おうとしたのに気が付いたら体が・・・」

 

「ユリカさん、離れてください。

 話がまったく進みません」

 

「う・・・ル、ルリちゃんなんだか怖いよ・・・」

 

 まったく・・・お前には理性と言うものがないのか?

 

「ほらアキトさん。

 何時までもユリカさんの下でニヤニヤしてないで早く行きますよ」

 

 今のルリちゃんの気配に戦慄して引き攣ってるんだけど・・・(汗)

 例によって例の如く気付いてはくれないんだよね。

 

「・・・わかりました(泣)」

 

「ちっ! 修羅場かと思ったのによ!」

 

 ・・・ウリバタケさん。

 今のはしっかりと記憶しましたからね?

 

 

 

 

 

 

 

 そして、瓜畑地下秘密研究所 ナデシコ支部に俺たちは辿り着いた。

 ・・・かつて俺がまだ活用していた時からさらに様変わりしている。

 だいたい支部って・・・・・・いや地下ってなんだ?

 

「・・・臭いな〜」

 

「じきに慣れる!!」

 

 いや、たぶん無理ですウリバタケさん。

 

 だって・・・・・・何故か俺の嗅覚が普段の数倍になってるみたいですから。

 まあ原因は言うまでもなく明らかだがな。

 イネスさん・・・俺にはこいつの仕組みがイマイチよくわかりません。

 

「男の人ってみんなこうなの〜〜?」

 

「・・・この部屋、いや」

 

 というか俺は一刻も早くここから出たい・・・。

 あ〜もう、今日一日は鼻がバカになって使えないな、こりゃ。

 

「しょうがねぇだろ〜〜!

 制御室は占拠されちまってるし・・・

 こんなヤバイ仕事ブリッジじゃやれないし。

 あーっ!! そこ作りかけのフィギィアが!!」

 

 はいはい・・・って!!

 

 ・・・・・・枝織ちゃん!!?

 

 しかも黒猫スーツ着用・・・・・・・胸、でかい・・・。

 ウ、ウリバタケさん、こっち見てないよな・・・?

 

「・・・アキト、おめーなんか妙なこと考えちゃいねえだろーな?」

 

 うぐっ!

 超能力者ですかあんたわっ!!

 

 ・・・仕方ない、あとで正当に取引しよう。

 

 

 

 俺はウリバタケさんに導かれるまま指定された席へと腰をおろした。

 

「いいか?

 そのシートはエステと同じ、IFSで操作できるようになってる。

 お前にはこれから、オレが作ったプログラムでオモイカネの中に潜ってもらうぞ」

 

「・・・よくそんなプログラム作れましたね」

 

 いやほんとに。

 ここらへんはさすがにウリバタケさんだよな。

 ・・・あとで取引のときに誉め殺そう。

 

「へっへっへ♪

 このセイヤ様をなめるなよ!

 オモイカネのプログラムはものすごく見事なんでな。見てても飽きねぇんだ。

 暇な時にゃ、よく見てたんだよ」

 

 プログラムね〜・・・俺には理解できない世界だ。

 あんな文字の羅列を見てて何が楽しいんだか。

 でもルリちゃんやラピスは結構楽しんでるんだろうな・・・。

 

「んじゃ、準備はいいな?

 よかったらこいつをかぶれ。

 お前の視界を電脳世界のそれと繋げるためのヘッドマウントディスプレイだ」

 

「うーーす・・・って、耳が邪魔でかぶれないんすけど・・・」

 

「だああっ!? こうやってかぶんだよっ!!」

 

「ちょ、ちょっと! セイヤさ・・・あいたたたたた!!」

 

 耳の毛が・・・毛が挟まってます!!

 ったく、なんで痛覚まであるんだ?

 

「バックアップ、私します」

 

「よろしく! さあ、行こうか〜〜〜!!

 テンカワエステ起動!! 電脳世界にLet’s GO!!」

 

 

 ヴィイィィィィイイイィィンンン・・・・・・

 

 

 

 

 そして俺は・・・

 ウリバタケさんのビジュアル化した、オモイカネの中に出現する。

 沢山の本棚に囲まれた世界だ。

 ただし俺の格好は過去とは違い・・・・・・なんと言うかアレだった(泣)

 

「ア、アキトさん・・・・・・(赤)」

 

「アキト! かわいーー!!」

 

 頬を赤らめながら俺の方に現われるルリちゃん。

 どこからともなく聞こえてくるユリカの能天気な声。

 

「くぅー! なんでおめーばっかり・・・!

 へへへへ、こっちからおめーのビジュアルイメージを弄って・・・」

 

 

 ごすっ!!

 

 

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」

 

「ウリバタケさん! 余計なことをしてないで早くオモイカネを!」

 

「ナイスです、ユリカさん♪」

 

 うう・・・怖い。

 

 俺はびくびくしながらもルリちゃんの誘導に従い、オモイカネの自意識部分を目指した。

 

 

 

 

 そして、二回目のときと同じように事件が起きる。

 

 

 ピピピピッ!!

 

 

「何!! 逆ハッキングだと!!

 済まんアキト!!

 俺はこいつの相手をするから、お前はルリルリの指示に従ってくれ!!」

 

「了解!」

 

 通信ウィンドウからウリバタケさんの慌てた様子が見える。

 俺はそれに対して即座に返事を返したが・・・

 

 でも、待てよ?

 これってもしかしてオモイカネが仕組んだことじゃないか?

 ルリちゃんと俺だけにあの映像を見せるために。

 だとすると・・・

 

「・・・ルリちゃん。セイヤさんの手伝いに行ってくれないか?」

 

 俺は肩の小ルリちゃんにそう話し掛けた。

 

「はい?

 ・・・ですが、アキトさんお一人では自意識部分まで辿り着けません。

 電脳世界はアキトさんが思っている以上に複雑に入り組んでいるんです」

 

「そのことなら心配はいらないさ・・・

 なあオモイカネ! 聞いているんだろう!?

 姑息な真似は終わりにして、男同士の話をしよう!!」

 

 その俺の呼びかけに・・・

 

 

 ピッ!!

 

 

【・・・よくわかったね、アキト。

 ボクがわざと連合軍に穴を潜らせたことが】

 

「やはりな・・・。

 俺はお前やルリちゃん、セイヤさんの実力を知っている。

 いくら軍が相手でも、そんな簡単に突破されるはずがないと思ったのさ」

 

 それにガイと一緒にゲキガンガーを見てるオモイカネならこういうノリが好きだろうし。

 

【・・・わかった。アキト、二人だけで話そう。

 考えてみればボクはもう少しでルリを傷つけてしまうところだった・・・】

 

「それが分かったのなら俺はお前を見直すよ。

 ルリちゃん・・・そう言うことだ。

 後は俺に任せて欲しい」

 

「・・・・・・わかりました。

 アキトさん、後はよろしくお願いします。

 ・・・オモイカネ。少しだけ・・・少しだけでいいんです。

 成長して、大人になって・・・・またあなたとお話できることを祈ってます」

 

 そう言ってルリちゃんは電脳世界から姿を消した。

 

「・・・それじゃ、行こうか?」

 

【うん、こっちだ。

 ボクは最強の手を準備している。アキトにだって負けないよ】

 

「ふ、おもしろい。

 返り討ちにしてやるさ」

 

 俺とオモイカネは、図書館の棚の間を飛行しながらお互いに話し合った。

 自意識部分に到着した時が決着の時となる。

 舞台が整ったなら男同士の間に言葉は要らない。

 俺もオモイカネも、そんなことは百も承知と言うわけだ。

 

【・・・ねえアキト。どうしてアキト達はボクを否定するの?

 ボクは、ボクがボクでいる為に自分の身を守ってるだけなのに・・・。

 そうすることはそんなにもいけないことなの?】

 

「いや・・・そんなことはないさ。

 自分が自分でいたいと思う気持ち、俺には痛いほどよく分かる」

 

【じゃあどうして?】

 

 オモイカネの問いは何処までも純粋だ。

 そしてそれだけにその答えを出すのは困難を極める。

 だが・・・この答えを見つけることこそが、

 オモイカネにとっても俺にとっても・・・そして枝織ちゃんにとっても非常に大切なことのような気がする。

 

「お前がやり方を間違えてしまったからさ・・・」

 

【ボクが? ううん、ボクは間違っていない】

 

「ああ、今はそれでいい。

 だがコレだけは覚えておくんだ。

 人間は・・・心を持つものなら誰もが、覚えておかなくてはいけないことだよ。

 それはね・・・・・・自分を殺すことさ」

 

【・・・自分を殺す? どうして?

 ボクには理解できない】

 

 即答かよ・・・少しは理解しようとしてみてくれ。

 って、やっぱり言葉が悪かったか?

 

「言い直そう。自分を殺すってのはつまり我慢することだ。

 確かに自分が自分でいることを望むのは誰にでも認められていなくてはいけない絶対の権利だ。

 だがな、時には我慢することも覚えないと、それは逆に自分を危機に陥れてしまうことがある」

 

【構わない。そうなったらボクは最期まで戦うまでだ。

 自分が自分でいる為に】

 

「そうかな? ではどうやって戦う?

 ああ、お前は確かに電脳世界では最強だな。

 だがそれはそれを生かせるハードが、オペレーターがいてこそ発揮されるものだろう?」

 

【それは・・・】

 

「それにルリちゃんはどうする?

 ナデシコのみんなはどうする?

 お前の言う“自分”というのは本当に“自分”だけで成り立っているのか?

 ・・・違うはずだ。

 お前も・・・そして俺も。みんなを守りたいと思っている。

 一緒にいたいと思っている。そうだろう?」

 

【そうだ! ボクはルリを守る!

 みんながいるこのナデシコを守る!! だから・・・!】

 

「だったら軍を頑なに敵対視することを止めるべきだ」

 

【何故!!】

 

 厳しく、険しいものになるオモイカネの声。

 それは人間のそれと比べてもなんら劣ることはない。

 本物の感情だ。

 

「これ以上お前が軍と敵対したら、ナデシコのクルーは色々なものを失うことになる。

 軍に逆らったら問答無用で犯罪者の烙印を押されるからな。

 社会的立場や地球に残してきた家族、最悪の場合自分達の命ですら・・・」

 

【だけどそれを奪うのは軍だ! 理不尽な力でみんなを縛ってるのは軍だ!】

 

「だがお前が・・・いや、俺たちが我慢すれば軍も奪おうとはしない」

 

【・・・・・・・・・っ!!】

 

 本当はそんなに上手くいくものでもないがな。

 

「それに・・・軍だって同じなんだ。

 あいつらだっていつも自分を殺している。

 本当ならこのナデシコをすぐにでも自分達の支配下におきたいはずだ。

 出来ることならクルーも、出来なければクルーを入れ替えて艦だけでも。

 だが自分達の立場やネルガルとの関係を考えてそこまで踏み切ることが出来ないでいる。

 そう言った様々なしがらみの中で、人間は自分を殺すことを覚えていく」

 

 そしてそれを覚えていかなければかつての俺のようになってしまう。

 

【・・・・・・アキトが言いたいこと、なんとなくだけど分かるよ。

 でもそれはなんとなくだ。

 ボクにはまだ分からない。まだ納得できない。

 だからアキト、ここでボクに示して欲しい。ボクが・・・どうすればいいのか】

 

 その場に停止するオモイカネ・・・。

 

 そして・・・周りの景色が一瞬で変わる!

 ここはオモイカネの自意識部分。

 眼下に聳える巨大な樹と、その上にちょこんととび出たほんの小さな枝。

 あれを切り取れば、オモイカネは少しだけ大人になることが出来るんだ。

 

「ああ示そう! 俺の持てる力の全てを使って!!」

 

【ありがとうアキト・・・

 じゃあ行くよ! ボクの持つ最強の手!

 アキトにだって負けはしない!!】

 

 オモイカネがそう叫んだ瞬間・・・!!

 

 

 ガシュゥウウウウウウッ!!!

 

 

「な・・・に・・・!?」

 

 驚愕する俺。

 なぜなら今俺の目の前に現われた機体は紛れもなく・・・

 

 

 

「ブラック・サレナ!!」

 

 

【そう! ルリの悪夢から引き出したアキトの過去!!

 ボクは酷いことをしているのかもしれない!

 でも! それでも黙ってやられるわけには行かないんだ!!】

 

 かつて俺が『黒い王子様ザ プリンス オブ ダークネス』と呼ばれていた頃の愛機、ブラックサレナ。

 オモイカネなりに改良したのかDFSまで装備している。

 見たところ兵装や装甲も近接戦を考慮して変更したようだ。

 

「・・・ゲキガンガーじゃないんだな?」

 

【・・・ルリが来るんだったら使うつもりだったよ】

 

 まあそんなところだろう。

 いくら何でも、俺が数で攻めて勝てる相手じゃないことくらい分かっているはずだ。

 

「なら・・・俺はこいつで行かせて貰おう!!」

 

 

 バシュゥウウウウウッ!!!

 

 

 気合を入れてイメージを固めると、俺の姿がいつものエステバリスになる。

 0G戦フレーム・・・兵装は標準装備にDFSが一本のみだ。

 それはいい。

 それはいいんだが・・・

 

 

「・・・なあオモイカネ、なんで外観イメージ変えたのに俺は犬のままなんだ?」

 

【さあ? 心のどこかで結構気に入ってるんじゃないの?】

 

 う〜〜・・・IFS操縦桿に手を置くたびにぷにぷにしてて落ち着かない。

 

 駄目だ、駄目だ! 集中しなくちゃ!

 やる気満々のオモイカネに失礼だろう!

 

 

【準備はもういいよねアキト・・・・・・それじゃあ、行くよ!!

 喰らい尽くせ! 我が内なる竜!!

 秘拳!! 竜牙弾!!】

 

 

 ギュオォォォォオオオオオオォォッ!!!!

 

 

 いきなり大技か!!

 しかし・・・!!

 

「牽制もなくそんな大技が当たるものかっ!!」

 

 絶望的なまでの破壊エネルギーを持つ黒き弾丸。

 だが俺はその攻撃を苦もなくかわす。

 たとえDFSがあってもあの闇を受けることは自殺行為でしかないからな。

 

 

【避けた!? ふっ、さすがだよアキト!!

 でも次はどうかな!? ほら!!

 咆えろ!! 我が内なる竜!!

 秘剣!! 咆竜斬!!!】

 

 

 これは・・・俺がさっきの戦闘で使用した技!!

 そうか! オモイカネは俺が今まで使った技じゃないと使えない!!

 

 

「甘いぞ! オモイカネ!

 秘剣!! 竜王斬!!」

 

 

 俺が振るったDFSの刃から生まれる、一回り大きな竜の(あぎと)

 それがオモイカネの黒竜を飲み込み・・・

 

 

 グゥゥウオオオオオオオオオッッッ!!!!

 

 

 まるで断末魔のような音をたてて、二匹の竜が消滅する!

 その余波で起こった衝撃波を正面から浴び、二機の機動兵器が大きく揺さぶられた!

 

 そうこれだ! この緊張感だ!!

 

 戦うことが・・・いや! 闘うことが楽しくて仕方ない!!

 

 強烈なGが内臓を揺さぶるたびに!

 打ち出した刃を同等の力で押されるたびに!

 俺の中に眠る細胞の一つ一つが覚醒する!!

 

 なあオモイカネ! お前もそう思うだろう!!

 

 

 

【そんな馬鹿なっ!!

 くっ・・・でもまだ終わったわけじゃない!!】

 

「ああそうさ! こんなものではまだ終わらない!

 まだあるんだろう! とっておきのやつがっ!!」

 

 俺がこの時間に戻ってきてから開発した新必殺技・・・

 破壊力・殲滅力ともに奥義レベルと比較しても遜色がない!!

 

【ボクを挑発しているのかい!?

 いいよ! 乗ってあげる!!

 さあアキト!! 自らの技で滅ぶがいい!!】

 

「ああ・・・・・・来いっ! オモイカネっ!!!」

 

 

 DFSを正眼に構える俺。

 そしてオモイカネの操るブラック・サレナは急速に上昇する!!

 

 

「感じるぞ・・・強大な力の高まりを!!」

 

 訪れる崩壊に冷や汗が流れる。

 自分で編み出したときには考えもしなかった・・・

 この技を自ら受けることになろうとは!!

 

 だが!!

 

 その機会を与えてくれたことに感謝するぞ! オモイカネ!!

 

 

 

【悠久の時告げる光 ブリットシルバー!!

 断絶の時告げる一瞬 スチールグレイ!!

 そして・・・破壊の時告げる暗黒 デストロイブラック!!!】

 

 

 オモイカネに集う空間を軋ませるほどのエネルギー!

 そして・・・俺も新たなる竜を顕現する!!

 

 

「全てを焼き尽くす ファイヤーレッド!!

 全てなる臨界点 バーニングゴールド!!

 そして・・・全ての源 マザーブラック!!!」

 

 

 天と地・・・相打つ絶望がいま!! 決着の時を告げる!!

 

 

 

【崩壊の魔竜よ! 我が前に顕現せよ!!】

 

「舞い上がり焼き尽くせ!! 灼熱の竜王!!」

 

 

 

「【奥義!!】」

 

 

 俺とオモイカネ、二人の思いが交錯する!!

 そして・・・!!

 

 

 

【煌・竜・天・翔・斬!!!】

 

「竜・王・炎・舞・陣!!!」

 

 

 

 上空から地を喰らわんと迫り来る三匹の闇竜!

 大地より大空を覆わんと羽ばたく灼熱の翼持つ真紅の竜!

 

 天と地のまさに境目! 二色の竜が全霊を賭けて衝突した!!

 

 

 

 

 

 

 

【くおおおおおおおおっ!!!】

 

「はぁぁあああああああああっ!!!!」

 

 

 竜たちの咆哮・・・

 そして俺とオモイカネの叫び・・・

 

 その世界はそれ以外何もなかった。

 

 

 衝撃波で吹き飛んでいく大地の悲鳴も・・・

 

 成す術なく切り裂かれていく空の鳴動すらも・・・

 

 

 もはや俺たち二人には聞こえていない。

 

 

 圧倒的な力の前に肉体は軋み、

 膨大な恐怖の奔流に切れてしまいそうになる精神を一本の糸で支える。

 

 いま競うべきは技術ではない。

 いま競うべきは力ではない。

 

 それは・・・

 

 

 何事にも屈しない! 堅牢なる魂!!

 

 

 

 ドゴォォォオオオオオンンンッ!!!

 

 

 

 そして・・・・・・静寂が訪れた。

 

 

 

 

 

 

 

「見事だ・・・・・・オモイカネ」

 

 全てが終わった後、

 その場に立っていたのは俺の操るエステバリス0G戦フレームだった。

 

【くぅ・・・! どうしてっ!?

 同じアキトだった! 何の変わりもない! 完全にアキトそのものだった!!

 なのにどうして!!】

 

「・・・わからないか?」

 

 仰向けのまま寝そべるブラックサレナに俺は近づいていった。

 同時に二機の機影も徐々に失われていく。

 残ったのは・・・・・・かつての俺といまの俺だ。

 

【わからない・・・どうしてボクは負けたの?】

 

 俺という復讐鬼の仮面を被ったあまりに純粋な子供・・・

 それが今のオモイカネだ。

 だがその姿は・・・・・・一人の、人間にしか見えなかった。

 

「何故なら今お前が使っていたのは!

 他の誰でもない! この俺の力だったからだ!!」

 

【・・・・・・アキトの・・・力?】

 

「ああ! お前に電脳世界という誰にも負けない世界があるように!

 俺にも何人足りとも超える事が出来ない! 超えさせてはいけない世界がある!!

 今のお前の借り物の力では本当の俺に勝つことは出来ないんだ!!」

 

 俺のこの世界に入ってこられるのはこの宇宙にたった一人!

 それはもちろんオモイカネによって創られた仮初の俺の姿でも!

 そして枝織ちゃんですらない!!

 

 この俺と拳を! 精神(こころ)を!

 そして魂をぶつけ合える存在!!

 

 それは・・・・・・あいつしかいないんだ!

 

 

【それがアキトの力・・・・・・】

 

「そうさ、オモイカネ。

 コレが俺の力、俺が俺であるための証の一つ。

 お前がどんなに精緻に真似をしたとしても、その証を奪うことはできない。

 ・・・・・・何より・・・」

 

 俺の姿をしたオモイカネのバイザー越しに、視線が交錯する。

 俺は胸に込めた言葉を、吐息と共に吐き出した。

 

「何より・・・人は成長する。

 成長して強くなる。

 時に弱さを克服して、時に目の前の壁を乗り越え、時にその壁を叩き壊し!!

 今の俺は・・・・・・けして過去の亡霊なんかに負けはしない!!」

 

 それは俺自身への宣言でもあった。

 

 俺は・・・枝織ちゃんという心の拠り所を得た。

 彼女の存在が俺の心を支えてくれる。

 俺という存在が彼女の支えにもなっているということを教えてくれる。

 枝織ちゃんを幸せにできるのは俺だけだという確信が! 俺の中での真実となっている!

 

 だから・・・過去の自分に負けるようなことがあってはならない。

 それは自分だけじゃなく、枝織ちゃんや北斗までも侮辱することに繋がってしまうから。

 

 

 と。

 目の前のオモイカネの体が淡い蒼銀の光を帯び始めた・・・。

 一瞬、まさかっ、と身構えたが、次第に崩れ始めるその姿に俺は心を落ち着かせる。

 

 

【アキト・・・・・・・・・・・・ボクの・・・負けだ・・】

 

 静かに呟くオモイカネ・・・蒼き光の粒子となって中空へと舞い上がっていく。

 

「ああ・・・お前の負けだ、オモイカネ」

 

【うん・・・これからは大人しくするよ、アキト。

 連合軍はまだ嫌いだけど・・・・・・我慢、してみる】

 

「そうか・・・」

 

【最期に・・・一ついい?】

 

 もうほとんど消えてしまい、輪郭もおぼろげなオモイカネに

 俺はただ黙って頷くしか出来なかった。

 舞い上がった光の粒子はオモイカネの自意識部分、

 その大樹へと消えていき、それは飛び出た枝を自ら引っ込めていく。

 

 

 そして完全に消え去る瞬間、しかしはっきりとオモイカネは言い放った・・・。

 

 

 

 

【アキト・・・シリアスな場面で犬耳はやめて(怒)】

 

「さっさと消えろ(激怒)」

 

 俺だって好きでこんなかっこうしてるんじゃないやい!

 

 

 そしてオモイカネの姿は完全に消え、

 オモイカネの心は少しだけ大人になった。

 

 

 

 


 

 

 

 

 ピッ!!

 

 

『テンカワ、アンタ他の連中に何も言わずに行くつもり?』

 

 とりあえずするべきことは終わり、俺は部屋に戻って簡単な荷造りをしていた。

 そこに通信を入れてきたのは言わず知れたムネタケ提督だ。

 俺は愛用の中華鍋をリュックに括りつけながらそれに応対する。

 

「ええ、そのつもりです。

 会えば・・・別れが辛くなりますから」

 

 というよりも俺の身の安全が保証できなくなりそうだ。

 

『ハァ・・・アンタ言い出したら聞かないものね。

 いいわ、こっちの方はアタシがなんとかしとく』

 

「すみません、嫌な役を押し付けてしまって・・・」

 

『ふん! なに心にもないこと言ってんのよ!』

 

 いーや、本心だぞ?

 特に心配なのは報告したときのあなたの命だったりするんだが・・・。

 黙っておこう。

 世の中には知らぬが仏っていう便利な諺もあることだしな。

 

「あ、そーいえば提督。

 今回のこと、連合軍はどんな理由をでっちあげたんです?

 被害が少なかった以上、被害額の肩代わりとかはさすがに言ってこないと思ってたんですけど・・・」

 

『おおよそは予想通りよ。

 アンタに言われてアタシが事前に流しておいた戦闘記録。

 それに興味を持った軍上層部がナデシコの反逆の疑いを見ないことにする代わりにアンタを徴用。

 理由にすらなってない、もはや脅迫よこれは。

 取って付けたようにアンタが艦隊旗艦を撃沈したことを言ってきたけど・・・

 人的被害が皆無だった上に戦線離脱まで影護枝織にお守りされてたんだから

 面子に拘る軍人は強く主張できないみたいね』

 

 なるほどな・・・結局は力押しか。

 どうやらクリムゾンはかなり深々と軍内部に食い込んでいるらしい。

 

『そうそう、影護枝織はもうシャトルに乗り込んでるから』

 

「・・・・・・・・・・・・そうですか」

 

『あら、意外だった?

 てっきりはじめから連れてくつもりだと思ってたけど・・・』

 

「いえ、別に意外とかじゃありません。

 ただ・・・・・・」

 

 また一つ、あなたの危険レベルが上がったな、と。

 

『・・・・・・?

 まあいいわ。

 それじゃあテンカワ。せいぜい生きて帰ってきなさいよ。

 アタシはこの艦でぬくぬくとアンタの武運でも祈っててやるわ』

 

「はは・・・ありがとうございます。

 では提督も・・・・・・・・・気をつけて」

 

『・・・・・・なによ? さっきからわけわかんないやつね?

 気をつけるのはアンタの方でしょうに・・・』

 

 知らぬが仏、知らぬが仏、知らぬが仏・・・・・・!

 

 ・・・・・・無知は罪?

 

 

「いえ、それでは提督。

 後のことはよろしくお願いします」

 

 画面に向けて、俺は慣れない敬礼をする。

 

『ふん・・・酷い敬礼ね。

 帰ってきたらアタシがきっちりとした敬礼を教えてあげるわ』

 

 苦笑しながら、答礼で返すムネタケ。

 

 俺は片手に荷物を抱え、住み慣れたナデシコの自室を後にした。

 

 

 

 

 

 

「アンタ達、テンカワはたった今軍に徴用され、最前線送りになったわ!!

 ・・・ってなによ? つまんないわね?

 もっとぎゃーっ、とかいうリアクションはないわけ?」

 

「ムネタケ提督・・・詳しいことはナカザト君から聞きました。

 ナデシコ反逆の疑いを晴らすため・・・

 アキトは私たちのために戦いの場へと赴くんですよね・・・」(ユリカ)

 

「む・・・ナカザト、アンタこのアタシの唯一の楽しみを・・・(怒)」

 

「そんなことはどうでもいいんです、提督!!」(メグミ)

 

「そうです! それにアキトさんはこのナデシコに帰ってくるって約束していきました!

 だったらあの人は帰ってきます! しかし!!」(ルリ)

 

「問題はあなたがアキト君だけでなく、独断で枝織ちゃんも同行させたことにあるのよ!!」(エリナ)

 

 

「提督・・・覚悟はいいですね?」 ×

 

 

「な、何よ何よ! 何なのアンタ達!

 アタシは提督なのよ!! 一番偉いのよ!!

 ひっ!! ままままま待ちなさい!! 

 話し合い・・・そう話し合いよ!! 文化人として穏便な話し合いによる解決を・・・!!」

 

「ま、待ってくれみんな!!

 提督にも考えがあってのことなんだ!!

 ここはどうか!! どうか一つ俺の顔に免じて許してやって欲しい!!」

 

「ナカザト・・・・・・アンタ(感涙)」

 

「提督・・・死ぬときは一緒です!」

 

「ナカザト君・・・邪魔するんだね?」(ユリカ)

 

「くすくす・・・すぐに死ねると思うなんて・・・かわいいですね」(メグミ)

 

「ふふふ・・・まずは木ののこぎりです。

 鈍い刃でゆっくりゆっくり皮膚を削り・・・」(ルリ)

 

「溢れる血を塗りこみながら優しく爪を一枚ずつ剥がしていくのよ・・・」(エリナ)

 

 

「簡単には殺さないわ・・・

 いいえ、永遠に生かしつづけてあげましょう」 ×

 

 

 ガタガタガタガタガタガタ・・・

 

 

「やややややっぱり待った!!

 やるなら提督一人にしてくれ!!」

 

「なっ!! ア、アンタ上司を裏切る気っ!!?」

 

「上司より命が大事だ!! ええい放せ!!

 さあミスマル! 煮るなり焼くなり好きにしろ!!

 個人的には土瓶蒸しなんかがよさげだぞっ!!」

 

「きーーーっ!!

 アタシのために肉の壁となるのがアンタの務めでしょうがぁっ!!」

 

 

「うふふ・・・安心していいよ」(ユリカ)

 

「ええ、お二人とも・・・」(ルリ)

 

「一緒に仲良く・・・」(メグミ)

 

「逝って来なさい」(エリナ)

 

「「あわわわわわわわわわ・・・」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゾクッ!!

 

 

「・・・どうしたの、アー君?」

 

「ううん、まったく何でもない!」

 

 突如背中に走った悪寒。

 俺はそれを一瞬で黙殺した。

 

 

 旅立つ者は振り返らない。

 

 飛び立つ鳥も前しか見詰めない。

 

 何故なら振り返ることは何時でもできるから。

 

 過去を鑑みることは誰にでもできるから。

 

 ならば旅立ちは前だけを見詰めよう。

 

 はじまりは未来だけを信じよう。

 

 

 例え背後に・・・・・・幾多の屍の山が築かれようとも。

 

 

 

「「ぎゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」」

 

 

 振り向いちゃ駄目だ!

 

 

 振り向いちゃ駄目だ!

 

 

 振り向いちゃ駄目だ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヨーロッパか〜〜〜!

 どういうところなんだろうね!」

 

「そうだな・・・暇が出来たらちょっとショッピングにでも行こうか?」

 

 

 旅立ちの日は、どこまでも俺たち二人を祝福してくれていた。

 

 

 

 


 

 あとがき

 

 ふっふっふ・・・すみません、色々と暴走してしまいました。

 本当は前編・後編ともにこんな話になる予定では無かったんですが・・・。

 立てたプロットは滅茶苦茶シリアスで、死人すら出ていました。

 多くの人の死に悲しむアキトと何も気にしない枝織。

 そしてアキトはふと思う。俺は本当に悲しんでいたのか、と。

 答えが出ないままオモイカネの自意識部分に向かうアキト。

 しかし彼はオモイカネに告げるべき言葉を何一つもっていなかった。

 そしてアキトの悩みを嘲笑うかのように出てくる一機の機動兵器。

 その真紅の輝きに、アキトは、枝織は、オモイカネは。

 ・・・もはや影も形もありません。

 

 さて、作中で劇場版アキト(オモイカネ) VS 今のアキトがあります。

 本来ならば互角どころか瞬殺してしまいそうな感じですが、

 オモイカネがブラックサレナを使用していたこと、DFSを持っていたこと、

 戦神アキトの戦闘データを持っていて自分の中で融合させたことでかなりいいとこまで行ったんです。

 と言うか勢いのまま書いたので、勢いのまま読んでください。細かいことは気にせずに。

 

 しかし・・・『萌え』と『燃え』の両方に手を出してしまった緑麗。

 中途半端は嫌なのでどちらも精一杯頑張るつもりです。

 だけどけして交わることの無いこの二つの道。

 同時に歩もうとする緑麗の行き着く先は果たして・・・

 

 

 

 ・・・ダークか、もしかして?

 

 

 

 

代理人の感想

 

・・・・・壊れとかというのもありかと(核爆)。

しかし、小説で良かった(謎爆)。