紅の戦神

 

 

第一話 後編

 

 

 

 ブオォォォォンッ!!

 

 

 2人乗りで自転車を走らせる俺たちの横を、一台の乗用車が通り過ぎる。

 そして歴史通り・・・その車の荷台から、1個のスーツケースが、真っ直ぐこちらに襲い掛かってきた。

 

「・・・この出来事にはもしかしてなにか重要な意味でもあるのか?」

 

 これで3回目だ。

 いくら過去をなぞっているとは言え、変わりやすい時間の流れでこれだけは何故か変わらない。

 

 ガラン、ガラン!

 

 凄いスピードで転げ落ちてくるスーツケースを、どうするべきか一瞬迷う。

 前回はどうしたんだっけな?

 当たったのか、受け止めたのか、それとも叩き落したのか・・・。

 よく覚えていない。

 まあ今回は後ろの枝織ちゃんも乗っていることだしな。

 

「枝織ちゃん!」

 

「はーーい!」

 

 俺は自転車をドリフトさせて急停止し、後ろの枝織ちゃんが迫ってくるスーツケースを易々とキャッチした。

 

 

 キキキッ!

 

 バタンッ!

 

 タッタッタッタッ・・・

 

 急ブレーキをかけて停車した車から、1人の長髪の女性が降りて俺達の方に駆け寄ってきた。

 ・・・いや、続いて気の弱そうな男性も一緒に降りてくる。

 前にはなかったことだ。

 

 ―――はっ! まさか枝織ちゃんが目当てかっ!?

 

 ジュン! お前にはチハヤとユキナちゃんがいるだろうがっ!?

 

「済みません! 済みません! ・・・怪我とか、ありませんでしたか?」

 

「す、済みません・・・」

 

 俺の考えなど伝わるはずもなく、俺にとってはほんの少しの敵意を向けられただけで、萎縮してしまうジュン。

 ・・・ユリカに効かないのは先刻承知だ。

 

「ああ、大丈夫だ。・・・ところでこれ、君のかな?」

 

 枝織ちゃんから受け取ったスーツケースをユリカに差し出す。

 それを受け取ったユリカは、今度は俺の顔をジーッと見つめ始めた。

 

「ぶ〜っ! アー君顔近づけすぎ〜っ!」

 

「え!? ・・・あ! すみません!

 ・・・・・・あの、不躾な質問で申し訳ありませんが・・・何処かでお会いしたことありませんか?」

 

 俺の肩にしがみついている枝織ちゃんの抗議に反射的に謝ったあとの歴史通りの質問。

 だが俺にはユリカに応えることが出来なかった。

 

 確かに俺の帰りを待ってくれている彼女のことを考えると・・・と言う理由もある。

 だがそれより何より、後ろの枝織ちゃんの手が徐々に俺の肩に食い込んでいってるんだ。

 どうもさっきの行為が枝織ちゃんの独占欲に火をつけてしまったらしい。

 それは非常に嬉しい反面・・・・・・ちょっと怖かったりもする。

 

「き、気のせいですよ・・・(苦笑)」

 

 いいかげん肩が痛くなってきたので、枝織ちゃんの手に俺の手を重ねながら、ユリカに苦笑を返す。

 ジュンは俺の気に当てられたのか、既に車のところまで退避していた。

 

「・・・そうですか?」

 

「ユ、ユリカ! 急がないと遅刻するよっ!!」

 

 そういえば昔から気苦労の絶えない奴だったな・・・。

 少し悪いことをしたか。

 

「は〜〜い!

 では! ご協力に感謝します!」

 

 ユリカ達の車が遠ざかっていた後、枝織ちゃんが不思議そうに俺に話し掛けてきた。

 

「ねえねえアー君。みんなには話さないの?」

 

「ああ。できるだけイレギュラーは避けたいからね。

 ルリちゃん達にも話さないつもりだ」

 

 睦言が終わった後、前回の俺たちの事情はほとんどすべて話してある。

 

 予測できない事態を招き、悲劇を生み出すことはできるだけ避けたいところだ。

 枝織ちゃんのことは適当に誤魔化して、後は歴史通りに進めていこうと思っている。

 ・・・当然、出来うる限り多くの人たちを救うつもりだが。

 

 ・・・それに、俺たちはいつかこの世界を去らなければいけないからな。

 

 俺と枝織ちゃんはこれからの未来に思いを馳せ、自転車を漕ぐ足に力をこめた。

 

 ・・・走ったほうが速いんだけどね。枝織ちゃんがどうしてもって聞かないのさ(苦笑)。

 

 

 

 

 

 

 

 ―――ネルガル重工 地下ドック入り口

 

「―――とまあ、そういう訳で、自転車で基地に突っ込んできたバカップルを拘束したわけです」

 

 ボロボロの警備員がちょび髭の男に報告をしている。

 ふ・・・すこし悪乗りしてしまった。

 

 自転車から降りたがらない枝織ちゃんの意見を聞き、そのまま自転車でここまで来たのだ。

 途中、門のところで昂気を使い、体重を消して飛び越えたり、

 2人乗りのままで、向かってくる警備員達を華麗にかわしたりと言う離れ技をやってのけたが、

 このままでは何も進展がないことに気付き、わざわざ捕えられてやることにした。

 

「はてさて・・・、

 あなた方はユリカさんとどのようなお知り合いで?」

 

 相手は交渉のプロだ。

 まあ俺の場合は遺伝子データを調べたらネルガルの興味を引くだろうから大丈夫だろう。

 問題は枝織ちゃんだ。

 彼女は当然遺伝子バンクに登録されていない。

 さて、どうするべきか・・・。

 

「じつは、ユリカとは幼馴染なんです・・・。

 俺は、あいつに聞きたい事があって、ここまで追いかけてきました」

 

「ふむ・・・ちょっと失礼。

 あなったのお名前さがしましょ♪ ・・・っと。

 ・・・ほら出た・・・おや?

 全滅したユートピアコロニーからどうやってこの地球へ!?」

 

 俺の遺伝子データを見て驚愕するプロスさん。

 今回も当然腕でやってもらった。舌は料理人の命だからな。

 

「記憶にないんです・・・。

 気が付いたら地球にいました・・・」

 

 頭から俺の言葉を信じたわけではないだろうが、俺の料理道具を見たプロスさんはある提案をする。

 

「あいにくとユリカさんは我が社の重要人物でありまして・・・

 おいそれと部外者の方をお通しするわけには参りません。

 ただ、ネルガルの社員としてならば不都合はかなり軽減されます。

 実は現在あるプロジェクトでコックさんが不足していましてね。

 どうでしょうかテンカワさん。

 よろしければこの際ネルガルに就職なされては?」

 

 やれやれ、ここまでは歴史通りか。

 多分この時点でネルガルは俺とボソンジャンプの関係について何かしらの思惑を持っていたんだろうな。

 だとしたら俺が乗ってしまえば済し崩し的に枝織ちゃんも乗ることになるだろう。

 

「こちらこそ願ってもないことです。

 じつは仕事を首になったばかりで、この先どうしようか悩んでいたところなんですよ」

 

「それは結構です。

 ところで、こちらの方は・・・?」

 

 今度は枝織ちゃんのほうに向き直るプロスさん。

 手には例の遺伝子調査機を持っている。

 調べられたら多少まずいことになるかも知れないな・・・。

 

「プロスさん、彼女は・・・」

 

「私はアー君のお嫁さんだよっ!」

 

 俺の言葉を遮って、堂々と枝織ちゃんが宣言する。

 その無邪気な様子にプロスさんも目を丸くした。

 

「ええ、彼女の名は影護枝織。

 俺とは・・・その、そういう関係です・・・」

 

「それはそれは・・・羨ましい限りですなぁ。

 わかりました。それでは枝織さんもウェイトレスとして雇いましょう。

 おお! そうでした。新婚さんでしたら多少契約の変更が必要ですな。

 ・・・・・・はい、ちょいちょい・・・っと。

 因みにお2人とも、お給料はこのくらいでよろしいですかな?」

 

 契約書の手直しをしながら電子算盤で給料を示すプロスさんはさすがだ。

 俺たちの動体視力を持ってすら、彼の腕が3本にも4本にも見えたよ。

 

「ええ、結構です」

 

「うん! 別にいいよ!」

 

「はい・・・それではこちらにサインを・・・」

 

 

 こうして俺たちはナデシコへの搭乗に成功した。

 

 そして・・・、再び運命の輪が回り始める

 

 

 

 

 

「こんにちは、プロスさん」

 

 過去と同じタイミングで、聞きなれた声が俺の耳に入った。

 現在俺たちはプロスさんに艦橋を案内してもらっていたところだ。

 

「おやルリさん。どうしてデッキなどに居られるのですか?」

 

 ホシノ ルリ・・・

 はじめの時間で俺とユリカが引き取った娘。

 二度目の時間では俺の最も近しいパートナーだった少女。

 

 

 そしてなにより某同盟の創始者である。

 

 

「こちらは何方ですか・・・?」

 

 プロスさんの質問にはあえて答えず、視線を俺のほうに向けるルリちゃん。

 行き過ぎて枝織ちゃんを見たとき、一瞬眉を顰めたが、すぐに俺に視線を戻した。

 

「ああ、この方々は先ほどこのナデシコに就職された・・・」

 

 そして、プロスさんの返答も待たず、ルリちゃんは懐かしむように言葉を続けた。

 

「こんにちわ・・・アキトさん」

 そう言ったルリちゃんの微笑みは、確かにはじめの時間では見られなかったものだ。

 

「おや? ルリさん、アキトさんとお知りあいですか?」

 

「ええ。そうなんですよ」

 

 やはり・・・な。

 どうやら思った通り、俺と枝織ちゃんを除いてみんな、2回目の時間に準拠しているらしい。

 

「ルリちゃん・・・なんだね?」

 

「ええ、そうですよ。アキトさん」

 

「どうやら本当にお知り合いのようですな。

 それではルリさん。テンカワさん達にナデシコの案内をお願いできますか?」

 

「はい、わかりました。プロスさん」

 

 その、本当に嬉しそうな明るい口調に、

 

「はて? あんなに明るい方でしたかね、ルリさんは?」

 

 頭を捻りながらプロスさんは去っていった・・・。

 

「案内、しますか? アキトさん」

 

「必要ないのはわかっているんだろう?

 しかし・・・やはりルリちゃんも戻ってきていたか。

 何時頃にジャンプアウトしたんだ?」

 

「一週間前です。

 気が付いたらナデシコAのオペレーター席に座っていました」

 

 その返答にふと疑問を抱く。

 ジャンプアウトの時間に個人差があるのはどういうことだ?

 それは、もしかしたら北斗だけが後れて来る事もあり得るということだ。

 

「もう一度乗るんだろう? ナデシコに」

 

「もちろんです。私の大切な思い出の場所・・・。

 そしてユリカさんや・・・アキトさんに出会った場所・・・。

 それに、アキトさんも必ず来ると信じていましたから・・・」

 

 ルリちゃんにとってだけでなく、ナデシコは俺にとっても大切な場所だからな。

 今度もしっかり護らなくちゃいけないんだ!

 

「ところでアキトさん、こちらの方は何方ですか?」

 

 改めて枝織ちゃんに顔を向けるルリちゃん。

 その瞳はかなり彼女を警戒しているように感じられる。

 

「彼女は枝織ちゃんって言うんだ。

 じつは・・・俺はかなり前にジャンプアウトしていてね。

 でもそのままじゃ、ただの浮浪者でしかない。

 そんな時彼女に助けてもらったんだ。それからも色々と世話になったよ」

 

 嘘八百。

 うぅ・・・俺にはこの程度の嘘しかつけないんだ。

 もとがかなり馬鹿正直だからな。

 

「はあ・・・その枝織さんが何故ナデシコに・・・?」

 

 ぐっ・・・もっともな質問だ。

 

「そ、それは・・・」

 

「だって私はアー君のお嫁さんだもん!」

 

 また枝織ちゃんが・・・って、今回はヤバイ!

 案の定、ルリちゃんの目がみるみるとつり上がって行く。

 

「・・・・・・アキトさん?(怒)」

 

「ルリちゃん・・・戦闘が始まる」

 

 俺はコミュニケの時間を見て、無人兵器の強襲を思い出した。

 

 ・・・けっして誤魔化そうとかしたわけじゃない。

 

「そんなことはどうでもいいんですっ! どういうことですか!?」

 

 ルリちゃんの怒った声。

 ああ悲しいかな、どうやら本能レベルで逆らえないようになってしまっているらしい。

 

 焦りまくっていた俺は、傍から枝織ちゃんの姿が見えなくなっていたことにまるで気付かなかった。

 

 

 その時だ。

 

 

 ビィ――ッ!! ビィ――ッ!! ビィ――ッ!!

 

 

「―――!! しまった! ルリちゃん、急いでブリッジに向かうんだ!!」

 

 突如鳴り響いた警報に、俺たちは状況を思い出した。

 く・・・まさかこんなことで出遅れることになろうとは・・・。

 

「は、はいっ!

 ・・・アキトさん。今更アキトさんがバッタやジョロ如きにやられるとは思いませんが・・・。

 気をつけてくださいね!」

 

 ルリちゃんの激励を背に、俺は先ほど倒れたガイのエステバリスに・・・って、ないぃっ!?

 

 

 予想外の事態に一瞬硬直してしまった俺だが、気を取り直して近くの整備員を問い詰める。

 

「いま赤い髪の女の子が勝手に乗り込んで出撃しちゃったんだよ!

 悪いけど忙しいんだ! そこどいてくれ!」

 

 なんと言うことだ。ちょっと目を離したすきに枝織ちゃんが出撃してしまったらしい。

 ほかに使えるエステはないかと辺りを見回すが、現在大急ぎでメカニックたちが組み立てているところだった。

 素人の女の子(と思われている)が戦場に出てしまったことに慌てているらしい。

 だが、見た感じどんなに急いでもあと20分はかかりそうだ。

 

 ・・・それだけあったら殲滅しちゃうだろうな・・・。

 しかたない、俺もブリッジに向かうか。

 

 

 

 

 

 

「反撃よ! ナデシコの対空砲火を真上に向けて、敵を下から焼き払うのよ!」

 

 俺がブリッジに入ったとき、そこではムネタケが大声を張り上げていた。

 

「上にいる軍人さんとか、吹っ飛ばすワケ?」

 

「ど、どうせ全滅してるわ・・・!」

 

「それって・・・非人道的って言いません?」

 

 ミナトさんにメグミちゃん。

 フクベ提督にゴートさん。

 あの時と何も変わらない彼らに苦笑を禁じえない。

 

「艦長は何か意見があるかね?」

 

「・・・海底ゲートを抜けていったん海中へ!

 そのあと浮上して、敵を背後より・・・、

 ・・・殲滅します!!」

 

 凛としたユリカの声。

 俺はプロスさんに声をかけて静かにそこへ入っていく。

 みんなは作戦会議に夢中で俺に気付いていないようだ。

 

「そこで俺の出番さぁっ!!

 俺様のロボットが地上に出て囮となって敵をひきつける!

 その隙にナデシコは発進!

 かぁ〜っ! 燃えるシチュエーションだぁ〜!!」

 

「おたく・・・骨折中だろ?」

 

「しまったぁ〜!!」

 

 はは・・・あっちも変わらないな・・・。

 

「囮なら出ています! いま、エレベーターにエステが1機・・・、

 ・・・って、アキトさん何故ここにっ!?」

 

 ようやく俺に気付いたルリちゃんが驚愕に目を見開く。

 それに対して俺は軽くてを振って応えたが、ブリッジの視線は全て俺に向いているようだ。

 

「あ! あなたはさっきの・・・!」

 

 俺を指差すユリカの声を遮るように、プロスさんが前に出て、俺の紹介をする。

 ・・・一応戦闘中なんだけどな。

 

「彼は先ほどコックとして雇ったテンカワアキトさんです。

 彼は火星出身でね。

 ナデシコ食堂唯一の男手となるわけでして、皆さんも食べに行って上げて下さい」

 

「きーーっ! 今はコックなんてどーでもいいのよっ!!」

 

 あっという間に我慢の限界に達したムネタケが金切り声を上げる。

 しかし今回ばかりは奴の言う通りだ。

 自己紹介はあとでいくらでもできるからな。

 

「―――テンカワ・・・?」

 

 ユリカのその呟きを、俺は的確に捉えていた。

 ・・・まずいな。このままだと指揮系統がめちゃくちゃになってしまう。

 

 が、俺の心配などものともせず、ユリカは自らの頭の中で記憶の糸を結びつけるのに成功した。

 

「―――アキトっ!!

 アキト! アキト! アキトなんでしょう!?」

 

「そうだよユリカ。久しぶりだな・・・」

 

「本当にアキトなんだね!? なつかしー!!

 ―――でもなんでさっきは知らんぷりしてたの!?

 ・・・そっか、相変わらず照れ屋さんだねっ!!」

 

「ちょ・・・誰なの、ユリカ?」

 

「私の王子様!

 ユリカがピンチになったとき、いつも助けにきてくれるの!!」

 

 その言葉に愕然とするジュン。

 まあ安心しろ。

 今回はチハヤを死なせたりはしないからな。

 

「艦長! まずはエステのパイロットに連絡をしたらどうかね!?」

 

「あ、はい提督! ごめんねアキト、あとでゆっくりお話しようね!!

 ルリちゃん! エステに通信繋いでくれる!?」

 

「り、了解・・・」

 

 ピッ!!

 

 ルリちゃんが手元の端末を操作すると、メインスクリーンに枝織ちゃんの姿が現れる。

 ガイのゲキガンガーはしっかりと胸のところに納まっていた。

 

 ・・・あとで回収しておかなくては。

 

「誰だ、君は!」

 

『―――ほえっ・・・!?』

 

 突然現れた提督の顔にちょっとビックリしたようだ。

 目が丸くなっている。

 

「あ〜〜っ!! あいつ、俺のゲキガンガーをっ!!」

 

「名前と所属を言いたまえっ!!」

 

『え〜・・・? う〜んと、名前は影護枝織。ウェイトレスだよ!』

 

「何でウェイトレスが俺のエステに乗ってるんだ!?」

 

 お前が勝手に怪我したからだろう?

 

「もしもし、危ないですから降りた方がいいですよ?」

 

 どちらかと言うとバッタ達に言ってあげた方がいいね、メグミちゃん。

 

「君、操縦経験はあるのかね?」

 

 ・・・うわ、怖いもの知らずだな、ゴートさん。

 

「困りましたなぁ・・・ウェイトレスに危険手当は出せないんですが・・・」

 

 そんなのが必要になることはありませんよ、プロスさん。

 

 そしてユリカは・・・、

 

「さっきの人ですね? 申し訳ありませんが時間がありません。

 私たちも出来うる限り早く出撃します。

 それまで10分・・・いえ、7分だけでも持ちこたえてください!!」

 

「そんなっ!? アンタたち正気なの!?

 ウェイトレスに囮が務まるわけないじゃないっ!!」

 

 ・・・なぜかムネタケの言ってることが一番まともに聞こえるのは気のせいだろうか?

 

「いえ、出撃まで残り5分でいけます!

 出撃後、海に向かって一直線に進むだけでも充分です!!

 IFSさえあれば素人でも・・・そんなっ!?」

 

 能力をフルに使って発進準備をすすめていたルリちゃんが驚愕の声を上げる。

 それにトドメを刺すかのように、通信から枝織ちゃんの声が漏れる。

 

 

『・・・あいえふえす・・・って、何・・・?』

 

「パイロット、IFSを所持していませんっ!!」

 

 

 

 

 

 

『なんだって〜〜〜!!!』(全員)

 

 

 

 

 

 

 

「終わりよ〜〜〜っ!!

 アタシはまだ死にたくないのよっ!!」

 

「ルリちゃん! 急いで!」

 

「やってますっ!!」

 

 とたんにブリッジが騒がしくなる。

 まあ、無理もないが。

 IFSがあるからこそ素人でも動かせるのであって、マニュアル操作となるとかなり専門的な知識が必要になってくる。

 この場の人間で、枝織ちゃんにそんな期待をしているものはいないだろう。

 

 

 ところで、俺は困っていた。

 枝織ちゃんにはいざと言うとき以外では力を隠すように言うつもりだったのだ。

 力を示すと言うことは、それだけ自由がなくなると言う事でもある。

 それは前回のことで身に染みてわかっている。

 

 なんとか手加減してもらおうと、枝織ちゃんに視線で伝えようとするが・・・、

 

『アー君、そんなに見つめられると・・・うん、私、頑張るね!!』

 

 ・・・って、逆効果かい!!

 

 

「エステバリス、地上に出ます!!」

 

 ルリちゃんの声と共に、枝織ちゃんの駆るエステはバッタ達の前に踊り出た・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 ブリッジはシン・・・と静まり返っている。

 

 無理もない。今の枝織ちゃんはまさに手加減なしだ。

 彼女の専門はあくまで暗殺であり、通常戦闘では俺や北斗に一歩及ばない。

 また、リミッターのかけられている通常のエステでは、彼女の能力を十分に使うことも出来ない。

 それでも、常人の目にはまさに鬼神の如き強さとして映ってしまうのだ。

 

「すごい・・・・・・キレイ・・・」

 

「な・・・なんであんな動きができるんだよ・・・!」

 

「ただでさえ素晴らしい機動だというのに・・・これがマニュアル操作とはっ!!」

 

「これは・・・思わぬ逸材ですな・・・」

 

「い・・・異常よ!! なんなのよあの小娘はっ!?」

 

 枝織ちゃんの動きに見惚れるもの。

 驚愕するもの。

 畏怖を抱くもの。

 

 そんなブリッジを俺は苦々しい思いをしながら後にした。

 もうすぐ帰艦するであろう枝織ちゃんを気持ちよく迎えるためだ。

 

 

「・・・彼女は何者なんですか? アキトさん・・・」

 

 問い掛けるでもなく、ぼそりと呟いたルリちゃんの声が、いやに耳に残っていた・・・。

 

 

 

 

 

 

 あとがき

 無計画に連載を増やし、

 無計画に物語を進め、

 無計画に長くなってしまった第一話をお届けします。

 執筆時間8時間くらいです。

 ああ! 休みだからって何をやっているんだ受験生っ!?

 

 とりあえず解説です。

 この作品はアキト×北斗ではなく、あくまでアキト×枝織です。

 ここをこういう風にしたいな〜、と言う大体のプロットしか立ててません。

 だけどたぶん北斗の登場はかなり遅いでしょう。

 ちなみに緑麗は北斗ちゃん派です。

 

 今回アキトと枝織は一線を越えました(笑)。

 始めはそんな予定じゃなかったのに、たぶん作者の願望がかなり影響しています。

 ていうかアキト、いきなり野外と言うのは・・・(爆)。

 

 それではこっちも『交錯する〜』と同様、これからよろしくお願いします。