紅の戦神

 

 

第三話

 

 

 

 ―――地球連合宇宙軍第3艦隊旗艦『トビウメ』

 

「ナデシコ針路捕捉! 目的地は不明!」

 

「レーダーに察知されぬよう注意」

 

 今回の命令は、納得のいくものではない。

 だがナデシコの拿捕云々は兎も角として、確かに私も単艦で火星に向かうなどと言うことには反対だ。

 

 たとえナデシコがどんなに優れた艦であったとしても、やつらは既に同じ技術を持っている。

 我々は同じ舞台に立つことが出来たに過ぎないのだからな。

 

 だがもし軍がナデシコを手に入れ、その技術を量産することが可能になればそれは地球人類の大きな助けとなる。

 ならばユリカが危険を冒してまで火星などに行くことも無いだろう。

 

「前方にチューリップ! ただし活動を停止しています」

 

「そのまま前進。

 トビウメ浮上後は護衛艦深度を上げて待機」

 

 久しぶりだな、ユリカ・・・。

 今ごろどうしているのやら・・・(赤面)。

 

 

 

 

 

 

 ―――機動戦艦ナデシコ 生活ブロック

 

「ふぅ〜〜・・・なんとかなったな〜」

 

 シャワーを浴び終えて溜め息をつく。

 まあ色々とイレギュラーはあったけど。

 まさかいきなり枝織ちゃんが出撃することになるとは思っても見なかったしな。

 

「さて・・・ムネタケが反乱をおこすまでにはまだ時間があるから、当面の問題は・・・」

 

 枝織ちゃんの服・・・これはミナトさんに頼もう。

 服だけならいいけど下着などはしっかり体に合ったものをつけなきゃいけない。

 俺は流石にそんなことまでは詳しくないからな。

 

   コンコン・・・・・・

 

 ホウメイさんにも挨拶にいかなきゃないけないだろう。これから枝織ちゃんともどもお世話になるんだし。

 もう俺は何年も料理を続けてるってのにいまだにあの人に追いつけないよ。

 

 ・・・そういえば今の俺の精神って何歳だろ?

 

   スーーーーーー・・・

 

「・・・さっきから何の音だ?」

 

 タオルを腰に巻きつけつつ、バスタオルで頭を拭いていた俺の背後から、奇妙な音が聞こえる。

 ベッドの向こうからのようだ。

 ・・・気になるな。近づいてみよう・・・。

 ・・・・・・と、

 

 

 ズバッ!!      ガァンッ!!!

 

 

「な!? なななななななな・・・!」

 

 突如、壁に円形の赤い線が引かれたかと思うと、大音響と共に向こう側からその部分が吹き飛ばされた!

 

 俺は思わずその場に尻餅をついてしまう。

 そして現れたのはやはり・・・、

 

「あ! アー君、湯上がりサッパリだね♪」

 

「枝織ちゃん!?」

 

「うん♪ ・・・ごめんね。やっぱりアー君と一緒がよかったの」

 

 昂気を指先に集中して壁を切り裂いたのか・・・。その上で蹴り飛ばした。

 戦艦に使われる特殊合金の壁も、枝織ちゃんの前では形無しだな。

 

「でも部屋が狭くなったらアー君困るだろうと思って・・・」

 

「・・・確かに、壁に穴をあけたら即席の二人部屋の出来上がりだな」

 

 さっき素直に身を引いたのはこのためか。

 

「・・・怒った?」

 

 潤んだ目で上目遣いに俺を見つめる枝織ちゃん・・・。

 

 ああっ! 犬耳がついてたら絶対垂れてる!

 く・・・これは計画を本格的に考慮しなくては・・・!

 

「枝織ちゃん・・・俺が怒るわけないだろう?

 それどころか嬉しいよ。これだけ枝織ちゃんが俺に会いたがってくれてるんだから・・・」

 

「うん、アー君に会いたかったんだ・・・。

 ・・・って、あ、あの、アー君? まだお昼だよ・・・?」

 

 ベッドの上の枝織ちゃんに近寄りながら、ゆっくりと押し倒していく。

 そういえば俺、裸のままだったっけ・・・。

 

 

 ま、いいか。都合がいいし。

 

 

「大丈夫、大丈夫。ナデシコにもプライバシーはあるからね。

 私室の様子はコミュニケを通して以外はオモイカネでも解らないようになってるんだ・・・」

 

 某同盟設立後は俺にプライバシーなんて無かったがな。

 

「ア、アー君・・・ひゃん!・・・」

 

 下着を着けてないので洋服の上からでも非常に感度がよくなってるらしい。

 俺は枝織ちゃんに優しくキスをしながら、着ているポロシャツに手をかける・・・が、

 

 

 プシュ!!

 

 

「アーキートー♪」

 

「「え?」」

 

 突然響いた能天気な声。

 一瞬後、空間が凍りつく。

 

 ・・・ああ、ユリカの奴マスターキーを使ったのか・・・。

 

 

「え゛・・・・・・ええええええええええっ!!!」

 

 

 

 

 

 【しばらくお待ちください】

 

 

 

 

 

「ねえアー君・・・どーするの、コレ?(怒)」

 

「い、いや、ほら枝織ちゃん・・・ユリカにも悪気があったわけじゃ・・・」

 

 ユリカは目に入った光景があまりにショッキングだったのか、叫ぶだけ叫んだ後そのまま卒倒。

 どうやら脳が現実を拒絶してしまったらしい。

 

 とりあえず放っておくわけにもいかないだろう。

 俺は続きをあきらめ、服を着た後ユリカを背負って歩き出した。

 

「そこらに置いておくわけにも行かないからね。

 ユリカは途中の休憩所にでも寝かせて、まず枝織ちゃんの服を買おう」

 

「お洋服?」

 

「そ・・・ちょっと待ってて・・・」

 

 

 ピッ!!

 

 

「あ、ミナトさん? すみませんがちょっといいですか?」

 

『あらアキト君、艦長なんか背負っちゃってどーしたの?』

 

 ブリッジのミナトさんに連絡を入れる。

 ユリカのことは適当にごまかし、枝織ちゃんのことを話した。

 

『別にいいわよ。どうせ今のところ暇みたいだし・・・それじゃ今からそっちに行くわね』

 

 

 俺の頼みを快く承諾してくれたミナトさんはすぐに俺たちの待つ休憩所まで来てくれた。

 俺は枝織ちゃんを改めて紹介し、持っていたカードを渡す。

 カードには雪谷食堂で働いていた給料が入っているようだったので問題はない。

 ナデシコに乗ってる限りそうそう金を使うことも無いし。

 

「普段着を数着と、室内着も数着。後は寝間着に・・・下着もなの?

 けっこうな量になるわね〜」

 

「ええ、ほとんど何も持たずに乗艦してしまいましたからね。

 あ、そっちのカードは全部使ってくれて構いませんから」

 

 飛び入りで乗艦した俺たちだったが、既に契約金としていくらか振り込まれているようだった。

 まあ、どうせすぐにネルガルの筆頭株主になるんだし、金の心配は要らないだろう。

 頑張ってくれよ、ラピス、ハーリー君。

 

「OK、わかったわ。

 それじゃ枝織ちゃん。行きましょうか?」

 

「・・・む〜〜、アー君は来ないの?」

 

「はは、枝織ちゃんごめんね。ユリカを放っとけないしさ。

 食堂の方にも顔を出さなきゃいけないし・・・。

 帰ってきたら見せてよ。楽しみにしてるから」

 

 頬を膨らませて俺の服の袖を掴む枝織ちゃん。

 思わず背中のユリカを放り出して抱きしめたい衝動に駆られるが、何とか自制。

 ミナトさんの目もあるしね。彼女を敵に回したら俺に明日は無い。俺の経験がそう告げている。

 

 枝織ちゃんは渋々と俺の袖を放し、ミナトさんに向き直る。

 

「よろしくね、枝織ちゃん。

 もっとキレイになってアキト君をビックリさせてあげなくちゃ」

 

「うん!」

 

 背が低めの枝織ちゃんの両肩に手を置いてそう言うミナトさん。

 ついでに色々女の子の常識も教えてあげてくれないかな。

 舞歌さんの教育はどうやらかなり偏ってたみたいだし。

 

「それじゃミナトさん、お願いします。

 あ、それから枝織ちゃん、極度の方向音痴なんで迷子にならないように注意していてください」

 

「大丈夫よ。お姉さんに任せなさいって。

 じゃ、アキト君もお仕事頑張ってね」

 

「アー君、またねーー!」

 

 去っていく二人に軽く手を振る。

 さて、次はユリカだな。

 

 俺は背中からユリカを降ろし、ベンチに座らせて頬をペシペシと2,3回はたいた。

 

「おいユリカ起きろ」

 

「ん〜〜・・・あ! ダメだよアキト、そんな・・・で、でもアキトなら・・・!」

 

 でへへ・・・とだらしなく笑うユリカ。

 

 ・・・おまえな、一応お嬢様だろうが。

 この当時のジュンが見たらどんなに嘆くか・・・いや、逆に悦ぶか?

 

 にしてもこいつの寝起きの悪さは相変わらずだな。

 ・・・ふぅ、しかたない。

 

「(ボソッ)あ、カグヤちゃん」

 

「ダメーーーっ!!」

 

 ガバッ! っと勢いよく上半身を起こす。

 条件反射とは素晴らしいな。

 

「ダメダメ! アキトは私の王子様なんだからカグヤちゃんは・・・って、ここどこ?」

 

「ようやくお目覚めだな、ユリカ」

 

「―――アキト!? あ、そっか! ユリカが起きるまで待っててくれたのね!

 さっすが私の王子様!!

 ・・・・・・ん? そう言えばなんかすごいものを見ちゃったような・・・」

 

 どうやらショックのあまり記憶が曖昧になってるらしい。

 それなら・・・、

 

「何言ってんだよユリカ。

 俺が来たとき、お前ここで眠ってたんだぞ?」

 

「そうなの? う〜ん疲れてるのかな〜?

 だからってアキトが裸で枝織ちゃんに襲い掛かってる夢見ちゃうなんて・・・。

 ううん、そんなことあるわけない! だってアキトは私が好きなんだもん!

 そうだよね!? アキト!

 でも本当に久しぶりだよねー。あ! それにまだ私のことユリカって呼んでくれるんだ。

 そう言えば火星にいたときいつもアキトってば私のことユリカ、ユリカって追いかけて・・・」

 

 ピッ!!

 

「ああ、副長? ユリ・・・艦長がここでサボってるから迎えに来てやってくれ・・・ああ頼む」

 

 この状態になると長いんだよなーこいつ。

 悪いけど最後まで付き合ってる時間は無い。また今度な。

 

 いまだひとりでマシンガンの如く喋りつづけるユリカをジュンに任せて、俺は食堂に急いだ。

 

 

 

 

 

 

 食堂についてから結構経った。

 ホウメイさんやホウメイガールズも相変わらずで、やはりこの厨房が俺の居場所だと思わされる。

 

 ためしに作らされた一通りの料理に、自分の癖を見つけたホウメイさんが少し驚いていたようだが、

 それ以外は何の問題もなく今にいたった。

 そろそろ反乱が始まる時間だ。

 

「テンカワ、そう言えばもうひとり食堂に配属されるんだって?」

 

 とりあえず新入りとして、ジャガイモの皮むきをしていた俺にホウメイさんが問い掛ける。

 

「ええ、枝織ちゃんって言うんですけどね。

 着のみ着のまま(ほんとは裸)で来てしまったんで、今服を買いに行ってるとこです。

 もうすぐ来るんじゃないかと思いますが」

 

「へぇ〜、恋人かい?」

 

「はは、まあそんなとこですよ」

 

 枝織ちゃんが料理をできるのかは疑問だがそれほど心配してるわけじゃない。

 包丁などの刃物の扱いはお手の物だからこう言った下準備はできるだろうし、本業はウェイトレスだ。

 普通戦艦の食堂にそんなもの居ないかもしれないが、ここはナデシコ。

 サービス精神旺盛な接客も売りのひとつである。

 たかがウェイトレス。されどウェイトレス。

 この仕事はスピード、パワー、バランス、スタミナなどが要求されるので、枝織ちゃんにはぴったりだ。

 

 

 プシュ!!

 

 

「ほら来・・・ぶはっ!!」

 

 ミナトさんの後ろについて入ってきた枝織ちゃんの姿に思わず吹き出す。

 ジャガイモにかけなかったのは料理人として当然だろう。

 

「アー君、お待たせ♪」

 

 軽やかに食堂に駆け込む枝織ちゃんの姿。

 

 それは白のフリル付きブラウスにタイトミニのスカート、

 そして胸元を囲うようにした肩紐とウエストから下だけのエプロン。もちろんオレンジ色。

 まさに胸と太ももを強調したベストオブ制服。

 

 

 そう、アン〇ミラーズだった(爆)。

 

 

 脇に抱えている銀色の円形トレイが徹底している。

 

「し、枝織ちゃん。その格好はいったい・・・」

 

「んとね、さっきの整備員のおじさんがくれたの。

 これがウェイトレスの正しい制服だ・・・って」

 

 

 ありがとうウリバタケさん!

 

 

「ごめんねアキト君、ちょっと目を放した隙に・・・なんか枝織ちゃんも気に入っちゃったみたいだし」

 

「おやおや、気合入ってるね〜!」

 

 済まなそうなミナトさんに、おもしろそうなホウメイさん。

 

「ねえねえアー君、似合う? 似合う?」

 

 円形トレイを五指の上に載せ、くるりと一回転してみせる枝織ちゃんに言葉が見つからない。

 似合いすぎだよ枝織ちゃん。ああ、生きててよかった・・・。

 

「きゃ〜! かわい〜!」

 

「アンミラだ〜!」

 

「あ〜ん、いいないいな〜!」

 

「私たちも欲しいよね!」

 

「作っちゃおうか!」

 

 ホウメイガールズが一斉に騒ぎ始める。

 これは・・・このままいくとアン〇ミラーズナデシコ店の誕生か!?

 

「ほらほら、馬鹿言ってないで仕事に戻るよ!

 テンカワ、イモはもういいから枝織に仕事を教えてあげておくれよ。

 そろそろ開店するからね」

 

「は〜〜〜い!」 ×6

 

 

「じゃあ私はブリッジに戻ってるから。枝織ちゃん頑張ってね」

 

「うん! じゃあね、ミナトお姉さん」

 

 枝織ちゃんはミナトさんを笑顔で見送る。

 よかった・・・どうやらミナトさんとは仲良くなれたみたいだな。

 

 俺はその枝織ちゃんの姿に微笑が漏れてくるのを抑えることが出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 艦長がプロスさんにお説教を受け、私がアキトさんとの新婚生活(きゃ!)に思いを馳せている間、

 どうやらアキトさんはブリッジから退室したようでした。

 あの枝織さんという人も一緒です。

 彼女の戦闘力については先ほどアキトさん本人から説明がありましたが、まだ何か隠してるような気がしますね。

 

 アキトさんはポーカーフェイスを身に付けていると思ってるみたいですけど、

 そう思ってるのはアキトさんだけです。

 無茶苦茶顔に出るんですよね、アキトさん。

 かつてはバイザーをしてたから表情を読み取られなかったのだと言うことに何故気付かないのでしょう?

 ま、私としてはそっちの方がいいですけど。

 

 

 プシュ!!

 

 

「ただいまー」

 

 ミナトさんがブリッジインしました。

 先ほどアキトさんから連絡を受けて何やら頼まれごとがあるといっていました。

 本当ならオモイカネで監視したかったところですが、アキトさんはコミュニケごしでもこっちの気配に気付いてしまいますからね。

 下手なことをしてはすぐにばれてしまいます。

 ・・・できるだけ早く監視システムを改良しなくてはいけません。

 

 あ、そういえばそろそろキノコさんが反乱を起こす時間帯ですね。

 なにやら艦内の各所で不穏な動きがあるみたいですし、アキトさんはどうするおつもりなのでしょう?

 そうです。尋ねるついでに出前をとることにしましょうか。

 

「メグミさん、ミナトさん。そろそろお昼にしませんか? 

 なんか出前もしてくれるみたいなんで・・・」

 

「あれ? もうそんな時間だっけ? う〜ん、じゃマーボー定食にしようかな?」

 

「あ、それじゃ私親子丼にしようっと」

 

「マーボー定食に親子丼ですね?

 わかりました、じゃあ食堂に連絡を入れます」

 

 え? 私は何にするのかって?

 もちろんチキンライスに決まっています。

 久しぶりのアキトさんの手料理・・・楽しみです。

 

 

 ピッ!!

 

 

「あ、アキトさん、出前お願いできますか?」

 

『ああ、ルリちゃんか。うん、構わないよ。注文は?』

 

「ミナトさんがマーボー定食、メグミさんが親子丼。

 それに私がチキンライスです」

 

 戻ってきてからと言うもの色々不安もありましたが、こうして穏やかなアキトさんの顔を見てるとそんなものは消し飛んでしまいます。

 また、昔みたいに笑うことができるようになったんですね、アキトさん。

 

『マーボーに親子丼、チキンライスだね? わかったすぐに・・・』

 

「はーいアキトー! ユリカに火星丼お願いね!」

 

 いきなり頭上からかけられた声。

 ユリカさん、人の通信に割り込みいれないで下さい。

 だいたいその位置からアキトさんの声に反応するなんて・・・。

 相変わらずアキトさん関係では人知を越えた人ですね。

 

「・・・だそうです」

 

『はは・・・了解。すぐに持って行くよ』

 

 ピッ!!

 

 アキトさんの笑顔・・・素敵過ぎです。

 ・・・は、見惚れていてキノコさんのことを聞くのを忘れてしまいました。

 ま、いいでしょう。どうせあの人たちの行動は全てオモイカネが見張っていますから。

 

 

 

 

 プシュ!!

 

 

「ちわーー、出前・・・」

 

「・・・でーーす!」

 

「なにぃっ!!?」(ゴート&ジュン)

 

 ルリちゃんの注文を受け、ブリッジに伝統の岡持ちをもってやってきた俺たちは驚愕の声で迎えられた。

 それもそのはず。

 枝織ちゃんはあの格好のままだからな。

 

「えーと、マーボー定食に、親子丼。それからチキンライスに火星丼お待たせしましたー!」

 

「・・・したー!」

 

 気にせず料理を配る俺たち。

 ムネタケは・・・やはりいないか。

 

「か、影護枝織! その格好はいったいなんのつもりだ!?」

 

 ・・・ゴートさん、顔を紅くしながら威嚇しても様にならないぞ?

 

「あー、アンミラの制服! 私も前に1回イベントで着たんですよねー!」

 

「ふふ、僕も昔着せられたことが・・・(泣)」

 

「・・・アオイ君?(汗)」

 

 順にメグミちゃん、ジュン、ミナトさん。

 枝織ちゃんは真っ先にミナトさんのところに料理を持っていく。

 何があったのかは知らないが、ずいぶんと懐いてるな。

 

 俺はメグミちゃんとユリカに料理を渡した後、最後にルリちゃんのところへやって来た。

 

「はい、ルリちゃん。お待ちどうさま」

 

「ありがとうございます、アキトさん。

 ところでキノコさんの事なんですけど・・・」

 

 い、いきなりキノコ扱いか・・・?(汗)

 ムネタケ・・・お前を救うのは俺の独断でやらなければいけないみたいだ・・・。

 

「とりあえず、動くつもりは無いよ。

 どうせユリカのことだから一度ミスマルおじさんとちゃんと話さなくちゃ気が済まないだろうしね」

 

「・・・解りました。

 それとハーリー君には連絡を入れておきましたから」

 

 チキンライスを食べながら小声で報告をするルリちゃん。

 因みに大盛りだ。

 

「・・・そうか。さっきラピスのほうにも連絡しておいたから、後は任せられるな」

 

 それにしてももう少しハーリー君がしっかりしてくれたら俺の苦労も減るんだけどな。

 ラピスなんかは彼を虐める事でサディスティックになっていった節があるし。

 

「・・・まだ繋がっているのですか?」

 

「ん? あ、ああ、まあね」

 

 ルリちゃんは俺の返答に悔しそうな顔をする。

 が、それは一瞬のことですぐに真剣な顔になって俺に向き直った。

 

「それよりも枝織さんのことでお聞きしたいことがあるんですが・・・アキトさん、まだ何か隠してますね?」

 

 その言葉に俺は神経を総動員して表情を消す。(消えてませんよアキトさん)

 やはり付き合いが長いせいかルリちゃんに隠し事をするのは困難なようだ。

 

 だが全てを明かすわけにも行かないんだよな・・・さて、どこまで誤魔化せるか・・・。

 

「・・・彼女も俺たちと同じ、帰還者だ」

 

「―――なっ!?」

 

 いきなりど真ん中の直球勝負できた俺に、ルリちゃんが目を見開く。

 

「・・・どういうことですか?」

 

「巻き込んでしまったんだよ・・・ランダムジャンプに」

 

 嘘はついてないぞ。

 

「え、それじゃさっきの説明とかアキトさんが戻ってきてから世話になったって言うのは・・・?」

 

「さっきのは本当さ。でも初めのは嘘。

 できればルリちゃん達にも知られたくなかったんだ。

 枝織ちゃんを巻き込んでしまったのは俺の責任だからね」

 

 そうだ、これは俺ひとりの問題じゃない。

 枝織ちゃんや北斗、そして彼女達を待ってる人のために俺はこの世界に留まるわけにはいかない。

 

「・・・大丈夫なんでしょうか? 彼女はかなりのイレギュラーになると思いますが・・・?」

 

「うーん、とは言え枝織ちゃんはこれからナデシコで起こる事をほとんど知らないからな。

 俺たちみたいに先を見て行動することは出来ないし・・・。

 それに枝織ちゃんが俺たちに危害を加えないことは、俺が保証するよ」

 

「そう・・・ですか」

 

 それでも不安が抜けきらないでいるらしい。

 とりあえず納得してくれたらいいんだけど・・・。

 

 

 プシュ!!

 

 

「おや皆さんお集まりですな。感心感心」

 

 まず入ってきたのはプロスさん。

 続いて提督に、なぜかガイにウリバタケさんも一緒だ。

 何しに来たんだ、あの二人は?

 

「どうかしたんですか?」

 

「はい艦長。じつは皆さんに重大発表がありましてね」

 

「・・・ぴょう?」

 

「そうです。あ、ルリさん、全艦放送にしていただけますか?」

 

「はい、わかりました」

 

 手元のコンソールを操作しながらルリちゃんがムネタケ達の様子を俺のコミュニケに映す。

 どうやら既に配置は完了してるようだ。

 こういうところを見ると結構手際がいいし、もしかしたら優秀なのかもしれないな。

 

「それではよろしいですか?

 実はですね、いままでナデシコの目的地を明らかにしなかったのは妨害者の目を欺く必要があるためなのです。

 ネルガルがわざわざ独自に機動戦艦を建造した理由は別にあります。

 以後、ナデシコはスキャパレリ・プロジェクトの一端を担い、軍とは別行動を取ります!」

 

 一息でそこまで言って眼鏡を直すプロスさん。

 そこに提督が続ける。

 

「我々の目的地は火星だ!」

 

 フクベ提督・・・その胸中はどんなでしょうね。

 

「そんな!? では現在地球が抱えている侵略は見過ごすと言うのですか!?」

 

「多くの地球人が火星と月に殖民していたと言うのに連合軍はそれらを見捨て、地球にのみ防衛線を張りました。

 我々の目的は火星に残された人々と資源を地球へ持ち帰ることです!」

 

 

『そうはいかないわ!』

 

 

 来たか・・・。

 

 突如ムネタケの顔が宙空に現れるのと同時に、ブリッジに軍人が雪崩れ込んでくる。

 

「血迷ったかムネタケ!!」

 

「ふふん、提督。この艦をいただくわ」

 

 提督の叫びに嘲笑を返すムネタケ。う〜む助けたくなくなってきた。

 

「その人数で何ができる」

 

「わーったぞ! てめぇら木星のスパイ・・・おお?」

 

 チャッ、チャッと突きつけられた銃口にガイもさすがに大人しくなる。

 ・・・暴力に屈する正義の味方の図。

 

「勘違いしないで・・・ほら、来たわよ」

 

 ムネタケの言葉と同時にルリちゃんが海中より浮上する一隻の戦艦を確認する。

 

 

 ピッ!!

 

 

『ユリカ〜〜〜〜〜〜〜!!!』

 

 

「お父様!!!」

 

 

 キーーーーーーン・・・

 

 

 は・・・しまった油断した。

 しかもダブル。相変わらずだな超音波父娘。

 

「お父様、これはどういう事ですか?」

 

『許しておくれユリカ。これも任務だ。

 ―――パパも辛いんだよ〜・・・(涙)』

 

 ・・・コラおっさん。

 

 

 その後は以前の通り、ユリカがマスターキーを抜いてナデシコを停止させた後トビウメに移って行こうとした。

 が、ここで思わぬ事態が発生する。

 

「相転移エンジンの停止を確認。ナデシコ沈黙します」

 

『よろしい。それでは・・・』

 

「影護枝織、アンタも一緒にきてもらうわ」

 

「ほえ?」

 

 突然名前を呼ばれた枝織ちゃんは目を丸くして自分を指差す。

 

 前回俺がちゃんとした戦いを軍の前で見せたとき、すぐに西欧出向が決まった。

 それまではルリちゃん達が俺の戦闘記録を隠蔽していたし、第3防衛ラインでも実力のほんの一端を見せたに過ぎない。

 だが枝織ちゃんは軍施設であるサセボ基地で思いっきり暴れてしまった。

 当然その情報は軍上層部へと流れていくわけだ。

 

『・・・・・・あ〜ムネタケ副提督? 我々が連れて来いと言ったのはあのロボットのパイロットだ。

 ウェイトレスに用はないぞ?』

 

 まあ普通はそう思うよな。今の枝織ちゃんの姿を見たら。

 

「カモフラージュですわよミスマル提督。この小娘がこの間のパイロットであることは間違いありませんわ!」

 

「ちょっと! あんた達なに勝手なこと言ってんのよ! 枝織ちゃんは民間人なのよ!?」

 

「そうですな。枝織さんは我が社の社員待遇でして・・・徴兵に応じるわけには行きませんな〜」

 

「お? 枝織ちゃんその格好やっぱ似合ってるね〜」

 

「我々は軍人ではない。その申し出を受ける必要はないのだ」

 

「テンカワさんってお料理お上手ですね。この親子丼とっても美味しいです」

 

 ・・・もうみんな好き放題だな。

 囲まれて銃を突きつけられてここまで平然としてるのはある意味すごいと思うが。

 

「うるさいわ!! ・・・って言うかまず食べるのやめなさいよ!!」

 

「あったかいうちに食べるのは作ってくれた人に対する最低限のマナーです」

 

 そう、その通り。

 

『まあいい。それではユリカ。その少女を連れてトビウメへ来なさい。

 これについては上層部の決定だ。君たちが民間人であろうが拒否することは認められない』

 

「そんな、お父様!?」

 

 やれやれ、仕方ないか。

 

「ユリカ、ここで押し問答していても始まらない。

 とりあえず提督の言うことに従おう」

 

「アキト君!?」

 

 ミナトさんが俺の行動に信じられないと言う顔をする。

 

「え? う〜〜ん、アキトがそう言うのなら・・・」

 

「決定ね。向こうに行くメンバー以外は食堂あたりにでも放り込んでおいてちょうだい」

 

「待て。彼女達の護衛も兼ねて俺も行かせて貰う。

 ―――構いませんよね? ミスマル提督」

 

『・・・いいだろう。ただし武装はするな』

 

「わかってますよ」

 

 武器なんかなくても十分戦えますがね。

 

「アキトさん・・・」

 

「心配しなくても大丈夫さ。

 それじゃ、ちょっと行って来る。・・・ガイのことよろしく頼むよ」

 

 不安げに声をかけてきたルリちゃんに、とりあえず今一番の懸案事項を任せる。

 俺は空戦フレームに乗ってトビウメに向かった。

 

 

 

「それでは私はあちらさんと交渉をしてきますので・・・」

 

「ええ、俺はここで待ってます」

 

 トビウメにきて早々ユリカは提督に連れて行かれ、今はプロスさんが消えたところだ。

 続けて軽度に武装した軍人達が枝織ちゃんを連れて行くために現れた。

 

「枝織ちゃん、帰るときはコミュニケに連絡を入れるからね。

 そしたらすぐにここまできて欲しい。ただし・・・」

 

「軍人さんたちを殺しちゃダメなんでしょ? 大丈夫、わかってるよ」

 

「そっか。ならいいんだ」

 

 連れられていく枝織ちゃんの姿に手を振る。

 どうせこいつらには枝織ちゃんを止められないしな。

 

 ガイの方はどうなってるだろうな。

 俺の代わりに先頭切って音頭を取り、今ごろは踏み潰されてるところだろうか。

 

 

 そして数分後。

 

 ビィ――ッ! ビィ――ッ! ビィ――ッ!

 

「―――! 来たか!」

 

 鳴り響く警報音。

 海中からの振動が徐々に大きくなる。

 俺は枝織ちゃんに帰ってくるように通信を入れた。

 

 ピッ!!

 

『アキト! 私たちはナデシコに帰るからその間援護お願い!』

 

「ああ、まかせておけ」

 

『待ちなさいユリカ! どこへ行くつもりだ!』

 

「アー君ただいま♪」

 

「おかえり枝織ちゃん。それなに?」

 

「ケーキ。ミナトお姉さんにお土産」

 

 ・・・略奪したのか?

 

『枝織君!? 何故君がそこに・・・おい、担当者は何をしている!?』

 

『は、はい・・・な!? 全滅しています!!』

 

『なに〜〜〜〜っ!!?』

 

 

『チューリップ、浮上します!』

 

 通信の声と時を同じくして海面が盛り上がる。

 かつての通り2隻の護衛艦を捕えた跳躍門が姿を現したのだ。

 

 

 

 結局、俺がチューリップの触手と余裕で戯れてる間にユリカが帰艦。

 チューリップの内部からのグラビティブラストで決着はついた。

 

「思えば危ないことするよな〜」

 

「そうだよね。次元跳躍門は無差別に跳ばしちゃうから・・・殲滅が後ちょっと遅れてたらどっかに跳んじゃったかも」

 

 知らないと言うのは怖いな。

 

(・・・ラピス)

 

(なに、アキト?)

 

(ハーリー君と上手くやってるか?)

 

(うん・・・頑張ってね、アキト。私もハリと地球で頑張るから)

 

(ああ・・・あまり彼を虐めるなよ?)

 

(そうだね。少しにする)

 

 ・・・・・・・・・(汗)。

 

 何故だかラピスの成長も早い。危ない方へ成長してるような気もするが・・・。

 ・・・頑張ってくれよ、ハーリー君。色々な意味で。

 

「それじゃ・・・帰るか、ナデシコに」

 

 俺はこれからの未来に淡い期待と・・・かなりの不安を抱いて帰艦した。

 

 

 

 

 ・・・あれ、ジュンは?

 

 

 

 

 

 あとがき

 ・・・なにやらマンネリ?

 まあ逆行ものではそうなってしまうのはよくあることですが・・・。

 難しいですね。ナデシコって登場キャラがかなり多いですし。油断すると書いてて忘れてしまいます。

 今回枝織ちゃんに着て貰ったアン〇ミラーズの制服。

 あれはいいですね。

 この話を書く上で彼女にどういう格好をさせようかと調べてみたんですが、一番初めに見つけたのがあれです。

 胸がいい。そしてミニがいい。

 銀色の円形トレイは欠かせません。

 

 あといたるところで場面が飛んでいますがどうかご勘弁ください。

 なんかすぐに「メモリー不足です」って出てきてカットするしかなかったんですよ。

 前・後編にするのは避けるといったばかりですし。

 それでは失礼します。

 

 

 

 

代理人の

「アキトさん。あなたは堕落しました(びしぃっ!)」のコーナー(笑)

 

 

 

 ま、いいか。都合がいいし。

 ありがとうウリバタケさん!

 ・・・あれ、ジュンは?

 

 

うを、いきなり三連発(笑)!

自分の為すべきことをどの程度真面目に考えているかはわかりませんが、

少なくとも自分の欲望に忠実に生きる事を決意したのは確かなようです(爆笑)。

あ、おそらくジュンは影が薄すぎて忘れ去られていたんでしょう。

アキトにも悪気はありません。多分。

 

>メモリー不足

いや、素直に分けることをお勧めしますが(苦笑)。

「前後編」じゃなくて「二ページに分ける」と考えれば、ねぇ(笑)。

折角の文章をそんなことで削ってしまうなんて勿体無いですよ。

 

 

 

おまけ

緑麗さん、貴方は堕落しました(びしぃっ!)のコーナー(超爆)

 

 胸がいい。そしてミニがいい。

 銀色の円形トレイは欠かせません。

 

ああ、緑麗さんはこのアキトと完璧に同調してらっしゃるのですね(嘘泣)。