紅の戦神

 

 

第七話

 

 

 

 先行して出撃した俺と枝織ちゃんは問答無用で敵陣をたこ殴りにしていた。

 

 トップスピードのまま雲霞の如き無人兵器群の中を縦横無尽に飛び回り、手当たり次第に破壊する。

 ただでさえ数の多いバッタやジョロだ。

 放たれるミサイルの数はもはや物騒な雨と変わらない。

 それはエステの機体など絶対に通り抜けられない火薬の網だが、結構攻略方法などはいくらでもある。

 手頃な敵を一匹捕まえて投げ飛ばし、衝突したミサイルの爆煙の中をつっきったり。

 ピンポイント射撃でバッタが発射する直前に撃ち自爆させたり。

 さっきからそんなことの繰り返しになってるけどね。

 

 出来ることならば一気に殲滅したいところだがいくらなんでも今のエステの兵装じゃ不可能だ。

 DFSがあれば楽なんだが・・・。

 現状じゃ殴る・蹴る・撃つ・投げるくらいが精一杯。

 

「ったく、一匹づつ倒していかなきゃいけないんだもんな〜・・・」

 

 ストレスが溜まる。

 せっかく暴れようと思ったのに全然歯応えないし・・・。

 早く完成してくれブローディア。

 

 

『あ、アー君。みんな来たみたいだよ?』

 

 退屈だったので枝織ちゃんとの通信を開きっぱなしにしていたが、そこに新たに3人のウィンドウが加わった。

 

『おー、待たせたな! テンカワ、枝織!』

 

『二人とも相変わらず滅茶苦茶だねーー』

 

『・・・残りは半分くらいね。さっさと片付けましょう』

 

 遠距離から敵を撃墜しつつ戦線に辿り着く、赤・黄・緑のエステバリス。

 お陰でだいぶ楽になったな。

 やはり無人兵器程度が相手だと、手が多い方が助かるよ。

 

『あれ? ガイくんは来てないの?』

 

『ガイ? ・・・・・・ああ! さっき格納庫で勝手にエステに乗ろうとしてた人!

 あの人だったらみんなで砂にして放り出しておいたよ♪』

 

 “砂”ですか・・・(汗)。またわかりにくい言葉を。

 

 枝織ちゃんはやたらとガイのことが気に入ってるみたいだ。

 もちろん異性としてではない。

 

 なんて言えばいいのか・・・・・・おもちゃ?

 

 

「ああ、枝織ちゃん安心していいよ。

 あいつがただ単にフクロにされたくらいで大人しくなるわけ・・・」

 

 

『その通りだ!!

 俺こそがナデシコの真のエースパイロットだからな!!』

 

 

 はいガイも参戦、と。

 そういやこの頃のみんなの実力ってどの程度だ?

 ガイなんかはあの戦争でかなり成長したクチだし、俺ももうほとんど覚えていない。

 ま、いくらなんでもこんな敵に遅れをとることはないだろう。

 

『あ? おめーほんとにパイロットだったのかよ?』

 

『だからそう言っただろうが!!

 だいたい制服の色を見りゃわかるだろ!?』

 

『・・・本気でボコったのにもう復活したの? 呆れるわね・・・』

 

 あいつに関しては俺も呆れるくらいしか対抗手段がないよ。

 だいたい地球を出発してから・・・つまりガイが医務室に放り込まれてから二週間しか経ってないんだぞ?

 どう考えてもあの全身骨折が治るとは思えん。

 昂気や医療用ナノマシンを持つ俺や北斗ですら一ヶ月以上はかかるのに・・・。

 

 ほんと、イネスさんじゃないけど一度お前を解剖してみたいよ。

 

 

 さて、これはこの時間の俺にとって初めての本格的な戦闘だ。

 せいぜい派手にデビューさせてもらうとしよう。

 

 雑談している間に戦線を整えた敵陣に、俺たちは突っ込んでいった。

 

 

 

 

 

 

『行くぜ、ヒカル!!』

 

 今だワラワラと向かってくるバッタ達にリョーコちゃん達が仕掛けた。

 

 まず先頭の敵をリョーコちゃんが吹き飛ばして戦列を崩し、そいつが巻き上げた爆煙にまぎれて散開。

 そのまま特攻をかけるリョーコ機に敵が追随する。

 

『はいは〜〜い!』

 

 直線状に並んだ形となった敵にヒカルちゃんがディストーションフィールドを纏って神風。

 一気に殲滅。相変わらずいい腕だ。

 

『ほ〜〜ら、お花畑〜〜〜♪』

 

『あはははははっ!』

 

 

『・・・ふざけてると棺桶行きだよ』

 

 ・・・コミュニケの着信音はちゃんとONにしておこうよイズミさん。

 戦闘中に驚かせたりしたら危ないよ?

 

 

『ぬおおおおっ!! ゲキガンパーンチ!!』

 

 

 ピンク色のエステバリスは相変わらず喧しい。

 ザコ中のザコに必殺攻撃を使うのもどうかと思うが、もうこいつには何も言うまい。

 

 ・・・でもゲキガンガーに必殺技以外の攻撃方法なんてあったか?

 

 ま、深くは気にしないで置こう。俺はもうゲキガンガーを卒業してるからな。

 

 今は『燃え』よりも『萌え』にこそ浪漫はあるのだということを確信している。

 

 

 ピッ!!

 

 

「ルリちゃん、敵の戦艦の数は?」

 

 枝織ちゃんがいるからナデシコの防衛は心配いらない。

 俺は直接敵戦艦を撃墜してこようと思いブリッジに通信を入れた。

 

 戦闘力で目立つのはあまりいい事とは言えないが、枝織ちゃん一人で目立つよりは俺もいた方がいい。

 

『ヤンマ級戦艦3隻を確認しています。

 後はカトンボ級の護衛艦が30隻ちょっとですね』

 

 カトンボ級とは言えしっかりグラビティブラストは装備されているからな。

 ここまで束になればそれなりに脅威となる。

 

『ナデシコのディストーションフィールドを最大にしてもこの集中攻撃に耐えられるのは・・・、

 そうですね、もって後10分と言うところでしょうか。

 とりあえずそれ以内に撃沈しちゃってくださいね?』

 

 だいたい想像どおりか・・・。

 DFSさえあれば10分と言わず2分ほどで護衛艦もまとめて沈めてやるんだがな。

 まあないものねだりしても仕方ない。

 

「了解だ! 5分以内に全戦艦を沈めてやる!!」

 

 どうせいつか俺たちの戦闘力はばれてしまうんだから躍起になって隠す必要もないだろう。

 なにより精神的健康に悪い。

 我慢は体に良くないってことさ。いろいろとね。

 

「リョーコちゃん!! ヒカルちゃん!! イズミさん!!

 援護をよろしく!!」

 

『よっしゃあ!! ザコは俺たちに任せときな!!』

 

『がんばってね〜〜♪』

 

『ふ・・・宇宙に華を咲かせなさい』

 

 ご希望通り、満開に咲かせてあげるよイズミさん。

 

「枝織ちゃん!!」

 

『なに?』

 

「・・・・・・・・・・・・ガイを止めて」

 

 

『何言ってんだアキト!! 見ろよこのシチュエーションを!!

 ここで黙って見てるなんて出来るはずがなかろうが!!』

 

 

『・・・そうだね。肉体強度は大体わかったから、今度は耐G能力も見てみたいし』

 

 

『い、いやだ〜〜〜〜〜・・・げぷっ!!!』

 

 

 ・・・まるで独楽のように枝織ちゃんに振り回されるガイのエステ。

 枝織ちゃん、中身はともかくエステは壊さないようにね。

 あとでセイヤさんに怒られるから。

 

「じゃあ行って来る!!」

 

 

 ゴオオオオオオッ!!!

 

 

 右手の甲のナノマシンの紋様が虹色の光を放ち、同時にエステのメインカメラが鋭く煌く。

 俺は喧しいほどに喚きたてる接敵警報を敢えて黙らせた。

 バッタ達の攻撃パターンなど既に体が完璧に覚えてしまっている。

 かつては五感を失い、第六感だけで戦っていた。

 そして今に至って木連式の最終奥義である武羅威にすら到達した。

 そんな俺から見ればやつらの攻撃・回避行動など止まっているのと大差はない。

 

 戦艦の主砲は相変わらずナデシコを狙っているから回避する必要もなく・・・

 護衛艦は複雑に動き回る俺の姿を捉えきれずにかえって味方に被害を出している。

 俺の進路を物量で塞ぐ無人兵器群もシャボン玉みたいなものだ。

 なんら抵抗を見せずに・・・いや抵抗する暇もなく爆発四散していく。

 

 

 ・・・あいつと出会うまでは、戦闘は俺にとって苦痛でしかなかった。

 

 敵を一匹葬るたびに心を縛る、かつてこの手にかけた多くの人間の命。

 奴等に復讐をするためと、自らに言い聞かせながらもどこか血を浴びることを悦んでいた自分。

 

 俺の中に厳然として存在するどす黒いナニかが歓喜に打ち震える。

 

 殺せ、壊せ、消し去れ・・・そして滅びよ、と。

 

 そして俺はそんな自分を許すことが出来なかった。

 

 だが・・・あいつが現れた。

 自身の中に巨大すぎる矛盾を抱え、徐々に心を蝕まれていった俺の前に現れた血色の鬼。

 俺の迷いを吹き飛ばし、殺意を弾き返し、闇を完全に受け止めてしまった真紅の羅刹。

 

 初めて全力を出したとき、俺は確信した。

 俺はあいつと戦うためにこの力を手に入れたのだ。

 

 ならば何が苦痛だと言うのか? 俺は何に怯えるのか?

 そんな事をする必要はどこにもない。

 ただ・・・・・・力を振るうのみだ。

 

 

 だから・・・

 

 

「おおおおおおおおっ!!!!」

 

 

 輝きを増す紋様に呼応してスラスターが出力を限界まで振り絞る。

 1隻目の戦艦の動力部に向けて突き立てたイミディエットナイフの先端が赤い干渉光を放った。

 ディストーションフィールドを強化したようだが、ここまで集中された一撃を防ぎきることは出来ない。

 

 

 ドシュゥッ!!

 

 

      ドゴオォォォォオオオンンン!!!!

 

 

 切り抜いた外壁から炎の触手が上がり、それは一瞬で轟音とともに巨大な火球へと変わった。

 エンジン部分を破壊された戦艦は盛大な花火だ。

 イズミさんもこれで満足してくれるだろう。

 

 俺は即座に次の目標へと向かった。

 

 

『やるじゃね〜かアキト!! そう、それがゲキガンフレアだ!!』

 

『あれれ? まだまだ元気みたいだね?

 さっすがガイくん! じゃ、もっかい行ってみよ〜〜!』

 

『アキト〜〜〜!! こいつを何とかしてくれ〜〜〜!!!(泣)』

 

 

 ・・・妙な幻聴は聞こえなかったことにして。

 

 

 

 

「素晴らしい戦闘力ですな。これはもしや本当に5分以内に沈めるおつもりでしょうか・・・?」

 

「当たり前です。それに、アキトさんの実力はまだまだこんなもんじゃありませんよ」

 

「そうだよね! アキトは私の王子様だもん!!」

 

「・・・・・・どうでもいいから影護枝織をもっと映してくれ」

 

「・・・ゴート君、仕事してくださいね(怒)」

 

「ふ・・・一年前、あれほど我々を苦しめた無人兵器がまるでおもちゃだな」

 

「提督・・・」

 

「だがもしテンカワが敵に回ったらと思うとぞっとするな」

 

「それはありませんよ」

 

「・・・何故そう断言できる?」

 

「「「だってナデシコには私がいますから」」」

 

「あらあらみんな自信たっぷりね〜・・・じゃあ今のコメントについて枝織ちゃんどうぞ〜」

 

『え? う〜〜ん・・・・・・みんな、あんましアー君をいじめないであげてね?』

 

「健気ですなぁ〜(涙)」

 

「「「誰がいじめてるって言うんですか!!」」」

 

『だってアー君怖がってたよ?』

 

「「「アキト(さん)!!!(怒)」」」

 

 

 ゾクッ!!

 

 

 な、何だ今の感じ慣れたような悪寒はっ!?

 

 俺は突然の寒気に一発だけ被弾した。

 ま、かわりに2隻目の戦艦には沈んでもらったが。

 

 

 

 

「さて、ラスト! ・・・なんだけどなんか帰りたくないような・・・」

 

 戦艦から戦艦へと向かう途中でほとんどの護衛艦もついでに撃墜し、いまや敵の数はごく僅かとなっている。

 それでも無人兵器に退却すると言う選択肢はなく、

 俺の方がナデシコよりも危険であることを漸く悟って最後の戦艦の前に防衛線を張り始めた。

 

 戦艦自身もフィールドを強化し、万全の体制を敷く。

 

「特攻してもいいが・・・・・・そうだな、試してみるか」

 

 俺は一度敵陣営から距離を取り、体の深奥に眠る強大な力を呼び覚ます。

 

 木連式口伝・最終奥義武羅威。

 そこへ到達した者の証である昂気。

 

 かつて俺は火星極冠遺跡において、こいつを刃状にしてDに放った。

 あのときの刃はDFSを媒介にはしていたが、実質純粋な昂気の塊だったはずだ。

 ならばエステの持つフィールド発生装置に俺の昂気を上乗せすることも可能ではないか?

 

 そしてそれが出来たならば、戦艦の持つディストーションフィールドなど紙の盾に等しい。

 

 俺は神経を集中し、昂気を右手に集めた。

 と同時にエステのフィールドも、信じられないほどの出力を放ちながら右拳の一箇所に収束する。

 

『お、おい、テンカワ! お前何するつもりだ!!』

 

『アキト君、無茶だよっ!』

 

『・・・血生臭い花火は見たくないわね』

 

 俺の行動に特攻の意思を見たのか、三人娘が制止の声をあげる。

 昂気は俺の右手部分に集中していてウィンドウには映らない。

 

『・・・あ、この気配・・・』

 

 枝織ちゃんはさすがに気付いたようだな。

 昂気の弱点は気配を消すことが全く出来ないという点だし。

 

『・・・ナナコさん・・・海には・・行けそうにないぜ・・・』

 

 ・・・・・・・・・ガイ(汗)。

 

「この程度! 無茶でもなんでもないさ!!」

 

 そう返しながら最短距離を疾駆する俺のエステに、敵の最後の足掻きが放たれる。

 ありったけのミサイルとビーム、時間差でグラビティブラストまで。

 だがどれも俺の行動を止めるには役不足だ。

 

 優れた戦士は未来を見ることの出来る眼を持っている。

 経験や直感から、戦場を理解するのだ。

 だが俺にとってはそれすら生ぬるいと言わざるを得ない。

 敵の回避行動や攻撃の軌道、陣形の展開、そして弱点。

 オモイカネ級のコンピューターでさえ計算しきれない情報を瞬時に処理する。

 人間の思考も機械のプログラムも所詮は電気信号でしかない。

 その境地に到達した者は、文字通り未来を見ることが出来るのだ。

 いわんや応用力のない人工知能如きに遅れを取ろう筈もない。

 

 俺は敵の攻撃を掠らせることすらなく、戦艦のフィールドに突入した。

 

 

「落ちろぉぉぉぉぉっ!!!」

 

 

 右手が敵のフィールドに触れる・・・

 先ほどのように干渉光を発したりはしない。

 

 抵抗は一瞬だけだった。

 ただの一瞬で俺の拳はフィールドを突き破り、容易く消滅させる。

 予想通りの威力だ。

 やはり昂気にはDFSと似通った性質があるらしい。

 そしてDFSと違い、昂気による防御効果で機体にかかる負担も削減できるようだ。

 

 ならば!

 

 

「喰らい尽くせ! 我が内なる竜!!

 

 秘拳!! 竜牙弾!!」

 

 

 

 

 

 ドガァァァァアアアンンンン!!!!

 

 

 

 

 

 そして・・・最後の戦艦は本日最大の花火となった。

 

 

 

 

 

 

『敵反応の消滅を確認。

 通信後からの経過時間は4分22秒。

 お疲れ様でした、アキトさん。早く帰ってきてください』

 

「ああ、今から帰艦する」

 

『それにしてもアキトさん、もう本調子に戻られたのですか?』

 

「いや、まだまだだよ。

 今のも完成度は八割ってところだな」

 

 俺とルリちゃんの会話をみんなは信じられないという顔で聞いていた。

 とは言え本気でまだまだだ。

 やはり身体能力の低下は致命的だな。

 本腰を入れて鍛え直さなきゃいけない。

 

 

 

 

 

 エステを降りた俺は喉の渇きを癒すために自販機に向かったが、そこには先客がいた。

 

「あ、お疲れ様、アー君。なんか飲む?」

 

「うん、それじゃ火星ソーダを」

 

「はい、火星ソーダだね?」

 

 枝織ちゃんはオレンジジュースを飲みながら、新たに購入した缶ジュースを俺に差し出す。

 俺はそれを受け取るとプシュ!っという爽やかな音を立てて開け、三分の一ほど飲み干した。

 炭酸の刺激が喉に気持ちいい。

 

「アー君昂気使ったでしょ?」

 

「まあね。エステの空間制御装置を媒介にすればDFSと同じような働きをするみたいだ。

 まあ思っていたようには扱えなかったけどさ・・・」

 

「う〜〜ん・・・アー君が昂気とかDFSとか使うんだったら私もそろそろナノマシン入れなきゃダメだよね?

 さすがに手動じゃ使えないし・・・」

 

 北斗・枝織ちゃん、それに優華部隊の面々は地球と同じようにIFSを使っている。

 今枝織ちゃんが乗っているようなノーマルエステやジンタイプならマニュアル操作が可能だが、

 ダリアやジンオウシリーズの機動性を考えるとやはりナノマシン処理は不可欠だ。

 

「そう・・・だな。

 じゃあイネスさんが合流したらナノマシンを入れようか。

 ランダムジャンプの影響で体質に変化があったかもしれないし」

 

 だって裸だったしねぇ?

 枝織ちゃんはあまり心配していないようだが、ジャンプの恐ろしさを身に染みて知っている俺はかなり不安だ。

 検査結果次第では最悪枝織ちゃんには戦線を外れてもらわなくてはいけなくなる。

 

 

「ところで今夜のことなんだけど・・・」

 

「今夜・・・?

 ―――ああっ! ・・・・・・もぉ、アー君エッチなんだからぁ」

 

 赤面して俯きながら、俺の脇腹にその細い人差し指で円を描く枝織ちゃん。

 

「エッチ・・・まあいまさら否定は出来ないか。

 ・・・じゃなくて枝織ちゃんさ・・・アレ持ってる?」

 

「・・・・・アレ?

 

「そう。サセボで買い溜めしといたやつがそろそろ無くなりそうなんだよ。

 さすがに戦争も終わっていないのに子供を作るわけには・・・ね?」

 

「ああ、何時もアー君がつけてるやつ? 私持ってないよ?」

 

 だよな。枝織ちゃんが持っているはずない。

 

「どうして? 別になくてもいいじゃん」

 

 ぐぅ・・・なんて強烈な誘惑なんだ!

 

「そ、そうだね。別にナマでも・・・って何言ってんだ俺は!?

 え〜と、とにかくダメだよ枝織ちゃん。残念だけど地球に戻るまで夜は・・・」

 

 一人で寝よう、と続けようとした俺の言葉は口に出ることはなかった。

 

 今にも零れ落ちそうなほど目にいっぱいの涙を溜めて俺を見上げる枝織ちゃんを見てしまったからだ。

 

「アー君・・・枝織のこと・・嫌いになっちゃったの・・・?

 せっかく・・・アー君が喜んでくれるようにブルマーまでもらって来たのに・・・」

 

 ブルマー・・・。

 く・・・誘惑に負けたらダメだ!

 万が一のことがあったら不幸になるのは枝織ちゃんなんだぞ!!

 

「し、枝織ちゃん・・俺の話を・・・」

 

 

 

「・・・枝織の体だけが目的だったんだね?」

 

 

 

 誰だ!!

 余計なこと吹き込んだ奴は!?

 

 

 

 俺は久しぶりに殺意を抱いた。

 

「そ、そんなわけないだろう枝織ちゃん!!

 俺は枝織ちゃんのことを・・・あ〜・・その・・・あ、愛しているんだから・・・」

 

 こ、こうやって改めて言うのもなにやら恥ずかしいな・・・。

 

「・・・・・・・・・・・・ほんと?」

 

「もちろん!」

 

「じゃあ・・・・・・してくれる?」

 

「ああ! ・・・・・・あ、いや・・・」

 

 即答した後で言葉を濁した俺に、またも枝織ちゃんが涙を浮かべる。

 しかし本気でどうすればいい?

 俺はこの年(肉体年齢18歳)で父親になりたかないぞ?

 

「枝織ちゃん・・・その・・すぐに地球に戻れるからさ。

 それまではお互いに我慢しよう?」

 

「む〜〜〜〜・・・」

 

 

 結局枝織ちゃんは渋々ながらも承諾してくれた。

 まあ一番の問題は俺の理性がもつかどうかなんだが・・・。

 

 

 

「よお、早いな二人とも」

 

 話し掛けてきたのはリョーコちゃんだった。

 後ろにはヒカルちゃんとイズミさん、青い顔をしたガイもいる。

 

「まあね。みんなもお疲れ」

 

「お疲れって程働いてないよー」

 

「・・・ほとんどテンカワ君がやったんだしね」

 

 言いながらそれぞれジュースを買って飲む。

 

「・・・ガイくんはお疲れ?」

 

「・・・・・・放っといてくれ」

 

 さすがに枝織ちゃんの相手はきつかったか?

 

 

「さて・・・そろそろ火星だな・・・」

 

 

 

 

 そしてナデシコは無事に火星へ突入した。

 光り輝くナノマシンの大気を抜け、

 何度も訪れた始まりの土地へ・・・。

 この星に遺跡はあるんだ。

 戦争の原因。俺がここにいる因となったボソンジャンプの演算ユニット。

 もとの世界に帰るためには、否が応でも再び相見えるなくてはいけない。

 俺は故郷で俺たちの帰りを待つ家族達に思いを馳せていた。

 

 

 

 

 

「火星大気圏内、相転移反応下がりま〜す!」

 

「グラビティブラスト、スタンバイ!」

 

「了解。グラビティブラスト、発射準備完了」

 

「どうせなら宇宙で使えば良かったんじゃないですか?」

 

「地上に第2陣がいるはずです。

 包囲される前に、撃破します!!」

 

「敵チューリップ、有効射程範囲に捉えました」

 

「じゃ、発射!!」

 

 

 ドゴォォォォオオオオンンン!!!

 

 

 ナデシコから放たれた黒い閃光が、地表の敵陣をチューリップもろとも消滅させた。

 で、やはりユリカは忘れていたみたいで・・・

 

 

 

「またか〜〜っ!! ちゃんと重力制御しろ、ユリカ!!」

 

 突然傾いた地面にバランスを崩しながらも俺は手近なものに掴まる!

 

「テ、テンカワっ!!」

 

「きゃああああ!!」

 

「くっ!!」

 

 三人娘は咄嗟に俺にしがみつく。

 枝織ちゃんの方をみるとどうやら問題はないようだった。

 直角な壁と化した床に指を突き刺して体を支えている。

 

「枝織ちゃん、ガイは!?」

 

 熱血男の姿が見えないことに気付く。

 さすがにこの高さから落ちたら洒落にならない・・・・・・かもしれない。

 

「ガイくん? え〜〜〜っと・・・・・・さっき抱き着いて来たから思わず蹴りつけちゃったような」

 

 そ、それはやばい!

 

「テ、テンカワ・・・」

 

「アキト君! 下! 下見て!」

 

 リョーコちゃんとヒカルちゃんに引っ張られて下方向に視線を向ける。

 そこには・・・

 

「・・・潰れたトマトみたいね」

 

「ガ、ガイ〜〜〜〜〜!!」

 

 

 で、その時。

 

「ふ、ふふふふ・・・そうか! そう言うことか!!」

 

「女性比率の多いナデシコでなんで俺たちメカニックに誰一人回って来ないのかと思えば!!」

 

「班長!! このままあいつの横暴を許してしまっていいんですかっ!?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「ウリバタケ班長!!」

 

「・・・・・・アキト、お前は素晴らしい同志だった・・・。

 だがお前のような人間磁石の存在を俺たちは許してはならないのだ!」

 

「そ、それじゃあっ!!」

 

 

「そう! 今ここに、『テンカワアキト抹殺組合』を結成する!!」

 

 

「おおおおおお!!」(メカニック全員)

 

 

 

 ―――聖戦が始まった。

 

 

 

 

 

 あとがき

 

 なんとコスチュームが出てこなかった!

 なにやら新鮮だったりします。

 設定に関してですが、昂気をエステのフィールド発生装置を仲介させて使うと、一時的なバーストモードが可能になると言うことにしています。

 ただしそれは攻撃の一瞬だけ。

 そのかわりに放った技の負荷が機体にかからないと言ういいんだか悪いんだかわからない能力です。

 さて、これからしばらくは真面目な話を書く予定です。

 それでは。

 

 

 

代理人の

「アキトさん。あなたは堕落しました(びしぃっ!)」のコーナー(笑)

 

 今は『燃え』よりも『萌え』にこそ浪漫はあるのだということを確信している。

 

何を言うか!

枝織を己が欲望で支配しようとする者が何を言うのかっ!

 

 

 

 

 

・・・・うあシャレになってねぇ(汗)。