紅の戦神

 

 

第八話

 

 

 

「敵反応消失。

 周囲30キロ圏内に、木星蜥蜴の反応なし」

 

 ルリちゃんの報告がブリッジに響き渡る。

 

「ではこれより地上班を編成し、揚陸艇ヒナギクで地上に降りる」

 

「しかし提督、どこに向かいますか?

 軌道上から見る限り、生き残ってるコロニーは無さそうですが・・・」

 

 ジュンの言う通り、どこのコロニーも木星の攻撃に全滅してしまっている。

 軍に見捨てられた火星の人々が、無人兵器に対抗できるはずもないからな。

 

「まずはオリュンポス山にあるネルガルの研究施設へ向かいます」

 

「ネルガルの?」

 

「はい。我が社の研究所は一種のシェルターでしてね。

 一番生存確率が高いものですから・・・」

 

 不信げに尋ねるリョーコちゃんに落ち着いて対処するプロスさん。

 どっちにしろオリュンポス山の物資は必要だから何も言うつもりはないが。

 

 因みにパイロット三人娘もこの場にきている。

 枝織ちゃんは食堂だ。

 

「では、地上班メンバーを発表する」

 

 やはり今回もフクベ提督に期待しよう。

 枝織ちゃんがいてくれればプロスさんたちも文句をあまりいわないだろうし。

 

 だいたい、アイちゃん・・・イネスさんがいてくれないと計画が・・・げふっげふん!

 いや、彼女も大切な仲間だからな。

 

「悪いが、エステを貸して貰えないか?

 ユートピアコロニーを見に行きたいんだが・・・」

 

「なんだと・・・?」

 

「ユートピアコロニー・・・・・・生まれ故郷の?」

 

 ユリカの言葉に提督の表情がピクリと強張ったのがわかった。

 

「あそこにはもう・・・何もありませんよ。

 チューリップの勢力圏です。あまり希望はもたれない方が・・・」

 

「それでも・・・見ておきたいんだ」

 

 それに火星の生き残りはみんなあそこに集まっている。

 

 

「・・・構わん、行きたまえ」

 

「!? し、しかし提督・・・!!」

 

「故郷を見る権利は誰にでもある。

 若い者ならば尚更だ」

 

 その心中に何を抱いているのかはともかく、お気持ちは有り難く頂いておきます。

 

「ありがとうございます、提督」

 

 

 俺は礼を言ってから格納庫へと向かった。

 

 

 

 

 

 で、俺は陸戦用フレームに予備のバッテリーを積んで、火星の大地を踏みしめた。

 今回ももしかしたらメグミちゃんが来るかと思っていたんだが、どうやらその気配はないようだ。

 だから一人で気楽に帰郷でもしようかと思っていたら・・・

 

 

 

「・・・何時の間に乗り込んだんだい、枝織ちゃん?」

 

「初めから気配を殺して隠れてたにゃ!」

 

 ナデシコを出てからすぐ、コクピット上部の入り口から枝織ちゃんが入って来た時には本気で驚かされた。

 隠れて着いてきた事より何よりその姿・・・

 

 

 

 

 禁断の黒猫スーツ!!

 

 

 

 

 枝織ちゃん・・・君はそんなに俺の理性を崩壊させたいのか?

 しかも「〜にゃ」って言うのは・・・またヒカルちゃんかな。間違いないだろう。

 

「うにゃ〜〜・・アー君♪」

 

 その頭には猫耳のヘアバンド。

 触ってみると手触りの柔らかさといい毛の細かさといい、なかなかの一品であることがわかる。

 続いてお尻のほうを探ると同じような柔らかい材質の太い尻尾だ。

 

 枝織ちゃんは俺の膝の上に座って猫になりきっていた。

 頭を撫でてやると嬉しそうに目を細め、

 顎の下を指でくすぐると顔を赤くしながら喉をゴロゴロと鳴らす。

 

 

 

 

 ・・・ああ! か、かわいい!!

 

 

 色気よりも可愛さが際立っているのがせめてもの救いだよ・・・。

 枝織ちゃん、日に日に可愛く綺麗になっていくからな〜。

 

 

「あ、ほら枝織ちゃん! ユートピアコロニーが見えてきたよ」

 

「あそこが・・・アー君の故郷にゃ?」

 

 

 

 

 

 ―――その頃のブリッジ

 

「・・・問題ですよね? ね!?」

 

「いいんじゃな〜い? 敵さん来ないしね。

 通信士くらいいなくても」

 

「そ・・・それはそうですけど・・・うぅ〜〜・・・(こそこそ)」

 

「・・・艦長、どこへ行くのかね?」

 

「え? あ、あら・・・あ、そうだ!

 ジュン君、艦長代理やっといてくんないかな?」

 

「ダメだよ、そんなの。

 通信士の一人くらいならいいけど、さすがに艦長が艦を離れるのは問題が・・・」

 

「問題大有りです!」

 

「ル、ルリルリ?」

 

「ルリちゃん?」

 

「メグミさんの行動力を見誤っていました。

 枝織さんのことといい・・・出遅れてます。出遅れてますよ私!」

 

「ミ、ミナトさん・・・ルリちゃんが恐い・・・」

 

「そ、そうね・・・」

 

「うぅ・・・提督、僕たちは・・・」

 

「・・・関わらん方がいいだろう」

 

 

 

 

 

 ―――同時刻 格納庫

 

 

「むが〜〜〜〜っ!! むぐっ! むがが〜〜〜っ!!」

 

 

「・・・・・・メグミちゃん、こんなところで何遊んでんだ?」

 

「んぐっ!! んが〜〜〜〜っ!!

 ・・・ぷはっ!

 ああん、もう! 何で私がこんな目に会わなくちゃなんないの〜〜〜!?」

 

「いったいどうしたんだ?」

 

「聞いてくださいよ、ウリバタケさん!

 アキトさんのエステに乗ろうとしたら突然後ろから殴られたんですよ!?

 しかもかよわい乙女を簀巻きにするなんて信じられない!!」

 

「簀巻きな〜・・・こんなもんどっから持って来たんだ・・・?」

 

 

 なにやら幾重にも寒気がするのは気のせいだろうか・・・?

 

 

 

 

 

 俺はイネスさんに会うために地面が緩くなっている場所を探していた。

 と言っても普通に歩き回るだけだが。

 ちゃんと集中していれば足の裏の微妙な感触の違いでわかるからな。

 

「アー君! アー君! 発見したにゃ!!」

 

「そうか、今そっちに行く!」

 

 枝織ちゃんのところにまでやってきた俺は、地面の感触を確認して一気に踵を振り下ろした。

 

 

 ボゴッ!!

 

 

 別に穴が開いていなかろうが力づくでこじ開けるのが可能であるほどの威力で蹴ってしまい、

 崩れた地面は小さなクレーターを形成する。

 ・・・何やってんだかな、俺は。

 

 

「よ・・・っと」

 

「うにゃにゃ!」

 

 

 すたっ!!

 

 

 軽い着地音を立てて鮮やかに地面に降り立つ。

 隣りの枝織ちゃんは微かな音もたてない。

 本人の技量もあるのだろうが、なかなかに高性能な着ぐるみらしい。

 

「アー君、誰か来る・・・にゃ」

 

「ああ、わかってるよ」

 

 着地地点に近づいてくる気配を俺たちは感じていた。

 もっとも敵意などは感じられないから心配はないが。

 

 

「ようこそ火星へ」

 

 声から目の前の人がイネスさんであると確信した。

 

 けどイネスさん・・・怪しさ大爆発だぞ、その格好。

 

 全身を覆うローブに目の部分だけサングラスで隠し、しかもそれが光を反射して光っている。

 セイヤさんじゃないんだから・・・。

 

「歓迎すべきかせざるべきか。

 何はともあれコーヒーくらいはご馳走しよう」

 

「・・・気持ちはありがたいがそうのんびりもしていられない。

 とりあえず俺の質問に答えてくれないか?」

 

 今回は時間が極めて重要な意味をもつからな。

 ユリカだけならともかく、メグミちゃんも加わったとなるとさすがにルリちゃんも止められないだろう。

 

 俺たちはイネスさんに事情を説明し、やはりイネスさんたちはナデシコへの乗船を拒否した。

 

「ではイネスさん。住民を代表してプロスさんにその意思を伝えてください」

 

「・・・そうね。ま、プロスさんに会うのも久しぶりだし・・・。

 ところでその娘の格好は君の趣味なのかしら?」

 

「はっはっは! 何を言うんですかイネスさん!

 じゃ、この上にエステバリスが置いてありますので・・・」

 

「ふふ、はいはい・・・」

 

 苦笑するイネスさん。

 とにかく俺たちは急いでナデシコへ向かった。

 

 

 

 

 

 

「「ルリちゃ〜〜〜ん・・・」」

 

「ダメです。アキトさんからお願いされてますから」

 

「艦長もメグちゃんも・・・いいかげん諦めて二人が帰ってくるのを待ちなさいよ」

 

「だってだって! 枝織ちゃんってある意味メグちゃんよりも危ないんですよ!?

 ルリちゃんだって心配で・・・」

 

 

 ビィ――ッ! ビィ――ッ! ビィ――ッ!

 

 

「敵反応感知。前方のチューリップから次々現れます」

 

「グラビティブラスト、スタンバイ!!」

 

「了解。発射準備完了」

 

「ルリちゃん、ドカンといっちゃって!!」

 

「はいドカン」

 

 

 ギュォォォオオオンンン!!!

 

 

「え〜〜〜〜〜!! グラビティブラストを持ち堪えた!?」

 

「敵反応、なおも増大。

 ディストーションフィールドが強化されてるみたいですね」

 

「そ、そんな・・・ただちにフィールドを維持して後退!

 ナデシコはそのまま・・・って、ああ!

 アキトをまだ収容してないよ!!」

 

「艦長! エステを迎撃に向かわせるんだ!!」

 

「そんなことしたらミンチにされちゃうよ〜」

 

「困りましたな〜・・・せめてテンカワさんか枝織さんのどちらかがいてくれれば・・・」

 

「テンカワ機と通信は繋がらないのかね?」

 

「ルリちゃん!」

 

「通信可能範囲内には・・・いえ! テンカワ機より通信!」

 

「繋いで!!」

 

「はい!」

 

 

 ピッ!!

 

 

「アキ・・・!?」

 

 

 

「みゃ〜〜〜ん♪」

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」(ブリッジクルー)

 

 

 

 

 ―――沈黙

 

 

 

 

 後、

 

 

 

 

 

 絶 叫!

 

 

 

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」

 

 

 

 

 ―――バタッ! (×いっぱい)

 

 

 

 ・・・ナデシコは沈黙した。

 

 

 

 

 

 

 ―――テンカワエステ

 

「―――はっ!! まずいっ!!」

 

 目の前に迫った一機のバッタに、遠のいていた意識を無理矢理引き戻した。

 通信越しでブリッジに比べて被害が少なかったことも幸いしたようだ。

 とりあえず進行の邪魔になりそうなバッタを足で蹴り壊す。

 

「ブリッジ! 応答しろ、ブリッジ!!」

 

「な・・・なんだったの? 今の馬鹿でかい声は・・・」

 

「あ〜〜〜・・・ゴッドボイス?」

 

「わかんないわよ・・・」

 

 犯人がゴートさんであることは明白だ。

 どうやらいきなり猫耳枝織ちゃんを見て煩悩が限界を振り切ってしまったらしい。

 枝織ちゃんは通信機器に一番近かったせいかまだ気絶中。

 

「とにかくナデシコに帰艦します!

 少し無茶な機動になると思いますからしっかり掴まっててください!!」

 

「あらあら、結構大胆ね」

 

 

 

 

 

 

 ―――ブリッジ

 

「・・・・・・むぅ?」

 

「―――はっ! ・・・あ〜〜っ! み、みなさん起きて下さい!!

 戦闘中なんですよ!? 起きて起きて〜〜〜!!」

 

「う・・・ル、ルリルリ、大丈夫?」

 

「は、はい・・・ちょっと頭がくらくらしてますけど・・・」

 

「ジュン君! クルーの状態を確認して!

 ルリちゃんはアキトを収容! ミナトさんはフィールドを張りながら後退させて下さい!!」

 

「「「了解!」」」

 

「ゴートさん・・・ボーナスは諦めてくださいね(怒)」

 

「ミ、ミスター・・・(泣)」

 

「た、大変だユリカ! 提督の意識が戻らない!!」

 

「え〜〜〜〜〜っ!!」

 

「アオイさんどいてください!

 私が応急処置を! ルリちゃん、医務室に連絡して!!」

 

「は、はいっ!」

 

「提督! フクベ提督! 聞こえてますか!?

 ん? ・・・・・・み、脈が止まってる!?」

 

 

「・・・・・・・・・・・・」(ブリッジクルー)

 

 

「い、いやあああっ!!」

 

「お、落ちつくんだユリカ!!

 ・・・・・・え〜っと、提督の葬式は仏式で・・・」

 

「まだ死んでません!!

 処置が早ければ十分蘇生可能ですっ!!」

 

「医療班到着しました!!」

 

「こっちです! 現在脈が停止しました!

 さっさと蘇生してください!!」

 

「はいっ!」

 

 

 

 

「蘇生成功!!」

 

「提督! 提督! 気をしっかり!!」

 

「テンカワ機、収容完了しました!

 折り返し枝織機及び他のエステとともに出撃します!!」

 

「敵を殲滅しつつ撤退!

 グラビティブラストは敵無人兵器を中心に撃って下さい!」

 

「「了解!」」

 

 

 

 

 

 

 ピッ!!

 

 

「こちらテンカワ! 今から枝織ちゃんと二人で敵の包囲の一角を崩す!

 その隙に抜けてくれ!!」

 

『お願い、アキト!

 ―――ミナトさん!』

 

『いつでもいいわよっ!』

 

 繋いだ通信の向こうで、緊迫した様子がこちらまで伝わってくる。

 戦闘の緊張の中、加えて世紀の人命救出劇が展開されているらしい。

 提督もいいかげん年だからな〜・・・。

 

『!! 提督の意識が戻りました!!』

 

『とりあえず医務室に運んで置いてください!』

 

 どうやら最悪の事態は免れたようだが・・・

 ナデシコ初めての危機が猫耳に引き起こされることになろうとはな。

 音声オンリーの通信にしておけばよかった。

 

 格納庫で整備員の一部を再起不能にした枝織ちゃんの姿を思い出しながら呟く。

 

 その間にもミサイルやビームが雨のように向かってくるが、単純な数の差に負けるような俺達じゃない。

 余裕でかわしながら進行方向の部隊を壊滅させる。

 

「よし! ユリカ、いいぞ!!」

 

『うん! ミナトさん! 全速前進!!』

 

『了解! 全速前進! 揺れるわよ〜〜〜!!』

 

 

 

 

 こうして俺たちはからくも危機を抜け出した。

 

 で、その途中・・・

 

「何とかなりましたな〜・・・」

 

 ゴートさんを拘束し、猿轡をかませながらハンカチで汗を拭くプロスさん。

 

「医務室の提督はどうですか?」

 

「あ、はい。今医務室に通信繋ぎます」

 

 ユリカの問いにルリちゃんが答え、メインスクリーンに医務室の様子が映し出される。

 

 

 ピッ!!

 

 

『ブ、ブリッジ!? なんとかして下さい!!』

 

 突然アップになった名も無き医療班A。

 今にも泣きそうだ。

 

「ど、どうしたんですか?」

 

『どうしたもこうしたもありませんよ!!

 提督がいきなり・・・!』

 

 なんだと!? 提督に何かあったのか!?

 

 ウィンドウの慌てた様子に思わずブリッジに緊張が走る。

 が、そんな不安は誰もが思いもしない形で実現した・・・

 

 

 

『うわあっ!! て、提督! 落ち着いてください!!』

 

『みんな! 提督を押さえろ!!』

 

 

『わ、私は・・・!!』

 

 提督の声。

 そして・・・

 

 

 

 

 

『私は神を見たっ!!』

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・勘弁してくれ。

 

 

 

 

 

 あとがき

 

 白い鉄さん、ありがとうございます!!

 

 ・・・と言うことで今回は白い鉄さんに挿絵を描いて頂きました!

 かわいいですね〜枝織ちゃん。

 しかも黒猫スーツを出しますとお知らせしてから半日もたたずにですよ?

 うぅ・・・僕みたいな新人投稿作家にここまでしてくださるなんて・・・(嬉泣)。

 本当にありがとうございました!!

 

 で、ここからしばらくは真面目になる予定です。

 ・・・ですが、あくまで予定は未定であり決定ではありません。

 つまりな〜んも考えてないんですよ。

 とはいえいつも何も考えずに書いてますから変わりありませんが。

 

 ・・・あ、それからフクベファン(いるのか?)の方、申し訳ありませんでした。

 何故彼がああなってしまったのかは僕にもよくわかりません。

 ですが結局すぐにいなくなります(笑)。

 それでは。

 

 

代理人の

「アキトさん。あなたは堕落しました(びしぃっ!)」のコーナー(笑)

 

 

「はっはっは! 何を言うんですかイネスさん!

 

説得力、皆無。

つーか100%アキトの趣味じゃないか(笑)。

 

 

不定期おまけ連載

「緑麗さん、貴方は堕落しました(びしぃっ!)」のコーナー(超爆)

 

 で、ここからしばらくは真面目になる予定です。

 

「確か前回も同じ事を後書きで言ってましたよねぇ」

なんて事は言わないで置いてあげましょう(笑)。

 

それにしてもこのコーナー、不定期と言いつつ何やら定期的になっているような(爆)。