機動戦艦ナデシコ
        あした
〜懐かしい未来〜 


第10話 “Temporary Pleasures”

「はーあ、退屈ー」

艦長席で大あくびの艦長。
緊張感ゼロです。
まぁナデシコは一応最新の戦艦、緊急事態以外はオートですから、ヒマなのは事実なんですけど。
現に通信士のメグミさんは雑誌読んでるし、操舵士のミナトさんなんて朝寝坊してますし。

艦長を無視しておもしろくもないパズルゲームをやっていると、オモイカネの警告ウィンドウが表示されました。

「右舷24度マイナス70度、敵、攻撃」

「えっ!迎撃・・・」

突然表情が引き締まる艦長。

「いりません」

「へっ?」

私の言葉で、せっかく引き締まった表情が一気に崩れます。

「ディストーションフィールド、出力安定」

真っ直ぐナデシコに向かって来る木星蜥蜴のビーム。
しかし、それはナデシコのディストーションフィールドにあっさり弾き返されました。

「サツキミドリ2号への攻撃以来、木星蜥蜴が本格的に攻撃をしてこないのは、恐らく・・・
この船の能力を把握するまで、少なくとも制空権の確立した火星まで、攻撃は挨拶程度の物になると思いますが、艦長はどうお考えですか?」

「そっか、そうだよね。
という事は、火星までは、私、ヒマなんだ・・・・・・あ、じゃあじゃあ!!」



「隠し芸大会!?」

「はい!新パイロットの歓迎会も兼ねて」

艦長からの通信を聞いて一瞬自分の耳を疑ったが、すぐに疑った自分がバカだったと思った。
そうよね、艦長はそういう人だったわよね、ナデシコはそういう所だったわよね。

それで納得出来てしまう自分が悲しい。

「イネスさん?」

思わず頭を抱えていると、隣にいたウラバ君が不思議そうに声をかけてくる。
この人、すっかりナデシコに染まってるわね・・・それとも元々そういう人なのかしら。

「いえ・・・それで?」

何とか持ち直して、先を促す。

「それで、司会進行は私とウリバタケさんでやる事になってるんですけど、
イネスさんに解説やってもらおうかな、なんて」

・・・やっぱり、私はナデシコに染まりきれないのかもしれないわね・・・。

再び頭を抱えずにはいられなかった。

「・・・隠し芸大会に解説は要らないでしょう」

何とかそれだけ言うと、ユリカ嬢はウラバ君以上に不思議そうな顔をする。

「そうなんですか?
・・・まぁいいじゃないですか、あった方がおもしろくて」

そうでもないと思うけど。

「というわけで、やってもらえません?」

無邪気に微笑むユリカ嬢。

「パスするわ」

「「えーーっ!!」」

ユリカ嬢とともに、力一杯驚くウラバ君。

「何よ?」

「いや、イネスさんなら絶対OKすると思ったんですけど」

ウラバ君、それは一体何処から来る確信なの・・・。

「そうそう。
私もそう思ったんですけど」

ウラバ君に同調するユリカ嬢。
私今回そんなに説明してないと思うんだけど・・・いろいろと忙しかったし。
お陰で欲求不満なくらいなのに。

でも、今回はちょっとね・・・それにこういうイベントの解説なんて、結果が目に見えるようで・・・。

「悪いけど、今回はパス。
ウラバ君にでも回してちょうだい」

「えっ」

突然白羽の矢を立てられて明らかに動揺するウラバ君。

「ああ、なるほど!」

「ええっ!ちょ、ちょっと・・・」

慌てて私とウィンドウの艦長を交互に見比べる。

頑張ってね、ウラバ君。
貴方の尊い犠牲は無駄にはしないわ。



「それでは、第1回!ナデシコ隠し芸大会を開始しちゃいます!」

「エントリーナンバー1番!」

そんなわけで、ほとんど暇つぶしで始まった隠し芸大会。

何だか知らないけど、皆で盛り上がっちゃってます。
こんなの、何が楽しいわけ?

「パイロット、アマノ・ヒカル、歌いまーす!」

ヒカルさんは変なパイロットスーツみたいのを着てます。

「夢が明日を呼んでいる〜。
魂のさけ〜びさ、レッツゴーパッション♪」

これって、時々ヤマダさんが大音量でかけてるあのマンガの歌?
廊下にまで聞こえてきて、迷惑なんですよね。

気がつくと、応援団・・・と言うよりもファンクラブらしき人が舞台の周りに集まってます。
ヒカルさん、昨日来たばっかりなのに。
大人って、良く分かりません。

あ、ヤマダさんが乱入した。

「ゆめを、つーよーくだーきしーめよーーっ!!」

・・・マイクでその大声は止めてください、ヤマダさん。
何人か気絶してる人もいるみたいです。
私は遠くにいますから、何とか大丈夫ですけど。

「ひっこめー!!」
「ヒカルちゃんの舞台だぞーっ!」
「邪魔だーっ、ステージから降りやがれーっ!!」

大ブーイング受けてます。

応援団はほとんど整備班の人達みたい。
スパナが飛び始めました。

あ、誰か舞台に登った。
乱闘になってるみたいですね。
と言っても多勢に無勢、ヤマダさんが一方的にやられてますけど。
こういうの、リンチって言うのかな。

「みなさーん、落ち着いてくださーいっ!
落ち着いて下さいってばぁー!
静かにして下さいっ!!
・・・艦長命令です、静かにしなさいっ!!」

司会の艦長が隣でオロオロしてます。
もう1人の司会のウリバタケさんは・・・あ、乱闘に参加してる。
解説のウラバさんは、我関せず、といった顔で傍観してます。
当事者のヒカルさんは・・・普通に歌い続けてますね。

何でもいいけど・・・

「「バカばっか」」

えっ?

溜息をついた私のセリフに、誰かのセリフが重なりました。

声のした方を振り返ると・・・

「イネスさん」

イネスさんが、悪戯っぽい笑みを浮かべて立っていました。


私達は、舞台から離れた所で乱闘の様子を見物していました。

「あれじゃあ、ヤマダ君、また入院ね」

冷静に判断するイネスさん。

確かに。
マイクとかスパナまでならともかく、
自動販売機に踏まれては。

・・・どうやって持って来たんでしょうか。
やっぱり、大人って良く分かりません。

「ふふ、今度はどの薬を試そうかしら」

そう言って妖しげな笑みを浮かべるイネスさん。
イネスさん、ヤマダさんの入院、喜んでません?

「まぁそれはそれとして。
ホシノ・ルリ」

「何ですか?」

「抜けない?
あれのとばっちり受けたくないし」

そう言ってイネスさんが視線を向けた方向を見ると、確かに数十人が被害を受けていました。
まぁ、
植木鉢とか消火器とか飛んでますし。

「・・・そうですね」

そう言って私達は既に修羅場と化している会場から抜け出しました。
ちなみにイネスさんは会場を出る前に、
とばっちりを受けて気絶しているらしいウラバさんに哀れむような視線を送っていました。



「でも確かイネスさん、解説頼まれてたんじゃありませんでした?」

食堂に
避難した私達は、ホウメイさんもまじえて呑気にお茶なんか飲んでます。

「今回はパスしたわ」

コーヒーを飲みながら答えるイネスさん。
その答えに、ホウメイさんが意外そうな顔をします。

「珍しいね。
説明好きのあんたが」

賛成です。
私もちょっと意外でした。

ホウメイさんの言葉に、苦笑いするイネスさん。

「私だって、説明しかしてないわけじゃないのよ。
これでもいろいろと忙しいんだから。
まぁ、あの状況が目に見えてたっていうのもあるし・・・。
・・・それに、今回はちょっとそういう気分じゃないの」

そう言って、イネスさんはどこか寂しそうな顔をしました。
何か特別な事情でもあるんでしょうか?

「もうすぐ火星ね・・・」

天井を見上げてそっと呟くイネスさんに、私達は首を傾げるだけでした。



TO BE CONTINUED・・・




〜あとがき〜

――ああ短い短い膨らまない・・・。
今回はルリ一人称に初挑戦です。
気分は「ルリの航海日誌」で。

イネス「ここまで三人称でやっておいて、突然一人称にする? 呆れるわね」

――いや、今回は例外という事で。
独立した短編みたいにしても良かったんですけどね。

イネス「独立させられる話じゃないわよね」

――それにはちょっと力不足でしたね。
それにしても、またマッドなイネスさんを書いてしまった・・・しかもその後は感傷に浸ってるし。
皆どんどん訳のわからないキャラになっていくような・・・。

イネス「いい加減に本人の前でそういう事言うのやめたら?
自分の首を絞めるだけよ。
・・・と言うわけで、後で医務室にいらっしゃいね」

――ああっ、ひさびさにぃぃーーっ!

イネス「次回はやっとアキト君が出てくるそうよ。
これでやっと話が進むというわけね」

――まぁ、醍醐味は今回までですね。
  本来いない所にイネスさんを放り込んだ、という事で。

イネス「なんだか腹の立つ言い方ね。
    1度実験台になるだけじゃ足りないかしら?」

――あぁぁぁ、ご勘弁を〜。

イネス「ふっ、残念だったわね、もう遅いわ。
それじゃ、感想は掲示板にお願いしますね」

――あぁぁぁぁ・・・。


<お知らせ>
多少キリが良いので、少しお休みします。
9月頃また続きを投稿させて頂きますので、その時は宜しくお願いします。それでは・・・。

 

 

代理人の感想

 

ありゃ、休載ですか。読者として残念ではありますが、この機に英気を養って下さい。

・・・・・・夏は体力を使う事が色々ありますしねえ(爆)。

あ、それともイネスさんの医務室に長期逗留が決定したとか(爆笑)?