機動戦艦ナデシコ
あした
〜懐かしい未来〜
第9話 “Missing One”
次に停泊予定のネルガルのコロニー、サツキミドリ2号。
正史ではナデシコの停泊直前に木星の襲撃を受け大破。
確認された生存者はパイロット3名のみ。
医務室のコントロール部にて。
目の前のウィンドウに表示されたサツキミドリ2号のデータを見ながら、イネスは軽く溜息をつく。
(これだけの人数が死ぬとわかっていながら何もしなかったとなれば、アキト君のお叱りを受けるのは明らかよね。
クロッカスとパンジーの時に何もしていないし。
まったく、どこに行っちゃったのかしら、アキト君は)
イネスは、正直言ってこのコロニーに興味は無かった。
基本的に他人に興味を持たないイネスは、
このコロニーが大破したからといって自分には関係ないとしか思わない。
とは言え、アキトの事を考えると、放っておく訳にもいかなかった。
(でも助けるにしても、どうしようかしら)
ウィンドウを見ながら思案する。
コロニーそのものを動かしたところで結果は変わらないだろうし、それ以前にそれは無理な話。
つまりサツキミドリのクルーを避難させるしかないわけである。
通信は送れるが、「木星蜥蜴が来るから逃げろ」なんてメールを送っても素直に避難するとは思えない。
一瞬、その辺のバッタのシステム掌握して1、2機突っ込ませたら避難するかしら、
などという危ない考えにも行き着いたが、流石にそれは却下した。
バッタ1、2機のシステムくらいならオモイカネで掌握できるが、いくらなんでもそれは乱暴である。
(やっぱりエマージェンシーコールを鳴らすしかないかしらね・・・)
結局、エマージェンシーコールを鳴らすウイルスを作る事に決めた。
停泊予定時刻まで約3時間。
クルーが避難するのに必要な所要時間を考えたら、急がないといけない。
「オモイカネ、ちょっと手伝ってくれる?」
制限時間がある以上、イネスだけでは少し心許ない。
[はい]
オモイカネのウィンドウが開き、了承の旨を伝える。
すぐに作業は開始された。
ナデシコブリッジ。
「サツキミドリ2号、まもなく目視可能です」
いつも通りの淡々とした口調でルリが報告する。
「艦長、付近を航行中のシャトルより通信入りました。
緊急事態発生の為、サツキミドリのクルーは全員退避したとのことです」
インカムをつけて何やら喋っていたメグミが、ユリカのいる上部ブリッジを見上げて言った。
「合流予定のパイロットは?」
「他のクルーとともに退避、現在こちらに向かっているそうです」
ユリカの言葉に答えるメグミ。
「わかりました。
パイロット収容後、この宙域を離脱します」
「コロニー方向より衝撃波来ます」
唐突にルリがそう言ったのとほぼ同時に、ブリッジに振動が起きる。
ブリッジのウィンドウに映し出されたサツキミドリ2号が、爆発、大破したのが視認できた。
「被害状況確認」
「前方、サツキミドリ2号です。
ナデシコのディストーションフィールドは出力低下したものの、順調に作動中。
本艦の被害はゼロ」
間髪入れず指示したユリカにルリが答える。
「シャトルとパイロットは?」
「共にナデシコの陰に入っていました。
パイロット、まもなく到着します」
「周囲の状況を確認後、ディストーションフィールド解除。
パイロットの収容が終わり次第、再びディストーションフィールド展開して下さい」
格納庫。
「おおーっ、これが例の宇宙用フレームかぁーっ!
やっぱり生で見るとなおさら感激もんだなぁ!」
と、まるでヤマダ・ジロウ(「ダイゴウジ・ガイだ!!」)のごとく叫んでいるウリバタケを尻目に。
新しく着任した3人のパイロットが、出迎えに来たユリカ、ゴート、プロスに簡単に自己紹介する。
「あたしパイロットのアマノ・ヒカル、へび使い座のB型、18歳!
好きなものはピザの端っこの硬いとこと、ちょっとしけたおせんべでーす!
よろしくお願いしまーす!」
そう言ってお辞儀をすると、ピーッと言う音とともに頭の上に2本の笛が伸びる。
どう反応していいのかわからないユリカ達。
「あれ?おもしろくなかったですかぁ?」
「ははは・・・」
愛想笑いを返すと、ヒカルの隣にいたショートカットの女性が溜息をつく。
「俺は同じくパイロットのスバル・リョーコ、でこいつもパイロットのマキ・イズミ、以下略」
隣にいる黒髪の女性を親指で差して言う。
「エステバリスの宇宙用フレームは4機だけか?」
リョーコ達が持ってきた4機の宇宙用フレームを一瞥してゴートが言う。
「格納庫に後1機残ってたけど、あの爆発じゃおじゃんだろうな」
「なんと、もったいない・・・」
宇宙そろばんを叩きながら呟くプロス。
「そういえば、ここにいるっていう2人のパイロットは?」
会話に割り込むヒカル。
「ええと、1人は多分部屋でビデオでも見てるんだと思うけど。
もう1人は・・・ウリバタケさん、ウラバさん知りません?」
未だに宇宙用フレームにじゃれついていたウリバタケにコウジの行方を尋ねるユリカ。
「ああ、あいつは今の時間はオフだ。
イネスさんのとこにでもいるんじゃねーか?」
ユリカの方を見もせずに答えるウリバタケ。
「イネスさんの所に?」
どうして?という顔をするユリカにウリバタケが少し驚いた顔をする。
「何だ艦長、知らねーのか?
あいつはイネスさんがお気に入りらしくてな、オフの時間は医務室に入り浸ってるんだよ」
「そうなんですか・・・じゃあ、2人のパイロットはそのうち紹介しますね」
ユリカはリョーコ達の方に向き直ってそう言うと、
3人を部屋に案内する為リョーコ、ヒカル、イズミ、ゴート、プロスとともに出て行った。
昼時、食堂。
219人分の食事を6人で作らなくてはいけない為、食事時はホウメイ達は大忙しである。
「はいよ、A定食、お待ちっ」
「忙しそうですねー」
注文したA定食を運んできたホウメイに声をかけるヒカル。
「なにせ人手が足りないもんでね。
せめてもう1人コックがいれば、もうちょっと楽なんだろうけどねぇ」
「あ、それいい!
かっこいい男の人とか、来ないかなぁ」
近くのテーブルにきしめんを運んできたサユリが口を挟む。
「ほら、無駄口叩いてないで、働く働く!」
「はぁいっ」
ホウメイに一喝され、厨房に引っ込むサユリ。
食堂から出てきたリョーコ、ヒカル、イズミ。
「ねぇねぇ、パイロットの2人に会いに行かない?」
ヒカルが提案する。
「はあ?なんでわざわざ。
どうせ嫌でも会う事になるんだ」
面倒くさい、と言う顔のリョーコ。
「いいじゃん、どうせ暇だし。
一応一緒に戦う人達なんだよ?
どんな人か気にならない?」
「・・・まぁいいか。
イズミはどうする?」
「・・・アルカリ性の反対・・・それは酸性・・・くくく・・・」
「・・・賛成なんだな?
じゃあ、行くぞ」
怒鳴りたい気持ちを押し殺してとりあえずヤマダの部屋へ向かうリョーコ。
ヤマダ・ジロウの部屋前。
「ヤマダ・ジロウ」と言う文字が下手な字で「ダイゴウジ・ガイ」と直されている。
「ここでいいんだよな?」
その表札を見て立ち止まるリョーコ。
「うん、ヤマダさんって人は自分ではダイゴウジ・ガイって名乗ってるって、さっきウリピーが教えてくれたよ」
「誰だよウリピーって・・・」
「整備班の人だよ。
格納庫で会ったでしょ〜」
「ああ、あのオヤジな。
しかしヤマダってのは一体どういう奴なんだ・・・」
「それは、会ってみればわかるって」
そう言ってインターホンを押すヒカル。
ぴんぽーん。
・・・返事がない。
ぴんぽーん、ぴんぽーん。
・・・・・・返事がない。
ぴぽぴぽぴぽぴぽぴぽぴぽぴんぽんぴんぽーん。
・・・・・・・・・やはり返事がない。
「・・・留守なのかなぁ?」
ドアに手をかけると、ドアが開いた。
「あ、開いた」
と思うと、中から大音量で誰かの声が聞こえてくる。
『すまない、ナナコさん・・・やっぱり、海には、行けそうもない、ぜ・・・』
『ジョーーっっ!!』
「な、なんだぁ?」
「あ、これって!」
そう言うと中に飛び込むヒカル。
「お、おい」
「あーっ、やっぱり、ゲキガンガーだーっ!」
「な、何だよあんた」
突然入ってきたヒカルにヤマダが驚いて振り返る。
「やっぱジョーってサイコーですよねー!」
ヤマダの言葉が聞こえているのかわからないが、目を輝かせて語りだすヒカル。
「おおっ、わかってくれるか!!」
感激してヒカルの手をとるヤマダ。
「何だよ、電気消して、男が1人で何やってんだよ・・・って、何してんだ、お前ら」
ヤマダがヒカルの手を取ったまま、ゲキガンガー談義に花を咲かせる2人。
何を言っても聞こえていない。
「ダメだ、マニアの世界に入ってる・・・ほっといて行くか、イズミ」
呆れてヤマダの部屋を出るリョーコ。
医務室前廊下。
「確かもう1人は医務室だって艦長が言ってたな。
でももうあれから随分経ってるよな。
まだいるのか?」
そう言いながら医務室に入るリョーコ。
中に入ると、イネスとコウジがリョーコ達の方を見る。
「あら?あなた達は、確か新しく配属されたパイロットね?
何か御用かしら?」
リョーコに話し掛けるイネス。
「ああ、あんたがイネスさんだな。
で、ここにいるパイロットっていうのは・・・」
「僕ですけど?
僕に御用ですか?」
「いや、別に用って訳じゃないんだけど・・・」
(そういや、会ってどうするって感じだよな。
やっぱヒカルを引っ張ってくるべきだったな・・・)
「ヒカルが暇だからここにいるパイロットに会いに行こうって言い出してな」
「ヒカルさん・・・もう1人のパイロットの方ですね」
「あいつはヤマダって奴の部屋でマニアな話をやってるよ」
「ああ、なるほど」
妙に納得したように言うコウジ。
ふとコウジの方を見るイネス。
しかしコウジの方ではその視線に気付いた様子はなかった。
「それにしても、お前がパイロット?
そうは見えないな」
「だって僕は本業は科学者ですからね」
リョーコの言葉にコウジがそう答えると、リョーコはかなり驚いた顔をする。
「科学者ぁ?
何で科学者がパイロットやってんだよ」
「臨時ですよ。
人手が足りなくて。
僕はたまたまIFSを持ってたものですから」
「ふーん、臨時ねぇ。
ま、とりあえずよろしくな。
今度手合わせでもしないか?」
リョーコが言っているのは、勿論バーチャルルームのシミュレーションの事だ。
「ははは、遠慮しときますよ。
本業の方にはとても敵いませんから」
「ちっ、つまんねー奴」
がっかり、という感じで呟くリョーコ。
新たな思いを乗せ、ナデシコは一路火星を目指す・・・。
TO BE CONTINUED・・・
〜あとがき〜
イネス「何だか突然雰囲気が変わったわね」
――帰還者じゃない人の視点出すの初めてですからね。
要するに、前に言っていた「アキトのいないナデシコ」というのを書いてみたかったんです。
イネスさんの視点を外して。
イネスさんにとってはいるはずの人がいないわけですが、他の人にとってはいなくて当たり前なんですよね。
その辺を書きたかったのですが。
イネス「力不足ね」
――やっぱりアキトのいないユリカって考えられませんね・・・。
私のイメージではひたすらに「優秀な艦長」かなぁと思うんですが。
勿論ふざけてる部分もあるでしょうけどね。
イネス「それにしても、なんだかまとまりのない文章よね。
無理やり切った感じがあるし、セリフばっかりでまるで台本だし。
これは今に始まったことじゃないけど」
――・・・精進せねば。
イネス「でもあなたそう言って実際進歩した事ってほとんどないわよね」
――うぐっ!
・・・イネスさん、容赦無さ過ぎ・・・。
ちなみに今回私にとって一番のネックだったのはイズミが出て来てしまったこと・・・。
無理です。イズミのダジャレ。
もしかしたらイズミはほとんどセリフがないかもしれない・・・。
イネス「キャラの扱いを学びなさいよ?」
――はい・・・。
・・・次回はTV版と違うエピソードを書いてみたいと思います。
どうなることやら・・・。
イネス「本当にね」
――うう・・・(落涙)
それでは、こんな駄文を読んでくださる奇特な皆様、本当に有難うございます。
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代理人の感想
「受けない駄洒落を考えるのは受ける駄洒落を考えることの三倍の苦痛を伴う・・・・」
いや、私が言ってるだけですけどね(笑)。
実際キツイですね、イズミを活躍させるのって。
「寒い駄洒落」さえ出せればどうにかなるとは思うんですが・・・・出ないもんはしょうがない(爆)。
それはさておき・・・コウジくん、ちゃくちゃくと自分の正体をばらしつつあります(苦笑)。
本質的に隠し事には向いていないのかしらん。