どうも、作者です。随分と間が空いてしまいまして申し訳ありません。
皆さん私の作品などすっぱりと忘却の彼方だと思いますので、ここでざっとおさらいを致します。


イネスさんとアキト、ラピスはランダムジャンプで過去へ跳びます。
過去の火星に跳んだイネスさんは、そこでウラバ・コウジという青年と出会いました。
コウジと共に地球に降り、ナデシコに乗り込んだイネスさん。
しかし、そこにアキトの姿はありませんでした。
アキトが欠けたまま、ナデシコは火星へと近付きます・・・




機動戦艦ナデシコ
        あした
〜懐かしい未来〜 


第11話 “The Returned One”

「ここは・・・」

無機質な壁に囲まれた建物の中で、アキトは目を覚ました。
立ち上がって辺りを見回すと、何かの実験器具らしきものや、その制御装置が目に入った。

「・・・どこかの研究所か?」


あちこち歩き回ってみても、人の姿は全くない。

(どうやら、破棄された火星の研究所らしいな。
ランダムジャンプで別の場所に飛ぶとは・・・。
確かに「ランダム」ジャンプなんだが・・・前回と別の場所にジャンプアウトする事もあるのか)

そんなことを考えてふと壁を見ると、そこに掛けられた時計が律儀にも今の日付と時間を表示し続けていた。

≪2196年12月1日・・・≫

(・・・・・・ん?)

一瞬気にせず視線を戻しそうになるが、何か違和感を覚えてよく見つめなおす。

2196年12月・・・・・・

(・・・・・・なにぃっ!?)



「火星熱圏内、相転移エンジン反応下がりまーす」

ようやく火星に到着したナデシコ。

「なに、あれ?」

空中の光るものを見て、メグミが誰にともなく尋ねる。

「ナノマシンの集合体ね。
知ってると思うけど、ナノマシンと言うのは、小さな自己増殖機械。
といっても、パイロットやオペレーターのIFSに使われているものとは種類が違うわ。
火星の大気組成を地球に近付ける為、ナノマシンを使ったのね。
常に大気の状態を一定に保つとともに、有害な紫外線を防いでいるの」

当然説明を始めるイネス。

(・・・イネスさん、何でブリッジにいるんだろう・・・?)

とユリカが疑問に思ったがそれは愚問というものだ。
説明あるところイネスありなのである。

「そんなもの、ナデシコの中に入っちゃって大丈夫なんですか?」

「ナノマシンは基本的に無害よ」

「そうそう、火星ではみんなその空気を吸って生きていたんですから」

口を挟んだユリカが、イネスに睨まれる。
プロスが、なるほどと言うように発言した。

「そうか、艦長も生まれは火星でしたな」


「グラビティブラスト・スタンバイ。地上に第2陣がいるはずです。
 包囲される前に、撃破します!」

「艦首、敵へ向けてください」

ユリカの命令で、敵の方へ向きを変えるナデシコ。

「グラビティブラスト、発射!」

チューリップから出てきたバッタたちを撃破、周りの兵器群も誘爆する。

「敵影消滅、周囲30キロ圏内、木星蜥蜴の反応なし」


「これより地上班を編成し、揚陸艇ヒナギクで地上に降りる」

ルリの報告を聞き、珍しく積極的に指示をするフクベ提督。

「しかし、どこに向かいますか?」

「私、ユートピアコロニー、見てみたいな・・・」

ユリカがふと呟くと、皆がユリカの方を見る。

「生まれ故郷の?
 あそこはもうチューリップの勢力圏だよ、何も残っていない」

ジュンが厳しい顔で言う。

「でも・・・」

「やめなさい」

「えっ?」

反論しかけたユリカの言葉を静かに遮ったのは、意外にもイネスだった。
どこか悲しげな表情でユリカを見ている。
今度はみんなの視線がイネスの方に集まった。

「・・・いつ戦闘になるかわからない時に、艦長が艦を離れるべきではないわ」

少し視線を逸らして言うイネス。

(・・・なんか変な感じ。
ホントに、それが理由なのかな?)

どこか納得いかないユリカ。

「そうですね、ここは木星蜥蜴の勢力圏な訳ですから、いつ敵が現われるか分かりませんし。
 戦闘時に艦長がいないと困りますよ。
 それに、単独行動も危険でしょう?
 特にユートピアコロニーのような所に行くとなれば」

暫くイネスをみつめていたコウジが、フォローするように言う。

「えっと・・・じゃあ、ナデシコごと」

「ダメよ!」

再びユリカの言葉を遮るイネス。

「・・・やめなさい」

イネスの悲しげな切れ長の瞳にみつめられ、ユリカはそれ以上何も言えなくなってしまった。

「えー、話がそれてしまいましたが・・・まずは、オリンポス山の研究施設に向かいます。
 わが社の研究施設は一種のシェルターでして、一番生存確率が高いものですから」

プロスが、その場を取り繕うように話を進める。

結局ユートピアコロニーの話はそのまま流れてしまった。

(でもイネスさん、どうしちゃったんだろう?
あんな風に言うの、珍しいよね)

不思議そうにイネスを見つめるユリカ。

「それでは、地上班メンバーを」

「艦長、人選をお願いします」

ゴートとプロスがユリカに注目する。

「ええと、ネルガルの研究施設ですから、プロスさんとイネスさん、ウラバさん。
それからヒナギクのパイロットとしてリョーコさん。
そんなところでいいですか?」



(くそっ、まさか時間差が出るとは・・・)

焦るアキト。
第一次火星会戦の直前にアカツキから聞いたナデシコの出航日は、11月の初め。
・・・正史よりも早いのは火星から来た有能な人材を建造に当たらせた為だろうか。
とにかく、もうナデシコは出航してしまっているだろう。
しかし一旦地球に戻らないとまずい。
今アカツキの信用を失うわけにはいかない。

(CCは・・・・・・ない!?)

地球に跳ぼうとして、
アキトはジャンプの前まで持っていた筈のアタッシュケースがなくなっている事に気付いた。

(・・・そうか、さすがに素手でバッタは止められないから、その辺に落ちていた兵士の銃を使って・・・。
当然床に置いたんだな、アタッシュケースは・・・。
で、イネスさんのくれたペンダントヘッドに新しくつけておいたCCでジャンプをしたのか)

その時の事を思い出し、一時呆然とするアキト。

(・・・・・・)

(仕方ない、とりあえずラピスと連絡を取ってアカツキへの伝言を頼むか・・・)


ラピスに話し掛けようとすると、曲がり角の向こうから声が聞こえてくる。
段々近付いてくるようだ。
とりあえず、手近な実験器具の陰に隠れる。

「大体生存者がいたとして、ナデシコに乗る気があると思う?」

(ん? この声は・・・)

「火星を放棄して、さっさと退却した地球の人間を、まして戦艦一隻で火星から脱出しようなんて夢物語を。
 私なら信用しないわね」

声でそれが誰かはわかったが、それ以上にセリフに懐かしさを感じるアキト。
変わっていないな、と思わず笑みを浮かべる。
わざわざ同じ事を言う事もないのに・・・クルーへの嫌がらせのつもりなのだろうか?

「イネスさんか?」

隠れていた実験器具の陰から姿をあらわす。

「アキト君!?」

(イネスさんの驚いた顔って、初めて見たかも知れない)

などと呑気な事を考える。

イネスの他には、プロスとリョーコ、それにアキトの知らない男性――つまりコウジがいる。
3人はアキトとイネスを見比べるようにしている。

「生存者の方ですか?
イネスさんのお知り合いで?」

アキトの動向に注意しながら尋ねるプロス。
アキトは、それにあくまでクールに答える。

「俺はここの人間じゃない。ここに生存者はいない」

「じゃあお前は何なんだよ」

リョーコには信用されていないようだ。
無理もないが。

「ナデシコのクルーだ」

「はぁ?」

「会長に言ってある。
 ナデシコに乗る予定だったんだが、ちょっとした事故で遅れてしまった」

「もしや、テンカワ・アキトさんですか?
 乗船予定者に入っていながら現われなかった・・・」

プロスには連絡が行っていたらしい。

「そうだ」

「ほう・・・」

少し考えるプロス。

「いいのか? こんな奴信用して」

「彼については私が保証するわ」

アキトの方を向いたまま、リョーコに視線を向けて言うイネス。
それを見て、コウジが何となく複雑な表情をする。

「そうですなぁ・・・ナデシコは生存者の救出に来たわけですし」

プロスがそう呟いた時、プロスのコミュニケに通信が入る。

『地上班の皆さん、敵襲です!』

(やはり現われたか・・・)

メグミの言葉を聞いて、アキトとイネスは顔を見合わせる。

「急いでナデシコに戻るぞ!」

「ちょっと待ちなさい」

リョーコが叫んで駆け出そうとするが、イネスがそれを制止する。

「なんでだよ! ナデシコが襲われてんだぞ!」

リョーコが反論するが、イネスは取り合わず、ウィンドウのメグミに視線を向ける。

「メグミさん、敵の数は?」

『大型戦艦8、小型戦艦40・・・未だ増大中です』

「・・・前回より多いな」

メグミの言葉を聞いて、イネスの隣でアキトが小さく呟く。

「そのようね」

イネスも小声でそう返してから、リョーコの方に向き直る。

「この数が相手では、今ヒナギクを出すのは無謀だわ。
 真っ先に撃墜されるのは明らかね。
 それに、ヒナギクを収容するには、ナデシコのディストーションフィールドを切らないといけない。
 この状況下でそれは命取りよ」

「ふむ、もっともな意見ですな」

プロスも賛同する。

「だからって、ナデシコが襲われてるのをただ見てろってのか!?」

いきり立つリョーコ。

「いずれにしても出来る事はないわ、エステバリスで出ても即撃墜されるだけよ。・・・艦長?」

イネスが視線を向けると、ウィンドウがユリカに切り替わる。

(ユリカ・・・)

その映像を見て、顔には出さずとも激しく動揺するアキト・・・

『イネスさんの仰る通りです、地上班の皆さんはヒナギクで待機していて下さい。
 戦闘終了次第、収容します』

恐らくウィンドウにも映っていないであろうアキトの心境など知る由もなく、
威厳を持って指示を下すユリカ。

「了解です、艦長」

コウジのその言葉で、ユリカのウィンドウが消える。

「艦長命令です、ヒナギクで待機していましょう、リョーコさん」

「くそっ・・・」

静かに送られたコウジの言葉に対して、リョーコは悔しさを隠せなかった。


「でも、まさかここで会えるとは思わなかったわ」

走ってヒナギクに戻りながら、イネスが小声でアキトに話し掛ける。

「俺もこんな所に跳ぶとは思わなかったよ」

(ましてや時間差が出るとはな)

「ラピスには連絡したの?」

「しようと思ったんだが、イネスさん達が来てしまったからな」

「状況が落ち着いたら連絡してあげなさい。
 最初パニックになってたのよ、あの子」

「そうか・・・」

「まぁ、残りは後で話しましょう」



アキトのいた所は研究所の比較的奥の方だったらしく、ヒナギクの所まで戻るには多少時間がかかった。
ようやくヒナギクまで辿り着き、5人は急いで乗り込む。

因みに、ナデシコは少し離れた場所にいる。
研究所に人がいた場合を考え、戦闘になっても巻き込まない為の配慮だ。
イネスの提案である。


戦闘の状況を把握しようとプロスがコミュニケを開いたそのとき、
ナデシコがグラビティブラストを発射した。

敵艦を白い光が包む。
モニターにも白い光が溢れる。
しかし、閃光がおさまった時モニターに映っていたのは、無傷の戦艦だった。

「グラビティブラストを持ちこたえた!?」

リョーコが驚きの声をあげる。
信じられないと言う顔のリョーコに、イネスが解説をする。

「敵もディストーションフィールドを使っているのよ。
 向こうの技術も進歩しているという事ね。
 お互い、一撃必殺とはいかないわ」

そう言っている間にも、前方のチューリップからは絶え間なく戦艦が出現する。
出現した戦艦は、ナデシコの上方に回りこんでいく。


『敵艦に重力波反応』

『全エネルギー、フィールドの強化を最優先!』

敵艦が主砲をチャージする。

一瞬の後、ナデシコのモニターは再び白い光に包まれた。



TO BE CONTINUED・・・



〜あとがき〜

イネス「無理のある展開ね」

――やっぱり戦闘シーンは苦手です・・・。
じゃあ何が書けるんだ、と言われると困るんですけど。

イネス「先手を打ったわね・・・」

――と言うか、今回実は穴だらけなんですよね・・・ナデシコ出航日を勘違いしていたのが最大のミスでして。

イネス「TV版ではまだ出航していないわよね、本当は」

――恐らく・・・。しかしそれに気付いたのがかなり後の事で、修正不可能になってしまったのです。
  それに、多分TV版でも時間差は出ていたんでしょうし・・・。

イネス「確かに穴だらけね」

――あうう・・・。しかし、プロットの関係で変更するわけには行かなかったのですよ・・・
  それは15話くらいになれば分かって頂けると思いますが。

イネス「要するに、11月初めくらいに出航したことにしておいて欲しいと」

――はい、すみません・・・。
  何はともあれ、ようやくアキトが合流しました。
ちなみにアキトはナデシコクルーに対して敬語を使いません。
理由は簡単、使うとコウジとかぶるからです。

イネス「なんて無茶苦茶な・・・。そういえば今回ウラバ君出番少なかったわね」

――多分この後3話ぐらいは出番少ないと思います。その分アキトメインでいきますので。
それでは。こんな駄文にお付き合い頂き有難うございます。
感想は掲示板にお願いします。

 

 

 

 

代理人の感想

 

お久しぶりの涼水夢さんでした。

って、他人事みたいに言えるような立場でもないんですが(爆)。

 

さて、謎なのは何故アキトがこの時間軸、この場所にジャンプしてきたか。

これに尽きますね。

アキトの無意識が遺跡に伝達したイメージからジャンプアウトの時間と場所が決まるのであれば、

一度も関わりのなかったこの時間、この場所に出現する事はないはず。

ならば何らかの未知の要因があったと見るのが妥当でしょう。

・・・何かはわかりませんけどね。