機動戦艦ナデシコ
        あした
〜懐かしい未来〜 


第13.5話 “The One and Only Precious Thing”

アキト君が出て行くと、私は布団から出てベッドに腰掛けた。
まだ、何となくだるさが残っている。

まぁ、大丈夫でしょう。
・・・ウラバ君なら、寝てて下さいって言うんでしょうね。
そう考えると、何となく複雑な気分になった。
どうして、彼はそんなに私を慕ってくれるのかしら・・・。


彼に関して、引っかかる事がある。
1つは、大体答えは出ている。
でも、もう1つ、引っかかる事が・・・。

・・・それよりも今は、もう一仕事しないとね。
そう、今するべきことは1つ・・・

「オモイカネ、艦長の居場所を教えて」



「あら、艦長」

艦内の一角。
努めて偶然を装って、ユリカ嬢に声をかける。

「・・・イネスさん」

目に見えて沈んでるわね・・・無理もないか。
全く・・・本当にバカなんだから、アキト君は。

「・・・元気ないみたいね。
 私でよければ、相談に乗るけど?」

「そんな事無いですよ? ほら、元気元気!」

そう言って笑顔を見せるユリカ嬢。
でも、はっきり言って元気じゃないのは明らか。
まぁ、私で良いわけは無いか。

「元気には見えないわね」

「・・・」

見破られている事がわかると、ユリカ嬢は再び沈黙する。
そのまま私も黙っていると、暫くしてユリカ嬢が口を開いた。

「・・・あの・・・」

「とりあえず、私の部屋にでも来る?」



「まぁ座って」

私の言葉に従って、椅子に座るユリカ嬢。
そして、単刀直入に切り出してくる。

「イネスさん、アキトの事好きですか?」

「・・・さあ、どうかしら」

「イネスさんっ」

私のとぼけた答えに、少し責めるような口調が返って来る。

「勿論嫌いじゃないけど、あなたの言う『好き』かどうかと言うとそれはわからないわね」

私の言葉に、ユリカ嬢は何も答えなかった。
これじゃ埒があかないか。
・・・言っても、問題ないわよね。

「艦長は、さっき・・・じゃないか、3時間半くらい前かしら、アキト君が言った事を気にしてるの?」

「!?」

私の言葉に、ユリカ嬢はあからさまに驚いた顔をする。

「たまたま通りかかったものだから、聞いちゃったのよ。
 アキト君が私を好きだと思ってるんでしょう?」

返って来たのは、無言の肯定。
さて、問題はここからどうやって納得させるか、ね・・・。

「あれは、本心じゃないと思うわよ」

「なんでですか?」

ユリカ嬢と離れていた時のアキト君を知っているから、なんだけど・・・そんな事言ったら逆効果よね。

「そうね・・・彼は本心を口に出せない人だから。
 そう思わない?」

「そうですね、アキトは照れ屋さんだから」

ちょっとは浮上してきたみたいね。

「艦長は、アキト君が好きなんでしょ?」

「はい! 私はアキトが大好き!
 それだけは絶対負けません」

「・・・艦長、それ言ったの何度目?」

「へっ?」

唐突な私の言葉に、きょとんとするユリカ嬢。

「『私はアキトが大好き』って、アキト君に言った事ある?」

「そう言われると・・・どうだろう」

遺跡で初めて言ったそうだから、多分、今の時点ではまだ言った事は無いはずね。
ユリカ嬢にとっては、それは当然過ぎる事だったのね、口に出す必要も無いほどに。

「その気持ちをぶつけてみなさい。それは、きっと伝わるから」

「・・・そうですよね、暗いのなんて、私らしくないですもんね。
 うん、頑張ります!」

立ち上がり、決意を込めて言うユリカ嬢。
それでこそユリカ嬢ね。
ただ、1つだけ・・・1つだけ、確かめたい事があった。
それは、アキト君に好意を寄せる者として・・・。

「艦長・・・アキト君の全てを、受け入れられると思う?
 アキト君が、どんな過去を持っていても、アキト君の全てを好きになれる?」

私の言葉にユリカ嬢は一瞬きょとんとしたようだったが、すぐに笑顔で答えた。

「私はアキトが好き。
 アキトの事なら全部知りたい、アキトと一緒にいれば、私はそれで幸せです」

まぁ・・・合格ね。
笑顔で答えたユリカ嬢に、私も笑顔を返した。

「頑張ってね、艦長。
 『自分らしく』・・・それが、あなたのいい所なんだから」

「はいっ!」

元気に返事をして、ユリカ嬢は部屋を出て行った。


アキト君、悪いけど、これだけはあなたの思い通りに行かせる訳には行かないの。
ユリカ嬢と一緒になるのが幸せ、なんて押し付けるつもりは無いけど、ユリカ嬢の気持ちも知るべきね。
そう、これはお仕置きよ、勝手に逃げようとした・・・ね。

そう考えて、私はユリカ嬢の出て行った扉を見つめながら笑みを浮かべた。
期待してるわよ・・・艦長。



TO BE CONTINUED・・・


〜あとがき〜

イネス「13.5話?」

――はい。本当は14話に組み込む予定だったんですが、時間的に無理があったので、独立させました。
  まぁ、サイドストーリーみたいな感じで・・・。

イネス「それにしても短いんじゃない?」

――ほとんどアイデアの断片・・・その辺はお許しを・・・。

イネス「久し振りに一人称だし、本編とは違うんだ!って言い張りたいんでしょう」

――ぎくっ。いやでも、このエピソードが本編に関係ないわけではないのですが。

イネス「まぁ、今回はこんな所ね。
    それでは、このような駄文にお付き合いいただき、有難うございます」

――感想は掲示板にお願いしますね〜。

 

 

代理人の感想

なんか・・・ユリカもイネスさんも「らしい」ですね、実に。

特に「これはお仕置よ」の辺りのフィット感(?)なんか小気味良いほどです。

さて、次回ウラバくんの秘密が遂に明かされる・・・・かも。(根拠無し)