機動戦艦ナデシコ

        あした
〜懐かしい未来〜

 

 

 

 

第1話 “The Wishes”

 

 

 

火星の後継者との戦いの後・・・

ネルガル月ドックにて。

 

「アキト君!お帰りなさい。

 ユリカさんは・・・?」

 

ドックに戻ったユーチャリスをエリナが出迎えた。

 

「ルリちゃん達が助け出した。

 後はルリちゃん達に任せておけば大丈夫だろう」

 

「・・・会って、来なかったのね」

 

「俺はあいつを助ける為とはいえ、多くの人を殺してきた。

 俺には、あいつに会う資格なんて無い・・・」

 

「アキト君・・・」

 

それは、前からアキトが言っていた事だった。

エリナも、何度もユリカを助けたらユリカの元に戻るべきだと言ってきた。

しかし、その度にアキトは、自分にはその資格が無いと繰り返してきたのだった。

 

「それより、頼みがある」

 

短い沈黙を破ってアキトが言った。

 

「何?」

 

「ラピスを、引き取って欲しい」

 

「ラピスを!?」

 

驚くエリナ。ラピスも拒絶の意思を示す。

 

「いや!!アキト!!私、アキトのそばにいる!!」

 

「ラピス、エリナが嫌いなのか?」

 

「・・・嫌いじゃない。でも、アキトのほうがいい!!」

 

「ラピス、俺といても不幸になるだけだ」

 

「いや!アキトのそばにいたい!」

 

必死でアキトに訴えるラピス。

 

「アキト君、この話は後にしましょう。

 あなたには休息が必要よ。

 イネス博士に連絡を取るから、そうしたら検査も受けた方がいいわ。

 もう戦いも終わったんだから、ラピスの話は、その後でもいいでしょう?」

 

その場を治めるようにエリナが言う。

 

「・・・わかった」

 

 

 

エリナが用意してくれた部屋に入ったアキトとラピス。

さっきの事がこたえたのか、ラピスも黙りこくっている。

 

(俺はもう存在すべきではない人間だ。

 俺がいても回りの人を不幸にするだけだ。

 本当は今すぐにでも消えるべきなんだ。

 でも、出来ればラピスの事はちゃんと決めておきたい・・・)

 

 

 

次の日。

同じく月ドック、エリナの部屋に警告を示すウィンドウが開く。

 

(ボース粒子反応・・・?)

 

エリナの目の前に、青い光が収束していく。

やがてその光は、1人の女性を形作る。

 

「・・・やっぱりあなただったのね。イネス」

 

「ただいま」

 

「ただいまって・・・ユリカさんは?」

 

「地球の病院に入院させて来たわ。

 2年近くも遺跡と融合されていたから衰弱はしているけれど、命に別状は無さそうよ。

 ただ運動機能は低下しているから、リハビリは必要でしょうね」

 

「そう・・・って、地球!?

 まだあれから1日しか経ってないのよ!?」

 

「ボソンジャンプで連れて行ったに決まってるでしょ。

 ナビゲートする方はともかく、される方は大して負担も受けないから。

 あの後ボソンジャンプで地球まで跳んで、治療をして、

 一晩様子を見て大丈夫そうだったからすぐこっちに来たのよ。

 アキト君、来てるんでしょ?」

 

「ええ。

 ・・・それでね、アキト君が・・・」

 

「どうかしたの?」

 

「ラピスを引き取ってくれ、って言ってきたのよ」

 

「ラピスを?」

 

「ラピス本人は拒否したけどね。

 アキトのそばにいたい、って必死で訴えてたわ」

 

その言葉を聞いてイネスが微かに笑う。

 

「随分となつかれたものね、アキト君も」

 

「笑ってる場合じゃないでしょ!

 その言葉がどういう意味か、わからないの!?」

 

怒りを露わにするエリナ。

そうは見せないが、アキトの言葉でかなり動揺していたようだ。

 

「わからないわけ無いでしょ。

 予想はしてたのよ。

 だから、急いでここに来たんじゃない」

 

冷静な顔になるイネス。

エリナも落ち着きを取り戻す。

 

「イネス、もしかして・・・」

 

エリナの言葉に、軽く肩を竦めるイネス。

 

イネスは火星までナデシコBを跳ばした後、ユリカを助け出してすぐに地球まで跳び、

一睡もせずにユリカの治療をして、そのまま月までジャンプしてきたのだ。

 

「あなたそれ、自殺行為よ」

 

その事を悟ったエリナは、どこか呆れたように言う。

 

「死にはしないわよ、いくらなんでも。

 ・・・こうでもしなくちゃ、アキト君が死ぬかもしれないしね・・・」

 

後半は独り言のように呟く。

 

「えっ?」

 

「さあ、無駄話をしている暇はないわ。

 アキト君は、何処にいるの?」

 

 

 

イネスは、やたらと広いドックの中を医務室に向かって歩いていた。

 

アキトにはエリナが連絡を入れている。

もう医務室に着いているはずだった。

 

歩きながらイネスは、先ほどのエリナとの会話を思い出していた。

 

『ところで、ラピスの事はどう決まったの?』

 

『正式には決まってないわ。

 ラピスがアキト君と離れる事を頑なに拒んでるし・・・。

 ただね、アキト君、ラピスの注意がそれた時にこう言ったのよ・・・』

 

エリナのその言葉を思い出すと、イネスは嫌な予感を感じずにはいられなかった。

 

『もし引き取らないとしても、俺がいなくなった時には、ラピスの面倒を見てくれるか、って・・・』

 

『それであなた、なんて言ったの?』

 

『断れる訳が無いじゃない。

 いなくなったら許さないわよ、とは言ったけどね』

 

『そう・・・』

 

 

もしかしたらその時エリナは、断っておくべきだったのかもしれない。

 

(いなくなったりしないでよ・・・)

 

予感だとか、勘などというものは、科学者であるイネスにとっては当てにしてはいけないものだった。

それでも、イネスは自分の中の嫌な予感を否定する事が出来なかった。

 

(・・・お兄ちゃん・・・)

 

イネスが医務室に着くと、アキトが椅子に座っていた。

ラピスの姿は無い。

エリナの話によれば、ラピスが落ち着かなかった為に薬で眠らせたらしい。

 

「こんにちは、アキト君」

 

「ああ。それにしても、随分早く帰って来たな、ドクター」

 

アキトの言葉を聞いてイネスが少し顔をしかめる。

 

「・・・そんな呼び方しないで。

 名前で呼んでよ」

 

基本的にイネスは、肩書きで呼ばれるのが好きではない。

自分が誰でもないような気がするからだ。

相手に多少なりとも好意を持っている場合は尚更だった。

特にアキトには、『自分』の存在を認めて欲しかった。

 

「ユリカはどうした?イネスさん」

 

アキトはイネスの言葉を聞いても表情を動かさなかったが、ちゃんと呼び方は変えていた。

それを聞いてイネスは微笑む。

 

イネスが嬉しかったのは、呼び方を変えてくれた事よりも、アキトが一番初めにユリカの事を聞いたことだった。

 

「大丈夫、衰弱はしているけど、命に別状は無いわ。

 運動機能が低下しているから、リハビリは必要だけどね。

 ・・・それにしても、やっぱり気になるのね、ユリカ嬢の事が」

 

イネスにしては驚異的なほど説明をはしょって、アキトを見つめる。

 

「アキト君にとって一番大切な人、でしょう?

 そして、ユリカ嬢にとっても、あなたは大切な人。

 それはルリちゃんや、私達にとっても同じ。

 大切な人の側にいられないのは、辛いわよ」

 

「俺は血で汚れすぎた。

 ユリカの側にいる資格は無い」

 

決意を込めて言うアキト。

 

イネスは、それ以上何も言わなかった。

いや、言えなかった。

アキトの決意の固さを感じたから、そして、一番辛いのはアキトだと、わかっていたから・・・。

 

(でも、どこかに消えたりしないで・・・)

 

自分の心からの思いを、イネスは口に出すことはしなかった。

 

「じゃあ、検査をしましょう」

 

少しの間の後、イネスが切り出した。

 

「ああ」

 

検査といっても、ナノマシンのデータを取るだけだ。

アキトの場合、全身に高濃度のナノマシンが行き渡っている。

ナノマシンのデータを見れば、身体的な異常も感知できる。

むしろその方が確実だった。

 

「アキト君、あなた、相当無茶してたわね」

 

打ち出されるデータを見て、イネスはアキトに言った。

 

「下手したらナノマシンが活動限界に到達するところよ。

 暴走しなくて良かったわ、本当に」

 

「・・・そうか」

 

「まぁ、ゆっくり休むことね。

 とりあえずナノマシンの活動を抑制する注射をしてあげるから、暫くおとなしくしていなさい。いいわね」

 

「ああ、わかった」

 

アキトに何本か注射を打つと、イネスは医務室を出て行った。

 

それを見送るアキト。

 

(ユリカは無事か・・・良かった)

 

(しかしきっとユリカはリハビリが終わったら俺を追いかけて来ようとするだろう)

 

(ユリカは俺を忘れて幸せになるべきだ。

 俺といても幸せにはなれない)

 

(ラピスはエリナが世話をしてくれる。

 ルリちゃんも、ユリカがいれば大丈夫だろう)

 

(俺は、消えるべきだ・・・)

 

医務室を出たイネスは、エリナの所に向かう途中で立ち止まった。

 

(お兄ちゃんが、遠くにいっちゃう・・・)

 

「え?」

 

唐突に浮かんだ思考に戸惑いながらも、アキトのいる医務室の方を振り返る。

 

その時、エリナから通信が入った。

 

「イネス!医務室にボース粒子反応・・・」

 

「!!」

 

エリナの言葉を最後まで聞かず、医務室の方に走るイネス。

 

この時イネスは、ほとんど直感だけで行動していた。

 

 

 

「アキト君、待って!」

 

そう言って医務室のドアを開けた時、アキトの周りにはジャンプフィールドが形成されていた。

 

・・・ランダムジャンプをしようとしている・・・

 

イネスは直感的にそう感じていた。

 

アキトの方に駆け寄りながら、手を伸ばす。

 

「待って・・・お兄ちゃん!!」

 

ボソンの光が部屋を包む。

 

そして、その光がおさまった時、医務室には・・・

 

 

人の姿は無かった。

 

 

 

TO BE COUTINUED・・・

 

 

 

〜あとがき〜

 

――どうも。

小説を書くことに関しては激初心者の涼水夢です。

いやー、やっと投稿にこぎつけましたよ。

 

イネス「最初に宣言してから随分時間が経ってるんじゃないの?」

 

――をうっ、イネスさん!?

  ちょっと、色々と準備が・・・って、そうだ、イネスさん、いい所に!

 

イネス「何?」

 

――私をイネス後援委員会執行部長に任命して下さい!

 

イネス「『後方支援隊』じゃなかった?」

 

――ああ、あれは仮でしたから。『後援委員会』で行きます。

  『後方支援隊』の方が良かったとか言われれば変えますけど・・・。

 

イネス「で、執行部長に任命して欲しいと・・・。

    ・・・私が任命するの?」

 

――是非。

 

イネス「いいわよ、勝手にやって」

 

――わーい。

 

イネス「・・・。

    まぁ、役職に就いたからにはそれなりの働きをして頂戴ね」

 

――このシリーズは思いっきりイネスさんメインですから、大丈夫ですよ!

 

イネス「初心者のくせに続き物とはね・・・」

 

――実はほとんどまったくと言っていいほど先の展開を考えていなかったりするのですが・・・。

まぁ一生懸命頑張りますので、寛大な心で読んで下さると有難いです・・・。

ちなみに、タイトルの「懐かしい未来(あした)」は、ある曲の歌詞から取っています。

何の曲だか分かる人がいたら凄いです。

 

イネス「分かる人はいそうな気がするけど・・・」

 

――どうでしょうか。

それでは、こんな駄文を読んでくださった皆さん、深くお礼を申し上げます。

申し訳ありませんが感想は掲示板にお願いします。

では、また次回に。

 

 

 

 

管理人の感想

 

 

涼水夢さんから初投稿です!!

やっぱり、逃げるのには便利な能力ですよね・・・ボソンジャンプ(苦笑)

早速、逃げ出してます、アキト君。

ランダムといいうからには・・・やはり過去?

いやいや、意表をついて未来とか?

・・・未来に行って何するんだよ(爆)

 

それでは、涼水夢さん投稿有難うございました!!

 

涼水夢さんには感想メールを出す事が出来ません。

ですから感想は、この掲示板に是非とも書き込んで下さいね!!