機動戦艦ナデシコ
        あした
〜懐かしい未来〜 

 

 

 

 

第3話 “For the Wanted Future”

2195年、4月。

火星、ユートピアコロニー地下シェルター。

まだ木連による侵攻が火星まで及んでいないこの時期には、ここには少数の警備兵がいるだけだ。


イネスとの待ち合わせの為ここにやってきたアキトは、
とりあえず入り口にいた警備兵2人に軽く当て身をして気絶させる。
2人には、アキトの姿は見えていないだろう。


(他愛も無いな・・・)


気絶させた警備兵が持っていたカードキーで入り口のロックを開く。

(そういえば、あの時はこのシステムは既に死んでいたな・・・)

アキトの脳裏に、手動でドアを開けようとしている旨を大声で伝える兵士の声が蘇る。


がらんとしたシェルター。

このシェルターには勿論他にも入り口がある。
そこの警備兵が気付くかも知れないが、いちいち眠らせて回る必要も無いだろう。
見つかっても、イネスはジャンプで逃げられるだろうし、アキト1人ならどうにでもなる。


(このあたりだったかな・・・)

シェルターの一角に座ってイネスを待つ。

イネスがイメージするとしたら、広いシェルターの中でもこの一角だけだ。
つまり、あの時、2人が出会った場所・・・。


その時を思い出し、あの時、全てが始まったのかもしれない、と考える。
あのボソンジャンプをした時に。
その前にも両親が殺されたり、ユリカが火星を去ったり、いろいろあったわけだが・・・。

(少なくとも、彼女の運命はあの時に狂い出したんだ・・・俺がまた巻き込んでしまった、あの人の運命は・・・)

(やはり、俺と関わる人には不幸が降りかかる、というわけか・・・)

しかし、それがわかっていながら、自分はまた彼女を巻き込んだのだ。
ラピスもだ。
関わる人を不幸にしながら、自分は何をしようとしているのだろうか。
自分勝手この上ない事だとは分かっていながらも、しかし・・・。


(2度と、繰り返したくないだけだ・・・あの悲劇を・・・)


「何を、感慨に耽ってるの?」

突然後ろから声が掛けられる。

「いや、少し昔を思い出していただけだ」

その声が誰のものかは確認するまでもなかったので、振り返らずにそう答える。

「そう」

アキトの背後に立っていた金髪の女性は、アキトの横にあった資材の箱に腰掛ける。
その姿にどこか違和感を覚えるアキト。

「・・・イネスさん、なんか若返ってないか?」

「あら、鋭いわね。
まぁ、その話は後でちゃんと説明してあげるわ。
・・・それで?どうして、私を呼び出したのかしら?」

「そうだな・・・とりあえず、現状を把握したい」

このセリフを言うには多少の覚悟がいる。

次に続く彼女の満面の笑みとこのセリフ・・・。

「なら話が早いわね。
いいわ。説明しましょう」

覚悟をしていたとはいえ、アキトはやはり少し後悔していた。


「まず、この世界と元の世界の違いだけど・・・
この世界のアキト君は、3ヶ月前にこのユートピアコロニーで起きたクーデターで行方不明になっているわ。
私も同じ。
2ヶ月前にオリンポス研究所で起きた事故で行方不明になっている」

「ああ、その辺はラピスに聞いた。
歴史が是正されているのか?」

「そうかも知れないわね。
私達のいた世界と歴史が違っているわけだから、この世界は、いわゆるパラレルワールドだと考えられるわね。
でもそれ以外の歴史に変化は無いようよ。
・・・ラピスはどれくらい調べたのかしら?」

「今イネスさんが言ったところまでだ。
歴史の変化について調べてもらった。
確かに、他の歴史に変化は無い。
ネルガルの外部もだ。
その2つの事件に巻き込まれた人は別としてな」

「さすがラピスね」

「ラピスがどうしてあそこに居るのか分かるか?」

「仮説だけどね。
おそらく、ラピスはアキト君がランダムジャンプをしようとした事をリンクを通じて感じ取ったんでしょう。
それで、リンクを最大まで開いて、アキト君と一緒にジャンプしようとしたのね。
でもラピスの体はジャンプフィールドに入っていない。
その結果、リンクしている精神だけがジャンプして、この世界のラピスの体に入った、
といったところじゃないかしら」

「・・・そうか」


どうしてラピスがそこまでしてついてくるのか、アキトには理解できなかった。

(俺と一緒に居たって、幸せになれる訳が無いというのに・・・)


「それで、ジャンプの状態についてだけど。
アキト君、五感は戻っているんだったわね?」

「ああ。ジャンプしてきて、気がついた時にはもう戻っていた」

「でも、その体はこの世界のものではないわよね?」

「勿論だ。
この服を着ているんだからな。
それに、身体能力も変わっていない」

ちなみにアキトは、あの黒マントを着ている。
バイザーは、今は外しているが、ちゃんと持っている。

アキトの答えを聞いて、イネスは満足そうに頷いた。

「そうね。で、さっきアキト君も言った私の事についてだけど。
この体もこの世界のものでないのは間違いないわ。
絶対に、いるはずの無い所に居たから。
服も変わっていなかったしね。
でもこの体が、私たちの世界から見て約5年前のものであるのも、間違いなさそうなの」

「どういう事だ?」

「ボソンジャンプの時には、物質は一旦ボース粒子に変換されて、遺跡で再変換される。
遺跡の演算ユニットというのは時間修正の計算だけでなく、
そういったボソンジャンプのシステムそのものも管理しているわ。
もし何らかの理由でその演算にミスが生じたとしたら?
再変換の時に間違いが起これば、物質が元通りに再構成されない、という事も考えられるわよね」

「恐ろしい事考えるな・・・」

イネスの言う事が事実だとすれば、ジャンプの度にそういう危険があるという事になる。
下手をしたら、体の一部だけ無いとか・・・。

考えたくもない可能性に行き着いて、必死でその考えを振り払うアキト。

「でもはっきり言って、普通じゃこんな事ありえないわ」

淡々と説明を続けるイネス。

「どういう事だ?」

「演算にそんな大規模なミスがそう簡単に起こるとは思えないって事よ。
 私達以上にジャンプを理解していたであろう古代火星人が、
 遺跡を作る際、ランダムジャンプに関して何も対処していなかったとは思えないわ。
 ましてや、再変換に異常が出るほどの演算ミスなんて・・・」

「・・・何が言いたいんだ?」

既にちっともついていけていないアキト。

「とにかく、ジャンプの時に遺跡に何らかの異常があったのは確かね。
現に私達はパラレルワールドに跳んだわけだし・・・
それに、アキト君のジャンプフィールド発生装置も異常があるって言ってたわね?」

「ああ。異常どころか、ジャンプフィールドが発生しない」

「ランダムジャンプの影響でしょうね。
私達が同じ世界の同じ時代に跳んだ事からして奇跡的だわ」

「でもその『何らかの異常』っていうのは何なんだ?」

「現時点では不明、ね。
仮説は考えられなくも無いけど、情報が少なすぎるわ。
その時の遺跡の動きを調べる事も出来ないし・・・」

「そうか」

「パラレルワールドの間のボソンジャンプを制御するのは理論上不可能。
今のところ、元の世界に帰れる可能性はほとんどゼロに近い。
で、どうするつもり?アキト君」

「そうだな・・・第一次火星会戦まで、俺はここに居た方がいいだろうか?」

「あの子の事?
別にあの子がここで死んでも私は消えないわよ。
でも歴史に変化は起こるわね」

「じゃあここに居る事にするか・・・自由にジャンプする事も出来ないわけだからな」

「ジャンプフィールド発生装置ね。
悪いけど、あそこまで複雑なシステムは私ではどうしようもないわ。
ウリバタケさんなら直せるでしょうけど。
ああそういえば、アキト君、ナデシコには乗るつもり?」

「ああ。ナデシコに乗っていた方が何かと都合がいい」

「そう。・・・他に私が手伝う事とか、あるかしら?」

「とりあえず、ナデシコには乗って欲しい」

「勿論、そのつもりよ。
この時代の研究なんてしててもおもしろくないわ」


それはそうだろう。
蜥蜴戦争の前後で科学は飛躍的に進歩しているのだから。
この時代で研究している事のほとんどは、5年後にはもう分かりきった事になっている。


「今のところ、頼みはそれだけだ。
ナデシコに乗ってから、いろいろと協力してもらう事になると思うが・・・」

「いいわ。じゃあ、これを渡しておくわね」

立ち上がったイネスは少し背伸びをして、アキトの首にペンダントを掛ける。
ユートピアコロニーからジャンプした時、アキトが掛けていたものに似ていた。

「CCか」

「そう。無いと困るでしょ?」

「ああ、ありがとう」

「ふふ、その服でも、意外と似合うわね」

そう言って笑うイネス。


(よく考えたら、俺とイネスさんの歳の差ってたった4歳になってるんだよな・・・肉体年齢だけど。
・・・・・・ああ、何考えてるんだ、俺!)

その笑顔を見て、思わず不謹慎な事を考えるアキト。
何処となく性格がナデシコAの頃に戻っているようだ。


「じゃあ私は研究所に戻るわね。
ナデシコで会いましょう」

「ああ」

アキトがそう言うと、イネスの姿はその場から消えた。


(さて、俺も作業に取り掛かるか)

まずは、アカツキと連絡を取らないといけない。
何をするにしろ、ナデシコに乗る以上ネルガルとの協力は不可欠だ。
幸い、イネスからCCを貰っているし、こっちにはラピスもいる。

リンクを通じてラピスに話し掛けるアキト。

『ラピス、アカツキに通信を送ってくれ。
アカツキ本人に、直接だ』

『なんて送るの?』

『取引をしたい。今から行く、と』

『分かった』


『アキト、通信、送ったよ』

少しの間の後、ラピスから報告が来た。

『ありがとう、ラピス』


――ジャンプ先、固定。
ペンダントのCCが青い光を発する。

「・・・ジャンプ」


TO BE CONTINUED・・・



〜あとがき〜

――今回説明の塊ですね・・・。
それにしても、何だか段々短くなってきているような。
しかも、未だにナデシコに乗り込んでさえいない・・・。

イネス「一体全何話になるのかしらね」

――少なくとも30話は越えるんじゃないかと。

イネス「その間にどれだけ進歩するか見ものね」

――うっ・・・。
そ、それでですね、イネスさんには若返ってもらいました。

イネス「無理やり話題を変えたわね・・・」

――ちょっとあのままだと、クルーとの年齢差が・・・。

イネス「・・・この前あれだけやられたのにまだ懲りていないようね。
後で医務室にいらっしゃい」

――そ、それはちょっとご勘弁を・・・涼水夢はヤマダ・ジロウとは違うんですよぅ。

イネス「じゃあこの先を代わりに説明するわね。
2人が跳んだのは元の世界から言って大体6年前なのに、私の体は約5年前、28歳の頃のもの。
それは、遺跡に残っている私の情報というのは私がボソンジャンプした時のものであるだろうという
作者の勝手な推測からきているの。
つまり、火星から月へボソンジャンプした時の情報ね」

――結果的にイネスさんは正史より1歳上になってしまうのですが・・・。
まぁ、アキトとの年齢差は小さくなってるし・・・。

イネス「まぁ、許すとしましょうか。
あのまま跳ばされるよりはずっとましだしね」

――ほっ・・・。

イネス「でも後で医務室に来なさいよ」

――ぐはぁっ!

イネス「精神崩壊を起こしかけてる作者の遺言によると、
『次回もアキト視点の予定です。例によって初めしか考えていないのですが。何とかなるでしょう!!』
だそうよ。・・・お仕置き追加ね」

――いやだぁっ、まだ死にたくないぃぃぃーーっ!

イネス「それでは。
このような駄文にお付き合いいただき誠に有難う御座います。
感想は掲示板にお願いしますね」

 

 

 

管理人の感想

 

 

涼水夢さんから投稿です!!

活躍してますね〜、イネスさん。

その上若返りですか?(笑)

アキトもなんだか意識をしてますし。

・・・このままアキト×イネスにGO?

さてさて、どうなる事やら(苦笑)

 

それでは、涼水夢さん投稿有難うございました!!

 

涼水夢さんには感想メールを出す事が出来ません。

ですから感想は、この掲示板に是非とも書き込んで下さいね!!