暖かい日差しが障子に阻まれ、柔らかい光となって部屋に差し込んで来ている。
コウイチロウは一人、仏壇に向かって手を合わせていた。
立てられた線香はゆっくりと煙を立ち上らせている。
どれほどの時、そうしていただろう。
線香はいつの間にか、短くなっていた。
「・・・ユリカが結婚すると言ってきた」
仏壇に飾られている写真に向かって、コウイチロウはようやく口を開いた。
「・・・いつかはその時が来るとは思っていたが・・・。正直、もっと先だと思っていたよ」
自分が思っていたことと現実の差に苦笑を浮かべる。
「・・・相手は火星での幼馴染のアキトくんだ」
亡き妻に、娘の結婚相手を紹介する。
「良い、青年だ。まぁ、まだ子供なところはあるが・・・。見込みはある」
真っ直ぐと前を見つめ続け、決して諦めることをしなかった青年。
それをユウイチロウは信じた。この青年ならば娘を幸せにしてくれるだろうと。
「しかし、ただでユリカを嫁にやるわけにはいかん!」
硬く拳を握り締め、断言する。
「お前が逝ってしまってから男手一つで育てたのだ! そう簡単に、嫁にやるわけにはいかん!!
本来ならば、ワシが結婚相手を探してやりたかった・・・。
ミスマル家の跡取りとして相応しく、将来有望で、ユリカを心底愛してくれる男を、だ」
一瞬にして、愛娘ユリカの幼少から現在の姿が脳裏をよぎる。
母親が居ないことがユリカにとってマイナスになるならば。と、一時は再婚も考えた。
それでも、自分が愛せるのは生涯でたった一人だと思っていたが故に、再婚はしなかった。
代わりにユリカが寂しい思いをしないようにと、全身全霊で愛し、育ててきた。
周りには親バカと散々言われもしたが・・・。
その甲斐あってか、ユリカは立派に成長した。
周りからは色々言われてもいるが、それはユリカの才能に対しての嫉妬による物だとコウイチロウは考えていた。
ともかくコウイチロウは、心の中で成長したユリカを誇りに思っていた。
それ故にナデシコの艦長になった時、寂しいとは思いつつも大人になったユリカをいつまでも子供として見ている訳にはいかない。と、涙を呑んで見送ったのだ。
そしてその勤めを立派に果たし、更に木連との和平を実現させた。
あまりの娘の立派さにコウイチロウは、会う人全てに娘の自慢話を5時間程してしまうぐらいだった。
が、あくまでそれは自分の元に居てこその思いだった。
先も言った通り、娘が連れて来た彼氏、アキトは良い青年だ。
火星でのことやナデシコでのことを立派に乗り越え、成長した。
多分、アキト程の青年はそうそう居ないだろう。
けれどそれでも思ってしまうのだ。
『ただではやれん』と。
しかし幾ら自分が反対したところでアキトはともかく、娘のユリカは反発してくるだろう。
実際すでにユリカは家を飛び出し、アキトの元へ行っている。
自分に似て幾らか気が強い所があるから。とコウイチロウは思う。
とは言え、今回は本来なら嬉しいはずの似ている所が仇となっている。
今のところはアキトがユリカを何とか押しとどめてはいるがこれ以上、時間が無いのが現実だった。
「・・・それでな、つい、ラーメン勝負をすることになってしまったよ」
そう簡単に娘をやる事は出来ない。
それでも言うのならば、コックであるアキトが作るラーメンを食べて「旨い」と言わす事が出来たら結婚を許そう。
「と言っても、どんなに不味くとも旨いと言うつもりなんだがな・・・」
娘が選んだ若者に間違いがあるはずが無い。今は駄目でも将来はきっと立派になる。
コウイチロウはそう思っていたし、自身、アキトは将来には大成すると感じていた。
結局のところ、コウイチロウは渋々ながらも許しているのだ。ただ、けじめを着けたいのだ。
そう、父親としてのけじめを・・・。
「旦那さま、お時間でございます」
障子を隔てた廊下から家政婦が声を掛けてきた。
「そうか時間か」
「はい。準備の方は全て整っています。後は旦那さまがいらっしゃるだけです」
大きく息を吸い、改めて仏壇に向き直る。
「行ってくる」
仏壇の写真は変わらずに微笑んでいた。
機動戦艦ナデシコ 二次創作
「父親らしく・・・」
あとがき
はじめまして。
竜樹と申します。
ちなみに「竜樹」の読み方は「タツキ」でも某バッタライダーでもございません。
「竜樹」と書いて「リュウジュ」と読みますのでよろしく。もしくは「リュージュ」と読んで頂いても構いません。
って、そんなことはどうでも良いのです。・・・個人的には重要ですが。
それよりも、これが初投稿。ってぇのが重要です。
や、最初は投稿なんてする気はこれっぽっちも無かったのですが・・・。
この話を思いついて数ヶ月。どうやっても頭から離れてくれないからとりあえず書いてみた。
書いてみたらやっぱり誰かに読んでほしい。
てなわけで、腹を括って投稿してみることにしたのです。
で、内容。
アキトとユリカの結婚前の話。
コウイチロウとラーメン勝負をする時の話。
小説「ナデシコAからBへの物語」の時空列となっています。
つーか、小説というよりも小話ですな。これは。
うん。他に言いようがなです・・・。
ので、あとがきはこれにて終了。
では次回作でお会いしましょう(何時になるか以前に再び投稿するのか果てしなく謎ですが)
ではでは〜♪
代理人の感想
惜しい、というのが正直な感想です。
色々意見はありましょうがやはり短編には切れ味が何より必要で、その為には「締め」が要ると思います。
その「締め」がこの作品では今一歩力不足ではないでしょうか。
落ちに至るまでに「溜め」を十分作れなかったのもその原因ではないかと思いますが。
話とネタ自体はいいだけに、惜しいです。