第零話








医療器具が並ぶ部屋の中で、私は静かに検査の結果に目を通す。
しばらくすると一人の黒ずくめ男が部屋に入ってきた。

「お疲れさま」
「ああ・・・。どうだ?」

意識してやっているのか分からないが、ダークトーンの声が返ってくる。
昔の彼にはとても似つかわしくない声だ。

「そうね、いつも通りよ。変わりはないわ」

そう、いつも通りに彼の体は異常だらけだった。体内を蝕むナノマシンによって。

「そうか」

短い言葉。
いつもなら饒舌に説明を始めるはずの私も何も言えない。

「他は特に何もないな」

彼は確認するように言いながら部屋を出て行こうとする。
私は短くため息を付く。

「帰らないの?」

勿論ここから出て行くという意味ではない。

「帰る必要がない」

「どうしてそう思うの。ユリカさんやルリちゃんだけじゃないわ。
 ナデシコのみんなはアキト君が帰ってくるのを待ってるわよ」
「彼女らが待っているのは昔のテンカワ・アキトだ。今の俺じゃない」
「そんなことないわ!」

彼の冷めた物言いに思わず語気が荒くなってしまう。

「そんなことないわよ。みんな今のアキト君が帰ってくることを待ってるのよ。
 過去がどうしたとかじゃないわ。ただ帰ってきてくれることだけを望んでる」
「だとしても、今さら帰るわけにはいかない」
「どうして?もう復讐は済んだんでしょ?」
「ああ、ユリカを救い出し、俺個人の復讐も果たした。
 だが、実験で死んでいった人たちの無念を晴らしていない。
 それは火星の後継者を根絶やしにするまで終わらない」
「そんな、それはアキト君のせいではないじゃない。
 そんなことまでアキト君がする必要はないでしょ?」
「聞こえるんだよ、実験で死んでいった人たちの声が・・・
 恐怖、苦痛、絶望、それらの声が耳にこびり付いて離れないんだ。
 彼らの無念を、生き残った俺が晴らさなければならない」

その場にいなかった私が何を言えるのだろうか。
私が黙っていると彼は重たく言葉を続けた。

「・・・それに、俺は関係のない人たちを大勢殺している。
 彼らにも家族が、愛する人がいただろう。幸せを掴むために一生懸命生きていただろう。
 だが、俺は自分のためだけにそれらを踏みにじった。
 そんな俺が今さら、皆のもとに戻って幸せを掴もうなんてのは許されることじゃないさ」
「でもそれは仕方のなかったことじゃない!
 アキト君は大切な人を救うために自分のできることをしただけでしょ。
 そのためにそんな体で無理をして、体を蝕む苦痛に耐えて・・・。
 それに、一番苦しんでいたのはアキト君自身でしょ?
 本当は関係のない人を巻き込むのに耐えれなかったんでしょ?
 だから人と話すのをやめて、人と会わなくなって、心を閉ざして、自分自身を貶めて、
 人が死んでも何も感じないようにしようとしたんでしょ。
 ・・・・・・でも、それでも、お兄ちゃんには無理だった。お兄ちゃんは優し過ぎたから。
 人が死ぬたびに苦しんで、傷ついて、誰よりも自分を責めて、それでも止まれなくて」

何時の間にか涙が頬を伝っているのに気づくが、溢れだした感情を止められなかった。

「でも、もういいじゃない。もう許してあげてよ。
 自分ばかり責めないで。自分自身を傷つけないで。
 いつまでも苦しみを一人で背負わないで。
 ・・・・・・そんなお兄ちゃんを見てると、とても悲しいよ・・・」

涙でぼやけてる視界が黒に覆い尽くされる。
そして優しく抱擁されるのが分かる。

「あ・・・」
「ごめんね、アイちゃん」

昔と同じ優しい声。私はお兄ちゃんの胸にそっと顔を埋める。

「でも、もう戻ることはできないんだ。自分で決めたことだから」

ゆっくりと力強く言うお兄ちゃんの言葉から決意の堅さが伝わってくる。
何を言おうとその決意は変わらないものと思えた。
私ではお兄ちゃんを救うことができないのだと強く自覚させられる。
涙が止まったあともしばらくそのままお兄ちゃんの温もりを感じていたが、
ふと、あることを思いついた。アイに戻ってる今だからできること。

「・・・・・・バイザー、取ってもいい?」
「ん、ああ、いいよ」

バイザーを取るとそのまま両手をお兄ちゃんの首に素早く回してそっと唇を重ねる。
ほんの三、四秒そうしたあとゆっくりと手と唇を離す。

「ア、アイちゃん・・・」

少しあわてた様子のお兄ちゃんが可笑しくてクスッと笑ってしまった。

「デートの約束、守ってくれなかったよね。でも、今ので許してあげる」
「デートって・・・・・・あ、火星での・・・」
「そうよ。お兄ちゃん忘れてたでしょ」
「あ・・・ごめんね」
「いいの、さっきので許してあげるって言ったじゃない」

お兄ちゃんが困ったようにしながらも優しく微笑んでくれる。
今、この僅かな時間私は至福を感じていた。とても優しい時間。






太陽系に存在する小惑星帯。
その小惑星帯からやや離れた場所にコロニーが一つ存在する以外なんら変哲のない宙域。
ただ、問題なのは、地球連合政府がそのコロニーの存在を知らないということである。



そのコロニーの管制室――――戦闘指揮所では、火星の紋章が描かれた服を着込んだ男達がいた。

「山吹中佐、黒田准将率いる艦隊が予定ポイントへ到達したとのことです」
「分かった。こちらの準備は?」
「はっ、既に整っております」

山吹中佐と呼ばれた男は重く頷き、前面のモニターを見る。
モニターに映し出されているのは彼らのいるコロニー周辺の様子。
小惑星帯、コロニーを囲むようして配置された艦隊に機動兵器、漆黒の宇宙。

「各員そのまま待機。敵の襲撃に備え注意を怠るな」

 

彼らは火星の後継者の残党。
指導者である草壁春樹が捕まった後、逃げ延びた残党は
秘密裏に建造されていた多数のコロニーに潜伏し新たなる決起の時を待っていた。
だが、その無数のコロニー対して襲撃をかけるものがいた。
純白の戦艦ユーチャリス。そして漆黒の機動兵器ブラックサレナ。
草壁春樹による決起が失敗に終わってから三ヶ月。
その間に11ものコロニーが彼らによって落とされていた。
このままで危うしと感じた火星の後継者残党は、一計を案じて敵を撃滅せんとしていたのだ。



 



「遅いわね・・・」

ユーチャリスへと続く通路に一人の女性が落ち着かない様子で立っている。
彼女――――エリナ・キンジョウ・ウォンは秘書という仕事柄時間にうるさい。
ただ、エリナが少しイライラしているのはそのせいだけではない。
待ち人であるテンカワ・アキトは、イネス・フレサンジュに検査の結果を聞いたあと
ラピスを連れてすぐにユーチャリスに乗船する予定なのに遅れているからだ。
アキトとイネスの関係を考えると気になってしょうがない、というのが本音だろう。
エリナが色々と想像し始めた頃、ようやく二人が姿を見せた。

「随分長かったわね」
「ああ、ちょっとな」
「何をしていたのかしら」
「大したことじゃないさ」
「ふぅん、私には言えないこと?」
「気になるのか」
「ええ、とってもね。何せ私に言えないことなんでしょ」
「いやに突っかかるな」
「エリナ、焼きもチ?」

ラピスがポツリとした声で言う。

「なっ、ち、違うわよ。私は会長秘書という立場から聞いてるだけよ。ホントよ」
「ふーん」

ラピスがじっとエリナを見つめる。

「な、何よ」
「何でもないヨ」

ラピスが人と会話するのはアキトとエリナぐらいだ。
他の人に対してはあまり口をきかない。
それでも昔に比べて喋るようになったほうである。
エリナが殆ど喋らなかったラピスを気にかけて、
アキトになるべくリンク経由でなく実際に言葉でラピスと会話するようにさせたからだ。
そしてエリナも積極的にラピスに話し掛けるようにしていた。
その甲斐あってか、ラピスも少しずつ喋るようになっていったのである。

「そ、そんなことより」

エリナが軽く咳払いをしてから続ける。

「これ、今回の目標の座標と規模、その他諸々のデータよ」

そう言ってエリナは小さな記録媒体をアキトに渡す。

「ああ、すまんな」
「それと、あなたの状況について変化があったわ」
「何がだ?」
「一連のターミナルコロニーへの襲撃及び爆破は、正式に火星の後継者による仕業と決まったわ」
「ほう・・・何か工作したのか?」
「ええ、ちょっとね。でも大したことはしてないわ。
 統合軍にとっても都合が良い話だったからトントン拍子で進んだわ。
 多くの謀反人を出した統合軍は責任を問われて解体の憂き目に晒されていたの。
 そこで統合軍上層部は全ての責任を火星の後継者に押し付けた上で、
 連合軍と協力して火星の後継者ならびに統合軍からの謀反人を粛清したということにしたかったわけ。
 こちら側としても、ネルガルがコロニー襲撃犯を支援していたのが世間に知れると不味いし、
 そのネルガルと協力関係にある連合軍も責任を問われかねない。
 そこで今回の取引きと相成ったわけよ」
「そうか・・・すまん」
「別にあなたの為ってわけではないわ。ネルガルは営利企業よ。
 自社の不利益になることは避けたかっただけよ。
 でも、これであなたは大手を振って地球に戻れるわ。気兼ね無しに彼女らの元に帰れるのよ」

アキトは思わず苦笑してしまった。

「さっきもイネスさんに言われたよ。帰らないのかってね。
 何度問われようが答えは同じさ。もう決めたことだからな」
「でも・・・・・・、もうあなたに残された時間は少ないのよ。
 彼女らの元に居てあげてもいいんじゃないの?」
「だからさ。残された時間を使って少しでも彼女らに及ぶ危険を退けておきたい。
 連合軍が火星の後継者の残党を狩りだすにはまだまだ時間が掛かるだろう。
 その間に力を蓄え、また活動を起こすかもしれない。
 俺はそうならないように自分のできることをするだけさ」
「そう・・・」

エリナは寂しそうにして少しうつむく。

「もう行くよ」」

アキトがラピスを伴なってユーチャリスへと歩き出す。

「いつもすまないな」
「いいえ、私が自分で決めてやってることだから」
「そうか・・・。ありがとう」

アキトが微笑むとエリナの顔が少し紅くなった。
そんなエリナに対してラピスが顔だけ振り向けてじっと見つめていたりする。






コロニーの戦闘指揮所は静寂に包まれていた。まるで周辺の宇宙空間と同化したかのようだ。
これから行われるであろう戦闘を前に誰もが緊張しているのだ。
そのままどのくらい時間が経っただろう。実際には二時間ぐらいだったが、
戦闘が行われると分かっている者達にしてみればとてつもなく長い時間だった。
その静寂の時間を観測手の声が破った。

「ボース粒子の増大を確認!ボソンジャンプです!」
「照合、確認。敵機動兵器ブラックサレナです!」
「よし、機動部隊は艦隊の陣形を崩されないように敵の機動兵器の足止め。
 艦隊は敵艦ユーチャリスの出現に備えろ。
 ユーチャリスとの交戦が始まったら、あとは作戦通りに敵の注意を引き付けるのだ」

にわかに戦闘指揮所があわただしくなる。
モニターには既に機動部隊の前衛とブラックサレナが激しい戦闘を繰り広げている姿が映し出されている。
一機、また一機と機動兵器を落としつつブラックサレナがコロニーへと向かおうとするが、
それを阻止する様に機動兵器が壁を作りながら次々とブラックサレナに迫りくる。

「再びボース粒子の増大を確認!」
「来たか。全艦フィールド出力最大にしろ!」
「質量、戦艦クラス」
「目標艦、ユーチャリスです」
「敵艦よりグラビティブラストの発射を確認。第二分艦隊を中心に被害多数。四隻撃沈。二隻が航行不能。
 四隻が中破。他、多数の艦が小程度の被害を受けた模様」
「くそ!なんて威力だ。バケモノめ!」
「ですが、対策をしていた分これまでよりは被害は少ない方です」
「分かっている!・・・第二分艦隊を下がらせて後衛の艦隊と合流させろ。
 第一、第三分艦隊をそれぞれ敵艦の左右に展開。主力艦隊を正面に集結」

戦闘指揮所はさらにあわただしくなった。




敵機動兵器と戦闘を繰り広げながらアキトは考えごとをしていた。

「・・・・・・」

(おかしい・・・。こちらの襲撃を見透かしていたかのような動きだ)

いつもならアキトがボソンジャンプで強襲をかけて敵を掻き乱した後、
ラピスが乗るユーチャリスがボソンジャンプ直後にグラビティブラストを敵に放ち、
その後、敵が混乱している隙に一気に殲滅する、というのがお決まりのパターンだ。
それが今回は襲撃に備えたかのように敵が展開しており、
尚且つ機動部隊でブラックサレナを足止めし、艦隊は陣形を保ったままだった。
まるでユーチャリスの攻撃がくることを分かっていたかのように。
不審に思ったのはそれだけでない。敵の動きがどうもおかしい。守りを重視している。
確かに強襲は失敗し、初撃における敵の被害は少なかった。だが、時間は掛かるがこのままいけば
敵を殲滅することは難しくない。敵もそれは分かっているはずだ。
今もユーチャリスが確実に敵艦を沈め続けている。
なのに守りを重視するのは何故か。
援軍を待っているのだとしても、周囲数百キロに及んでレーダーにそれらしき反応はない。
それより遠方から来るのだとしたらとても間に合わない。
あれこれアキトが考えていると、急に計器にボース粒子の反応が表れた。

「な!?ラピス!」
『アキト、ナデシコだヨ。ルリたちが来タ!』
「くっ、ユリカか。時間を掛け過ぎた」




「新たなボソンジャンプを確認!」
「なんだと!?」
「戦艦・・・ナデシコBと確認しました」
「ナデシコよりグラビティブラストの発射を確認。側面を突かれ被害甚大」
「現在残り戦力38%」
「艦隊の陣形を乱されるな。機動部隊を二分してナデシコへ向かわせろ。
 残った分艦隊は合流してナデシコへ攻撃」

指揮官であるヤマブキが状況に応じて矢継ぎ早に指示を出す。

「予定外だが・・・・・・好都合というもの」

一通り指示を出し終わった後、呟くように言う。
このような状況下にあっても山吹の目に宿るのは強い意志の輝きだった。

 


ナデシコBのブリッジで電子の妖精とあだ名される少女が冷静に指示を出していた。

「このまま敵の側面を突く形で攻撃を続けてください」
「了解」
「サブロウタさんは無人機を連れて敵機動兵器の殲滅お願いします」
『りょーかい』
「リョーコさんはアキトさんを捕まえてください」
『まかしときな』
「ハーリー君、ユーチャリスにハッキングを仕掛けてください」
「え!僕がですか?」
「乗っ取る必要はありません。ボソンジャンプができないようにしてくれれば結構です」
「はい、分かりました。」
「ルリちゃん、私は?」
「ユリカさ――提督はそこでじっとしていてください」
「え〜、私も何かお手伝いしたいのに〜」
「そう思うなら静かにしていてください」
「うー」

不満そうにユリカが唸るが、ルリはそれを無視してモニターに映し出されたブラックサレナを見つめる。

「アキト・・・・・・」




既に大勢は決していた。

(残りの敵戦力は三割強といったところだな。ナデシコだけで十分だろう。今のうちに行くか)

「ラピス、ジャンプの準備を」

・・・・・・。返事がない。

<ラピス?>

アキトは通信ではなく直接リンクで話しかけてみる

<ゴメン、アキト。今ナデシコからハッキングを受けてるの。もうすぐ終わるからちょっと待って>
<分かった。それが終わったらジャンプの準備を頼む>
<うん>

それだけ伝えて意識を戦場へと戻した。

「さて・・・むっ?」

凄まじい勢いで赤い機体がブラックサレナに向かってくる。

(照合・・・スーパーエステバリスか。だが、誰が?)

その疑問はすぐに解けることとなる。

『アキト、聞こえてるんだろ?お迎えに来たぜ』

(リョ―コちゃんか)

アキトはは音声だけ近距離通信をオンにする。

「何故ナデシコに乗っている」
『へっ、あの事件で統合軍は縮小されてな。一部は連合軍に吸収されたんだよ。
 んで俺はミスマル提督の口添えもあってパイロットとしてナデシコに配属されたわけだ。
 それはそうと、アキト、地球に戻ってもらうぜ』
「嫌だと言ったら?」
『無理矢理連れ戻すまでさ!』

言うが早いかミサイルを発射させながら突撃してくる。
胸部バルカンで迎撃しつつスラスターを最大で吹かして回避を行動をとる。
その間にリョーコは背後を取ろうとするが、アキトがハンドカノンを放って牽制する。
お互い高い機動力を持つ機体を一流のパイロットが操っており、
尚且つどちらとも撃破が目的でないため戦いはすぐには終わらない。



ブラックサレナとスーパーエステバリスが幾度となく交差を繰り返していた。
だが、リョーコと戦う前から消耗していたうえ火力で劣るブラックサレナは段々と圧され始めていた。

<ラピス、そっちはどうだ>
<うん、準備終わったよ>
<よし、無人兵器を何体かこちらにまわ――>

注意がそれた瞬間にミサイルがブラックサレナに直撃し、機体が揺れる。
フィールドと厚い装甲によりたいした被害はなかったが、
一瞬の隙を衝いてリョーコが背後を取りレールカノンをブラックサレナに向ける。

『よーし動くなよ』

<アキトどうしたの!?>
<いや、大丈夫だ。それよりいつでもジャンプできるようにしておいてくれ>
<分かった>

エステバリスの腕から細いコードが射出されサレナに突き刺さる。
ウィンドウが開いてリョーコが顔をみせる。

『捕まえたっと』
「一段と腕を上げたね」
『へへ、まーな。シミュレーターを使って何度もブラックサレナと戦ったからな。
 そうそうルリたちが話しがってるんでな。わりーが強制入力させてもらったぜ。
 ルリ、接続したぜ』

別のウィンドウが開きルリが映し出される。

『こんにちはアキトさん。三ヶ月ぶりですね』
「ああ」
『アキトさん、まだ帰ってき――』
『アキトアキト!アキトでしょ!なんか久しぶりだね』

ルリの言葉を遮って突然大声が流れてくる。

『アキトが捕まっていた私を助けてくれたんでしょ?
 やっぱり私のピンチの時にはいつでも駆けつけてくれるね。さすが私の王子様!
 そういえばアキト真黒だね。うん、黒い王子様だ。アキトかっこイイ!』

昔を思い出してアキトは思わず苦笑してしまう。

『そうそう、アキトどうして帰ってこないの?私もルリちゃんもずっと待ってるんだよ。
 もしかして・・・私のこと嫌いになったの?』
「そんなことはないさユリカ」
『では私のことが?』

ルリが再び会話に加わる。
アキトが首を振って否定する。

「二人とも俺の大切な家族だよ。嫌いになるはずがない。二人とも愛してるよ」

そう言ってアキトが微笑みを浮かべると、ルリとユリカが顔を紅くする。
隅っこにウィンドウを開いていたリョーコまで紅くなっていたりする。

『じゃあどうしてアキトは帰って来てくれないの?』
『そうです。どうしてですか』
「大切な家族を守るために・・・・・・俺が生きていられる間にできる限りのことをしておきたい。
 ユリカやルリちゃんが危険な目に会わないように」
『でも、だからってアキトが戦わなくてもいいじゃない』
「これは俺がやってきたことに対するけじめでもあるんだよ。
 そして俺の償い切れない罪に対する贖罪でもある」
『そんなの無意味です。どんなことをしたって死んだ人は帰ってくるわけではありません。
 アキトさんがやってることは単なる自己満足に過ぎません。
 それよりも生きている者たちのことを考えることの方が大切なんじゃありませんか?
 ナデシコのみんながアキトさんが帰ってくること望んでいます。私も、そしてユリカさんもです。
 誰も守って欲しいなんて思っていません。ただ側に居てくれるだけで、それだけでいいんです』
「そうだな・・・ルリちゃんの言う通り俺の自己満足に過ぎないかもしれない。
 だが、それでも俺は・・・・・・」

アキトが言いよどみ、目を閉じて僅かにうつむく。

『アキトは優しいから、だから何でも自分一人で背負おうとしちゃうんだね』

ユリカが優しい顔で語りかける。

『ねえアキト。私はアキトの妻なんだよ。私たち夫婦なんだよ。
 夫婦ってどんなことも二人で分かち合うものなんだよ。
 だからアキトが全てを背負う必要はないよ。アキトが背負えない分は私が背負う。
 二人で一緒に背負っていこうよ。帰って来てよアキト』
「ユリカ・・・・・・」
『ドォォン――』

ウィンドウ越しに重たい音が響き、画面が乱れる。

『おい、ルリ!?どうしたんだ!ルリ!』

リョーコが慌てながら呼びかけている。

「ラピス、何があった!?」
『敵の攻撃だヨ!』
「敵?もう殆ど片がついていただろ」
『さっきとは違う敵だヨ。ナデシコの後方から来てル』
「くっ、分かった。ラピス、ナデシコを援護するぞ」
『うん』
「リョーコちゃんも聞いての通りだ」
『おう、分かってるよ。行くぜ!』

赤と黒の機動兵器が最大速でナデシコに向う。

 




「初撃、ナデシコBに命中。後方のユーチャリスにも効果があったもよう」
「うむ。攻撃の手を休めるな。一気に落とすのだ」

指揮官と思われる男が頷きながら指示をだす。

「しかし准将、ナデシコは予定外でしたな」
「まさに飛んで火に入る夏の虫。・・・山吹中佐達の命を無駄にしないためにも
 ユーチャリス、そして怨敵ナデシコをも必ずやここで沈めねばならん」

そう言って男が見つめるモニターには、艦隊の攻撃にさらされているナデシコが映し出されていた。

 

 


ナデシコのブリッジはかなりの緊張に包まれていた。今も嵐のような攻撃が続いている。
だが、突然の攻撃を受けたにも拘らずブリッジクルーは冷静に自分の任務を全うしていた。

「フィールド出力最大。反撃をしつつ反転。チャージでき次第グラビティブラストを順次発射」
「「「了解」」」

各員からの小気味よい返事。普段はのほほんとしているが彼らも総じて優秀なことに変わりはない。

「詳しい状況報告をお願いします」
「はい。本艦後方より大規模な艦隊が出現。進路より小惑星帯の裏側に居たもよう。
 レーダーに引っ掛からなかったのは機関を停止しステルス処理を施していたためと思われます。
 また、敵艦は出現と同時に本艦に向けて一斉射撃、
 ディスト―ションフィールドを突き破った敵弾が本艦後部へ着弾。
 ジャンプフィールド発生装置が損壊。
 相転移エンジンにも影響が出ており現在稼働率75%まで低下。
 また、ディスト―ションフィールド出力69%まで低下しています」

ドオオォォン!
再びブリッジが振動に包まれる。

「本艦左舷に被弾。フィールド出力更に低下。60%を切りました」
「敵、人型機動兵器を多数射出。数およそ六十機」
「拙いですね。・・・サブロウタさんたちはどうなっていますか?」
「タカスギ機及び無人機は現在コロニー周辺の敵と交戦中。コロニー周辺の敵残り戦力8%」
「サブロウタさんにはそのままコロニー周辺の敵を殲滅するよう言ってください。
 それからリョーコさんは?」
「スバル機、現在高速でこちらに向かっています。
 それに続くようにブラックサレナもこちらに向かってきています」
「アキトさん・・・」

モニターに映し出される漆黒の機体。
戦力としては微々たるものだが、その姿はとても頼もしく見える。
通常通信でアキトがウィンドウを開く。

『ルリちゃん、俺たちが前にでる。ユーチャリスが足止めしている間にナデシコを後退させるんだ』

その言葉が終わらない内に、ユーチャリスから発射されたグラビティブラストが
ナデシコの横を通り過ぎて敵艦隊へと突き刺さりいくつかの爆発が起こる。


ユーチャリスの攻撃も敵の数が多いため所詮焼け石に水程度であった。

『ナデシコ、弾幕を張りつつ後退』

一瞬考えた様子のルリだったが、すぐにアキトの言葉に従いナデシコを後退させるように指示をだす。
ナデシコが後退を始めたのを確認してからアキトはユリカに通信を繋げる。

「ユリカ、ジャンプできるか?」
『え、うん、私は大丈夫だけど、ナデシコのジャンプ装置が壊れたみたいだから・・・』
「・・・そうか」

アキトが唸るように言う。
はっきりいってユーチャリスにもあれだけの敵艦隊を相手にする余力は残っていない。
自分達だけならジャンプで逃げ切れるが、ナデシコを置いていくわけにもいかない。
だがこのままではじり貧だ。
ナデシコに突撃してくる機動兵器を相手にしながら何か打開策をと考えていると
白い塊がナデシコを追い越して敵艦隊へと向かう姿が見えた。

(ユーチャリス!?)

慌ててアキトがラピスへ通信を入れる。

「ラピス!何をするつもりだ!?」
『ユーチャリスを突入させテ、相転移エンジンの臨界点を突破させるノ』

さらっとラピスが言ってのけるが、やろうとしてることはとんでもないことだ。
相転移エンジンから得られるエネルギーを許容量以上に蓄積させて爆発させようとしてるのだ。
その膨大なエネルギーが起こす爆発はとてつもない威力となって周囲を巻き込むだろう。
つまりは自爆である。

「ラピス止めろ!馬鹿な事をするな!」
『バカじゃないもン!・・・・・・その船には・・・ナデシコには、
 アキトの大切な家族が居るんだよネ?アキトの守りたい人たちが居るんだよネ?
 私はアキトを守りたイ。アキトを苛ませる全てのものからアキトを守りたいイ。
 ナデシコがやられちゃうとアキトが悲しム。だから私はナデシコを守るためにこうするノ』

話している間にもユーチャリスは敵艦隊の目前まで近づいていた。

『大丈夫だヨ。ジャンプで脱出するかラ。アキト、サポートし――』

ウィンドウが突然消える。その直前に爆発音らしきものが聞こえていた。

「ラピス!」

<ラピス!応答しろラピス!>

リンクにもラピスの反応がない。何らかの原因でラピスの意識が途絶えた可能性が高い。
そしてウィンドウが消える直前のあの爆発音らしき音。そこから考え出せるのは・・・・・・。
ラピスはアキトとのリンクによりよりA級ジャンパーと変わらぬジャンプ能力を持つようになっている。
リンクを使って正確なイメージをラピスからアキトを通して遺跡へ伝えてジャンプするのだ。
それを使ってラピスはジャンプで脱出しようとしていたようだが、本人の意識がなければどうにもならない。

「聞いていただろルリちゃん、サレナをオートパイロットにして敵機動兵器の相手をさせとくから
 その間にエステバリスを回収し、急いでナデシコをここから離れさすんだ。
 それとフィールド出力をできるだけ上げておくんだ」
『アキトさんはどうするんですか!?』
「俺はラピスを助けに行く」

一呼吸置いてからユリカの方を向く。

「ユリカ、ルリちゃんを頼む」

真剣な眼差しでユリカを見つめながら言う。

『・・・・・・分かったわ。ユリカに任せておいて!』

何かを感じ取ったのだろう。ユリカは笑顔で答える。

「さよなら、ユリカ、ルリちゃん」

そしてウィンドウを強制的に切る。

(ラピス・・・)

意識を集中してユーチャリスのブリッジをイメージする。
体中のナノマシンが淡い輝きを放つ。

「ジャンプ」




アキトはユーチャリスのブリッジに続く通路を焦りながら走っていた。
戦闘による疲れにより集中力が低下していたためか、僅かにイメージした場所とはずれてしまっていたのだ。

<ラピス、ラピス>

先ほどから絶え間なくリンクを使って呼び続けているがラピスからはなんの応答もないままだった。
船体が大きく揺れる。何とかバランスを取りながらアキトは走り続ける。
さっきから揺れっ放しであるが、いまのは一段と大きなゆれだった。

「拙いな・・・」

アキトはこんなところで死ぬつもりなどなかった。
ユリカたちにはもう会うつもりはいだけで、先ほどの会話は別れの挨拶に過ぎないのだ。
ユーチャリスがこうなった以上、アキトが火星の後継者残党と戦うことはもう無理だろう。
だが、今まで狩った分と今回の奴らを合わせればかなりの残党を駆逐したはずである。
しばらくは何もできないだろう。後はミスマル提督が何とかしてくれるはずだ。
娘の前では単なる親ばかだが、有能な人であることに違いはない。そして人として信頼できる人でもある。
あとできることといえば、ラピスが幸せになれるようにすることだけだ。
そのために残りの僅かな人生をラピスのために使おう。
それが自分の都合で巻き込んでしまったラピスに対するせめてもの償いだとアキトは思っていたのだ。


ブリッジにたどり着くと、そこには煙が充満していた。火災によるものだろう。
幸い火そのものは自動消火システムにより消えていた。
だが、シートにラピスの姿が見えない。さして広くないブリッジを見渡す。
程なくして前方にうつ伏せで倒れているラピスを見つける。
この煙のなかでもラピスの淡い桃色の髪と白い肌は異色を放っていたためすぐに分かったのだ。
アキトはすぐに駆け寄り抱き起こす。

「ラピス。ラピス、大丈夫か?」
「・・・・・・う・・・あ、アキト・・・?」

軽く揺さ振るとラピスは朦朧としながらも気づいたようだ。
右腕上腕部に小さな裂傷があったが出血は大したことはない。
他に異常はないようなのでとりあえずは大丈夫だろうとアキトは判断した。

「ラピス、跳ぶぞ。確り捉まっていろ」
「・・・ウン」

何時爆発が起こるか分からない状況だ。一刻もはやくここから出ねばならない。
アキトはラピスを抱えると、ジャンプのために集中した。
そして集中力が極限まで高まった瞬間、アキトとラピスは白い光に包まれた。

 




ブリッジのモニターがブラックアウトするのとほぼ同時にナデシコの船体が激しく揺れた。
人間の眼を保護するため強い光は自動的にカットされるようになっているのだ。
普段は明度を調整してモニターが完全にブラックアウトすることなどないのだが、
今回はあまりにも光が強すぎたのだろう。
しばらくしてモニターに映像が戻る。
が、そこには先ほどまでいた艦隊の姿はなかった。そして純白の戦艦ユーチャリスも。

「アキトさん・・・・・・?」

ルリは一瞬呆けたようにしていたが、すぐに我を取り戻して指示をだす。

「爆発の前後にボソンジャンプの反応はありませんでしたか!?」
「爆発の影響によりセンサーが乱れていたため正確にはわかりませんが、
 少なくとも衝撃がくる直前までにボース粒子が増えた形跡はありません」

冷静な報告。それがより一層ルリを焦燥させる。

「各種センサー最大!観測手はどんな小さなものも見逃さないでください!」

珍しく大きな声で指示をだすルリをハーリーは驚いたように見ていた。

「周辺宙域にはコロニーの残骸と思しき物以外に反応なし」
「モニターでもコロニーの残骸しか確認出来ません」
「この宙域に存在するのはナデシコとコロニーの残骸だけです」
「艦長、艦隊が消えるほどの威力だったんです。ユーチャリスでもさすがに・・・・・・」

ハーリーが遠慮がちに言う。

「そんな・・・そんなはずありません。ナデシコをユーチャリスのいたポイントまで移動。
 センサーは最大のまま。周辺宙域を徹底的に探索します。」

誰もがその行為を無駄だと思っている。だが、誰もそれを指摘する者はいない。
今の彼女を見て誰が言えるだろうか、『それは無駄だ』と。
重い空気が流れる中、大きな声がそれを打ち破る。

「ルリちゃん!」
「ユリカさん・・・」

思わずビクっとなりながらもルリが振り返る。

「ルリちゃんはこの船の艦長さんなんだよ」

たったそれだけの言葉に様々な意味が込められていた。ルリもそれは分かっているだろう。
艦長という立場なら、今するべきことは連合軍に連絡を取り、
この場から離れて最寄の連合軍と合流するよう指示を出すべきだ。
今敵に襲われればナデシコは簡単に沈んでしまう。
冷静にならなけらばならない。だが、感情がそれを許さないのだ。

「でも、アキトさんが、アキトさんが・・・・・・」

とても弱々しい声。その姿はとても儚げであった。
初めて見る艦長のそのような様子にブリッジクルーは全員驚いていた。
ユリカはルリを見つめながら言葉を続けた。

「ここはルリちゃんが勝ちとった居場所なんでしょ。
 ここにはルリちゃんの守りたいと思う人たちがいるんでしょ」
「・・・・・・」

ユリカの言葉に押し黙るルリ。しばらくの沈黙のあと呟くようにルリが指示を出す。

「・・・ナデシコB、この場より離脱。最寄の連合宇宙軍と連絡を取り合流してください」

それだけ言うとシートに身を埋めるように座る。

「艦長・・・・・・」

ハーリーが心配そうに呼ぶがルリはうつむいたまま何も言わない。
そんな後姿をユリカは優しく見守っていた。

 







「会長これを」

エリナは会長室に入るなりアカツキに一枚の紙を差し出す。

「なんだいエリナくん?ラブレターなら間に合ってるよ」

そう言ってアカツキは手に持っていた書類をヒラヒラさせる。
因みにデスクの上には書類が山積みになっていたりする。

「違うわよ。ナデシコから・・・というより、ホシノ・ルリからの報告書よ」
「ルリくんが僕にラブレターを?いやあ、もてる男は辛いねぇ」
「バカ言ってないでさっさと読みなさい」
「はいはい」

軽く肩をすくめてから、渡された報告書を読み始める。
最初はにやけていたアカツキの顔が徐々に厳しくなる。

「これは本当かい?」
「ユーチャリスが消えたのは本当よ。連絡もなければ信号も途絶えているわ」
「その割には冷静だね」
「そう見えるかしら?」

エリナの見下ろす目がアカツキを睨む。
びくついて目をそらしながらアカツキが話を続ける。

「そ、そうそう、ナデシコBの状態はどうなんだい?」
「かなりボロボロよ。相転移エンジンもやられちゃってるし、修理に1ヶ月は掛かるわね」
「そりゃご愁傷様。ナデシコCならこんなことにならずに済んだかも知れないね」
「まったくよ。連合軍の上層部がもう少し賢ければね」

火星の後継者鎮圧時にその性能を遺憾なく発揮したナデシコCは、
あまりの性能ゆえに連合軍上層部に恐れられることとなり、
上層部が必要と認めた時以外は運用を禁止されているのだ。
ナデシコが必ずしも自分達の駒にはならないと分かっているからの判断であろう。

「それとこの報告書の通りだとすると情報の漏洩があったみたいだけど?」
「ええ、そうよ。ユーチャリスの行動を知っているのは役員でも極一部ですもの」
「やれやれ、まだ僕のことを嫌いな人が残っていたとはね」
「日頃の行いでしょう」
「キツイなぁエリナくんも。で、犯人は?」
「とっくに捕まえているわ。今ごろは肉体的、精神的苦痛を味わってるはずよ」

エリナは薄く笑みを浮かべながらも目は鋭く光らせている。

「おお恐・・・」
「それとクリムゾンも絡んでいることが分かってるわ。
 その男はクリムゾンに情報を流して見返りにお金を受け取ってたそうよ。
 そしてクリムゾンから火星の後継者へ、ってわけね」
「倒産の危機にあるのによくやるねぇクリムゾンも」
「それで、どうするの?」
「言わなくても分かってるだろ?僕は友人がはめられて黙ってるほど人が善くないよ」

今度はアカツキが薄く笑みを浮かべる番だった。

 

 

 





アキトが目を覚ますとそこは薄闇に覆われていた。
仰向けに寝ていることに気づき手をついて上半身を起こそうとするが、
体があまり言うことを聞かず再び仰向けのまま倒れこんだ。
そのまま顔に手をやる。バイザーは確りついている様子だった。
しばらくそのままでいたが、ふっと気づく。

「そうだ、ラピスは・・・?」

<ラピス。ラピス聞こえるか?>

依然としてラピスの応答はない。

「お目覚めのようですね」
「・・・!」

突然の声に一瞬驚いたが、アキトは平静を装って警戒しながら周囲を見回す。
自分の右側の薄闇の中にぼんやりと光っている何かを見つける。

「大丈夫ですよそんなに警戒しなくても。危害を加えたりはしません。
 ラピスという少女なら無事です。怪我の手当てもしておきました」

などと言われても、状況を理解出来ない者としては警戒するほかない。

「何者だ?」
「そうですねぇ、何者かと問われますなら、そちらの言葉で言えば古代火星人とでもいいましょうか」
「!?」

あまりにも突然の言葉。アキトが唖然としていると相手はそのまま話を続ける。

「驚かれるのも無理はありません。突然こんなところに来たのですから。
 実を申しますとあなたで二人目なんですよ、そちらから来たのは」
「二人目?」
「ええ。先ほども小さな女の子が来ましてね。アイと言ってましたか。
 あなたのお知り合いでしたね」

その言葉でピンとくる。間違いなく相手は古代火星人などと呼ばれたりする
あの遺跡を造ったものの仲間なのだ。アイちゃんが出会ったのと一緒のものであろう。
それはいい。だが、それとは別の疑問がわく。

「どうして俺とアイちゃんが知り合いだと知っている?」
「ちょっと頭の中を見さしてもらいました。別に変なことはしてませんよ」
「勝手に人の頭を覗き見たのか」

思わず語気が荒くなる。

「そうしないとこちらも対処のしようがないので」

ひょうひょうとしたもの言い。アキトは大きな溜息をつく。

「まあいい・・・。それよりラピスは本当に無事なんだろうな?」
「ええ、ご心配なく。怪我は大したことありませんでしたし、他に異常もありませんでしたよ」
「そうか」

今度は安堵の溜息をつく。状況から判断して嘘は言ってないと確信したのだ。

「ところで、さっきから疑問に思っていたんだが、どうして言葉が通じるんだ?」
「ああ、大したことではありませんよ。音の振動による伝達ではなく、
 言葉に含まれている意思によるやり取りをしているためです」
「どういうことだ?」
「テレパシーのようなものだと思ってください」
「ふーむ・・・」
「まあ、それはさて置いといて。あなたの体についてなんですが、よろしいですか?」
「なんだ?」
「あなたの体に注入されているナノマシンはかなり体に悪影響を及ぼしているようですね」
「ああ、そうだが。それが?」
「宜しければ治療しましょうか?」
「できるのか!?」

いきなりの話に驚いてアキトは思わず大声をあげてしまう。

「ええ、完全にとはいきませんが、大分改善できますよ」
「それが本当なら是非頼みたいところだが・・・・・・何故そこまでしてくれる?」
「いやぁ、なに、我々の造ったものでこのような所に跳ばされてしまったお詫びといいましょうか。
 それにあなたの頭を見せてもらったおかげでこちらも知識が増えましたからね。そのお礼も兼ねて」
「そうか。ギブアンドテイクといったところか」

そう言ってアキトは軽く笑う。古代火星人などと呼んでいるものが
こんなにノリの軽いやつらだと知ったら皆どう思うかと想像すると笑えるのだ。

「そうだ、できれば特に味覚を治して欲しいのが」
「はい、分かりました。お任せください。
 ところで言い忘れていましたが、治療にあたって少々副作用があります」

副作用と言う言葉にアキトの顔が渋くなる。

「副作用だと?」
「ええ、少しの間肉体的に年を取らなくなります」
「なんだ、そんなことか・・・。それなら構わない」

それを聞いてアキトは安堵したように答える。

「では早速治療に入りますので、しばらくお休みになってください。
 治療が終わりましたらラピスという少女と共に元の場所に送り帰しておきますね」
「ああ、分かった」

光が近づいてきてアキトの視界が優しい光に包まれる。
そしてアキトの意識は途切れた。









【続く】









 =なかがき=

初めまして皆様。信はじめと申します。
読んでくれてありがとうございます。

終わってないのであとがきではなくなかがきということで。
この作品は逆行ものです。次の話からアキトは過去に戻った状態です。
ギャクとか好きなんですが、自分には難しくて書けないです・・・。
ですから殆どシリアスに話は進んでいくかと思います。
今回は第零話ってことでプロローグみたいなものでした。
長いでしょうか短いでしょうか?
それよりも、区切り以外の行間空けていませんが、読み辛いでしょうか?
そういう意見が多ければ次回から変えていきますね。

作品の補足とかなんか。
最初だけイネスさん視点で書かれていますが気にしないでください。
あえて理由を述べるならイネスさん好きだから(爆)
あとアキトがリョーコに負けていますが、これは書いてある通りサレナが消耗していたのと
アキトが疲れていたこと、そしてリョーコが何度もシミュレートしてサレナ対策をたてていたためです。
アキトは実戦を戦い抜いたエースの中のエースだと思いますが、
決して超人的に強いというわけではないと思っています。

話は変わりますが、ボソンジャンプの細かな条件ってどうなってるんでしょうかね?
A級ジャンパーのナビゲートなら普通の人もDF要らないのでしょうか?
書いてる途中で疑問に思ったんですよね。う〜ん・・・。

なんか長くなってきたのでそろそろお終いにしますね。
ではまた次のなかがきでお会いしましょう。

 

 

 

代理人の感想

あ〜、申し訳ありませんが死ヌほど読みにくかったので勝手に開けさせていただきました。>行間

 

で・・・・・二転三転する展開に緊迫感のある文章と、終盤まではかなり面白かったんですが、

最後の展開がどうも「よくある逆行もの(=途中で止まる)のパターン」にはまり過ぎてるような。(汗)

出来ればすぐ止まったりせずに完結するまで続いて欲しいですね(爆)。

 

代理人からのお願いでした。


ちなみにA級ジャンパーのナビゲートを受けていても、普通の人がDFの保護無しにジャンプするとやはり死にます。