手記
今日の昼、アイツが死んだ。
こういった仕事をしているいじょう、知り合いが死ぬのは珍しくない。
ただ、アイツとは印象的な関わりだったせいだろうか、柄にもなく感傷的になっちまった。
アイツと最初に会ったのは火星の後継者のラボだった。
大きな危険を犯すことを承知でアイツを助けるように上から指示が下ったのだ。
会長との個人的関わりがあると聞き、
そんなことで命を賭けてまで救い出さないといけないアイツに心の中で罵ったものだ。
だが、実際にアイツを助け出した時、そんな気持ちは無くなってしまった。
助け出した時アイツは生きる屍のようだった。
死ぬことも許されず、実験体として無理矢理生かされていたのだ。
何も見えず、何も聞こえず、何も感じず、まるで人形のようだった。
あの時アイツは何を思い生きていたのだろうか?それを知りえる機会は、もう失われてしまった。
それから一年後、俺は再びアイツと会った。
人形の様なアイツではなく、復讐鬼とかしたアイツに。
アイツに何があったのかは知らない。
ただ、裏の世界に慣れている俺ですら恐れを抱く何かがアイツの目に宿っていた。
それから少し経って、俺はアイツの護衛任務を行うようになった。
と言っても、アイツは独自に行動しており、月やらコロニーやらに飛び回っていたため、
護衛任務はアイツが地球にいる間だけだったが。
俺が護衛任務についてから約半年後、アイツは復讐を果たし、そして目的も成し遂げた。
その後のことについて多く語ることはあるまい。
最後にアイツはわずかばかりの時間を再び最愛の人と過ごし、
そして自らの生きた証を残して死んだ。ただそれだけだ。
ネルガル・シークレット・サービス隊員 ジェド・ゴウシ
かの有名な火星の後継者によるクーデターが鎮圧されてから3年が経過した。
当時コロニーを襲撃していた、所属不明の機動兵器を駆ったテロリストの正体は今だ明かされていない。
なお、コロニーの爆破事体はテロリストの行った行為ではなく、
火星の後継者が機密保持のために行っていたことが分かっている。
しかしながら、このテロリストが行った行為で人が大勢死んだのも事実であり、
現在も指名手配がなされている。
このテロリストは、火星の後継者によるクーデターを鎮圧した連合宇宙軍
ナデシコC艦長ホシノ・ルリ少佐(当時)と何らかの関わりがあったと噂され、
ナデシコA時代の乗組員ではないのかという話もあったが、真相は分からずじまいである。
多くの人々が真相を求め、様々な機関が調査を行っているが、今だ突き止めた者はいない。
私はこの事件に関わる全ての真相を突き止めたいと思う。
ただし、それは記者として世間に公表するためではなく、私自身の好奇心ともいえる心を満たすためである。
WNE記者 ミルチア・テオドルスク
我々の決起が失敗に終わってから7年が経過した。
私の刑期も先日終わり、出所したばかりである。
服役している間、私は色々なことを考えた。最初の半年こそ目指した理想をいつか実現させるために、
今は耐え忍ぶ時だと義憤を隠して刑に服していたが、
いつしか私は自分の考えに疑問を持つようになっていた。
時間が有るがゆえに、物事を冷静に見詰めなおせたのだ。
今でもあの時の理想が間違っていたとは思わない。家族が、恋人が、笑って暮らせる世界。
その理想を胸に我々は立ち上がったのだ。
だが、その理想を叶えるために我々が取った行動は本当に正しかったのだろうか?
多くの人々を犠牲にし、未来のためにと今ある幸せの多くを踏みにじった。
それは忌むべき行為。理想を実現させんがために、理想とは掛け離れた行いをしてしまったのだ。
久しぶりに見る塀の外の世界は想像していたよりも明るい世界であった。
確かに今だ木連の人々が不当な扱いを受けることは見受けられる。
だが、その一方で木連出身者であっても地球出身の者と同じ様に接する人々も多くいるのも確かだ。
お互いが手を取り助け合っている。それは友であったり、恋人であったり、時には家族でもあった。
そこには我々が目指した理想があった。我々が望んだ平和があった。
我々が成し得なかった目指すべき世界がそこにはあったのだ。
私はこの世界で生きていきたいと思う。この世界で罪を償いたいと思う。笑顔が見れるこの世界で。
元火星の後継者一派 斎藤 直也
今日、さる情報筋からイネス・フレサンジュ博士が死亡したとの話を聞いた。
彼女は20年前以上に死んだことになっていたが、それは火星の後継者から身を守るための偽装であり、
ネルガルが匿っていたというのはこの業界では有名な話であった。
常に科学技術の最先端をひた走っていた彼女がネルガルへ与えた利益は計り知れない。
また、彼女が死んだことによって、技術の進歩は大幅に遅れることとなるだろう。
イネス・フレサンジュ博士、彼女は優秀な科学者であったのと同時に、
正真正銘の最後のA級ジャンパーでもあった。
火星の再開発が始まって16年が経つ。多くの人々が火星に移り住み、火星で生まれた者も多くいる。
けれども、かつてのようにA級ジャンパーが生まれることはなかった。
そして今後も生まれてくることはないだろうと予想される。
私はそれでいいと思う。かつてのような、A級ジャンパーであったがために拉致をされ、
人体実験として扱われるという悲惨な事件を繰り返さないためにも。
EURB調査員 ミナセ=キートン・アツノブ
かの事件から半世紀。ネルガルにより隠匿されていた情報が公開された。
親父が生前追いかけていた事件の真相が明らかとなったのだ。
そこに記されていたのは1つの家族に訪れた悲劇だった。
そして全てを失い、悲しみ、怒り、絶望、憎悪、狂気、あらゆる負の感情を身に宿した男の復讐劇。
1人の男の壮絶な人生がそこにはあった。
現在、この事件を元として映画の製作が決まっている。。タイトルは『The
prince of darkness』。
この映画が完成したあかつきには、長く人々に語り継がれる作品となることだろう。
人の愚かな独善が起こした悲劇として。
SSN記者 オリビィス・テオドルスク
太陽系でもっとも大きな戦争となった人類大戦から100年。人類は再び戦いの渦へと巻き込まれた。
戦争が始まったのはつい2年前。それにより100年近く続いた平和は打ち破られた。
もっとも、今戦っている相手は太陽系のはるか向こうから来た地球人類とは全く異なる生命体だ。
外見上は、やや角張った耳と地球人類には存在しない青い髪を抜かせば、ほぼ我々と変わりない。
ただし、思想や価値観については大いに異なるようではある。
100年前、当時の木連との和平の立役者にして、
世界に平和をもたらした私の御先祖様が現状を見たら何と思うだろうか。
自分達がもたらした平和をよくも壊してくれたなと怒るだろうか。
それとも、今もって戦いを忘れられぬ愚か者だと笑うだろうか。
いずれにせよ、この戦いはもはや避けられぬものとなってしまった。
御先祖様がどう思われるか分からないが、私は私の目指す平和のために力を尽くすだけだ。
太陽系統合政府首相 ミスマル・アキナ
=あとがき=
と、いうわけで、超短編SSでした。
半年近くも空いてこれかいっ!と自分で自分に突っ込んでみたり。
なんというか、これは割と突発的に書いたSSです。
劇場版のアフターとなっております。様々な人が書いた手記といった形で書いてみました。
こういった形で書かれたものは珍しいんではないでしょうか。
少しでも楽しんでいただけれたら幸いです。
作品中の解説をすこし。
最初の手記、アイツとはもちろんアキトのことです。
劇中でも狙われていたし、護衛がいたとしてもおかしくないですよね。
ちなみに『生きた証』とは最後の手記に関係しています。
次の手記。結局殺人を犯していることには変わりないんですよね。
火星の後継者一派はともかく、ただ純粋に軍人としてコロニーを守り、
死んで(殺されて)いった人たちも大勢いたと思います。なむー。
3番目の手記。元木連の人たちはこういった感じの人が多かったのではないかと思います。
自分の信じる正義を、理想を果たすために我々はー、ってな感じで。
いわゆる悪党みたいな人は少なかったと思います。
だから過ちに気付けば素直にそれを認めることもできたと思うのです。
4番目の手記。イネスさん良いですよねー。特にTV版最後の方の『やっと会えたね、お兄ちゃん』の
セリフはクリティカルヒットです。『お兄ちゃん』という部分が良いわけじゃありませんよ。
見た目大人なのに心は子供というギャップが良いんです、はい。
5番目の手記。やっぱタイトルはこれですよね。
6番目の手記。敵はアー○?まあそれは置いといて、この時代人類はテラフォーミングされた惑星の他、
多数のコロニーを建造、移住し、太陽系内のいたるところに進出しています。
それらがバラバラに活動していては争いの火種になるとされ、
それらをまとめるべく太陽系統合政府があります。
現首相は、まあ察してください。ちなみに女性ですよ。
さて、現在の各SSの進行状況ですけど、AN第二話が6割方、フルメタル〜中編が3割方、
新作短編(ぉぃ)が7割方となってます。全部ストーリーは頭の中でほぼ組みあがっているのですが、
文章が上手く書けずに苦労しています。人はそれは文才がないといふ・・・・・・・・・・・・(汗。
途中でほっぽり出しているわけではありませんので、なまあたたか〜い目で見守ってやってください。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
それではまた。
代理人の感想
ん、いいですね。
ただオチがちょいと弱いかな?
この構成では仕方ないかもしれませんが、もう一個何か欲しかったかなと。