◇◆◇◆◇◆
ズブッ
軽い肉の感触。そのまま力を込めると抵抗もなく刃が体を割いていった。
刃が、手が、赤黒く染まる。それに構うことなく俺は刃を突き刺す。
うめくことも身じろぐこともなく切られていく。それはそうだ、既に死んでいるのだから。
だが、俺は手を止めはしない。ためらいはない。嫌悪もない。
胸の奥でくすぶる何かに突き動かされ、何かにとり付かれたかのように手は動き続ける。
ふと、そいつの顔に視線がいく。最後に何を思って逝ったのか。ソレの目はただ虚空を漂う。
「く、くくく」
思わず笑みが浮かぶ。それは仕方のないこと。
俺はこの行為に快感を感じているのだから。
小さな足音が聞こえた。誰かがこちらに向かっている。
だんだんと近づき、足音が止まった。
「アキト、ごはんまだ?」
「ん、もうちょっと待っててな」
「わかった」
ラピスは小さくうなずき、戻っていった。
そして俺は再び作業に戻る。アジの三枚下ろしに。
◇◆◇◆◇◆
銃。それを手にすることで、何を得て、何を捨てることになるのか。
最初に握ったのはいつだったか。
最初に撃ったのはいつだったか。
過去を思いながら弾を込める。
最新鋭の機動兵器に乗っている俺が何百年も変わらぬ銃を持つ。
例え時代が変わろうと、人のすることは変わらない。
長物の銃を構える。全身の神経が研ぎ澄まされ、集中力が極限へと高まる。
そして周りが消えていく。世界には俺と銃と、そして――
今だ!
引金が引かれ、銃声が世界にヒビを入れた。
「おみごと〜!」
射的屋のオヤジが声を高らかに上げた。
そして網に落ちたウサギの人形を俺に手渡す。
毛のふわふわした可愛らしいウサギの人形だ。
「ほら、ラピス」
「アキト、ありがとう」
笑顔で人形を抱くラピス。俺は優しく頭をなでてやる。
◇◆◇◆◇◆
今の俺はまさに狩猟者。もっとも、狩るのは動物ではない。
ようやく見つけた獲物を追う。
俺がどれだけこの時を待っていたか。絶対に逃がしはしない。
目標を目に捕らえた。疲れているのだろう、止まって休んでいる。
なんと無防備な姿。近づく俺には気づいていない。
もう少しで目的が果たせる。もはやこの俺を止めることはできない。
目標はもう目の前だ。
足音をたてずに立忍び寄る。手に力がこもる。
もう少し。あと三歩、二歩、一歩。
とった!
「ラピス、これがブルーモルフォだ」
「きれいだね」
「ああ、世界一美しい蝶と言われているくらいだからな」
「不思議な輝き。宝石みたい」
ラピスはブルーモルフォがとても気に入ったようだ。
俺も苦労したかいがあったというものだ。
○おわる○
=あとがき=
読んでいただいた通りのもの。アキトとラピスのほのぼのです、たぶん。
しかし半年ぶりで何を書いてるのやら。
まあSSは趣味の世界ですし、内容がアレなのも、短いのも、どうかご容赦ください。
代理人の感想
一発ネタ! しかも山なし意味なし落ちなし!
でもまぁ、いいか(笑)。