この度は、取材をお受けしていただき有難う御座います。
「はい……今日は、よろしくお願い致します。
出演すると、テンカワさんとお話できるそうなので」
同僚の方に話を聞かれたのですか?
確かに届くと言えば、届いているのかもしれませんね。
何しろ様々なところに出回っている出版物ですからね。
「お会いしたいですが、お忙しい御方のようですし」
どうぞ、席におかけしてください。
では、最初にお名前をどうぞ。
「北大路 花火と申します」
漆黒の戦神アナザー
北大路 花火の場合
北大路 花火さんは、シャノワールという劇場で働いておられますね。
ということは、その時の彼は、偽名を使ってモギリをしていましたね?
「はい……当時は、モギリ服を着ているお姿を拝見することが、
多かったですし、お仕事について友人からそう、聞いていましたから」
テンカワさんとの最初の出会いは、一体どこだったのでしょうか?
「最初の出会いは、お世話になっているブルーメール家ででしたね。
それ以前にもお噂は、お世話になっている友人から聞いておりましたが、
最初にお姿を拝見したのは、その……メイド服を着てらした時でしたね……ぽっ。
友人がお客様の相手をしている時に、覗き見をされていた事に私が気付いたんです。
その時に召使いの方に見つかってしまい、出てこられたところを拝見したのが、最初の出会いでした。
何故……テンカワさんがメイド服を着ていたか、ですか?
友人と賭けをして負けた時の罰が、その……メイドをすることだったそうです、ぽっ。
……話を戻しますが、その後、私が館の中を歩いているとテンカワさんが倒れてました。
お忙しい御方ですから、疲れが溜まっておられたのでしょうね。
殿方が倒れているのを見過ごすことも出来ず、介抱してさしあげたのですが、
しばらくの間は、目も覚まさずに布団の中でぐっすり眠っておられました」
テンカワさんは、欧州中を渡り歩いていたようですからね。
その後もテンカワさんとは、たびたび会われたのでしょうか?
「その後は、余り接点もありませんでしたので、特にお会いしませんでしたが、
私が、夫のお墓参りしている最中にお会いすることが多かったですね。
お墓参りをしているところを見られていたようで、心配をおかけしてしまいました。
あの頃は……夫のいない世界を生きることが嫌で仕方が無かった時期でしたから。
元気を出すように……と、テンカワさんにも言われてしまいました。
元気のなさから身投げするとまで思われてしまっていたようですし、
夫の写真を届けてくれたのに取り乱してしまったりと、ご迷惑をお掛けしてしまいました」
今は……その、大丈夫なようですね。
やはりそのことにもテンカワさんが関係を?
「はい、詳しい事情を言うことはできませんが、ある時テンカワさんに教わったんです。
生きることを夫も望むはずということを……その時から生きたいと望むようになりました。
いえ……元々望んでたのですが、テンカワさんの言葉がきっかけになったようです。
その言葉に励まされるように、生きていく決心を固めることができたんです。
あの言葉が無かったら私は、今でも思い悩み続けていたかもしれません。
テンカワさんには、私に生きる希望を与えてくださった大切な人です。
他にも短い出会いでしたが、たくさん色々なことを教えていただきました。
本人にその自覚は、無かったのかもしれませんが、言葉一つ一つが染み入るように
私の中に浸透していき、心の内にできていた壁を少しずつ溶かしていってくれました」
……希代の女たらしの本領発揮だな。
えっと、例えばどのようなことを教わったのですか?
「そうですね……私は、幼い頃から殿方の言うことには、絶対に従うように教わってきました。
テンカワさんだけでなく、殿方の決定することには、黙って従うというのが、その教えです」
な、中々、古風というか、何と言うか。
い、今時見当たらない教えですね。
「その教えは、テンカワさんにお会いした時にも守っておりましたが、
段々、テンカワさんに用事などでお会いする回数が重なってくるに従って、
本当にあの教えは、正しいのか?という疑問が私の中で湧いてきました。
そして、テンカワさんに対して私なりのワガママを言いたくなってきたんです。
……離れたくない。
もっと、ここにいて欲しい。
お忙しい人ですからご迷惑をお掛けする訳にもいかないのですが、
私の中でどんどん大きくなるテンカワさんと離れたく無かったんです。
その自分の意見をはっきりと伝えようとしたところが、変わったところですね。
他にも以前は、このようなこと殿方に言うだなんて思ってもみませんでした。
こういう積極的なところも……変わったところだと思います……ぽっ」
(惚気か?)
……最後にテンカワさんにお伝えしたいことがありましたら、どうぞ。
「テンカワさん、再会できる日を一日千秋の思いでお待ちしております。
もちろん……あの日、教えてくださった。
「女性たちが未来を作る」
という言葉を胸に頑張らせていただきます。
再び会えるその日までに私も自分を高めていこうと思っております」
以上、北大路 花火さんでしたっ!!
民明書房刊「漆黒の戦神、その軌跡」より抜粋
本が出版されてから暫らく経ったある日のこと。
瑠璃色の髪に金色の瞳を持つ少女がその本片手にアキトの部屋を訪れた。
オートでロックが解除され、簡単に部屋の中へと侵入して最初に目に入ったのは、
備え付けのベッドの上で布団を被りながらブルブル震えている漆黒の戦神の姿であった。
その姿にルリは、溜息を漏らしてしまう。
この本が出版されると即お仕置きをしていたので、今回も出版されたのを知って怖がっているのだ。
だが、今回ルリがアキトの部屋を訪れた理由は、お仕置きではなく。別の用事だったのでこれでは困る。
「アキトさん、今回の用事は違いますよ」
嘆息混じりにそうアキトに向かってそう呟く。
布団が跳ね除けられる音と一緒に呆然とした表情を浮かべたアキトの姿がルリの目に入る。
やはりお仕置きをされるのが怖かったらしく、その憔悴した顔からもどれだけ怖いのかが分かる。
そんなアキトが怖がっているのを意図的に無視しながらルリは、本をぱらぱらとめくっていく。
アキトもそこでようやく何時もとルリの様子が違うことに気付く。
まるで『最初』に会った頃のルリのように表情を表に出していない。
それだけ何かしらの感情を表に出さないようにしているのだろう。
そして、パタッと本を音を立てて閉じるとこうアキトに告げる。
「もしかしてですが、この花火という人に親身になったのは、
アキトさん自身と考えていたことが似ていたからですか?」
「……話が見えて来ないんだけど」
「この人は、夫が亡くなった時に何もできなかった自分が嫌いになったらしいですね。
そう……まるでユリカさんを救うことができずに苦悩していた頃のアキトさんのように。
つまり、何が言いたいのかと言いますと……そういう考えもあったのでは?ということです」
真っ向からアキトの視線を受け止めながらそう、問い掛ける。
ルリ自身、アキトに睨まれるという体験は、少ないので身が凍るような感覚を覚える。
だが、凍りつく前にアキトが視線を反らしてぽつりぽつりと自分の考えを話し始める。
「たぶん……昔いた自分と重ねていたのかもしれない。
あの人を救うのが、俺なりの自慰行為だったのかもね。
それに時折……どうしようもなく、本当にどうしようもなく。
何もできなかった自分がとても憎くて仕方が無いときがあるんだ。
もう大切な誰かを失いたくないし……大事な人を見失いたくも無い。
俺の考えは、最初の頃から何一つ変わりもしなかったし、変わらなかった。
そんな感情を抑える為にあの人を……無意識の内に利用したのかもしれない」
「……そうですか」
ルリが天井を見詰める。
瞼を閉じてアキトの話してくれたことに感謝しながらそっと話し始める。
「もし、辛くなったらやっぱり自分一人で抱えこまないでください。
アキトさんには、私やナデシコクルーというたくさんの仲間がいるんです。
何もかも自分一人で解決しようとしても無理なのは……アキトさんは、知ってるでしょう?」
「……ああ、そうだね」
「一人で、抱えこまないでくださいね」
そして、ルリが念を押すように話した後は、どちらも口を開かなくなり、部屋に沈黙が訪れる。
その沈黙に耐えられなかったのか、ルリが本を小脇に抱え、アキトの部屋を出ていこうとする。
だが、扉の前でふと立ち止まり、一瞬戸惑いながらもルリは、疑問を口にした。
アキトは、自分の内に秘めてたことを話したことにより少し俯き加減にその言葉を聞く。
「アキトさんは……もういなくなったりしませんよね?」
そして、その部屋を退出する時にしたルリの問い掛けにアキトは、答えることは無かった。
あとがき
これが更新されている時は、web上から一時撤退中です。
どなたかこの作品の題名見て、締め切り過ぎてるだろうが!と思いましたね?
そこの貴方!思いましたね!?ね?ね?思ったでしょ!?(しつこい)
ええ、滅茶苦茶過ぎちゃってます。
サクラ大戦4が発売されてしまい焦って書き上げました。
おまけにweb上からも一時撤退するので、大慌てでです。
なのにお仕置きversionを削除してルリ問い掛けversionに替えたりと、
余裕無い癖に余裕を見せている自分にちょっぴり腹が立ちました。
とりあえず、イタチの最後っ屁としてこの作品を残して引越していきます。(爆)
代理人の感想
いやいや、余裕がない時に敢えて余裕を見せるのが「粋」と言うものでしょう(笑)。
正直、ラストの問いかけにはかなりやられました。
たまにはパターンを外した作品もよいものです。
最後になりましたが一刻も早い復帰をお待ちしております。では。