機動戦艦ナデシコ
『影(シャドウ)』
ナデシコには、隔離室というものがある。
病気になったもの、犯罪を犯したものを閉じこめる場所だ。
前にウリバタケがここに整備班Aの陰謀でブチ込まれたことがあったが、
まあ、そんなことは今は、どうでも良い話なので短縮させてもらう。
今閉じ込められてるのは、ミユキである。
艦長であるユリカを誘拐したのが罪状だ。
もちろん監視としてヒカルが見張っている。
だけどミユキには、そこから脱出しようなどという考えは、毛頭なかったりする。
何故なら脱出する前に今まで起きたことを考えながら自分の人生を再確認していた。
「・・・だいたいどうして勝手に1人で脱出するんでしょう(ブツブツ)
これも会長なりのイジメ?それともただ単に忘れたっていうのかしら?酷過ぎるけど・・・」
どんより暗い雰囲気を背負いながらブツブツ喋っている。
その様子を監視しているヒカルとしては、面白そうに話しかけて来たりする。
「まだ悩んでるのぉ?明るくいこうよ!
それにあんまり考えるとハゲになっちゃうぞ☆」
「だって…人を殺しちゃったんですよ?
何発も銃弾をお腹に打ったんです…きっと死んでます。
…そんな人を殺した場所でどうやって明るくなれって言うんですか!?」
「もしかして…ヤマダ君のこと?」
「…そうですよ」
「ヤマダ君だったら生きてるよ?」
「はい?」
「だから、生きてるんだってば」
「生きてるぅ!?あんなに撃ったのに?
いくら医務室だからってあの大怪我を…はっ!」
そこでミユキの頭の中で思い浮かんだのは、MADだった。
というよりそれしかガイが助かるという可能性が思い付かなかったのである。
そして、それなりに感じていたガイへの罪悪感から解放されてミユキは、ほっと安堵した。
(そっか!イネスさんがなんとかしてくれたんだ!
あの人言動とかかなり自分の腕に自信があるみたいだったし)
キレて何発も銃弾ブチ込んだ人物とは、思えない温かい御言葉であった。
それは、何よりとしても1つ悩み事が解決したこともあって気が楽になったようである。
もう既に暗いものは、背負っていない。
「現金だね」
「べ、別に良いじゃないですか!
さ、さぁーて、悩み事も解決したし寝ます」
そうヒカルに言って隔離室に持ち込まれた炬燵に入って寝ようとする。
逃亡した先で何故か凍死しかけていたので、体を温める為に用意されたものである。
しかし、反逆者にこの待遇は、かなり好条件と言えるのではないだろうか?
(はぁ…まあ、会長に置いて行かれたのは、ちょっとショックだったけどしょうがないか。
個々に脱出するように言われてたような気がするし…でも、脱出する為の足がないや)
ここでエステバリスを強奪すれば良いのでは?という考えも浮かんだが、
エステバリスが鎮座している場所まで行くことができなかったということを思い出した。
そこであの部屋へと立て篭もったのである。
(結果、捕まってしまったけど…。
でも、捕まった方が待遇良かったし、さっさと捕まるんだったわね)
などと馬鹿なことを考えてさえいたりする。
と、そこで考えを打ち切って見張り役のヒカルへと話し掛ける。
ヒカルは、何やら漫画雑誌を読みながら監視をしている。いや、むしろ監視がついでなのだろう。
「ヤマダ君呼んでくれませんか?」
その呼びかけにようやく気付いたヒカルがようやく漫画雑誌から目を離す。
そして、先ほど言った言葉を理解したらしくちょっと慌てた感じに話しかけてきた。
「会ってどうするの?
もしかしてまた、撃っちゃうの?」
「違います、ちょっとどうやって助かったのか興味が湧いてきたんです」
そう言うが、視線はヒカルの方を向いていない。
明後日の方向を見ているミユキを怪しがりながらもコミュニケで連絡をする。
「うん、うん、わかった・・・今から向かうって」
その言葉を聞いてミユキは、頷きながらそっとまた炬燵に入って横になった。
ヒカルの方も特に気にしていないようで、また先ほどの漫画雑誌を見始めている。
どうしてミユキは、ガイのことを呼び出したのか?
これが、ミユキの仕事なのだ。
何か異常、異変が発生したらその情報を会長へと流す。
そして、その情報をどうするかを会長に聞くという訳である。
今回のこの事件は、ガイがどういう風にして助かったのかが一番の疑問だった。
腹に何発も銃弾を撃ちこまれたのである、普通は、出血多量とか複雑な手術のせいで死んでしまう。
何故、助かったのか?
ちょっとミユキも興味を惹かれたのだ。
(普通、あれだけ銃弾を生身の人間がくらったら重体で病院送り。
それが、まだそれだけ時間が経っていないというのに意識も回復してるの?)
そう、ヒカルに問い掛けたのもこういう考えがあったのである。
意識が回復しているのか、いないのか?つまり呼び出して返事があったら意識がある。
しかし、ヒカルは、先ほど少し待ってと言った。つまりかなりの大怪我だというのに意識が直ぐ回復したのだ。
これは、異常である。
では、何が異常なのか?
イネスの治療?それともガイの生命力?とにかく疑問は、尽きない。
他にもいくつか気になる現象が起こっているが、一応自分が前に助けてやった人物だ、気にならない筈がない。
(そして、殺しかけた(マテ))
と、そこで扉が開いた。
誰かが入ってきたのだろう。
シュインッ!ガァー…
「あれ?誰もいない」
そう辺りを見回しながらヒカルが不思議そうに言っている。
その声を聞きながらまた施設の誤作動かとミユキは思った。
これも会長に報告しなければならない情報である。
ナデシコのコンピュータの異常、これは何を意味するのか?
そして、それが人為的に行なわれているのか、またはただの誤作動なのか?
それも調査しなくては、ならない。
そう思うとちょっと面倒臭くて気が重いが、自分も乗っている戦艦なのでしなくてはならない。
「ん?」
「おーい!だ、誰か止めてくれ!!」
そこへ先ほど呼び出したガイが妙なことを叫びながら部屋へと突っ込んできた。
その速さで巻きあがった埃でヒカルが咳き込んでいるが、ミユキは、隔離されているので助かった。
「(ゲホゲホ)一体、どうしたのよ?」
チュインッ!!ぷしゅー…
ヒカルの目の前でガイが素早く反転してヒカルの方向へと向く。
そして、足を必死に指差しながらこう叫び始めた。
「こ、この足を見てくれ!!どうなってんだ!?」
言われてヒカルがガイの足を見てみると機械になっていた。
先ほどの妙な速さは、そこの足にあるローラーと噴射されるブースターによって得ていたのだろう。
だが、一体何故、ガイの足がそんな機械になっているのかは、ヒカルにはわからなかった。
「なんで?さっき会った時は、機械じゃなかったじゃない。
それが、どうしてこんな機械になっちゃってるの?」
「わ、わからねぇ。
俺が走って向かおうとしたらこんな足になっちまったんだ」
そう言いながらガイが自分の足をヒカルへと向けてみる。
その足をヒカルがジロジロと見回すが、完璧に機械になっていた。
叩いてみても金属音しかしないし、ぐるっと見てみても全部金属になってしまっている。
「命には、別状はなさそうです。
何故、こうなったのかには、興味が湧きますね」
などと何時の間にか隔離室から抜け出したミユキがそう言う。
もちろんヒカルがミユキを見ながら驚いている。
「ど、どうやって抜け出したの!?」
「えっと、私、これでも色々と勉強しましたからね。
こういう部屋から抜け出すことだって教わったんですよ」
「まぁ、良いや。逃げ出さないでよ?
私の責任問題になっちゃうんだからね」
そんなやり取りをしていると突然隔離室の明かりという明かりが総て消えてしまった。
停電なのかとその場にいた三人は、思っていたがそこにいきなり1箇所にスポットライトが当たる。
そして、音楽が流れだし、どこからかスモークがバリバリに炊かれる。
一体、何事かとそのスポットライトが当たっているそこを見ていると何かがせりあがってきた。
全員が呆然と見つめている中、そこからせりあがってきたのは、白衣を着た人物がでてくる。
「い、イネスさん!?」
「皆、私の説明が必要のようね?」
そうせりあがった場所から動かずにそう全員に伝える。
確かにガイの体には、わからないことだらけなので説明して欲しいのだが、
どうしてイネスがそういう説明ができるのだろうか?という疑問が湧きあがってくる。
「はいはい、質問!どうしてヤマダ君の体を説明できるのですか?」
ミユキがそうイネスへと質問をする。
すると、さも当然かのようにイネスが答えた。
「当然よ、私が改造したんだもの」
「「「・・・えええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」」」
全員が驚きの声をあげるのを満足げに見下ろしながらさらに続ける。
というよりも全員同僚を改造したというのがショックで説明を止めれなかったのだ。
「ふっ、私は遂に開発に成功したのよ!有機物をベースにした超人の開発に!」
「ちょうじん!?」
「そう!ヤマダ君は、弾丸で撃たれ体内の欠損が激しく、このままでは死亡してしまう。
これは、わかる?つまり、その無くなってしまった物をどうしなければならないかということ」
「はい、補充する?」
「正解!つまり有機物で基本とした部品を作成、それを体内に埋め込む。
他にも色々な多機能を持っている私の開発したナノマシンを体内に補充して…。
あ、で、何故そんな体内から色々と武器がでてくるかというと、
その補充した部分がちょっと趣味で色々と殺人兵器とかを詰めこんじゃったと言う訳」
その言葉にプルプルとガイが震えている。
余りな御言葉に遂に堪忍袋の尾がキレてしまったのだ。
まあ、寝ている間に改造されたら誰だって怒るだろう。
(V3は、例外ということで)
「人の体になんてものを詰めこみやがるんだ!!」
そう叫びイネスとの距離を縮めようとイネスに向かって走り始める。
ガイを止めようとヒカルが飛びかかろうとしたが、ガイはそこでジャンプをした。
バッ!!ビヨ〜ンッ!!
「や、ヤマダ君!落ち着いて……って、凄いジャンプ力!?」
ヒカルは、勢い余って前のめりに倒れそうになってしまう。
なんとか踏みとどまり、転ばずに済み…ガイの行動を見た。
「食らえええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
一気にジャンプでイネスとの距離を縮める。
そして、殴ろうとガイが右手を振り被った時だった。
ヤマダの殴ろうとした右手が鈍い光を発し、鋼鉄で覆われる。
その変化に自分でも驚きながらも好都合だとばかりに殴りかかる。
そこでその変化がさらに広がり始める!
変化があった肘の部分からノズルが発生!
そこからブーストがおもいっきり発射され、加速される!!
そう、これが!!
これこそが!!!ガイボーグの脅威の数あるギミックの内の1つ!!!!!
「ガイ!スーパーアッパー!!!!!」
その叫びと共にガイが拳をイネスへと叩き付けようとする!!!
この動作もブースターのおかげで人の目では、一瞬にしか見えない!!!!!
脅威のギミックのおかげでかなり怖い結果になってしまうかもしれない。
なにしろほとんど2tトラックが全速力で人に突っ込むような威力を持った拳である。
イネスは、原型もとどめないで粉々に粉砕されてしまうに違いない。
いや、腹の部分から引き千切れて上半身と下半身に分かれてしまうだろう。
しかし、そこはMAD。さすがに自分の発明品に負ける訳が無い。
しっかりとその対策としてあるものを用意していたのである。
ガインッ!!!!!
ガイの攻撃とイネスの防御によって衝撃が生まれる。
その衝撃でヒカルとミユキの2人が吹き飛ばされた。
「何ッ!?ディストーションフィールドだと!!!!?」
「個人用のね、前にある人が使っていたからこっそり中身を見たのよ。
そのおかげでほら、この通り…私にコピーを作るなんて訳が無いわ。
…いえ、これは性能が上がってる」
イネスは、説明しながら悦になっている。
さらにブツブツと何か言っているが聞こえない。
しかし、そんなイネスの嬉しそうな感情とは、裏腹にミユキは、呆然としていた。
ミユキにとっては、おかしなことが自分の周りで立て続けに起こっている。
…立て篭もった部屋が突然氷漬けになったり、同僚が改造されたりと…。
(なんなの!?これは、現実!?それとも夢!?
そうよ!そうなのよ!!これは、夢なのよ!!
…だいたいどうして私ばっかりこんな目に合わないといけないのよ?)
などと現実逃避しているが、そう簡単に夢は覚めてくれない。
というか、夢じゃないので覚める訳が無く、この争いは、次へと進む。
「うわァ、凄い!サイボーグだ!
あれが、夢にまで見たサイボーグ!!」
…ミユキの隣で何やら興奮している人もいるが、まあ、無視してもかまわないだろう。
ガイは、攻撃がイネスに対して効果が無いことを理解すると一旦距離を取ろうと離れる。
もう一度先ほどの攻撃をぶつければ、ディストーションフィールドを破壊することができるかもしれない。
そうガイは、考えたのだが、距離を取るべきではなかった。
「私が何も考えていないとでも思っているの?
ロボットの反乱、機械の誤作動、人為的ミス。
でもそれらの対策をしっかり考えているなんて私って本当にあったまが良いわね ♪」
そして、白衣から何やらおかしな装置を取り出す。
無機質なその箱状の物体の上にあるスイッチを押す。
ピッ!ぴたっ!!
すると、ガイの動きが止まる。
というより不自然な格好で停止してしまったのだ。
「ほぉぉぉぉぉほっほっほっほ!!造物主に逆らおうだなんて哀れな奴ね!!!!!」
「くっ、どうなってるんだ!?体が動かない!?」
「貴方の命なんてこのスイッチ1つでどうとでもなるのよ!!
さぁーってと…不良品みたいだしぃー…廃棄しちゃおうっかなぁ?」
「うわぁぁぁぁぁ!や、やめろぉぉぉぉぉ!!」
イネスがスイッチに手をかけるのを見てガイが悲鳴をあげる。
その様子がおかしいのか、何度もその仕草を繰り返してガイが怖がるのを見てイネスは、楽しんでいる。
「何がどうなってるの?」
と、その光景を見学していたヒカルは、疑問の声をあげた。
やはり端から見ては、全然意味がわからなかったのだろう。
隣で自失呆然となっているミユキへと尋ねる。
「ところでさ、どうしてヤマダ君は、急に体が動かなくなっちゃったの?
そりゃあ、確かに改造された時にそういう改造したというのは、わかるけどさ」
そっちよりも常識的に改造は、問題あるんじゃないかあと思うミユキだったが、
とりあえず、このことも報告しないといけないだろうと思い直して考えて見ることにした。
「たぶん…途中で体が変形したところを見るとナノマシンが関係してそうですね。
…必要な時に表面部分にナノマシンが集結してあのように変形できるんだと思います」
そう考えたミユキだったが、さすがに余り自信がなかった。
何しろ改造したのは、あのMADなのだ。
どういう改造を施したのか、全く見当もつかない。
ふとミユキが横を見るとヒカルが嬉しそうにネタ帳に色々と書きこんでいる。
どうやらこのことを漫画のネタにでもしようと企んでいるようである。
「ふんふん、それで?」
そう、気軽に後を促すがさすがに答えるべきじゃないかなあと思い始める。
何しろこのまま漫画にでもされたらガイも余り報われないのではないかと思った。
こういう不幸な仲間には、ミユキも気をきかすのだ。
しかし、このヒカルの様子では、それも難しいかなとも思ったりする。
「凄いねェ…現実にこんなことが起こるなんて…最高じゃない!!
さ、この経験を生かして次なる同人誌を描いちゃうわよぉー!!」
などとめちゃくちゃやる気を出していたりする。
とりあえず、ヒカルを無視してミユキは、あちら側をまた見学し始めた。
すると、どうやら向こうでも何やら話し合いがあったらしくガイの悲鳴が大きくなっている。
「お、おい、まさかそのスイッチ押すンじゃないんだろうなあ?」
ガイが心底怯えた様子でそうイネスへと問う。
そんなガイとは、対照的にイネスは、嬉々としてその問いに答えた。
「もちろんすんなり、簡単に、最短距離でぷちっと押しちゃうわよ?
それとも何?私が作ったこの装置に何か不都合があるとでもいうの?」
(…誤作動とかよりもその装置が正常に稼動した場合を怖がっていると思うですけど)
と、ミユキが思ったとしても別にイネスには、通じなかった。
あっという間にイネスの指がその装置のスイッチをONにしてしまう。
そして、ガイの体がびくんっと軽くはねる。
一体何が起こったのかとそちらを見ていると…。
ガイが突然顔をあげる。
その顔は、妙に晴れやかだった。
まるで先程の怖がっていたガイとは、別人のようである。
「イネス総統閣下に…バンザイ!!」
そうガイがバンザイしながら叫んだ。
突然のことだったので、一瞬理解が遅れる。
「はぁ!?」
もちろんミユキは、これがスイッチの効果によるものだと気付いた。
気付いたが、その突然のガイの変貌振りにやっぱり夢なんじゃないかと現実逃避を始める。
そこでミユキは、自分の頬をつねってみた。
現実を突き付けられるのが嫌らしく恐る恐るやっている。
ぷにぷにっ
「…痛い」
ちょっとした刺激に自分が夢を見ていないことを示して来る。
しかし、どうやらそれだけでこれが現実だと思いたくなかったらしい。
ナデシコの壁に向かって自分の頭を叩きつける。
何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、自分の頭から出血してもやめない。
………ガンガンガンガンガンガンガンガンッ!!
………………ガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンッ!!
「あはは…早く覚めないかなあ」
ミユキは、やっぱりこれが現実なの?と思いながらも執拗に認めなかった。
そんなミユキの突然の行動をもちろん全員、自分のことに夢中で誰も止めようとは、しなかった。
あとがき
『影(シャドウ)』第十四話 その1を読みました...と、ある御方からメールが届きました。
…その御方は、メグミ親衛隊最高幹部会私設軍隊なる部隊に出動命令を出されたそうなのです。
……ワタシ、ナニカイケナイコトシマシタカ?
その4にジャンプ!
代理人の感想
いじめられっ子ミユキちゃん。
久々の登場でもやっぱり彼女はいじめられっ子でした。
ガイより余程目立ってるもんなぁ(爆笑)。
>勝手に体を改造されたら
勝○造というのも例外に入れておいて下さい(爆)。
> ……ワタシ、ナニカイケナイコトシマシタカ?
さあ(笑)?