機動戦艦ナデシコ <黒>
 03.早すぎる「さよなら」!→「立つ場所」は何処に

 

 バイトの帰り、ユートピアコロニー近郊の農園。
 ふと空を見上げる。大気が震えた。音は聞こえない。ただ、不吉な何かを感じたのだ。
「敵襲か!?」
 それはもっと酷いモノだった。
 チューリップ。
 敵の母艦と言われる巨岩。
 しかし実体は違う。
 異文明の遺産、転移の門。
 そして、それは突き刺さる。
 人々の生活する場所、己の故郷、ユートピアコロニー。
 離れていたからこそ、そして近くにいたからこそ見えた、滅んでいく姿。
 激しく鼓膜をうつ大音声。
 衝撃が駆け抜け、大地は大きく裂けていく。
 そして、見えるはずのない物が見えた。
 人の、死にゆく様が。

 そこで、目が覚めた。
「……チューリップを……見たからか……? 最近、見なくなったと思ったのに……」



 エステバリス。その優位性は思考制御により、思考と行動にタイムラグが殆ど出ないこと。
 しかし、アキトのように入力されるデータが膨大なためオーバーフローを起こす危険性があるのなら、使い物にならない。ソフト面は改良されたとはいえ、ハードに要求されるものはやはり大きい。
 ぺら……ぺら……。
「ほう、こりゃあ……」
「何か楽しそうッスね、班長」
「ああ。テンカワが、『こう言うのがあるとありがたい』ってメモ置いてったんだよ」
「へえ、どんなのです?」
 エステバリスの長所は戦場ごとに最も適した能力を持ったフレームを用意すること。ならば専用機を作ることの意味は何か。無論、エースと呼ばれるようなパイロットの為の、特別な機体と言うこともあるだろう。しかし、パイロットの能力に追いつけない機体が存在する意味はない。彼ら整備員には棺桶を作る趣味はないのだから。
 演算機構の見直し、それとデータのならし。これでフリーズは防げる。
 しかし機体そのものはどうにも出来ない。要求される精度を再現するためには関節部のアクチュエーターをより精密に動作できる物と交換し、関節の動作範囲を見直すこと。大したことは出来ないのだ。
 ならば見直すべきは装備品と言う事になる。
「ディストーションフィールド、その攻撃転用……やってみるか?」
「フィールドにフィールドで対抗するんですか? エステバリスじゃ無理……」
「ばぁーか。出力で対抗すんじゃねぇ」
「と言うと……波長を解析して、全く同じ波長を出力、干渉させて中和……そんなトコですね」
「それが正解だ」
 くいっ。
 ウリバタケの指さす向こうには訳の分からない部品が散乱している。ナデシコの補修用品の入ったコンテナが一つ空いてもいるようだが。まあ、これが整備士である彼の仕事でもあるのだから、監査役のプロスペクターも五月蠅くは言わないだろう。
「後は、機体の性能アップだが……基が空戦や陸戦じゃ無理そうだな」
「オリジナルフレームでも作りますか?」
「方向性が決まってない今は、まだ無理だ。奴のための機体なんだからな」

 

 ナデシコのブリッジではルリがビッグバリアの説明をしていた。何故か場違いなことにユリカは振り袖を着ている。
「これが私達の、これから突破する防衛網についての説明です」
「あの役立たずのことですか?」
 説明を始めようとしたユリカを誰かが遮る。
「役立たずって、酷いことを」
「確かに役には立ちませんけど」
 迎撃ミサイルやビッグバリアなど、落ちてくるチューリップには殆ど効き目がない。確かに壊すことは出来るが、万一通り抜けた場合、破片が広範囲に撒き散らされるのだ。
 さらに地球から発進する戦艦の邪魔をするからと扱いが面倒で、いっそ取り壊せという声すらある始末。
「……と言うわけで。聞いてます? 艦長」
「うん、聞いてるよ」
 正直言ってこれが艦長かと思うと、ナデシコの未来は暗いかもしれない。それがこの場にいる彼らの正直な感想だった。
「……何を考えているんだろう」
「何も考えてないんじゃないですか?」
 たんに正月だから晴れ着を着たかっただけなのかもしれない。
「あれ? そういえば艦長……アオイさんは?」
「え、ジュン君? その辺にいるんじゃない」
 トビウメから戻ってきたユリカはジュンを連れていなかった。
「もしかして向こうにおいてきたんじゃ」
「そんなこと無いって。ちっちゃな子供じゃないんだから」
 戻ってくる際に使ったのは小型ヘリ一機だけ。
 そこでミスマル提督からの通信があったとき、横に映ってもいた。
 気づかないはずはないのだが。
「「「「それもそうですね」」」」
「ふむ。……アオイ君、まだまだ若いな」
 ぽつりとこぼすフクベ提督。
 その声は何か、体験した者にしか分からないほどの何かが滲み出ていた。
「ユリカさん、いつまで着ているつもりですか?」
「後でアキトに見せようと思って、ね」

 

「ふーん……ユリカ、連合にケンカ売ったんですか」
「本人は説得、と言ってましたが」
 テンカワ・アキト、今更言うことではないが彼の本職はコックである。そのため彼は食堂内での噂を収集する機会に恵まれている。
「でも普通、正月だからって振り袖まで着て、宇宙に出たいからビッグバリア解いてくれ、なんて言ったら……怒りますね」
「これで連合は私たちを止めに来るでしょうね」
「建前はどうなんですか?」
「彼らにとっては体面の方が重要でしょうから」
 昼食を取りながらアキトに愚痴をこぼすこの男、名をプロスペクターと言い本職は会計・調停なのだが、出航したばかりだというのにその仕事柄ナデシコ内でのいざこざを片づけることが仕事となりつつある。
「防衛ライン……突破できますかね」
「そんなこと、なんでコックに話すんですか?」
「テンカワさんの腕を見込んで、と言う事です」
「エステバリス一機で何が出来るって言うんです」
 プロスペクターは何かをアキトが隠していると、そう思っている。実際には隠してなどいないのだが。

 

 その頃、一足先に宇宙ステーションで周りを困らせている一人の男がいた。置いてきぼりを喰らってもユリカを、想い人を救いたいと願うアオイ・ジュンだ。
 彼は手術台のような場所に目を瞑り、横たわっていた。見る人が見れば「まるで改造人間のプラントだ」とでも言いたくなるような場所。しかし地球生まれの人間のIFSに対するイメージはそんなもの。
「君は士官候補生じゃないか」
 通信ウインドウを通しジュンを説得しようとするコウイチロウ。
「こんなコトする必要なんて無いんだ」
「ミスマル提督! あのテンカワという男……許せるのですか!?」
 ビキ……!!
 音さえ聞こえそうな勢いで青筋が立つ。
「……アオイ君、ワシが許可する、思う存分やりたまえ」
「し、しかし提督……?」
 泡を食ったのは医者だった。てっきり止めてくれる物だと思っていたのだから。
 医者の手には、銃にも似た注入器が握られている。IFS用のナノマシンを投与するためのものだ。環境の安定している地球ではIFSを投与する人間など、それこそ現場で働く下級軍人ぐらいのもの。
「貸せっ!!」
 急に起きあがり、注入器をひったくってそのまま自分の体に突き刺す。
「!!」
 一瞬、硬直する体。見開かれる目。
「……ユ……リカ!」
 その手に現れるIFS所持者の印。
 自分の信念を貫く力が欲しい、そう願いながら眠りへ落ちていった。

 

「ナデシコの横暴を許すな!!」
「ナデシコを拿捕せよ!!」
「あの力を我らのものとするのだ!!」
 それを合い言葉に出航する戦艦、大艦隊。しかしこの中のどれほどの人物が知っているというのだろう。自分達がクリムゾンなる企業の飼い犬であるなどと。
 しかし。
「チューリップ、活動を再開しました!!」
「艦隊、戦闘に入ります!!」
 軍本部にいた男が自ら被っていた帽子をむしり取り、拳を握りしめながら叫ぶ。
「ガッデム!」

「何々? どうしちゃったの!?」
「どうやら戦闘準備を始めた連合に、チューリップが反応し戦闘へ入ったようです」
「じゃ、今の内に行っちゃいましょう!」
 何故か誰からも救助に行こうという声は出なかった。
「そうですね」

 

 ナデシコは宇宙を目指し、ひたすら上昇を続ける。
 真空のインフレーションを用い、エネルギーを得る相転移エンジン。
 上昇するに従って、ディストーションフィールドの出力も上がり、ミサイルの直撃にさえ耐え、力強さを増しながら重力のくびきから逃れようとしていた。
 いや、地球がナデシコを逃すまいと、繋ぎ止めようとしているのかもしれない。

 そんな中、大音響が鳴り響く部屋。
 部屋の一面を占有するほどの白紙に、懐かしい雰囲気を持つ映像が流れている。そう、ヤマダ・ジロウ秘蔵のゲキガンガー3である。
「あーもう……揺れるなぁ……」
 プロジェクターを押さえながら。
「仕方ねーって。ディストーションフィールドは対グラビティーブラスト用。ミサイルなら多少は効く……っての」
 こちらは額に納められたゲキガンアイテムの固定で忙しい。
「しっかしガイがこれを持っているなんてな…子供の頃ずっと見てたんだよな、ゲキガンガー3」
「もしかしてそれで付けたのか?IFS」
 右手の甲を思いっきり突き出しながら。
「なワケ無いって。それとはまた別」
「チッ、つまんねーな。……無論俺はそうさ!」
「ま、いーからさ……続き見ようよ」
 やはり同じ趣味を持つというのは仲良くなるためには役立つと言うことか。

 しかし、それを邪魔する者が現れる。
 第三次防衛ライン、デルフィニウム部隊。
 そして、その機体から聞こえた声は意外なものだった。

『ユリカ!! 君を行かせるわけには行かない!!』
 心の中、全てをぶつけるようなジュンの叫び。それは白い宇宙用機動兵器・デルフィニウム。そのコクピットからの声。
「ジュン君、どうして?!」
『君を行かせれば……君たちは戦犯にさえなるかもしれないんだ!』
 誰も思わなかった答え。救助船の、人を助けるという行為が犯罪になる。
「いや、そうじゃなくて」
『……? 何が言いたい。……確かハルカ・ミナトさんだったな……』
「何でそこにいるの? と言うか、ナデシコに乗ってなかったの?」
『……』
「そう言えば、何でです?」
 ミナトに続いてメグミまで。
『……置いてかれたんだよ……(ぼそ……)』
「え? 何、ジュン君」
『トビウメに乗ったとき! ユリカに置いてかれたんだよ!!』
 そこでユリカはプロスと顔を見合わせて……
「だっけ?」
「はて。とんと記憶にありませんな」
 この時、ブリッジの空気は果てしなく冷たかった。
 その冷たさを払拭したのは別口の通信だった。
『あー、ブリッジ、聞こえてるか?』
「どうしました?ウリバタケさん」
 だが一方でメグミが格納庫のウリバタケと交信を開始する。
「ヤマ『ダイゴウジだ!!』……のバカが出ようと…いや、出やがった」
 ブリッジからも見える、ある意味鮮やかなバーニアの光、それを発するのはエステバリス!

『ヤマ『ダイゴウジだ!!』……のバカが出ようと…いや、出やがった』
 ウリバタケの声は食堂のスピーカーからも聞こえていた。
「……はあ。ホウメイさん、来たばかりですみませんけど……俺、上がります」
「格納庫かい? 頑張って来な!」
 アキトは走り出す。
「アイツも忙しいねえ」

「そう言えばプロスペクターさん」
「何ですかな? ホシノさん」
「他にパイロットは乗り込まないのですか?」
「サセボのことが効いたのか……逃げられました。これからサツキミドリ二号の三人しか乗らないんです……」
 つまり、今ナデシコにいるのは怪我人のヤマダ・ジロウと兼業のテンカワ・アキトだけと言うこと。
 戦いに行く船にパイロットが二人。いかんともしがたい状況だ。増えても5人。敵勢力下に行くのに、何とも心許ない限りではある。

『うおおっしいいい!! ようやく、俺の、出番だぜっ!!』
 空を翔る、ガイ操る空戦フレーム。
 それは真っ直ぐにデルフィニウムに向かっていく!!

『撃墜しろっ!!』
 それを見たジュンの叫び!!
 他の機体は迷うことなくミサイルを撃ち放つ。デルフィニウムの推進部に取り付けられたミサイルポッドが剥落、それ自体がエステバリス目掛け飛翔する!
 僅かに間合いを詰め、そしてミサイルが発射される!!

『あらよっと』
 と、気の抜けるような声を上げながら、わずかな差で避けるガイ。射線上から唐突に下へと向きを変えたのだ。
 それだけでミサイルをやり過ごす。

『うおらあああああ!!!』
 ガイのエステバリスが、なお加速をかけ、デルフィニウムに肉薄! 体ごと突き刺さるかのように殴りかかってしまう。しかも撃墜、これは言い訳不能。
「な、なんて事を……」
 ピーー!
<連合軍より、ナデシコへの撃墜が国連へ申請されました。現在審議中>
 アラームと共にウインドウが開き、オモイカネがどうにも冗談に聞こえない事を告げてくる。
「今のヤマダさん……ですか?」
<建前は>
 この時、空気が凍った。

「……ウリバタケさん、あのバカを連れ戻しに行こうと思うんですが……」
 アキトの目は点になっていた。
 せっかく作り上げられた空戦フレーム改。それがバラバラになっていた。
「ン? ああ、駆動系にチト問題があってな。あっちのを使え」
 そう言ってスパナで指し示したのはある意味不気味な代物だった。

 今回のミッションは敵を行動不能にすること。間違っても撃墜ではない。で、だ。空気が薄いとはいえ空中戦だからと、例の大型バーニアがあるのは分かる。武装の殆どが外されているのも、まあなんとか。
「何で、このフレームを?」
「頑丈で、お前の動きに耐えられる。たった二回動かしただけであの空戦フレームはもう寿命が来ちまってる。酷使しすぎって事だ」
 随分コストパフォーマンスの悪いパイロットだ。
「だからって……何で空中戦に『砲戦フレーム』なんですか!?」
「他にねえ。以上だ」
 大量の武器弾薬、バッテリーを積み込める砲戦フレーム。重武装を扱うため、各駆動部は力強く、かつ繊細。武装を外せばかなり自由度は上がる。更に防御力は並みではない。しかし、そんな物に空を飛んでほしくない。
 しかも銃器はラピットライフルが腿にマウントされているだけ。
 火星で使っていた機体に比べれば「普通」なのだが、アキトは機体の外見によるイメージにふらついていた。
「さすが班長、スゲエ発想だ」
「ああ、俺達には出来ないな」
「天才、ってのはああいう人の為にある言葉なんだろうな」
 遠くでウリバタケを誉め続ける声が聞こえているが、アキトは内心不安だった。
「は、はは……は……。テンカワ・アキト、砲戦フレーム空戦仕様……出撃します」
 そんな中、アキトの虚ろな笑い声は格納庫によく響いた。
「あ、ついでにそこの棍棒持ってけ。デルフィニウムのフィールドパターンは入力してあるから、フィールドなんざ無視して殴れるぜ」
 どことなく、ナデシコのブレードに似ているような気もするが、これは気のせいではない。棍棒とは言っているが、殆どエステバリスサイズの剣のようにも見える。幅広の5メートル近い刀身と、1メートルの柄。両手剣に分類される物か。
「……剣、か……」
 それを見つめるアキトの目は、ヤケに物騒だったと、それを目撃した整備員は後に語った。

『おーいアキト〜親友のピンチだ〜たぁ〜すけぇ〜てくれぇ〜』
 自称・ヒーロー……ここに堕ちる。
『何やってんだか……仕方ない……』
 この光景は頭が痛い。
 ゴウッ!!
 アキトは最大限に力を引き出す!
 設計を遙かに超えるG、それは機体を軋ませながら、常識外の速度でデルフィニウムに肉薄、その手に持つブレードで増槽を破壊する!!
 全く抵抗無く、ブレードは振り抜かれたのだ。
『ガイ、退け!』
『オイ! テンカ……ワ?』
 それは、何かが違った。
 反発しようとして見た、モニター越しだが、いつも見ている同室の男の顔。何ら変わるところがない。
 しかし、何かが、決定的に違った。
『怪我人は早く怪我を治せ。邪魔なだけだ。それに、仲間を死なせたくはない』
 最後の言葉と共に、その何かが消える。
『あ、ああ……』
『さてと……ジュン、何でそんなトコにいるんだ?』
『お前もか……僕と戦え、テンカワ・アキトッ!!』
 その言葉と共にまっしぐらに飛びかかる!
 後方にはナデシコ、そしてデルフィニウムの搭乗者はジュン。撃墜は不可!
 激しい激突音と共にもつれ合う二機。

「どうしてジュン君、アキトに突っかかるのかしら」
 素朴な疑問。少なくとも彼女にとっては。
「は?」
「それは艦長分かるでしょ? 男の純情」
「アオイさんは艦長の」
「大事なお友達よ」
 この時、天然の恐怖をクルーは知ることになった。同時に、ジュンの哀れさも。

『……哀れだな……ジュン……』
『う、うう……うるさあぁい!! お前さえ、お前さえいなければ!!』
 密着した状態から、無理矢理殴りかかろうとするが、手を組んでいるため、それも敵わない。
『お前は……何で軍人になろうとした……何で力を求めた!!』
 ガキン!!
 つかみ合っていたデルフィニウムの手が砕け散る。
『僕は……守りたかったんだ!! 地球を……好きな女の子を!!』
 ゴウン!!
 手が砕け散ったことで一瞬、自由になったその腕で殴りつける!!
『なら何でナデシコを沈めようとする!』
 ミシッ……グシャアッ!
 肩口から掴み、殴りつけてきたその腕を完全に破壊する。
『ナデシコが行けば彼女は犯罪者になるかもしれないんだ!!』

「ジュン君が好きな娘ってココにいるの?」
「可哀想に」
「ま、アタシ的には面白くなりそうだから良いわ」
「艦長……なんて鈍い」
「……バカばっか」

『……ブリッジの方は放っとくとして……なら、戻ってこい、ジュン!! お前がアイツを守るんだ!』
 二機の動きが……止まる。
『僕に……ナデシコに乗れって言う……のか?』
 ジュンは半ば呆然と。
『……お前はナデシコの副長だろ?……ユリカ』
「うん、ジュン君はナデシコの副長だから、戻ってきてほしい。ジュン君自身のためにも」
『ユリカ……』
 その時、ジュンは吹っ切っていた。守りたい者を守るために、ナデシコに乗るのだと。

 デルフィニウムを回収し、ナデシコに帰投したアキトを待っていたのは、異様な光景だった。
 重傷者(ヤマダ)を整備班全員で取り囲んでいたのだ。
「テメエ……何度言ったら分かるんだ?」
 ウリバタケと、その背後に三人、ウリバタケのように作業着の上にツナギを着ている男達がいる。何故か目の輝きがウリバタケに酷似している。
「俺達はな……パイロットを無事に帰ってこれるように整備してんだよ……」
「で、何だお前は……重傷のくせに出撃しやがって……」
「デルフィニウムごときに関節にガタの来るような捕まり方しやがって。テンカワの機体造るのでもうアクチュエーターの予備殆どねえんだぞ!!」
 いきなり自分の名前が出たので、アキトはふと逃げ腰になる。
 ジュンも悟る。原因が自分であることを。
「オイ、ジュン……ココは危険だ……逃げるぞ」
「ああ分かった。逃げよう……」
 そこで何故か落ちていた釘が足に当たる。それも何故か大きな音を立てて。
 ジュンの目が言っている、「何故だ」と。
 アキトの目が言っている、「俺は悪くない」と。
「よう、テンカワ……今回はデルフィニウムの肩潰したよな……指先、またオーバーホールしなきゃなんねえだろうが」
「副長……よくも状況をややこしくしてくれたよな……」
 アキトは無論、軍人であるジュンも戦闘訓練は受けている。
 しかし。
 自分達が原因で迷惑をかけている相手を、幾ら多勢に無勢とは言え……ぶちのめすことは出来ない。
 彼らは、その海の中に飲み込まれていった。

 のちに医務室にヤマダと、数刻遅れでジュンが運び込まれることになる。一人ピンシャンとしたアキトは見たものは、何故か怪我の悪化したガイと、反対側には真っ白に燃え尽きたジュンの姿。
「……何があった?」
 武士の情けという言葉を知るのなら、聞かずにおいてあげるべきだろう。


 しかし最も重要なのはこれ。
「ちょっと、アンタ達、何すんのよ!!」
「……すまんな、お前ら。こんなヤツの部下になった運命を呪ってくれ」
 ガン細胞は早めに切除すべき。
 整備員一同とアキトはムネタケ一派を放流することに決めた。別に何か細工するつもりはない。なんとか燃え尽きない程度の救命ボートにすし詰めにして、ほんのちょっと酸素の濃度を濃くしただけだ。
 形としては、人類が初めて月に行って帰ってきた有名な、映画にもなった帰還船と同型だった。
「酸素酔いに気をつけろよ〜」
「もうくんなよ〜」
「ムネタケ副提督の新たなる船出を祝して・・・・「「「ばんざーい、ばんざーい、ばんざーい」」」」
 このあと、きっちり酔った部下達によってムネタケが殲滅されるのだが、ナデシコ内での異常行動を告発するとムネタケを脅し、さっさと別の部署に移動することに成功する。
 その代わり、返り咲きを狙うムネタケに配備された新人が苦労することになるのだが、それはまた別の話。






あとがき。
 ……随分軽いな。回を重ねるごとに容量が小さくなっていく。
 まあ、いいか。
 とりあえず、ガイには生きていてもらわないと話が進みませんから。
 勿論サブタイトルはムネタケ副提督のためにある言葉だと信じています。
 改訂サブタイトルはアオイ副艦長のことです。

 

管理人の感想

 

 

さとやしさんからの投稿です!!

予想通り(笑)

とうとう空飛ぶ砲台になりました、アキト君(苦笑)

ジュンはジュンで何時もどおりだし〜

ま、ウチの本編みたいにこの時点で見た目クールなら、別の意味で恐いけど。

でも、さとやしさんの作品のウリピーと整備班は、輝いて見えるのは何故だろう?(笑)

 

では、さとやしさん、投稿有り難う御座いました!!

次の投稿を楽しみに待ってますね!!

 

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