機動戦艦ナデシコ<灰>

 エピソード3−3/祭……の開始。


 お祭りは、準備しているときが一番楽しいという。
 しかし、本番が楽しいことも確か。特に自分達の楽しみを優先して作り上げた催し物となれば。

 

 発展途上「以前」の胸をでん、とそらしながらラピスが指をビシィ!とハーリーに向ける。
「分かっているわね。私達の勝負は最後のメインイベント!」
 対しハーリーも同様のポーズをラピス……ではなく、永遠のライバル(最近そうなった)ウリバタケ・ツヨシへと向ける。
「先輩! 今日僕が勝ったら……約束忘れないで下さい!」
 そう言われたツヨシ、全く顔色を変えずにやれやれと言った動作で。
「ハ! 「勝ったら」だと? 弱気なことだが……ま、俺の勝ちは決まっているんだからな!!」
 早くも火花がちらついていた。

 その頃、白鳥ユキナはルリと一緒に文化祭に遊びに来ていた。
「良いんですか、ユキナさん。受験勉強しなくて……」
「大丈夫よ、ルリルリ。そこら辺はちゃーんとやってるから」
 そう言いつつ額には汗が。
 ただ両手に持った焼き鳥・綿飴・ラムネの瓶・頭のお面・口にくわえたトウモロコシ。小学校の文化祭にはそぐわない物だが、理事長の性格を考えれば、さもありなん。
「で、ラピスちゃん達の出し物はいつから?」
「確か…今日のシメにやるそうです」
「じゃ、今しばらくは遊べるね……どこいこっか」

 

 これは夢だと、理解する冷静な部分が、頭の何処かにある。
 自分にならいつでもでれるようなお粗末な座敷牢。
 日々、体がなまらないように努めた。
 現れるのは食事を持ってくる男と、……零夜。
 そこまで思い出して、目を覚ました。
 覚醒は一瞬、体が拘束されていないことを確認すると、居場所を確認する。真っ白な壁が目にいたいほど。一面がガラス張りになったとなりの部屋に白衣を着た医者か研究者と思しき女性と、床へと倒れ込む男と、それを殴り倒した男。
 何故か殴り倒した方が自分の顔、その下半分を手で覆い隠しその隙間から血を流している。
「こらこら、前ぐらい隠しなさい」
 スピーカーを透した声が聞こえてきて、初めて彼女は自分が入院着のような物……それも寝相の所為か前が大きくはだけていることに気づいた。
「気にすることはないだろう」
「あなたが気にしなくても、この子達が…って、テンカワ君、あなたも見ない!」
 そう言いつつ、手元にあったカルテで視界を閉ざす。
「……直して、お願い」
 そう言いつつ、下着も身につけていないことにようやく気づいた。

「……何で俺は、こんなところにいるんだ?」
 部屋を変えての一言目。
 それについて、少々拍子の抜けたような、間の抜けた顔でアキトが答える。
「昨日繁華街で大暴れした挙げ句倒れたんだよ。覚えてないのか?}
 憮然とした態度に、憮然とした言葉でかえす。
「俺がその辺のチンピラ程度に負けたというのか」
 ぞわり、と殺気のような物が撒き散らされる。
「違うって。……多分、空腹だろ? 抱えた途端、腹が鳴っていたからな」
 そうか、と頷く。
「で、名前は? いつまでも名無しじゃマズイからな。俺はアキト。床で蠢いてるのがアカツキ、こっちがイネス先生」
 そういい、自分を含め紹介する。
「北斗だ」
 そう言い、口を閉ざす。
 赤毛の、美少女としか言いようのない容姿に北斗という男性名。何かがあるのだろうと、それ以上は口にしなかった。

 

 その頃、連合軍が連続して敗退しているという脅威の怪物と戦うため、統合軍の代表として秋山源八郎は東京にいた。
「配置、完了しました!」
 せっかくの非番だというのに無理矢理駆り出された副官、高杉三郎太。何となく近寄りがたいことに金髪に染めた髪をハリネズミのように逆立てている。ささやかな抗議というところか。だが、不機嫌さを隠そうともしないが、仕事はきっちりやる男だ。
「うむ。……奴は後どの位で来る?」
「東北自動車道を南下、現在の速度なら16分。……しかし、これ、本当なんですか?」
 そう言いつつ、ハワイでの連合の敗北時の資料を見る。

 オーバーヒートを起こした新型ビーム砲。
 手持ちの武器でタコ殴りにされた半魚人モドキ。
 接近した途端、自分から墜落した空戦。
 そして、データを信用するなら、「海上を時速400kmで駆ける二本足のロボット」が実在し、ここにやって来るという。

「うむ。……だからこそ、我々にお鉢が回ってきたのだ。…そう、今日こそこのテツジンの勇姿が!!」
 そして、その言葉と共にテツジンが呼応し、立ち上がる。
 趣味の極致と言うしかないが、彼・源八郎のプログラム通りの動きだった。
「艦長……暇なんですね」
「ああ……戦争があっさり終わったからな。軍の規模も縮小……仕事はなくなって……って、何を言わせる!!」
 余計なことを言ってしまったと怒り出す源八郎をよそに、見かけとは違って真面目な三郎太が言葉を放つ。
「暗殺部隊の長、北辰。最凶最悪最低の科学者、ヤマサキ。……草壁派と名乗るテロリスト達……俺達の仕事は全く変わっていません。守るべき物を守る、それだけでしょう」
 そう言いつつ、決まったと内心思いながらも。
 遠くに見える、男女雇用機会均等法の象徴、元優華部隊の「とある女性」の目が怖い三郎太だった。
 ぞく。
 背筋に何か冷たい物が突き刺さったように寒気を感じる。
 背後からの目だ。
「三郎太、お前も大変だな……」
「ええ。最近、地球に帰化しようと考えてる物ですから…」

 

 こくり。
 模擬喫茶でルリとユキナはお茶を飲んでいた。流石に「一芸」の学校だけあって小等部だというのに味はよい。
「……凝ってますね」
「受験ないから〜、情熱を全部そそぎこんだんでしょ? これだから最近の小学生って奴は」
「ユキナさん、おばさん臭いですよ」
 とん!
 有無を言わさぬチョップ攻撃。
「あたしは木星出身だからね、ここまで凝るような余裕はなかったのよ」
「なるほど」
 ず……。
「それにしても美味しいお茶よね……」
「この葉っぱも、ここで取れた物だそうですよ。……ほら、あのコンテナの影に畑があるそうです」
 そう言いつつ、窓から校庭を指さす。

 ギィィィィィィィィィィィィィ
 校庭の片隅に置かれた、最終イベント用の出し物がコンテナの中から凄まじい駆動音。
「これで良し。最終チェック終了」
 そう言いつつ、チェックリストを確認していく。
「これでハーリーも、身の程を知るだろう」
 そう言いつつ、ウリバタケから遺伝したとしか思えない笑い声を響かせていた。

 チキチキチキチキチキチキ……
 古めかしい音を立ててコンピュータが計算を続けている。
 モニターに映るシミュレートを見てハーリーは恐ろしげな笑みを浮かべる。
「くくく……これで、勝てる……少なくとも負けは……しない!」
 そう言いつつ、ドクロマークの入ったリモコンをセーフティを確認した上でポケットに入れた。

 そして互いに聞こえもしないのに、全く同時に叫んだ。
「「勝つのは、僕/俺だ!!」」

「……男の子って、どうしてこういうのが好きなんでしょうか」
「そう言う物よ? ウチのお兄ちゃんも、最近は少しマシになったとはいえ、コレクションは増える一方よ」
 何となく、大切な物を諦めるようにユキナは呟く。
 脳裏に描かれるのは、木星のトップエリートまで上り詰めた白鳥九十九の書斎………リフレッシュ用にと、いつでも「例のアニメのオープニングテーマ」がかけられている。

『にゅおーほっほっほっほっほっほほ〜〜』
 訳の分からない笑い声がこだまする。
 今だ姿が見えないというのに響き渡るそれを聞き、部下が数人搭乗し始めたのを確認して、源八郎は自らテツジンへと搭乗する。
 無論パイロットスーツは、耐Gなど考慮していない学生服だ。もっともジンタイプは重力制御にエネルギー的な余裕があるためその辺はあまり考慮しなくともよい。
 源八郎が搭乗したのを確認して、副官である三郎太は命令を下す。
「エステバリス隊は機動力を生かし、高々度からのピンポイント! ハワイ戦での教訓から、画像にはフィルター処理をかけること! 行け!」
 確かにその命令は、間違いではなかった。
 情報を得た時点までなら。

 ゴウッ!!
 激しい音と光、炎を上げてミサイルが獲物を求めて飛ぶ。
 自動的に方向を微調整するそれは、敵の姿を的確に射抜く。
「……あら? あんな物でこのあたしを倒そうってのかしら」
 そこまで言って、急激に停止する。
 低速で、とはいっても剥き出しの戦車。人によっては荷車と呼ぶような代物に乗っていながらもムネタケは慣性の法則を無視してピタリ、と止まった。
「先行者、やっておしまい!!」
 ムネタケが叫んだその瞬間、先行者の目が輝き、急激にガシャコンガシャコンと大地のエネルギーを奇抜以外の何者でもない方法でチャージし始めた。
 しかし中華キャノンが中華ドリルロケットに進化した今では、その様な行動は不必要のはず。だが彼らはチャージする。
「頃合いね。……発射よっ!!」
 その言葉と共に、先行者は仰向けに倒れ、足と腕で立ち、体を浮かし、対空砲火の体勢……とことん危険で卑猥な姿を見せる!!
 ドン!!
 ドリルが凄まじい勢いで回転し、ロケットが火を……吹かずに飛んだ!!
 そして正確にミサイルを迎撃すると、ムネタケは全力で座席横にあるハンドルを引く。ハンドルの先にはコードがあって、そのコードは先行者の股間へ、さらにはドリルへと繋がっている。
 そしてハンドルを回すと高速で巻き戻しが始まり、やがてロケットは元の場所へ。
「これが面倒くさいのよね〜」
 と、ため息混じりにぽつり。
 そして気を取り直して、もう一度叫ぶ。
「やりなさい、もう一度!!」
 もう一度チャージを開始した!
 ここまでやればおわかりでしょう。この兵器は、「空気圧」で敵を破壊しているのです!!

『状況は?』
「エステバリス隊、全滅です。敵はフィールド系装備は持っていません。耐久力で耐えている物と思われます」
 じわり。
 その声に、コクピットの源八郎は、我が耳を疑う。「そんな非常識なのがいる訳ない」と。
『本気か?』
「現在確認されているのは敵が、対空装備を持っていることと、その武器に熱反応・電気的反応が無かったとのこと……気をつけて下さい!」
『ああ。……テツジン、出る!!』

 戦いは熾烈を極めた!
 飛び交うロケット!
 それを一撃で叩き落とすダンボールの剣!
 ゲキガンビーム(グラビティブラスト)によって爆砕される首都高速! 

 熱く燃えたぎる秋山源八郎の正義の心には、戦後処理の文字はなかった。

 そして、一瞬を捉えたテツジンの「踏みつぶし」攻撃!!
「ハァハァハァ……やったか!?」
 ぎ…ぎぎ……
 大地に発生したヒビの中から、気色悪い、まるで地獄から響くような声が漏れだしてくる。
「くくくくくく……こんな物で、このあたしを殺そうなんて……甘いのよ!!」
 テツジンの足が持ち上がっていく……そう!!
 先行者壱号・弐号がエネルギー吸収法を利用して持ち上げているのだ!!
 そして、これは踏みつぶしを防ぐと共に、攻撃の伏線ともなる!!
「ファイア!!」
 ムネタケの、裏返った声と共にドリルロケットが飛ぶ!!
「ぬおおおおおおおおお!!!!?????」
 ジンタイプ、堕つ。

 この日、国連はこのムネタケ・サダアキに対し、莫大な懸賞金をかける事とした。無論「デッド・オア・アライブ」だ。
 被害はますます広がっていく。

 

 ぴんぽんぱんぽ〜ん。
『これより、校庭にて本日最後のプログラム、漫画研究会における『ロボットバトル』が開催されます』

 びゅうう……
 大型扇風機の作り出す突風の中、校庭の両端に二つのコンテナが置かれる。
『あ〜かコォナアー! ラピス・ラズリ&ウリバタケ・ツヨシ!!』
『あお・コォナァ!! マキビ・ハリ&ウリバタケ・キョウカ!!』
 スモークとレーザーライトの中、四人の姿が現れる。
「「くっくっくっくっくっくっくっくっく……」」
 睨み合う二人と、一歩引いた位置で笑うラピス、心配そうなキョウカの姿が、誰の目にも状況が分かった。
『なお、このゲームはっアクア・クリムゾン嬢の提供による最新型バリア発生装置を用いることから、過激な物になると思われます! 危険ですので、ラインの内側に入らないようお願いします!』
 一瞬の静寂。
 意味が浸透した瞬間、観客はズザザ、と音を立てて後ろへ下がる。
『コンテナ・オオオォォォォォォプン!!』
 ドゴオォォン!!!
 バギャアアアアアァァァ!!
 コンテナが爆砕する!!
 互いに、コンテナを開けるなどというまどろっこしいことはしない!!
「やるな、ハーリー」
「先輩こそ」
 そう言って、敵意そのものの笑いを見せる。

「見ろ!! 我が渾身の作……光武・改の勇姿を!」
「負けるか……行け、メカタマ4!!」

『バトル・スタート!!』

 オートコントロールで動かされる以上、一度始まってしまえば、彼らにはもう、どうにも出来ない。
 二体のロボットは、お互いを敵と認識し、攻撃態勢に入った!

 光武・改は空気圧を利用し、一瞬で浮き上がって接近、刀を抜き、斬りかかろうとし、メカタマ4の爆撃を受け、後方へと吹き飛ばされる。
 そしてバリアに激突し、激しいスパークと共にリング内へとはじき返される。
 ガシュガシュガシュガシュ!!
 そして間合いが開いたのをこれ幸いと、左右に装備されたミサイルと発射、追い打ちをかける!
 光武は接近戦主体の武装で、このままでは嬲られるだけと、持っていた太刀でミサイルを切るという荒技に出た!

「ミサイルを切り裂くなんて……でも、爆発の所為で装甲ボロボロですよ」
「ハ! 接近戦こそ戦いの華! それもわからんとは」
「華? 無意味ですよ先輩。勝てば良いんです」

「どうしよう……二人ともまたケンカ……」
「良いのよ、やらせておけば……」

 幾度と無く振るわれる太刀、それを阻む弾幕。
 しかしやがて弾薬は尽きる。

「これで終わりだ! やれ、止めだ!!」
 光武の剣が、メカタマ4の首に突き刺さった瞬間、ハーリーは迷わずボタンを押した。

 観客達は声を揃えて証言する。
 あまりに強大な爆発音。鼓膜がそれを「音」と認識することを拒否するほど。
 あまりに強い光。まさに白い闇。
 そして、バリアが遮ったためにリング内に集中した爆発力は、校庭に大穴を穿った。

「……なあ、ハーリー」
「……なんですか?」
「何を使った?」
「テンカワさんに「自爆用の爆薬下さい」といったら、今のをくれたんです」
 静寂。
 静寂。
 静寂。
「テンカワさんって、何者?」
「……さあ」
 夕焼けが、ヤケに赤かった。

 

「ようやく出航か」
 薄く笑いながら。
「はい。しかし、あくまで『代用品』であることにかわりはありませんが」
 部下だろうか、これもまた、主に似た笑いを浮かべた。

 漆黒に塗り固められた戦艦のブリッジ。
 古風な姿の男達が配置につき、中央に座る男と、更にその後方に目を向ける。
「北辰様、全艦、出航可能です」
 中央に立つ男……北辰は背後を一瞥し、命令を下す。
 たった一言。
「滅ぼせ」
 と。

 ゴウン!!
 レッドアラートが視界を一面埋め尽くす。
 月面、連合軍基地。木星へのチューリップの監視所でもあり、国境となっている場所でもある。
「何事だ!」
「奇襲です! チューリップから戦艦が出現しました!」
 その言葉と共に、無人兵器を無限とも思えるほどに吐き出し続ける黒い戦艦の姿が映し出されていた。
「くっ!? ……何を考えている、草壁派! ここを破壊すれば、木星への食糧供給は……!!」
 その言葉が、最後だった。

「成功です。軍基地、中枢のみを破壊、プラント、施設共に制圧完了」
「虫型兵器によるハッキングも順調、酸素供給停止による、内部兵の殲滅も直に完了します」
「跳躍門、一時閉鎖」
 次々にもたらされる報告を聞き、北辰は口元を歪めた。
「……制圧完了、作戦時間2分07秒。この艦のポテンシャルは我々の想像以上ですね」
「流石はナデシコ級二番艦、コスモス。ネルガルもよい玩具を作ってくれたわ」

 漆黒に塗り替えられたとはいえ、その戦艦の姿は、まさしくそれであった。

 

あとがき
 暴れてます、ムネタケ。先行戦車もいつの間にか最強状態。
 それに、ようやく本格登場の北辰。

 次回は、真面目に書きます。いえ、今までが不真面目だったと言う事ではありませんが。
 コスモスvsナデシコ。
 艦載機はそれぞれ夜天光と六連のプロトタイプ、量産型エステバリスとカスタム、ブラックサレナはまだ登場できません。ジンタイプの出番はどうしようかな?


 ちなみに、こんな訳の分からない物に破壊されまくったと言う事でエステバリスは疑問視され、他社製品が幅を利かすことに?
 ジャバウォックの砲弾も、アレだけの破壊力を持っているのに空気圧で飛ばしてますからね……。

 

 

代理人(引上げ作業中)の感想

 

「空気圧で飛ばす」って・・・・・・それロケットちゃうやん(笑)。

と、とりあえずツッコミを入れておいて。

年少組が青春を謳歌し、源八郎や三郎太がアドバンスド・ムネ茸と真面目にギャグをやってる傍らで

遂に名前だけは出ていた北辰が登場! 北斗も本格始動! とシリアスが同時進行しそうな予感。

でも、ひょっとして現在の草壁派の領袖って・・・・・北辰?

なんかとても意外(笑)。