機動戦艦ナデシコ<灰>

 エピソード5−4/戦争の日、深夜。

 ガスッ!!
「ぎゃあっ!!」
 ゴアッ!!
「ぐおぁ?!」
 黒タイツが地面に、壁に叩きつけられる。
「ハァ……ハァ……」
 ハーリーは戦っていた。
 ラピスが趣味に走り、世界最高最悪のマッドエンジニアの血を受け継ぐ二人が作り上げただけあって凄まじい戦闘能力をこのスーツは発揮した。
 一撃で足下のコンクリートを割り砕き、銃弾を食らってもちょっと痛い、ぐらいのダメージ。何より現代っ子の弱点・鳥目(偏食が原因)をカバーするノクトビジョンが最も役に立った!!
「ちょっとラピス……他の人たちは?」
『みんなキノコの胞子がどこから飛んできたのか、それを探ってるよ。ハーリーは囮役よろしく♪』
「ちょっとまってぇええ!!??」

 そんなハーリーが一人寂しく、力業で敵を豪快に倒してる頃、地面でピクリと動く物体があった。
 しかしそんな全身タイツ(銀色)のことは気にしないように。
 戦隊モノの掟「一人で戦うと、仲間が来るまでリンチされる」に従って倒された「抜け駆け王」月臣……いや、舞歌命名・グラマラス………じゃなくて、ぎらぎらシルバー(または汁婆)だ。

「しねえええええええ!!!!」
 狂ったように、いや真実狂っているのかも知れない、そんな叫びを上げながら戦闘員が何かを振りかぶる。
 ハーリーは反射的に腕で防御する!
 どごおぅっっっっっっっ!!!
 激しい衝撃と破壊音、それを聞いた瞬間ハーリーは弾き飛ばされた。美しく弧を描き、宙を舞いながら。やがて顔面から地上へと、必殺技が飛び交うボクシング漫画のように叩きつけられた。
「そ、……そんな……!?」
「見たか……これこそが世界三大凶悪兵器の一つ、血塗られた釘バットだ!!」
 瓦崎工業・太田と書かれた釘バット……放つ妖気は尋常ではなかった。間違ってもイニシャルR・Sではない。

「楽しいわね……」
 そう言いながら舞歌はモニターを見ていた。
 スポンサーの一人からこちらでも独自企画で活動する。そう聞いたときには正気の沙汰かと思ったが、この姿を見、興味が湧いていた。
 かちゃ。
 趣味に走ったのだろう。ダイヤル式の黒電話から受話器を取ると、ある場所へとダイヤルする。
「あ、零夜ちゃん? ……うん……そう……じゃ、お願いね」
 それだけ言うと、ゆっくりとソファーにもたれかかり、気怠げにワインを飲みふける。
 東洋最大の悪女、そう言われた何かを思い出させる姿だった。これで体の何処かに爬虫類の痣でもあれば完璧だったと思わずにいられない。

 酒の匂い。
 何があったのか、酒が樽で一本開いている。それに寄りかかるようにしているのはユリカ。ソファの向こうでは毛布のはじっこを囓りながら涙を流すジュン。
 ミナトは酒瓶を抱え込んで眠った九十九を膝枕している。
 チハヤは「ダビングしてよ」とユキナの持っているDVカムに拝み倒している。

 ……だから、何があった!?
 特にジュン! お前だ!!

「でさ、ユリカさんはこれからどうするの?」
 ミナトが半ば心配するかのように、諭すように尋ねる。それに対してユリカはベロンベロンという表現がぴったりの顔で答えた。
「つぅか、まえりゅの。にがしぃてぇ、たまりゅものでしゅか」
 呂律が全く回っていない。
 ただ、怖い。
 ユリカは酒で動かなくなった体を押し、されど明晰な頭脳で、明日一番に父親に直談判しようと決意していた。

 ちりりりりりん。ちりりりりりりん。
 電話が急に鳴り始め、近くにいたユキナが慌てて取る。酒の抜け初め特有の頭痛か、それとも先刻まで遊んでいたからか……顔色は良くない。
 がちゃ。
「はい、白鳥……あ、紫苑さん……はい、秋山さんならここに…代わりますね。秋山さん、電話です!」

 

 ガラ……。
 崩れ落ちる隔壁から、そんな音が聞こえた気がした。
 激しい熱に晒されたか、爆圧でなのか判然とはしないが、ジキタリスの中枢ブロックはもう完全に死んでいた。壊れていた、では無い。
「……そっちは?」
「ダメだ。みんな死んじまってる」
 そう言って、気落ちしたふうにリョーコがぽつりとこぼした。
 しかし三郎太は一つ大きく深呼吸すると表情を消し、あえて声を殺した。
「救助船が来ている。ネルガルのナデシコだ……俺達はそこに集結し、もう一度月面に挑むことになるだろう」
『こちらナデシコ……救助に来た……生きていたらこちらへ向かえ…こちらナデシコ……』
 そう、無線が言っていた。

 アキトはマイクから手を離し、手にあるマニュアルへと目を戻す。
「いいんですか、ナデシコに彼らを集めて?」
 視線はそのまま、ルリへ救助を続けるようにと。
「いいよ。ナデシコに初撃を放って貰ったら後は俺の仕事だから……みんなのことは頼みますよ、イネスさん」
「任せておいて。オペ室はもうスタンバイできてるわ」
 そう言いながらウインドウには手術着を身につけながら必然性もなくメスを弄ぶ彼女の姿が。
 ソーシャリスト…総合科学者を自称する彼女だが、本来の専門は一体何なのだろう。
「ウリバタケさんは?」
「整備は任せておけ。……ただ、怪我人は乗せないように起動は出来ないようにしておく。統合軍の奴らは血の気が多いからな、特攻しかねねえ」
 手に握ったスパナをグイ、と突き出してくる。
「それでお願いします」
「僕はサポートで出るよ。でもそんなには戦えないからね」
「それで良い。何かあったら俺がエリナさんに殺されるからな」
 その言葉に、アカツキはいっそ死のうか、と言う危険な笑みを浮かべる。
「俺はこの中を見張ってるよ。安易に死のうと言うヤツや、乗っ取りを企てる馬鹿が出ないようにな」
「頼みますよ、ナオさん」
 軽く、スーツを指さす。素材を上手く選んであるのか、詳しく見ないと分からないが間違いなく銃の膨らみがそこにはある。
 そして最後に、一人残った。
「……枝織ちゃんは?」
「……行く。行かなくちゃならない何かが、あるような気がする」

 また、月面では今までとはまったく違う、新しい動きがあった。
 しゅこー。
 しゅこー。
 息を吐く音が、マスクを通しているからか変な具合で聞こえる。
 耐寒服を来た人間達が12個のカプセルを冷凍室から運び出しているのだ。
「ヤマサキ博士、蘇生は順調です……このまま放り込んで大丈夫なんですか?」
「僕を信じなよ。大丈夫、大丈夫だって。これさえ使えば連合本部なんてあっと言う間だよ」
 山崎は楽しそうに、心底嬉しそうに笑みを浮かべる。
「では……一斑はミサイルポートへカプセルを! 二班は跳躍門の操作を始めろ!」
 運び出されるカプセルを横目で見ながら、一人の科学者と思しき男が声にした。
「しかし博士、あの形態にはどのような意味があったのですか? どれもこれも別々の形状をしているし、互いに敵意丸出しです……」
「分かってないね、君も。楽しければ良いんだよ、楽しければ。12体の怪物、僕の可愛い子供達……思いつく限りの個性を持たせて上げただけじゃないか」
 保護カプセルに入れられた怪物達は、爆発機構の無いミサイルに弾頭代わりに入れられ、上空にあるチューリップ、いや地球に隠されている出口に向けて、カウントダウンを始めていた。

 そんな最中に、たった一体の機動兵器で戦艦を落とすという離れ業をやってのけた北辰が戻ってきた。
 ザリガニを思わせるその機体には、ハサミの部分に多少の焦げ痕があるくらいで傷は見あたらない。零距離射撃を受けたはずの装甲部分にも。
「おや北辰さん、お帰りなさい」
「ふ……山崎か……面白い機体だな、これは。久しぶりに感じたぞ、面白いという、心地よい感触を」
 ゾッとするような笑みを浮かべるものの、山崎にはそれが通じない。彼には何かが欠落しているのだろうか。
「ま、それもまだ最初のバージョンですけどね。北辰さんこそいつの間にIFSなんかつけたんですか」
「我の技を再現するのに、これが最適だと思った。それだけよ」

 

 最強の機体を作るという試み。
 失われてしまった時の中で幾度北辰と戦い、そして敗れてきたのかを思い出しアキトは自らの力の無さ、そして仲間達の存在を本当に嬉しく思った。
 ロングコートを羽織り、アカツキを伴って格納庫に向かうことにする。
 既に十数人、ジキタリスの搭乗員や数機のエステバリスがナデシコの中に乗り込んでいる。
「良いのかよアカツキ? お前まで出るなんて?」
「……僕にも思うところがあるって事さ。第一コスモスはウチの艦だよ。責任の一つも取りたくなるさ」
「そう言うのものか」
「そう言うものだよ。そう言えば枝織君は?」
「イネスさんのトコ。本気でIFSつけるって言うんだから」
 そう言いながらため息をつく。
「そう気を落とさないでおきなよ。そのうち良いこともあるって」
 そう話しながら、彼らは格納庫へと到着し、言葉を失った。正確を期すならば、アキトが。

 ズンズンと、音がしそうな勢いで迫ってくる一人の女性。そして同時に迫ってくる男。
「おいアンタらがこの艦の人間か?!」
「……そうだけど……?」
「だったらあのオッサンに言ってくれ! 俺達の機体を直せって!!」
 スバル・リョーコとヤマダ・ジロウ。
 アキトにとってもっとも縁深い戦友と、……死んでしまったはずの親友。
 しかし、それはアキトの中で燻るだけだった。この二人は、自分とは赤の他人、接点など無いのだと。
 そしてまた、心を消して言葉にする。
「そんなに疲労していてどうしようと言うんだ? ……邪魔なだけだ」
 たった一言を、今までの全ての想いと共に吐き出した。
 拒絶を込めた瞳で。
「……アカツキ、行くぞ」
「わかったよ」
 そう言いながら、二人はそれぞれ機体に乗っていった。
 背後に様々な色の視線を受けながら。

 

「大丈夫か、月臣?」
「……ああ。ところで九十九は?」
「……酔いつぶれて役に立ちそうにないから置いてきた」
「またか」
 そのような会話をしながら銀色のボロ雑巾を引き起こしながら黄色は立ち上がった。
 周囲には黒尽くめの山。
 そして視線の先には釘バットを構えた男と、妙に造形の見事なマスクド・ライダー姿の少年(推定)の残像を残しての戦い。
 純粋に力というのなら少年だろう。しかし黒タイツの方も凄まじい気迫が覆っている。……何しろこの作戦が失敗すれば、死が待っているのだ。手料理という名の、惨たらしい処刑人が待っているのだ……。

 ドゴオッ!!
 バギッ!!
 めごぉおおお!!!

 異様な音を立てて戦うそれは、間違いなく化け物だった。
「……仲間割れか?」
「……どちらにしろ俺達の味方じゃない……やるぞ」
「やむをえん」
 そう言いながら二人は腰に下げているホルダーから、これまた趣味に走ったとしか思えない銃を持ち出す。
 そして二人が引き金を絞ろうとした瞬間、頭上から声が響いた。

「待て!!」
「何者!?」
 制止の声を受け、二人は誰何の声を飛ばしながら頭上を振り向いた!

 電柱の頂点。背後には月。血のように赤い裏地を見せながらたなびくマント。漆黒の、軍服を思わせる装束と、金色の虎の仮面。
「私の名はタイガーラピス!! 貴方達に”漢”としての魂があるのならば…手出し無用!!」
 そう言いながらジャンプ…そしてその体は真っ直ぐに九十九と源八郎の中心に降り立ち、悠然と歩き始める。……流石に無意味に熱かった。あの衣装には何かそういう機能でもあるのだろうか。
「貴方達はここから南に二ブロック先に行きなさい。そこで怪ロボットが暴れている」
「何だと!?」
「嘘をついているんじゃないだろうな!?」
『本当です。こちらでも確認しました!』
 タイムリーと言うか、オペレーターである零夜の声が入ってくる。つい先刻まで仮眠室、布団の中で「北ちゃん……ダメ……そんなこと……」などと寝言を口走っていたことは、彼女の記憶には残っていないが、周りで寝ていた同僚にはきっちり聞かれていたりする。
 北斗の脱走疑惑……その原因はこれという噂が、まことしやかに囁かれているのは何故だろうか……。
『えっと、昼間のアレはクレームが付いたので、新しい機体を送ります。イエローはその場で待機していて下さい!』
「……この場?」
 そう言いながら、ふと周囲を見回してみる。……何もない。
 今度は頭上を見る。
 ひゅるるるるる……と何かが高速で風を切りながら落ちてくるのが分かった。

 サセボの住民は切に願った。
 このコント、さっさと終わらせて欲しいと。
 終わるのはまだ、遠そうだが。

 

 巨大な手が激しい破砕音を立てて店を破壊する。
 手は握りしめられ「中身」を的確により分け、それを籠の中に移す。籠の中には医薬品(主に消化器系)、食料(レトルト・インスタント)、大衆料理屋の親父、等々がつまっている。

 料理への冒涜(狂気の策謀の手料理)。そこから逃げるために彼らも必死だ。

「くくくくく……これならジュンやミスマル、オニキリマル……あの親の七光どもを倒すことも可能だ……」
 先程の轟音の元だろう、エステバリスが見事なまでにひしゃげ、全身からスパークを放っている。
 一通り、奪い尽くした後だろうか……なにやら後ろが喧しいので見てみると、いきなり腕を切り落とされた。
「なんだとおおお!!!????」
 そこには赤い、ロボットがたっていた。

「見つけたぞドクキノコ!!」
 そういいながら赤いロボットは両手に持った武器、日本刀を油断無く構えている。
「……その声は黄色いヤツか……死ね」
 ナカザトはその姿を見、一瞬ひるみはした物の立ち上がって昼間に殴り飛ばされた怒りを込め踏みつぶすことにした。
 ゴズン!!
 しかし足の裏にはもう居ず、赤いロボットはその足に向かって斬りつける。

 激しい体格差。
 巨人対小人。
 無手対日本刀。
 そして互いに日本風のコクピット……そう、彼らは主人公の陰に隠れて影が薄く、別の意味で影の濃い機体に乗っていた。
 ナカザトはSDスーパーボスボロットに!!
 源八郎は「声がないからスポンサーの声を気にすることのない機体」、戦神丸に。しかも初代バージョン。

 そしてビルの屋上でぽつんと体育座りの月臣……彼は哀しそうな草笛の音を響かせながら……口を離した次の瞬間、言葉を発した。
「……さびしくなんかないやい」

 刀が初撃に耐えられなかったのか、既になまくら状態。
 切れども、切れどもダメージはほとんど与えられない。
 ボロットも負けじとその蛇腹の、関節のない手をてんでバラバラに動かすが、全く当たらない。
 早くも長期戦の様相を見せ始めていた。

 

 モニターを見る目には憎悪だけがあった。いや、恐れもか。
「化け物……」
 誰かが呻いた。
「ええい、迎撃しろ! ここに近づけるな!!」
「無人兵器部隊、集中させろ!!」

 巨大な物体が真っ直ぐ月面に向かって突き進んでくる。
 巨大なブースターを装備し、幾つもの砲、ライフル、そして通常の物とは違う理論によるフィールド発生装置。
 力を見るためか、数機のバッタが接近し、砲撃してくる。
 ディストーションフィールドなら衝撃で足止めすることも出来よう。しかし、それは受け止められることなく逸らされてしまう。

「く……後何分だ!」
「敵有効射程にここが入るのは……7分です!!」
 悲鳴が飛び交った。
「逃げるぞ!! いや、北辰様にご連絡を! あの方ならヤツをたたける!」


 たった三機、たった三機だけで無人兵器を破壊し、月面へと向かっていくその姿を救助された兵士達は複雑な思いと共に見ていた。
 特注なのか、量産機にはない反応を見せる青いエステバリス。身の丈ほどもある巨大なライフルを自在に操っている。
 量産機と全く変わらない外観を持つ深紅の機体。スリーバーストに改造されたラピットライフルを両腕に構え、的確に敵を貫いている。
 そして漆黒の機体。ブースターとウェポンラックの合成品としか思えない装備・デンドロビウムを手足のように操っている。
「……アイツら、何者なんだ?」
「軍にだってアレだけの腕利きはいないぞ……」
 そう、誰かが言った。そしてウリバタケは言葉にした。
「ただの民間人だよ、アイツラは」
「ただの民間人がアレだけのことをするってのか? ふざけんなよ」
「フザケてなんかいねえよ。彼奴らはガキの頃から軍の尻拭いをしてたって話だ……ガキの頃からな」

 そんな会話が為されているときに、戦況はまた変化を見せた。
『テンカワさん、チューリップ開きます』
「何だって!?」
 ルリの報告に、アキトが悲鳴のような声を上げた。
「何か出てくるのか!?」
『いえ、しかし月面からチューリップ目掛けて何かが打ち込まれました。弾頭部にフィールド反応、撃墜は不可能と判断。出現位置は予測不能です』
「チッ……この機体には阻止できるだけの武器はないのか!?」
「枝織のもダメだよ〜」
 案外気楽そうに言いながらラピットライフルを軽く振ってみせる。
「……僕がやる。ホシノ君、敵のコントロールルームの予測は?」
『地図、転送します』
 アカツキのコクピット内に月面が映り、その上に月面基地が書き込まれ、更に数カ所が点滅を開始する。
「テンカワ君、上を借りるよ」
 そう言うと音もなくアキトの機体の上に立ち、足下からスタビライザを出し、機体を固定、ライフルを精密射撃用に固定する。
 そして、基地の人員が全滅していることを知っているからこそ、何の躊躇いもなく、射撃を開始した。


 そしてその光景を見ていた月面のテロリスト達は笑っていた。
「ハッ! 馬鹿が!! そんな場所から撃っても、こちらには……」
 そして、次の瞬間、彼らはそれまでの殺戮の人生に相応しい終わりを迎えた。
 有効射程はあくまで「有効」に過ぎない。距離外でもエネルギーは存在しているのだ。

『……ダメです、チューリップ停止しません!!』
「何だとぉ!?」
 遙か前方、地球と木星、そして火星を結ぶために設置された、夢の架け橋であるチューリップはまた、悪夢を送り出した。何処へと行くとも知れないのに。

 ひゅごっ!!
 一撃が、オーキスを激しくゆらした。精密射撃を行うためにフィールドをカットしていた隙に。
「うわああああああ」
「なにいいいいぃぃぃぃ!!!??」
 そしてその揺れはアキトだけではなくその上にいたアカツキをも襲う!!

 そして、アキト達へと向かってくる機体。
 ザリガニを連想させるそれは変形を始める。
 胴体が中央から裂け、そこから頭部が現れる。ハサミの先端が変形し、足になる。胴体に備えられていた腕部が解放された。
 そして、それは声を発した。
『やってくれたな、貴様ら……』
「……北辰、やっぱりお前か……」
 憎悪だけで作られたような声。
 そして、その声に反応したのは、過去に立ち戻ったアキトだけではなかった。
「……お…父様……」
 そう、枝織…彼女は北辰を、父と呼んだ。


 その緊張の高まる中、彼らの視界の外で、いや大気のない月の居住区保護に作られた地下回廊……そこを進むコスモスの姿があった。
 そして、誰もいないブリッジにただ一人山崎は立ち、不可解な笑みを浮かべていた。
「……まだまだ楽しめそうですね、ここは」
 そう言うと、後ろを振り返り、唇を釣り上げ、より一層楽しそうに笑った。
 不思議な光沢を持つ液体の中に固定された、人間の脳髄へと向けて。

 

 そんなシリアスそっちのけでコミカルに、本人達はシリアスに戦っている奴らもいた。
 非常識な釘バットの威力から逃げまどうハーリー。
 地面は裂け、何故かカマイタチが起き、掠っただけで激しいダメージを受ける。
「ちょ、ちょっと待った、ラピス、何か武器はないの!?」
「違う!! 私はラピスではない、タイガーラピスだ!!」
「ああ、もうなんでもイイや、何か武器は!?」
「そんな物はない、あるのはただ己の魂とその拳!!」
 ラピスはノっていた。それはもう、凄く。
 そしてハーリーは決断した。
「これで止めだあああああああ!!!」
 振りかぶられる釘バット、それを足で蹴り上げるハーリー!!
 拳で、と言われたワリに足技である。これを見たタイガーラピスの手袋に、どういう理屈か青筋が浮いている。
 そしてそれには気づかず、名も無き戦闘員は地面と水平に飛び、そのまま青果店「あおしま」に激突。シャッターを突き破り、商品の中へ。彼は起きあがることはなかった。
 そしてハーリーも、力尽き倒れた……。

 なぜなら、そのまま店の商品を食い始めたからだった。
 ぐごぎゃ。
 そしてタイガーラピスは理不尽な怒りを込め、殴り倒し、懇切丁寧に止めを刺した。
「……ま、いいか」
 そう言いながら、ラピスは釘バットを手にし、マンホールの中に消えていった。
 力尽きて道路の真ん中に倒れたままのハーリーをほっといて。この辺、オリジナルの影響を受けているのか、本性なのかは分からない。
 ちなみにこの覆面男の中身はピースランド国王。妻のイビリに耐えかねて、ストレス発散にドクキノコに入った、可哀想な中年である。

 

 ドン!!
 ガギ!!
 何とミサイルを手に持って投げつけるボスボロット。
 それをひょいひょいと避けながら源八郎は斬りつける。
「チッ、仲間が飢えて待ってるんだ、さっさとくたばれ!!」
「クソッ、効いているのか!?」
 平たく言えば、補給用ユニットとはいえスーパーロボット。戦神丸の戦闘力では決定打を与えられない。

 ……この戦いは、コクピット内の二人の意識が途切れるまで、サセボの町を破壊しながらこの後19時間37分の間続いたという。

 

 父、と言う枝織の言葉を確かめる暇もなく、襲いかかってくるクリムゾン。
 肩にあるキャノンを撃ちながら接近する。牽制であろうにアカツキはそれだけで動くことが出来ない。そして枝織もまた、あの時のように動きが止まっている。
 サブアームでは追いきれない!!
「アカツキ、枝織ちゃんを連れて後退しろ、俺が時間を稼ぐ!!」
「すまない!! 枝織君、行くぞ!」
 そんな会話の時間さえ隙とするのか、回避行動をとりながら接近するクリムゾン。オーキスの固定兵装では対応できず、アキトはステイメンを分離させる。
 ビームライフル、それも物干し竿を連想させる長大な物だけを取り、後は軍基地へと直進、いや自由落下させる。

 その光景を見、北辰は唇を歪め、言葉を吐きだした。
「一人で勝てるつもりか、小僧」
 そして、負けじと言葉を返す。
「死ぬつもりはない。ハッピーエンドが好みでね」
 その言葉が引き金となったか、同時にキャノン、ライフルを撃ち放つ!
 しかし既に互いの姿はなく、近接戦闘へと移った!!
「……クリムゾンとは、誰の趣味だ?」
「我が手足の一つに過ぎぬ男よ」
 北辰は、彼にしては饒舌に語っている。殺戮の喜びに酔っていると言うことなのだろうか。
「ソイツに、感謝しなくちゃ、な!」
 クリムゾンの腕が掠め、ライフルが吹き飛ぶ。
 その瞬間にエステバリスが体格差を生かし、内側に入り、ナックルガードを装備した拳で打ち付けるも、逆にナックルが破壊される!!
「…何ィッ!?」
「甘いわ!!」
 その瞬間、エステバリスの左腕が、吹き飛んだ。

 そして僅かに離れ、しかしその戦いが見える場所。
「……もういい」
「……枝織君? いや、北斗君か」
 互いに無言、それも長くは続かない。
「教えてくれないか、君の知っていることを」
 そして、やや間を置き、言葉が出た。
「……アイツは木星で最悪の暗殺技能者。そして、俺の敵だ」

 いつの間にか回線が繋がり、お互いの顔を見合わせるアキトと北辰。
「……若いな」
「見た目で判断すると、痛い目に遭うぞ!!」
 残った右手を、イミディエットナイフで武装し、今度はコクピットブロックではなく右肩…そう、関節を狙った!
「ぬ!?」
 そしてクリムゾンが硬直した瞬間、アサルトピット開放、圧縮空気を使い、一瞬でクリムゾン頭部へ!
 止めようとする物の、機体が人体とプロポーションからして違う以上再現でき無い動作という物もある。アキトを捕まえることが出来ない!
 アキトは迷わず目的の物を首元へ投げ込み、後方へ。
「何をした!!」
「……ちょっとした、爆弾さ」
 茶目っ気を出しながら、ポケットの中から、目的の物を取り出す。そして、万感の思いを込め、誰にも聞かれる事の無い叫びを叫んだ。

 その瞬間、光が現れ、消え、そして、砕かれた残骸だけが、重力に引かれて月へと落ちていった。

 

 この戦いにおいて、数多くの犠牲が出た。無人化の進んだ、この時代の戦闘でありながら……。
 月面基地に従事していた連合軍・統合軍士官、1200名余。
 北辰派を名乗るテロリスト38名。
 戦艦ジキタリスと乗務員、戦闘員合わせて400名余。
 行方不明者、多数。そしてその中にはアキトの名もあった。

 そして、地下キノコ基地。
 食中毒者83名。内入院患者82名。
 キノコに毒が効かないことが判明。
 この事についてのM嬢のコメント。
「失敗は成功の母です」

 ……こうして、異様に長い、一般人にはいつも通りの一日が終わった。
 しかし、終わらない人も。

「うう……終わらないよ……」
 初代、魔神山、2、超……全部合わせれば150話を超える……飛厘の部屋には、まだまだディスクが山積みになっていた。
 壁には、手伝ってくれもしない同僚と上司、それと同じ数だけ五寸釘に貫かれた稲科の植物で作った人形があった。
 ……いや、一個だけ多い。誰の物だろう……。

あとがき

 ……五人複座で矛盾しないコクピット……どうすれば良いんだろう? やっぱり妙なポーズを取りながらずらっと立ちながら並ぶのか?
 仕方ないから、再整備中(クレームがついた)龍神丸の代わりに、もう一体を。

 月のアキト達、北辰達。
 地球の白鳥家、市街地戦。……こいつら、何をしているんだろう……。

 書いておいてなんだが、やはりナデシコ世界では火器を大量に積んでいるよりも、一、二点の強力な武器を装備するべきだろう。結局のところ、大型化すれば至近距離での戦闘に対応できない、乱戦の可能性が高まれば尚更。
 よって、最強のエステバリスを目指すなら……次はワン・イン・モデル、小型化がテーマ。

 今回適用したルール。
 ルール1。
毎週毎週仮面ライダーに十把一欠片扱いを受ける戦闘員。
実は常人の数倍の戦闘能力を持っている。……けどザコはザコ、ヒーローには勝てない。
 ルール2。
戦隊は、全員でチームワークを発揮して戦うこと、それこそが真骨頂。
抜け駆けするヤツは大抵ボロボロになって、ギリギリで死なないところに援軍が現れる。

 次は初心に戻って、異常な事件に立ち向かう彼らの姿を。
 例)
 次回予告
 生きている、その言葉を頼りにアキトを捜す者達。
 そして平和な街を襲う謎の大地震、暗躍するバール!!
 人々の哀しみの声の中、一人の若者が立ち上がる!!
 そして現れた、12の怪物の一体目……次回、「地下大決戦」……刮目して待て、とか?

 

 

代理人の感想

 

影薄いですか・・・アレ(笑)?

活躍しないだけで影は充分濃いと思いますけど(ひでぇ)。

濃いといえば話の密度も濃い!

ツッコミを入れる場所に迷うくらいのギャグとコメントを考えるのが難しいくらいの量のシリアス!

いやいや、満足満足(笑)。

 

 

 

・・・・・ところで、一つ余分なワラ人形って・・・・・誰?