機動戦艦ナデシコ<灰>

 エピソード6−3/さて、どうする?


「えっ?! 北ちゃん見つかったんですか!」
 喜色満面という言葉がこれ以上似合う人はいないと思わせるほどの笑顔を見せる零夜。
 だがその本性を知っている舞歌は同情を禁じえない
 なぜなら零夜は……。
「待ってて北ちゃん、今、あなたの零夜が行きますッ!!」
 そう、本人は否定しているが紫苑零夜は……レベルSの百合だったのだ!!
 ぐわし!!
 一瞬で夢見る乙女モードから修羅モードに戻って舞歌の執務机をヒビが入るほどの勢いで掴み、その顔を詰め寄らせる。ちなみにキスまで1センチ。舞歌が危機感(または貞操の危機)を、脂汗をだらだら流すほどに覚える距離である。
「で、北ちゃん何処です? 隠すと身のためになりませんよ?
 上司を脅す零夜。
 ちなみに彼女の上司は「表」「裏」「闇」全てにおいて木連の最高権力者だったりする。
「え、え〜〜っと、それはね……」
 舞歌は内心「北斗殿、ごめんなさい」と、100%本気で謝っていた。


 ゾクゥ!!
「……北斗さん、どうしましたか?」
「いや、ちょっと寒気がな。木連を出てから滅多に無かったんだが……」
 そう、そうなのだ!!
 北斗は未だに零夜がナニ考えているのか気づいていなかったのだ!!
 そのせいで理由がわからず、エアコンの所為かな、などと考えスイッチを切り紅茶に口をつける。
「で、その後どうなったんだ? まさか舞歌の人形を撃ったのか?」
「あ、それはですね……」

 

「ま、舞歌様の人形をか!?」
 焦る月臣。
 自分の中にある自分の趣味そのものの銃はともかく、的が舞歌にそっくり。この状況でどうしろと悲鳴を上げたかったが、それは男の矜持が許さない!!
 だが京子はさらに追い討ちをかける。
「違いますよ。あれはただのマネキンです。あ、そうそう……この訓練風景は後で舞歌様にも見せますから一撃でお願いしますね」
「な、なななんなんなん……何だとぉ!?!?!?!?」
 そして「博士」が。
「月臣君。やりたまえ。もし君がやれないと言うのなら……白鳥君、秋山君、アオイ君。君達にやってもらう事になるぞ」
 額にあおすぢが浮いている。
 それはもちろん京子がだみぃコウちゃんを容赦なく、完璧に、これ以上無いって位に壊してくれたからだ。
「元一朗、俺達のために死んでくれ!!
「墓は立ててやる!! ああ心配するな、ちゃんとゲキガン葬にしてやるぞ!!」
「……短い付き合いでしたが……あなたの事は今すぐに忘れます……安らかに地獄に落ちてください
 上から九十九、源八郎、ジュンである。特にジュンは昨日に助けてくれなかった事の恨みが増幅されている。既にブラックジュン100%(還元濃縮)だ。
 この日、月臣元一朗は生涯通じて最初で最後、射撃訓練のために遺書を書くと言う体験をした。


 源八郎は、汗を流しながら尋ねた。
「……これは一体なんですか?」
 見たとおりのものだ、と返されたが。
 何時の間に作ったのか知らないが、断崖絶壁風味な崖。そしてその天辺にはこれでもかと言うほど綺麗な球形の岩がドシンと言う擬音と共に置いてある。
 しかも何故かアリジゴクの巣の様なスリバチ状の一番下に。
「良いか、秋山君。イエローである君の能力は……怪力だ!! ここではその能力を生かすための訓練をしてもらう!!」
「それはつまり……」
「ポチっとな」
 何と、なおも言い募ろうとする源八郎を遮り京子が都合よくおかれていたボタンを押したんです!!
 ごろごろごろごろ……。
「ぬおおおおおおおおおおおおおおお!!!???」
 ぷち。
 アリジゴクの巣をモチーフに下だけあって地面は柔らかく、潰れたカエルそっくりな姿を晒すだけで済んだのだった。


「こ、今度は自分でありますか!?」
 哀れなるかな白鳥九十九。
 鋼鉄の檻の中、スーツを脱がされ彼は焦っていた。何があるのかわからないからだ。
「うむ、ブルーである君の能力はスピードまたはバランス! ゆえにここで鍛えてもらうぞ!!
 「博士」の解説が飛んだ後、京子がまたボタンに狙いを定め、叫んだ。
「今週の山場ぁーーッ」
「来週もあるんかいっ!?」

 そんな彼の言葉も空しく現れる……ミツバチの群れ!!
 参考資料:ら○ま1/2。
「全部叩き落したら出してあげよう。あ、それと薬はそこらに置いてあるから刺されたら使ってくれ」
 ぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶ
「ぬああああ???? いて、いて、いてててててててててて」
「さて、次だ」
「はい、次はアオイさんの番ですね」


 プレハブ小屋の中。
 プロが見れば逃げ出そうとするほどの、某完全金属騒乱小説の寺のような偏執的な罠が仕掛けられている。
 京子と「博士」は双眼鏡を構え、二階への階段の前を見た。
 ぷらーん。ぷらーん。
 逆さ釣りになりながら、哀愁を誘う姿で揺れているピンク色の全身タイツ。……ファールカップを入れ忘れているあたり、情けなさ80%増し
 京子曰く。
「かわいい……じゃなくて……かわいそう……」
 どの辺が可哀想なのか……彼の名誉のため(そんな物は無いと言う説もあるが)黙秘させてもらおう。
「アオイ君、君には戦うための心構えと知識が全く無い。いずれ兵士に命令する立場となる士官の君がそれを知らなければ部下を不用意に死なせる事になる。……今日中にここを生きて脱出して見せろ!!」
 何気に酷い事を言っているような気もするが、彼もプレハブの中には一歩も、いやヒゲ一本たりとて入ろうとしない。
「……博士、この罠を作った乗って誰なんですか?」
「……舞歌殿に屈した、サングラスの青年だ」
 ちなみにその青年は虚ろな顔をして西欧へ、愛する女性の元へと帰っていった。「舞歌様ごめんなさい、ミリア、助けて……」そう呟きながら。
 恐るべし、舞歌様!!

 

「ふぅ、やっと着いた」
「ご苦労様、レイナ」
 ゼエゼエと空気を味わっているレイナを余所にリヤカーの上で「良い旅でした」と言いかねない顔でアリサが世界三大凶器の一つ「ヤバ気なマーク入りのヨーヨー」を取り出した。
「…アリサ」
「あ、これ? 高校の時にちょっとバイトで」
 何のバイトだ?
「とりあえず、狂気の謀略様の言ったとおりにこれを届ける事にしよう」
「そうね」
 だがその目はアリサの手の中の鎖付きのヨーヨーに吸い込まれたままだった。


「……ここって富士の演習場じゃないわよね?」
「ヨーロッパの人間に聞く言葉?」
「……そうよね」
 爆撃地もかくやという抉れた大地と、転々とまるで血の涙が落ちたような後がホラーな雰囲気をかもし出している。
 きっと今ごろ京子を買収しようとがんばっている事だろう。
 ……をがんばっているのだろう。
 いや、そうだ。きっとモノで釣ろうとしているに違いない!!
 ……何故だ? 風に乗って、桃色な空気が流れてきたぞ?
「嫌な空気ね……(怒)」
「そうね、次にいきましょう(激怒)」

「ここも違うわね」
「ええ。岩が一個あるだけだもの」
 二人は気づいていないが、下敷きなだけだった。

 ぷらーん、ぷらーん
「どうやら此処にはいない様ね」
「でも……すごいセンス」
「ええ。あのピンクの全身タイツのオブジェ、まるで生きてるみたい」
 注:まだ生きています。
「うわ、痛そうな虎バサミ……」
 防弾防刃繊維で出来ている以上、大して痛いものではないが、右足に二個、左足に一個。右手にネズミ捕りが一個。微妙なセンスである。
 ぶち。ぽーん、ごとり。
 突然ロープが切れオブジェが床に落ち、何故かその真下にあったトランポリンに弾き飛ばされ、巨大なゴキホイマットの上に落ちた。
「……いこっか」
「……そうね」
「……でもここにおいておけば良いよね?」
「そうしよ」

 ひゅ・ぼん。
 誰も戻ってこない中、何とか生きてトラップ源を突破できたジュンは、ドアから出た瞬間トランクに躓き、バラエティー番組を遥かに超えるセンスで、ボタンに体をぶつけた。
 そして彼は期待通りに空高く放り投げられ、そのまま海へと落ちていった。せっかくの月臣専用機と共に。
 そして彼は期待を裏切ることなく、カナヅチだった。
 ただ彼が目を覚ましたとき、源八郎が血の涙を滂沱の如く流していたのは……秘密だ。

 

 

 ブラックマッシュルーム・西欧支部、別名どくきのこ出張販売所。
 高原にあるログハウス、近くに森があり、川がある。日を遮る物もなく、20年前に連続猟奇殺人が起きてから異常な事態が連日起こることを除けば最高のリゾート地だろう。だがそんな場所には派遣されてくる人材が、日本支部で戦闘員がことごとく病院送り(素性隠ぺい済み)になったため、ここにはそれを乗り切ったバール、サイトウ、テツヤの三人しかいなかった。
「……何故だ」
 絞り出すようなバールの声。
「何故、政府どもは我々に屈せぬのだ!?」
 それは一瞬にして怒りの声と化す。
 ぱちん。
 その声に同調するかのようにラップ音が鳴り響いた。
 ……妙な静けさが降りる。
 軽く咳払い。
「だって……なあ」
「そう……ですよね」
 遠巻きにしながら囁くサイトウとテツヤ。その目は、アンタが悪いという色をバールに向けている。
「ビデオ……ですよね」
「あのテープ、だよな」
 そう言いながら目線が手元のテープへと移る。

 テープをデッキに入れると、オートで再生が始まる。
 まず最初のノイズ部分が終わると、
醜い初老の男、バールが映っている。本人は気づいていないが微妙にヅラもずれている。部屋の中央に置かれた真っ赤な椅子に座っている姿は、悪の美学にそった物なのだろうが、何処をどう見ても子供番組の悪役である。
 特に例のマントを着たまま、わざとらしく歪めた顔が減点物である。
「我々、ブラックマッシュルーム西欧支部はここに宣言する。全面降伏せよ」
 端的に、要求だけを告げる。
「何、ただとは言わない」
 何がおかしいのか、笑い出す。
 そうしてひとしきり笑った後、顔をカメラの方へずい、と寄せる。
「君たちの身の安全を保証しよう」
 そして、何かの予定表のような物を見せる。
「我々の持つ地下兵器によって、このリスト通りに破壊行為……人工地震を発生させる。つまりは『威嚇』だ。選べ。生か死か」
 そこで画面はブラックアウトを起こした。

 いわゆる脅迫だ。
 実際、二度ほど局地的な大地震を起こして見せた
 しかし、画面に映った正体不明のシミや、時々聞こえたラップ音、バールの周囲に巻き付いている白いもやは何だろう?
 何故か耳を澄ませてみると。……聞こえた。
『暗い……ここは寒い……』
『アイツが……アイツが……』
『ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ』

 ……等々。
「……テツヤさん」
「……サイトウ、エクソシストに知り合いいないか?」
「……残念ながら」
 そう言いながら二人は、金縛りにかかったまま、指一本動かすことが出来なかった。
 ……バールは自由に動き回っているというのに、哀れな奴らだ。
「「へるぷみいぃぃぃぃぃぃ!!!」」


「……ここは何処だ?」
 そう言いながら、ベッドから降りる。たったそれだけで体が痛んだ。
「くッ……一体何が……」
 そして体を見ると、全身に包帯が巻かれている。
 だがそれ以前に……。
「何でこんな怪我をしているんだ……思い出せ……思いだすんだ……思い…出せない?!」
 嗚呼、素晴らしきかなご都合主義。彼は何と記憶喪失に陥っていたのだ!

 がちゃ。
 開くドア。
 ふと合った視線。

「「あ」」
 ぱたぱたぱた……。
「おねーちゃん、あの人起きたよー」
 そして、スリッパの音が近づいてくる。
 現れたのは先ほどの子供に良く似た女性。聞こえてきた声からすると、年の離れた姉妹と言う事だろう。

「……記憶喪失、ですか」
「ああ。おそらく」
「ドラマみたーい」
「こらメティ、そんなこと言うものじゃないわ」
「ごめんなさい……」
「ああ、いい。別に気にするような事ではないから」
「言い遅れましたね。私はミリア・テア。こっちが妹のメティス・テアです」
「そうか、我は…」
「あ、記憶喪失なんでしたね」
「いや、名前はどうやら思い出せた様だほ―」

 ドン!!
 そして男が名を思い出そうと唸りだしたときにドアが勢いよく開け放たれた!!

「ミリアから離れろ、北辰!!」
 現れたのは、銃を構え、動く事のできない北辰の頭部に突きつけたナオの姿だった。



あとがき

 復活北辰・ただし記憶喪失バージョン!
 しかも次回は遭遇・ナオVS北辰!!
 ……この時点のナオに勝てる要素は無いけどね。

 でもこれで分かるとおり舞台は何時の間にか西欧へ。
 出張中(左遷とも言う)のバールたち三悪人と、何気に陰謀の人・シュン&カズシ!

 ……アキト逃亡中につき、消息不明

 

代理人の感想

 

(ぽん)

あ、そうか。逃亡中なんだな。

登場しないのも納得納得(笑)。