機動戦艦ナデシコ<灰>
エピソード9−2/ひとまず終わる戦い、中編。
同時刻、焦土と化した西欧の地の一画。
そこで眠りから覚めるものがいた。
漠然としない意識の中、それは…彼は…歩き出した。
「僕は一体……」
違和感と共に、世界を見渡す。
何故か、いつもより遠くが見え、いつもより多くの色が見え、いつもより多くのものが聞こえる…ように思った。そんな事があるはずが無いのに……と。
声がかかった。
声をかけたのは九十九であり、それは彼を案じる物であったが、何処となく脅威を感じていたようにも思う。
「ジュン君、生きていたのか?!」
いや、ジュンの身を案じるくらいなら、最初から舞歌の持ってきた「あれ」をジュンに渡すべきではなかったのではないか?
「……何やら、会話に危険な色が見えるのだが…」
「気にしないで頂戴」
「……そうDEATHか」
「……あなたも中々言うわね…」
コホンと咳払いを一つ。
シュンと舞歌は互いに、探るような目をする。
「それで…我々に協力できるとは一体、どういうことなのかね? 見たところ、それほど装備を持っているとは思えないのだが…」
視線は「墜落した舞歌たちの母船エンタープライズ号」に固定されている。
舞歌はそれを挑戦ととったのか、そっくり返るように胸を張る。
「戦いは情報力よ……そして、どれほどの武器を手にできるか……そうよね」
「だが、あの状態では……」
「だからよ。現代はこういうのがあるわ」
そう言った、舞歌の手に現れたのは……
「……あれ、携帯が通じない……白鳥君、君確かイリジウム持ってたよね、貸してくれない?」
「ちゃんと返してくださいよ、ミナトに電話する時間なんですから」
「彼は…恋人にでも管理されているのかい?」
「…ただの愛妻家よ。もうすぐパパになるからって、物凄く気にかけてるの」
「そうか……うらやましい物だな」
シュンのその顔には、昔の何かを思い出し懐かしむ……そんな色がありありと見て取れた。
だが逆に舞歌の顔にあるのは、独り身の人間特有の、羨ましさや妬みが凝縮された表情。
その全てを込めたかのように舞歌は懐からある物を取り出して、高らかに叫んだ。
「ロックマン.EXEトランス・ミッション!」
叫びと共にP.E.Tを取り出し、九十九の形態の通信端末に、ケーブルを突き刺した! ……三回目で。
イン電脳世界。
『……ふう、舞歌さんもナビ使いが荒いなぁ…』
『そうそう。ラピスも最近、どんどん計算やらせるから……CPUを休ませる時間も無くて、本体の冷却システムを見直して欲しくってさ……』
『……どちら様です?』
目の前のファラオマン(やつれている)を目に、ロックマンが「あれ?」という顔をする。
『オモイカネ・ダッシュです。……ラピスに、この形が一番といわれて……悪役じゃないか……』
『……大変なんですね……』
『……なれたよ。で、今日は何?』
いきなりメモを取り出し、兵器の名前を列挙する。
『舞歌さんの代わりに注文に来たんだよ。えーと…アリス的『零式』? ……強化装甲じゃないのかな?』
強化装甲……何故ロックマンが零式という単語でそれを連想するのか。舞歌の使い方が非常に気になる。
バシュッ!
バシュッ!
『……今、あっちに走っていったのは何処のナビですか?』
『確かアトランダムとかいうシンクタンクの……A・EとA・S…』
「東さん、今のは一体……?」
「気にしないでください。まあ取りあえず、明日になればV2アサルトガンダムを始めにガンブラスターが数機届きますから……あ、コクピット周りIFSの方が良いのなら、今すぐに発注しなおしますから」
「いやだから一体何処に注文を……?」
何で、そんな物が翌日配送できるのか分からないが…とにかく、
「聞くと……長生きできないわよ…」
……何やら突っ込みどころの多い、謎の会話であったが……下手な突っ込みは本当に死にそうだ。シュンは、追求を諦めざるを得なかった。
ビーッ、ビーッ、ビーッ、ビーッ、ビーッ……
「なんだ、何で弾かれる!」
「く…こっちもだ!!」
ヘルメットを捨て、コクピットから出る二人。
それを予想していたのか、アカツキはどうしようかと考える。
「折角ウリバタケ君に作ってもらった『パーフェクトガンダム』と『パーフェクトジオング』だけど、今回は役に立たなかったみたいだね」
……いつもながら、新兵器のテストとはいえ、怪しげな試作機を量産する男である……が。
だが既に「人格交換」という異常現象で、IFSの稼動状態は超過傾向にある。ゆえに、エステバリスは動かない。
とすれば、何があるだろか。
アカツキが知る限り、この二人以上のパイロット適性を持つ人間は……いない。打開策を知るためにも、聞いておかなければならないことがある。
「二人ともさ、マニュアルタイプのロボット免許、持ってたっけ?」
「長年幽閉されていた人間に聞く言葉か?」
「IFSが普及する前にあったって、あれか? 作業用の奴なら持ってるけど戦闘は無理だな」
……駄目だ。
ではどうするか。
「アカツキ、他に何か無いのか?」
マニュアルもIFSも駄目なら、後は……
「モーショントレーサーがあるけど、あれは機械式の部分が多すぎて故障が多い。反応速度もかなり落ちるから…」
「それで構わないよ」
「じゃあ取り寄せるから、暫く待機していててくれ」
この後アカツキはネルガルへ連絡をし、プロスペクターもゴートも居なかった為に、監禁しておいた「あの二人」に連絡する羽目になり……地獄を見ることになる。それはそれで、いつもどおりなので気にする必要は無い。
現在、軍が交戦中の生物兵器・巨大生物「うさぎのミミちゃん」……その正体はヤマサキの作り出した「アマゾン神秘の怪獣ブラックサレナ」と同種の生物である。その実態は外部の刺激に併せ、自らを変革、進化させ戦闘能力を上げ続ける群体生物。
しかしその形状は「デフォルメされた、子供向けのぬいぐるみ」である。
で、その可愛らしいぬいぐるみが「ぴょん」と跳ねると一飛び3000メートル、上空のヘリや飛行機をその短い手で掴んで地上に引きずり落とし……かじかじ齧る。可愛らしい仕草でげっぷする。
ゴウッ!!!
何処でどう間違えたのか、ガメラばりのアルティメットプラズマが一直線に飛んでいく。
ミサイルと、兵士の悲鳴と怒号が飛び交う戦場……。
そこでミミちゃんは立派な鼻ちょうちんを作って眠るのだった。
では、ネットナビなど作って遊んでいる世界最強の子供達はというと。
ザールブルグの……『サセボの錬金術師 ラピーのアトリエ』……実に危険極まりない看板であった。
壁には色々とかけられている。
一つ目の牛の骨に、五割増しに大きくなったねじくれた角が生えていたり、世界霊魂、火竜の舌にドンケルハイト、はては生きている石……何処から手に入れたのか、気にはなるけれどそれは置いておくとして……。
そこには巨大な釜が置かれていて、室内というのに火がくべられていた。
手馴れた様子で口元にハンカチをあて、部屋に入ってきたキョウカ(ウリバタケ兄妹のまともな方)がラピスに問いただす。
「ラピスちゃん、一体どうしたの、こんな部屋作って……」
だがラピス、ニア(Niea_7)がUFOを作る時のような笑みを浮かべ、うふふふふとかき混ぜている。
ぐる〜りぐる〜りとかき混ぜられるその中身は……スパイシーな香りをを放ちつつもヘドロっぽい、極彩色の何か。
かちゃ。
部屋に入ってきたのは妖精ルックの二人、ハーリーとツヨシなのだが、何故か二人とも「黒妖精」の格好である。
「よっせ、わっせ」
「わっせ、よいせ」
どうも「何処からか採取してきた」怪しげな鉱石や水、植物を床に置くと、二人はまた出て行こうとする。
「ハーリー君、お兄ちゃん?」
「あ、キョウカちゃん……なんか仕事が入ったとか言ってラピスが……」
「イネスさんが女の子を連れてきてさ『面白いデータが手に入ったから、作ってくれない?』って言うんだ。なんかやばそうだって言うのにラピスちゃんが始めちゃって…」
「で、この部屋やその格好は何なの?」
「ああ、これか……」
「それは……」
ガガッ!!
互いに、同じ格好なのが気に入らないらしく……二人は途端、相手の胸倉を掴んで言葉を吐き捨てる。
「ツヨシさん、言っておきますが、いい加減僕に絡むのやめてください!!」
「は! それは俺に勝ってから言うんだな!! 貴様なんぞに妹はやれるか!!」
「? …なんでそこでキョウカちゃんが出てくるんです?」
「キッサマァ!! やはり敵だ、ハーリー貴様はやはり倒す!!」
すわ二大(小学生)怪人激突か!
そう思われた瞬間、ラピスが振り返る!!
「二人ともうるさい!!」
そう言いながら、先ほどまで釜の中身をかき混ぜていたひしゃくを二人のほうに向ける……と、先っぽが溶けながら飛んだ。
「「「ひいぃぃぃぃぃぃ?!」」」
「あ、溶けた。……えーと、二本目……」
「あの、ラピスちゃん……?」
「あ、この檜の棒も材料の一つ。この中で溶かすようになっているから……」
「そうじゃなくて……」
「あ、そうそう・これね、イネスさんが言うには『ホレ薬』の一種なんだって。何でも零夜とか言う人に頼まれたとか何とか…」
「私も手伝うわ、次は何をしたらいい?」
キラリンと光る瞳、二人は唖然として冷や汗を盛大に流す。
「女って、変わり身早いですよね…」
「我が妹ながらな…」
それ以前に、ホレ薬とは……イネス、一体何処からそのようなレシピを入手したのであろうか。
だが、二人のひそひそ話もそこで終わった。
ラピスの手にあるものが原因、それは……。
「じゃ、キョウカちゃんこれに着替えて」
そう言って手渡したのは……
「ちょっと待ったぁ!」
「何で俺達に黒服でキョウカが『虹妖精』なんだ!!」
「え、何か違うの?」
慌てる二人、きょとんとする一人……けれど残る一人はあっさりとした表情で。
「能力査定」
とだけ語った。
二人の反応は勿論……
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁんんん」
「なんだかとってもチクショォォォ!!!」
横島っぽく走り去る二人だった。
その男は、ガサリと言う音に過敏に反応し、スラリと刀を抜いた。
「何者」
「へっ、ただのジジイが俺に…ウルセェんだよ!」
ゴゥッ!
吐き出される火は余りの勢いに、地を舐めるようにして広がり、その余りの熱量に触れたものは一瞬たりとも形を保てずに灰となる。
「炎使いか……」
ククク…と男は笑う。
ザンッ!!
抜刀と、踏み込みと、納刀の音。
それが全て、一拍で聞こえた。
だが一拍の後に聞こえた音があった。
ゴトリ。
重く、それでいて柔らかい音。
「からくり……いや、サイボーグという奴か……」
炎使いの男は、落ちた物が何かを確かめ、それが何処から落ちた物かを知ったとき、狼狽し、恐怖の声をあげた。
「お、おおおおおおおおおお俺様の腕がぁぁぁぁぁぁ?!?!?」」
それでも男から離れ、間合いを取る。
「そうそう、言い忘れておったわ。ワシは紙透のジジイに代わってこの阿曇禁断の修練の地『七里乾房』を預かる土門一角。……名前を聞いておこう、名前の無い墓も味気無いのでな」
そう言いながら刀を構える土門一角……その構えには一部の隙も無い。
炎使いはただ後方へと下がるだけ……それも間合いを詰められながら。
「無縁仏となるか……それも仕方ない。……む」
地面が弾けるほどの跳躍を見せる土門。
そして、瞬き一つの時間の後に、そこには一人の男が立っていた。
「遅ぇじゃねえかD! 俺の腕が斬られちまったじゃねぇか!! おい、聞いてんのかD!」
「カエン……先行したお前の責任だ。我らはメグミ様の為にムネタケを狩る……そのための尖兵であるはずではなかったか」
「そりゃ分かってっけどよ……」
男たちは互いをカエン、Dと呼び合う。
対し土門はカエンを力に溺れた弱者と見るが、逆にDには自分と同等以上の危険性を感じ取っていた。
「ふん…一度『七里乾房』に入った者は、出てくるか死ぬかのみ……追いかける事など出来よう筈が無い」
「…そうか」
「D! 逃げるのかD! こいつを殺さないのか!」
「やりたければお前がやれ。…何時出てくるか知れぬ者を待つほど我らも暇ではない……行くぞ」
そうとだけ言い、カエンはオイルを滴らせる腕を手に、転がるように逃げていく。
残った土門は乳酸菌飲料を手に、それを眺めるだけであった。
七里乾房。
それは更なる能力を、自分の命を賭して会得する為の特殊な修行場である。
中に入った者は自分にとって最大の敵と、機械のように的確に自分を殺しに来る敵と……戦いつづけ、その中で新たな能力に目覚める。
で、能力開眼のためにムネタケとサレナ(旧・大怪獣ブラックサレナ/まりりんちゃん)と別々に入っていった……のだが。
「二人揃って出て来るとはな……」
汗をかきながら土門は言った。
目の前にいるのはムネタケとサレナであり、二人とも生きて出てきたのだから新たな能力に目覚めているはずである。
で、最初から人外のムネタケと、人類どころか地球上の生物ですらないサレナ。
それが二人揃って出てきた上に、マスターガンダム風の合体をしているのであり、その姿は危険極まりない。
「じゃ、これ修行料だから」
そう言ってムネタケは懐から「ヤ○ルト十年分」を取り出し、土門に渡すとそのまま飛んでいった。
「世も変わったものよ……」
……時代が流れれば世界は変わるが、その標本にムネタケの存在を持ち出されれば、反論したくなる……。
戦いには幾つもの要因がある。
技術、武器、地形、天候、距離、経験……だがそれらを纏めたその上で必要な物がある。それは戦闘思考。
凶悪な武器で武装したゴート、圧倒的な能力を持ちながら経験を失った北辰。
戦闘思考を欠如した二人だったが、それでもその戦いは既に32時間に及んでいた。
見守る群衆にも違いが生まれていく。
一方は、神に祈るかのように跪きながら囁くように北辰を見守る。
「聖者様、その悪鬼を打ち滅ぼしてください」
一方は、血に飢えたかのように血走った目で、各々武器を打ち鳴らし……
「天使長、民衆を扇動する悪魔を抹殺し、神への生贄に!!」
モーニングスター、ビームサーベル、ジャベリン、ビームライフル、弓矢、剣、槍、刀、レーザーナイフ、サイブレード、指向性地雷クレイモア、手榴弾、打神鞭、スペルキャスター、四次元ポケットを持っているのではないかと怪しくさえ思えるゴートの手持ち武器。
時たま、物理法則を無視した武器も出てくるが、北辰はまさに「スパロボ初期のフル改造ビルバイン」のように避けつづける。
対し、幾ら戦闘思考に問題があるといってもゴート…その動きはこちらもフル改造されたコン・バトラーVのように、北辰の動きを受けても殆どダメージが無い。
この二人、まさに化け物。
だが、逆にある種の人の目をひきつける。
「しかし、そろそろ止めなければ……急いだほうがよろしそうですね」
シディは服の中に手を入れ、懐中時計を取り出す。その時計は針が一本あるだけで、逆に文字盤のほうが回転する珍しい物だった。
すぃ…、と歩く。
危なげなく歩く。その向こうには二大怪人が戦いを続けているが、武器の破片がうずたかく積もっており、実は動きにくい。
ので、動くのを止める。
「二人とも、戦うのはそこまでです」
そう声をかけられた二人は、人を切りやすいといわれる湾曲刀(ファルシオン)を構えたゴートと、真剣白刃取りに成功した北辰。
二人は緊迫した空気の中、視線だけをシディに向け、それが子供であるとわかった途端、互いに蹴りを入れながら反発力で飛び退る。
ゴートはヒビの入ったファルシオンを捨て、衣装の中から今度はワルサーP38を手にする。
北進はその銃口に注視し、膝を内に曲げた、横方向への動きを重要視した体勢に変える。
「止めなさいと、言いました」
小さな子供を怒るような――シディ自身が子供なのに――感じで言う。
それでも二人は戦うのを止めない。
ゴゥン!
激しい音をたてながら撃ち放たれた銃弾を北辰が避け、間合いをつめながら銃口から逃れながら疾走する。
その動きは早く、周りで見ている者達は遠巻きというのに目で追うことさえ困難。
どこか怒ったような表情のシディは、言った。
「止めないと、お仕置きします」
6発の銃声。イジェクト、再装填。僅か一秒でそれを済ませるゴート、一秒で距離を零にする北辰。
構えた瞬間に偶然か必然か、銃口は北辰の額にピタリとつけられた。
ゴートの顔に浮かべられたのは……人殺しというこの状況に陶酔した笑顔。
その顔に、北辰の脳裏にフラッシュバックした……だが、何か以上を思い出す事ができない。
「ジ・エンドだ。死ね」
「くっ…」
引き金に、力が入る……。
そしてにっこりと微笑むシディ。
「お仕置きです」
ふぉん…ザシュ!!
「え?」
「なんだとぉぉぉ?!」
悪役そのものの顔と叫びをあげながら吹き飛ぶゴート!
そこにあったのは、巨大な腕。
レンズのように凝縮した空気は光を乱反射し、それが干渉した姿はまるで魔方陣。中心からは「蒼い宝石で出来た鎧」に包まれた腕、それが大地に突き刺さっていた。
「いいかげん……先にする事をするべきでは?」
そう言いながら、あっけに取られた民衆を見渡しながら言った。
「先にこの人たちを避難させましょう」
と。
あとがき。
……いつのまにか「神さまのつくりかた」終わっちゃいましたねー。
好きな作品だったのに残念です。
さてムネタケ。
一体、どんな力を手にしたのでしょう……まあどうせ、人外って事に変わりは無いんでしょうけどね。
カエンは嫌いなキャラなので、扱いは酷くなってます。
理由は非常に簡単で、かの南雲慶一郎(リアルバウトハイスクール)も言ってます。「自分が不幸だからと、他人を不幸にする権利は無い」と。
代理人の感想
まー、どう見ても好きになれるキャラじゃないですからね〜、行動とか。
もっともそれを言ったらムネタケも似たようなものではありますが。