機動戦艦ナデシコ<灰>
エピソード9−3/ひとまず終わる戦い、後編。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ?!?」
悲鳴が響き渡るキャンプ地……これはアキトの声…いや、今は北斗の声。
「ど、どうした北斗! 一体何があった!?」
しかし、北斗は狼狽した顔で……分からない、と繰り返している。
「だから一体、何があったって言うんだ!!」
「分からなくて……いや、それが……」
なにやら顔を赤らめて、あたりに誰もいないのに口を耳に近づけて言う。
ぼそぼそ。
ふむふむ。
ぽそぽそ。
がくー(↓)。
余りのことに脱力し、頭がガクンとたれさがる。
「…アキト、これは病気じゃないのか!?」
「いや、なんというか……その……それは……」
思い返して欲しい。
ここ暫くアキトはカグヤの誘惑を撥ね付けながら、まだまだ子供であるアイちゃんの三人で同居していた。
その上、逃げ出した途端に入れ替わりである。
下品な表現をすれば「たまっていた」ということだ。
結論。
その日の夜、物凄く複雑そうに男物の下着を洗っている少女の姿を見たという噂が立ったが、確認はされていない。
翌日の昼、朝食後から姿が見えなくなっていたネルガルの技術班で一番口が軽いといわれる男が、見るも無惨な子供には到底見せられない姿(ガンマ団特戦部隊風)で発見された。
彼は余りのことに、ここ数日の記憶を失っていたらしい。
無論、犯人に付いても全く分からなかった。
届けられたそれを見て、アキトは眩暈にニ、三歩後退した。
「……なあ、アカツキ」
「……機体に関する苦情なら、受け付けないよ」
「これを機体と呼べるのか?」
「だから受け付けないって」
顔は勤めて冷静だったが、手には青筋が浮かんでいたかもしれない。
敵は、デザインと行動パターンを無視すればまさしく「宇宙怪獣」であり、そのスピード・攻撃範囲・行動の唐突性は通常の軍隊では役に立たない事が、目の前の「瓦礫にされた国防予算のなれの果て」によって確認されている。
だから「北の某国」はネルガルに泣きつき、強力な力での援護を望んだ訳だったが……。
「だが、どうしても聞きたいんだアカツキ……このデザイン、一体誰が選んだ?」
「ハーリー君」
「……そうか。良く分かったよアカツキ……」
この会話をハーリーに届けることが出来たのなら、きっとハーリーは全力で逃げたに違いない。
きっと青筋くらいは浮かんでいる……そう思わせるくらいに、手をギリギリと握っていた。
確かにIFSが使えないこの状況なら、マニュアルを使えないアキトが出撃するにはモーショントレーサ方式は必須だ。とはいえ、これをそう呼んでいいのだろうか? はなはだ疑問である。
しかしそれを見て……枝織が目をキラキラさせながらそれを見ている。
「ねえねえアカツキ君、これ、枝織が使っていい?!」
「……頼む……テンカワ君の体で、そう言う迫り方しないでくれ……」
アカツキでなくとも、この時の枝織には引くだろう。
アキトの体で…目をウルウルとしながら、上目遣いに、楽しそうにおねだり……それを見てアカツキのみならず、アキトまで顔に縦線を入れる。
「分かったから…頼むから、離れて……」
ぽむ。
肩に手を置いて、何かを諦めたように顔を横に振るアキト……いつもの光景だ。
「にしてもアカツキ、これはモーショントレーサとはいわないと思うんだが…」
「それは僕も同意見だね。……でもさ、カタログにはそう書いてあったんだよ」
「……」
「……」
それの背中にはチャックがあり、スケールダウンされた「それ」と同じ物がコクピットの中に固定されていた。おそらくは、これがモーショントレーサの為の機械式センサなのだろう。
……いや、遠まわしな表現はよそう。
平たく言えば「それ」とは怪獣王ゴジラ。センサとは「ゴジラの着ぐるみ」…しかも初代。
「あれ?」
コクピット周りで遊んでいた枝織が声をあげる。
「どうした、枝織くん?」
「アー君の体にぴったり」
センサを体につけた……要するに気ぐるみを着たまま、軽々と動きまわる枝織……。
何か、釈然としない物を感じた。
「……アカツキ……これ、本当にウリバタケさんが作ったのか?」
「これを作れるのはウリバタケ君とイネス先生の合作であればこそだ。……ただ」
「ただ?」
「コクピット周りは……『ラピ工房』と書いてあったよ」
今度こそアキトは立ち直れなかった。
だが、事態は常に加速……急加速する。
空の一点に、赤く赤熱する何かが現れる。
それは次第に大きくなり、自由落下し、まっすぐに……「ミミちゃん」の脇へと落ちてゆく。そう、それはチューリップ……やはりバリア衛星は役に立っていないらしい。殆ど無傷のまま落ちてくる。
ドガァァァァァァァッッ!!!
だが、中からワラワラと出て来るのは、無人兵器と似て非なる存在だった。
モビルドール・ビルゴ。
攻撃と防御を兼ね備えた最悪の兵器……それが現われた。
……今更ながら、チューリップは頑丈だ。
宇宙空間から地表まで落ちてきたというのに殆ど破損していない。ディストーションフィールドも通常バリアも、これでは全く役立たない。
……採算度外視すれば、CCを装甲として使えれば……最強の鎧が作れるのではないだろうか。
……枝織はノっていた。
「がおーっ」
腰のあたりにぶつかるビルゴをうっちゃり、ビームキャノンを撃ってきたビルゴにはお返しとばかりに炎を放つ。
アルトロンにやられたように、一瞬で爆発し…ゴジラの火炎……?!
「アカツキ……あの火炎放射、まさか……」
「さすがにそこまでは再現してないよ。パンフには『残念だ』って書いてあったけどさ」
「残念……なのか?」
「残念……らしいよ」
初代ゴジラは身長30メートル、MSのサイズは18〜19メートルが相場なので、子供が大人と戦っている印象がある。
バリアをはって、防戦するビルゴ。
うっちゃる、突っ張る、尻尾で叩く。
けれど、ゴジラの一撃は容易にビルゴの防御力を突破し、粉々にする。
百近いビルゴを平らげた後……枝織ゴジラはミミちゃんにぶつかりに行った。
武装宗狂集団ゴート・エンジェルズ……それを何とか引き剥がし、シディは避難民の長である北辰と向き合っていた。
シディとしては、これからの事を考えて北辰に記憶を取り戻してもらいたいのだが、その力も人の記憶・精神にまでは及ばない。
北辰としては……
(美しい…これならば、年の差など……)
……聖者様とか言われる割に、元のまま外道だった。
ぞわわわわ。
背筋に這い登る悪寒に、シディは一歩後ずさる。
「北辰さん、貴方……記憶を失っているそうですね」
「うむ。我は記憶を持たぬ。ゆえにこうして街を歩き、何かを思い出せぬかとしておるのだが……いまだに記憶は戻らぬ」
……アクは抜けているのだが、だからこそ気持ち悪さが前面に出ている。
とはいえ、外道状態の北辰では交渉の余地などあろう筈も無く……こうして向き合うしかないのだ。
「記憶を忘れる事はあっても、失うことは無いそうです。何か、強いきっかけがあれば思い出せるかもしれません。会ってみますか、貴方の娘に」
「はて、娘…? そんなのが居たような、居なかったような……?」
「貴方は男性として育てたそうですが…」
「男として育てられる娘……はて、何かそそる物があるような……」
……そそる?
やはり北辰、外道は魂の髄かららしい。
「貴方の精神を揺さぶる物……それに会ってみるのが、今は一番重要な事ではないでしょうか」
「そうかも知れぬ……ぬ?」
空の一点に、空気を赤く染め上げる何かがあった。
それは間違いなくこちらに向かって落ちてくる。
その特徴的な色とフォルムは、誰にとっても忘れられないもの……そう、チューリップ!
ざわっ!
避難民達がざわめきだす……が。
「心配するな! 確かにあれはこちらに向かって落ちてくるが……ここにではない! 落ち着け!!」
「そうみたいですね。侵入角と空気抵抗からすれば……この辺りの着地の際の衝撃、つまり地響きは震度2ないし3で落ち着くでしょう」
その声が浸透しだしたのか、人々が次第に落ち着き始める。
だが、その予測も悪いほうに変わっていく。
ゴオォォォ……
激しく空気を響かせながら、それが空気抵抗を無視して開き始めた!
それはまるで…まるで、死をばらまいているようだった。
黒い人型の何かが、ばらばらと撒き散らされ……その中の一団がこちらへと向かってくる!
モビルドール・ビルゴ。
そしてそれを運んできた空挺師団……その船の上に、仁王立ちで男が一人いた。だれあろう、それこそがヤマサキ。
「ふっふっふっふっふっふっ……僕の名前はヤマサキ・ヨシオ!! 悪い子だけどヨシオ。こんな名前付けて…父さんの馬鹿ーーっ! まぁ、徹夜四日目でいい具合にハイな最狂の科学者です」
『……』
一人だけハイテンションなヤマサキ……その場に居る全員が引き、何故か無人稼動であるはずのビルゴまで遠ざかった。
「……奴は何者ぞ」
「多分……変態じゃないでしょうか」
北辰……彼は自分も「ロリータコンプレックス・ペドフィリア・アリスコンプレックス」…このように呼ばれる変態の一種である事を棚上げしている。ちなみにこれに気づいているのはこの場ではシディと、上でふんぞり返っているヤマサキ博士のたった二人。
で、周囲に居る避難民たちはといえば……
『流石は聖者様、あのような幼子にも愛情を注いでおられる……』
などと考えている始末。
だがそんな状況を他所に、ひとしきり笑ったのか肩で息をしているヤマサキは……「サイコ」ばりの素敵な笑みを浮かべると、北辰に指をビシィと突きつけた。
「さっさと帰って寝たいので、用件ちゃっちゃと済ませましょ。……北辰さん、記憶無いんですってね」
「……うむ」
……重々しく「うむ」と言う仕草、その表情……どうにも記憶を失っているように見えないのだが、事実失っているのだからしょうがない。
「……で、後ろの人たち、助けたいですか?」
「そのために我が率い、避難させている……」
「……うわ、本当に別人だよ……」
なにやらヤマサキ、頭を抱えて悩みだした模様。
いつもと同じ行動なのに、アクが抜けているだけなのに全く別人にしか見えなくて、武人系のストイックなカリスマ性を発揮している。繰り返し言うが、気持ち悪い。
「ま、まあいいです。北辰さん、後ろの人たちの命が惜しければ、これに乗って僕の指定する場所に行って下さい。……落として」
そういうとヤマサキの足の下の宇宙船……モビルドール専用輸送艇から一機のモビルスーツが投下された。
曲線的な翼、鍵爪を備えた腕、頭部の左右に一対の角。
周囲から人々の縋るような視線が集まり、北辰は意を決する。
「よかろう。民衆に危害を加えぬな……?」
「やっだなぁ北辰さん。僕が貴方に嘘つくわけ無いじゃないですか……後が怖いのに」
……後半は誰にも聞かれないよう、小さく呟いた。
そして北辰は乗り込む
下手をすれば廃人になりかねない、最悪のシステムをつんだ機体……そう、ガンダムエピオンに!!
「自爆装置は僕の意のまま……あ、僕を殺しても自爆しますからちゃーんと僕の言う事を聞いてくださいね……」
「……分かっている……貴様がナビをやれ」
「いえいえ、さっきも言いましたけど、僕はもう寝たいんです……あ、緑色の妖精さん…僕を殺しに来たのかい…? ……じゃなくて! 地図の通り行って下さい……僕は後から、仮眠をとってから行きますから……」
そんなことを言いながら、ヤマサキは消えて行った。
エピオンシステムで記憶が戻るかどうかはともかく、もし戻らなかった時、北辰に間違いなく殺されるから……そう考えて、ヤマサキは去って行った。
一人残されたシディは小さく呟く。
「北辰さんの記憶が戻るかは分かりませんが……いえ、私も一度日本へ行きましょう」
後ろで、北辰が無事戻ってくるように祈願を始めた連中から逃げるように。
バール中将……そう呼ばれたのも、もう昔のこと。
木連との和平により、軍が再編成される事になって行われた大規模な素行調査。
彼の息のかかった者が調査官ならば良かった……が、彼を調査したのは全く別の地域から来た生真面目な査察官であり、彼は告発されるに至った。
権力に溺れた者は、その権力の大きさゆえに、心を置き去りにしてしまう。
バールもその中の一人であり、典型といえた。
……追放された後の行動までも。
「ふははははははははは……はぁーーーーっはっはっはっはっは!!!」
物理法則を楽しく無視しながら地中から飛び立つ海底戦艦ラ號……モトラッド級宇宙戦艦特有の巨大なタイヤが大地を踏みしめ、街を踏み潰していく。
哄笑をあげるのは……バール。
「くっくっくっくっく……人がまるでアリの様、建物もゴミのようだ。そんなもの潰してしまうに限る、燃やしてしまうに限るわ……はぁーっはっはっはっはっはっはぁ!!!」
まるで悪鬼のように恐ろしげな表情で……まあ、素のままでお化け屋敷にスカウトされそうだといえば、十分の一くらいは想像できるのではないだろうか。
それがオートメーション化されたラ號のブリッジに響き渡っていく……。
「……とまあ、そんなわけでな……」
「テツヤさんも苦労してるんだね……」
テツヤは実はシスコンである。
だからか年下の……というか子供の扱いも上手くて、メティの相手をさせられていた。
言い換えよう。
メティはテツヤの愚痴を、ケーキ二つで聞いていた。
「大体な、うちの妹もどっかに姿消してさ、こないだ話聞いたらユキナとかいう友達の家に随分長いこと居候しているって」
「……男ね」
そのものずばりな言葉を返すメティ。
ユキナは間違いなく女性であり、ユキナの兄九十九は愛妻家の上、長期出張中だ。
問題は無い……が、そんな事はここにいる二人に分かるわけは無い。妄想は無限に広がる。
「ユキナって、女の名前じゃないのか」
「女友達に見せかけて、実は男……よくある話よ」
「……実は、男……」
「お姉ちゃんの友達もさ、お姉ちゃんじゃ駄目だからってメティにアリバイ作り頼むし」
そう言いながらアイスティ(テツヤお手製)を飲む。
さて、こんな子供にアリバイ作りを頼むとは、ミリアの交友関係は一体どうなっているか気になるが、それを本人は気にしていないらしい。
「……男……」
「女って言うのは、子供が産めるようになれば一人前なんだから、お父さんもいい加減、娘離れすればいいのに。まぁ、いくら見た目ヤ○ザっぽいって言っても、ヤガミさん結構…」
「……ヤガミ……ヤク○っぽい?」
何か気になるところがあるのか、懐から手帳を取り出し、手帳にはさまれていた写真を見せる。
別に恋人でもなんでもないことは、手帳に書かれた「コロスリスト」という文字が教えてくれる。
「うん」
「……そうか……奴か……」
どうするか、を考える。
カタオカ・テツヤ……彼は家族に恵まれなかった人間である。
上司であるロバート・クリムゾンが「人生の理解者を見つけた」と言いながら普通の老人になってしまった為に退職し、現在に至るわけであるが……目的の為なら、どんな手段でも取れる人間だったが……さすがにバールの下で働けば、悪党である事に疲れるわけで……。
「まあいいか。お嬢ちゃん、そろそろ家に帰った方が良いんじゃないか?」
「……そうだね。パパ、どうせ今ごろおいおい泣いてるだろうし」
テツヤは思う。
今時の子供が皆このように……「成長すれば、将来どうなるか分からない位に頼もしい子供」ばかりであるなら……自分の老後を心配するべきではないかと。
ネズミは、沈没する船から逃げ出すという……それが予知能力なのかどうかはわからないが……。
「まあとりあえず、ここから出るか」
「そうだね」
何故か、西欧をめちゃくちゃにするほど強力無比な戦艦から逃げ出すテツヤとメティだった。
「シュラク隊、突破されました! 後残っているのは……白鳥少佐のヘキサと、秋山少佐のVダッシュだけ……あ、月臣少佐のV2アサルトガンダム、光の翼を出す前に撃墜されました!!」
……戦況報告をする飛厘……流石に今はダーリンなどとは呼ばないらしい。
折角最強の機体を与えられた元一朗なのに、ろくに見せ場も無いまま退場して行った。
「……だからなんで、俺がこんな役回りに……」
そこは舞歌様、お優しく元一朗君に言葉をかけられました。
「坊やだからさ」
「シクシクシクシク……」
もうすぐ半日に及ぼうと言う長期戦を遠巻きに見ながらシュンは、傍らの舞歌に視線を傾ける。
エステバリス隊を軽々しく蹴散らす化け物…それとたった数機で渡り合う兵器群。電話一つ(?)でそれらを呼ぶ舞歌に……シュンの疑惑は膨れ上がるばかり。
「それにしても粘るな……」
「仕方ないんじゃないですか? あの戦艦、元になっているのはどう見てもナデシコ級みたいですし」
その言葉を実証するかのように、ドリルの先端が開き……グラビティ・ブラストが吐き出される。
グラビティ・ブラスト。
現在、地球上で最大の攻撃力を誇るこの攻撃……当たれば、例えディストーションフィールドで保護されていようと粉々に粉砕される。……サイトウの憎しみに滾った科学力で強化されていれば、なおの事……。
「……どうする、お嬢さん。これでは埒があかない」
「その点はご心配無く……百華、『彼』の様子はどう?」
『……安定しています。けれど良いんですか、こんなものを人間に使って……』
「自由意志よ。あくまで彼の……」
なにやら非常にコワイ会話だ。
シュンは何故か、何時の間にか消えたカズシに押し付けておけば良かったと後悔していた。
(カズシ……後で覚えていろよ……)
その頃、疲労で倒れ担ぎ込まれたベッドの上で、誰かがくしゃみをしたらしいが、それは定かではない。
「仕方ないわね……秋山少佐、一度退いて」
『しかし今は戦闘中で…』
「彼を何とか敵戦艦に取り付けて欲しいの。……出来る?」
『命令なら従いますが……』
「出来るかどうか聞いてるのよ。出来ないなら安全策をとらなくちゃならないし……出来るならやって欲しいのよ」
『……分かりました。で、彼は?』
『僕なら、準備は出来ています……』
『いけるのか?』
『いけます』
「分かったわ秋山君。彼を、ジュン君を敵戦艦に取り付かせて!」
源八郎がVダッシュでジュンを回収し、戦場に戻るまでおよそ二分半。
その間に九十九のヘキサは撃墜されていた。
だが秋山はそんなものを無視してジュンをラ號改に取り付かせる事に成功した。
……戦闘法としては正しいのだが、友達としては間違っているように見受けられる。
「クックックックックック……若造が、ワシに勝てるとでも思ったのかよ」
艦長用のシートに腰掛けたバールはいやらしく笑った。世の中の悪党に見本として見せたいくらいの悪党振りである。まるでリュフラン(無責任黙示録)のようだ……!
ゆっくりと一定の速度で歩いてくるジュンを見、バールもまた立ち上がった。
バールは全身に力を入れる。
……するとどうしたことか!! 体が二周りも膨らみ、着ていた服が一気に弾けとぶ!! だがその下は裸ではなく、全身をスーツのようなもので覆われていて、それが上着を吹き飛ばした!!
そう、これがバール専用戦闘スーツ。
精神感応物質を基本に様々な金属により合金化し、作り上げた最高の鎧<アーマード・マッスル・スーツ>だ!!
「それが……どうした」
ジュンは驚きもせず、ただまっすぐに歩く。
やがて、互いに拳を突き出せば当たる……そんな位置まで迫り、立ち止まる。
「僕はユリカのため、人であることを捨てた……見せてやるよ、僕の力を!!」
「世迷いごとを!!!」
ズガン!!!
鋼と鋼を打ち合わせたように硬く、重く、聞いただけで頭と腹を揺さぶられる衝撃音。
ほんの少しだけ後ろに下がったジュン。
流れ落ちる鼻血をグイと手の甲で拭う。ジュンに似つかわしくない野性的な仕草だが……今の底冷えのするような眼光には似つかわしいかもしれない。
「変身…」
腹部に現れたそれは、ジュンの体に複雑な神経網を形成し、腹中の「霊石」は力を全身に送り込む。
舞歌が使用を躊躇しつづけた、人間の肉体改造。
ジュンは自らの選択としてそれを行った。
そして彼は変身した……何故か、ン・ダグバ・ゼバに。
「がぁおーっ」
某AIR?
……体格に割に短い手。それをいっぱいに伸ばしたゴジラのショートアッパーがミミちゃんの体を持ち上げ、頭突きで地面にはたき落とし、トドメにグルリと回転しての尻尾アタック。
……スエゾー?
だがミミちゃんも負けてはいない!!
突然、何処から取り出したのか分からないバンダナを首に巻きつけ……軽快な動作でシャドーを始めた!!
ゴジラはその動きを警戒したのか、動きを止めてしまった。
それが、過ちであることに気づくのに……時間は必要なかった。
≪ドラゴン・キィーック!≫
アニメ版のハムの声そのままに、足を炎に包まれながらゴジラに蹴りを入れるその姿は……まさにモンスターファーム!
ゴジラはその巨体を支えきれずに、大きく跳ね飛ばされながら地面に落ちる。
「枝織ちゃん!!」
「枝織君!」
慌てた二人が、離れた場所から声をあげる。
マイクをつけているので声は届いているのだが…援護の仕様が無いので、遠くから見ているだけだった。
「あいたたた……」
それでも枝織は頭をふらふらさせながら立ち上がる。
ドシュゥ!!
ミミちゃんが大地を割り、砕きながら空高く飛び上がり、空高くから落下エネルギーを利用した攻撃……死の一撃を枝織ゴジラに加えようとする!!
だが!
「もう怒ったよ〜!」
ゴジラは下を向き、その体勢のまま炎を爆発的に吐き出した!!!
ドォゴゥッ!!
激しいその音と共に、ゴジラの体が縦方向に回転しながら空を飛ぶ!!
「怪獣大決戦……」
「何を今更」
真っ白に燃え尽きた……呆れたと言うのかもしれない……そんな二人を他所に、ゴジラのバンザイ・アタックが、ミミちゃんを海に突き落とした。
そして、次の瞬間コクピットからスモールゴジラ――それともミニラか――が先ほどのゴジラと同じ要領で空を飛ぶ――原作を無視して――その手には、なにやら見覚えのある物が握られていた。
金属で両端を封印されたガラスの筒。中には金属球が複雑に固定されている。
何とか海岸までたどり着いた枝織ミニラは、逃げようともがくミミちゃんに向けて、海の中に投げつけた。
≪きゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……≫
泡立つ海の中に……最後まで可愛らしい泣き声のミミちゃんが消えていった……。
「……オキシジェン・デストロイヤー……?」
「……多分、本物だよ……」
「デストロイア、生まれたりしないよな?」
「何十年かしてから考えよう……」
……とまあ、真面目なのか不真面目なのか分からない戦いが終わった頃、出番の無かった舞歌たちは、逆さ磔にしたバールを肴に祝杯をあげていた。
お約束と呼べるかもしれない。
零夜とイツキを閉じ込めておいた牢屋が、中から釘バットで粉砕されたことは。
あとがき
次からは、アキトと北斗・枝織もいい加減、元に戻っての日々となります。
それにしても、精神交換物って恋愛とかラブコメの王道だとは思いますけど、生活上の苦労は書かれていても、男女の体の差のことは余り言及していないような気がします。
まあ、余り生々しいのも問題があるのかもしれませんが。
釘バット、取り上げてなかったんかい。とは言わないように。女の人には、秘密が多いものなのです。
代理人の感想
「残念だ」って・・・・・放射能汚染はいくらなんでもまずいだろう(爆)。
それはともかく、第0号(爆笑)。
合ってるんだかミスマッチなんだか(笑)。