機動戦艦ナデシコ<灰>

エピソード10−1/戦い終わって平和な日……のはず。


 一日が始まる。
 いつものごとくアキトは死んでいた。
 けれどもまあ、精神的な事なので不死身。「オートリレイズ」と「いつでもリジェネ」は常備してあるアビリティだ。
「アキト、どうしたの?」
「いや、ラピス……ちょっとショックな事があっただけだ。気にしないでくれ……」
 しかし、反対側の席に座った枝織は元気そのものといった風に、いかにも「かきこむ!」ようにご飯と箸を構えながら、
「いっただっきまーす♪」
 と楽しそうに言った。
 だが何口か食べて……おかずの皿に、ニンジンが残った。
 すると枝織、何故かふらつき……北斗になった。
 こちらもまた……アイデンティティが崩壊しているのか、スイッチの切り替えが激しくなってきたというか、自我崩壊の危機というか……頻繁に入れ替わるようになっていた。
 それも理由が「嫌いなおかずがある」程度で。

「枝織さん、それとも北斗さんですか……?」
「北斗だ……ルリ、すまないが静かに食べさせてくれ……」
 こちらも憔悴しきっていた。
 自分が男性ならば……、自分が女性ならば……。
 誰もが一度は考える問題である。
 だが実際に……まあ、他人の体の感覚を感じる、もしくは他人の体をのっとる……という体験をしたから言える事なのだが、実際に男の苦労というものが分かってしまい、北斗の「自分は男だ」と言う意識が根幹から揺らいでしまったのだ。
 教科書にある程度の異性の体の構造くらいの知識は持っていても、それがいざ自分の身で体験するとなれば……話は違う。
 同様にアキトも「女性の苦労」というもののせいで……くたばりかけた。

「ルリ……二人に何があったんだと思う?」
「この二人の間に男女問題があったとは思いにくいんですが……枝織さんが何かして、その後で北斗さんと気まずいことがあったとか……」
「ありえる……」
「これは……」
「調べないと……」
「いけませんね……」
 くすり。
 そう笑ったのは、一体誰だったろうか?
 聞いてはならない質問である事は、間違いなかろう。



 七時になったと同時に、かぼちゃの形をした目覚ましが鳴り始める。
 ジリリリリリ……
「んぅ〜」
 布団の中から手を伸ばし、トン、トンと床を叩きながら目的のものを探す。
 ジリリリリリ…とん。
 目覚ましの音が止み、気を取り直して寝なおす。
 …5分後。
 カンカンカンカンカンカン!!!
 直径30センチはあろうかという、二つのベルをハンマーが叩く目覚ましが無遠慮に騒音を鳴らす。
「うるさいよぅ〜」
 カンカンカンカンカンカン・ドガン!!!
 さっきよりも音が大きかったからか一直線に手が伸び、こちらも無遠慮に潰すように叩く。目覚ましは、その力に抗しきれずに跳ね飛んだ。
 今度は布団を頭までかぶって体を丸めるようにして寝直す。
 ……さらに5分後。
 トン、トン。
「シア、起きてますかシア」
 落ち着いた声が、ドアの向こうからかかる。
 シアと呼ばれた……布団の中の人物は今だ、布団を頭からかぶっている為、その程度では起きない。
「シア、また起きてませんね、開けますよ?」
「ん〜にゅ〜」
「くす…仕方ありませんね」
 カチャリという音を立てて、ドアが開いた。
 ……が、誰も居ない。
 あ、カメラ引いて、引いて、もうちょっと下。
 ドアノブに背伸びしてようやく届くような小さな女の子が一人、せいぜい5・6歳。これまた可愛らしいエプロンに身を包み、片手にその手には不釣合いな、大きなフライパンを持っている。フライパンは熱そうで、今まで料理でもしていたのだろうか肉と卵の匂い、美味しそうな匂いがする。
 色素が薄いのか亜麻色の髪をした色白の少女。良い意味での「お人形さん」のような少女。存在感はあるが、どこか希薄な印象を抱く。
 あきれ果てたような。それとも見守るような、というべきか。優しく笑うとキッチンに戻り「とき卵」を持ってくる。
 少女はコンロから離して時間の経っているフライパンに、ボウルを傾け、とき卵を流し込んだ。
 じゅわぁぁぁぁ。
 なぜか一瞬で美味しそうな音を建てながら、美味しそうな匂いを放ち始める。
 ぱさり。
 布団がめくれる。
 こちらは黒目黒髪、健康的に焼けた肌には東南アジアの色が見て取れるが、持っている雰囲気は日本人のそれだ。背中まで伸びた髪は寝癖でぼうぼう、目は起きたばかりでしょぼしょぼしている。
 ただし視線は間違いなくフライパンに向いている。それは雰囲気……いや、いつものことだから少女には分かるのだ。
「……おはよ、クーシャ。朝ご飯、何?」
「ポタージュにトースト、ツナサラダ。カリカリに焼いたベーコン。それにシアの好物の特製卵焼きです。コーヒーと紅茶、どちらにします?」
「ホットミルク、お願い」
「はい、分かりました。急いでくださいね、初日から遅刻はまずいでしょうからね」
「ははは」

「……というわけで今日からこちらに転入します、シア・御神楽です」
 そう言いながら、教室で自己紹介する。
 中学生の平均と同程度の身長しかないシアでも、教壇の上に立つわけだから教室が見渡せる。すると、目立つものがやはり目に付いた。
 それは銀髪のツインテール。
「先生、私はどの席につけばよろしいでしょうか?」
 大抵、空いている机がどうとか言われるものだが、今にも学級閉鎖しそうなほどに風邪がはやっているので、空きだらけなのだ。
「あそこの空いている…ええ、ホシノさんの隣に。ホシノさん、手を上げてください」
 言われ、お義理程度に手を上げるルリに苦笑し、シアは笑いかけるようにして席につく。例えるなら"ひまわりのような笑み"だろう。見ていると、ついこちらも一緒に笑いたくなるような笑顔をしてくれる。
 オンライン化が進んだため「教科書見せて」などとは言わない。
 それ以前に学級閉鎖寸前なので、授業を進めるわけにも行かず、一日の授業のほとんどが自習になるのは明白だったから。



「おっはよーヤマダくん!」
「起きてるかガイ?」

 そう言いながら、男臭い部屋の中に分け入る二人。
 靴も脱がずに部屋に入ってくるが、脱ぎ散らした下着なんてものが落ちている以上、それが正解と言わざるを得ない。
 だが、この部屋の内装は……ガイらしいと言えば、らしかった。
 K―1やアルティメット、ゲキガンガーに魔女っ子、プラモデルにスクラッチモデル、フィギュアに着せ替えにロマンアルバム……その上今では手に入らないようなDVDどころかLD、VCまで有る。モニターは勿論ブラウン管だ!!

「……」
「……」
 だがそんな、壁際にトロフィーのように飾られた物を見るような二人ではなく、寝たままのヤマダを見て「しめしめ」と顔を緩める。
 こそこそ。
 がさがさ。
 二人は定番どおりベッドの下に手を突っ込んだ。
 そこには、独り暮らしといっても「悲しき男の性」……Hな本がそこにはあった。隠す必要が無いのに、何となく隠したいものなのだ。
 ヒカルは躊躇無く覗き込んで「うわぁ…」と声をあげる。
「お、おいヒカル……」
「万葉ちゃん、……気になるんでしょ、ヤマダ君の好み……」
「そ、それは……」

 万葉は狼狽するが、それでも嫌がっていない。
 ヒカルはそれを察すると、そうっと覗きやすいように本を万葉の方にずらす。
 くらっ。
「か、万葉ちゃん?!」
「お、おとこ…おんな、おんなが……あ、ああああああんな事ぉぉぉぉ?!?」
「え? ……こんなの普通じゃない」
「なにぃぃぃ?!」
 その本に何が書かれていたのかはわからないが、万葉を一撃で腰砕けにさせ、しかしながらヒカルには普通と言わせるようなもの。
 さらに言えばガイの趣味である。
「で、こっちは……と…えぇ!!??」
 これもまたガイの趣味であろうか?
 今度は、ヒカルが絶句して動きを止める。
「な、何が写ってるんだ……?」
 脅威を感じながら、それでも万葉が近寄る。
 何だかんだ言って、ガイの趣味が気になるらしい。
「ヒィッ!!」
 鋭い悲鳴をあげ、今度は腰を完全に抜かしながら、力の入らない腕、それでもその腕だけで後退する。

「ヤマダ君って、こういう趣味だったんだ……」
「それで……今まで誰にも手を出さなかったと言うわけか……?」
 二人は、ガイの顔を見る。熱血過ぎて少々濃い……とはいえ、それはあくまで「男臭い顔」の範疇であり、今まで全っ然「女っ気」が無かったのがおかしな位だ。しかしながら、このような趣味を持っていたのでは……それも仕方なかったのかもしれないが。
 二人は、物凄い物を見てしまったからか、夕焼けの中でもごまかしきれないくらいに真っ赤な顔を互いに見合わせ、その視線を次第にベッドの上で寝ているガイに移す。
 まんが枕…という商品がある。
 枕にキャラクターが印刷されたもの……なのだが、ここで寝ているのはガイ、寝具一式がゲキガンガーで出来ていた。タグには木連製であることを示すマークが書かれている。
 こんな、漫画の世界から抜け出てきたような男の趣味が……これか?
 二人は、どちらとも無く呟いた。
 それも、二人同時に。
「ヤマダ君なら……いいかも」
「ガイなら…いいか」

 その言葉に、どんな気持ちが集約していたか、ここで語るべき問題ではない。
 だが、目に見えるのではないかと思われる恐ろしげな空気が発生する。
 二人は、その互いにやりきれない気持ちを……いまだに寝たままの男にぶつける事にした。
 万葉は、何処からかは知らないが、氷の浮いた水をバケツに一杯持ってきた。
 逆にヒカルは布団の裾を手にしている。
「じゃあ、布団を引き剥がすから……」
「ああ、氷水を被らないように気をつけろ」
 ガバッ…!!
 布団を引き剥がし、水をかぶせようとして、二人の動きが止まった。
 男の朝の生理現象。
 ……二十秒後。
 いきなりの冷水に飛び起きたガイは、ダブルライダーキックを顔面に受け、折角の有給一日目から病院に直行する事になった。
 ただし病院についた直後、救急隊員が元気に動きまわる彼を見て逃げ出したことを付け加えておく。

 その頃、軍の寮にて。
「おーい、ヤマダ、この間頼まれて買ってきた本の中に、俺のエロ本入ってなかったか? ……て、留守か」
 という言葉が、誰も聞く相手が居ないのに…そこに流れていた。



 そして、この日からおよそ半月が過ぎた。
 静かな日々が過ぎ去った。けれど、皮肉なまでに平穏だった日々は、陰惨な日々へと一転する。

 白鳥家・リビング。
 もうすぐパパとママになる新婚家庭特有の激甘ながら、見ていて微笑ましくなるような空気が充満していた。
「おっ、今蹴ったぞ」
「ふふ、きっと元気な赤ちゃんね」
 物凄く楽しそうに、ミナトのお腹に耳を当てている九十九。
 ミナトも、愛する夫のその様子を母になる人間の目で、妻の目で、恋人の目で見つめていた。
「男の子と、女の子。どっちなのか、気にならない?」
「どっちだっていいさ。元気な子供が生まれれば。何しろ子供は天からの授かりものだしな」
「あら、貴方からの贈り物じゃなくて?」
「な、ななななな……?!」
「今更照れないで。九十九さんはずっと大変だったんだから、……私と居る時くらい……甘えてよ」
「……ありがとう、ミナト…」

「羨ましいね」
「そうね」

 そう言いながら、キッチンでお茶をしていたのはチハヤとユキナ。
 ちなみにユキナは、学校が風邪で休校になったので、こうして家に居るのである。体が風邪のウイルスに抵抗出来るか出来ないか……その結果であって、迷信は関係ないのであしからず。
 チハヤは……腕時計を無くした事で身の危険を感じ、ここに避難していた。特にユリカがBIG―Oを持ち出したので、ブラックマッシュルーム(現・M帝国)に戻れなくなったのだ。
 しかしそんなことはお構いなしに、紅茶を飲みながらユキナは何とはなしにポツリと呟いた。
「アタシも赤ちゃん欲しいな……」
「恋人と結婚を飛ばして、何故子供……?」

 ……まあ、チハヤの突っ込みもそうだが、ユキナはちぃとも聞いていない。
 ふと、疑問に思ってユキナは聞くことにした。
「そういえばチハヤさんって、経験あるの?」
「……まあ、ね」
「えええええぇぇぇぇぇぇ?!?」
「そんなに驚く事か?」
「チハヤさん、子持ちなのぉ?!」
 ガン!
 ギャグにしても、随分激しくテーブルに頭をぶつけたものだ。下手をすれば、頭蓋骨にヒビくらいは入っているかもしれない。
「……流石にその経験は無いわよ」
「そうよね……チハヤさん、ボディライン綺麗だし……じゃあ、なんで結婚指輪してないの?」
 ズガン!
 ついにテーブルにヒビが入った。
 普及している合板製のテーブルなので安い品だが、結構頑丈な素材でもある。
 だがチハヤのヘッドバッドはたった二撃で、そのテーブルにヒビを入れた。
「……結婚もしていないわ」
「じゃあ……妊娠?」
 バキバキバキバキ!!!
 ついに、テーブルが二つになった。
 とはいえ二本足のテーブルが二つあっても、役に立つ事は無い。
「……あるのは男性経験だけよ」
「なんだ」
「なんだ……って、今までのは一体……」
「冗談よ」
「ヲイ」
「でも九割本気」
「……居候の家事手伝いが言う言葉じゃないけど……仕返し、何がいい?」
 わさわさと、零夜そっくりの空気を撒き散らしながら指を滑らかに蠢かせる。
 するとユキナはまっすぐに向き直って、木連女性特有の「大和撫子」的な姿勢をとり、慎ましやかに語った。
「謹んで辞退させていただきます」
「返品不可」
「きゃーっ、チハヤさん止めてーっ♪」
「いいではないか、いいではないか」

 ……女子高ノリな、二人であった。
 まあ、こんな調子ではいつ彼氏が出来るか……知れたものではないが。




 珍しくアカツキが強権発動し、ここにはアキトとアカツキしか居ない。……もっとも、連れ込み防止に仕掛けられた130にも及ぶ盗聴器と盗撮カメラを取り外すのに二人がかりで二時間かかったのは……アカツキの人徳のなせる業、とだけ言っておこう。
 アカツキは演出に凝る方なのか、それとも味に凝るほうなのか。アルコールランプに火をつけ、サイフォンをセットしながら、まるで世間話をするように切り出した。
「テンカワ君、君に依頼を……脱出の手引きをしてもらいたい」
「……またか」
「ああ、まただ」
「……一体何があった?」
「……日常が地獄だ」
 そう語るアカツキ……彼の目にはクマが出来、ストレスからか肌や髪につやは無い。会長職にあるのだから着ているのはパリっとノリの効いた小洒落たスーツなのだが、どう見ても受ける感じはヨレヨレだ。
 そのアカツキ、今度は窓の外を見……昔を懐かしんだ。
「なあ、今度は砂漠に行ってみないか? 砂漠の女性は貞淑で、夫を立てると言うし……」
「……それが所帯持ちの台詞か?」

 突き刺さった台詞は、まるでニンジャの攻撃のようにアカツキの首を跳ね飛ばし、一撃で絶命させた。
 全く動かなくなったアカツキに、アキトは耳を近づけ、「二人を呼ぼうか」と聞く。こうなればアカツキはそこが例え地獄の最下層からだろうと戻ってくる……それを知っているから。
 無論黄泉がえったアカツキは……今度はアキトに逆襲する。
「君こそ……隅に置けないじゃないか。枝織君……彼女の事はどうするんだい? なにやらかなり親密らしいね」
「え?」
「それに聞いたよ。ミスマル提督の入院した理由…どうやら君が一枚噛んでるそうじゃないか。……ユリカ君、結構美人だしね」
「アカツキ……一体、何処でそれを」

 アキトの剣幕を手で制し、遠い、遠い……空の彼方、無限の彼方を見るような目で…語った。
「なあ……僕らのプライベートって、何処にあるんだろうな……」
「そう……だな。きっと遠いどこかにあるさ……」

 そう言って、二人は手元に、危険なものを取り出した。それはどうやって手にしたかは分からないが……違法でしかありえない偽造旅券と「世界の秘境」と言う、6年の○学と言う、付録が楽しい雑誌の増刊だった。

 ……とりあえず、バレたら後が怖いということでエベレストの単独登頂を満喫……そんなストイックなところに落ち着いた二人は、再び話を始めた。
「ところでテンカワ君、何をした?」
 ずるり。
 滑った。
 革張りの、応接セットの上を滑り落ちた。
「……心当たりがあるんだね」
「な、な、何を言ってるのかなアカツキくん?!」
 声が裏返り、汗がどっと出る。
 思い当たることなど山のように空高くある。
 ……精神的に酔えなかった昔はともかく、今は「記憶が飛ぶ事などザラ」なアキト。酒の席での…酔ってのご乱心など……思い出せないほど数限りない。
 そのアキトの様子にアカツキはずずいと詰め寄る。
 いきなりスタンドを持ち出し、テーブルの前にセット。アキトのほうにライトを向け、さらに詰め寄る。
「さあ、吐け! 一体何をやらかした!」
 心の声・IN・アキト。
アキト1「……俺が一体何をした?!」
アキト2「歴史変えたじゃん」
アキト3「その上変な組織が乱立してるし」
アキト4「そーいやユリカに手ぇ出したっけ」
アキト5「あ、オヤジさんから決闘状受け取ってたけどどうしよう」
アキト6「晩御飯どうするかな」
アキト7「ウリバタケさんにもらった萌えセット、今度酒呑まして北斗に着せてみるか?」
アキト8「殺されるぞ、んな事したら」
アキト9「いや枝織ちゃんにだろ」
アキトA「いや、枝織ちゃんの時に男装させるほうが楽しくないか?」
アキトB「萌えぇぇぇぇぇ」

「……どうした、テンカワくん?!」
 はっ、とする。
 そして、声を潜めていった。
「俺は今、自分の記憶、自分の心の声に耳を傾けていた。そして、得られた結論は……」
 空気が、痛いほどに緊張の糸を引き絞る。
 硬い。
 重苦しい。
 だがアカツキは聞かなければならなかった。
 アキトが導き出した答えを。
「結論は……?」
「やはり時代は
萌えなのか?!」

 一徹暴れ・バイ・アカツキ。

 ぜぇはぁぜぇはぁ
「アカツキ、興奮すると体に悪いぞ」
 労わるような声のアキトに、アカツキはその肩を鷲掴みにし、真正面から、子供が見たらトラウマになる顔トップ3に残れるような顔をした。
「真面目に話せやゴルァ!」
 その顔は逝っていた。
 まあ、とりあえず真面目に考えることにしようと、アキトは考えた。
 心の声・IN・アキト・パート2。
アキト1「本当に、何をした?」
アキト2「昨日は……誘拐犯のアジト潰して、子供を無事に両親に返したし」
アキト3「一昨日は……銀行強盗の車、走ってる所にマキビシ撒いただけだし」
アキト4「先週は……テロリストの訓練キャンプをブラックサレナで奇襲かけただけだし」
アキト5「先々週は……頼まれて大統領暗殺計画を潰しただけだし」
アキト6「先月は……UFOの真相究明を頼まれたら某国の新兵器のテストフライトだったし」
アキト7「先々月は……心霊スポット巡りをしただけだし。まあ、お払いするまで二週間ばかり金縛り続いたけど」

「……平穏な生活をしてたけど?」
「……本当だね?」
「まぁね」
「そうか」
 ……心底、本気で、あの生活を「へイオン」と思っていることが、アキトの怖いところではないだろうか。
 少し安心した風にアカツキが――心の声が聞こえるような事があればその限りではないだろうが――出来上がったコーヒーを配る。
 香りが立ち上り、備考をくすぐる。
 香りに少し癖があるが、口に入れると軽い酸味と強い甘味が広がる。
 淹れるの上手いなと思ってアカツキを見ると、複雑そうな顔で。
「……あの二人に見られてると思うと……これぐらいしか出来なくてさ……」
「……そうか」
「はは……」
「ははははは」
「ははははは」
「じゃ、女性問題は?」
「ぶはっ」
 琥珀の液体がきらきらと飛び散るが、アカツキは何とか逃げる。逃げたのでソファにかかるが、革張りなので後始末が大変だ。
「なななななな何を言うかな?!」
 ぽむ。
「……既婚者の相談相手が欲しいんだよ、僕も……」
「そうか……」

 空気がしんみりとしたものになる。
 だが、そんなものが長続きする二人ではない。

 ちゅどぉぉぉぉぉぉん……
「アカツキ、今月の備品代……また赤字になるんじゃないか?」
「それは大丈夫。クリムゾンの爺さんに<バリアのモニター>って事で結構貰ってるから
 そう言いながら暁の横で仕事をしているのは……ようやく元に戻れたアキト。近況報告と、仕事の為に来ていた。
 サセボの街を一望できるほど高い場所にある会長室……あの二人に捕まった時のことを考えて、あくまで非常用と言い張っているが……エステバリスがとなりの部屋に隠されている。
 窓の外を見ると、ネルガルが特殊な人材を育てる為に作った日本随一のマンモス校……その小等部の部室棟から煙が上がっている。
 煙で済んでいるのは、アカツキが言った通りクリムゾンの協力のおかげといえる。
「また。破壊力が上がってないか?」
「先週は地響きだけだったのに、今度は煙が上がってるからね。バリア出力が追いつかないって事なんだろう? ……これでクリムゾンの開発部、暫くは会社に泊り込み……ククククク……家庭不和を起こしてしまえ……僕だけが家庭問題で悩んでいるなんて嘘だ、これが現実であるはずが……」
 ぽむ。
 肩に置かれたのはアキトの手。
 ふるふると頭を横に振って……
「ああ、そうだったね……どうせあの四人だ。無事に決まっているさ」
「違うってアカツキ……他の一般人のことで……」
「あの学校に一般人なんて居ないよ」
「え?」
 その言葉に、煙を見ながらも一瞬ばかり自らの目を疑うアキト……アカツキは手馴れた風にテレビをつけ、チャンネルを変えた。
 ぴっ…ぴっ…ぴっ…ぴっ…
「あ、これだこれ」

『現在、学校法人ネルガル学園小等部において火災が発生、消火作業が行われています……こら新聞部、カメラの前に立つんじゃない!』
『やかましい報道部、俺達新聞部は……明日の朝刊のための写真をとらなきゃなんねえんだ!!』
『うちの部の活動費は購読料で賄ってるんだ! テメェ等に譲る気はねえ!!』
 ガスッ!!
 ホセ・メンドーサばりのストレートが炸裂する。
『ぐはっ…』
 だが!
『うちの活動費も…視聴率とスポンサーに頼ってるんだ!!』
 ズギャアァァァァァァ……!!
 レポーターも負けていなかった。
 なんと20世紀最大の必殺ブロー・ギャラクティカ・マグナムを放った!!!
 カメラマンは何メートルも吹き飛び芸術的に落下、動かなくなった。それを手馴れた風に、プレスの腕章をつけた連中が回収していく。

「……」
「逞しいじゃないか。これでネルガルも安泰だね」
 逞しすぎる、の間違いではないだろうか。
 このままならネルガルの優位は、これ以降数十年は揺るがないに違いない。
 何か不条理なものを見たような気になって、アキトは頭を振る。
 話を元に戻す為に、手元のレポートに目をやり、発言する。
「しかし……新型の飛行テストのレポートに不備があったって言ってもな、あれは結構使いやすかったぞ? これにも書いたが、出力調整をもう少し細かくすれば、十分実戦に投入できるかと思うんだが…」
「違うんだテンカワ君。その機体V2アサルトガンダムは実際に使ったんだが……空を飛んで地面を潜り、地上を走る海底戦艦ラ號改には無意味で…」
「すまん、もう一度言ってくれ」
「空を飛んで地面を潜り、地上を走る海底戦艦ラ號改」
「……想像できないんだが」
「僕も名前を聞いた時は、自分の耳を疑ったもんさ……確か、資料がここら辺に…」
 山積みの資料を漁る。
 何故、全く整理されていないかと言うと…例の「ミミちゃん騒動」の時、アカツキが枝織に同行することを知ったエリナと千沙に監禁されそうになり、しかしアカツキが「今までの経験」を元に、二人を逆に捕縛、そのまま逃げるように仕事に出たためだ。
 それが原因でプロスペクターが入院した事も……あったような気がする。
「ああ、あったあった。これがそうだよ」
 写真に写っているのは一隻の戦艦。ナデシコ級を基にしたのだろう、特徴的なフォルムを残しつつ、ユニットを追加する事によってドリルや巨大タイヤを装備している。
「かつて草壁派の残党に奪われたナデシコ級三番艦、そのなれの果て……エステバリス130機をスクラップにし、都市を四つ更地に変えた怪物だよ」
 そう言いながら、戦闘記録の一つを手にする。
「実体弾ばかりをメインに武器を使ったらしいけど、ロクに役立たなかった。どうやら、ナデシコ級を木星の独自技術で改造していたらしい」
「……」
「だから、このままだと……今の武器が通用しない危険性がある。しかも敵の手に残っているのはナデシコ級で最強の四番艦シャクヤク……!!」
「相転移砲を装備したアレか…」

 二人は考え込む。
 事実上…空間そのものを一気に相転移させる相転移砲は、発射された後は逃げる以外に道は無く、防ぐには相転移砲を使用前に叩くしかない。
 だが、攻撃そのものが通用しなくなる危険性がある。
 ではどうするか。
「攻撃力を、防御力以上にあげるか……」
「こちらも相転移砲を装備する」
 だが、市街地に入られた時……その時は、本当になす術なくなってしまう。
 それが分かっているのか、二人は言葉を無くし、今一度レポートに目を落とす。
 無言でレポートをめくる時間が続く……そして、エリナが駆け込んできたことで、それは中断した。それだけ、エリナの発言がもたらしたものが凄まじかったと言う事でもある。
「街で事件が起きたわ。北斗君……それとも枝織ちゃん……? 彼女が何十人も傷つけて、そのまま……消えてしまったのよ!!」


あとがき

 前に、何かに書いたような気がします。
 シリアスやダークと言う意味の「黒」と、ライトなギャグと言う意味での「白」を混ぜて「灰色」……だからこれは<灰>なんです。
 最近、偏っているような気がして……。

 まあ…今回は枝織+北斗の安定化が狙いですから、その前フリとして凄い事になってます。



 

代理人の感想

>時代は萌え

・・・・・・・・この話のアキトなら本気で言ってても余り違和感がないかなぁ。

ガイも魔法少女に手を出してるし・・・・

 

山田さん、あなたは堕落しましたっ(びしぃっ)!

 

どうせ萌えをネタにするなら

 

「熱血に捧げたこの身には

 萌えを帯びるなど恥辱!」

 

位言ってくれないものでしょうか。

 

無理か。