何とかナデシコと合流は出来た。
戻ってきた際に妙な組織というか何と言うか…が結成されて居たりしたがまあ問題ない…と思う。
以前はイネスさんが”なぜなにナデシコ”をやったんだがルリちゃんのサボタージュにより阻止された。
まあその代わり”説明”ができるんだからいいだろうと思う。
取り敢えずはまあ平和というかなんと言うか…。
「アキトさん…」
うん?ルリちゃんなにをそんなに怖い顔をしてるんだ。
「どうしてアキトさんがイネスさんやメグミさんを抱っこしてたのか聞いていないんですが…」
……さすがルリちゃん。
こんな状況なのに忘れていない。
忘れていて欲しかったけどな。
「いや、あれはエステのコクピットの広さが広さだし…」
「ほう…」
いや、まじで怖いってルリちゃん。
こんな時、シンジが居てくれれば…いや無駄か…。
シンジ…俺はやはりお前の言ったとおりの奴なんだろうか…。
「まあ良いでしょう」
おや?随分とあっさり引き下がったな。
…そうか!ルリちゃん!俺の事を信じてくれたんだな!
「ルリちゃんありがとう」
「気にしないで下さい」
そうしよう。とりあえずルリちゃんの顔に浮かんでいる怪しい表情も見なかったことにしておこう。
うんうん。
なんだか後が怖いね。全く。
●
なんだか悪寒がするがとりあえず俺はブリッジを抜け出してきた。
イネスさんは怒涛の説明を繰り広げていて一人抜けても気づかないだろう。
なぜかあそこに居れば危険だと俺の勘が知らせるんだ。
抜け出してきたけど何処に行ったものだか。
……そうだなシンジと話しでもするか。
ナデシコに乗ってからあいつとは今後どうするかとか、言った風な事しか話してないしな。
で、シンジは何処にいるのかな。
普段は部屋に居るんだがここ最近は展望室に居る事が多いから…先ず展望室に行こう。
そうと決めれば早く行くか。
何と言っても次の作戦まで時間が無かったはずだ。
シンジか…。
俺は歩きながらふとシンジのことを考える。
もう死にかけ同然の俺なのについて来たあいつ。
もし、あの時、いや復讐を誓った時シンジが居なければ俺はどうなっていただろう。
月臣に武術の師事を頼み鍛えられたあの時。
互いに意識を失う事など何度あったことか。
俺が目を覚ますと常にあいつが傍に居た。
自分だって立っているどころか起きて居るのだって辛いくせに。
あいつを俺の復讐に巻き込んだ事を後悔した事もあった。
そのたびにあいつは笑いながら、僕がこうすると決めた事です、という。
俺が変わっていく中あいつだけは変わらなかった。
変わった俺に変わらなかったあいつ。
変わりきった俺にそれでもついて来たシンジ。
どれほど感謝しても足りない。
復讐を手伝ってくれた事じゃなく、あいつが傍に居てくれた事をだ。
俺はシンジの過去を知らない。
何があったのか。
時折あいつが漏らす自分の過去の言葉は凄く重い。
俺には理解できないくらいだ。
だがそれが何だというのか。
あいつの過去に何が有ったかは知らない。
俺が知っているのは初めて出逢った時からのシンジ。
そして今に至るまでのシンジ。
それまであいつが俺に与えてくれたものを考えればあいつの過去を知らない事など瑣末事でしかない。
そんなあいつを信じられないというのなら俺に一体どれほどの価値がある?
あいつを信じられなく疑うような俺ならばいっそ何よりも惨たらしく死んでしまえばいい。
それが当然だ。
……なんだか考えながら歩いていたらもう展望室に着いた。
中には…やはりシンジが居た。
「シンジ…」
「アキトさん?」
声を掛けたらシンジが振り向いた。
珍しい、気づいていなかったのか?
「どうしたんだ?」
お前が人の接近に気づかないなんて…。
「いえ、少し考え事を…」
「そうか」
考え事とシンジは言うがどうにもアレだ。
シンジが考え事をしている時の姿は妙に透明な感じがする。
まるで…そのまま消えてしまいそうな…。
「アキトさん…」
「なんだ?」
俺の方ではなく宇宙を見ながらシンジが言う。
何処を見ているのだろうか?
「アキトさんはこの戦いが終わったらどうします?」
「終わったら…」
はっきり言ってなにも考えていない。
今はこの戦いを終わらせる事を考えるので精一杯だ。
それに…俺の力を政治家連中が放っておいてくれるとも思わない。
シンジの力もだ。
今はまだエステで戦っているから腕が良いパイロット程度でしかないが…。
…かつての愛機、ブラックサレナそしてジュデッカ。
さらにはその後継機であるあれらが完成したときには…。
「アキトさん?」
っと、少し熟考しすぎたようだ。
シンジが訝しげな目で見てる。
「終わったらか…そうだなコックでもまた目指すか?」
笑いながら言ってやる。
それが無理だって俺自身分かっているのに…。
それでも…諦めたくない…。
「そうですか…」
シンジは何も言わない。
こいつだって分かっているだろうに。
それでも言わない。
言わずに笑みを向けてくる。
優しい微笑を…。
「僕は…」
俺がなんだか暖かい気分になっているとシンジが口を開いた。
「僕は、宇宙を駆け巡ってみたいです」
……なんというかシンジらしくないな。
こいつにそんな思いがあったとは。
え〜と宇宙海賊とかそっち系か?
「違います」
……俺の心を読んだか?シンジ。
「アキトさん顔に出すぎです」
なるほど。
「宇宙を見るたびにそう思うんです。…この静謐の空を駆け巡りたい、と」
静謐の空…。俺もそれを考えた事はある。
復讐の中でいつも見てきたこの宇宙。
星が瞬くこの空を何もかも忘れて駆け巡ってみたいと。
きっとそれは幸せな事だから…。
「何も無いこの空。何処を目指すでなくただ駆ける…そんな時が…」
シンジは最後まで言葉を続けなかった。
それでも何が言いたかったのかは分かった。
「…すいません。変なことを言って…」
変じゃない。
そう言おうと思ったら時間切れだ。
ウィンドウが俺の前に開かれた。
●
シンジと別れブリッジへきた俺。
そこでイネスさんが提督の行いを話した。
そう、コロニーを潰したあの行いを。
「もう過ぎた事です。それにあれで一番惨めな想いをしたのは…提督自身だと思いますから」
いや惨めなどというレベルじゃない。
守るべきものを自らの命令で殺すなんて惨めなんて小さな思いでは足りない。
さらには英雄と呼ばれる事になるなどと…。
提督…いつか貴方はその想いから解き放たれる事はあるのでしょうか?
そしていつか自分を赦せる時が来るのでしょうか?
俺は…未だ自分が赦せないですが…。
あの時、復讐の名の下で殺戮を繰り返した俺自身を…。
そしてシンジを巻き込んだ俺自身を…。
シンジ…せめてお前だけはこんな想いを抱かないでくれ。
俺はそう祈った。
もう縋るべきものも祈るべきものも思いつかないというのに…。
●
結局は以前と同じような展開になった様だ。
つまりエステバリスで先行偵察をして来るというやつだ。
行く途中、氷の中に潜んでいた無人兵器が居たが問答無用で破壊してやった。
……なあ、どうしてこうも悪寒を感じるんだ?
ルリちゃん、俺はただリョーコちゃんを助けただけなんだよ?
ああ、なんだかキリキリと胃が痛い…。
本当…泣きたくなるね。
イネスさんに胃薬でも調合してもらおうかな?
「どうしたの?アキト」
ああ、なんでもないユリカ。
ちょっと胃が痛いだけだ。ついでに頭も。
研究所の周りに陣取っているチューリップの攻略について話しているときなんだがね。
攻略ね…提督、また同じように消え去るつもりですか?
かつて俺は貴方が消えた後に生きるべきだったと言いました。
だけど…それは…今ではあまりにも空虚な言葉に思えます。
俺自身が消えたがっているんです。
こんな人間が居てはいけないと囁かれるんです。
ユリカの傍に、ルリちゃんの傍に。
ナデシコの中に。
「アキトさん…」
「ルリちゃん、仕方が無いんだよ。今の俺達では火星を脱する事は無理なんだ」
仕方が無い…そう俺は言った。
だが…本当は提督を止める言葉が思いつかないだけだ。
どうして…こんなにも共感してしまうんだろうな。
この身も心も何もかもが厭わしく感じる。
そんな想いを。
「これ、完成しました」
ルリちゃんがあるものを出す。
よく憶えているその形。
「ジャンプフィールド発生装置…出来たのか」
だがこれは個人用だ。
ナデシコを飛ばすほどの力は無い。
それでもジャンプできると言うのは大きい。
「はい、アキトさんの分とシンジさんの分、その二つです」
ならシンジにも渡しておくか。
と思ったら当のシンジがきた。
作戦が決まったのでブリッジへと向おうと思ったんだろう。
「シンジ」
「なんですか?アキトさん」
立ち止まるシンジに装置を手渡す。
「出来たんですね」
「ああ。俺はこれからテストを兼ねてラピスに会いに行くが…」
「それでは僕もご一緒します。これが出来たのならやる事がありますので」
「?そうか」
やる事か。
まあなんとなく思いつく。
実際俺だけでは”それ”を実行するのは不可能だろう。
「それでは三時間後に作戦決行ですので」
「ああ解ってるよ…じゃあ行ってくる」
シンジと俺、互いにジャンプフィールドが展開される。
青い光が眩い。
「「ジャンプ」」
そして地球にジャンプした。
●
俺達は研究所のラピスの個室にジャンプした。
突然現われた俺達に驚きながらもラピスは嬉しそうに俺に抱きついてきた。
「アキト…アキトだ!!」
「ああ、久しぶりだな、ラピス」
ラピスの頭を撫でながら俺は言う。
シンジは離れたところで俺達を見ている。
「でもどうして?アキトは火星にいるんじゃ?」
「ジャンプフィールド発生装置が完成したんだ」
これだけで通じる。
「じゃあこれから好きなときにアキトに逢えるの!」
「ああそうだ」
俺は微笑みながら言う。
ってちょっと待った。
「いやこれから八ヶ月間、ナデシコは音信不通になる」
火星でのジャンプでだ。
ラピスは哀しげな表情をしながら俺の言葉を受け入れてくれた。
その表情にやはり胸が痛むのを感じていると。
「アキト…この映像はなんなの?」
……あの、ラピスさん。
つい先ほどまでの表情は何処に消えたんでしょうか?
僕はさっきの表情の方がいいなあ…。
今の夜叉みたいな表情より……。
ちなみにその映像は格納庫の床が直角になった時の映像と俺がイネスさんとメグミちゃんを連れナデシコに戻る時の映像だ。
さすがルリちゃん。
何時の間にこんな映像を保存していたのやら…。
保存なんてしておいて欲しくなかったけどね。
「アキト…」
こわっ!怖いよラピス!!
シンジ!笑ってないで助けてくれ!!
「ゴメンナサイ…」
ああ、空が青い…。
屋内だけど…。
とりあえず…言い訳を考えよう…。
「ラピス」
ん?シンジ?……そうか!俺を助けてくれるんだな!
「アキトさんの言い訳は後で聞くとして幾つか頼みがあるんだけど…」
シンジ!俺を助けてはくれないのか!
ああ…無情な世の中だ…。
●
何とかラピスに許してもらい俺とシンジはナデシコへと戻った。
シンジの頼みごとは、まあやっぱり考えていた通りだった。
確かに八ヶ月もの間をジャンプで潰すのは余りにも無駄だ。
だからナデシコに戻ってはきたがこの後シンジはまたラピスのところへとジャンプする。
で俺は……。
「提督!!」
と提督の頭上に潜んでいたバッタを撃ち抜く。
俺が撃った弾は確実にバッタを破壊している。
「ありがとう、良い腕だ」
「どうも…」
どうにも落ち着かない。
以前は提督に対して恨みを抱いていたせいか余計なことを考えていなかったが今は…。
だから返事もどこか冷たいなと思う。
「君は私を恨んでいないのかね?」
提督がそう俺に聞いてくる。
恨む…それは出来ない。
何も護れなかった俺、護るべき者を殺した提督。
深く深く沈んでいく気分だ。
光が一切無い暗い海の底に沈んでいく気分…。
共感こそできるが…恨むことは出来ない…。それに…俺にそんな資格は無い。
「恨んだところで何も帰ってきません。一度失ったものはもう…元には戻らないんですから」
時を遡ろうとそれは確かだ。
無くしてしまった者は帰ってこない…。
だから…無くさないようにする…。
シンジが教えてくれた事だ。
「強いな君は…」
提督が眩しそうに俺を見る。
…強くなんて無い、俺は。
もう無くしたくないからガムシャラになるしかないだけだ。
強く過去を振り返る余裕は無い。
振り返れば俺は…もう進めなくなる。
その後はもう誰もなにも話さなかった。
俺達はただ静かにブリッジを目指しそして辿り着いた。
「君ならナデシコを護れるだろう。……ここで引き返してくれないか」
やはり…それを選ぶのですか…提督。
俺はその言葉を聞き踵を返す。
「イネスさん、行きましょう」
後ろに居るイネスさんにそう言うがイネスさんは、
「それでいいのアキト君!この提督をそこまで信用できるの?」
信用…そんなものじゃない…。
俺は…昏い瞳でイネスさんを見て応えた。
「ええ」
何も余計なことは言わない。
どんな言葉でも語れないのだから…この傷は…。
「アキト…君」
そう、語れない。この傷は。
同じような者達で無ければ分からないだろう。
この痛みは。
シンジとでなければあの時の事を思い出せないように。
この痛みは…いつも俺を苛む。
「君の過去に何があったのかは聞かん!!だが君はまだ若い!!未来を掴む権利は君にも、そしてシンジ君にもあるんだぞ!」
もうブリッジを出ようとする俺にかけられた言葉。
驚いたのが提督がシンジの事まで言った事だ。
俺とシンジ…か…。
●
俺達がナデシコへ戻るとちょうどクロッカスが浮上を始めていた。
ブリッジにシンジの姿は無い。
おそらくもう地球へとジャンプしたのだろう。
クロッカスより通信があり、提督がチューリップに入れと言ってきた。
ユリカが悲痛な表情で提督に問うのを横目に俺は静かに事の推移を見ていた。
反転し木星蜥蜴に攻撃を仕掛けるクロッカス。
どうしてだろうか…いまああしている提督が何を考えているのか解る気がする。
ひどく…哀しい…。
『アキト君。今こうしている私を君はどう思っているだろうか?だが最早この老人には未来を求める力は無い…』
提督……。
『だが君は…君達は違う!君達が何を悩み、考え、求めるのかは解らん!だがその人生は…まだ…始まった…ば…』
俺達は最後まで提督の言葉を聞くことは出来なかった。
沈黙に包まれるブリッジ…俺は今、何を考えているんだろうか…?
自分の心なのに何も分からない。
消えたクロッカスを示す青のマーカーがまだそこにある気がする。
チューリップの不気味な内部を最後に見たものとして…俺達の意識は白い光に飲み込まれていった……。
後書きじゃあ!!
うっす!皐月っす!
続けて月姫!
とりあえず解ったこと。
秋葉がなぜ血を吸うとき琥珀の胸から吸うのか。
あれはきっと血と一緒に”ちち”サイズも吸い取れないかと思っているからに違いない!!
そうか…秋葉…そんなにも”ちち”サイズ73は辛いか。
そんなにも”ちち”サイズ73は哀しいか…。
思わずお兄さん涙でそうだよ!
そんな秋葉ちゃんを応援します!!
頑張れ秋葉!!負けるな秋葉!!
”ちち”サイズが小学生中学生でも立ち上がれ!!秋葉!!
…ふっ。赤い髪がなんだか見えるようだよ。
ついでに
最初のシンジの話。
あの中にある宇宙という字。
あれは”うちゅう”でなく”そら”と読む。
”宇宙”と書いて”そら”と読むのは基本である。
以上
代理人の感想
・・・・・・・・・皐月さん。
御無沙汰の間に妙に嫌系に走ってませんか?
いや作品でなく後がきが(核爆)。