雪谷食堂に響く叫び声。
この一年の間に何度も聞いた叫び声だ。
ある意味この店での一種の名物だ。
ちなみに今日は叫んだ後にアキトがボケてみんながこけたという落ちがある。

 

 

 

 

「とりあえず今日までの給料だ」

サイゾウがアキトにカードを渡す。
今日は既に店も終わり薄暗い部屋の中でサイゾウとアキトそしてシンジが話をしている。
サイゾウとアキトは椅子に座り話しているが。シンジはすぐ近くの壁に腕を組みながら寄りかかっている。

「くびっすか…」

アキトが気落ちした声で言う。

「ああ。このご時世、臆病モンのパイロットを雇っているっていう噂がながれるとなぁ…」
「これは!違うって…」
「世間はそうは見ちゃくれねぇよ」
「でも俺コックになりたいんす」

アキトの言葉にふぅと溜息をついてサイゾウは言った。

「お前…このままじゃ何にもなれなねぇよ。自分から逃げてるうちはな」

サイゾウの言葉に何気に強く反応したのはアキトではなくシンジだったが二人は気づいていない。

「…わかりました」
「すまねぇな…シンジお前はどうする?」

サイゾウがシンジの方に向き直り問い掛ける。
シンジは閉じていた瞼を開き返事を返す。

「僕はもともとアキトさんが居たからここに居れたんです。アキトさんが辞めるなら僕も辞めます」
「そうか…シンジほらよ」


そう言ってシンジにカードを放る。
それを受け止めたシンジはそれが何なのかサイゾウに聞く。

「これは?」
「お前の給料だ」
「給料?けど僕は…」
「まぁこの一年頑張ったからな」
「はぁ、ありがとうございます」

それで話は終わった。
部屋へ戻ったアキトとシンジは着替えなどを纏めている。

「良かったのかいシンジ君?」
「いいんです。僕はもう決めてますから」
「そう」

黙々と荷物を纏め終わった二人は静かに立ち上がった。

「じゃあいこうか」
「はい」

大きいリュックを背負い階段を下りて行く。

「親方。それじゃあ今までお世話になりました」
「お世話になりました」

アキトとシンジがそれぞれ別離の言葉を告げる。

「ああ。…アキトお前が逃げるのを止めて、それでも料理をつくりたいんならそん時は戻って来い」
「え?」
「気にすんな。年寄りの戯言だ」

自分の言葉を鼻で笑うサイゾウ。

「親方…」

最後にもう一度サイゾウに一礼し店を出て行く二人。
薄暗い店内でサイゾウは一人椅子に座ったまま呟いた。

「アキト逃げてても何にもなんねぇぞ」

静かに薄暗い店内にその声は掻き消えていくのだった。

 

 

 

 

壊れた天蓋から降り注ぐ月明かりの道を自転車に乗って走るアキトとシンジ。
一年の間にシンジも自転車を買い快適に走っている。

「これからどうしましょうか?」
「さぁどうしようか?」

自転車に乗りながら話す二人。

「だけどさ,逃げちゃだめなのかな?」

アキトぽつりと言う。

「…逃げても良い事ありませんから。動くべき時に逃げても例え結果が良く終わっても後悔するだけですから…」

暗い表情でシンジは語る。

「そうなんだ…」

シンジの表情を見て聞かないほうが良いことだと思ったアキト。
誰にでも聞かれたくないことがあると言う事だ。
なんとなく空気が重くなり沈黙する二人。
その二人の後ろより迫る一台の車。

「「うわああああぁ!!」」

咄嗟に自転車のハンドルをきる二人。
だが過ぎていった車から放り出されたトランクがアキトを直撃する。

「アキトさん!!」

トランクに直撃されたアキトは自転車ごと倒れ涙を流している。

「もうやだ…」

車が止まり乗っていた人間が降りてくる。

「すいません!すいません!あの…大丈夫ですか?」

濃い青の髪を持つ女性がアキトに話し掛ける。
散らばったトランクの中身を仕舞っている最中に下着を引っ張り出してしまい顔を真っ赤に染めるアキト。
ギギギ…と音がしそうな感じで顔をあげるとその女性がアキトを見ている。

「あのぉ。どこかでお会いしたことありませんか?」
「いやそんな事無いけど」
「はぁそうですか」
「ユリカァ!もう行くよ」
「うん!」

トランクを受け取り車に駆けて行くユリカ。
今もって不安定に揺れている後部トランクの荷物が危険に見える。

「なんだったんだ?」
「さぁ」

アキトとシンジが顔を見合わせて言う。
ふとアキトが地面に目をやると裏返った写真立てが落ちている。

「また落としてる」

写真立てを手にとり何気に裏返すアキト。

「あれ?これってアキトさんじゃ」

アキトの後ろから写真を覗き込むシンジ。
写真に写っているのはどこかの草原と満面の笑みを浮かべ少年に抱きついている少女少女に抱き”憑かれて”いる仏頂面をした少年。
確かに写真の少年はアキトに良く似ている。

「…っている。会っているぞ!」
「へっ?アキトさん?」

倒れていた自転車を戻して跨ってペダルを踏むアキト。
シンジが慌てて後をついていく。

「アキトさん!ちょっとまてくださいよぉ」
「知っているぞ!俺はお前を知っているぞ!ミスマルユリカ!」

必死にシンジもペダルを踏む。
リュックにぶら下げた中華なべが揺れている。
これから待ち受けているのは長い長い坂だ。

 

 

 

 

息を切らしながらゲートへとつく二人。
入り口で見張っている人間が居るがアキトは無視しそのまま突撃していった。

「何だお前は!!」

自身の職務を遂行する門番。

「だぁー離せぇ!俺はユリカに会って確認しなきゃなんない事があるんだ!!」
「と言う事ですので通してくれません?」
「「「「「とおせるわけないだろ!!」」」」」

シンジに見事なツッコミを披露する守衛達。
案外ノリがいいのかもしれない。

「ユリカァ!!」
……と言うわけでアキト達は捕まり一応中に入る事が出来たのだった。

 

 

 

 

暗い部屋の中で椅子に座らせているアキトとシンジ。
腕には手錠がはめられ拘束済みだ。

「というわけで入り口で大暴れしていた自転車男と超絶ボケ少年を捕らえました」

赤いベストを着た男の後ろにいる警備員が静かに言う。
何気に良くわからない事を言っている気がする。

「ほぉパイロットですか」

赤ベストのちょび髭の男、プロスペクター(ペンネームらしい)がアキトの掌のタトゥーをIFSを見て言う。
それをもう一方の手で隠し自分はコックだと言うアキト。

「というようにわけのわからない事をいうばかりでして…」

ふぅむと機械を取り出すプロスペクター
アキトの舌にペンの様な機械の先端を押す。
走った痛みに顔をゆがめるアキト。

「あっなたのお名前なんてーの♪」

妙な音を付けながら結果を待つプロスペクター。
映し出されたデーターにアキトのプロフィールが映し出される。

「これは…。どうやって全滅したユートピアコロニーから地球に?」
「解らないんだ。あのときの前後の覚えていないんだ」
「そうですか…まぁ少々まっていただけますか」

そういって今度はシンジの舌にペン先を押し付ける。
シンジもまた痛みに顔をゆがめる。
同じように妙な歌を歌いながら結果を待つ。
そして映し出されたのは不明の赤い文字。

「おや?ジーンバンクにデーターが存在してないとは困りましたねぇ」

余り困ったように見えないプロスペクターだが内心はかなり思うものが有った。
ジーンバンク…おおよそ地球から火星までほぼ全人類の遺伝子データーが存在しているはず。
なのにシンジのデーターは存在していないのだから。
確かにシンジの場合存在しているわけは無いのだがその理由は知らないのだから問題あると言ったところか。

「そ、その子は俺の弟っす!」

咄嗟にシンジを庇うアキト。

「しかしデーターにはありませんが…」
「ぎ、義理の弟なんす」

少しばかり苦しいアキト。

「まぁいいでしょう。それにしてもユリカさんに一体どんな御用事が?」
「あいつは火星に居たときの幼馴染で…俺の両親が殺された理由を知っているかもしれないんだ。だからそれを確認しに……」
「そうですか。貴方もたいへんですねぇ」

一瞬考え込むプロスペクター。アキトの調理用具に目をやり眼鏡を押し上げる。

「ふむ。テンカワさん。今我々が行っているプロジェクトで今コックさんが不足しておりましてねそれでよろしければコックさんとして雇いましょうか?」
「へっ?はぁ」

癖なのかプロスペクターは何度か眼鏡を指で押し上げている。

「あのその場合この子は?」
「貴方の扶養者と言う形で登録いたしましょう」

シンジの方を見て言うアキトに同じように見て言うプロスペクター。

(テンカワ夫妻のお子さん…罪滅ぼしと言うわけではありませんが)

内心を決して悟られないように心中で呟く。
眼鏡が怪しく光を発している…ように思える。

「シンジ君どうする?」
「僕はそれでいいですよ」

シンジが軽く言う。

「そう。あの…それじゃお願いできますか」

軽く頭をさげ言うアキト。

「よろしい!では貴方をナデシコのコックさんとして雇いましょう!」
「「ナデシコ?」」
「そうナデシコです!」

大仰にポーズをつけながら後ろに映し出されるウィンドウ。
白い戦艦の姿が幾つも映しだされる。

「……ホワイトベース?」

シンジが理解不能なことを言い困惑している。
が、それは決して言ってはならない言葉でもあるのだった。

 

 

 

 

拘束を解除されナデシコに案内された二人。
白い戦艦が威容を見せ付ける。

「ナデシコの就航は三日後。それまでは自由だナデシコの中を見て周るといい

そして去っていく男。
互いに顔を見合わせナデシコにはいって行く二人。

鏑矢未だ放たれず。

 

 

 

 

見て周れと言われてもどこを見て周ればいいのか解らないのでそこら辺を歩き回り最終的にハンガーへと辿り着いた二人。
ハンガーの中では人型兵器が踊っている。

「なにやってんだ!そりゃまだ整備が済んでねぇんだぞ!」

眼鏡をかけたおっさんがハンドマイク手に叫んでいる。
が、それは全く聞こえてないようだ。
熱く叫びながらやはり奇妙な踊りを踊っている人型兵器ことエステバリス。
結局はエステが倒れて終わった。
コクピットから出てきた暑苦しそうな顔というか雰囲気をもった人がでてくる。

「ハハハハハ!やっぱりゲキガンガーは良いぜ!」
「ゲキガンガーじゃねえよ、エステバリスだ」

静かに突っ込むウリバタケ。

「ゲキガンガーか…」
「なんですそれ?」

ハンガーの二階でそのバカ騒ぎを見ているアキトとシンジ。 シンジはきょとんとした顔でアキトに問う。

「ああ、アニメだよ。昔のね」
「へー」

納得した表情で言うシンジ。

「おーい。そこの奴。コクピットの中に俺の宝物があるから取って来てくれ」

担架に乗せられたダイゴウジガイことヤマダジロウ。

「はぁ」

なんで俺がといった表情でアキトは下に降りていく。シンジもまたそれに続く。

「よっと」

一言呟きコクピットに向うアキト。
座席にあったロボを手にとりふとついでだからシンジに見せてやろうと思ったアキト。

「シンジ君」
「なんです?」
「さっき言ってたゲキガンガーのロボがあるんだ」
「あっ。じゃあ見てみます」

少々苦労しながらエステを上るシンジ。
途中落ちそうになってアキトをはらはらさせている。

「ほらこれ」

アキトがロボ見せる。

「…なんだか昔のロボットってデザインですね」
「まっ実際昔の奴だしね」

どこか懐かしむ表情でアキトはそれを見つめる。
そして突然走る振動。思わず落ちないようにコクピット中へ入る二人。

鏑矢は放たれた。

 

 

 

 

ネルガル地下ドック、上空に広がるジョロとバッタ。
対空砲が火を吹くがフィールドに阻まれ殆ど効果を与えられない。
そしてその地下。

「ナデシコの対空砲を上に向けて殲滅するのよ!」

きのこ頭の男が叫ぶ。

「でもそれって非人道的よねぇ」
「確かに」

反論する艶やかな肢体をもつハルカミナト。
同調する可愛い声をもつメグミレイナード。

「どうします艦長?」
「艦長何か手はあるか?」

ユリカが顔をあげる。

「海底ゲートを抜け敵の後ろに廻り込んでグラビティブラストで殲滅します」

澄んだ声が響き渡る。

「しかし敵は散開しているぞ」
「囮を出します。エステバリスにパイロットを!」
「パイロットは先程、骨折して医療室です」
「ほぇ?」

間抜けな声を出して顔を崩すユリカ。

「やっぱり対空砲火よ!」

ムネタケが尚も叫ぶ。

「囮はもう出てます」
「「「「「「「え?」」」」」」

そこで映し出されるウィンドウ。
エステバリスに乗っているアキトとシンジ。

「いいんですか?」
「もう閉じ込められるなんてまっぴらだ!」

シンジの言葉に強い口調で返事を返すアキト。

「なぜパイロットでないものが乗っている?!」

映し出されるゴートの顔。

「所属はどこだ!」

思わず問われた言葉にアキトは焦った声で答えた。

「テンカワアキト。コックっす!」
「碇シンジ。扶養家族です」

アキトはともかくシンジの言葉にブリッジの全員が何だそりゃ?という表情をする。
その中ユリカだけが何かを思い出すように唇に指をあて思案にふけっている。
頭上に電球が輝くようにはっとするユリカ。

「アキト!!アキトなんでしょう」

ものすごい大音声で言うユリカに思わず近くに居た人間は耳を押さえた。

「ってユリカ!なんでお前がそこに居るんだ!」
「私?だって私はナデシコの艦長さんなんだぞ。えっへん!」

ユリカのセリフにアキトのみならずシンジも顔を引き攣らせる。

「あ、あんな人が艦長なんですか?」
「まじかよ」

互いに顔を引き攣らせたまま己の心境を吐露するシンジとアキト。
ブリッジの方でも何人か同じような事を思っていたのか頷いているものが居る。

「アキトどうしてエステバリスに乗っているの?…はっ!分かったわアキトは私のために囮になろうとしているのね」

目を輝かせ言うユリカ。
どうやらシンジは目にはいっていないようだ。
囮と言う言葉を聞き叫ぶアキト。

「ちょっとまてー!!」

がその叫びもユリカの耳には届かない。
ある意味最強のフィールドを展開しているユリカ。
その間にもエレベーターは着々と上昇を続けている。

「アキト…ナデシコと私の命。貴方に預けます」

濡れているような目でアキトに言うユリカ。

「アキトさん、あの人って…」
「言うなシンジ君。言いたい事はよーく分かる。だけど!…言っても無駄なんだ」

滝涙を流すアキト。シンジがそんなアキトを見て同情的な目を向ける。
彼も苦労したのだろう。…色々と。

「アキトさん…」
「エレベーター地上に出ます」

ルリの声がコクピット内に響く。
その声の直後に隔壁が開きアキト達の乗ったエステが地上に現われた。

 

 

 

 

地上では幾つもの施設が黒煙を上げている。
黒煙は空に伸びてゆき星空を隠す。
地上に出されたアキト達は木星蜥蜴に囲まれている。
エステのコクピットの中。アキトの掌で光り輝くIFSに連動しコクピットの中の計器が数字を変えている。
そんな中アキトは火星のシェルターの事を思い出し息が苦しくなって行くの感じていた。

「アキトさん?」

シンジが震えているアキトに声を掛ける。
がそれもアキトが感じている恐怖の前では大した効果を持たないようだ。
シンジに返事を返す余裕も無くアキトの恐怖は強まっていく。
このまま逃げ出したい。アキトがそう思ったとき…。

アキト…ナデシコと私の命。貴方に預けます

ユリカの潤んだ瞳と言葉。それが何度も繰り返される。
恐怖の中蘇った言葉に恐怖を無理矢理押さえつけIFSを以ってエステを動かした。

 

 

 

 

道路を走るエステ。それを追うバッタ。
だが逃げるエステでは有るが少しづつその距離が縮まっていく。

「あと七分!?そんなに逃げられるかよ!」

ナデシコが動くまでの時間が表示されているウィンドウを見ながら叫ぶアキト。
だんだんと苛立ちが募ってきたようだ。その表情が険しくなっていく。

「じゃあ戦いますか?」

シンジが首をかしげアキトに聞く。

「……だー!!チクショウやってやる!!」
「あ、切れた」

怒り心頭のアキトをみて静かに言うシンジ。随分と余裕があるようだ。
叫んだアキトに呼応し振り向きざま腕が飛んでいくエステ。

「あ、ロケットパンチ」

シンジが言う。何気に色々見ていたのだろうか。
そして空中へと逃れるアキト。
空にもうようよと居るバッタ達。アキトはもう一度今度は両腕を飛ばす。
破壊され落ちていくバッタと重なっているジョロ。

「なんだ結構俺ってやるじゃん」

少しばかり自信がつくアキトだがあの少女の事を思い出しそれがかき消される。
ほんの僅かな間自嘲に囚われるアキトに放たれる幾つものミサイル。
思わず腕を飛ばしバッタをミサイルに放る。
起きる爆発と発生した爆風にバランスを崩し海に落下していくエステ。
アキトはまだいいがシンジはシートを掴んでいるだけなのでかなり危険な状況だった。
何とか海にバランスを取り直したアキト。
傍から見ればエステは海に立っているようにしか見えない。
そして浮かび上がってくるナデシコ。
ユリカがさけんだ。

「グラビティブラスト発射!!」

放たれた重力波が機動兵器を飲み込んでいく。
逃れる事も出来ずに次々と爆発が起きる。

「「凄い…」」

アキトとシンジの両方が驚嘆の声を上げる。
エステに入る通信。映し出されるユリカ。

「おい、まだ十分たってないぞ?」
「貴方のために急いできたの」

アキトの疑問に答えるユリカ。その後ろでシンジが小さく苦鳴を上げた。

「シンジ君大丈夫か!?」
「あっ、大丈夫です。ちょっと身体ぶつけちゃって…」
「ごめん俺がこれに乗ってなければ…おいユリカ!この子怪我したみたいなんだ。なんか医務室とかあるのか?」
「アキト怪我しちゃったの!?うんまかせて!アキト、私が頑張って看病するから早く直ってね」
「だー!人の話はちゃんと聞け!俺じゃなくてこの子だ!こ・の・子!」

シンジを指差し言うアキト。シンジは最早ユリカに苦笑いを浮かべる事しか出来ない。

「ふぇ?その子?」
「そうだって言ってるだろうが!」
「あはははは…そうなんだ。医療班に連絡入れておくからそれじゃ」

少しばかり気まずくなったのかユリカが自分からウィンドウを閉じる。
ちなみにアキトはまだ知らないが凄く珍しいことだ。
ウィンドウが閉じ静かになったコクピット。
計器の明かりが仄かに内部を照らす。
アキトは疲れたのだろうシートに身を投げ出しぼうっとしている。

「アキトさん…」
「ん?なんだいシンジ君?」

シンジが腕を押さえながらアキトに話し掛ける。
服に血が滲んでいる。

「どうして戦ったんです?アキトさん木星蜥蜴怖いって…」

血が滲んだシンジの服を見て顔を心配そうにしているアキト。
それでもシンジに聞かれた事を静かに語り始める。

「さぁどうしてかな?今終わってもまだ怖いけど戦っている最中はなんでか怖くなかった」

微笑みながらシンジを見ているアキト。
シンジもまたアキトを見ている。

「ユリカが言った言葉があっただろ?命を預けますとかって…あいつきたねぇよ…泣きながら言うなんてさ」

はぁと溜息をつくアキト。

「だからかな?確かにあいつ等は怖かった。俺殺されると思った。怖いけど…それでも助けたいと思ったから
「アキトさん…」
「けどシンジ君まで巻き込んじゃったから…ごめん」
「僕は大丈夫ですよ。慣れてますから」
「そうなんだ?」
「はい」

そして顔の向きを直すアキト。

「やっぱ泣くのは反則だよな」
「ですね」

どこと無くシンジも思うものあるのか同意する。
そしてコクピットの中に二人の溜息の音が虚しく響いたのだった。





次回予告

ナデシコのクルーとなったアキトは料理の修業を始める。

だがプロスペクターの計らいで扶養者扱いのシンジは何もする事が無い。

そのためナデシコの中を歩き回るシンジは不思議な少女と出会う。

ホシノルリ、ナデシコのオペレーターである彼女。

何時も冷静すぎる彼女をみてなぜか放って置けないシンジ。

そんな彼と彼女の出会いの中、蠢く策謀。

十五歳の少年と十一歳の少女の出会い。

それはどのような未来図を描くのか?


次回!!

「笑えばもっと可愛いのに」

 

 

代理人の感想

 

・・・・・あの世界にホワイトベースがあったのか?

いや、それ以前にガンダムを放映してたのかっ!?