サツキミドリの陥落。
真空中で爆発したそれから遺体を回収する事など絶望的であった。
だがネルガルの福利厚生の一環として社員の葬式を出来うる限り本人の希望に添って行うというものがある。
そのため今ナデシコ内は葬式に追われひたすら忙しい。
それは帰還したパイロットも同じでてんやわんやな状態なのだが、そんな状態の中とあるどうでもいい事が起きた。
「おいシンジ」
と手持ち無沙汰なシンジにかけられた声。
決まった役職も無く何か出来るわけでもないシンジは物珍しさからハンガーへと来ていた。
そこでかけられた声、ウリバタケだ。
「なんですか?ウリバタケさん」
とシンジが訝しげな表情をしているとウリバタケは近寄って後ろ手に持っているのをシンジに見せた。
「!????!!」
見せられたそれにシンジがパニックに陥る。
その表情を見ながらウリバタケは怪しい笑みを浮かべシンジの耳に口をよせ囁いた。
「ふっふっふ。どうだこの本。すげえだろう。いやお前も若いから色々溜まっていると思ってな俺の秘蔵の一品を貸してやろうと思ってよ…」
「な、な、なんなんですか!?それは!!」
未だ混乱から立ち直れないシンジに眼鏡を怪しく輝かせるウリバタケ。
「何ってお前、見ての通り!エッチな本だ」
「そうじゃなくって!」
「か〜お前真面目だな。まあいいほら見てみろよこれ」
そう言って適当なページを見せる。
シンジはそれに顔を赤くしながら目を逸らす。
が、そうはさせまいと動くウリバタケ。
奇妙な攻防が続く。
そしてそれをとめる声。
「なにをしているんですか?あなたたちは」
ウリバタケ達からは背後に当たる場所で喪服を着込んだプロスが立っていた。
「げっ!プロスの旦那」
「困りますねえ、ウリバタケさん。そのような風紀を乱すものを持ち込まれては」
「ままま、旦那。取り敢えずはこれをちょっと見てから見てから…」
とこんどはプロスに本を見せるウリバタケ。
「ウリバタケさん!!」
「いいからいいから」
そう言いながら無理やりプロスの眼前に本を持っていく。
「こ、これは…」
とやはりちょっとばかり惹かれるものがあったのか見てしまうプロス。
思わず眼鏡の位置を直して見てしまっている。
それを離れたところから見ているシンジ。
口元になんとも形容しがたい笑みが浮かんでいる。
あえていうのであれば苦笑いだが。
ハンガー内に満ちる怪しい雰囲気。
中年の男たちがなんともいえない雰囲気でアレな本を見ているのだから当然だろう。
数分ほどして。
「ミスター」
と今度現われたのはゴート。
おそらくプロスはすぐ帰ってくるものと思っていたのに中々帰ってこないので見にきたのだろう。
「こ、これはゴートさん。どうしました?」
あわわ、と本をお手玉のようにしながら隠しゴートに向き直るプロス。
「いや、ミスターが遅いので見にきたんだが…」
ちらりとプロスの手を見て溜息をつくゴート。
知っているのだろう。
「ミスター、気持ちは分からんでもないが今はそんな…」
言いかけたゴートにプロスの手から本を抜き取りゴートに見せるウリバタケ。
「ゴーさんよぉ、取り敢えずはこれ見て落ち着きな」
アレをみて落ち着けるかどうかは不明だがじっくりと見せるようにウリバタケ。
「む…」
ウリバタケに見せられたそれを顔を赤くし見るゴート。
あの巨漢で顔を赤らめられるとなんとも不気味なのだがそれを突っ込むものは居ない。
ウリバタケ、プロス、ゴートの三人が今度はハンガーに怪しい雰囲気を作り始めた。
この怪しい空間から脱すタイミングを逃したシンジはなるべく目立たないようにしている。
「これはなかなか…」
「だろだろ!」
「むぅ。こんな破廉恥な」
好き勝手いいながらも目を離さない三人。
何気に鼻息が荒い…かもしれない。
「なにをしてるんですか!?」
三人目の来入者はジュンであった。
ハンガーへ来るなり探している人物が本を見ながら怪しい雰囲気を形成しているので声を荒げ呼んだのだ。
さすがにここまできたら、三人も同士がいたのならやるべき事は一つとゴートがジュンの右腕を、プロスがジュンの左腕を掴む。
そして最後にウリバタケがジュンにバッ!と本を見せる。
「んななななな!な、な、なにをしてるんですかあ!!」
顔を真っ赤に染め上げ叫ぶジュン。
とは言ってもやはりというべきか本から目を離さない。
「アオイさん、タイミングが悪かったですね」
プロスが眼鏡を直しながら言う。
「うむ」
ゴートが遠くを見ながら言う。
「おめえも仲間に入れ」
ウリバタケが眼鏡を光らせ言う。
「お気の毒に」
シンジが僅かずつ出口に近づきながら言う。
「ぼぼぼぼ、僕にはユリカがいるんです!!」
「相手にされてないのにか?」
「うぐぅ…」
折角言った一言もウリバタケに残酷に切り捨てられ月なんとかみたいな事を言うジュン。
「もう遅いぜぇ…この俺の秘蔵の一品!ノーマルな男だったら一目見たら目を離せない代物よ」
ふへへへ、と怪しげな笑みを漏らしながら言うウリバタケ。
事実ジュンも目を逸らそうとしながら何気に逸らしてない。
「だ、だめです!こんなもの!!」
「といいつつ見てるじゃねえかよ。それこそ君の目と君の言葉どちらを信用すればいいのかな?…ってやつよ!」
「い、いや、しかしですね…」
「ほ〜れほ〜れ」
「あああああああ!!」
名前の通りなのか顔を真っ赤に染め上げているジュン。
もちろん本から目を離していない。
「むっ!」
ウリバタケが突然中空を見上げ唸った。
そして。
「ほれプロスさん」
と本をプロスに放る。
「あ、はいゴートさん」
受け取ったプロスは今度はゴートに投げる。
「むう」
唸りながらジュンに放るゴート。
「え?え?え?あっシンジ君!!」
暫く混乱したがあと僅かでこの怪しい空間から抜け出せられるところだったシンジに投げるジュン。
「ぼ、僕!?」
と隣を見るが勿論誰も居ない。
混乱しながらどうすればいいか必死に考えているところに悲劇は起きた。
「なにしてるの?」
「うわわわわわ!!」
本の処理に考えあぐねているところに突然後ろから抱きつかれたシンジ。
どさっ、と本が落ちる。
「あれ?これ…」
と落ちた本を拾い見るヒカル。
そしてゆらりとシンジの方を見る。
シンジは思った。まるで口が三日月のように弧を描いていると。
不気味な笑みを浮かべているヒカル。
「なるほどなるほど、いや〜シンジ君もお・と・こ・の・こ…って奴ね」
「ち、ちが…」
「ん〜いいのいいの隠さなくても。けど凄い大胆なの持ってるんだね」
「大胆…大胆…日輪の力を借りて……そりゃダイターン」
「か〜不健康な奴だな」
何時の間に現われたのかイズミとリョウコ。
三人ともヒカルが持っている本に目が向いている。
「へ〜すっご〜い!…シンジ君ってもしかしてマニアついでに両刀?」
「ちが…」
「おめえその若さで…」
イズミは別としてヒカルは探るような目でシンジを見てリョウコは耳年増な感じで頬を赤くしながらどきどき状態で本を見ている。
「ちが…」
もはや泣きそうな目をしているシンジ。
ちらりと四人を見ると…。
「いや〜参りましたな。サツキミドリの攻防、なかなか大変だったようで」
「のようだな」
「全く整備する身にもなって欲しいもんだな」
「けど仕方がないですよ、兵器ですし」
と完全に逃げている。
「シンジ君。なんだったら私の持っている本貸してあげようか?コミケで買った奴もってるからさ…」
「あ〜不健康だ不健康だ」
「うひょうひょひょひょ〜〜〜」
悪魔のように見える三人に遂にシンジは。
「う、うわ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!」
と泣きながらハンガーを走り出ていってしまった。
「あらら、もしかして苛めすぎちゃった?」
「うわ!!こんなのまで!!」
「修行が足りないわねシンジ君」
「おっ!シリアスイズミ!」
好き放題言う三人。
そんな今だ響くシンジの泣き声と三人の声を聞きながら四人には言った。
((((強く生きろ(て下さい)!(シンジ(君・さん)!))))
酷い連中であった。
「バカばっか」
とはルリの言葉であった。
●
ナデシコの中に作られた即席の葬式場とは別に同じように葬式の様な雰囲気を出しているところがある。
勿論シンジの周辺だ。
いまだ泣き声で独り言を言いながら歩いている。
シンジ自身何処を歩いているかはよく分かっていないだろう。
「ううう〜〜。僕じゃないのに僕じゃないのに」
勿論先ほどのエッチな本のことだ。
進んで見ていた四人はシンジに全てを押し付け今は神妙な顔をしながら葬式場で座っている。
無論本の事など一切おくびに出さずに。
「酷いよみんな。アオイさんまで一緒になって逃げるなんて」
シンジの脳裏を過ぎるのは他の三人と一緒にエステを見上げながら愚にもつかない話をしているジュンの姿。
「こうなったら…どうしよう…」
魔太郎少年よろしくコノウラミハラサデオクベキカと言いかねないシンジ。
…なのだが結局は何かを思いつくことなど出来ず溜息をつきナデシコの通路を歩いているのだった。
「あら?どうしたの?シンジ君。そんな暗い顔しちゃって…」
下を向きながら歩いていたせいか気づかぬうちにブリッジに来ていたシンジ。
そこでは早々と葬式を切り上げてきたのだろうミナトが自分のシートで週刊誌を読んでいる。
同様にルリとメグミが各々のシートに座っている。
よっぽど暇なのだろうルリもメグミもゲームをしたり週刊誌を読んでいる。
「ミナトさん…」
「もしかして泣いてた?」
シンジの赤くなった目を見てふと聞くミナト。
それに興味を引かれたかメグミも寄ってくる。
「どうしたの?もしかして…誰かに苛められたとか?」
「苛めていたのはウリバタケさんたちですよ」
ゲームの画面から目を離さずルリが呟くように言った。
「なにそれ?」
ルリの言葉に憤りを覚えるミナト。
「ひっど〜〜い!」
メグミも同じように眉を吊り上げる。
「これ…そのときの映像です」
「!!!ルリちゃん待って!!」
とシンジは叫んだがもう遅く先ほどの光景が再び今度はブリッジで見舞える事となった。
「……」
「……」
「……」
「あはははは!!」
「ぷぷぷ…」
その映像をみて軽い笑い声を上げるミナト。
メグミも押さえようとしているのだが生憎と笑い声が漏れ出ている。
「酷いです…」
小さな笑い声の中シンジはポツリと涙ながらに声を漏らすのであった。
「ごめんごめん。けど、シンジ君…気にならないの?」
「なにがです?」
シンジの言葉に、にやあと唇を引き上げるミナト。
「お・ん・な・の・こ!」
「ぼ、僕は別に…」
顔を赤くし反論するが顔が赤い時点で説得力は皆無だ。
「ほうほう”別に”気になると」
「ふ〜ん。で誰がきになるのかなあシンジ君は?」
何気ない顔で聞くメグミだがもしシンジが”気になるのはアキトさん”といったらどうしようかなどと考えている。
ちなみにルリはゲームに熱中している。
いるのだが…。
「じゃあ…シンジ君」
ミナトがそこでちらりとルリを見る。
「ルリちゃん…なんてどう?」
ガコ…と鳴ったのはルリが持っていたゲームのパッドだ。
「ばか…」
とすこ〜しばかり顔を赤らめながら振り向くルリ。
「あら!ごめ〜んルリルリいたの気づかなかったわ〜」
勿論嘘である。
「で、どうなのシンジ君?」
「そうそうはっきりとおねえさんに言ってみて」
ずずい!とシンジに近づく二人。
ルリは再びゲームに興じているが心なし三人の方に近づいているようだ。
「僕は…僕は…!臆病なんです〜〜〜〜〜〜〜!!」
と今度はブリッジから走り出ていくシンジ。
そのすばらしい走りかたと言うべきか逃げ方と言うべきか残された二人は暫し呆然とする。
「う〜ん残念」
「だったわねルリルリ」
「ばか…」
実に平和的な光景であった。
●
「ところでこれどうしようか?」
と切り出したのはヒカルだ。
いまだその手にシンジの(とヒカルは思っている)エッチな本を持っている。
「んなもん…本人に返したらどうだ?」
顔を赤くしながらリョウコが言う。
「リョーコはもう見ないの?」
イズミがにやあとしながら言う。
「ば!ば!ばっきゃろう!!」
先程より更に顔を赤く染め上げリョウコは言った。
だが先ほどハンガーで思わず熟読していた手前なんとも言葉に力が無い。
「けどてっきり私シンジ君ってアキト君のことが好きだと思ったんだけどな〜」
言葉に続けないが心の中で、そうすればいいネタが出来るのに、と思っている。
「どうすりゃそんな発想になるんだ?」
「んふふふふ…。実はね…アキト君とシンジ君…部屋で抱き合ってたのよ〜〜〜!!」
大幅に色んな部分を殺ぎ落とし聞き手を誤解させるには充分な言葉と言えた。
勿論わざとである。
眼鏡を怪しく光らせリョウコの返事を待つヒカル。
はたして。
「ぬぅああに〜〜〜〜〜!!」
「非生産的ね」
「っておい、そういう問題かよ」
叫んだリョウコの後にイズミがなんともコメントに困る事をいいリョウコがツッコンダ。
「でねでね!」
なおも誤解を広げようと言うのかヒカルは更に口を開こうとしたが、
そこでインターホンが鳴った。
「あれえ誰だろう?」
一番近くに居たヒカルが相手に出る。
《おう。ヒカルちゃんか》
「あれ?ウリピー。どうしたの?」
《いや、なにちょっと話があってな…他の二人もいるか?》
「いるけど…」
そこでちらりと後ろを振り返るヒカル。
リョウコと目が合った。
「なんだ?だれだよ」
「ウリピー。なんでも話があるって…」
「はなしぃ〜〜?」
なんだそりゃ?とリョウコがそんな顔をする。
「とりあえず聞いてみたら?」
ポツリとイズミが言った。
「それもそうだね」
と三人は多少狭苦しい思いをしながらドアへと向っていくのであった。
●
散発的な攻撃がありながらもその全てをディストーションフィールドで弾き問題なくナデシコは航海を続けていた。
ナデシコは、だ。
「我々は〜断固〜ネルガルに〜抗議する〜」
と拡声マイクを使い声を張り上げている整備員の一人。
その後ろにあるエステには”断固抗議”といったものが張られている。
このお気楽戦艦内において勃発した抗議運動。
それはブリッジもまた同じである。
それぞれ銃を片手に立っているミナトやパイロットの三人娘。
「どうしたんですか!?」
今まで何処に居たものやらユリカが急いでブリッジに駆け込んできた。
それに続きアキトもまた。
アキトは先ずブリッジ内を見回すとお目当ての人物、シンジを見つけた。
「シンジ君!」
と走りよるアキト。
その姿を目にいれヒカルが”やっぱり…”などと呟いている。
「あの〜どうしてまたこんな事を?」
「きたな艦長」
いまいち事情のつかめていないユリカが誰と定めず聞くとウリバタケが答えた。
「どうしてこんな事をしたかと聞いたな?」
「はあ」
「それはだな…これだ〜〜〜〜!!」
懐より勢いよく契約書を取り出すウリバタケ。
「そこの一番下読んでみろ」
「え〜となになに」
どうにも小さい字で目を細めながらユリカは読み上げていく。
「男女交際に関しては特に規定はしませんが艦内の風紀維持の為に男女の付き合いは手を繋ぐまで…」
「そうそれだ」
「ということは……!!アキトとは手を繋ぐまでしかしちゃいけないんですか!!」
そこでアキトが出てくるのがユリカらしい。
「ま、まあそういうことだ」
ユリカの剣幕に押されながらもウリバタケは答えた。
その後に一つ咳払いをし、
「まったく…この世にゃ男と女しか居ないんだぜ?そんな中で出逢ったら…芽生える愛、近づく心、そして…」
「触れ合う唇」
絶妙のタイミングでヒカルが言う。
「そう!そしてふれあった唇の後に更に求めるとなれば!」
「もっと抱きたい抱かれたい」
本当に絶妙だ。
時折ヒカルがちらりと掌にある紙片に目を落とすのと関係があるのか無いのか。
「その延長が困るのですよ」
すばらしいタイミングで現われるプロス。
スポットライトつきだ。
「そんな二人がいれば次に待っているのは結婚です。そうなれば……お金、かかりますよね」
人差し指と親指で輪を作り言うプロス。
「でたな元凶!」
「元凶って…まあいいでしょう。結婚の後には子供が出来ます。そうなればまた更にお金が掛かります。ましてやナデシコは戦艦です」
指で眼鏡を押し上げるプロス。
「ここは保育所では無いんですよ。それに契約書を読まずにサインした方が悪いのです」
そこで”ちょっと”とミナトが言葉を遮る。
「プロスさん、艦内の風紀維持ってあるけど…」
「それがなにか?」
「エッチな本をハンガーで読みふけるのはいいの?」
その瞬間のプロスの表情はそれはそれは見ものだった。
「なななな!なんの事でしょうか?」
「そそそそそ!そうだぜ!ミナトさんよ」
「みみみみみ!ミナトさん!今はそれどころじゃ!」
「そそそそそ!その通りだ」
追従するようにウリバタケ、ジュン、ゴートと続く。
「ふ〜んそう。ルリルリィ〜」
「はい」
とみんなの中心部に現われるウィンドウ。
そこにはハンガーでのバカ騒ぎが映し出されている。
「こ!これは!!」
「シンジ君から聞いたのよね。酷いことするわねえ」
「い、いえ…これは…」
「誤解です!」
口ごもるプロスに変わってジュンが切り捨てる口調で言うが…。
「ジュン君酷いんだ〜」
とユリカが言った瞬間、
「うわ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!」
とその時のシンジのように走り去って行ってしまった。
その様を見た後にシンジに向ってウインクするミナト。
「ミナトさん…」
シンジが感激した表情でミナトを見るのであった。
「それにぃ…」
と続けたのはミナトではなくヒカル。
「その契約書だとアキト君とシンジ君には適用されないって事じゃない?」
「「はい?」」
アキトとシンジが意味不明という声を出す。
「み〜ちゃったみ〜ちゃった。アキト君とシンジ君が部屋で抱き合ってるの」
「「あ、あれは!」」
「ん〜いいのいいの。まあそういうこともあるでしょ」
プロスがその言葉に、ほう、と呟く。
「まあその場合倫理的に問題がありますが子供はできませんので良しとしましょう」
「いや、よしとしましょうって言われても…」
どう返答しろとはアキト。
「シンジ、お前やっぱそりゃ不毛だぜ」
「違いますって」
ウリバタケがシンジに哀れみの目を向ける。
「ああ、なるほどだからか、俺の本に見向きもしなかったのは」
「うりばたけさ〜ん」
ミナトがルリに言葉を投げ掛ける。
「ルリルリピンチってやつじゃない?」
「ばか」
「あれなんだか怒ってるみたいだけど?」
ハッ、と身体をすくませるようにルリ。
「だいじょうぶ、だいじょうぶ。ルリルリ可愛いからシンジ君をノーマルの道に戻してあげればいいのよ」
「ばか!」
顔を赤くしたルリであった。
「むう。ミスターやはり問題があるのでは?」
「ゴートさん、この場合先ほどの件をうやむやにするチャンスですよ」
「なるほど」
先ほどの件と言うのが契約書に関してかはたまた自分達の醜態に関してかは不明だ。
「やれやれとんだバカ騒ぎになっちまったな」
「いいのいいの。これでシンジ君もアキト君も所謂公認ってやつよ」
「こうにん…印籠かざして…そりゃ黄門」
変わらずのイズミにリョウコ、ヒカル。
この場で一番ショックを受けたのはきっと…
「アキト…そんな…やっぱり…」
ユリカであろう。
「おいちょっとまて!その”やっぱり”ってなんだ!」
「ううん。いいのアキト。何も言わなくていいのアキト。たとえアキトが男の子に走るような人でも私の愛は変わらないから」
「ユリカさん!誤解ですってば!」
さすがに事勿れ主義の権化のようなシンジも叫んだ。
「僕とアキトさんはそんな関係じゃないです!」
「顔、赤いよ」
え!?と思わず手をやるシンジ。
その光景をみてヒカルはまたもやにやりと笑った。
「やっぱり〜」
「アキト!大丈夫!私がちゃんとアキトを正しい道に導くわ!確かにシンジ君、結構可愛い感じで女装したら似合うだろうなあって思ってたけど私のほうが良いってことを証明して見せるわ」
「どうしてそこで僕に女装が似合うとかって出てくるんです!?」
少しばかり泣きたいシンジであった。
がユリカは全く何時もの如く聞いておらずなぜか身体をクネクネとし始めた。
「シンジ君に女装が似合うかどうかはともかく」
「アキトさん、否定してくれないんですか」
「う…まあそれは良いとして、俺とシンジ君はそんな関係じゃない!」
はっきりと断言するアキトであったが、
「あの〜アキトさん。その何処となく微妙な距離の離れ方は…」
「……」
「みんな酷いや…」
少しばかりシンジは涙を流し、アキトは汗を流した。
その刹那!
振動が船体を揺らした。
誰もが思わず立っていられないほどの振動。
「木星蜥蜴よりの攻撃です!今までの攻撃とは違って…これは迎撃が必要です!!」
ルリが一際強い口調で言う。
今の衝撃でユリカも現実に戻ってきたようだ。
「この攻撃…今までの比じゃない。皆さん!とりあえず色々言いたい事もあるでしょうが所定の位置に戻ってください!」
そこで顔を伏せるユリカ。
「私もうお葬式なんてしたくないです…」
その時みんなの胸に飛来したのは爆発四散するサツキミドリの光景。
であったが、
「どうせするならアキトとの結婚式にした〜〜い!!」
であった。
はあ…、と皆溜息をつき毒気を抜かれたかの様に急ぎ自分の部署に戻ろうと足を進めた。
その中でシンジはブリッジのウィンドウを見つめていた。
虚空の中に浮かぶ絵具を垂らしたかのように青と赤が分けられた星を。
そのコントラストをまるで幻想的なものを見るようにしているシンジ。
「あれが…火星…」
呟く声にも純粋な感動がある。
「火星って赤くないんですね」
シンジの外した言葉に全員(ルリ除く)がこける。
そして、
「「「「「「「「「お前はそんなこと考えていたんかい!」」」」」」」」」」
全員からすばらしいツッコミを受けたのであった。
「僕はただ素直な気持ちを…」
後に涙ながらに語るシンジであった。
次回予告
ようやく火星に辿り着いたナデシコ
だが待ち受ける木星蜥蜴
それでも三人娘とアキトで撃破し突き進む
その後にネルガルの研究所を目指そうとする中アキトは自分の住んでいたコロニーへ行きたいと言う
ユートピアコロニー、その名はアキトとユリカの思い出の地
そして同時にシンジがアキトから聞かされてた夢幻の思い出の地
そこで巻き起こる闘争
だれがアキトと行くか?
後に魔鳥のように白衣をたなびかせる彼女と出会うのは誰か?
容赦ない木星蜥蜴の攻撃が閃く直前に過ぎる想いとは?
そして…ユリカは決断する
次回!!
「もう無くしてしまったから…」
代理人の感想
おお。プロスペクターよ、お前もか(爆)。
割と経験豊富だとは思うんですが・・・・・
やっぱり女っ気がない生活を続けて溜まってたんでしょうか(核爆)。