薄暗い劇場の中。 朗々と響き渡る声。
舞台の上でドレスを身に纏った佳人とタキシードとマントを羽織った仮面の男。
白い仮面で顔を隠す者。
ファントム――怪人。
ガストン・ルルーのオペラ座の怪人だ。
女優クリスティーンに想いを抱いた陰に生きることを強制された怪人が彼女の為に殺人を繰り返す。
その醜い顔を隠して。
もうクライマックスが近い。
スポットライトに照らされる主役達。
誰もがその姿に心を奪われている。
否。
一人だけ心ここに在らずだ。
VIP用の席から舞台を見ながらその心は別にある。
彼の後ろには護衛が控えている。
彼を害さんとするものを近づけさせぬ為に。
だがそれは無駄な事となる。
今この場に存在するファントムが無駄にする。
舞台上でファントムがクリスティーンをその手に抱く。
重なる身体。
産まれる死角。
マントに吸い込まれる手。
引き抜かれた手に握られる重圧さえ憶えそうな小銃。

「な!…」

上げれた声はそれだけ。
薄暗い劇場の中で銃火が激しく輝く。
放たれた銃弾は彼の頭部を貫き粉砕した。

「中将!!グラシス中将!!」

護衛の者が叫ぶが彼には最早その声を聞く耳も理解する脳も無い。
悲鳴が上がる。
突然の惨劇に。
続けて銃弾が放たれる。
倒れる護衛たち。
ああ、見よ。
今この場はまさしくオペラの中の光景さながらに凄惨な光景が作られている。
同じように、ファントムが作り上げていく。
もう劇場内は真闇に閉ざされている。
誰が照明を落としたものか。
誰かが叫ぶ。
照明を付けろと。
だがそれは叶わない。
唯一の光源である銃火がそれを許さないのだ。
真闇の中、銃火を迸らせマントを翻すファントム。
仮面で隠されていない口元が薄く笑みを貼り付けている。
誰も見ることが出来ない。
闇が、死が、恐怖が邪魔をする。
血の臭いが漂い始める頃にはすでにその場にファントムの姿は無かった。
神出鬼没のファントム。
それが現実に引き起こされたのだった。







混乱に襲われている劇場より大分離れた場所に立つ二人の男。
北辰と亡霊だ。

「成功したか」
「頭部を吹き飛ばしましたよ」

亡霊はすでにファントムの衣裳を身に纏っていない。

「くくく。亡霊と呼ばれる貴様がよもや同じ亡霊を演じるとはな…」

なんとも皮肉な話だ。

「別に。アレは武器を隠しやすかったですからね」
「ふっ。まあどうでもいい。グラシスが居なくなれば西欧の司令はクリムゾンの息がかかった者がつく」

木連と繋がるクリムゾン。

「我等の任務は終わりだ。後は閣下の仕事よ」

帰還するぞ、と告げ踵を返す北辰。
亡霊が後に続く。

「隊長…」
「なんだ」

北辰の後ろを歩く亡霊が北辰に声を掛ける。
笑いを滲ませた声で。

「スーツ姿…似合って無いですよ」
「…亡霊、黙れ」

苦々しげな声の北辰。
自分でもスーツ姿が似合ってないと解っているのだろう。
かといって地球で何時もの格好をするわけには行かない。
目立ちすぎだ。

「っくっくっく」

笑い声が漏れる亡霊。

「亡霊…」
「っく。隊長…だって」

子供のような言葉を発する亡霊。

「…烈風共にも笑われたというのに貴様までが笑うか?亡霊」
「隊長、あいつらが笑うくらいに可笑しいんですよ。隊長のスーツ姿」

顔を押さえ腹も押さえ笑いを堪える亡霊。
何時もは無感情にしか思えない北辰直属の部下達。
その彼らまでが笑うのだから。

「ふん。彼奴らには特別に課題をくれてやった」

ささやかな仕返しだ。
北辰なりの。
ちなみにそのころ木連では北辰の部下たちが北辰に与えられた課題によって医療室行きとなっていた。

「隊長。是非その姿で閣下に報告してください」

草壁は一体どの様な反応をするだろうか?

「……」
「おわっ!」

無言で放たれた北辰の一撃を危ういところで避ける亡霊。

「早く帰還するぞ」
「了解」

今度こそは懸命に笑いを堪え二人は帰還すべく動き出したのだった。



● 





「生きているか?」

木連の艦隊のさらに一隻の艦、その中の医療室。
半死半生の状態で横になっている北辰の部下達を見ながら亡霊は尋ねた。

「死んでおる」

本当に死んでいるのでは?と思えるほどの暗い声で返事が返された。

「亡霊、貴様はなんのお咎めもなしか?」
「みたいだな。俺は日ごろの行いがいいからな」

笑いながら亡霊は言った。
ある方面にしてみれば確かに日ごろの行いはいいだろう。

「ぬかせ。我等は隊長に与えられた課題で死にかけたというのに貴様は…」
「隊長の前で大笑いするからだ」

と言いつつ亡霊自身大笑いしたい気分だった。
なんとか我慢はしたが。

「っく。今思い出しても笑えるな。隊長のスーツ姿」
「!!っがっぎぐが!!」

亡霊の言葉で思い出したのだろう。
思わず大笑いしそうになったが身体に走る激痛がそれを許さない。
笑おうとしながら身体をメチャクチャに動かしている。
笑い、そして痛む。
なんとも不気味な表情だ。
それが六人分だ。
横になっている皆が布団の上で暴れ回っている。
それを見て今度は別のもので笑いがこみ上げてくる亡霊。
大笑いする前に早々に医療室を退散するのであった。
残された布団の上で笑いながら暴れ回る六人。
暫くここには余りにも不気味すぎて誰も近づかないだろう。

「ったく。今日はどうにも笑いが多い日だ」

医療室を出た亡霊は歩きながらそう呟いた。
そんな亡霊に近づいてくる人影。

「ん?隊長。どうしてんですか?」

北辰だ。
今は既にスーツは脱ぎ暗色の制服を着ている。
そのことに少しばかり勿体無さを感じながら表に出さず訊く亡霊。

「閣下より礼だそうだ。今回の貴様の活躍にな」

と渡される箱。

「これは?」
「生の食物だ」

生の食物と言えば地球ではそれほど貴重ではないが木連においては貴重品だ。
なんせ食べ物と言えば味も素っ気もない合成食品だけだからだ。
それ故、木連内においても合成食品でないものを食べているものは数少ない。
地位の高いものだけだ。
ちなみに草壁もまたそれなりの地位に居るが食べているものは合成食品だけだ。
草壁の地位であれば地球に居る者達と変わらない物を食べる事も可能だが彼はそうはしなかった。
草壁曰く――兵達が己を律しあのような物を食べていると言うのに私だけが享楽を味わう訳にはいかん。
とのことだ。
だがそれは草壁だけだ。
草壁以上、もしくは同等の地位にある者達は享楽を貪っている。
それゆえ草壁は慕われている。
些細な事だがその些細な事が大きく影響しているのだ。

「こんなものを貰って俺にどうしろと?」

生憎彼は料理を作れない。
そして誰かに頼む事も出来ない。
なにせ彼は北辰達同様、木連の陰故に。

「知らぬ。我はそれを貴様に渡すように閣下に言われただけよ」

それだけを言い北辰は歩き去っていった。
その先は医療室だ。

「隊長!」

と亡霊が歩き去っていく北辰に声を掛ける。
立ち止まり振り向く北辰。

「なんだ?」
「烈風達をしごき過ぎんでくださいよ」
「たわけ」

亡霊の言葉に笑みを浮かべる北辰。
たわけ、という割にはその笑顔をは楽しそうだ。
いつもの嘲笑ではなくこんな下らない話を楽しんでいるような。

「亡霊、貴様の方こそいずれ先の件についてしごいてやろう」
「そりゃまた…。薮蛇でしたな」

肩を竦める亡霊。
小さく苦笑を浮かべ北辰は医療室へと入っていった。

「さて、これはどうしたものかな」

渡された箱に目をやる亡霊。
暫し考え込みふと思いつくものがあった。

「舞歌は確か料理を作れたな」

木連内において名門である東家。
彼女は幼い頃から料理を学んでいた。

「気は進まんがこのまま腐らせるのもあれだしな」

といわけで少しばかり重い足取りで亡霊は舞歌の執務室へと向った。







執務室に入ると舞歌と…北斗の姿があった。

「ん?各務はどうした?」

いつも居る千沙の姿が無いので舞歌に訊く亡霊。

「え?千沙?え〜と…そう!いま千沙は病気で…」
「そうなのか…隊長はお前が千沙を壊したとか言っていたが…」
「あら?なにを言うの?そんなことあるわけ無いじゃない」

オホホホホホ…と笑う舞歌。
当然手は口元に持って行っている。

(っく!北辰!余計な事を!!)

などと思っていても決して表には出さない。

「それで…何の用かしら?貴方がここに来るなんて」
「俺との決着でも着けにきたか?」

ソファーに寝転がっていた北斗が身を起こし期待に満ちた目で亡霊を見る。

「違う。閣下から礼と言うことで生の食物を貰ってな。生憎俺は料理など出来んのでな」
「それで私に作ってくれと」
「そうだ」

はあ、と溜息を零す舞歌。

「貴方ね、女性に料理を作ってくれというのがどういう意味か解っている?」
「知るかそんなもの」

にべも無く舞歌の言葉を切り捨てる亡霊。

「ほう。食い物か、舞歌、作れ」

北斗までもが一緒になって言う。
二対一。

「分かったわ。今作るわ」
「いいのか?」
「ええ。書類整理も終わったし時間は空いているもの」

ちなみにその書類整理、百分の九十九ほどが千沙の処理した量だ。
残り百分の一が舞歌の処理した量。
なんて…むごい真似を…。


「よし!いくぞ!!」
「なにを張り切っている北斗」
「ふん。貴様は張り切らんのか?クソ不味い合成食品から一時とはいえ逃れられると言うのに」
「まあ、確かにな」

戦闘中はともかく平時ぐらいはマトモなものを食べたいと思う気持ちは確かにある。
だがここでは一部を除き平時でも味も素っ気もない合成食品だ。
時折任務で地球へと降りた際に何かを食べることもあるがお目付け役の様な感じで着いてくる北辰やその部下達の顔を見ながらでは美味い物も不味く感じる。

(もし今回食いに行っていたら笑いが止まらなくて食えなかっただろうな)

思わず北辰のスーツ姿と差し向かいながら食う光景を想像し笑いを零す亡霊。
それを舞歌が聞いていた。

「どうしたの?今日は随分と明るいわね?」
「いや少しな…」

舞歌に話せば北辰に本気で殺されかねないので誤魔化す亡霊。
幸運にも舞歌は追及してこない。
舞歌の私室へと着く三人。
ロックを外し中へ入り込む。
女性二人(一応)に男一人。
なんとも邪推されそうな光景ではあるが三人はそれに気づかない。
北斗繋がりで彼らの縁はそれなりの時を持っている。
暖色系で纏められた部屋。

「少し待っていて。今作るわ」

亡霊より食材を受け取り奥に引っ込む舞歌。
とりあえず亡霊も北斗も床に座り込む。

「亡霊」
「なんだ北斗?」
「食物とはなにを貰ったんだ?」
「…知らん。確認していない」

と答え亡霊は唇を歪ませる。

「まあ少なくとも犬の肉ではないだろうよ」

その瞬間、パアン!と音が響いた。
突如放たれた一撃を亡霊が受け止めたのだ。

「冗談だ」
「ならば二度と言うな。次は殺す」

鋭い眼差しで睨みつける北斗。
木連内において北斗のこの視線に耐えられるものは片手の指で足りる。
つまり北辰、舞歌、零夜そして亡霊。
この四名だ。

「了解」

そう返し掴んでいた北斗の手を離す。
二人の間に沈黙が訪れた。
奥より聞こえる舞歌の鼻歌。
何気にゲキガンガーの歌だ。
部屋に満ちる一種の緊張感を溶かすように響く歌が途絶えた。

「お待たせ」

舞歌が土鍋を手に持ち戻ってきた。

「鍋か」
「ええ。材料が鍋をするのに丁度よかったのよ」

そう言いもう一度奥に引っ込む舞歌。
戻ってきたその手に具が盛り付けられた皿がある。

「さっ、それじゃあ食べましょうか」

にっこりと微笑み言う舞歌。
言い終えた瞬間、亡霊と北斗の箸が肉に向った。

「……」
「……」

無言で睨み合う二人。
とりあえず鍋に肉を放り込む。
薄くスライスされた肉はすぐさま火が通る。
それを口に入れすぐさま次の肉を放り込む。
二人とも。
もはや野菜は無視されている。

「…二人とも、野菜も食べなさい」

黙殺される舞歌の言葉。
食っては肉を入れ食っては肉を入れを繰り返している。
そんなことをしていればすぐに肉は無くなる。
事実最後の一枚となった。

「……」
「……」

再び無言でにらみ合う二人。
肉の端と端に互いの箸が掛かっている。

「北斗…」
「亡霊…」

ぎしリ…と空気が歪む。

「…二人とも…」

舞歌が疲れた声で言う。

「どうして貴方達二人はそう…。大体貴方、普段は冷酷とか言われるくらいに冷たいのにこういう時は全く逆になるの」

亡霊に向って舞歌が言う。
それに対する亡霊の返答はというと…。

「いついかなる時でも戦場と思え…隊長の言葉だ」
「…少なくとも北辰はこんな所でその言葉を実践しろとは言わないでしょうね」
「阿呆」
「…誰が、阿呆、ですって?」

少しばかりむかついている舞歌。

「お前だ」

余りにも呆気なく言われてしまいとりあえずなんとコメントすれば言いか分からない舞歌。
が亡霊の話はそこで終わりだ。
再び北斗に、いや肉に向き直ると…肉は既に無い。
ちらりと亡霊が北斗に目を向けると。
もごもごと口を動かしている北斗の姿。
その喉が動き口が自由になると一言。

「未熟者め」

にやりと北斗は笑った。
キィン!甲高い音が響いた。
亡霊が投擲した箸が壁に突き刺さったのだ。
北斗は投擲されたそれを首を動かすだけで避けたと。

「北斗…死ね」
「無様だな亡霊」

亡霊がテーブルを蹴り上げた。
宙に舞う鍋と野菜と皿。
それが床に落ちる前に二人は動いた。
ヒュッ!と北斗の首筋に貫手を放つ亡霊。
喰らえば首を貫くだろう。
無論北斗は喰らわない。
それを紙一重で避け亡霊に肉薄する。
一気に発剄を以って亡霊を沈めようとしているのだろう。
気が打ち出される刹那の間、亡霊は床を軽く蹴り後ろに下がる。

「やはり貴様と隊長は親子だ。二人とも碌でもない事しかしない」

鍋でここまで熱くなれるのも凄いと思う。

「ふん!なら親父が言った事をまた言ってやるよ。鍋を囲むときは戦場だ。つまり油断していたお前が悪い」

北辰はそんなことは言っていないのだがどうにも曲解されているようだ。

「ぬかせ!!」

ダン!と床を蹴る亡霊。
そのまま北斗の膝めがけ足を振る。
亡霊と同じように僅かに後ろに下がることで避ける。
北斗の着ている優人部隊の制服が切れる。
が気にせず亡霊の目を抉りに行く北斗。
伸ばされた手を掴み投げる亡霊。
投げられる最中で自らの手を掴む亡霊の手に一撃を加えようと北斗。
それを見越し手を離す亡霊。
ほんの僅かな高さで猫のようにくるりと回り足から着地する北斗。
今、トンでもなく馬鹿馬鹿しい理由で木連内の最強が決しようとしていた。
ちなみに舞歌はというと。

「…このカーペット、高かったのに…」

鍋のだし汁がびしゃびしゃに掛かったカーペットを見ながら呆然としている。
その間にも二人は戦っている。
歪む壁。壊れる家具。
物騒な音を立てながら二人は狭い室内で対峙している。

「……」

ゆらりと舞歌が無言で立ち上がった。
はっきり言ってその目は危険だ。
どこか虚ろな目をしながら箪笥の引き出しを開けナニカを取り出す。
短い棒。太鼓の撥の程の棒だ。
それが二本、手に持つ。
そして。

「潰すわ…二人とも」

舞歌参戦であった。







三十分後。
舞歌の私室で怪獣が暴れまわっているような音がするということで向った者達が見たのは…。
疲れ果て座り込んでいる三人の姿。

「舞歌…お前強いな」
「北斗…肉返せ」
「私の部屋が〜〜」

とそれぞれ呟いていたのであった。

「なにをしておる」

優人部隊の連絡を受けた北辰が現われた。
北斗と亡霊の姿があったからだ。
がさすがの北辰も部屋の惨状を見て言葉を失う。
もはやそこは暖色系で固められた暖かな部屋でなく腐海であった。

「亡霊それに北斗、貴様らは医療室へ行け、それぞれ別の医療室にな」

これ以上暴れられたらたまらんという気持ちが溢れている。

「東舞歌、貴様は閣下の所だ。この件について話があるとの事だ」

北辰の言葉にがくりと頭を垂れる舞歌。 がそれぞれノロノロと動き出した。
亡霊は痛む身体に鞭を打ちなんとか医療室へと向う。
舞歌は草壁の執務室へと。
北斗は亡霊とは別の医療室へと。

「あの…馬鹿共!」

痛む頭を抑えながら北辰は集まった優人部隊の人間に指示を出すのであった。
元はといえば北辰の碌でもない教えのせいなのかも知れないのだが…。







医療室で治療を終えた亡霊。
まだ痛む身体を引きずり舞歌の部屋へと向う。

「舞歌、いるか?」
「…いるわよ」

不機嫌そうな舞歌の声。
気にせず入り込む亡霊。
神経が図太くなければ色々やってられないのだろう。

「随分と直されてるな」

それが部屋に入った際の感想であった。
三人の戦いにより完膚なきまでに破壊されたとしか思えなかった”部屋”は何とか今は部屋と呼べるほどに直されている。

「直しに来た人達泣いていたわよ。どうすればここまで破壊できるのかって」

というよりはどうやって直せというのか?とだ。

「お前だって参戦しただろうが」
「あ、あれは!」

それも北斗や亡霊にな・ぜ・か!対抗できたりして。
とりあえず赤い顔で誤魔化す舞歌。
歳相応と呼ぶには年齢がアレだが、なかなか可愛らしい表情だ。

「もういいわ。で何の用なのかしら?」
「いや、なんとなく、な」
「ああそう」

そっけない表情で言う舞歌。
小さく溜息をついた。

「そこに座って少し待っててくれるかしら」

反論する事もないので大人しく座る亡霊。
暫く待っていると舞歌が鍋を持ってきた。
先ほどとは異なる鍋だが。
ついでに皿と。

「それは?」
「どうせ貴方達と食べたら私が食べられないと思っていたから取り寄せておいたのよ」

その点はちゃっかりしているというか要領がいいというか…。

「まあまさか部屋が破壊される事になるとは思わなかったけど」
「過ぎたことだ。もう気にするな」
「貴方達が原因でしょうが!」
「そうだったな」

亡霊の言葉にがくりとする舞歌。

「もういいわ。早く食べなさい」
「お前は?」
「今更食欲なんてないわよ」
「なら俺が全部頂こう」

嬉々として箸を動かす亡霊。
破壊される前のテーブルに比べれば随分と質が落ちるテーブルに両腕を乗せ組んだ手に顎を乗せている舞歌。

「なんだか…そうしてると可愛らしいものがあるわね」

優しく笑みを浮かべて言う舞歌。
その言葉にゲホッ!と口の中のものを吐き出す亡霊。

「妙なことを言うな」
「ふふふ。ごめんなさい」

そう言いつつ目はまだ笑っている。
気を取り直して再び箸を動かす亡霊。

「野菜、食べなさいよ」
「善処する」

何だかんだで良い雰囲気というか穏やかな雰囲気のままで時は過ぎていった。







所変わって北斗。
今は北辰の前に座っている。
がその姿は先ほどの惨状を生み出した者のすべき姿ではなかった。
反省など一切ない。
威風堂々とした立派な姿だ。

「北斗」
「なんだ」

ふん!と今にでも鼻で笑いかねない北斗。

「亡霊との決着はどうだった」
「おうよ!奴が下らん話をしている間に奴の肉を食ってやったぞ!」

本気で凄いだろうと言う様な北斗。
それを聞き北辰は、そうか、と呟いた。

「ならば奴への意趣返しは済んだか」
「なんだ?それは」

北辰の呟いた一言に北斗が訊く。
だが北辰は何も答えず立ち上がり暗い部屋を出て行く。
彼には決して口外する気がなかった。
自分のスーツ姿を笑われた仕返しをお前が果たしたなど。
これは北辰の中で第一級の機密となるのであった。







もちろん最後はこの方。
各務千沙その人である。

「うふふふ。だめよそんな。最後に巨大化した者は倒されるっていうのがお約束なんだから」

布団に横になり呟く千沙。
独り言でなく寝言だ。

「巨大化、書類怪人なんてそんな…思わず私、燃やし尽くしたくなっちゃうわ」

どうやら夢の中で巨大化した書類と闘っているらしい。

「ほ〜らフレイムランチャー。バスターランチャー。止めの相転移砲。綺麗さっぱり消えたわ〜〜〜」

危険である。

「うふふふふふふ〜〜〜〜」

各務千沙!現実に復帰できるのは何時か!?



後書き

あれぇ、最初はシリアスだったのにどうしてこうなるんだろう?
なんか北辰ギャグ入ってるし…。
アキト…じゃなかった亡霊もなんか舞歌といい雰囲気だし。
まあいいか。

さて今はもう彼方にあるようなクリスマス。
皆さんはどの様に過ごしましたか?
私はとりあえず月姫をプレイしていました。
傷ついた僕の心を癒してくれたアルクェイド。

ああ、月姫を買ってよかった。

だがしかし、吸血鬼といえばもう一人。
そうリァノーンおねーさんだ。
片や本当のお姫様、アーパーだけど。
片やお姫様じゃないけどよっぽどお姫様らしい人(?)

これは悩む。
本当に悩む。

ああ僕はどちらを選ぶべきなのだろうか!

神様、仏様、魔王様!!

僕に答えをぷり〜ず!


 

 

代理人の答え

猫アルク(断言)。