機動戦艦ナデシコSS Rebellion 〜因果を超えし叛逆者〜 Episode:04 宇宙へ・・・
「アキト君が、これを?」 連合軍の戦艦の艦長室で、ミスマル=コウイチロウはジュンから例のディスクを手渡され ていた。 「はい。軍がナデシコに手を出さないようにする為の、切り札だそうです。」 アキトから手渡されたディスクを誰に渡すか悩んだジュンだったが、ミスマル提督に渡す 事にしたようだ。順当な判断と言えるだろう。 「ふ〜む・・・今の軍の上層部の暴走を止めるだけの何かが、これに記録されていると言う事 か・・・。」 ディスクを手に、唸るミスマル提督。彼とて、軍の現状を嘆き、出来ればナデシコを補佐 したいと考える『良識派』の一人である。軍の暴走を抑える事が出来るのなら、それは願 ったりである。だが・・・。 「テンカワ=アキト君の事は知っている。彼は嘘をつくような人物ではあるまい。とは言 え・・・万が一、これが効果を為さなければ・・・ナデシコはより軍部の干渉を受けるようにな ってしまうだろう。」 そう、それこそがミスマル提督の懸念する事であった。下手をすれば、火に油を注ぐ事態 にもなり兼ねない、諸刃の剣なのだ、このディスクは。だからこそ、ミスマル提督も慎重 に為らざるを得ない。そんな彼の様子を見て、ジュンは口を開いた。 「・・・ミスマル提督、テンカワは自分を信じられないならば、中を見ても構わないと言って いました。中を見てから判断しても、遅くは無いのでは?」 「ふむ、そうだな。」 頷き、手元の端末を操作する。そして、ディスクを読み込ませる。プロテクトが自動的に 解凍される。ディスクの中に入っていたのは、何らかの文章ファイルのようであった。そ れも、かなり容量を喰っている。示し合わせたかのようにジュンとミスマル提督は一瞬だ け視線を合わせ、そしてファイルを開いた。そして、開かれたファイルに書かれていた内 容、それは・・・。 「むぅ・・・確かにこれは切り札だな。」 「ええ、確かに。」 ファイルの中には、軍の上層部に居る者達が過去に犯した、ありとあらゆる犯罪が書き連 ねてある。今これを公表すれば、軍はとんでもない事になるだろう。軍との取引材料とし ては、これ以上無いほど強力なものである。だが、些か強力過ぎるのも、また事実である。 「これは・・・使い方を間違えると、とんでもない事になるな・・・」 ミスマル提督の呟きを聞き、ジュンは何故アキトが『信頼出来る人物』と言う点にあそこ まで拘ったのか、その真の理由に思い至った。そう、例え腐敗した人物ではなくとも、こ のファイルを有効に使え、尚且つアキトの真意を読み取れる人物でなければ意味が無いの だ。そう言った意味でも、ジュンの人選は間違っていなかった。ミスマル提督は、間違い 無く『信頼出来る人物』であろう。 「・・・ナデシコが防衛ラインの突破に取り掛かるまで、そうそう時間はあるまい。早速上層 部の抑えこみに掛かるか・・・」 ファイルを閉じ、ディスクを抜き取る。そして、すぐさま部屋を出て行こうとするミスマ ル提督に、ジュンが話し掛ける。 「すいません、ミスマル提督。一つだけ、我侭を言っても宜しいでしょうか?」 「ふむ?何かね?」 「僕を、第3防衛ラインに配備して欲しいんです。」 突然の申し出。だが、ミスマル提督はある程度予想していたのだろう、あっさりと頷いた。 「構わんよ。唯・・・デルフィニウムを扱うには、IFSが必要になるが?」 「・・・覚悟の上です。」 「・・・解った。そのように手配しておこう。君は直ぐにでも第3防衛ラインを形成する衛星 基地に向かいたまえ。」 「ハッ!」 敬礼し、退室するジュンを見送った後、ミスマル提督はポツリと呟く。 「・・・ジュン君も漢の顔が出来るようになったのだな・・・。さて、私は私の仕事をするか。」 ミスマル提督もまた、部屋を出た。愛娘の乗るナデシコを、援護する為に。
「軍部への圧力・・・上手くいっていると思いますか?」 ナデシコのブリッジで、ルリが傍らのアキトに話し掛ける。アキトは別にブリッジにいる 必要は無いのだが、今は食堂の仕事が無い事もあって、ルリやラピスの話し相手も兼ねて ブリッジに居るのだ。 「・・・上手く行くさ。それに、万が一の場合の保険もかけてある。」 「・・・アキト、最近悪巧みばっかりしてるね?」 「失礼な。知略と言ってくれ。」 内容は些か険呑だが、雰囲気自体は和やかに話すアキト、ルリ、ラピスの3人。傍から見 ると、仲の良い兄妹そのものである。年が離れている為、親子でも通じるかもしれない。 尤も、アキトは父親と言うには些か若過ぎるが。 「ぶぅー!知り合いだか何だか知らないけど、何でアキトはルリちゃんやラピスちゃんとば っかり話してるの!ユリカもお話したい!」 突然、アキト達の間にユリカが割り込む。ついさっきまで艦長シートに座っていた筈であ る。それが、一瞬の内にオペレーターシートの傍まで移動していた。アキトでさえ、何時 の間に動いたのか把握出来なかった。恐るべき能力である。 「・・・何時の間に?」 「そんな事は如何でも良いの!ね、ユリカもお話に混ぜてよぉ!」 子供じみた駄々をこねるユリカに、流石のアキトも呆れ顔だ。ルリやラピスもちょっと呆 れた目をしている。どうやって注意したものかと考えていると、ちょっとこめかみをピク ピクとさせたプロスが、あくまで笑顔のままでユリカに迫る。 「・・・艦長、もうそろそろ連合軍の防衛ラインに突入します。ちゃんと指揮をとってくれな いと困るんですがな?」 「あぅぅぅ・・・プロスさん、怖い・・・」 言い様の無いプロスに気圧され、すごすごと艦長席に戻るユリカ。 「・・・プロスさんって、時々怖いですよね・・・」 「メグちゃん、それは言わない約束よ?」 メグミとミナトがひそひそ話す。何か思い当たる節があるのか、ゴートは後ろで頷いてい る。そんな彼等を見て、ラピスが呆れ混じりにつぶやいた。 「・・・なんか、平和だね・・・」 「そうだな。でも・・・ナデシコらしいよ。重苦しい雰囲気は、此処には似合わない。」 「言えてますね。」 プロスに説教されているユリカやひそひそ話しているメグミとミナト達を見て、何処とな く嬉しそうに微笑むアキトと、苦笑しつつも同意するルリ。嘗ては喪われ、心から渇望し た光景が、確かに此処にあった。 「・・・さて、そろそろ防衛ラインに掛かるな。ルリちゃん、軍の動きは?」 「今の所ありませんね。もし何か動きがあれば、直ぐに解ります。オモイカネが常に見張っ てますから。」 「そうか。このまま何事も無く過ぎてくれよ・・・」 祈るような気持ちで、正面モニターを見遣るアキト。このまま順調に行けば、そろそろ第 6防衛ラインを突破する筈である。 「・・・ねぇ、アキト?」 「ん?」 「・・・一応、ユリカさんが交渉しておいた方が良いんじゃないのかな?」 「それに関しては問題無い。アカツ・・・会長の方から、ネルガルの総意としてバリア衛星解 除の要請が行っている筈だ。大体・・・あの状態のユリカに何を望む?」 半眼で艦長席を見遣るアキト。其処では、プロスの説教から解放されたユリカがだれてい た。 「・・・ホントにあれで艦長なの?」 「まぁ・・・有事の際には結構頼りになるんですよ?」 疑わしそうに言うラピスに、付き合いの長いルリが取り敢えず取り成す。が、そんな事言 うルリも、多少冷や汗垂らしていたりするのだが。そうこうする間に、ナデシコは第6防 衛ラインを突破した事をオモイカネが告げた。 「・・・ナデシコ、第6防衛ラインを突破しました。軍に動きは・・・ありません。」 ルリの告げた言葉に、ブリッジ内に一瞬緊張が走り、軍に動きがないと知ると、揃って息 を吐き出した。 「ナデシコ、現在順調に高度を上げてま〜す。」 「艦内の乗組員に告げます。現在ナデシコは大気圏突破の為軍の防衛ラインを突破中です。 今の所軍に動きはありませんが、如何なる状況にも対応出来るよう備えておいて下さい。」 ミナトとメグミが其々の仕事をこなす。流石にユリカも、厳しい表情で正面モニターを凝 視している。そんな中、プロスがアキトに近付き、耳打ちする。 「・・・どうやら会長は上手くやってくれたようですな。」 「・・・ええ。それにジュンも。予定通り、ジュンは第3防衛ラインに配備されているデルフ ィニウムを使って合流してきます。受け容れ準備は?」 「・・・勿論、問題ありませんよ。ちゃんと副艦長の席を空けていますからね。公式記録では、 ジュンさんは軍部への説得の為、一時的にナデシコを降りたと言う事になります。」 其処まで言って、互いに頷き合うアキトとプロス。そして、プロスは直ぐにその場を離れ る。アキトがちらりと視線を向けると、プロスがゴートと何事か話し合っているのが見え た。 「第5防衛ライン突破。依然、軍に動きはありません。」 「・・・何だか、怖い位呆気ないわねぇ?」 「でも、良い事ですよ。被害は無いに越したことは無いでしょうし。」 「ま、ソレもそうね。」 第6防衛ラインに続いて第5防衛ラインも何事も無く突破した所為か、ブリッジの空気が 緩み始める。流石のルリとラピスも、表情に余裕が出てきた。そんな中、アキトだけは厳 しい表情を浮べている。それに気付いたユリカが、不思議そうに尋ねた。 「ねぇ、アキト?何でそんなに厳しい顔をしているの?」 「ん?いや、ちょっと気になる事があってな。・・・何故、軍は何の動きも見せないと思う?」 「え?それは・・・ネルガルと話がついているからじゃないの?ねぇ、プロスさん。」 「ええ、その筈ですよ。」 「・・・だとしても、何らかの動きは見せて然るべきではないか?大体、第6・第5防衛ライン 上には、常時数機の偵察機が哨戒飛行を行っている筈だろう?何故その機影すら見えない んだ?ナデシコの航路に併せて巡回コースを変更しているにしても、オモイカネが何らか の動きを見せている筈だ。ソレなのに、一切の反応が無い。・・・静か過ぎるんだよ、それが 気になるんだ。」 「言われてみれば・・・」 アキトの指摘に、はっとするブリッジクルー。緩んでいた空気が、すぐさま引き締まる。 「テンカワ君の指摘も尤もだな。それに・・・一民間企業に抑え込まれて、軍の上層部が黙っ ているとも思えん。何かあるやも知れんぞ。」 それまで黙っていたフクベ提督も、アキトの意見に賛成する。俄かにブリッジ内の緊張の 度合いが高まる。と、それを見計らったかのように、突如通信が入る。あまりのタイミン グのよさに、メグミは一瞬思考が停止するが、慌てて通信を繋いだ。 ピッ! 『ナデシコ、聞こえますか!?』 「アオイさん!?」 『現在、僕は第3防衛ライン上に居る。デルフィニウムで其方に向かっている最中なんだ けど・・・』 「ルリちゃん?」 「はい。・・・確認しました。連合軍所属のデルフィニウムが1機、此方に向かっています。」 ユリカがルリに確認を取る。レーダーを見てみると、ナデシコのレーダー範囲ギリギリの 所に、デルフィニウムの反応があった。ルリが頷くと、ユリカは先を促した。 「ジュン君、随分と焦っているみたいだけど、どうかしたの?」 『それが・・・今軍の上層部から通達があったんだ!第3防衛ライン上にて、ナデシコを撃沈 せよ、って!それを報せる為に、僕は軍の目を盗んで、こうして合流・・・っ!?』 「ジュン君?ジュン君!」 「アオイさん、応答して下さい!アオイさん!」 突然通信が切れる。ユリカとメグミが何度も呼びかけるが、応答は無かった。 「?・・・大変だよ、ジュンさんのデルフィニウムが、他のデルフィニウム8機に取り囲まれ てる!」 「!?チッ、形振り構わず潰しに来たと言う事か!」 吐き捨て、直ぐに格納庫に向かおうとするアキト。が、次の瞬間聞こえて来たルリの声に、 その動きは遮られた。 「?ヤマダさんのエステバリスが出撃体勢に入っています。」 「「「はい?」」」 『ちっがぁぁぁぁぁうっ!! 俺の名前はダイゴウジ=ガイだっ!!』 「うひゃぁっ!?」 いきなり大声と共に現れたガイの顔のどアップに、ユリカが素っ頓狂な声を上げる。他の クルーはいきなりの展開に思考が完全に停止してしまっているようだ。アキトでさえ、唖 然としている。 『フッフッフッ、此処までろくな出番が無かったが・・・漸く俺様の出番がやって来たと言う 訳だ!友を助ける為、傷ついた体に鞭打ち出撃する俺・・・くぅぅぅぅぅ、燃えるぜぇっ!! っと言う訳で艦長、ジュンの奴は俺に任せろ!』 一方的に捲し立てると、ガイはナデシコを出撃していく。未だ呆然としているアキト達を 立ち直らせたのは、ウリバタケからの通信だった。 『おい、ブリッジ!大変だ!あのバカ、何の武器も持たないで出撃しやがった!』 「「「嘘?」」」 『こんな嘘ついて如何すんだ!あのバカ、あのままじゃ集中攻撃喰らって墜とされるぞ!』 「・・・ナデシコからの援護は出来ませんね。アキト、出撃してくれる・・・って、あれ?アキ ト?」 キョロキョロと辺りを見回すユリカ。何時の間にか、アキトの姿はブリッジから消えてい た。 「アキトなら、ウリバタケさんから通信があった直後に、格納庫に走って行っちゃったよ。」 「フィリアちゃん!俺のエステは!?」 「あ、アキトさん!直ぐにでも出れます!」 フィリアの返事を確認するまでも無く、エステのアサルトピットに乗り込み、発進の為の 作業を手早くこなす。 『アキトさん、武器はレールカノン、ラピッドライフル共に調整終わってます。どちらに しますか?』 通信が繋がり、フィリアが尋ねてくる。アキトは一瞬だけ思案した後、答えた。 「そうだな、ラピッドライフルにする。レールカノンだと威力があり過ぎるし、連射もあま り利かないからな。」 そう言いつつ、ハンガーに備え付けられた専用のラピッドライフルを手にする。威力云々 と言っても、このラピッドライフル自体、通常のものより遥かに威力が高いのだが。 「テンカワ=アキト、行くぞ!」 「全く、世話の焼ける!」 アキトが戦場に到着した時、ジュンのデルフィニウムとガイのエステバリスは、8機のデ ルフィニウムにいいように翻弄されていた。ジュンは操縦に関しては素人故、無茶な要求 をする気は無い。寧ろ、良く耐えている方だ。問題は、ガイである。仮にも正規のパイロ ットのくせに、武器も持たずに出撃するわ、今もバカの一つ覚えみたいに突っ込んで行っ ては数機の敵に囲まれ、慌てて逃げ回ると言う醜態を晒している。 「二人とも、直ぐにナデシコに戻れ!」 『テンカワ、ゴメン!』 『おう、アキトか!恩に着るぜ!』 アキトが通信を入れると、二人は後ろを向いてさっさと飛び去っていく。その潔い逃げ方 に、アキトは苦笑する。 「やれやれ・・・!行かせるか!」 アキトを迂回し、ナデシコに向かおうとするデルフィニウムの前に、アキトは素早く回り 込む。 「悪く思うな!」 ドゥッ!ドゴォォォンッ!! ライフルの一撃がデルフィニウムのブースターを貫く。ブースターを貫かれたデルフィニ ウムは、為す術も無く落ちて行った。 「ま、この高度なら死にはすまい。片を付けさせて貰う!!」 ドゥッ!ドゥッ!ドゥッ!ドゥッ! ドドドドォォォォォンッ!!!! 精密無比な射撃で、次々にデルフィニウムを撃ち墜とすアキト。デルフィニウムもミサイ ルを撃ったり、マニピュレーターで殴りかかったりと応戦するのだが、アキトのエステバ リスには掠りもしない。力量に差があり過ぎた。 「次っ、これで終わりだ!!」 ザンッ!ドシュッ!ズシャッ! ドゴォォォォォォォンンッ!!! 腰にラックされたイミディエットソードを抜き放ち、擦れ違い様に3機のデルフィニウム を切り払う。ブースターから火を吹きながら、墜落していくデルフィニウム。それを見送 ったアキトは、自分もナデシコに帰艦しようとする。が、その時、エステバリスのレーダ ーに映る、無数の高熱源体に気が付いた。 「・・・ミサイル衛星からの一斉射・・・!?」 「大質量の飛行熱源、多数接近中。データ照合・・・ミサイル衛星の対艦用大型ミサイル群で す!」 ルリの報告に、静まり返るブリッジ。真っ先に我に返ったユリカが、現状を確認する為に 指示を出す。 「機動兵器の回収状況は!?」 「アオイさんとヤマダさんの機体は回収完了してるよ。でも、アキトの機体が・・・」 『俺なら心配するな。』 「アキト!?」 言いよどむラピスを慰めるように、アキトから通信が繋がる。その表情を見る限り、自棄 になったとは思えない。何か考えがあるのだろうか? 『ルリちゃん、ラピス、ミサイルの弾道予測進路を計算して欲しい。そのデータを、エス テのコンピュータに転送してくれ。』 「それは構いませんが・・・まさか、ミサイル群を墜とすつもりですか!?」 『現状で俺が死なずに生き延びる方法はそれしかない。大丈夫、問題は無いさ。』 微笑むアキト。自分の命が危機に瀕していると言うのに、未だアキトには余裕があった。 逆に、ナデシコのブリッジクルーの方が焦っているほどだ。 「アキト・・・大丈夫なの?今すぐにフィールドを解除して、アキトを回収してからまた張り 直せば・・・」 『それではミサイル群到達までに十分な強度を得られない。ナデシコを沈めるつもりか?』 「それはっ・・・ホントに、大丈夫なの?」 『ああ。俺を信じろ。』 暫し落ちる静寂。今こうしている間にも、ミサイルの群れは迫っている。もう1分ちょっ とで、エステバリスから肉眼で確認できるほど接近する筈だ。ユリカがアキトに顔を向け る。信頼に満ちた顔を。 「・・・信じます。信じるよ、アキトを。私の王子様を!」 『・・・俺は王子様なんて柄じゃないんだけどな。その信頼には応えるさ。ルリちゃん、ラピ ス!』 「はい。弾道の計算は終わっています。」 「今から送るよ。・・・絶対に死なないでね、アキト・・・」 『当り前だ。』 言って、通信が切れる。ブリッジに、何とも言えない空気が漂う。だが、重苦しさを感じ るようなモノでは無い。誰もが固唾を飲み、モニターに映し出される映像に見入る。その モニターには、迫り来るミサイル群の前に悠然と佇む、アキトのエステバリスカスタムが 映っていた。 「来たな・・・」 モニターの先に、勢い良く此方に突っ込んでくるミサイル群を捉える。それを見ながら、 アキトはふと懐かしい思いを抱く。 「・・・ブラックサレナに乗っていた時は、あれに倍する数のグラビティブラストやミサイル 群を平気で避けていたんだがな・・・」 其処まで考えて、苦笑する。確かにブラックサレナのスペックならそれも可能だろう。だ が、今アキトが乗っているのは唯のエステカスタムである。あれだけの数のミサイル群を 避けきる機動を行うには、些か性能が足りなかった。 「とは言え、無い物ねだりをしても意味は無し・・・か。行くぞっ!」 そして、演舞が始まる。 「凄い・・・」 「いやはや、これほどとは・・・」 「はぁ〜・・・」 誰しもが呆れたような感心したような、複雑な表情で正面モニターを見遣っていた。その モニターには、舞い踊るかのように華麗にミサイル群を撃ち落していくエステカスタムが 映っている。エステの後方には、未だ一発のミサイルも来ていない。無数のミサイルを、 全て墜としているのだ。最早冗談のような腕前である。 「頑張って、アキト・・・」 祈るように呟くユリカ。ルリやラピスも、声にこそ出さないものの、同じ様な思いでモニ ターを見続ける。そして今、最後の一発が爆発した。 ドゴッォォォォンッ!! 「これで、ラスト・・・」 ミサイルが爆発した際の衝撃に少々機体を揺さぶられながらも、アキトは平然としていた。 あれだけの事を遣って退けた後だと言うのに、汗一つかいては居ない。 「流石にバリアは解除されているか。些か予定とは違ったが・・・まぁこの程度なら許容範囲 内か。」 呟き、機体をナデシコに向ける。ナデシコは既にディストーションフィールドを解き、ア キトの受け容れ準備を整えていた。 ミサイル群を切り抜けた後はさしたる障害も無く、ナデシコは無事に宇宙へとあがる事が 出来た。彼らの旅は、まだ始まったばかり・・・。 Episode:04・・・Fin 〜後書き〜 刹:どうも、刹那です。Episode:04をお送りました。 ア:・・・大分間が空いたな? 刹:・・・ゴメンナサイ。 WildArms3にはまってました・・・ ア:・・・ったく・・・。幾らへたれと言えど、物書きの端くれだろうが。 刹:ううぅ・・・返す言葉もありません。こんな作品でも、待っていてくれた方が居たら、 申し訳ないです。 ア:ま、作者を断罪するのはこの辺までにしておいて。で、やっぱり俺はミサイル墜と すんだな。 刹:ん。この時点での君の実力を知らしめるには、絶好のイベントだから。 ア:どんなに理由を並べ立てても、パクリと言われてしまえば、それで御終いだがな。 刹:ウグッ!・・・痛いところを・・・ ア:ハァ・・・。こんな奴ですが、宜しければ暖かい目で見守ってやって下さい。 刹&ア:それでは、Episode:05でお会いしましょう。
代理人の感想
う〜む、文章のまとまりがいいですねぇ。
余分なものがないので非常に読みやすいのがポイント。
話の方は、取り合えず細部は違えど大まかな所は史実の通りに進んでいるようですが
これからどう動いていくのか、気になりますね。期待しています。